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雑誌目次

論文

臨床検査15巻2号

1971年02月発行

雑誌目次

特集 臨床生理検査と採血 カラーグラフ

静脈血の採血の部位

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.110 - P.111

1971年1月1日から施行された「臨床検査技師,衛生検査技師等に関する法律」により,臨床検査技師は,診療の補助として採血(医師の具体的な指示を受けて行なうものに限る)を行なうことができるようになった.
検査のため静脈血を採血するのに,最も容易に,しかも安全にできる部位は,肘正中皮静脈(図3)である.これがどうしてもよく出ないときには,やむをえず橈骨茎状突起の背側を走っている橈側皮静脈(図1),または手背静脈網(図2)から採ることがある.

グラフ

採血のしかた

著者: 佐藤和身 ,   河合忠

ページ範囲:P.113 - P.116

 正しい臨床検査成績を得るには,検査手技か正しく行なわれなければならないことはもちろんであるが,検体の採取および取り扱いが正しくなければならない.そこで,本欄では血液の正しい採取法についてまとめてみた(カットは採血室).

臨床生理検査と採血—技師の質問に答えて

著者: 樫田良精

ページ範囲:P.129 - P.131

 技師 今年から,臨床検査技師制度が行なわれるようになり,採血や諸種の臨床生理検査に対する法的な裏づけができたわけですが,これからわれわれ技師は患者と直接に接する機会が多くなると思います.そこで今日は,いろいろとご注意をいただきたいと思います.
 樫田 生理検査と採血の技術的問題については別に担当の先生が執筆なされているので,ここでは一般的な注意をお話ししましょう.

I.生理検査

MEを理解するための基礎電子工学

著者: 咲川主税

ページ範囲:P.132 - P.139

はじめに
 1904年,フレミングの2極管の発明に始まる電子工学は,主として電気通信の分野で漸次発展をとげてきたが,ことに1948年,アメリカのベル電話研究所においてトランジスタがそのうぶ声をあげて以来,その進歩はめざましいものがある.最近‘1年ひと昔’といったことばをしばしば耳にするが,テレビジョン,電子計算機,自動制御といった分野での電子工学の発展をみるとき,このことばは電子工学のことを指しているのではないかとさえ思われるほどである.
 ところで,医学の領域に電子工学を取り入れようという試みは決して最近のものではなく,1930年代より電気聴診器を用いて心音の聴取を行なう試みがなされていたし,医学研究者が各種実験の手段として電子装置を利用してはいたが,これが臨床検査のための実用装置として一般に使用されるようになったのは,第2次世界大戦以後といっても過言ではない.

心電図

著者: 原岡昭一

ページ範囲:P.139 - P.142

はじめに
 心電図の目的は人体表面の電位変化を記録し,心臓の収縮周期に伴う発電現象の変化を推測するものである.すなわち心電図により心筋の興奮性,律動性,伝導性を知るわけである.心疾患の診断には,問診,理学的所見,胸部X線などが必要であるが,心電図検査は心疾患の診断には欠くことのできないものである.特に次のような場合は重要な情報源となる.①不整脈,②冠動脈,心筋疾患(心筋硬塞,狭心症,心筋炎など),③心臓の肥大または負荷,④その他の疾患(肺疾患,代謝,電解質異常の表現として),⑤薬物の影響(ジギタリス,キニジンなど).
 また心電図は診断のみならず,治療による変化,予後判定,さらに集団検診などにも広く用いられている.

ベクトル心電図

著者: 森博愛

ページ範囲:P.142 - P.144

ベクトル心電図と心電図の違い
 心電図(ECG)もベクトル心電図(VCG)もともに心臓の電気現象の記録であるから,両者は本質的に同じものを記録していると考えられるが,その臨床上の有用性は同一ではない.心電図法とベクトル心電図法の違いは次の2点である.
(1)誘導法(Lead)

心音図

著者: 楠川禮造

ページ範囲:P.144 - P.146

はじめに
 限られた紙面では心音図全般にわたって説明が無理であるので,ここでは心音および心雑音について簡単に説明し,心音図の臨床的意義を考えてみた.

