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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査17巻11号

1973年11月発行

雑誌目次

特集 自動化臨床検査法

自動化のフィロソフィー

著者: 高原喜八郎

ページ範囲:P.1173 - P.1176

 自動化(正確には臨床検査自動化)のフィロソフィーというテーマを与えられた.本特集において総論,各論といった従来の取り扱い方の他に,特にフィロソフィーとかその他の項を設けられた編集委員会の‘編集のフィロソフィー’に深い敬意を表したい.それは何事によらず,およそ人類社会に深く定着している事がらにはすべてそれぞれのフィロソフィーを論ずる立場があり,特に臨床検査自動化という巨大な命題をめぐっては,つたない筆者のペンでは表現しきれないほどの膨大なフィロソフィー的な問題が山積し,また幾多の専門の方々にはそれぞれの独特なフィロソフィーを論じられていることからも本テーマの重要性が理解されるのである.
 さてフィロソフィー(Philosophy)ということばは念のためにWebsterなどを参照すると‘love of wisdom’哲学と訳され,‘知恵または知識を愛好し探求すること’であり,また,‘中世の大学における高等の学術としての自然科学,道徳哲学,形而上学の3部門を含む’とある.あるいは認識の本質,善悪の原理および価値の原理についての研究(哲学)とも定義されている。そして欧米における学位がM.D.(Doctor of Medicine)とPh.D.(Doctor of Philosophy)その他に大別されて,その中でも自然科学から人文科学までの最も広い分野にまたがっているのがこのPh.D.であることはよく知られている.

自動化の評価

著者: 土屋俊夫 ,   佐藤和身

ページ範囲:P.1177 - P.1181

 医学における臨床検査の占める位置は,最近ますますその重要性が認識され,検査項目の増大と,検査件数の急増は目をみはるものがある.また,検査データの精度管理が普及し,臨床検査成績の信頼性も大いに向上した.迅速に多数の検体について行なうための臨床検査における方向づけは,能率化,省力化を兼ねて自動分析機器の導入が数年来,積極的に行なわれ,中・大病院のほとんどが検査のどこかの部分で利用し,日常検査に大きな戦力として成果をあげている.労働時間の短縮,患者サービスの向上の矛盾を解決するための自動化は,一般的な傾向ではあるが臨床検査においては特にめざましいものがあり,これが検査精度の保持,検査ミスの解消に大きく貢献していることは事実である.反面,これら自動分析機器はたいへん高価なものであり,導入に際しては機種の選定はもちろん,運用についても慎重でなければならない.現在市販されている自動分析機は内外20数機種にものぼり,それぞれが一長一短あり,分析項目数(チャンネル数)も1項目から10数項目同時分析可能な機種まで多種多様である.ここでは,これらの自動分析装置について,いくつかの角度から見つめてみたい.

自動化のための試料の前処理

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.1182 - P.1184

 検査がいかに自動化されようとも,被検者が人間の体液である以上検査の全自動化はまず不可能である.たとえば自動機器のサンプラーチューブの先端に針(注射針)をつけ,これを静脈と接続させて血糖値の経時変化をオートアナライザーで測定した試みはあるが,このようなことは例外であり,自動機器分析を行なうためには,始めにin vitroの検体(血清,尿など)が用意されなくてはならない.このような検査のための試料の前処理は,なにも自動法に限らず用手法でも同じことであるが,自動法の場合にはこの前処理をさらに厳密に実施しなければならないという点が異なる.その理由は,自動機器のサンプラー上に検体を並べてしまった以後においては,その検体が適当なものであるかどうかの識別を機械は行なわないからである.
 たとえば赤血球とか,凝固物が混入していたとしても,その識別を機械はしてくれない.

至急検査の自動化

著者: 斎藤正行

ページ範囲:P.1185 - P.1191

 臨床検査に望まれる条件は幾つかあるが,その1つに常に同じ‘物さし’と精度でということがある.これが実施されてないと患者の経過比較ができない.ただこの条件は高級な‘考える葦’である人間には無理な注文で,ばかな‘考えない’機械にやらす以外にない.ここに検査の機械による自動処理化ということが検体数の増大とともに大きく展開,化学のみならず,いずれは血液像,細胞診また細菌同定なども機械化され,違った観点から同じ臨床的評価がされるようになろう.ところが一方,臨床検査では迅速に結果が欲しいという条件も頻々と要求される.いつ重大な病気が発生するか,また急変するかわからないのが医療である.しかし機械は人間のようには融通がきかない.結果はすべてまとまってしか出てこず,当然救急には間に合わない.ここに再び用手法の復活が行なわれているが,救急事態は日中にのみ起こるものではなく,むしろ夜間・日祭日に突如として発生する.その時要求されたものを得意とする技師が当たる確率は低く,測定値の信頼性が問題になる.臨床検査といってもその業務範囲はあまりに多方面にわたる.
 現在でも欧米では当直専門の技師がいて,かなり広範囲のものを十分の精度でデータを提供しているが昔に比し希望者はたいへん少なくなってきていると聞く.

化学

自動化学分析総論

著者: 奥田清

ページ範囲:P.1192 - P.1204

 最近における自動分析機器は,需要の増大,理・工学領域における各種自動制御技術の進歩などを背景とし,また,特に臨床化学分析については,その利用技術の進歩によって適用が比較的容易となった点もあって,その発展は目をみはるものがある.省力化,自動化は,臨床検査に限らず,全く一般的な傾向であるが,それぞれの領域で自動化を促進した因子があるように,臨床検査の分野でもそれに対応する背景がある.本論にはいる前に,これらの事情について少し説明を加える必要があろう.

