【疾患概念】
糖尿病の慢性高血糖を基盤に発症する末梢神経障害である.
【病型・分類】
障害分布は遠位優位対称性と非対称性の2病型がある(表8-2図).
【頻度】
慢性多発神経障害は糖尿病患者に必発で,わが国の患者数は数百万人に達する.一方,非対称性神経障害は糖尿病患者の数%にしか発症しないまれな病型である.
【病態】
発症には代謝障害,微小血管障害,炎症など多因子がかかわる.多発神経障害は長さ依存性の感覚・運動・自律神経線維の変性脱落で,2型糖尿病では食後高血糖期から,1型糖尿病では発症後5年頃から始まる.高血糖以外の進行促進因子に高血圧,喫煙,肥満,脂質異常症がある.急性脊髄神経根障害は血管炎を基盤に生じる.
【臨床症状】
(1)慢性多発神経障害
①無症候性(前臨床期)神経障害:無症状・無徴候だが,神経伝導検査などの臨床検査に異常がある場合で,全糖尿病者の60~70%に潜在的にみられる.
②有痛性神経障害:足部陽性感覚症状(しびれ感)や疼痛を呈する場合で,糖尿病患者の10~20%が属する.急性有痛性神経障害は急速血糖是正後に発症する.
③無痛性神経障害:無症状だが,感覚・自律・運動神経障害徴候により診断される.全糖尿病患者の20~30%が属し,障害の程度は軽度から重度まで幅広い.下肢切断はこの病型に集中的にみられる.
(2)急性神経根障害
腰仙髄部に多く,激痛に続き節性感覚運動障害を呈する病型.下肢筋萎縮を後遺する.
問診で聞くべきこと
足部しびれ感,立ちくらみ,排尿障害,顔面や前胸部の発汗亢進,便秘や下痢,勃起障害の有無を聞く.
必要な検査とその所見
神経学的検査は必須である.神経伝導検査での腓腹神経感覚電位の振幅低下は神経変性進行を,脛骨神経刺激による足底筋複合筋電位の振幅低下は足病変の高リスクを示す.心電図RR間隔の変動減少や起立性低血圧は,自律神経障害の指標になる.