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雑誌目次

論文

臨床検査19巻6号

1975年06月発行

雑誌目次

カラーグラフ

パラフィン切片におけるHBs抗原の染色法

著者: 志方俊夫 ,   鵜沢輝子

ページ範囲:P.578 - P.579

HB抗原の組織内での染色には従来螢光抗体法が用いられていた.そして肝細胞内でのその局在についてはいろいろ議論があったが,最近はHBc抗原(B型肝炎コア抗原)は主として核内に,HBs抗原(B型肝炎表在性抗原)は細胞質に存在することがほぼ決定的になった.ところでHBs抗原はそのタンパクの特異なアミノ酸組成から,パラフィン切片で種々の色素による染色が可能である.いろいろな方法で染まるが,我々が試みた範囲では次の3種類の染色法が良いようである.(590ページ参照)
1.オルセイン染色(志方・赤塚・鵜沢法),2.アルデヒド・フクシン染色

技術解説

腸炎ビブリオの検査・同定法ならびに神奈川現象

著者: 宮本泰 ,   小原寧 ,   滝沢金次郎

ページ範囲:P.581 - P.589

 わが国の細菌性食中毒の過半数は腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)によって占められている.藤野によって初めて記載された本菌は,滝川,中橋(勇次郎)2)により初めてその好塩性状が発見され,病原性好塩菌(pathogenic halo-philic bacteria)と呼ばれていた菌である.最近周毛が確認されたためBeneckea Parahaemoly-ticaの命名がなされてビブリオ属から分離する提案もなされたが,Bergyの分類書第8版では一応ビブリオ属に編入されることになった(図2).
 本食中毒は種々の食品によって起こるが,元来海洋細菌であるため魚介類が原因食品になる場合が多い.しか二次汚染によって,海とは縁のない魚介以外の食品によっても起こり,このことはむしろ本食中毒の特徴の一つとさえ思われる.

パラフィン切片におけるHBs抗原の染色法—カラーグラフ参照

著者: 志方俊夫 ,   鵜沢輝子

ページ範囲:P.590 - P.596

 HB抗原(オーストラリア抗原,B型肝炎抗原)はB型肝炎ウイルスのマーカーであるが,流血中に見られる直径420ÅのDane粒子がB型肝炎ウイルスそのものであることがほぼ明らかになった.このDane粒子はその中に直径270Åのコアをもっているが,このコアとその周囲の被覆タンパクは抗原性も化学的性状も異なる.現在このコアをHBc抗原(B型肝炎コア抗原),被覆タンパクをHBs抗原(B型肝炎炎在性抗原)と呼んでいる.血中に多数認められる直径200Åの小型粒子およびそれがつながったと考えられている杜状粒子は過剰に作られたHBs抗原である(図1).
 このB型肝炎ウイルスは比較的特異的にヒトの肝細胞で作られる.この際コア,つまりHBc抗原は肝細胞の核内で増生する.これに対してHBs抗原はウイルスの核酸のインフオーメーションを受けて宿主肝細胞のライボゾームで作られ小胞体内腔に分泌される.このHBs抗原自体は普通の電子顕微鏡では特別な構造を示さないが,後述するようにHBs抗原が細胞質内に増生して細胞質内封入体を形成する時期になると,滑面小胞体が増生し,その中にフでラメント様構造物を入れた像が認められる.このフでラメント様構造物がHBs抗原そのものかどうかは現在のところ不明である(図2).

総説

臨床化学検査の標準物質

著者: 松村義寛

ページ範囲:P.597 - P.600

 臨床検査室の設備は近年著しく改善,充実して,自動化された部門も多くなり,バラツキによる誤差は極めて小さくなり,データの信頼性は向上した.一施設においての検査値は,その施設内で利用する限り有用であったが,異なる施設の検査値と比較することになるといろいろと問題が生じている.同じ患者がA病院では高値といわれ,B検査所では正常範囲,C医院では低値であるというような場合も起こりうるし,実際にもよく耳にするものである.
 大小,長短,軽重などの判断はいつでも暗黙のうちにある基準が設定されている.絶対的に大きいとか小さいとかそいうことはない.自分一人で大きいと思っていても,他人に伝える時には基準を提示しなければ了解してはもらえない,いちいち基準を提示する手間を省くために,ものの性質を数量化することが行われる.物理量として長さ,重さ,時間が最も基本的な数量として取り扱われるようになり,基準の長さとしては,尺,フィートが生まれ,重さの貫,ポンド,時間の時,日などがあった.もとよりこれらはそれぞれの社会に好都合なように定められたが,国家,民族などの壁をこえて,統一するためにメートル法が採用されてきたことは周知である.

