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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査14巻12号

1970年12月発行

雑誌目次

特集 日常検査法—基礎と要点 座談会

日常検査のありかた

著者: 高橋忠雄 ,   西村昂三 ,   新谷和夫 ,   松村義寛 ,   清水喜八郎 ,   丹羽正治 ,   樫田良精

ページ範囲:P.1148 - P.1158

 司会(樫田)現在の臨床検査の普及には驚くべきものがありますが,そのなかでも特に,ルーチン検査・日常検査といわれるものの件数はけっして減らないで,逆に年々増加するのが現状であります.これに対して,外国でも日本でも,検査の自動化や簡易化を盛んに導入して,非常に高い検査の需要の消化に努めています.
 よく利用される検査室における件数は,だいたい5年すると2倍の検査件数になるのが常識となっております.したがって,検査室としてはどんどんふえる検査の需要に応じた体制をたえず整えるのが当然の行き方ではありますが,いろいろな関係から日本の検査室では適切な増強措置ができない,あるいはできにくいのが現況であります.臨床家側からいろいろなクレームがついたり,検査室は検査の増加に苦しむことになります.きようは,日常検査のあり方について,ご出席の皆様からいろいろお話しいただき,現実的な問題に対する打開策のアドバイスもいただきたいと思います.

検査室の基礎知識 Ⅰ.器械・器具の扱い方

遠心機

著者: 北村清吉

ページ範囲:P.1160 - P.1164

 物質の分離には遠心力を利用した方法が用いられる.

顕微鏡

著者: 天木一太

ページ範囲:P.1164 - P.1166

 顕微鏡はきわめて精度の高い光学器械であるが,だれでも容易に使うことができるように作られているから,気軽に使えばよいのである.しかしいくつか使用上の注意がある.それによって最高の性能が発輝されるし,長く故障を起こさないですむ.

測定器

著者: 白戸四郎

ページ範囲:P.1166 - P.1169

 検査室で使われる測定器は小はピペット,浮きばかりの類から,自動分析装置に至るまでまことに多種類である.これらの個々についての詳細は多くの指導書に記されているので,本稿では測定ということばのもつニュァンス,物理量の数値的表現という見方から,数多くの機器をながめなおしてみることにしたい.何を測定しているのかということを確認したうえで,その使用上の盲点といったものにも一部ふれてみたい.

冷蔵庫・恒温装置

著者: 白戸四郎

ページ範囲:P.1169 - P.1170

1.種類
 冷蔵庫といえぼ昔は氷冷蔵庫のことであったが,現在は電気冷蔵庫があたりまえとなり,最近はそれも2ドア式のものが流行している状況である.ところで,検査室の中には,冷蔵庫の範囲に入れるべきものが,このほかにも少なくない.たとえば血液銀行で使う血液保存用冷蔵庫,薬品保冷庫,ディープフリーザー,屍体用冷却装置,これらは名前が違うばかりでなく少しずつ内容も違う.
 恒温装置となるとまず考えるのは恒温水槽であろうが,このほかにも凝固検査機器にはそれぞれ専用の恒温槽があるし,恒温振盪培養装置,ワールブルグ検圧装置,ふ卵器,低温恒温装置,パラフィン溶融器,定温乾燥器などいろいろとある.これらをひとつひとつ説明する字数もないので,垣温装置とはどういうものかを始めに考えてみたい.温度に限らずある状態を一定に保つためには,なんらかのフィードバック機構がなければならないが,冷蔵庫にしろ恒温装置にしろ,加熱冷却の双方の機能をもったものは非常に少ない.普通の恒温水槽には加熱用のヒーターだけが組み込まれていて,温度が上がりすぎたときは自然に冷えるのを待つ形となっているが,この方式では室温すれすれ(+5℃以内),あるいは室温より低い温度は得られない.

Ⅱ.試薬の作り方・扱い方

浄水

著者: 宮城芳得

ページ範囲:P.1171 - P.1172

 浄水とは漢和字典によれば,‘清らかな水'ということである.日常検査および試薬調製に用いられる浄水ということになれば,純粋な水ということであり,上記の目的のほかに器具洗浄の最後のゆすぎのときにも多量に利用されるものである.だいたい現在は一般的に次の2法によって浄水が作られているのが,現状である.

標準液

著者: 西村民男 ,   今井利夫

ページ範囲:P.1172 - P.1176

標準液の分類
 臨床分析で使用されている標準液は,大別して容量分析用,臨床分析用,pH測定用とに分けられる,前2者については,標準試薬(物質)を正確に秤量して,メスフラスコで一定容量に溶解稀釈して作ったものが1次標準液であり,また試薬を所要濃度に溶解稀釈し,標準試薬(物質)または1次標準液,あるいは十分信頼すべき純度の試薬(物質)を用いて,その濃度を決定したものが2次標準液である1).pH測定用標準液はpH測定用試薬を規定に従って溶解したものである.

pH緩衝液

著者: 西村民男 ,   今井利夫

ページ範囲:P.1176 - P.1179

pHとは
 SφrensenはpHを次のように定義した.
pH=log1/〔H〕=—log〔H

洗浄

著者: 宮城芳得

ページ範囲:P.1179 - P.1181

 臨床検査室での検査過程において使用する器具の種類はきわめて多数であるが,そのほとんどはガラス器具で,また洗浄の対象となっている.しかもガラス器具は種類別に洗浄方法,洗剤の使い方が異なるのであり,さらに洗浄方法でも超音波洗浄器を用いてのそれも多くみられるが,まだまだ一般に利用されていて,しかも確実な用手法による洗浄のしかたを解説する.

