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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査62巻7号

2018年07月発行

雑誌目次

今月の特集1 尿検査の新たな潮流

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.787 - P.787

 尿検査は恐らく最も古い検体検査であり,Hippocratesの時代には実施されていたとされています.そして,古い検査として認識されている尿検査ですが,実はかなり大きなpotentialを秘めています.さらに尿検査には,侵襲的な処置を必要とせずに検体が採取できるという大きなメリットがあります.

 このような尿検査の可能性に着目し,次世代の尿検査の開発がすでに始まっています.すでに実用化された検査もありますが,多くはこれからの検査として期待されています.本特集ではそのような新しい尿検査について紹介し,また現状の尿検査に残された課題や新たな尿検査の開発に向けた動きを解説しています.臨床的に有用性の高い尿検査が開発できれば,非侵襲的という特性から理想に近い検査となることが期待されます.本特集をお読みいただいて,古典的検査である尿検査の新たなる可能性を感じ取り,尿検査の新たな魅了を発見してください.

尿検査—最近のトピックス

著者: 菊池春人

ページ範囲:P.788 - P.791

Point

●尿検査においても精度管理は重要であり,検査前プロセス,検査後プロセスを含めた精度保証を考えていく必要がある.

●尿検査の標準化は難しい点があり,harmonizationへと考え方を変えていく必要があるかもしれない.なお,尿沈渣についてはJCCLS GP1-P4を改訂する予定がある.

●新規尿バイオマーカーおよび尿沈渣による,これまでより詳細な腎臓の病態把握が可能になってきている.

●尿検査は腎・尿路系以外の病態を把握するのにも有用で,今後も発展していくものと考えられる.

急性腎障害のバイオマーカー

著者: 池森(上條)敦子 ,   木村健二郎

ページ範囲:P.792 - P.796

Point

●急性腎障害(AKI)の早期診断に血清クレアチニン(sCr)は不向きである.

●尿中L型脂肪酸結合蛋白(L-FABP),尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)測定は,尿細管障害を反映するバイオマーカーであり,AKI診断の保険適用がある.

●尿中L-FABPは,日本発のバイオマーカーであり,AKIのみならず,慢性腎臓病(CKD)の診断にも保険適用がある.

糖尿病性腎症のバイオマーカー

著者: 荒木信一

ページ範囲:P.798 - P.802

Point

●糖尿病性腎症は,微量アルブミン尿の出現により早期腎症と診断し,尿中アルブミン排泄量の程度と糸球体濾過量(GFR)により病期分類を行う.

●腎症発症リスクの高い患者を微量アルブミン尿の出現よりも早期に同定するため,アルブミン尿に代わる診断能・予知能に優れた新たなバイオマーカーが求められている.

●腎症で認められる糸球体病変,尿細管間質障害,炎症などに関連する因子が尿中バイオマーカーとして検討されているが,アルブミン尿以上に有用な尿中バイオマーカーは現時点では見いだされていない.

ポドサイト(足細胞)関連検査

著者: 相澤昌史 ,   淺沼克彦

ページ範囲:P.803 - P.807

Point

●現在,臨床で使用できる糸球体障害を反映するマーカーは,尿中アルブミン,尿中蛋白のみである.

●ポドサイト障害を反映する検査として検討されている代表的なものは,尿中ポドサイト数,尿中ポドカリキシン濃度である.

●今後,尿沈渣やポドサイト特異的exosomeより検出されるポドサイト由来mRNAの研究が進めば,マーカーとして有用となる可能性がある.

尿中エクソソーム蛋白質

著者: 飯島史朗 ,   中山ハウリー 亜紀

ページ範囲:P.808 - P.813

Point

●エクソソームはほぼ全ての細胞から分泌される細胞外小胞であり,分泌した細胞の状態を反映する.

●腎臓の同じ部位の障害でも,障害の原因により増加するエクソソーム中の蛋白質は異なり,疾患の鑑別に利用できる可能性がある.

●尿中エクソソームを臨床検査へ応用するためには,多量に共存する蛋白質から効率よくエクソソームを分離する必要がある.

