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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査28巻10号

1984年10月発行

雑誌目次

今月の主題 男と女 カラーグラフ

性ホルモン依存性腫瘍

著者: 野口眞三郎 ,   松本圭史

ページ範囲:P.1118 - P.1120

 日本では,従来性ホルモン標的臓器癌の発生率は低く欧米の約1/10であった.そして,性ホルモン標的臓器癌である乳癌,子宮内膜癌,前立腺癌の発生率が低いということが日本人の癌の大きな特徴の一つであった.ところが近年,生活様式(特に食生活)の欧米化と体格の向上に伴い,性ホルモン標的臓器癌が急増している.たとえば,この20年の間に,乳癌死亡率は約2倍に,前立腺癌死亡率は約3倍に増加した.さらに将来は,欧米のように性ホルモン標的臓器癌が胃癌に代わって日本でも主要な癌になると予想される.したがって,何らかの予防対策の必要性に迫まられている.ホルモンと癌の関係に関する研究は,今後ますます必要性を増す分野であると考えられる.

性差 生化学

酵素

著者: 塚田敏彦

ページ範囲:P.1122 - P.1125

1.はじめに
 男と女とは『性染色体の一対がXXだと女,XYだと男と決定される』染色体の性差から発達する.
 一般的に,胎性6週に性腺原基が作られてから乳幼児期までは,臨床検査データの性差は認められず,酵素活性について差異は少ない1,2)

蛋白と非蛋白性窒素

著者: 衣笠えり子 ,   越川昭三

ページ範囲:P.1126 - P.1127

1.はじめに
 一般に生化学検査における男女差は,分泌される性ホルモンの種類や量,バランスの差により,また骨格・筋肉量の違いにより生ずるとされる.しかしながら血漿蛋白,非蛋白性窒素は総量でみた場合,男女差はきわめて小さく臨床的に問題となることは少ない.最近では検査法の進歩に伴い,血漿蛋白・非蛋白性窒素の主な構成成分は比較的簡単に定量可能となってきている.
 ここでは両者の代表的な構成成分における非病態下での性差について簡単に触れる.

糖・脂質

著者: 清島満 ,   川出眞坂

ページ範囲:P.1128 - P.1129

1.はじめに
 性ホルモンと糖・脂質代謝に関しては,多くの報告がなされているが,必ずしもすべて解明されているわけではない.また女性においては,性周期,妊娠,閉経という体内ホルモンの変化があり,男性に比べそれによって受ける影響は大きい.一般的に妊娠の場合,血中脂質はすべて上昇し,性ホルモンを含めた種々のホルモンの作用が関与している.また男女とも加齢による影響も無視できない.

ホルモン

著者: 中井利昭

ページ範囲:P.1130 - P.1131

1.はじめに
 本号の主題"男と女"に関連した主たるホルモンとしてLH, FSH,プロラクチン,エストラジォール,プロゲステロン,テストステロンなどがある.性ステロイドの測定は,以前は煩雑であったが,最近はRIA法によって簡便に測定可能となった.LH, FSH,プロラクチン測定のうちLHについて(図1),エストラジオール,プロゲステロン,テストステロンのうちエストラジオールを代表として以下に測定操作法を記す(図2).
 LH・リアキット(ダイナボット)によるLH測定手技を図1に示す.

無機成分

著者: 岡村一博

ページ範囲:P.1132 - P.1133

 臨床的に問題となる無機成分とは,いわゆる電解質と,鉄や銅などの金属である.性差は性ホルモンによることが大であるが,性ホルモン直接の作用の差のみでなく,性別による罹患率の差も考慮に入れなくてはならない.

血液

血球形態

著者: 新谷和夫

ページ範囲:P.1134 - P.1135

 血液有形成分を対象として多くの形態学的検索方法が開発され,日常検査に応用されている.今回は血球計数と血液像を扱うこととするが,どちらも自動化傾向の著しい分野でもあるから自動化の問題点も含めて解説する.

血液凝固

著者: 羽田雅夫 ,   藤巻道男

ページ範囲:P.1136 - P.1137

 近年,血液凝固学の研究の進歩に伴う検査法の開発にはめざましいものがあり,臨床的に血栓症,出血性素因の診断および治療に役だっている.そして凝固線溶因子の性別,加齢,食事,体動,薬剤,妊娠などによる生理的変動についても検討されている1,2).本稿においては,凝固線溶因子の性差,妊娠による変化,測定法の概要を述べるとともに臨床的意義を考察する.