血清分離のしかたと赤血球の洗いかた

著者: 堀越晃

ページ範囲:P.1181 - P.1183

血清分離のしかた
 検査のために採血される血液のうち,血清を検査に必要とするときは抗凝固剤を用いないで採血し,有形成分を取り除いたものが血清として検査に用いられる。したがって採血から検査室にとどけられるまでには次のようないろいろな条件が,正しく行なわれることが必要である.
1)血液を入れる試験管は,遠心器にかけられる大きさのものであること.

Ⅲ.検査室の日常管理

精度管理

著者: 斎藤正行

ページ範囲:P.1184 - P.1193

どうしてデータはバラックのだろうか
 ある血清のコレステロール成分を日を変えて6日間反覆測定してみるに,同じ数字はまず出てこない.この数字の違いをどう理解したらいいだろうか.いわゆる測定誤差と片づけてしまえばそれまでだが,他人がまた他の施設で測定したら,もっとバラツキが少ないかもしれない.
 こういう現象は血球計算や細菌検査でも宿命的にになっていて,日によって倍の値が出たり菌が全く生えないということも起こっていよう.ただ化学のように,それを実証するにつごうのよい,反覆検査に適する材料が保てないため,表面に表われないだけである.

検査成績の報告

著者: 斎藤正行

ページ範囲:P.1193 - P.1196

はじめに
 土曜日の午後,検査報告の束を中検受付のポストに入れたとき,今週も無事終えたことにホットする.ところが月曜に出勤したとき,まだポストにその伝票が残っているのを見るとガッカリする.病人は入院しているのであるから,土,日と治療を受けたはずである.検査データはいったい何に役だつのだろうか.これが私たちが土曜に限り伝票を病室のナースステーションまでとどける理由である.カルテの横にまでとどけてあれば,医師が帰る前にちょっとデータを見てくれるだろうし,日曜の宿直医も注意してくれるだろう.
 病室でカルテを開いて見ると,検査データは一番新しいものしか目に映らない.検査データというものはその患者の経過を示すものであるから,常に過去のひとつひとつも‘ひと目’で見られればどんなに便利であろう.これが私たちが縦型の検査伝票を作った理由である.同じ労力をかけてもそれが有効に利用されるか,水洗便所のように1回きりで流し去られるか,検査室の小さな親切で随分と違ってくる.

部門別の基礎技術 Ⅰ.座談会

検体検査の要領

著者: 松村義寛 ,   天木一太 ,   松橋直 ,   三友善夫 ,   樫田良精 ,   高橋昭三

ページ範囲:P.1198 - P.1209

 高橋 きょうは‘検体検査’ということを中心にしていろいろお話をうかがいたいんですが,検査室では検体がきて,それについて検査が行なわれるとか,検体が保存されてあとで検査が行なわれる,といったことがあるわけですが,その場合に注意しなければならないこと,起こりうる事故,そうしたものをお話し願いたいと思います.最初に,検体をすぐに検査ができないので保存した場合に起こりうるいろいろな事故,そのために注意しなければならない点などについてお話し願いたいわけでございます.松村先生,いかでしょう.

Ⅱ.臨床化学

タンパク質

著者: 大場操児

ページ範囲:P.1210 - P.1217

総タンパク(Total Protein)
1.方法
 屈折計による法.

著者: 正路喜代美

ページ範囲:P.1217 - P.1220

はじめに
 すでに1世紀前に血液中に糖が検出され,糖測定は診断・治療のための臨床的意義も高められ,血液・尿中の糖の測定法が次々に開発され広く検討・改良されながら今日に至っている.生理的に血液中に増減する糖,あるいは尿中に出現する糖はブドウ糖であるから,この糖の還元性,縮合性,さらには特異的といわれるブドウ糖酸化酵素法へと発展し,この特異性の高い真糖を測定しうる方法に決着かとも思われたが,いまだ問題点を残している.
 これら数々の測定法は,正確で精密で簡易な測定法をめざし,ひとつひとつ問題点を究明し,改良されていくべきである.ここにそれぞれの測定法の原理,特徴,問題点を老え,日常検査への測定法の選択と今後の改良への基礎としたい.血液や尿中ブドウ糖測定は,多くの共存物質の影響をまぬがれない.また試料採取後測定までの保存法も問題点として考えねばならない.

血清脂質

著者: 川出真坂

ページ範囲:P.1221 - P.1224

はじめに
 臨床化学分析の技術は,迅速,簡易,微量化の方向をめざして進歩してきた.これは脂質の測定法についても例外ではない.たとえば,総コレステロール,リン脂質の測定に脂質の抽出を省略した方法や,中性脂肪の測定に酸素法の導入のごときである.これらはすでに成書に記載され,あるいはキットとして発売されているので,ここではこれにふれず,われわれが現在日常検査として実施している方法を紹介することにする.その内容は,コレステロール,エステル型コレステロール,リン脂質,中性脂肪,遊離脂肪酸の測定法である.いずれも簡易性および正確度ですぐれていると思われるものである.