脈波・血圧測定

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.146 - P.148

容積脈波
 四肢末梢では脈拍に一致する容積変動と,動脈拍動による動脈側圧変動として脈波を記録することができる.今日,臨床で広く脈波として利用されているのは容積脈波に属するものなので,以下に容積脈波について解説する.容積脈波の記録には,媒体として水や,空気を用いる定容積容積脈波計と,医用電気を応用した光電容積脈波計が用いられ,臨床領域では後者が一般に用いられている.

脳波

著者: 吉井信夫

ページ範囲:P.148 - P.152

はじめに
 脳波計が実用性をもち広く普及するようになつたのは,わずか10年を越えるぐらいであろうか.この間交通事故の増加ということもあって,今日では脳波検査は広く行なわれるようになり,脳波についての一般の関心も高まった.しかし脳波そのものに対する知識はほとんどないといっても過言ではない.
 このようなことから,ここでは脳波の歴史をふり返るとともに,脳波の発生起源について述べ,次に脳波検査とそれを必要とする疾患について簡単に述べる.

筋電図

著者: 初山泰弘

ページ範囲:P.152 - P.154

活動電位
 手足の運動時に働く筋は骨格筋と呼ばれる.この骨格筋は,筋線維と呼ばれる40μないし80μ(μ:ミクロン,1μ=1/100mm)程度の,円柱形または紡錘形の細長い線維が束ねられて作られている.個々の筋線維は,表面を形質膜または筋鞘と呼ばれる薄い膜によっておおわれている.
 筋の安静時には,体液中の電解質イオンは,形質膜の特殊な透過性によって図1のように膜の内外では異なったイオン濃度を保っている.この結果,形質膜の内側は外側に比べて−80mVないし−90mVという電気的に負の電位を示すことになる.このような安静時の膜電位を静止電位という.形質膜になんらかの形で刺激が加えられると,この静止電位は減少(脱分極)する傾向を示し,この脱分極現象がさらに進み電位差がある点まで減少すると(−56mVないし−58mV),形質膜の透過性は急変し,短時間のうちに多量のNaイオンが形質膜を通り内部にはいり込む.この現象を膜の興奮または発火という.膜の興奮によってNaイオンの移動が起こった結果,膜内の電位は,膜外の電位に対して1時的に正となり,いわゆる極性の逆転が起こる.ただしこれは短時間の間で,Kイオンが膜内に帰り再び元の電位差に戻る.

超音波診断

著者: 平川公義

ページ範囲:P.154 - P.155

音波の反射を利用
 超音波検査法は身体各部の疾患に応用されている.その取り扱いが簡単で,だれにでもできる,結果が即座にわかる,患者に苦痛を与えない,という利点があるために,脳神経外科でも,もっぱらスクリーニングテストとして繁用されている.
 超音波は指向性が強く,その進む方向に媒体と密度の異なるものがあると,境界面で音波は反射し,反射分だけ減衰しながら,残りはさらに進む.超音波検査には,音波の減衰度から診断しようという透過法と,反射した位置を知ることにより病変を判断しようという反射法とがある.現在,一般に用いられているのは後者で,ブラウン管上に,横軸に反射波が帰ってくるまでの時間を,縦軸に反射の強さを画き出すのである.

基礎代謝測定

著者: 安田三弥

ページ範囲:P.155 - P.158

代謝とは
 体の中ではさまざまな化学変化が起こって,運動,成長,増殖,その他種々の生活作用を支えている.このような化学変化を総称して代謝(Metabolism)という.
 代謝は異化作用(Catabolism)と同化作用(Anabolism)の2種類に分けられる.異化作用は複雑な物質がより簡単な物質に分解され,この間に生命現象のために必要なエネルギーが放出される過程,同化作用は簡単な物質から複雑な物質が合成される過程で,この間にはエネルギーは吸収される.