ブドウ糖

著者: 佐々木禎一 ,   池辺正

ページ範囲:P.1205 - P.1208

 臨床化学検査の分野ではブドウ糖の測定が早くから自動化され,Hoffman法(還元法)1)を原理とした,オートアナライザー単チャンネルを用いる血糖測定法2)が広く普及している.他にGlucose oxidase法3),o-Tolui-dine-ホウ酸(o-TB)法4,5),あるいはHexokinase/Glu-cose-6-phosphate dehydrogenase法6),さらにSMA12オートアナライザー用にCu-neocuproine法7)を利用する方法がある.またSomogyiのNa2CO3カラメル法8)を原理とした尿糖の自動分析法9)も簡単で利用されている.それぞれ改法,変法も少なくないが,ここでは代表的な方法4例のみを紹介する.

尿素窒素

著者: 屋形稔 ,   松井朝子

ページ範囲:P.1209 - P.1212

A.フロー方式
適用機器
テクニコンオートアナライザー

尿酸

著者: 佐藤永雄

ページ範囲:P.1212 - P.1215

 尿酸の自動分析法には,尿酸の還元性を利用したリンタングステン酸法1),あるいはキレート法2)と,尿酸分解酵素ウリカーゼを利用する方法が用いられている.還元性を利用する方法は試料中の他の還元性物質によって影響を受け,特異性が低い欠点があるが,ウリカーゼを用いる方法は他の物質の干渉を受けず,高い特異性を示す.
 ウリカーゼを用いた自動分析法には,1)ウリカーゼの作用による尿酸の紫外部吸収(293nm)の減少を測定する方法3),2)ウリカーゼの作用前後における還元力の差を比色測定する方法4),および3)ウリカーゼの酸化によって同時に生じた過酸化水素をペルオキシダーゼ酸化反応系と組み合わせて尿酸を測定する方法5)などが報告されている.ここではウリカーゼ・ペルオキシダーゼ法によるフロー方式と,リンタングステン酸法によるディスクリート方式について記述する.

クレアチニン

著者: 馬場巽

ページ範囲:P.1215 - P.1217

適用機器
 テクニコン・オートアナライザー(標準型についてのみ以下記す).

総タンパク

著者: 河野均也

ページ範囲:P.1217 - P.1220

 臨床化学分析に用いられる自動分析機器として,多数の機種が現在日本においても実用に供されている.総タンパクの測定はいずれの機種についても可能であり,また分析法はいずれも一回法で測定できることからビウレット反応を応用した方法が用いられている1)

アルカリ性ホスファターゼ(AIP)

著者: 坂岸良克

ページ範囲:P.1221 - P.1224

A.フロー方式
適用機器
1) SMA 12/60,2)オートアナライザーII型,3)オートアナライザーベーシック型

カルシウム(Ca)

著者: 大場康寛 ,   礒貝元男 ,   西村佳子

ページ範囲:P.1225 - P.1227

 カルシウム(Ca)の定量には用手法の他に比色,滴定,螢光および原子吸光法などの半自動あるいは自動定量分析法があり,おのおの分析装置が考案され実用化されている1-3).ここではそのうちの原子吸光分析法(AtomicAbsorption Spectrophotometry, AAS法)4-8)によるCa定量法について概説する.

無機リン

著者: 坂岸良克

ページ範囲:P.1228 - P.1231

A.フロー方式
適用機器
1) SMA 12/60,2)オートアナライザーII型,3)オートアナライザーベーシック型.

総コレステロール

著者: 中甫

ページ範囲:P.1232 - P.1234

 コレステロールの測定は,臨床化学検査の中でも件数の多い項目であるが,自動化の最も困難なものの一つにあげられている.その理由は,現在用いられている測定法が,いずれも強い酸を用いて発色させているので,分析機に用いている材質が,長時間使用することにより変性すること,および最終反応液の粘性が高く持ち越し誤差(キャリーオーバー)が大きくなることが最大の原因となっている.現在,一般に採用されている発色反応は,Liebermann-Burchard反応,塩化鉄—硫酸反応,o—フタルアルデヒド反応などがあげられるが,いずれの反応も自動化測定法としての応用が試みられている.ここでは,特に2種類の測定法について,その特徴および注意点を中心に解説する.

アルブミン

著者: 大島一洋

ページ範囲:P.1235 - P.1238

 体液,特に血清中のタンパク質の変動を扱う場合,総タンパク量のほかに個々の分画を定量して質的異常を把握しなければ病態を的確に判断することはできない.最近,この方面における臨床検査法が進歩し,総タンパク量,A/G比,電気泳動による分画,免疫グロブリンおよびリポタンパクの定量などが行なわれ異常タンパク血症の診断や病態解明に大いに役だっている.これらの測定法は,臨床検査の使命である多数処理かつ迅速な分析という点からみるとまだ満足すべきものではないが,最近の自動化機器の発達と測定法の改良により,総タンパク量とその過半を占めるアルブミンについては自動化臨床検査法が日常検査に取り入れられつつある.
 アルブミンの測定法(表1)はいずれの方法でも一長一短があるが,必要血清量が比較的少なく,測定時間が短縮され,一段階で多量処理できる色素結合法が自動化に最適である.流れ方式にもディスクリート方式にもこの測定原理が応用され,色素として表2のごとく,2-(4'-ハイドロキシベンゼンアゾ)安息香酸(HABAまたはHBABA),ブロムクレソール緑(BCG),メチルオレンジのほかにフェノール赤,スルホブロムフタレインなどが報告されている.これらの色素を一定のpH,塩類濃度および温度下でアルブミンと結合させた場合に,結合量は高い再現性を示すので,色素を比色することでアルブミン量を求めることができる.