尿

尿

著者: 佐藤豊二

ページ範囲:P.1138 - P.1139

 尿中成分には臨床的に重要なものがたくさんあるが,それは他の成書に譲り,ここでは主に性差のあるものについて述べる(表1).

生理機能

肺機能

著者: 金野公郎 ,   山口美沙子

ページ範囲:P.1140 - P.1141

 現行のいわゆる肺機能データの正常値には種々な項目のいずれにも性差がみられる.一体その背景は何か.肺機能の中に肺気量分画がある.肺気量分画は主として肺と胸郭(chest wall)の弾性特性による収縮力とこれに対抗する呼吸筋力の力学的バランスによって決められる.さらには肺気量分画は肺におけるガス交換機能の一種の土俵ともいうべきものでもあり,現行のすべての呼吸機能検査の評価の基礎にもなっている.図1に肺気量分画を示すが,図にみるごとく肺気量分画は最大吸気位における肺内気量(全肺気量)を人為的に分画したものであり,特に最大吸気位と最大呼気位との肺内気量の静的変化量は肺活量として知られ,臨床的に重要な指標となっている2)

脳波

著者: 稲永和豊 ,   西島英利

ページ範囲:P.1142 - P.1143

1.はじめに
 脳波の性差についてはいくつかの報告がある.基礎波の性差に関する諸報告では,問題となるような波形はいずれも女子に多い.また各種疾患における異常波の性差についても異常波出現率は女子に高い.さらに各種賦活閾値も女子でより低いとしている.
 以下本稿では脳波の性差に関して諸家の報告をもとに,正常人脳波,てんかん脳波,てんかん以外の脳波所見,精神作業中の脳波のそれぞれの性差について述べる.

筋力

著者: 秩父志行

ページ範囲:P.1144 - P.1145

1.筋収縮の様式と筋力
 骨格筋が短縮し張力を発生する場合,筋長がほとんど変化せずに張力を発生する等尺性収縮iso-metric contraction,同一の張力を発生しつつ筋長が短縮する等張性収縮isotonic contraction,筋長を等速度で短縮しつつ張力を発生する等速性収縮isokinetic contractionの3種が原則的に区別される.筋力muscle strengthという用語には明確な定義はないが,一般には等尺性収縮にともなって発生する最大張力をさすことが多い.しかしながら脊椎動物において骨格筋が機能している状態で発生する張力は厳密には等尺性収縮によるものではなく,しばしば筋の静止長の90%近くまで短縮する筋もあるので一部等張性収縮の要素も内包されており,動態収縮dynamic contractionと表現する方が適切であろう.
 骨格筋は機能上,姿勢保持に関与する抗重力筋と,関節の開角度変化を主とする運動筋とに大まかに区分することができるが,もちろん個々の筋は状況に応じて程度の差はあっても両方の機能を行っている.これら筋の発生する張力は機能による差異はないと考えられ,筋の有効断面積に比例し,1cm2あたり4〜10kg,平均6kgの張力を発生する.この値は単収縮twitchによる張力よりもはるかに大きく,持続的につづく強縮contrac-tureの時の張力である.

基礎代謝

著者: 前田次郎 ,   池田裕

ページ範囲:P.1146 - P.1147

 生体は絶えず臓器および組織細胞内において体成分を酸化分解し,その化学エネルギーを熱や機械的仕事などに転化し,終末分解産物としての炭酸ガス(CO2),水,尿素を,主に呼気および尿中に排泄する.
 この新陳代射は種々の外的および内的条件によって影響を受けるが,これらの影響を可及的に除外した単なる生命保持(呼吸,循環,細胞機能,分泌などの保持)のみに必要な新陳代謝を基礎代謝という.