呼吸機能検査

著者: 本間威 ,   高橋秀一 ,   宮茂 ,   川上義和

ページ範囲:P.158 - P.160

はじめに
 呼吸機能検査が臨床面に取り入れられてからまだ日は浅いが,その進歩にはめざましいものがある.呼吸機能検査が心・肺疾患の病態の解明や,予後,治療の判定に重要な役割を果たしていることは明らかであるが,他の検査ほどには一般に広く行なわれていない.その原因として,一般臨床医にとっては難解なものとして受け取られがちであること,訓練された医師や技術者が少ないことなどがあげられる.しかし内科はもとより外科,麻酔科においても,その必要性はますます大きいといわねばならない.

II.採血

採血に必要な解剖学の基礎知識

著者: 河合忠

ページ範囲:P.161 - P.163

 採血,すなわち血液を体外に採り出すことはいろいろな目的で行なわれる.しかし,臨床検査のために必要な血液試料には,表のように毛細血管血,静脈血および動脈血の3種類がある.同じヒトの血液ではあるが,それぞれ血液成分の組成が多少異なるため目的に応じて使い分けられる.ただし,動脈血は動脈を穿刺しなければならないので通常医師が行なう.したがって臨床検査技師にとっては毛細血管血と静脈血の採取がおもな業務となるので,以下それらに必要な解剖学の基礎知識についてまとめてみよう.

採血のしかた

著者: 河合忠

ページ範囲:P.164 - P.166

皮膚の消毒
 いずれの場合でも,採血するためには皮膚を穿刺しなければならないので,局所の皮膚を十分に消毒し,穿刺に使う器具は完全に滅菌したものを使用することが必要である.さもないと,2次感染を起こしたり,また汚染器具によって梅毒,ウイルス性肝炎などが続発する危険があろう.
 皮膚の消毒には,通常70%アルコールを用いてよくふき,完全に乾いてから皮膚穿刺をする.また,さらに十分な消毒をするには,まず稀ヨードチンキで局所をふき,乾いたあとさらに70%アルコールでよく清拭する.

特殊な採血方法

著者: 河合忠

ページ範囲:P.166 - P.167

 動脈血の採血,静脈切開による採血,深静脈からの採血,心臓カテーテルによる採血などは医師が行なうのでここには説明しない.また,出血傾向をもっている患者,心臓不全の患者,精神病患者などは,受持医あるいはその患者の様子をよく知っている医師の立ち合いのもとで採血することが望ましい.

静脈採血の場合の副作用とその対策

著者: 河合忠

ページ範囲:P.167 - P.168

 静脈から採血することはそれ自体決して危険な行為ではないが,それでも不用意に行なえば次に述べるような副作用が起こりうることに十分注意しなければならない.

血清の分離

著者: 西風脩 ,   市田篤郎

ページ範囲:P.168 - P.170

 検査室において血清を分離採取する目的は,いうまでもなく血清成分の変化を検索するためである.血清は体細胞に環境を与えるものであり,体内では何段にもなった調節機構によって,病気の際にもそれなりの調節により一定の値を保っている.しかしいったん体外にとり出されると,身体の調節機構は力が及ばず,まだ生活を営んでいる赤白血球の代謝による物質の出入り,血小板の破壊を含めた血液凝固機転による変化,あるいは血清成分自体の変質などが次々に起こって,疾患などによる‘環境成分’の変化との区別が困難となり,病的変化を追及することができなくなる.血球という細胞成分と,細胞外にある血清とでは元来構成分に大きな差異のあるものである.血清を分離する目的は,このような細胞の周囲にある環境の変化をとらえようとする点にあることを,まず念頭におくべきである.
 注射器を用いて採血された血液検体は,注射器の針をはずし,化学的に清浄で乾燥したスピッツグラス(ウィダール試験管でもよい.遠心機の外套管に無理なく納められ,分離した血清の採取が容易であることが必要である)の管壁に沿って静かに注入する.この際針をつけたまま注入したり,泡を立てたり,あるいは勢いよく注入することは,溶血などの好ましくない影響の原因となる1,2).スピッツグラスなどの器具に洗剤が洗い落とされずに付着していたり,水滴が残っているような場合も同様である.