総ビリルビン

著者: 関知次郎

ページ範囲:P.1239 - P.1241

 血清ビリルビン(Bil)の検査は,肝胆道系疾患および溶血を伴う疾患でおもに必要となるが,日常的には肝機能検査の中の1項目として行なわれていることが多く,またその件数もきわめて多い.能率化の面で考えるならばMGまたは総Bilとして自動化し,高値のものにつき直接—間接の分画を測定するのがよい.直接Bilを自動機器で測定するのは,この標準物質が得がたいことから,精度管理がむずかしく,また総Bilが,正常域にある時には分画の臨床的意義もあまり大きくないので得策ではない.
 総Bilの測定法ではジアゾ化したスルファニル酸を酸性領城で,促進剤の存在下でBilと反応させ,生じたアゾビリルビンの吸光度を測る方法が一般に行なわれている1)

ナトリウム(Na)カリウム(K)

著者: 馬場茂明 ,   向井正彦

ページ範囲:P.1243 - P.1246

 臨床検査室でのナトリウム,カリウムの測定法は主として炎光光度計を用いる方法が広く行なわれているが,自動化検査法としてはフロー方式とディスクリート方式に分けられる.機器もしだいに発達し,血清,尿中電解質の同時測定も可能となった.本稿では炎光光度計による方法を主として記述するが,電極法,原子吸光計によるものもあり,用途によって使い分けられる.

Po2,Pco2,pH,CO2

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.1247 - P.1251

 動脈血のpH, Pco2,Po2,などの血液ガス,酸塩基平衡の検査は,それぞれの電極の開発により,測定は試料を注入すれば,ただちにアナログまたはデジタルで結果が得られるところまで自動化されている.しかし採血およびその試料の注入は手によるもので,自動器械としてはディスクリート型にはいるものである.ことに血液ガス分析のためには,IL社などの3電極系(three-elec-trode system)がようやく一般化されるに至った.これはpH電極,Po2電極,Pco2電極の組み合わせで,結果もデジタルに表わされる.動脈血の血液ガスや酸塩基平衡に関する情報が数分で得られるし,自動洗浄装置も内蔵されていて,この方面の自動器械として一応完成のレベルにあるといってよい.
 またCO2については,従来Natelsonなどの検圧法によるtotal CO2 contentの測定が広く行なわれてきた.これは完全に嫌気的に取り扱われた血漿について,これに酸(乳酸)を加えて,含まれる重炭酸イオン(H—CO3)を分解,発生したCO2を物理的に血漿中に溶存していた二酸化炭素(炭酸ガス)とともに検圧法により測定するものであった.

LDH—乳酸脱水素酵素

著者: 大場操児

ページ範囲:P.1251 - P.1254

A.LDHの分析原理
 乳酸脱水素酵素(LDH)は乳酸⇔ピルビン酸の反応を触媒する作用をもち反応式は次のとおりである.
OH | LDHCH3—C—COOH⇔CH3—CO—COOH | 2H H NAD←→NADH したがって,血清LDHの分析原理は,1)反応速度を測定するか,2)基質量または反応生成物の減少,増加を比色法により測定するかである.ただ,いずれにしても反応速度恒数からみてNADH→NADのほうが測定しやすいことはわかっている.以下一般に利用されている術式の分析原理を簡単に述べる.

GOT—グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ

著者: 荒木仁子

ページ範囲:P.1255 - P.1258

 酵素活性の測定法としてone point assayおよびkinetic assay (rate assay)がある.GOT測定法のうちReitman-Frankel法(R-F法)やBabson法は前者に,Karmen法は後者に相当する.自動分析装置による測定は,ディスクリート方式にせよ,フロー方式にせよたいていの機器でGOTの活性が測定できるが,その場合測定法としてはone point assayが適用される.これに対し反応速度の自動分析装置もこの4,5年来日本でも市販されるようになってきた.以下それぞれの代表例について解説する.

血清T4とPBI—サイロキシンとタンパク結合ヨウ素

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.1259 - P.1262

A.PBIとT4
 血清中におけるタンパク結合ヨウ素(PBI)とサイロキシン(T4)との関係を大ざっぱに考えてみると,PBIは血清タンパク(主としてサイロキシン結合グロブリン)に結合したT4(ならびに微量のトリヨードサイロニン,T3)を測定しているのに対し,T4とはこの結合T4(ならびにT3)に加え,遊離のT4(ならびにT3)を合わせて測定している.したがって理論的には,PBI<T4という関係になるが,実際はこの逆であることが多い.
 正常値を見てもわかるように,血清PBIの正常値は4.0-8.0μg/dlであるが,T4では2.4-7.6μg/dlである.この理論と実際との矛盾の説明はいろいろあると思われるが,第1にあげられるのは汚染(contamina-tion)度の関与の大きさにあると考えられる.すなわちPBIは有機ヨウ素製剤によって干渉されるばかりではなく,無機ヨウ素によっても著しく影響を受ける.一方T4のほうはあらかじめカラムで分離・溶出させるので,これらヨウ素製剤の影響(汚染)度が比較的小さく,特に無機ヨウ素による正誤差が極力除去されるような配慮がなされている.しかし一方では,T4のカラム法では分離・溶出の間に起こるT4の損失の可能性があるため,PBI>T4という結果が出現してくることも考えられ,必ずしも汚染ということだけでは説明できない.

クロール(Cl)—塩化物イオン

著者: 牧野秀夫

ページ範囲:P.1263 - P.1265

 クロールの測定法にはSchales&Schales硝酸第二水銀滴定法1)が主流をなしてきたが,最近,精度,実用性ともにすぐれたクロライドメーター2)が普及し,しいて高価な自動分析器を必要としなくなった.しかし,クロールはNa, KおよびCO2,さらにBUN,グルコース,あるいはクレアチニンなどと同時に測定する必要が多く,いわゆるSequential Multiple Analysisの見地からフロー方式では早くから取り入れられている.私どももSMA 12/30,12/60を使用してきたので,その経験をもとに,フロー方式におけるクロールの測定の自動化について説明を加えることとする.