臨床化学分析談話会より・22<関東支部>

病態と測定値の"顔"—ビリルビンの検査と評価

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.601 - P.601

 第179回分析談話会関東支部例会(1975.2.18)は東大薬学記念講堂で行われた.今回のテーマは,"ビリルビン"について測定法と臨床的評価シリーズの7回目として話題提供がなされた.
 測定法については,関東逓信病院生化学検査部の春日誠次先生より,ジアゾニウム塩との反応による測定法を中心に種々の測定法の紹介がなされた.その中で問題点としては,①正常域が低くかつ異常値との差が大である.②標準物質として良いものがない,などがまずあげられ特に標準物質の問題が強調された.中でもビリルビンとしていくつかの型が存在し,アルブミンとの結合で極大吸収のシフトがある点は,分光学的な測定では問題があることが示された.

症例を中心とした検査データ検討会・3

黄疸とトランスアミナーゼの著明な高値を示した症例—酵素の初速度測定法について

著者: 中島広美 ,   福原延樹 ,   田中博 ,   関口光夫 ,   中野栄二 ,   土屋俊夫

ページ範囲:P.602 - P.608

 司会 本日の症例は76歳の女性です.最初に尿一般検査の成績からお願いします.

私のくふう

サーミスター温度測定装置

著者: 舟谷文男 ,   青木芳和

ページ範囲:P.608 - P.608

 基本物理量である温度は,臨床検査においてpH測定,血液ガス分析,化学反応時,特に酵素反応などの重要な因子として関与している,しかしながら,実際の検査業務の中では温度について十分なる管理に欠けるところが多い.このような点をふまえ,検査機器の温度制御の正確度,精度を知るためにサーミスターを利用した温度測定装置を試作し,実用に供しているのでその使用法を紹介する.

脳波ペースト除去器

著者: 大竹敬二

ページ範囲:P.635 - P.635

 脳波記録に皿電極を使用すると,電極固定と頭皮上からの生体電気導出を行うために,ベントナイト・ペースト(以下Bp)を用いる.ところが,このBpは電極固定と生体電気導出には便利であるが,脳波記録後の後始末に手がかかり,拭き取ろうとすると,頭皮上に広がって,なかなか思うように取れないので,最近は洗髪してあげることが常識のようになった反面,記録者の負担が多く,記録被検者数に影響する結果となった.
 そこで家庭用掃除機をもち出し,簡単な吸引孔を作り,吸引法でやっかいなBpを除去した結果,かなりきれいに除去できたので使用方法を報告する.

異常値・異常反応の出た時・30

膠質反応

著者: 畑下敏行

ページ範囲:P.609 - P.613

 現在,臨床化学の分野で,血清膠質反応ほど理解されていないものはないのではないかと思われる.もちろんすべてがそうであるとはいわないが,本来膠質反応が提供してくれうる貴重な情報が極めてわずかな部分のみしか利用されていない現状にもかかわらず,それに気付いていない方々があまりに多いのではないかと思われてしかたなのいである.血清膠質反応とはいかなるものか,今一度原点に立ってみるべきではなかろうか.そしてその後に異常値(異常反応)について考え検討してみたい.

座談会

時間外緊急検査要員をめぐって

著者: 稲生富三 ,   佐藤乙一 ,   牧野令二 ,   土屋俊夫

ページ範囲:P.616 - P.626

 救急医療体制の確立が叫ばれているなかで,検査でも24時間の検査体制が迫られている.技師の絶対数の不足,女性の臨床・衛生検査技師の多い現実をふまえて,いかにして夜間など時間外の緊急検査に対処できるか—実例や法律からその問題点を浮き彫りにする.