体温

著者: 中山昭雄

ページ範囲:P.1148 - P.1149

1.表層温と深部温
 人体各部位の温度で比較的一定に保たれているのは深部coreの温度であり,表層shellの温度はかなり大きく変動する.体温調節の面からすれば,むしろ表層温が変化することによって深部温が一定に保たれるのである.Coreとshellは解剖学的な実体に対応するものではなく,機能的な概念であるが,体表から1cmくらいの層を考えると,その全容積は全身の1/5を占める.表層温で容易に記録できるのは皮膚温である.快適な温熱環境で34℃くらいである.寒冷環境では手足の皮膚温低下が著明であるが,体幹部ではわずかである.身体運動の開始とともに皮膚温の低下が手指,前腕,上腕の順に起こり,低下の程度もこの順序に大である(図1).腋窩温は腋窩に一時的につくられた空洞の温度で,皮膚温でもなく深部温でもない特殊な温度で,ほぼ一定値に達するのに10分以上を要する.

毛髪

著者: 牧野秀夫

ページ範囲:P.1150 - P.1151

1.はじめに
 哺乳類の特徴である毛は,ヒトでは大部分が,すでに退化して,硬毛は体の一部に発生をみるにすぎなくなり,その存在理由もさだかではなくなってしまっている.毛髪はつねに成長をし続けているわけではなく,一定期間成長を続ける(成長期)と,退行期をへて成長が止まって(休止期)となり,しまいには脱毛する.これを毛周期hair cycleという.つまり,毛髪は一定の周期を繰り返して生えかわっている.毛周期は年齢,性,部位,個人によって大きく異なっている.
 成人の頭髪は,男性では成長期85%,休止期13%,栄養障害性毛髪2%,女性では成長期88%,休止期11%,栄養障害性毛髪1%で,毛の成長能力は女性でやや高く,部位差は男性で大きい.毛髪の成長速度は1日平均0.34mmで,男女間には有意差はなかったという.

総説

性の決定と分化

著者: 小林拓郎

ページ範囲:P.1153 - P.1161

性とは—性分化の目的—
 性,sexという言葉はラテン語のsexusからきており,これはsecare (分ける,割る)に由来するsecusに基づくものとされている.すなわち,男性および女性に分けるということであって,生物学的に定義すれば,『個体の増殖と種属維持を目的とした配偶子(精子と卵子)を産生する個体の違い』ということになる.そもそも生物の基本的な機能である生殖,reproductionには無性生殖と有性生殖とがあり,前者は良好な環境下ではきわめて能率は高いが,個体の素質はすべて同じであり,一たび不適性な環境に相遇すれば,たちまち死滅してしまうこととなり,これに対応するためにはきわめて可能性の低い突然変異に期待する以外に方法はない.これに対し,有性生殖は,増殖という点では能率は悪いが,しかし複数の有利な突然変異を共有するための時間は早く,細胞接着を介して遺伝的な組み換えが行われるため,はるかに大きな遺伝的変異性のある個体がつくられ,環境変化に対する適応性が増大するため生存の機会は多い.しかし,このためには性の分離が必要であって,構造や過程,行動などで二つのタイプの性を必要とする.これが性分化の目的である.

主題を語る

疾患と性差

著者: 柴田博 ,   藤田力也

ページ範囲:P.1162 - P.1170

 疾患の性差をみることは,その成因の探求,さらに,予防法,治療法の確立に必須である.性差をもたらす要因は,二つに大別される.一つは,男女の生物学的な差,すなわち,ホルモンなどの内部環境や免疫機構の差などである.他の一つは,男女の環境要因の差,すなわち,社会・経済的立場の違いによる生活様式やストレスの差などである.しかし,実際には,この二つの要因を区別することは容易でない場合が多い.

検査と疾患—その動きと考え方・94

性ホルモン依存性腫瘍

著者: 野口眞三郎 ,   松本圭史

ページ範囲:P.1171 - P.1178

はじめに
 Jensenらが,1962年にラット子宮の可溶性分画内にエストロゲンと特異的かつ高親和性に結合する蛋白(エストロゲン・レセプター)を証明して以来,ステロイドホルモンの分子レベルでの作用機構に関する研究は長足の進歩を遂げた.その結果,乳癌・前立腺癌などの性ホルモン依存腫瘍にも正常の標的臓器と同様のホルモン・レセプターが存在し,腫瘍のホルモン依存性と密接な関係にあることが分かった.現在では,乳癌の治療にあたっては,これらホルモン・レセプターの測定が必須のものとなっている.本誌では,代表的な性ホルモン依存性腫瘍である乳癌と前立腺癌を取り上げ,癌のホルモン依存性とホルモン・レセプター測定の意義について述べる.