CPK—クレアチンホスホキナーゼ

著者: 金井正光

ページ範囲:P.1266 - P.1271

 血清中クレアチンホスホキナーゼ(Creatine phospho-kinase, CPK)活性は原発性筋疾患,心筋硬塞,甲状腺機能低下症,手術・外傷などにより上昇することが知られ,特に前2者の診断・治療上に重要視されているが,その用手測定法には図1のように各種の方法が考案されている.順反応を利用する場合はクレアチン(C)とATPを基質として生成クレアチンリン酸(CP)またはADPを測定するが,CPの測定には酸水解後モリブデン青として発色させる江橋ら1)の方法があり,ADPの測定にはピルビン酸キナーゼ(PK)系と共軛させ生成するピルビン酸をジニトロフェニルヒドラゾーンとして発色させる方法2)とPK-LDH系と共軛させNADHの減少を測定する紫外部法3)などが発表されている.また逆反応を利用する場合はCPとADPを基質として生成するCまたはATPを定量するが,Cの定量にはdiacetyl-α-naphthol反応を用いる比色法4)とニンヒドリンとの反応により螢光測定する方法5,6)があり,またATPの測定にはhexokinase-Glucose-6-phosphate dehydrogenase (HK-G-6-PD)系と共軛させ,NADPHの生成を測定する紫外部法7,8)などが考案されている.

β-リポタンパク

著者: 福井巌 ,   久城英人

ページ範囲:P.1272 - P.1275

 β-リポタンパクの濃度は正常で血清総タンパク量の約5%とされ,血清脂質の大部分が含まれている.
 β—リポタンパクの名称は電気泳動による易動度がβ-グロブリンと一致するところからつけられたもので,比重による分類では1.02-1.05の低比重リポタンパク(Low density lipoprotein, LDL)と呼ばれているものに相当する.

ZTT,TTT—硫酸亜鉛混濁試験,チモール混濁試験

著者: 水田亘

ページ範囲:P.1276 - P.1279

 1963年日本消化器病学会肝機能研究班によって硫酸亜鉛混濁試験(ZTT)とチモール混濁試験(TTT)との標準操作法が発表された1).この標準化された操作に従って忠実に実施しても,使用器具,比色計の機種の違い,血清と試薬との混合の要領なども測定値の変動の原因となることはすでに周知のことであって,現在なお決定的な標準操作法はないといってもよい.しかし,この標準操作法が自動化できれば比色計の機種差から生じる病院間誤差は避けられないとしても,測定成績の変動要因の大部分を除去できるであろう.
 コンティニアスフローシステム(Technicon社)によるZTT, TTTの自動化は数年前に試みられている2).コロイドガラス浮遊液を標準液として,あらかじめ標準液用のフローダイアグラムを組んで検量線を作成しておき,検体の測定には別のフローダイアグラムを利用して実施する.血清検体1つ1つの間に検体の替わりに生理食塩水をはさんで60/時で流す時,検体が標準法の試薬によって60倍に希釈されることになる.正味の反応時間は5分5秒に短縮されている.この方法は用手法とは全く異なる反応形式であるうえに能率,用手法との成績の比較などにおいてなお解決すべき余地を多く残している.ディスクリートシステム自動分析機では用手的測定法をそのままプログラムにのせられる機種も多いので,近時数機種についての操作法,用手法との成績の比較などが発表されている3-5)

デンシトメトリー

著者: 土屋俊夫 ,   小林富男

ページ範囲:P.1279 - P.1283

 デンシトメトリーとは,‘濾紙電気泳動法において瀘紙上のタンパクその他を定量する場合に光度計(Densi-tometer)を用いる方法である’と定義され1),また1959年には電気泳動学会によって‘濾紙電気泳動分析に用いるデンシトメーターの規格および検定法2)’が制定されている.いずれにしてもデンシトメトリーの歴史は非常に浅く,濾紙電気泳動法の出現によって促されたものといえよう.
 タンパク質はその物理的,化学的,生物学的に非常に複雑な性質を持った成分であるために,古くからこれを定量的に分析しようとして考え出された多くの方法は,いずれも近代医学に満足を与えるものではなかった.電気泳動法によって,タンパク質をいくつかの成分に分画し,定量することができるようになったのは,1937年にTiselius法が考案されてからであり,医学の研究や診断に大きな力を与えるところとなった.しかし理論的にいかにすぐれた方法であってもその操作の複雑さ,条件維持のむずかしさ,時間の必要さ,処理能力の小ささなどが大きな隘路となった.これをカバーするように発展してきたのがペーパークロマトグラフィーであり,これと電気泳動とを組み合わせた形の‘支持体による電気泳動法’である.その主流をなしたのが濾紙法や今日隆盛のセルローズ・アセテート膜(以下セ・ア膜という)法といえよう.

血液 血球計算

総論

著者: 新谷和夫

ページ範囲:P.1285 - P.1289

 検査の中で血球計算の頻度はきわめて高く,その自動化が強く要望されていた.近年,医用電子工学の発達とともに血球計算の自動化も急速に発展し,現在では使用機種も多く選定に迷うほどの盛況を呈している.現用の代表的自動血球計数器(カウンター)については別に詳しい解説が予定されているので本文では現用カウンターの測定原理,使用上の注意点,今後の発展に対する予測などについて総論的に記述する.

コールターカウンター・モデルS

著者: 只野寿太郎

ページ範囲:P.1290 - P.1294

 臨床検査における検査件数は増加の一途をたどり,これに対処するため種々の形で機械化や自動化が試みられている.血液検査室では4種目の血液学的な測定,すなわち赤血球数,白血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値が仕事量の大半を占めている.さて,この4種目の検査のうちヘマトクリット値測定を除く,それぞれの単一種目については自動測定器が多種類使用されている.しかし多種目自動測定の機種は少なく,現在Te-chnicon社のオートアナライザーSMA−4A, SMA−7AとCoulter社のコールターカウンター・モデルS (CM-S)が普及している.
 CM-Sは白血球数,赤血球数,ヘマトクリット値,ヘモグロビン量の他に平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH),平均赤血球血色素濃度(MCHC)の計7種目を,同時に同一試料から測定できる血液自動測定器で1969年Brittinらにより紹介された.