研究

頭部外平衡不関電極法に関する研究—周波数・振幅・連続性について

著者: 吉井信夫 ,   石井久枝 ,   村山利安

ページ範囲:P.627 - P.630

はじめに
 単極誘導にて,脳の電位変動の絶対値を得るために最も重要なことは,不関電極の電位が0である,ということである.しかし実際上このような不関電極を得ることはできない.不関電極の選択に際しては,脳の電気活動の影響の多寡ということと,活性電極,不関電極間の距離,雑音の混入ということが問題となってくる.このような問題を解決するために我々は,十数年来不関電極についての研究を行ってきた.ここでは,異常波形について,通常用いられている耳朶不関電極法を基準として,交差耳朶不関電極法,平均不関電極法,頭部外平衡不関電極法による記録を比較し,脳波の振幅,周波数,連続性について検討した.

酸素電極による脳脊髄液酸素分圧測定の問題点

著者: 桂田菊嗣 ,   南卓男 ,   岡田芳明

ページ範囲:P.631 - P.635

はじめに
 近年Clark型細小酸素電極の登場によって,血液の酸素分圧(PO2)については,少量の試料で極めて容易に,かつ精度の高い測定が可能となった.しかし本電極法で同じように測定した脳脊髄液(その他リンパ液などヘモグロビンを含有しない液体)のPO2値を安易に信頼することは危険であると思われる.実際に我々は髄液(脳脊髄液) PO2の測定が困難な場合や再現性を欠く場合に少なからず遭遇してきた.本稿はこのような体験から発して,髄液PO2測定に関する二,三の問題点を検討したものである.

原子吸光光度計による血清リチウムの直接測定法

著者: 松下兼介 ,   河野一成 ,   小城次郎 ,   児玉祐一 ,   松本啓

ページ範囲:P.636 - P.638

はじめに
 近年,精神神経科領域の分野において,炭酸リチウムによる躁うつ病の治療および予防が注目されてきている1〜3)
 しかしながら,炭酸リチウムは,かなりの毒性を有し,その摂取に際して神経系,あるいは,消化器系,泌尿器系などに各種の副作用を呈することが報告されている4)

シンクログラフによる血清脂質分析法の検討

著者: 植田寛 ,   伊藤機一 ,   手嶋豊彦 ,   狩野元成 ,   只野寿太郎

ページ範囲:P.639 - P.643

緒言
 血清脂質の測定法は,従来からの各脂質成分を個別的に定量する方法が頻用されている一方,Fredrickson1)らの高脂血症の分類報告以来,脂質分画をパターンとしてみる電気泳動法2)や薄層クロマトグラフィー(TLC)3,4)などの同時分析法が開発されてきた,しかし,これら電気泳動法ならびにTLC法は,操作の繁雑性に比し,精度の高いデータが得にくく,また多数検体の処理には長時間を要するなど,日常臨床検査として導入するには多くの難点を有している.著者らが検討したシンクログラフ(Thinchrograph)は,薄層クロマトグラフィーによって分別された各分画を水素炎イオン化検出装置5〜8)によって,定量的に自動分析する装置であり,脂質成分9)のみならず薬物,生体代謝産物などの分離測定に用いられている.脂質に関しては,標準試料やヒト血清抽出液を用いての展開溶媒の検討および分離能に関する報告がある10).河合ら11,12)は,薄層クロマトグラフィーによって得られる血清脂質分画像をリポグラムと称し,血清脂質の変動をパターンとして認識することを提唱している.今回,著者らは,内部標準物質を使用し,リポグラムに定量性をもたせることを試み13,14),同時再現性,従来法との相関性などの基礎実験を行った他,正常人の血清脂質分画パターンならびに各分画の正常値を検討したので報告する.

新しいキットの紹介

Blue ASOによるASO価の検討

著者: 飯田悦夫 ,   土屋雅敏 ,   田村䪸子 ,   飯田隆康 ,   石田貴久子 ,   斉藤鉦三 ,   高木義鐘 ,   竹内賢次 ,   内藤隆司 ,   萩原武夫 ,   松野信子

ページ範囲:P.644 - P.648

はじめに
 ASO価を測定するのに,日常検査では溶血法のRan-tz-Randall法1)(以下R-R法)ならびにその変法2〜4)が広く用いられているが,最近富士臓器製薬より発売された受身凝集反応によるBlue ASO試薬を手に入れる機会を得たので,本法とR-R法との抗体価の相関,2 mercaptoethanol(以下2ME)処理後の抗体価の変動,Blue ASO抗原の安定性,不活化の影響,再現性などについて検討したので報告する.