電解質

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.1224 - P.1228

NaとK4)
 血清ナトリウムとカリウムの測定は,ほとんどすべての施設が炎光光度計を用いていると思われる.炎光光度計の原理は,試料を霧吹きの作用で霧状にして,ガス炎に混合して元素に高エネルギーを与えたときに発生する輝線スペクトルの中から,定量したい元素のそれのみをフィルターで選び出し,そのスペクトルを受光部に与えてその強さを測定するものである.この際元素に特有な波長での炎光の強さは,この元素の炎光中の濃度に比例するので,測定の原理は一般の比色法のそれと同一である.アルカリ金属は炎光分析に適していて,分析精度もよくかつ測定の迅速さも臨床上の緊急の要求にも応じられるので,臨床にはうってつけの検査法で貢献も大きい.
 炎光分析の方法上の問題点の第1は,燃料ガスの変動などによる炎光の温度の高低や,試料を吸引して霧状にするatomizerという機構の安定性や試料の比重,粘度などが測定値を左右することで,臨床医の判断を誤らせる有害無益の結果を出す危険もきわめて大きい.この点を解決するため,内部標準法をくみこんだ測定器が登場してきた.これは標準液,検体双方に等量のリチウムを混合し,このスペクトルを標準として,炎のゆれ,検体の粘度などを補償することができる.IL社の製品はこの方法をとっており,プロパン,空気の炎を使用し,Naを589nm,Li671nm,K766nmとそれぞれの明るいスペクトルを相互に離れた波長でうまく捕えている.

ホルモン

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1228 - P.1232

はじめに
 ホルモンの検査法は,化学的測定法の進歩とともに困難な問題点が次々と克服されてきた.ただ他の生化学検査に比して経済的にかなり高価につく検査も含まれており,この点はホルモン専門の検査センターの設置などを考えねばならぬ点もあるが,一般に以前よりはなはだしくルーチン化の傾向を示してきた.
 比色法や螢光法で問題になっていた不純物の発色については,クロマトグラフィーの応用で,多くの成分を有する物質から目的成分を単一に分離することができ,また構造のわずかしか違わない物質を分離することもできる,分離に際して本質的な変化を与えないで,構造の変化を受けやすい複雑な化合物をそのままの形で分離できる点も便利となった.

酵素—測定法の基礎と要点

著者: 吉田光孝 ,   中山年正

ページ範囲:P.1232 - P.1241

 酵素の特性は化学反応を特異的に触媒することである.すなわちおのおのの酵素はそれぞれ基質特異性に基づいた一定の化学反応を触媒し,反応速度を著しく大きくする作用がある.ただし,触媒としての酵素は単に化学反応が平衡に達するのを早めるだけで,反応の平衡点を変えるものではない.酵素の存在量を求めるには触媒される反応の速度を測定して,その単位時間あたりの反応速度,すなわち酵素活性として間接的に求める方法がとられている.
 このように一定条件下における酵素作用を測定し,その作用力を基礎として便宜的に決めた単位をもって酵素量が表わされる.酵素単位の表わし方としてIUB (国際生化学連合)の酵素委員会は‘定の条件下で1分間に1マイクロmoleの基質を変化させる酵素量を1単位とする’ことを推奨しており,臨床酵素学もこの方向に向かっている.この場合たいせつなことは,酵素量と酵素作用とが正確に比例するような条件で測定しなければ,その相対的な酵素含有量を比較できないことである.したがって酵素量の測定にあたっては,正確に規制された条件下で酵素作用の測定が行なわれ,しかも得られた値が酵素量に比例することが要求される.

Ⅲ.血液学

血液像

著者: 山岸司久

ページ範囲:P.1242 - P.1246

血液像をみるまで
 正しい血液像を得るためには血液塗抹標本の正しい作り方を知っていなければならないことはもちろんである.塗抹,乾燥,固定,染色の過程の1つでも正しくないとよい血液塗抹標本は得られず,細胞の同定に困難を感じ,そのために誤りを生ずるおそれがある.これらの正しい方法に関しては多数の成書に記載されているので詳細は省略するが,私の経験から注意すべき点を列挙すると,
1)塗抹標本の乾燥は可及的すみやかに行なうこと.乾燥速度が遅いと白血球が乾燥途中で収縮して小さくなり細胞同定に困難を感ずる.