血清の保存

著者: 西風脩 ,   市田篤郎

ページ範囲:P.170 - P.173

 検査成績の迅速な報告と,血清成分の変化を避けるために,分離した血清はただちに測定に用いるべきであるが,再検査が必要となる場合,精度管理のために同一検査をくり返し用いる必要のある場合,特殊な検査で毎日実施していないもの,あるいは他の施設に分析を依頼するような場合には,血清を保存する必要が起こってくる.
 これらの場合,特殊な例外を除いては,血清または血漿を分離したのちに保存するのが普通であり,そのまま凍結すればグリセロールなどで特殊な処理でもしないかぎり血球は破壊されるから,血球成分を含めて検査するのでなければ,分離せずに凍結保存することはありえない.4℃程度でも血球成分の溶出(カリウムなどはむしろ低温のほうが溶出量は大となる)と血清成分の変化が起こるから,血清は必ずすみやかに分離したのちに,別の清浄な試験管に移し,密栓して保存する(パラフィルムで口を気密におおうのが便利である.ただし凍結の限にはパラフィルムは器壁よりはがれやすく,取り扱いに注意が必要である.またパラフィルムは有機溶剤に溶けることに注意する).冷蔵庫内ではもちろん,凍結させていても水分の蒸発と,それによるサンプルの濃縮が起こるし,満員の冷蔵庫内でサンプルをひっくり返したり,他のものによる汚染を起こしたりすることがあるので,注意して気密に栓を施すべきであり,綿栓などのまま長期保存すべきではない.

抗凝固剤の用い方

著者: 西風脩 ,   市田篤郎

ページ範囲:P.173 - P.175

 採取した血液を放置すれば,先に述べたように凝固して血清と血餅に分かれる.この過程で血液凝固因子は活性化され,消費される.したがってプロトロンビンやフィブリノーゲンなどの凝固因子を測定する場合には,凝固を阻止することが絶対的に必要である.血清を分離するには10-20分は静置を必要とし,もし低温に保存すればこの時間が延長するため,その間に血液CO2,NH3,pHおよびO2などは変化してしまう。また毛細管による微量採血では血餅を管壁より剥離しにくい.血液中の有形成分を取り扱う血液学的検査の場合も,血餅になったのでは取り扱いに困る.
 つまり,血清を分離して用いるか,あるいは全血をただちに高度に稀釈,または除タンパクする場合以外は,なんらかの方法で凝固を阻止しなければ,検体として扱うことが困難になる.

グラフ

組織と病変の見方 肉眼像と組織像の対比—呼吸器とその病変(2)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.117 - P.120

肺の病変で最も重要なものは肺癌と肺結核である。肺結核は以前ほど注目されなくなり少なくなったが,それでもまだ恐るべき病気である.中でも空洞を形成した結核は治りにくい.空洞の中に結核菌が多量に生きているからである.粟粒結核は患者の体に免疫力がない,また少ないときに起こるもので,小児結核の1つの形であるが,この例のようにおとなでも免疫力が少なくなると発生する.
肺癌は近年クローズアップされたもので,日本でもずいぶん多くなった.組織学的に多彩なのが肺癌の特徴で,扁平上皮癌,腺癌,未分化癌の形を示し,ときに1枚の標本で,2つ以上の形をもっているものもある.したがって喀痰による細胞診も多彩である.ここでは組織像と細胞診を対比させた.未分化癌は一名燕麦癌(oat cell carcinoma)ともいう.細胞が麦の実に似ているからである.小型なので,細胞診のときリンパ球とまちがう可能性がある.

血球観察の基礎・2

杆核球と多核球との鑑別

著者: 衣笠恵士

ページ範囲:P.122 - P.123

 昨年,東京都下の検査技士による血球観察の研究会が何度か行なわれましたが,その最終回に出された質問が杆核球の問題でした.日常の血球検査で常に接しているはずの杆核球についても,定義上いろいろと見解の相違があり,なかなかむずかしい問題を含んでいます.10年ほど前,小宮悦造先生の指導のもとに正常健康人の血液像が大規模に調べられ,そのときに,同一塗抹標本を回覧して各人のデータを比較したことがありますが,血液学を専攻している人たちの間でも杆核球に対する解釈は非常にまちまちで,測定値は3—20%ぐらいの開きが認められました.今回は杆核球の問題を取り上げてみます.