Feキット-S(直接法)による血清鉄測定の検討

著者: 成川幸子 ,   吉野二男

ページ範囲:P.649 - P.651

はじめに
 血清鉄は,トランスフェリンと結合した鉄をFe3+として遊離させ,更に還元されたFe2+を比色定量する方法が現在最も一般的に行われ,その発色剤としてバソフェナントロリンスルホン酸塩を用いたものが,国際標準法として制定されている.
 今回,除タンパク操作を必要としない迅速で簡便な測定を目的とした新しい発色剤3-(2-pyridyl)-5,6-diphenyl(1,2,4-Triazine)(Ferrozine)を使用した直接定量法のFeキット-Sを入手する機会を得たのでその規定の操作に従い基礎的性状,測定上での種々の点について検討し,有用性に富んだ結果が得られたので報告する.

緊急検査法としての簡易臨床化学検査機器の検討

著者: 脇坂滋 ,   山崎晴一朗 ,   近藤重信 ,   矢野順子

ページ範囲:P.652 - P.654

緒言
 緊急検査法の理想は,簡易,迅速,高精度,高再現性であるが,現実にはすべてを満足する方法は少なく,その選択は,その場合の条件,目的により左右されることが多い.現在わが国においては理想的な緊急検査体制が実施されている施設は少なく,特に時間外緊急検査は各主治医の判断に頼らざるを得ない.この結果,当然検査項目も制限され,方法的にも最も簡易なものにならざるを得なく,市販の簡易臨床化学検査機器が使用される機会が多い.緊急検査法としての簡易臨床検査機器について検討を行った.

質疑応答

弁別比の定義について

著者: N生 ,   石山陽事

ページ範囲:P.655 - P.655

問 私は現在病院で電気生理学に関係した検査に従事しています.先日私たちが日常使用しているME機器について,増幅器に関しての弁別比を調べてみましたが,その説明が本によってまちまちであることに気がつきました.例えば
1)医学書院発行の指定講習会用テキスト中の医用電子工学概論では弁別比を−60dBというように定義したものを後に正誤表で+60dBと訂正しています.

日常検査の基礎技術

光電比色計の基礎技術

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.657 - P.664

 光電比色計は臨床検査のうらで多く用いられる機器の一つで,現在,臨床検査の方法では,殊に臨床化学の分野では,比色分析がその検査測定の基礎となっているので,光電比色計の取り扱いは,比色分析の原理を理解するとともに,最も大切なことの一つである.精密器械の一つである光電比色計は,その使い方,保守の仕方が正しくないと,正しい検査成績が得られないので,検査室相互の間の精度管理を行った時に,お互いの間に結果のくい違いが起こったりして検査成績の信頼性に問題が生じるばかりでなく,その波及するところは,患者の子後まで影響を与えることになる.
 殊に目に見えない部分が多いので注意が必要である.ここでは日常の測定上に注意すべき事柄を中心に解説して,それに必要な構造上の分類と,波長の検定などについて記してみたい.

検査と主要疾患・30

肺吸虫症

著者: 横川宗雄

ページ範囲:P.666 - P.667

 肺吸虫症といえば,従来はウエステルマン肺吸虫1種のみと考えられていたが,最近前記種とは別種の宮崎肺吸虫によると思われる症例が多発している.両種肺吸虫ではその症状が著しく異なり,検査法も異なるので下記に簡単に説明することとしたい.

