診療支援
治療

10 急性灰白髄炎(ポリオウイルス感染症)
acute poliomyelitis(poliovirus infection)
細矢 光亮
(福島県立医科大学教授・小児科学講座)

疾患を疑うポイント

●感冒症状のあとに急性弛緩性麻痺をきたした場合,ポリオ麻痺の可能性があるので,ポリオワクチン接種歴とポリオ流行地への渡航歴を確認.

学びのポイント

●わが国の野生株ポリオウイルスは根絶されている.

●世界には野生株ポリオウイルスや伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(生ポリオワクチン接種者から環境に排泄されたワクチンウイルス)が流行している地域があるので,ポリオウイルスが根絶されるまでポリオワクチン接種を続ける必要がある.

▼定義

 ポリオ麻痺はポリオウイルス感染によって運動神経細胞が傷害され,弛緩性運動麻痺をきたす疾患である.

▼病態

 ポリオウイルスの自然宿主はヒトのみであり,ヒトからヒトに経口感染する.咽頭~腸管の粘膜で増殖し,一部のウイルスは血液やリンパ液に入り,血流やリンパ流を介して中枢神経に到着する.脊髄前角や脳幹の運動神経細胞に特異的に感染し,これらの細胞を破壊すると急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis:AFP),すなわちポリオ麻痺を生じる.

▼疫学

 ポリオは19世紀末頃から欧米で流行の様相を呈するようになった.わが国では,1950年代に年間1,500~6,000例のポリオ麻痺患者発生があった.1961年に超法規的措置によるポリオ生ワクチンの緊急輸入が行われ,全国一斉に集団接種が開始された.その効果は絶大で,1964年には年間発生数が100例を切り,1970年以降は10例以下となり,野生株ポリオウイルスによるポリオ麻痺は1980年の1例が最後になって,2000年にポリオの国内根絶が承認されている.

 だが,経口弱毒生ポリオワクチンを接種された小児において,おおよそ440万回投与に1例の割合でワクチン株に由来するポリオ麻痺(vaccine-associated paralytic polio:VAPP)患者の発生があり,また,おおよそ580

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