ノモグラム・14

Threwsのノモグラム—血液ガス測定

著者: 鈴木清

ページ範囲:P.125 - P.125

 A,Bの2つに分かれ,AはpHとPco2よりSo2を求め,Bは酸塩基平衡因子を決定するために利用される.①So2はAのpHとPo2を結び,So2の交点より求める.②base excess,actual HCO3-およびtotal CO2はBの左端のPco2とpHを結び,actual HCO3-とtotal CO2の交点を求める.またHb(g%)がわかれば,その交点よりbase excessの線と平行な線を引き,その交点がbaceexcessの値である.③完全にO2で飽和した血液中のbase excess,buffer base,standard HCO3-はSo2 for 15g% HbとPco2の交点とpHを結び,base excessでのHb(g%)の交点を得る.この点よりbase excessの線に平行線を引くとbase excessを求めることができる.buffer baseも同様に平行線を引くとその交点が求める値である.この交点(buffer base)値とPco2=40mmHgの点を結ぶとstandard pHとstandard HCO3-がわかる.Hb量は13-17の問であれば誤差が少なく,15として数値を求めてよい.

検査室の便利表・14

単位の一覧表

著者: 吉野二男

ページ範囲:P.127 - P.127

 臨床化学の分野で,単位の使用が混乱していて,放置しておくとますます複雑なものになり,国際的な研究発表,あるいは,自然科学の他分野との相互関係などにも困惑を生ずるので,整理したものQuantities and Units in Clinical ChemistryがIUPACのClinical Chemistry部門からRecommendationとして公表されている.
 これらは日本も含めて国際的な会議のもとに考えられたので,積極的に使用していくのが望ましいと思われるので,そのうち私たちに最も関係ありそうなものを表記することにした.

臨床検査の問題点・25

患者心理と臨床検査

著者: 石川中 ,   西川富美子 ,   村井慶子

ページ範囲:P.176 - P.181

 臨床生理学的検査は,検体検査と違って患者のからだを直接検査するため,特別な心構え・技術が必要となる.脳波や心電図をとられるとき,患者はどんな心理状態になるのか,また技師や医師の言動がどう患者に影響するのか—患者検査の心構えを検討する(カットは心電図の検査風景).

学会印象記 第21回電気泳動学会

タイムリーなシンポジウム—血清リポタンパクの電気泳動分析

著者: 山崎晴一朗 ,   有馬正

ページ範囲:P.182 - P.183

αf-globulinの研究成果
 第21回電気泳動学会総会は,去る11月6,7日の両月,宇部市宇部窒素保健会館において,山口大学医学部生化学教室の,中村正次郎教授会長のもとに開催された.特別講演およびシンポジウム各1題,一般演題の発表は,追加演題を含めて40題で,一般臨床学会に比較すれば,その演題数は少なかったが,各演題に十分な時間がわりあてられており,参加人員も350名におよび終始なごやかな雰囲気のもとに,発表あるいはフロアーからの討論も行なわれ,比較的充実した学会であったといえよう.
 私自身この学会には初めての出席であり,今回の一般演題の特徴については記すことはできないが,特に印象に残ったことは,方法的に免疫拡散法およびディクス泳動を応用した研究発表が多かったことである,その中で特に興味をひいたのはαf-globulinについての研究発表である.周知のようにαf-globulinは,成人血清には存在しない.胎児特有のタンパクでTatarinovの報告以来,原発性肝癌患者の血清中に特異的に,しかも高率に検出されることがわかり,現在肝癌の有力な診断法となりつつあるが,その診断法としての価値およびこのタンパクの精製と性質に関する研究報告が行なわれた.またディスク泳動により,胎児および肝癌組織抽出液を分離し,αf-globulin以外の胎児特異性タンパクについても検索しようという試みもみられた.今後の問題としては,αf-globulinを結晶化しこれを利用して,いかに感度および特異性の高いものにするかがあげられるが,臨床検査としてルーチン化される日も遠くはないかと思われる.