止血と凝固

著者: 安永幸二郎

ページ範囲:P.1246 - P.1252

はじめに
 止血,凝固に関する臨床検査の特徴としては,
1)試料(血液)をとどけてもらうだけでは不適当で,直接患者を検査するもの(出血時間,毛細血管抵抗など)や,その場で採血を要し,しかもただちに検査を開始しなければならぬもの(凝固時間,血餅退縮,トロンボエラストグラフなど)があること,

血沈

著者: 橋本仙一郎

ページ範囲:P.1252 - P.1255

はじめに
 抗凝固剤を入れた血液を試験管に入れて,垂直に静置しておくと,沈下した赤血球の部分と上層の血漿の部分とに分かれるという素朴な現象は,かなり古くから注目されており,その速度を血液沈降速度(血沈)または赤血球沈降速度(赤沈)と呼ぶ,歴史的に最も古い文献として1797年John Hunterは赤沈は炎症患者が促進し,その速度は炎症の程度により変化すると述べている1).1917年Fahraensは妊娠の早期診断に役だつと述べている.わが国では,1925年ごろから行なわれはじめ,戦前に行なわれた検査の中では最も頻度の高い重要な検査であったが,今日もなお愛用されている捨てがたい検査であり,臨床病理学会主催の一般臨床検査士資格認定検査にも,しぼしば出題されている.

赤血球抵抗

著者: 橋本仙一郎

ページ範囲:P.1255 - P.1257

はじめに
 溶血性貧血の診断にきわめてたいせつな赤血球抵抗は,機械的抵抗,サポニンなどの血液毒に対する抵抗,低浸透圧溶液に対する抵抗などに分けられるが,これらの結果は必ずしも平行しない.ここでは臨床上最もよく用いられる低浸透圧溶液に対する抵抗試験を中心に述べる.

採血と血算

著者: 山口延男

ページ範囲:P.1257 - P.1274

はじめに
 採血は一種の血液のBiopsyであって,全血液量(体重の1/13)の一小部分を採って病態をうかがうための重要な操作である.最近の検査の発達および中央検査室の普及によって,特に静脈血が使用される機会が多くなり,また血液検査では自動分析器の導入によって測定法や測定値の内容に著しい多様性をもつようになった。
 現在における血液検査法については,①諸種の測定技術の習熟とともに,②現在行なわれている測定法(古典的測定法や自動計数法など)についての見識と選択力,③測定に付属する血液学的な知識(採血部位,抗凝固剤など)をますます必要とするようになっている.本篇では採血や血液の取り扱い方法とともに,血球計数の全体的な見通しと実際の測定技術の要点について,できるだけ包括的に取り扱った.

Ⅳ.細菌学

穿刺液,膿(分泌物も含む)の検査法

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.1275 - P.1281

 これらの材料は,常在菌の混入することは特殊なものをのぞいてはまれである.したがって材料中に含まれている菌種は,病巣の形成に関与しているものと考えられる.それゆえに菌検索は,材料中に含まれる菌をもれなく検出するという精度がのぞまれる.膿,分泌物,穿刺液より検出されるおもな病原菌を,その由来する材料別に表1に示した.これよりそれぞれの材料より検出可能な菌種を知り,分離培地を選択してみると表3のようになる.
 以下述べるにあたり,まず好気性菌の検査をも含めた検査材料の取り扱い方について記し,次に嫌気性菌の検索法について述べることにする.

腸管感染症の細菌学的検索

著者: 三輪谷俊夫

ページ範囲:P.1281 - P.1288

はじめに
 腸管感染症の原因菌は一般に外来性の菌でありながら,一時的な通過菌transient microbesと異なり,唾液,胃腸液などの生体防御作用に抵抗して腸管に到達し,常在菌intestinal floraの拮抗作用を排除して,それぞれの菌種に応じて固有な腸管部位に定着・増殖し,感染を起こさせる.急性期では一般に患者便中の病原菌数は1gあたり1×107以上にも達する.
 健康人糞便中の常在菌には腸内細菌群,乳酸菌群,レンサ球菌群,ブドウ球菌群,嫌気性菌群,真菌群などいろいろな菌種が含まれ,糞便1gあたりの生菌数は腸内細菌群104−1010,レンサ球菌群104−1012,嫌気性菌群106−1012程度といわれている.病原菌の検出にはこれら常在菌が障害になるのであるが,近年,特定な病原菌のみの発育増殖を許し,非病原性常在菌の発育を抑制するきわめてすぐれた選択培地が実用化されているので,急性期における菌検出は比較的容易である.しかし,保菌者回復期軽症患者などでは,菌数が少なくなっており,菌検索は必ずしも容易ではない.糞便1gあたり103以下の菌数しかいない場合には,すべての病原菌に選択増菌培地が実用化されているわけではなく,病原菌検出はほとんど不可能に近いものが多い.

結核菌,真菌(痰)

著者: 徐慶一郎

ページ範囲:P.1288 - P.1292

まえがき
 喀痰の細菌学的検査といえば,まず第1に取り上げられるのは,結核菌に対する検査であるが,これに次いで,結核としばしばまちがわれるカンジダ,アスペルギルスなど,真菌の検査が問題になる.
 これらは主として肺の慢性感染症の際であるが,急性の肺感染症では,むしろ,一般細菌,なかでもブドウ球菌,レンサ球菌,肺炎球菌などのグラム陽性球菌をはじめ,肺炎杆菌,インフルエンザ菌,緑膿菌,その他のグラム陰性杆菌が問題となる.