SMA 4A/7Aによる血球計数法

著者: 山口延男

ページ範囲:P.1295 - P.1304

 血球計数器の発達と普及はめざましく,現在使用されている血球計数器の機種や性能はきわめて多様となった.
 自動血球計数器はその性能から,1)半自動型と,2)完全自動型とに分けることができる.完全自動型の概念も血球計数器の性能の改良の過程に従って変化しており,現在では,1)同一の血液について赤血球数,白血球数のほかに血色素量およびヘマトクリット値を同時に測定するもの(SMA 4A),2)前記の測定とともに赤血球指数の同時算出を行なうもの(SMA 7A,コールター・モデルS),さらに最近では,3)前記の諸性能に加えて,血小板計数をも行なうもの(ヘマログ),および,4)以上の諸性能のほかに,白血球分類のスクリーニングを行なうもの(ヘマログD)も開発された.これらの完全自動型では,同時にデータの自動記録装置またはプリントアウト装置を備えている.また,データをコンピューターに直結しうるものもある.

ヘマログの検討—(全自動血液総合検査装置)

著者: 中川雅夫 ,   仁木偉瑳夫

ページ範囲:P.1306 - P.1310

 現在,臨床検査自動化の趨勢として単一検査項目ごとの自動化測定機器の段階は過ぎ,これらを改良し新測定法を開発し組み合わせることによって多項目の検査を同時に処理する多種目全自動化の傾向が進められている現状であるが,この傾向は特に生化学検査方面で著しい進歩をとげている状態である.血液検査領域においても,多種多様の自動化分析装置が供給され,日常検査の主力として利用されている.なかでも多項目自動分析装置については,なおその種類も少なく,開発の困難な部分もあるが,血液検査の迅速化と省力化をもたらし,ひいてはデータ処理までの一貫した完全自動化への道を開くものとしてその将来が注目されている.
 著者らは,このたび全自動血液総合検査装置ヘマログ(Technicon社製)を導入し,従来の単一項目ごとの自動化装置と切り替える目的で,血液検査12項目について検討を行なっている.設置調整以来,期間も短くなお検討を要する点もあるが,わが国におけるヘマログシステムの導入はこれが第1号でもあり,現時点において,検査の迅速化と省力化に十分その効果が期待できると考えられるので使用経験も含め検討データを報告し参考に供したい.

コールターカウンター—(自動血球計数機)

著者: 服部理男

ページ範囲:P.1311 - P.1316

 電場内を電気の不良導体である血球粒子が通過すると電場に電気抵抗の微小な変動が起こるが,その変動の個数と大きさから血球粒子の個数とサイズが求められる.コールターカウンターは以上の原理を利用した血球計数機のうち最初に作られた機種である.現在赤血球・白血球・血小板のそれぞれの計測に適した機種と,付属ヘモグロビノメーター,FN型・Z型に付属するMCV,ヘマトクリットアクセサリー(FN型+ヘモグロビノメーター+MCV・ヘマトクリットアクセサリーの組み合わせをFn 6 Hematology Systemと呼ぶ),多目的自動血球計数機(Hb, RBC, WBC, Ht, MCV, MCH, MCHCの7項目)のS型,主として工業的に粒度分布計として用いられるZB型など豊富な機種と,希釈機,血液混和機,その他アクセサリー試薬類などが販売されている.わが国における使用の歴史も長く,トーアミクロセルカウンター(MCC)と並んで最も広く使用されている機種の一つである.

東亜ミクロセルカウンター—(自動血球計数器・ヘマトカウンター・血小板自動計数器)

著者: 黒川一郎

ページ範囲:P.1317 - P.1321

原理
 東亜ミクロセルカウンター(以下MCC)の血球計数機構は一口に容量検出方式と呼ばれるが,なかなか理解が困難なところがある.われわれがMCC-II型で外部からみる検出器は血球の検出回路である交流回路の一部である.検出器の中に白金電極が検出孔をはさんで対立し,その間隔は85μで電極面は直径80μの円型で表面はゆるい球型をなし,互いに前面に突出し,その外面はルビーで覆われ摩滅を防ぐように設計されている.検出回路中の発振器から普通無線通信機で使われる程度の3.5メガサイクルの交流が発生し,2つのコースを通りそれぞれが第一,第二入力と呼ばれる.第一入力は直接位相弁別回路にはいる.第二入力も交流であるから検出回路の電極を通り同じく位相弁別回路にはいるが,互いに一定の位相差を保っている.検出器自体は一種の蓄電器と考えてよいが,検出器が生食に浸っている時,信号は発生しないようになっている.いま誘電率の高い,血球が通過すると検出回路の静電容量は通過した血球の誘電量だけ当然変化するから第二入力の出力が変化し,したがって第一,二入力間の位相差は変化する.長谷川1)によれば高周波条件下では位相差変化の大きさは通過血球の容積に直線的に比例するという.

日本光電MEK 1100自動血球計数器

著者: 川越裕也

ページ範囲:P.1322 - P.1325

 ME専門メーカーの日本光電が,その技術を生かし新しくデジタル演算補正回路を組み込んだコールターカウンター型の自動血球計数器を発表した.赤血球,白血球数専用と銘打って世に出された本器の使用経験上の特徴を紹介する.

染色

血液標本の自動染色

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.1326 - P.1329

 血液像および骨髄像の検査は血液学的検査の一つとしてたいへん重要であり,たとえ血球数算定成績の情報がなくても,1枚の末梢血液像をよく観察すると診断の重要な手がかりとなる情報が得られることが多い.したがって,標本の見方,読み方について医師はもちろんのこと,血液検査に従事する臨床検査技師は十分習熟している要がある.標本を見るにあたってたいせつなことは塗抹,乾燥,固定,染色が適切になされていることである.ことに染色が不良だとどうにも判読できないことがある.ところが,一般に血液検査室は毎日多数の検体をその日のうちに処理しなければならず,たいへん多忙である.ここに機械を用いて自動化・能率化できる部分はできるだけ能率化しようという必要が生ずる.自動血球計数器の導入は大いにその役割を果たしているが,自動染色装置もこの要求にこたえて登場したものである.固定および染色・水洗の過程を自動化することにより,同一の条件で多数の標本を染色することを目的としている.染色にはMay-Giemsa染色Wright染色,Giemsa染色,Wright-Giemsa染色などが用いられる.