座談会

臨床検査における性差

著者: 志田圭三 ,   中井利昭 ,   前田和子 ,   茂手木皓喜

ページ範囲:P.1180 - P.1189

 最近は,従来の正常値について概念を改めて,人種別,環境別,性別,年齢別,職業別といった集団でのreference valueが考慮されるようになった.特に性差については最近いろいろの臨床上の所見や検査値の解釈上,その重要性が認められてきた.この性差について,その機序や集検上の問題点ならびに臨床例について語ってていただいた.

講座・リンパ球の検査・10

免疫蛍光法による表面マーカーの検出法

著者: 向田直史 ,   河合忠

ページ範囲:P.1194 - P.1201

はじめに
 細胞,組織中に含まれる物質の検出法としては,種々の方法が用いられているが,抗原-抗体反応を利用した免疫組織細胞化学が,その特異性および鋭敏性より現在広く用いられるようになってきている.このさい,顕微鏡下にて目に見えるようなマーカーで抗体を標識し,抗原を検出する方法が標識抗体法(labeled antibody method)である.マーカーとしては,ペルオキダーゼなどの酵素,蛍光色素,ラジオアイソトープをはじめとした種々の物質が用いられている1)
 今回は,標識抗体法のうち,マーカーとして蛍光色素を用いた蛍光免疫法(immunofluorescence)について述べる.

基礎科学からの提言・16

ヒトの体質とは何だろうか—ショウジョウバエのデータからの考察

著者: 向井輝美

ページ範囲:P.1203 - P.1210

はじめに
 ある家系の人は非常に健康であるが,別の家系の人は病気とは言えないまでも健康度の低い人が多いというようなことは私たちの身近によく見る現象である.体質の差ということばがこれに当たるものであろう.私たちの健康度は遺伝と環境によって決まるわけである.しかし悪い環境条件で育って健康度の低い者の子どもには,この低い健康度は遺伝しないが,家系のほとんどが弱い体質を持っているような家族の子は,健康度が劣ることは予測できることである.最近は環境中に突然変異を誘発する変異原物質が多く発見され,誘発された突然変異がヒトの健康度を遺伝的に下げる,言いかえると体質を悪くすることが憂慮されている.さらに医学の著しい発展は,以前なら死んでしまったであろう体質の弱い乳幼児もりっぱに成人し,子孫を残すことができるようになった.したがってヒト集団には有害遺伝子がどんどん蓄積し,ヒトの平均的体質は表面的にみればそう変わらなくても,遺伝的にみれば悪化の一途をたどっているかもしれない.
 この問題は非常に重大であるにもかかわらず,人類遺伝の研究の主体が,例えば,遺伝子の塩基の置換に基づくヘモグロビンのアミノ酸の変化による鎌型赤血球貧血症のような,大きく病的症状が表れる遺伝病にあって,体質の遺伝と言ったじみな問題にはあまり注意が払われていないようにみえる.

研究

慢性関節リウマチにおける血清酸可溶性蛋白質の臨床的意義

著者: 村山隆司 ,   中崎聡 ,   服部真

ページ範囲:P.1211 - P.1214

はじめに
 従来より,慢性関節リウマチ(RA)の活動性や治療効果判定における血清学的指標として赤沈,C反応性蛋白質(CRP),リウマトイド因子(RF)などが用いられてきた.しかし,赤沈やCRPは他の急性炎症でも異常を示し,赤沈はγ-グロブリン量や貧血などの影響も受けることがあるとされており,RAにおいては時に両者が解離する現象がみられる.また,RFはRAの寛解時期を知るには良い指標となるがその変動は緩やかであり,薬物療法の効果を判定する際には役だてにくい点があった.
 一方,酸可溶性蛋白質(acid soluble proteins;ASP)は近年,その測定が可能となり,種々の疾患に伴う炎症性変化を反映することがわかってきた1,2)