メタボリックシンドローム保有リスク因子数と尿pHの関係

著者: 山西八郎

ページ範囲:P.814 - P.818

Point

●メタボリックシンドローム(MS)のリスク因子保有数が多いほど,24時間蓄尿(24h尿)の水素イオン指数(pH)が有意に低下することが報告されている.

●2変量間の関係を解析する場合,両変数に影響すると考えられる変数を共変量とした共分散分析により,交絡による見掛けの有意性を制御することができる.

●MSリスク因子数と随時尿pHの間には,有意ではないが,リスク因子数が多いほど尿pHが上昇する傾向にあった.

●因果解析から,上述の関係は年齢と血清尿酸(UA)が交絡することによる見掛けの関係であると考えられた.

●Pointの最初に挙げた報告では,UAの影響が制御されていない可能性が考えられた.

今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

著者: 関谷紀貴

ページ範囲:P.819 - P.819

 感染症検査の結果報告は,ありふれた日常業務の1つです.しかし,“検査の目的”,“緊急性”,“受け手の知識”に留意することで検査結果の解釈や意思決定が変わり,その後の現場対応に大きな影響を生じうることは意外と見過ごされています.

 今回の特集は,感染症診療・感染対策における感染症検査の位置付けを理解して,臨床医やICTの意思決定を変えるようなアプローチを考えるきっかけとして利用していただくことを目的にしています.

 まず,感染症専門医の視点からみた入院・外来における感染症検査の使い方・考え方,臨床検査技師の視点からみたGram染色・質量分析を利用した効果的な結果報告についてご解説いただきました.また,緊急性が高いpanic value,感染対策における感染症検査の使い方についてもご紹介いただいています.いずれも現場目線でのメッセージに溢れており,よりよいコミュニケーションを築く一助としていただければ幸いです.

入院患者における感染症検査の使い方

著者: 日馬由貴 ,   忽那賢志

ページ範囲:P.820 - P.825

Point

●入院患者における感染症の鑑別はシンプルであるが故,必要な検査も限られる.現場に求められるのは,加えることよりも削ることである.

●検出された細菌,薬剤感受性試験の結果の返し方を工夫することで,抗菌薬適正使用につなげられるかもしれない.

●検査技師も患者を治療する医療チームの一員だという自覚の下,積極的に医師とコミュニケーションをとる必要がある.

外来患者における感染症検査の使い方

著者: 岸田直樹

ページ範囲:P.826 - P.830

Point

●検査の感度・特異度を,検査会社のパンフレットではないデータで提示できるようになる.

●感度・特異度・偽陽性・偽陰性を踏まえた臨床的アプローチがあることを理解する.

●検査技師も検査適応を考え,過剰な検査を指摘する1人になる.

効果的なGram染色の結果報告

著者: 山本剛

ページ範囲:P.832 - P.840

Point

●Gram染色による菌種報告は,単なる菌名報告ではなく抗菌薬の選択につながっている.

●形態が類似する微生物を推定する場合に大切なのは感染部位である.

●炎症像の把握こそ,Gram染色所見に大切である.

●電子カルテ情報はGram染色所見の解釈を大きく助けるので,必ず確認をする.

質量分析装置を利用した効果的な結果報告

著者: 大塚喜人

ページ範囲:P.842 - P.845

Point

●質量分析装置を利用することで,コスト面で躊躇なく同定検査に進むことができる.

●一般細菌のみならず抗酸菌,真菌が約10分で同定可能である.

●アンチバイオグラムとの併用で,適正かつ迅速な抗菌薬選択に寄与する.

●これまで困難であった臨床微生物検査工程の標準化が可能となり,精度の向上が見込める.

感染症検査におけるpanic value

著者: 上原由紀

ページ範囲:P.846 - P.850

Point

●panic valueとは,生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値で,担当医に直ちに報告をすべきである.

●微生物検査においては,無菌検体からの微生物検出,高病原性微生物,高度薬剤耐性微生物,感染症法届出微生物がpanic valueにあたる.

●担当医が正確に理解できる報告方法と,報告結果を活用できる院内抗菌薬使用マニュアルなどの整備が必要である.