凝固・線溶

総論

著者: 山中学

ページ範囲:P.1330 - P.1334

 出血性素因および血栓症についての,病態生理がしだいに解明されるに伴って,臨床における血液凝固や線溶の検査がしだいに重要視されるようになり,一般臨床検査として普及し始め,また検査件数も増加の傾向を示している.
 現在,血液凝固に関する検査法は,試験管内における複雑な反応の結果,生成されるフィブリンによって,血液あるいは血漿が,ゾルからゲルに転換して,流動性を失う瞬間を肉眼的に捕えて,反応開始からそれまでの時間を測定するという手段が基本になっている.また線溶においても,基質に用いたフィブリンや凝固させたユーグロブリン分画が添加した試料により溶解する状態を,やはり肉眼的に観察しているのである.

コアグロメータークロットレコーダーエレクトラ600エレクトラ620

著者: 鈴木弘文 ,   堀田義弘

ページ範囲:P.1335 - P.1341

 本稿では凝固検査の自動測定機器のうち,その測定原理として光電方式を応用しているコアグロメーター,クロットレコーダー,エレクトラ600,エレクトラ620などの比較的新しい機器について,その機構,測定原理,操作方法,測定成績などについて述べる.

フィブロメーター

著者: 梅垣健三

ページ範囲:P.1341 - P.1344

 臨床検査が普及するにつれて,検査は多様化し,即時性および精度管理の要求がますます大となり,それに従って検査の自動化が進み,検査業務にコンピューターが導入される時代となってきた.検査の自動化は特に臨床生化学および血球算定において著しいものがある.これに対し血液凝固検査においては自動化は遅れている.われわれが試験管内において凝固すなわちフィブリン形成を肉眼的に捕えるのは,おそらく凝固第3相の段階であると考えられるが,きわめてすみやかに進行する第3相のうちの,どの反応を捕えるか,その捕え方の測定値に及ぼす影響ははなはだ大である.このことが凝固検査を一般にむずかしい検査であると受けとめられる一因ともなっており,またその判定には主観的要素がはいりやすく,個人誤差も大きい結果となっている.これらの問題点をたとえ部分的にでも解決するためにも,また凝固検査の普及を促すためにも,スクリーニングテストの範囲のものの機械測定ができないだろうかということになって,最近機器が開発されるようになってきた.これらの機器は原理により,表1のように3群に分けられる.ここではフィブロメーターについて述べる.

トロンボエラストグラム

著者: 安永幸二郎

ページ範囲:P.1345 - P.1349

 トロンボエラストグラム(Thromboelastogram,TEG)はたしかに便利なものである.高価なことが難点であるが(実際本体はともかく,キュベットやスピンにしても,フィルムペーパーにしても驚くほど高い.心電計やそのフィルムと比べるとその高さがよくわかる.幸い保険点数には採算が成り立つほどには認められている),操作がきわめて簡単で,しかも血小板,凝固,さらには線溶の動態のスクリーニング検査としてはずいぶん有用な資料を提供してくれるから,予算さえゆるすならばぜひ備えつけたい器械の1つである.しかし異常なTEGパターンが得られた場合,単にそれのみで終わってしまっては不十分であって,さらに引き続いて,異常なTEGパターンから推測される血小板,凝固因子あるいは線溶等の異常に関する精細な分析が必要となることに論をまたない.
 本篇は紙数の関係で,TEGの原理,測定法は簡単に述べ,TEGを最近始めた人あるいは始めようとする人のために,主としてTEGの解釈について,著者の経験から気のついたことを述べたいと思う.

ユーグロブリン・クロット・ライシス・タイム・レコーダー

著者: 浅井紀一

ページ範囲:P.1350 - P.1354

 検査室における線維素溶解検査の自動測定器はまだ種類が少なく,凝固線溶の総合的記録装置としてのトロンボエラストグラフは別として本格的専用機としては自動記録装置としてのユーグロブリン・クロット・ライシス・タイム・レコーダー(Euglobulin clot lysis timerecerder;E.C.L.T.R.と仮に略す,C.L.T.Unitともいう)が普及しつつあり,邦製では写真判定式E.C.L.T.測定装置(名市大式)1,2)も同時大量測定器として有用であろう.
 線溶測定法のうちでも短時間で測定できるSK, UK加ユーグロブリン溶解時間(SK, UK-ELT)などは自動測定器なしでも不便ではないが,ELTのような時間単位の長時間を要するものはどうしても自動記録機の使用が望まれる.E.C.L.T.R.はその目的のために検査室用に作られ,現在最も普及度の高い機器であり,今後もこれに類した測定器が改良されて出現するであろうし,これらが安定して安価に供給されることが検査の普及,検査室の充実上望ましい.以下Dr.CashとLeask5)によって手がけられたE.C.L.T.R.について述べる3,4)

血小板凝集メーター(エバンス社)アグリゴメーター(ブライストン社)

著者: 小林紀夫 ,   新井仁 ,   竹内季雄 ,   高橋美代子 ,   前川正

ページ範囲:P.1355 - P.1358

 血小板の粘着および凝集能は止血あるいは血栓症の成立の初期の過程で重要な役割を果たしている.小血管の損傷では,内皮下の組織おもにコラーゲン線維が血液に露出し,血小板がこれにまず粘着し,次いで組織や赤血球あるいは粘着した血小板から放出されたアデノシンジリン酸(ADP)の作用によりさらに流血中の血小板がこれに凝集する.一方組織トロンボプラスチンが遊出して血漿因子と作用して小量のトロンビンが形成され粘着および凝集した血小板に作用して粘性変性を惹起し,さらに多量のADPや血小板第3因子が放出される.その結果血小板凝集は加速され血小板血栓は増大して出血は停止する.一方放出された血小板第3因子は内因性血液凝固を促進して,フィブリンの形成により完全な止血血栓が成立する.これらの関係をLüscherのモデルに従って図1に示した.
 また病的な血栓の成立過程もこれと同様と考えられており,したがって血小板粘着あるいは凝集能の低下は出血傾向を示し,その機能の亢進は血栓症発生の原因となりうる.このように血小板粘着・凝集能の測定は臨床的に重要な意義をもっている.

