診療支援
治療

24 日本脳炎
Japanese encephalitis
加藤 康幸
(国際医療福祉大学教授・感染症学)

疾患を疑うポイント

●夏から初秋に髄膜脳炎の患者をみた場合には本疾患を疑う.

●特に発症前2週間以内に水田や養豚場の近くに居住・滞在歴があり,予防接種を受けていない場合は本疾患の蓋然性が高い.

学びのポイント

●北海道を除く日本国内に常在する蚊媒介感染症.

●定期予防接種によって患者発生が抑制されている.

▼定義

‍ 日本脳炎ウイルス(フラビウイルス科フラビウイルス属)を病原体とする中枢神経感染症〔第10章のも参照〕.

▼病態

 病原体の自然宿主はサギなど水辺性鳥類と考えられ,イエカ属の蚊(日本国内ではコガタアカイエカ)によって媒介される.ヒトの感染にはブタが中間宿主として重要な役割を果たしている.

 潜伏期は通常5~15日である.無症候性感染がほとんどと考えられ,発症率は0.5%未満である.ウイルス血症に伴って,髄膜脳炎を合併することがある.視床,中脳,大脳基底核が障害されることが多い.高熱,頭痛,悪心などの前駆症状に続いて,項部硬直,意識障害,不随意運動(ジストニア),錐体外路症状(パーキンソン症候群),球麻痺,けいれんなどを認める.

▼疫学

 本疾患は日本,中国,台湾,東南・南アジア,およびオーストラリア周辺の大洋州に広く分布している.年間3.5万~5万人の患者が発生し,1万人の死亡があると推定される.日本国内では遅くとも1871年には本疾患の存在は認識されており,伝染病予防法(1999年に廃止)のもとに対策がとられた.1965年から定期予防接種が開始され,1966年の2,017人をピークに患者数は激減した.近年は関東以西から年間10人未満の報告にとどまっている.患者のほとんどは高齢者である.しかし,ブタの抗体保有調査によれば,病原体は日本国内の自然環境中に維持されており,感染の機会は失われていない.

▼診断

‍ 夏から初秋に髄膜脳炎の患者をみた場合には本疾患を疑う.特に発症前2週間以内に水田

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