検査機器のメカニズム・42

定電圧装置

著者: 今田俊明 ,   宇都宮敏男

ページ範囲:P.668 - P.669

 一般に電子装置を用いる時には,直流電源(電圧の周期的変化のない電源;電池など)を用いることが多い.交流電源(家庭の電気がこれで,1秒間に50回または60回の周期的電圧変化がある)を整流して(周期的電圧変化をなくして直流にすること),直流電源として用いる場合,使用状況によって,その電圧がいくらか変動することがある.電子装置のなかには,直流電源が安定で,その電圧が一定に保たれていないと,うまく働かないものが多い.そのため,電圧変動のある直流電源に,その電圧変動をなくして,常時一定の電圧を供給できるような装置を付加する必要がある.その装置が定電圧装置である(安定化電源とも呼ばれる).図1は,定電圧装置を使って,電圧を電子装置(負荷)に供給するようにした回路である.

検査室の用語事典

臨床化学検査

著者: 坂岸良克

ページ範囲:P.671 - P.671

43) Cuyeff;キュベット
比色に利用する液の容器.丸型と角型とあり,後者は4枚の平行板からできている.紫外部用は石英,赤外部用は臭化カリウム板から成る.内部の厚さは1cmが標準であるが薄いのも厚いのもある.

病理学的検査

著者: 若狭治毅

ページ範囲:P.672 - P.672

47) Gelatinous Cancer;膠様癌
癌細胞の機能の一つに粘液の産生がある.特に腺細胞から発生した腺癌(前出)によくみられる現象で,多量の粘液のため癌組織はカンテン状になり,癌細胞は胞体内に粘液を満たし,印環細胞(signet ring cell)の形態をとる.粘液反応は強陽性である.

新しい検査室

東海大病院中央臨床検査部の特徴とこれから

著者: 丹羽正治

ページ範囲:P.673 - P.673

 神奈川県伊勢原市に医学部とともに建てられた東海大学病院は,去る2月17日から一部の外来診療を,同24日から入院受け付けも開始し,その業務範囲を人的物的の整備に応じて徐々に拡大し,最終病床数は1,100を予定している.
 この病院設立の理念は"人間性豊かな心暖まる病院"を作り,科学とヒューマニズムの調和を図ることである.これは東海大学が建学以来30年あまり,人道主義,人格主義の教育を行い,人を愛し社会と国家と世界を愛することのできる幅広い人材の育成に努力してきた精神と同質のものである.

Senior Course 生化学

—酵素の初速度測定—LDH Ⅰ

著者: 大場操児

ページ範囲:P.674 - P.675

 生体内には数多くの酵素が存在し,それぞれの酵素が代謝と密接に関与している.そのすべての酵素の働きについては知られていないので,酵素の種類を完全に分類するまでには至っていない.一方,研究室サイドで測定が試みられている酵素の数は多いが,臨床検査室でルーチン検査として,一般的に利用されている酵素の種類はまだ限られている.国際生化学連合(IUB)に従って分類された代表的な酵素を表に示した.見られるようにLDHは酸化還元酵素系に属した,利用度の高い検査項目の一つとなっている.
 脱水素酵素(dehydrogenase)は生体内の酸化還元反応を触媒する酵素系の第1段階に働き,やがて嫌気的脱水素系の反応に移行するといわれている.脱水素酵素の多くはNAD,NADH,またはNADP,NADPH系を補酵素(coenzyme)とし,反応はPyridine核の可逆的酸化還元反応により,脱水素反応の進行が,次々に受けついで行われている.

血液

—検査室からみた血液疾患の特徴—白血球増多症

著者: 松原高賢

ページ範囲:P.676 - P.677

 白血球数が1万を越したら確実に白血球増多症といえる.白血球の増加には他疾患に伴う反応性のものと自律的非可逆的なものすなわち白血病とがある.通常白血球増多症と呼ぶのは前者であり,本稿においてもこれについて述べることにする.いずれの種類の白血球も程度の差はあれ外来の刺激に反応して増減するのであるが,白血球数を支配するような大きな変動を示すのは好中球のみである.したがって特別の場合を除けば白血球増多症即好中球増多症である.