薬剤感受性検査

著者: 橋本雅一

ページ範囲:P.1292 - P.1298

一般菌薬剤感受性検査法
 この試験は化学療法剤,特に抗生物質が発見されて治療に用いられることが明らかになってから,細菌感染症に使用する最も有効な薬剤を迅速に選択したり,また薬剤の治療法の正確な決定,およびその効果の判定のための信頼できる試験法として広く用いられるようになっている.
 抗菌性物質に対する細菌の感受性測定にあたっては,次のような点に特に注意しなければならない.

ウイルス検査の実際

著者: 徐慶一郎

ページ範囲:P.1298 - P.1300

ウイルス性疾患
 ウイルス検査の対象となるウイルス性疾患は,現在その大半は病原ウイルスが判明し,多くのものが,技術の難易はあれ実験室内で培養,証明が可能になってきた.
 これら病因となるウイルスは,その形態・構造・物理化学的性状・免疫学的特異性・宿主細胞域・その他の生物学的性状などにより分類される.これを表示すると,表1のようになる.

血液および髄液の細菌学的検査

著者: 高橋昭三

ページ範囲:P.1300 - P.1304

 一般に,正常時においては無菌とされる部位からの材料は,病原菌と思われる菌のすべてが検出されるような培養法によって検査が行なわれる必要がある.検出された菌種により,治療法がはじめて確立するからである.このような検体としては,血液,髄液が代表的なものである.
 常在菌叢のある部位から採取された検体の場合と違って,何らかの微生物が検出された揚合,迷入した雑菌と断定されないかぎり,病原菌とみなさねばならないので,検体の取り扱いには,無菌操作が特にきびしく要求される.具体的に,血液の細菌検査法をまず取り上げて考えることにする.

Ⅴ.血清学

輸血の検査

著者: 徳永栄一

ページ範囲:P.1305 - P.1308

緒言
 輸血を行なうときの手順の最初は,患者の血液型の決定である.はじめに,おもて検査とうら検査の両方によるABO式血液型の判定を行ない,次にRh式血液型の陰性,陽性の決定を行なう.輸血用血液は患者と同型のものを用いるのが原則であるから,そのように手配する.引きつづき患者の血液と輸血用血液(手引試験管)との反応を試験管内で行なう.これが交差適合試験であって,この試験には主試験と副試験がある.のちにもふれるように,保存血液については供血者の血液型抗体のスクリーニングを製造者側で行ない,副試験を省略しうるような動きが見え始めた.これと同じような意味で,病院側でも輸血の予定されている患者については,入院後できるだけ早く血液型決定とともに血清中の不規則性抗体の有無を調べ,もし抗体が検出されれば,早めに適合する血液を用意できるよう配慮することが望ましい。

梅毒血清反応

著者: 水岡慶二

ページ範囲:P.1308 - P.1311

はじめに
 梅毒者患は昔に比べれば,その数が非常に減少しており,日常の診療にあたって梅毒という疾病があまり重要視されなくなってきたのは事実であるが,一時全くといってよいほどその姿をみせなかった新鮮な早期顕症梅毒が,ときどきみられるようになったことは,いぜんとして梅毒という病気がこの地球上からなくならず,日本にも蔓延していることを物語っているといえる.したがって,現在でも梅毒血清検査を行なうことの必要性は少しも低下していない.
 実際に検査室に提出されてくる梅毒血清反応用の検体は,必ずしも梅毒性疾患の疑いがもたれたものであるとは限らず,入院時の一般的検査のために提出されたものや,手術前の検査,妊娠時の検査などの検体であることが多い.ただ,検査の立場からいえば,血清学的検査も梅毒以外のものが数多く実施されるようになってきたので,血清学的検査全体としてみた場合に,梅毒血清反応の占める割合が小さくなったということはいえる.

感染症の血清反応

著者: 安田純一

ページ範囲:P.1311 - P.1314

 Wasserman lab. とWidal lab.
 外国で細菌学・血清学検査の話をしていると,Wassermann lab.,Widal lab. ということばを聞くことがある.現在のような中検組織ができる以前には,この2つが血清検査室の主体であったので,今なおこういうことばが残っているのである.Wassermann lab. がどちらかといえば独立の検査機関,ないしはそれに近い形で発達してきたのに対し,Widal lab. は病院などの細菌検査室の一部という形をとってきた場合が少なくない.そのためか,感染症に対する血清学的検査のレパートリーは,われわれが日常知っているものより多種に及んでいる.
 1例として,ノルウェー国立衛生研究所の年報から,1966年度および1967年度の細菌部(Bakteriologiskavdeling)における血清検査の件数を表1に示しておく.このほかに,リン菌(2471件),Brucella abortus(90件),Ornithosis(1454件),Echinococcus症(4件),その他(3件)の補体結合反応(数字はいずれも1967年度の件数)が血清診断部のWassermann lab. で行なわれており,この研究所が衛生検査をおもな業務としているとしても,病原微生物を抗原とした血清反応の種目がかなり多いことを認めなければならない.

