心臓の収縮期に,左室心尖部に近い前壁が胸壁を持ち上げることによって生じる拍動を心尖拍動とよぶ。厳密には,触れるのは心尖ではなく,左室心尖部に触れる拍動というほうが正確である。右室が拡張している場合は通常の心尖部と異なり傍胸骨部で触れるので,傍胸骨拍動という。
断層心エコー図法がない時代には,心尖拍動は,左室拡大,心室瘤,左心機能などの動態を推定する評価法として重要であったが,現在では,心エコー図検査所見以上の情報は得られないといってよい。ただし,いつでも,どこでも,非侵襲的に短時間に評価できるので,知識と経験は必要である。
診断のチェックポイント
診察前に知っておくべきこととして以下の事項が挙げられる。
❶健常者では坐位で心尖拍動を触れることは少なく,触れても範囲は狭い。小児や若年で,やせていると触れやすい。心拡大などにより心臓が胸壁に近接すると触れやすくなる。逆に,肺気腫などの呼吸器疾患,