エンザイムイムノアッセイ法によるポリマー化ヒトアルブミン結合性HBs抗原の測定

著者: 高木道子 ,   田中繁和 ,   泉正樹 ,   武田和久

ページ範囲:P.1215 - P.1218

はじめに
 B型肝炎においてB型肝炎ウイルス(HBV)と肝炎との関係が明らかにされて以来,HBVの持続感染が問題となっている.今までHBVの感染性の有無はHBe抗原・抗体系の測定,DNAポリメラーゼ活性の測定,あるいは直接HBV-DNAの証明によっていたが,HBs抗原のポリマー化アルブミン・レセプター1)の測定も重要と考えられる.最近,その測定方法が種々考案され,Pontissoら2)の赤血球凝集反応によるもの,Machidaら3)のマイクロタイタープレートを用いたラジオイムノアッセイ(RIA)によるものなどがある.溝上ら4)および辻ら5)は酵素標識抗体法(EIA)を用いて,HBs抗原上に存在するポリマー化ヒトアルブミン(poly-HSA)レセプターを特異的に測定する方法を報告している.辻らの方法は簡便であるが,HBs抗体を固相に用いているので測定されたpoly-HSAがHBs抗原量に依存する結果を与える可能性がある6).今回われわれは,マイクロタイタープレートを用い,poly-HSAを固相化したEIA法によるHBs抗原上のpoly-HSA結合能の測定系を開発し,症例における経時的変化をも併せて検討したので報告する.

資料

第3回ELT-8コントロールサーベイ成績

著者: ELT−8精度管理委員会 ,   山田輝雄

ページ範囲:P.1219 - P.1223

はじめに
 臨床検査精度管理方法の一つであるコントロールサーベイは,各施設間におけるバラツキの程度や機種間差,あるいは自施設がどのような立場にあるかを知るうえできわめて有効である.コントロールサーベイには通常市販管理物質が用いられるのが一般的であるが,血球計数器の場合,市販管理血球の特性によって装置の精度とは無関係に測定値に差が出る場合が多い.このため多機種が参加する大規模サーベイでは,そのデータ解析上思わぬ誤解をまねく場合もある.その点,単一機種間で実施した場合,一長一短はあるものの適切な試料の選択により統一的なデータ比較ができ,誤差要因の解析もより容易にでき,対策も取りやすい.
 多項目型自動血球計ELT-8の使用施設間で実施しているコントロールサーベイは,単一機種間のサーベイとして管理血球の他に新鮮血を試料に加え,1981年8月に第一回1),1982年2月に第2回2)を実施した.これは季節条件のもっとも良くない夏と冬に行って,季節的影響をみたものであるが,実施時期による差はまったく認められなかった2).そこで今回は実施時期を5月に定め,第3回サーベイを行ったので,過去2回のデータ比較なども若干加え,成績を報告する.

HBc抗体検出用PHA法試薬の使用経験

著者: 安藤弘一 ,   中嶋佳子 ,   稲見正彦 ,   佐藤仁美 ,   笹原武夫 ,   舘田朗 ,   桜井富久子 ,   小林佳織 ,   沼崎義夫

ページ範囲:P.1227 - P.1232

緒言
 B型肝炎ウイルスの血清マーカーにはHBs抗原・抗体,HBe抗原・抗体,HBc抗体およびDNAポリメラーゼなどがあるが,このうちHBc抗体は血中において肝臓内のHBV本態のHBc抗原量と平行した動行をとることが知られている1).つまり血中HBc抗体の測定は,HBs抗原およびHBe抗原・抗体では知りえない肝臓内のHBVの増殖または鎮静を知るには欠くことのできないものである.しかし,HBc抗体の測定方法として従来CF2),IAHA3),RPHA-I4)およびRIA, EIA法などが開発されているがIAHA,RPHA-Iの二法は,HBc抗原をヒトの肝臓より得ているもので研究室レベルにてのみ使用可能であり,またRIA,EIA法はアイソトープを取り扱う施設を必要とするとか,操作が煩雑であるとか一長一短があり日常のルーチン検査として臨床応用にまで実用化されていない.今回HBc抗原を遺伝子組み換え操作法により大腸菌に産生させ,これをヒツジ赤血球に感作して作製したHBc抗体検出用PHA法試薬を入手できたので臨床検査室で使用可能か否か,およびその成績を検討したので報告する.

編集者への手紙

サーベイ参加時に,測定法の再確認を!