Ⅵ.病理学

細胞診

著者: 丸山雄造

ページ範囲:P.1315 - P.1319

はじめに
 癌を細胞単位で診断しようとする試みはかなり古くから行なわれてきたが,1943年パパニコロウは性周期の解析のためにくふうされた染色法を応用して腟内細胞から癌細胞を見いだし,また癌細胞のもつ形態的特徴を整理して今日の細胞診の基礎を作って以来,急速な進歩と普及をみるに至った.初めはその著書の題名にも取り上げられているように剥離細胞学であって,剥離脱落してきた細胞をとらえて検体とすることが多かったが,細胞診の臨床的評価が高まるにつれて,検索の対照もひろがり,積極的に細胞を採取して検索する機会も多くなった.
 一方染色手技もパパニコロウ染色のみでなく,検体の種類に応じてギムザ染色やPAS染色その他多くの手技が利用されるようになり,そのため判定に際しては検体の多様性,採取手技による細胞の条件,染色法などを考慮して細胞を観察しなければならないことがたいせつになってきた.

針生検

著者: 川井一男

ページ範囲:P.1319 - P.1323

はじめに
 人体の病変部から適切な組織片が採取されて,はじめて確実な病理組織学的診断(組織診)が可能になることはいうまでもない.組織を採取する部位が体表にあるか,体表から近い場合には,比較的小さい手術によって組織診材料を得ることができるが,体表から隔たった部位にある内臓器官から組織診の検体を採るには,かなり大きい手術によってはじめて目的が達しられ,手軽に行なえないことが少なくない.これに対して,比較的小さい処置で深部の組織を採取するために開発されたものが針生検(needle biopsy)である.
 深部の組織内へ穿刺針を挿入して検査材料を採ることは,かなり以前から行なわれてきた.太めの針さえ使えば,一般の穿刺材料からも小組織片が得られることもある.たとえば,血液疾患の診断のために行なう骨髄穿刺に際して,穿刺材料の病理組織学的検索を実施できる場合などである.しかし,針生検において,実質臓器からかなりの大きさの組織片を得て組織診を行なうようになったのは,Silvermanの二叉針による肝の針生検が普及して以後のことである.

一般生検

著者: 浜崎美景

ページ範囲:P.1323 - P.1327

一般生検の位置づけ
 生検(biopsy)とは,病理組織検査の目的で患者から小組織片を採取・検索することをいい,死体の剖検(autopsy)と対立する用語である.検査の目的でなく治療の目的で摘出した臓器組織の検索は‘手術材料’の章で別に扱われている.
 生検材料の採取法には,①生検用中空針による採取(needle biopsy),②生検用鉗子による採取(punch orbite biopsy),③メスによる切除(knife biopsy),④掻爬による採取(curettage)があり,ここでは①の針生検以外を一般生検と総称して取り扱うことにする.

手術材料の検査

著者: 三友善夫

ページ範囲:P.1327 - P.1337

はじめに
 最近,病理組織検査室で取り扱う手術材料も治療医学のめざましい進歩とともにその種類を増し,検索の対象となる疾患の発生原因,発生過程,本態などの病理形態学的追求も必ずしも容易でなく,特に諸種の治療によって修飾された病変の解明にはしばしば困難を経験することが多い.病理組織検査の中でも生検と細胞診が疾患の診断を目的とするのに対して,手術材料は生検や細胞診による診断に基づいて施された外科的治療の結果であることが多く,生検や細胞診とはその性格を異にし,手術材料は生検や細胞診ほどの迅速性を求められない替わりに,精細で確実な検索法が行なわれる.主として次の項目にわたって検討されている.
 1)病変の性状と種類

凍結迅速法

著者: 和田昭

ページ範囲:P.1338 - P.1342

 凍結切片法はもともと脂肪染色のようにアルコールや有機溶剤にとける物質を染めたり,神経組織の膠細胞あるいは髄鞘の染色に用いられているが,癌治療の発達に伴う術中組織診断の必要性が増したため,今ではこの方法による迅速標本の作製が,癌の外科的治療上はなはだ重要なものとなってきた.本来病理標本はきれいにでき上がり,それによって適確な診断が下せるということが要求されており,そのために時間をかけて丹念に作製することが最もたいせつなこととされてきている.しかるに術中組織診は短時間内に,しかもきれいな標本を作製するという相反した条件を満足させなければならないため,実際上なかなか困難な点が多いが,1つ1つの標本が患者の生命に重大な影響を与えることを常に考慮し,医師も衛生検査技師もともに日ごろからこの方法の理解と習熟に努め,少しでもよい標本を作るよう心がけることがたいせつと思われるので,以下,日常大阪府立成人病センターで行なっている方法を中心に思いついたことを書き進めてみたいと思う.

Ⅶ.生理検査

生理検査を行なう者の一般的な常識

著者: 樫田良精

ページ範囲:P.1343 - P.1344

 臨床検査のなかで生理検査はその他のものに比べてかなり違った性格をそなえている.それは検査の対象が人間のからだそのものであり,人体に直接検査機器を使って検査データを得るという点である.
 近年,工学技術の急速な進歩のおかげで医学の領域にも新しい機器が続々と導入され,活用されるようになったが,その1つの大きな領域は臨床生理学検査である.最近の工学技術のなかで特に進歩の著しいものの1つにエレクトロニクス(電子工学)がある.エレクトロニクスの医学への応用が種々の面で日に日に盛んに行なわれていることは読者もよくご存知と思うが,この医学と工学との新しい境界領域の研究・発展をになう学問として医用電子工学(Medical Electronics)が誕生した.心電計,脳波計などの発達はこの新しい学問とその技術に負うところが非常に大きい.わが国では医用電子工学を主軸に,その他の医学で用いられる新しい工学技術を加えてMEとかME機器ということばを常用している.MEはMedical ElectronicsあるいはMedical Engineering(医用工学)の略である.