エッペンドルフ・マイクロリッターシステムによる超微量臨床化学検査・2

血清銅の測定

著者: 岡村研太郎 ,   砂野博 ,   小延鑑一

ページ範囲:P.184 - P.186

はじめに
 前報1)で述べた鉄と同様に,血清中の微量成分である銅の比色定量をSchweizerhall銅キット,和光Cu—Testの2種の市販キットを用い本システムで行なった.鉄の測定法を参考とし,Marburgピペットは200μlを多用し,100μlはSchweizerhall法の還元剤および呈色液の採取のみに用いた.すなわち試料血清を200μlとし,除タンパク上清400μlを採り最終発色液量を600μlとし,発色した液は500μlピペットでミクロフローキュベット中に加えた.本システムによるCu 100μg%標準液の480nmでの吸光度は0.08付近,測定時間は約20分となり,和光キットを半量用いている日常測定方法に比べると吸光度は約2倍になり,また測定時間は約1/3に短縮しえた.

私のくふう

クリオスタットによる固定材料薄切法

著者: 岩本宏文

ページ範囲:P.186 - P.186

 新鮮材料のクリオスタット薄切法は容易であるが,ホルマリン固定材料のクリオスタット薄切はむずかしい.特にブロックと材料との接着がうまくいかないことが多いので,金属ブロックと材料の間にコルク板をはさんでくふうしてみた.
 小組織片の場合にはカーボワックス包埋法をしばしば用いるが,組織片がもろいために破損したり,紛失したりすることがあるが,本方法によればそのおそれはない.

研究

小児の臨床検査—子どもの願いを子どもに替わって

著者: 山下文雄 ,   小池茂之

ページ範囲:P.187 - P.190

子どものための臨床検査
 小児臨床病理—最近の進歩(1968)1)の序文で,ケンタッキー大学の小児科主任教授Dr.Wheelerが,For theBenefit of Childrenと題してこう書いている.
 5年前のことである.私がケンタッキー大学へ来るように交渉を受けたときには,中検で微量測定法が確立されていて,小児用の特殊サービスも可能と確約された.ところが3か月後赴任してみると,それは消えうせていた.そのころの他の総合病院となんら替わらなかった大学病院で,総合病院で小児用の特殊方法を用意することが実情にあわないことを実証したことになろう.すべてがおとなに合わせて作られ,自動分析器ももっぱら経済的必要性からセットされた検査所では当然かもしれない.

新しいキットの紹介

血清遊離脂肪酸比色定量法に関する検討—NEFA-Test Wakoについて

著者: 久城英人 ,   高野圭以 ,   福井巖

ページ範囲:P.191 - P.193

 近年,生体内における遊離脂肪酸(以下FFAと略)の生理的意義が解明されるに伴い,臨床面でも病態時の血中FFAレベルが追求され,代謝異常(糖尿病,肥満),神経・内分泌系の失調(甲状腺機能亢進,褐色細胞腫,末端肥大症),肝障害時に血中FFA値が異常を示すことが知られ,その診断的意義が強調せられている.
 血中FFAの定量法は滴定法1,2)と比色法3-9)に大別される.

クンケルおよびチモール試験の標準液の検討

著者: 小笠原正樹 ,   舟木正明 ,   阪東慶一 ,   川井一男

ページ範囲:P.194 - P.196

はじめに
 1961年に日本消化器病学会肝機能研究班が設立され,種々の肝機能検査の標準化が検討され,一定の基準で測定成績が判断できるようルーチン検査における測定法に1つの標準法を作り発表された.以来多くの検査室において,この研究班試案に関して種々検討されその成績が報告されている.
 今回われわれもクンケル・チモール試験に用いる各社の標準液について種々検討する機会を得て,反応諸条件におけるそれぞれの動態に批判を加えたところ,各社間の標準液に大きな差異が認められた.