血清

自動化機器の血清学的応用—血液型を中心として〔対談〕

著者: 村上省三 ,   松橋直

ページ範囲:P.1359 - P.1362

自動化の応用範囲
 松橋 血清学領域においても,いろいろの自動化が行なわれていますが,こういった方面について該博な知識をもっておられます村上先生をお招きしていろいろお話を伺いたいと思います.
 まず,総論的に私から申します.血清反応の反応の形式で分けてみると,凝集反応,溶血反応,受身凝集反応,あるいはこれの阻止反応といったように,形式的に分けられると思います.そして自動化が可能なものは,いずれの反応も同じです.それから螢光抗体法も自動化が行なわれるようになってきています.現状をみると,凝集反応では,たとえば日本で行なわれていますガラス板法の抗原を炭素の粒子につけたRPRカードテストが実際に自動化されて,ARテストとしてアメリカなどでは非常に広く用いられています.そして1日に何千人できるとかいうようなことで血液銀行などでも採用されています.

自動化機器の血清学的応用—梅毒血清反応

著者: 福岡良男

ページ範囲:P.1363 - P.1366

梅毒血清反応自動化の現状
 梅毒の血清反応には原理の異なる3つのグループがある.第1のものは結果を凝集反応として観察するもので,ガラス板法,凝集法,RPRテスト,TPHAテストなどがこれに属している.第2のものは結果を溶血の程度で観察するもので補体結合反応の緒方法,Kolmer Browning法がこれに属している.第3のものは結果を螢光の有無で観察するもので,螢光抗体法のFTA-ABSテストがこれに属している.
 一方,血清反応のうち自動化が可能なものは凝集反応,溶血反応,沈降反応,補体結合反応である.したがって,梅毒の血清反応で自動化できるものは,第1と第2のグループの反応ということになるが,凝集反応の自動化には自動化に適した抗原が要求される.短時間で比較的強い凝集を起こす抗原,凝集塊除去装置(後述)で除去されやすい抗原でないと鋭敏度の高い自動化は不可能である.このような条件を満たす抗原はRPRテストの抗原(カルジオライピン・レシチン抗原をカーボン粒子に吸着させたもの)以外には現在のところ見あたらない.

自動化機器の血清学的応用—マイクロタイターの自動化

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1367 - P.1369

使用機器の概要
 オートタイター(Autotiter)は血清試料の倍数希釈,抗原溶液・補体液などの試薬類の添加,ループの洗浄・滅菌などの繁雑な操作を自動化し,しかも微量検査で小型のトレイを使うためにインキュベーションに要するスペースも少なくてすむ.
 本器は図1に示すように,長さ70cm,奥行き50cm,高さ30cmの機械で,制御パネル,希釈液・試薬を添加する部分,検体を一定量吸引し攪拌する部分,添加装置・攪拌装置を移動させるキャリッジ,攪拌・吸引装置を洗浄,乾燥,滅菌する部分,およびトレイから成る(図1).

血清学的検査の半自動化

著者: 鈴田達男

ページ範囲:P.1370 - P.1375

血清学的反応自動化の反省
 オートメーション(自動化)の波は産業界のみならず医学,サービス業の全分野にとうとうと押し寄せ,学会の展示場には最新鋭の自動化装置が所せましとけんを競い,自動化されていない検査室は技術員の希望者も集まりが悪くなるとか,まことに自動化は花盛りの世とはなった.
 たしかに自動化は最近の検査需要の質的,量的増大と一方で熟練した技術者の供給不足,単純くり返し作業からの人間の解放,人間でなければできない本来の仕事に専念させ,人間らしい生活を亨受するのになくてはならないものであり,時代の要求から生まれたということができる.しかし,ここで注意しなければならないのは,それなら何でも彼でも高価な自動化装置を買い込みさえすればよいかといえば,これにはもう少し慎重さが必要であると思われる.

病理

病理における半自動化機器

著者: 寺島寛

ページ範囲:P.1376 - P.1378

自動包埋器
 臨床検査の自動化は近年めざましい進歩をとげているが,病理検査部門はその作業の性格上自動化はきわめて困難で,標題にかかげられた半自動の言葉のとおり,ごく一部の作業が機械力により所要時間を短縮されている程度にすぎない.
 自動包埋器と称しても,実際は組織の脱水および包埋剤の浸透作業までを機械的に行なっているのみであって,最終の包埋は人力により手作業で行なわねばならぬ現況である.したがって厳密には自動脱水・浸透器というのが正しい呼称かもしれない.

データ処理

A-D変換器の基礎知識

著者: 大森昭三

ページ範囲:P.1379 - P.1383

 その昔,容量分析,重量分析法などを用いて細々と行なわれていた生体成分定量分析の歴史は,肉眼比色,さらには光電光度計による比色分析の時代にはいり大きく変貌を遂げた.Duboscqの比色計,Stufenphotometerなどといっても読者の大半はご存知ないであろうが,当時においては最新鋭の装置として大いに威力を発揮したものであった.そして光電光度計が開発されるに及んで,微量試料による精密分析が可能となり,臨床検査は大きく飛躍した.現在では,臨床検査のデータなしでは疾患の診断,治療はほとんど不可能であるといってもいい過ぎではないであろう.このこと自体は,臨床検査に従事するわれわれにとって喜ぶべきことであろうが,一方,臨床検査室はその業務処理のためきりきり舞いをさせられる結果となり,お手上げ寸前の状態にまで追い込まれた.そこへ救世主のように現われたのがTechnicon社のオートアナライザーであった.
 ところで,オートアナライザーの最初の装置(基本型)では,試料の採取,希釈,除タンパク,試薬添加,混和,加熱,比色などの一連の化学分析の操作が自動的に行なわれはしたが,記録計に描かれた図型は単に物質濃度に比例するピークを示すものでしかなく,濃度への換算のためにはあらかじめ数本の標準試料を用いて検量線を描き,チャート・リーダーによって読み取らなければならぬ不便さがあった.