心電図—撮影の基本とその意義

著者: 高橋辰広

ページ範囲:P.1344 - P.1351

はじめに
 心電図は心臓の活動によって生ずる電気的変動をグラフに描かせたもので,生理学的な心臓機能検査のうちの1つである.
 最近,電子工学の発達により,ごく微弱な心臓の活動電位を増幅する技術が進歩し,心電図撮影は容易となり全国に普及している.しかし,心電図撮影が容易となり普及化したが,そのために心電図撮影は惰性的となり,技術者は心電図撮影の意義を理解せずに単に機械的に撮影をくり返し,大きなミスをきたすことがあり,医師も技術者を十分に指導せずにそのミスを容認している点を見受けることが多い.

臨床検査としての心音図

著者: 坂本二哉

ページ範囲:P.1351 - P.1353

検査の目的と特殊性
 心音図記録の適応1)は,原則として医師の判断に基づいて決められる.その判断の最初にしてまた最後のものは聴診である.このことは,心音図の臨床検査としての第1の目的が,聴診法の客観化にあることを物語るものである.
 心臓・大血管の正確な聴診は,心臓病の専門医でもしばしば重大なミスをおかすほどむずかしい.検査技術者が心音図を記録する場合,原則として記録部位などの指定は医師から与えられるはずであるが,医師の指示を絶対視することばかりがよい方法とは必ずしもいえない.この点に,心音図検査が他の諸検査とたいへん異なる一面がある.つまり客観化を要求する側の主観そのものに,常に判定の誤りが内臓されている可能性があり,検査員(医師の場合もある)は,その誤りを指摘する必要に迫られることがしばしばである.したがって心音図検査に携わる技術者には,記録そのものがこれでよいかどうか,常に考えるタイプの人が適している.慢然と記録された心音図は,記録としてすぐれていることはまずない.

筋電図

著者: 中西孝雄

ページ範囲:P.1353 - P.1355

はじめに
 骨格筋は多数の筋線維から構成されており,それらの筋線維は,脊髄前角の運動神経によって支配されている.1本の運動神経線維によって支配される筋線維の数は,数本から数百本に及び,眼や顔の筋のように細かい運動をする筋は,1本の神経線維によって支配される筋線維の数が少なく,四肢の筋のように大きな運動をする筋は支配される筋線維の数が多い.この1本の運動神経線維とそれによって支配されている筋線維の束を,一般に運動単位(Motor unit)または神経筋単位(Neuromusclar unit,略してNMU)という.
 手足が動くのは,大脳の命令によって,興奮が脊髄前角にある運動神経細胞に達し,神経筋単位が興奮し,筋線維が収縮することによる(図1)が,筋線維が興奮すると,その部分は興奮していない部分に対して電気的に陰性となる.これを活動電位という.このような筋の興奮に伴って起こる活動電位を電気的に増幅記録したものが筋電図(Electromyogram,EMG)である.

脳波

著者: 柄澤昭秀

ページ範囲:P.1356 - P.1361

はじめに
 生きているヒトの脳に電気活動のあることがはじめて認められたのは,約40年前のことである.この脳の電気活動は脳波と呼ばれるようになり,最近のエレクトロニクスの発展とあいまって,今,脳波学は急速な進歩を示しつつある.現在わが国では臨床脳波検査は,どこでも容易に実施できる日常の脳機能検査として広く普及されたものとなっている.
 脳波を観察するために,頭部に電極を置いてこれを脳波計に導いて記録する.通常の臨床脳波検査では,電極は頭皮上に置かれる.すなわち頭皮誘導脳波(scalpEEG)で,脳の電気活動を頭皮を介して間接的に観察していることになる.一方,電極を脳の皮質表面あるいは深部において記録された皮質誘導脳波(corticalEEG)や深部脳波(depth EEG)では,より直接的に脳の電気活動を観察しうることになるが,技術的にははるかに複雑で,臨床検査の目的で利用されるのは,まだ特殊の場合に限られている.

呼吸機能・基礎代謝

著者: 鵜沢毅

ページ範囲:P.1361 - P.1365

 肺の機能とは生体内へ酸素を取り入れ生体外へ炭酸ガスを排泄することにある.大別すると肺胞内へ新鮮な大気を周期的に送り込む換気と,肺胞内ガスと肺毛細血管内血液との間で酸素と炭酸ガスの交換をする肺胞ガス交換とに分けられる.これらの機能を調べる目的でいろいろな検査項目があるが,日常検査というときには実施する側からは平易な検査であり,被検者の側からは全員がひととおりは受ける検査ということになろう.とはいっても検査室の施設により,そこで取り扱われる疾患の種別頻度により若干差は出てこよう.ここでは市中病院の肺機能検査室のレベルで行なわれている検査にしぼって話をすすめる.

