診療支援
治療

中毒患者の診かた
approach to the patients with intoxication
川嶋隆久
(神戸大学大学院准教授・災害・救急医学)

A.中毒をめぐる最近の動向

 急性中毒の対象物質としては,地方では農薬や自然毒,都市では医薬品の大量服薬などが多かったが,社会構造の変化,技術革新,医薬品の増加,マス・コミュニケーションやインターネットの拡充などにより,種々の物質による中毒が全国的に広がり,大量服薬による自殺やリピーターも全国的に増えている.最近では硫化水素による自殺,海外からの個人輸入薬,違法薬物,毒物混入事件のほか,炭疽菌などの生物兵器やサリンなどの化学兵器によるテロリズムなど,新たな中毒が問題となっている.米国における炭疽菌事件(2001年),生物・化学兵器に対する危惧,旧日本軍が投棄した化学兵器による被災者の発生などが記憶に新しい.

 1998年,旧厚生省は,全国の救命救急センターを中心に化学物質分析装置を配備し,中毒起因物質分析体制の整備を進めた.日本中毒学会「分析のあり方検討委員会」は薬毒物分析の指針に関する提言を行い,①死亡例の多い中毒,②分析が治療に直結する中毒,③臨床医からの分析が多い中毒の観点から,分析対象とすべき15品目の中毒起因物質を挙げている(表1).

 2001年9月11日の「アメリカ同時多発テロ事件」を受け,わが国でもテロリズムに対する危機管理として,同年11月にテロ対策特別措置法(旧テロ特措法)が制定され,2008年1月16日から2010年1月15日までの時限立法としてテロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法(新テロ特措法)が制定された.今日では生物・化学兵器を含めたテロリズム対策が世界的な危機管理対象として認識されている.厚生労働省と財団法人日本中毒情報センターは毎年「NBC災害・テロ対策研修」開催している.

 本項では,ERでの一般的な急性薬物中毒の診かたについて解説する.


B.急性薬物中毒診断の3原則

 服薬毒に関する情報収集,臨床症状からの薬毒物推測,検

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