シリーズ・日常検査における機械化のくふう・2

試験管用定速振盪スターラの組み立て

著者: 水野映二 ,   仁科甫啓 ,   小野弘毅 ,   北村元仕

ページ範囲:P.198 - P.199

 検査の種類により溶液の混合に特定条件を要求する場合がある.たとえば,A/G比測定時の塩析試薬の混合は‘静かに泡立つことなく,しかも十分に’行なう必要があるし,血清鉄の除タンパクは凝集塊が完全にホモジナイズされるように,強力かつ十分な混合が必要である.A/G比の塩析操作を試験管用振盪スターラで行なうと,アルブミンが変性を起こしてグロブリンと同様に塩析されてしまい誤った低い値が得られる(図1).
 ふつうの試験管用振盪スターラに可変変圧器を結んで減速することもできるが,モーターの回転力が弱まってしまい,試験管をのせると回転がさらに遅くなり,十分な混合ができなくなる.

質疑応答

ハイドロサルファイトナトリウム剤の使用

著者: I生 ,   永井諄爾

ページ範囲:P.200 - P.200

 問 薬剤療法にて使われる薬剤が臨床検査成績に及ぼす影響は多いとされています.そこでインドサイアニングリーン(ICG)試験の際,血清中のICGを消失させるために,還元剤であるハイドロサルファイトナトリウムを用いたいのですが,下記の3点についてお教えください.
1)この還元剤に影響ある薬剤があるかどうか(特に心・肝疾患に用いる薬剤中で).

Senior Course 生化学

血清リポタンパク(Lipoprotein)

著者: 石戸谷豊

ページ範囲:P.201 - P.201

1.分画による諸像
 血清リポタンパク測定は超遠心法によると密度1.006-1.063(Sf 0-20)low density lipoprotein(LDL),<1.006(Sf 20-400) very low density lipoprotein(VLDL),<1.0(Sf 400以上)Chylomicron,1.063-1.200high density lipoprotein(HDL)に分画される.また,血清について濾紙電気泳動を行ない,Sudan black BまたはOil redで染色するとα,β位およびβ位の近くにα-リポタンパク,β-リポタンパクおよびpreβ-リポタンパクが染色される.これらはそれぞれHDL,LDL(Sf12中心)およびVLDLにほぼ相当し,Chylomicronはおおむね原点に留まる.
 α(HDL)はかなり多くのPLに富み,β(LDL)は主としてCHが占め,血中の大部分のCHはこの分画に含まれている.また,preβ(VLDL)は比較的TGが多く,しかもこのTGは肝で糖質,遊離脂酸などから合成される内因性中性脂肪であり,近年特にその臨床的意義が注目されてきたものである.またChylomicronは食事に由来した外因性中性脂肪が圧倒的に多く含有されている.

血液

血液凝固スクリーニング・テスト

著者: 鈴木弘文

ページ範囲:P.202 - P.202

 出血性素因の原因は血管壁の異常,血小板(数,機能)の異常,凝固因子の異常(線溶系の異常も含む)に大別される.したがって出血性素因の検査に際しては,まずスクリーニング・テストにより,これらのうちどの部分の異常によるものか鑑別する必要がある.また術前検査などの場合でも,これらのいずれの部分にも異常がないことを確かめておくことが必要である.
 スクリーニング・テストとしては比較的簡単に実施でき,しかも信頼度の高い検査法が選ばれるが,①血管および血小板の検査,②凝固因子および線溶検査の2群に分類される.しかし,止血機溝そのものが血管壁,血小板,凝固因子が協同して成立していることから判然と分類されるわけではない.

血清

抗白血球抗体(1)

著者: 村上省三

ページ範囲:P.203 - P.203

 血球抗体といえば,昔は抗赤血球抗体だけが検査対象であったといっても過言ではないくらいで,白血球や血小板に対する抗体が存在することは認められていましたが,臨床検査室でそこまで検査することは,よほど特殊な環境にあるところでなくては行なわれておりませんでしたし,ことにそれを‘特異性の問題’にまで掘り下げて検査することは,皆無であったといってもよいと思います.