Ⅷ.一般検査

尿検査簡易法とその注意

著者: 林康之

ページ範囲:P.1366 - P.1370

尿比重測定法
1.屈折計法
 尿比重測定に比重計を用いると相当量の尿が必要となり,尿を移し替えることによる検体相互汚染の危険もあるので,屈折計を利用するようになった.尿屈折率と尿比重とは図1のごとくほぼ比例するので,屈折率測定で十分代用できる.尿屈折率の測定は,尿も1滴ですみ屈折計の取り扱いもやさしく,屈折率目盛りと同時に尿比重目盛りの示してある屈折計も市販されている.また検体相互の汚染も考えなくてすみ,所要時間もわずかですむなど利点が多い.しかし混濁尿では目盛りの読みとりがむずかしく,プリズム部分の温度変化によって屈折率が変わり,比重が誤まって測定されるなどの欠点もある.

糞便検査法

著者: 松本克彦

ページ範囲:P.1370 - P.1377

 糞便はその形状,含有物を調べることによって,腸管の消化,吸収,運動などの生理的状態とともに寄生原虫,蠕虫類の感染症,潰瘍性の疾患などの診断,治療上に重要な役割を果たすものである.糞便検査にあたっては,その材料に病原菌などが含有される危険性が非常に多いから,手指の消毒はもちろん,検査物の処理などに十分気をつけなければいけない.

著者: 高橋昭三

ページ範囲:P.1377 - P.1379

痰の成分と肉眼的所見
 気管,気管支の粘液腺で分泌される透明な粘液は管壁内面をおおい,そこにはいってきた異物をとらえ,線毛上皮の線毛の運動により,気管から喉頭,咽頭を通って捨てられる.これが痰である.中に細胞成分として喰細胞(主として大喰細胞)が含まれるが,生きているときは透明である.これにいろいろの細胞などが混じり,種々の外観を示すようになる.
 赤血球または血液が少量混じれば,淡黄色,ピンクから赤色となり,一様に混じっている場合は気管支に出る前の出血であり,気管支内で混じれば線状になって現われる.出血した部位に長くおかれた場合は,チョコレート色になることもある.膿,すなわち死んだ白血球が混じった場合は,赤血球の場合の赤が黄色ないしクリーム色となり,線状または塊状になって痰の中に混じってみられる.膿が圧倒的に多い場合は,全体が粘性のクリーム状となる.

胃液・十二指腸液検査

著者: 坂野重子

ページ範囲:P.1379 - P.1387

はじめに
 十二指腸液検査は,診断に治療に重要な検査とされているが,胃液検査のほうは,より信頼度の高いレントゲン検査,内視鏡検査の診断技術の発達に伴い,最近ではとかく軽視される傾向にある.
 確かに胃液検査は,形態学的な方法に比較して診断価値が低いばかりでなく,検査に費やす労力が多いし,定量性を追求する検査としても方法論的にかなり問題がある.しかし問題はあるにしても,胃機能面の追求には欠かせない検査法であるし,最近の内視鏡,胃生検の発展は,むしろ,胃液検査によって胃腺機能が推測できることを裏づける方向にある1-7).したがって胃液検査は,内容的にはこれからの検査法として一躍の発展が期待されるわけである.

髄液

著者: 別府宏圀

ページ範囲:P.1387 - P.1390

髄液の生理とはたらき
 髄液は主として脳室において脈絡叢および脳実質が産生すると考えられ,その体積は成人でほぼ90-150mlである.産生された髄液の多くは脳室からLuschka孔およびMagendie孔,クモ膜下腔を経てクモ膜絨毛で吸収されるのであるが,この間,髄液中の諸成分は,あらゆるレベルでいわゆる血液・髄液関門をへだてて,血液と髄液の間に動的平衡状態を保っており,正確な産生速度が決定しにくいのもこの点にある.
 参考までにヒトおよびその他の動物での測定値を表1に示す.関門は具体的には毛細管上皮,軟膜,星状グリア,脳室上衣,脈絡膜,クモ膜などからなり,分子のサイズ,脂溶性の違い,濃度差などによりそれぞれの物質の通過を規定している.さらにまた頭蓋内静脈圧も髄液の吸収を決定する大きな要素となっている.

穿刺液

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.1390 - P.1391

 胸腔,腹腔あるいは心嚢腔などの漿液腔は正常の場合にはごく少量の液体があるだけであるが,病的な状態になると多量の液体が貯留し,それぞれ,胸水(pleuraleffusion),腹水(ascites),心嚢液(pericardial effusion)と呼ばれる.内科的に見られる穿刺液はこれらがほとんどであるが,このほかに嚢腫(卵巣,腎,膵,肝など)の穿刺液がある.
 穿刺液は色調,混濁の有無,絮状物,凝固物,沈殿の有無などから,漿液性,膿性,血性,腐敗性,乳糜性に分けられる.これらの色調,細胞成分および出現する疾患は表1に示すとおりである.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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