A.疾患・病態の概要
●四肢の静脈は動脈よりも血栓症が起りやすい.Virchowの3主徴と呼ばれる,以下の3つのうち,いずれかの機序によって静脈の内腔に血栓が形成されると考えられる.
①血液凝固性の亢進・線溶能の低下:水分脱失,熱傷,ショック,赤血球増多症,嘔吐,下痢などによって血液が濃縮したり,粘稠になったりすると,血栓(泥状血栓sludged bloodと呼ばれる)を作りやすい.筋肉の損傷などで組織トロンボプラスチンが大量に遊離する場合や,血液疾患・癌などで血小板の破壊が起る場合も血栓が生じやすい.
②静脈血流の停滞:心疾患・衰弱・手術後などに右心系のうっ血が原因となって全身的に静脈の還流が遷延する場合,あるいは静脈中枢部を圧迫するような局所的な原因がある場合に血栓をつくりやすい.腸骨静脈は骨盤腔の最も後方に位置しているので,仰臥位では他臓器の圧迫を受けやすい(iliac compression syndrome).特に左側では下大静脈への流入角度が鈍角になり,右腸骨動脈・S状結腸などがその前面で交差するため,腸骨大腿静脈閉塞は左側に多いとされている.
③静脈内皮の障害:静脈内注射・外力などによって静脈壁が損傷した際,内皮が剥離したり,粗面となったりすると,その部分から血栓が発生する.筋肉の運動などに際して静脈が圧迫されると血栓性静脈炎をきたす.
以上の3つの機序がそれぞれ単独で血栓症の誘因・原因となることは少なく,むしろ複合した形で関与している場合が多い.特に血流の停滞と凝固能の亢進などは相互に関係が深い.
●米国では静脈血栓症が年間200万人発生し,肺血栓塞栓症(pulmonary thrombo-embolism:PTE)の合併が20万人,5万人が死亡している.わが国における深部静脈血栓症DVTの発生頻度は欧米に比べて低率とされているが,増加傾向にある.男女比は1:1.3と
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