今日の診療
内科診断学

急性冠症候群
西 裕太郎


急性冠症候群とは

■定義

 急性冠症候群(acute coronary syndrome; ACS)は,冠動脈プラークの破綻とそれに伴う血栓形成によって冠動脈内腔が急速に狭窄,閉塞し,心筋が虚血,壊死に陥る病態を示す症候群である.ST上昇型心筋梗塞,非ST上昇型心筋梗塞,不安定狭心症が含まれる(図3-358)

■患者の訴え方

 急性冠症候群の主訴としては,胸痛が最も多い.しかし1/4は胸痛以外の症状で受診するといわれ,呼吸困難,心窩部痛,悪心,めまい,失神までさまざまである.また無痛性心筋梗塞も知られており,高齢者,女性,糖尿病,脳梗塞,心不全の既往がある患者ではそのリスクが高い.

 胸痛の性状としては,前胸部の圧迫感,不快感,灼けるような痛みで,過去の心筋梗塞と同様の症状を訴える場合は特異度が高い.患者は「胸が痛い」という表現をすることは少なく,「押さえつけられる違和感」のように訴えることが多い.一方,痛みの範囲が限局している場合や,鋭い性状や体動・呼吸で増悪する場合も可能性が下がる.腕,肩への放散痛や悪心,冷汗の随伴は強く急性冠症候群を疑う.

 安定狭心症では安静にて数分間で胸痛が改善するが,急性冠症候群では20分以上続くことが多い.

■患者が急性冠症候群を訴える頻度

 わが国の心筋梗塞発症率は年間10万人あたり10〜100人程度と推定され,欧米諸国のデータと比較して低い.しかし,ここ30年間の患者数は増加傾向にあり,特に男性にその傾向が強い.

症候から原因疾患へ

■病態の考え方

 急性冠症候群の原因としては,高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫煙,家族歴,慢性腎臓病が知られている(表3-395).内臓肥満を基盤とした高血圧,脂質異常症,耐糖能異常を合併した病態であるメタボリックシンドロームも独立した危険因子である.

 これらの因子による動脈硬化の進展により,薄い線維性被膜で覆われた多量の脂質

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