感染対策における効果的な結果報告

著者: 河村一郎

ページ範囲:P.851 - P.855

Point

●微生物検査室はあらかじめ,感染対策チーム(ICT)と協同して,どのような病原微生物を検出した際に,誰に対して,どの手段で報告するかを決めておく.

●マイクロバイオロジー・ラウンドは,微生物検査室とICT間で情報共有する有用なツールとなる.

●ラインリストの作成は,病原微生物の発生件数の計算やアウトブレイクの察知に有用である.

●発生率の計算は,部署間で病原微生物の発生頻度を比較したり,疫学的傾向を把握したりするのに有用である.

Crosstalk 地域医療×臨床検査・7

単調な世界に現れるシグナル

著者: 寺裏寛之

ページ範囲:P.831 - P.831

 岩手県で地域医療を実践してきた.本年度からは場所を変え,自治医科大学で地域医療に携わることになった.さて,岩手県立千厩病院での診療経験に戻ろう.地域医療の醍醐味は,慢性疾患の継続的管理の妙にある.慢性疾患の診療を単調な世界と呼ぶ人もいる.しかし,そこにはピットフォールもあり,気は抜けない.慌てることもある.普段,付き合いのある受診者だからこそ,まさか病気ではない,病気であってほしくないという心理も働く.いつもと様子が違うことを察知できるか否かが重要になってくるのだ.

 診察や問診でのサインは,それを察知するシグナルとして重要だ.顔色,声のトーン,皮膚の色調,体重の変化,浮腫の有無,身だしなみを観察しながら犬との散歩の様子,入浴の頻度などを尋ねつつ受診者と対話する.Willam Osler1)が言ったように,“Medicine is an art based on Science.”を感じる瞬間だ.いつもと違うのではないか,という医者の第六感に‘客観性’をもたせることも必要であるが,その手掛かりを与えてくれる1つの手段に臨床検査がある.

Salon deやなさん。・13

「黒船メンバー集結!」

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.841 - P.841

 「長い冬が終われば,必ず春が来ます.今はただ,冬を乗り越えましょう.」

 ボスがよく私に言っていた言葉だ.

生理検査道場・3

—24時間自由行動下血圧測定①—判読手順と異常値メカニズム

著者: 成田圭佑 ,   江口和男

ページ範囲:P.856 - P.860

24時間自由行動下血圧測定の有用性

 24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)は,高血圧症の診断や夜間血圧,血圧日内変動の精査などを目的に用いられる.診察室血圧や家庭血圧では評価できない日中活動時の覚醒時血圧(昼間血圧)および夜間就寝中の睡眠時血圧(夜間血圧)を評価することが可能であり,高血圧の診断や病態の把握に有用である.

 ABPMの主な適応として①白衣高血圧または仮面高血圧が疑われる場合,②夜間血圧の評価,③薬物治療抵抗性高血圧の評価,④降圧薬治療の評価(降圧作用の評価,または過降圧による起立性低血圧などを疑う症状がある場合),⑤血圧変動性(後述)の評価などが挙げられる.ABPMはわが国を含む各国の高血圧診療ガイドラインで推奨されており1),後述する早朝や夜間就寝中の血圧上昇や日内変動性の異常などは,脳卒中や心筋梗塞などといった心血管イベントの重要な危険因子とされている.

検査説明Q&A・37

ESBLやCREが問題となっていますが,薬剤感受性検査でどのようなときにこれらの耐性菌を疑ったらよいのでしょうか?

著者: 河口豊

ページ範囲:P.862 - P.866

■はじめに

 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)は,ペニシリン系薬,第一〜四世代セファロスポリン系薬およびモノバクタム系薬を分解することができる酵素です.ESBL産生菌は大腸菌や肺炎桿菌に多く,その割合は年次的に増加しています.2016年の厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS)によると,それらの割合はセフォタキシムの感受性からそれぞれ26.0%および8.9%と推計されています1)

 一方,近年,腸内細菌科の細菌において,カルバペネム系薬にも耐性を示す株が散見されるようになり,臨床上問題になっています.これらはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:CRE)と呼ばれ,CREのなかでも特にカルバペネム系薬を分解してしまう酵素カルバペネマーゼを産生するものをCPE(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae)と呼んでいます.