著者: 加瀬沢信彦

ページ範囲:P.1224 - P.1225

 今年もまた,日本医師会主催によるコントロール・サーベイの案内状が届きました.全国的規模で行われるわが国の臨床検査精度管理の代表的調査の一つとして,検査室にすでに定着している感があり,多くの人々の眼には年1回の恒例行事として別段変わりなく映じていることと思います.これは結構なことで良いのですが,一面,筆者は読者(サーベイ参加施設)に注意を喚起せねばならない具体的な事例を先のサーベイで経験していますので,ここに紹介したいと思います.
 昨年の日医サーベイのLAP項目では,筆者の施設では測定法をL-ロイシンアミドを用いる方法にて参加しました.日常検査に準じて試料分析データを報告したところ,返送されてきた評価表に不合格"D"判定が二つもついているのです."D"評価は,該当グループの補正後の分布よりも測定値が±3SDを超える所に位置することを示すものですから,確率的にきわめて異常な数値です.しかし,筆者の検査室でその原因をいろいろと照合して考えてみても特別に異状が認められず,この評定が納得できないことから,真相を求めて調査してみました.

質疑応答

臨床化学 強度の血尿・混濁尿への対策は

著者: 岡村一博 ,   佐藤寛之

ページ範囲:P.1233 - P.1235

 〔問〕尿中の電解質や含窒素成分など,生化学的測定を行う際,強度の血尿や塩類などによる混濁尿はどのように前処理すればよいのでしょうか.遠心して血球や塩類を除去することにより,尿の構成成分の変化やサンプリング時の絶対量の変化が生じるので,測定への影響が出ます.適切な対処法を教えてください.

血液 血小板凝集剤の溶媒の違いは測定値にどう影響するか

著者: 田上憲次郎 ,   二ノ宮泰美

ページ範囲:P.1235 - P.1237

 〔問〕 血小板凝集能を測定する際,凝集剤を用いますが,この凝集剤の溶媒は,蒸留水,生理的食塩水,トリス緩衝食塩水など,成書によりさまざまです.溶媒の違いは,測定値にどのような影響を与えるでしょうか.また,それぞれの長所・短所をお教えください.

免疫血清 HBs抗原検出のRPHA法における検体の吸収

著者: 吉原なみ子 ,   田口誠樹

ページ範囲:P.1237 - P.1238

 〔問〕 富士レビオのセロディア-HBsを用いてHBs抗原のスクリーニングをしていますが,時々抗体感作血球および対照血球にも陽性を呈します.そこで被検血清の吸収処理を行っても,吸収しきれないことも多くあります.この理由をお教えください.

微生物 月経血より分離される抗酸菌の臨床的意義

著者: 松田静治 ,   M女

ページ範囲:P.1239 - P.1240

 〔問〕私の勤める臨床検査センターに,1年くらい前からある産婦人科医より月経血の抗酸菌検査の依頼が続いています.最近,淡黄色,S型のコロニーでZiehl-Neelsen染色〔+〕の短桿菌が4名の月経血から分離され,その同定を行っています.ナイアシンテスト〔−〕,光発色〔−〕,発育速度緩徐でⅢ群の非定型抗酸菌と思われますが,月経血から分離されると思われる抗酸菌で,臨床的意義がある菌,雑菌とみなされる菌についてお教えください.

微生物 メトロニダゾール感受性試験は嫌気性菌の確認試験法か

著者: 成川新一 ,   中村正夫 ,   N生

ページ範囲:P.1240 - P.1242

 〔問〕 初代分離時は臨床材料より嫌気培養でのみ分離され,数代継代すると好気性培養でも発育する菌群があります.このような菌群はメトロニダゾール感受性試験が有用であると言われていますが,その意義と方法について,またそのためのディスク作製法についてお教えください.

微生物 毒素原性大腸菌の血清型について

著者: 本田武司 ,   塚本定三 ,   B生

ページ範囲:P.1242 - P.1245

 〔問〕 毒素原性大腸菌の同定には,LT・ST毒素の検出をもって毒素原性大陽菌と同定すべきだと思いますが,市販の病原性大腸菌血清中には毒素原性大腸菌血清もみられます.これらに該当すれば毒素原性大腸菌としてよいのか,また毒素原性大陽菌と病原性大腸菌の血清型の関係について,お教えください.

雑件 RIA法における誤差とその対処について

著者: 中井利昭 ,   Y生

ページ範囲:P.1245 - P.1246

 〔問〕RIAを使う検査が多くなってきました.自分で行っていないのでわかりませんが,依頼すると正常範囲のところでの動揺が大きいように思われます.測定値の信頼度は,だいたいのCV値でどのくらいなのでしょうか.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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