細菌

細菌の運動性の検査

著者: 永井龍夫

ページ範囲:P.204 - P.204

 杆菌(ビブリオを含む)の中には鞭毛を有し運動性を示すものがある.運動性の検査には顕微鏡で直接観察する方法と,半流動カンテン高層培地の培養性状から運動の有無を判定する方法があり,また鞭毛染色により鞭毛の存在を確認するのもかんじんなことである.

病理

症候と病理組織検査(2)—浮腫—概説

著者: 三友善夫

ページ範囲:P.205 - P.205

 浮腫(むくみ)をもって最初に気づかれる疾患は決して少なくない.浮腫は臨床的には皮下浮腫を指すことが多いが,病理学的には各臓器,組織の過剰な液体の貯留状態をいい,細胞外,血管外の組織間隙,漿膜腔(肋膜腔,腹腔,心嚢など)に液体が多量に存在する.この浮腫状態を組織像として把握するのは必ずしも容易ではない.通常は肺胞腔,粗な結合組織の間隔,脳の血管周囲の粗な組織に淡桃色(H・E染色)に観察される.最近,体液,腎,心,肝,内分泌臓器などの病態生理学が発達して,浮腫発生のメカニズムもしだいに明らかにされているが,まだ不明な本態性浮腫と呼ばれる病態もある.浮腫は浮腫発生の初発部位,程度,存在分布部位一顔面,上下肢,全身性,尿の回数,量,性状などから調べ,血漿タンパク濃度と検尿タンパクの有無,腎機能検査(濃縮,稀釈試験,PSP試験,腎クリアランスなど),心,肝,内分泌臓器の機能検査によって原因疾患が追究され,確認される.
 すべての組織は体液の移動によってその機能が維持され,体液は血液の循環,電解質とタンパク質の含有組成,血管内外の平衡によって正常状態が保たれている.その移動は毛細血管内皮細胞と組織との間で行なわれ,細胞膜の透過性が重要な役割を果たしている.すなわち,血漿と組織間液の間の交流には毛細血管内圧と血漿の膠浸圧の拮抗作用(Starlingの法則)の存在が明らかにされ,水と食塩の貯留から細胞外液と血漿循環量の不均衡を招き,腎性から心性浮腫を生ずる.

生理1

脳波記録と電極

著者: 本間伊佐子

ページ範囲:P.206 - P.206

 脳波計が改良され,簡単に操作できるようになっても,脳波を記録するためには生体電位を外に誘導し脳波計に入れなければならない.そのために生体と脳波計を結びつける電極が必要となる.脳電位はμV単位であり,生体電位としては最小の部類に属するので,電極間の微細な分極電位などによって記録は容易に影響されることがある.すなわち,電極の良否,種類,接着法などが脳波記録上重要な役割をもつことになる.
 電極の特性としては脳電位を損ずることなく取り出しうるものであり,接着がよく,固定しやすく,雑音や障害がはいりにくく,長時間の記録にたえ,使いやすく,患者に苦痛や不快感を与えないものがよい.問題点として電極の材質,形,電極と皮膚との接触,電極固定法,電極間抵抗,電極のりなどがあげられる.

生理2

脳波の発現機構

著者: 吉岡真澄

ページ範囲:P.207 - P.207

 脳波の発現機構については,微少電極法などによる神経生理学的研究が発展してきたものの,いまだ不明の部分が多い.
 頭皮上から導出される脳波は,大脳皮質内の多数の神経細胞の電気現象の総和とみなされる.それは皮質ニューロンの活動電位である棘電位の総和であろうと考えられていたが,微少電極法を用いた研究により,皮質ニューロンの棘電位と脳表からの脳波の現われ方に特別な関係がみられないことから否定され,むしろ皮質表層にみられる錐体細胞の尖頭樹状突起に起こる電気現象が,脳波のおもな構成要素とみなされている.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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