血清

—最新の免疫学的検査法—分泌免疫グロブリン—IgA系—

著者: 冨永喜久男

ページ範囲:P.678 - P.679

 我々の体には血中抗体による免疫系,すなわち系統免疫とは別に,血中抗体によらない免疫系,すなわち局所免疫が存在することが古くから知られている.これが明らかになってきたのは,非血管性のIg量が血中のそれと著しく異なることが判明してきたからで,これに伴い分泌性免疫系という概念が明らかになってきた.殊に多くの人の眼を引いたのは,IgAであって,血中のIg中では十数%を占めるに過ぎないIgAが分泌液中では,主要なIgとして存在するという事実である.非血管性の体液の中には,リコール,滑液膜液などのように,Igの分布が血中のそれとほぼ類似のものもあるが,唾液,初乳,涙などではIgAが主要成分をなしている.このことから分かるように,体内に排泄される液は前者に属し,体外に分泌されるものは後者に属する.外分泌系に属する体液中のIg量は,単に血管から漏出したと考えるだけでは説明できず局所で産生されると信じられている.外分泌系におけるIg濃度が血中濃度と異なっていることから当然の帰結として,系統免疫と局所免疫の解離ということが起こると思われる.

細菌

—病原性球菌の分離,同定—黄色ブドウ球菌—分離から同定,型別まで—Ⅲ

著者: 近藤勇 ,   町田勝彦

ページ範囲:P.680 - P.681

黄色ブドウ球菌の型別
 ブ菌感染の問題の難しさの原因の一つはその分類の不備にある.そのことは同じ膿球菌(pyoccus)の仲間であるレンサ球菌の場合と比較してみれば容易に理解できるであろう.
 ブ菌の場合,Cowanによる血清学的分類の流れはいまだに続けられているにせよ,レンサ球菌のそれとはおよそ比較にならぬ現状である.現在,最も広く行われているブ菌の分類法はファージに対する感受性をもとにしたいわゆるファージ型別法(phage typing)である.しかしこれも黄色ブ菌のほとんどに内在するプロファージの動態に伴う型別の変動や,いわゆる型別不能群の問題やらを含み,実際にその経験をもつ人ならだれでも多くの不満をこの分類に抱いていることも事実である.

病理

—新しい病理組織標本の作り方—薄切のコツ

著者: 平山章

ページ範囲:P.682 - P.683

 良い切片を作るためには組織片の脱水,透徹,パラフィン浸透が良く,メスが良く研摩されていることが必要条件であるが,良い切片が得られない場合に何が原因であるかを見きわめることができなければならない.ミクロトーム刀の研摩の良否についての観察法は前号でふれたが,良く研摩された刀であると思っても実際薄切を行ってみてうまく切れない場合はもう一度研摩し直してみることも必要である.

生理

肺の拡散能力検査

著者: 毛利昌史

ページ範囲:P.684 - P.685

 拡散機能検査は肺活量や1秒率などの測定と異なり特殊検査に属するが,肺線維症のみならず肺気腫の診断1)などにも応用できるので,flow-volume曲線やclosingvolumeなどの測定とともに,より広く利用することが望ましい.
 ここでは,拡散機能検査について,1)測定原理,2)測定方法,3)実際の測定例および評価を,特に"息こらえ法"(CO1回吸入法)を中心に解説する.

一般検査

膵液

著者: 竹本忠良 ,   高崎健

ページ範囲:P.686 - P.687

 膵液分泌のメカニズムは,最近まで実のところよく分からなかった.エチオニン,アロキサンとかコバルト塩のような膵実質細胞の特殊な部分を選択的に破壊するものを使った形態学的な実験から,膵の消化酵素(digestiveenzymes)は腺胞細胞(acinar cell)から,液体と重炭酸塩は腺胞中心細胞と小葉問細管から分泌されることが分かった.膵酵素の分泌が腺胞細胞(細葉基底細胞ともいう)に由来することは電顕学的にも証明された.一名zymogen-producing acinar cellともいわれるこの腺胞細胞は腺腔を囲んで配列する三角錐状の細胞であるが,膵細葉には腺腔を囲む一部の細胞が特殊な腺腔中心細胞で占められていることが,他の外分泌腺と異なるところである.
 1902年BaylissとStarlingによって消化管ホルモンとして最初に発見されたセクレチンも,1959年にはガストリン,パンクレオザイミンとともに作用が明らかになり,1966年にはスウェーデンのMuttらによって構造も決定された.今日では膵分泌のメカニズムに関する研究はすばらしい進歩をとげている.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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