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治療

抗NMDA受容体脳炎
anti-NMDA receptor encephalitis
飯塚高浩
(北里大学准教授・神経内科学)

◆疾患概念

 抗NMDA受容体脳炎は,NMDA受容体のNR1とNR2 subunitを,遺伝子導入により発現させたcell-based assay(CBA)によって検出される抗体を有している脳炎である.本疾患は,2007(平成19)年に「卵巣奇形腫に随伴する傍腫瘍性脳炎」としてDalmauらによって提唱されたが,疾患概念が変わってきている.577例の解析では,発症年齢は8か月-85歳(中央値21歳),18歳未満が37%を占め,あらゆる年齢層で発症するが,45歳以上は5%とまれである.女性が81%を占めるが,男性にも発症しうる疾患である.腫瘍は全体の38%に認められ,腫瘍非合併例が多い.しかし,女性では腫瘍は46%に認め,13-44歳に好発し,94%は卵巣奇形腫である.一方,男性における腫瘍合併率は6%と少ない.病初期には統合失調症類似の精神症状が高率に出現することから,本疾患は抗体によって器質性精神障害を生じる自己免疫性疾患であるといえる.

 本抗体は抗NMDA受容体抗体とよばれているが,NR1 subunitの細胞外のある限局した領域の立体的エピトープを認識するIgGで,抗NR1-IgG抗体ともよばれている.しかし,ELISA法やWestern blot法では蛋白質の立体構造が破壊されるため,これらの方法では検出されない.ELISAなどで測定された各subunitの線状エピトープを認識している抗グルタミン酸受容体抗体とは根本的に異なる.本抗体はpathogenicな抗体と考えられており,NMDA受容体に架橋結合し,受容体を内在化することにより,細胞表面に発現している受容体数を減少させる.受容体数の減少によりNMDA受容体機能が低下し,神経症候を生じると考えられている.補体の活性化,アポトーシス誘導,抗体に受容体阻害によって発症するわけではない.剖検脳ではグリオーシスとミクログ

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