自動化におけるデータ処理—自動化の変遷に伴うIdentification概念の発達

著者: 菅沼源二

ページ範囲:P.1384 - P.1388

 臨床検査自動化の変遷とID概念の発達
1.臨床検査中央化から自動化第一次世代へ
 戦後の医療の技術革新のおもなものは,抗生物質の開発や麻酔・輸血の技術の発達とME機器の開発であろう.近代医学の中で戦後臨床検査のたどった発達の歴史の中でも自動化の発展はまことに目ざましいものであった.

座談会

自動化の展望

著者: 茂手木皓喜 ,   新谷和夫 ,   林長蔵 ,   春日誠次 ,   石井暢

ページ範囲:P.1392 - P.1399

 臨床検査において検査件数の増大に加え,熟練した技師の不足とともに,Hospital Automationなどの病院の近代化が進められているいま必然的に自動化の方向に向けられており,これは世界的な趨勢でもある.
 この特集も自動化臨床検査法を取り上げ各分野にわたって述べられてきた.さてこの座談会では自動化の現状とこれからの方向,そして実際にこれから自動化する場合のポイントなどを述べていただいた.

豆知識

オスモメーター

著者: 中甫

ページ範囲:P.1242 - P.1242

 ある溶液を,溶媒分子を通すが溶質分子を通さない膜(半透膜)を隔てて,純粋な溶媒と接すると,溶媒分子は膜を通って溶液のほうに浸入し平衡に達する.この時,浸入する溶媒を妨げようとする過剰な圧力が浸透圧である.浸透圧はPfeffer (1877)によって定量的な実験が行なわれたが,後にvan't Hoff (1886)が浸透圧と気体の圧力が類似していることを明らかにし,ごく希薄な溶液では,次の式が成立することを示した.
 πV=RTπ:浸透圧,V:溶質1グラム分子を含む溶液の体積,R:気体定数(0.082),T:絶対温度(273+α)これを書き換えるとπ=CRTC:1l当たりのモル数(C=c/M'c:1l当たりのグラム数,M:溶質の分子量)となり,この式は,理想気体の状態方程式と一致する.

グルコースメーター

著者: 中甫

ページ範囲:P.1284 - P.1284

 血糖測定は,負荷試験も含めて測定件数の多いものの一つである.また,緊急検査項目としても欠くことができない.したがって,自動化を考える場合に,単位時間における処理能力のみならず,任意の時間に,迅速に測定できる融通性も持ち合わせている機器があれば便利である.血糖測定法もO-TB法の普及でかなり簡単になったが,一方ブドウ糖に特異的な酵素反応を用いた測定法も,試験紙法のような簡易迅速測定がある.酵素反応を用いた方法は,それを比色測定する場合に,色原体を用いて発色させているが,第2の酵素としてペルオキシダーゼを用いる方法は,試料中に存在する還元物質により負の誤差を生じることがある.また,カタラーゼを用いる方法は,生じたHCHOを発色させるのに時間がかかるなどの問題点が残されている.これらは,いずれもグルコースオキシダーゼの作用で生成したH2O2を測定していることになるが,酵素反応で消費された酸素を酸素電極で測定する,いわゆる電気化学的手法を組み合わせた測定法もある.最近,Beckman社で製造されているグルコースアナライザーERA−2001は,酵素反応で消費される酵素をポーラログラフ式酸素センサーを用いて消費率を求めブドウ糖を測定する方法で,1検体10秒の速さでしかも比色法のように他物質の影響もなく正確に測定できる機器である.測定原理は,酵素反応と酸素消費量測定に大別される.

タイマー

著者: 吉野二男

ページ範囲:P.1389 - P.1389

 臨床検査を実施するにあたって,いろいろの条件を定め,あるいは反応時間を一定にするために時間は重大なものの一つである.それを測るためにわれわれは時計,特に一定時間を測るのに‘タイマー’と呼ばれるものを用いている.現在検査室で用いられている‘タイマー’を広く解釈すると次のような種類のものがある.
 a.一定のくびれ部分から落ちる砂の量による……砂時計

自動天秤

著者: 鹿島哲

ページ範囲:P.1390 - P.1390

 試料を測りとる場合,体積(ml)でとることが多いが,それは重量(g)でとるのと比べて簡便で迅速ではあるが,再現性や精度からいうと劣るものである.定量の基準となる試薬,特に標準物質を測りとる場合は重量で測ることが多いので,正確迅速に重量を表示したり,プリントしたり,直接その数値をコンピューターに送り込んだりする多種の自動天秤はますます用いられるようになり,また発達していこう.

細胞診の自動化

著者: 長浜万蔵

ページ範囲:P.1391 - P.1391

 細胞診の自動化の基本点は従来技術者の手で染色標本を作製し,これに目を通して診断するという方法でなく機器によって標本を作製するとともに,悪性腫瘍細胞を自動的に選別し判定まで行なうことであろう.自動判定については研究開発も進んでいるが,現在病理検査室では塗抹標本作製とその染色装置については自動化が行なわれている.
 遠心後手動的に沈渣を塗抹した標本では細胞密度の低いものや,細胞分布の不均等な標本が多いが,サクラ・オートスメア(自動細胞収集装置CF 12,図1)は細胞診に供せられる液状検体をスライドグラスの中央部に集中塗抹するので,その収集率はきわめて高く,形態学的にみてもその構造を良く保って塗抹されている.検体を入れるじょうごの先端が方形を呈したものも発売されており,これを用いると検鏡に際しても都合がよい.本器では同時に12枚の塗抹標本作製が可能であるが,予備セルに次回の検体を準備しておくと連続した大量検体の処理も可能である.しかし提出される材料が液状検体ではなく,すでに塗抹固定された検体の場合や,検体処理数が少ない検査室では本器は十分その能力を発揮しえないようである.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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