研究

高密度脳波による電流源推定における開頭の影響

著者: 田端さつき ,   本田涼子 ,   勝間田祐衣 ,   松村規子 ,   竹内豊 ,   後藤信之 ,   上條敏夫 ,   金子裕

ページ範囲:P.867 - P.873

Summary

 開頭術の既往のあるてんかんの1歳女児で,高密度脳波と脳磁図(MEG)を同時に測定し,スパイクに対してダイポール(電流双極子)推定を行った.開頭も考慮に入れた3層の実形状モデルを用いた計算と考慮しない計算を比較したが,前者では高密度脳波とMEGのダイポールの距離は22.1mm,後者では28.3mmであった.高密度脳波による電流源推定では,開頭の既往がある場合は,それを考慮に入れた精密な計算が必要であることが示唆された.

第40回第2種ME技術実力検定試験

ページ範囲:P.840 - P.840

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目次

ページ範囲:P.784 - P.785

バックナンバー一覧

ページ範囲:P.850 - P.850

「検査と技術」7月号のお知らせ

ページ範囲:P.861 - P.861

次号予告

ページ範囲:P.874 - P.874

書評 子宮頸部細胞診運用の実際 第2版—ベセスダシステム2014準拠

著者: 伊藤仁

ページ範囲:P.875 - P.875

現場で有用なベセスダシステム2014手引書

 坂本穆彦先生編集の『子宮頸部細胞診運用の実際—ベセスダシステム2014準拠』の第2版が発刊された.執筆は坂本先生をはじめとし,今野良先生,小松京子氏,大塚重則氏,古田則行氏ら細胞診の第一線で活躍するエキスパートである.

 本書は「Ⅰ.ベセスダシステムの成り立ちとその要点および運用」「Ⅱ.判定の実際」「Ⅲ.報告書作成の実際」から構成されている.紙面を多く割いているのは「Ⅱ.判定の実際」であり,ベセスダシステムの項目に合わせて「A.標本の適・不適の評価」「B.陰性」「C.扁平上皮細胞異常」「D.腺細胞異常」「E.その他の上皮性腫瘍および神経内分泌腫瘍」「F.その他の所見」について多くの写真と詳しい記述が示されている.また,それぞれがさらに小項目に分けられ,代表的な細胞像の所見を箇条書きでリストアップされている.重要なポイントや注意点などは“memo”として適所にわかりやすくまとめられている.また,ASCやAGCなどしばしば遭遇する実際の運用上の問題点などについても,要所要所で丁寧に説明されている.例えば,「ASC-Hは,傍基底型の異型扁平上皮細胞に対して用いられる傾向にある.しかし,萎縮像に対する明確な取り決めがない.現実的には萎縮像における異型扁平上皮細胞が腫瘍による細胞変化なのか,炎症など非腫瘍性の細胞変化なのかを判断することは難しく,非腫瘍性の細胞変化もASC-Hとして評価しなければならない場合もある」(p.90)など,まさに実践向けの手引き書であるといえる.また,日米の判定基準の差についても,米国のCIS判定基準の一つである,「合胞性に出現する細胞像は,わが国でいうところの『異型未熟扁平上皮化生』『異型予備細胞増殖』の像と重複しているところがある」(p.104)など,わが国の細胞診の視点から解説されており,ベセスダシステム2014の理解を深めるために役立つであろう.

あとがき

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.878 - P.878

 3月下旬,熊本でA先生主催による小規模な国際学会が催されました.A先生は,一時期臨床検査の分野でも活躍されておりました.読者の皆様なら,そういえばすぐにおわかりと思います.臨床検査とは別に,先生と私は研究テーマを通して30年来の付き合いで,今回の国際学会の成功は私にとっても大変うれしいことでした.

 先生がこの話を引き受けたのは熊本震災の前でしたので,震災は予期せぬ心配事であったでしょう.地元の復興もさることながら,外国人には災害大国のイメージをさらに植え付けることが懸念されたためです.しかし,先生は学術集会そのものの充実のほかに,2つの切り札を用意していました.1つは,精力的に経済的支援を取り付け,海外からの参加者の渡航滞在の負担を軽減したこと.もう1つは,桜満開の時期に会期を設定したことです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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