icon fsr

雑誌目次

論文

臨床検査17巻7号

1973年07月発行

雑誌目次

カラーグラフ

ペスト菌

著者: 和気朗

ページ範囲:P.710 - P.711

ペストは大正末期まで日本にも流行した.現在東南アジア,アフリカ,中南米に発生するが,北米合衆国でも野生齧歯類の保菌は絶滅の見通しがない.ヒトの腺ペストが肺ペストに移行したら流行の危険が大きい.実際の診断上ヒントとなる特徴を以下に図示するが,ほかにエンベロープ(Fraction I)に対する特異抗体を利用した螢光抗体法,臓器抽出液との沈降反応が比較的確実である.診断が陽性の材料は低温に保存し決して捨ててはならない.

技術解説

アフィニティクロマトグラフィーを用いる線溶能の検査

著者: 五十嵐紀子 ,   松本光民 ,   竹内節夫 ,   浅田敏雄

ページ範囲:P.713 - P.722

 血液が血液凝固を完了すると血餅ができる.これはフィブリンの網の目に血球が丸め込まれたようなもので,管壁からはがしてしばらく置くと,自然に血餅中に含まれる血小板の作用で血餅の退縮現象が起こりその中から血清がしみ出し,やがて血清の中に血餅の球が浮かぶような状態になる.ここへ一般にプラスミンアクチベーターと呼ばれるところの尿中より採られたウロキナーゼとか,細菌製剤のストレプトキナーゼ(以下,Sk)などを与えるとその血餅の網目がほぐれるように切れて内部に包み込まれた赤血球などが猛烈に落下してくる.顕微鏡下ではフィブリンの糸が1つ1つ切れて溶けていくのが観察される.つまりこのように線維素(フィブリンの糸)が溶けてくる現象を線維素溶解現象(以下,線溶)といいこれに関与する酵素やアクチベーター(以下,Act),インヒビター(抗プラスミン以下,Anti-Pl)群をひとまとめにして線溶系と呼んでいる.その中でフィブリンの糸を切断しているのはプラスミン(以下,Pl)という一種のタンパク分解酵素で,トリプシンに対するトリプシノゲンやトロンビンに対するプロトロンビンのようにプラスミノゲン(以下,Plg)という酵素原として血漿タンパク中に含まれている.通常の場合はウロキナーゼ(以下,Uk)とかSkの添加によって活性化し,こういう現象を起こすのであるが,強いストレスを与えられたヒトの血液やある種の疾患の患者血では,何も加えなくてもこのような現象を認めることがある.たとえば,窒息死したヒトの血液が固まらないことは有名である.このような場合は多量の活性化されたPlが,凝固したフィブリンを分解するだけではなく,その原料のフィブリノゲンまで切断したためにもう凝固できない血液となっているからである.

ウイルス検査の微量化

著者: 赤尾頼幸 ,   芦原義守 ,   七山悠三 ,   荒木美ね子

ページ範囲:P.723 - P.731

 近年ウイルス検査の分野では,マイクロプレート(micro plate)による血清反応やウイルスの微量組織培養(mini culture)が行なわれるようになってきた.特にウイルスの血清反応に関しては,血球凝集(HI)反応や補体結合反応にこの方法が用いられるようになり,従来行なわれていた試験管(tube)法がほとんど用いられなくなったといっても過言ではない.
 マイクロプレートによる微量組織培養に関しては,1969年になって血清反応に用いるマイクロプレートと同一規格の平底96穴のマイロプレートが組織培養用に作製されるようになり7),ようやくウイルスの微量定量や,またピギーバック・マイクロ・トランスファープレート8)と併用してウイルスの微量中和反応が容易に行なわれるようになった.本法の長所は操作が簡単で迅速であるのみならず,培養細胞,培養液などが従来の試験管法に比べて少量ですむこと.またディスポーザブルプレートの使用で検査費,人件費がともに節減できることである.さらに使用器具が小型なので,実験,培養,保存などにスペースを要しないこと微量化のため特別に試験管台など実験器具を新たに作らなくてすむので,どこの研究室でもその移行が簡単に行なわれることなど多くの利点があげられる.

私のくふう

トロンボエラストグラフ計測器

著者: 安東泰行

ページ範囲:P.731 - P.731

 トロンボエラストグラフが使われ始めてから,すでに20余年になるが,描かれたトロンボエラストグラムの,r.k.maの計測には,ディバイダー,ものさしなどが使用されている.われわれは計測器をくふうし,これを日常検査に利用しており,計測の簡素化に十分役だっている.
 図1はわれわれが考案したトロンボエラストグラム計測器で,縦約13cm,横約25cmの透明板にr.k.maの計測用ものさしと,カーソルを設定したものである.

デキストロスティックスにちょっとしたアイディアを

著者: 室園としゑ

ページ範囲:P.741 - P.741

 糖尿病の患者さんの状態の急変にかかせないのが血糖値の検査です.
 急を要する場合には,1分間の反応で高低を知ることができるところから,デキストロスティックスを使用しています.

第1回樫田記念賞受賞論文・1

心電図波形歪の問題点

著者: 清水加代子

ページ範囲:P.732 - P.741

緒言
 心電図の波形を分析して診断をくだす場合に,その波形の時間間隔,波形の振幅および各棘波の形状の3つが判読基準として重要である.したがって,記録の過程で波形に歪が生じるとこれが誤診の原因となるため,臨床検査技師にとって,心電図を記録する際に心起電力を歪なく記録することが重要な課題となる.
 心電図の波形歪を起こす主な原因は,(1)誘導側に由来するもの,(2)心電計の入力回路を含む前置増幅器に由来するもの,(3)心電計の主増幅器および記録器に由来するもの,に分けることができる.著者は,これらの問題について,臨床検査部という現場からかねてより検討を行なってきたが1-3),今回臨床検査技師に最も関係があると思われる(1)と(2)による波形歪について理論面と実験例とから検討を加えて本論文とした.

総説 免疫の基礎理論・2

Lymphokine Factorsとその免疫生物学的意義

著者: 山口康夫

ページ範囲:P.742 - P.749

 前号で,免疫応答のにない手であるT&B細胞免疫系の概要を紹介し,T細胞系が細胞性免疫(Cell-mediated immunity)を分担することを述べた.現在,遅延型アレルギー反応,同種グラフト拒絶反応,グラフト対宿主反応,細胞性感染防御免疫,腫瘍免疫,自己免疫の一部が細胞性免疫をベースとして発現されることが知られている.この細胞性免疫を適確に定義づけることはその実体に関する知識が不十分な現状ではむずかしいけれども,一応細胞抗体活性をもつT細胞系感作リンパ球がEffector cellsとなって惹起される免疫として理解される.ところが,近年このEffector cellsからさらにLymphokine facto-rs(Dumondeら1))という非抗体性メディエーターが産生されて起こることが明らかにされつつある.
 今回はLymphokine factorsの産生機序とその諸性状についての諸知見を解説的に述べ,さらに免疫生物学的意義についても考察を試みる.

臨床検査の問題点・53

胃液検査

著者: 松尾裕 ,   坂野重子

ページ範囲:P.750 - P.757

胃液検査は内視鏡的査検やX線検査などの発達の陰になって顧みられなくなっていたが,最近はまた盛んになってきた.合成ガストリン,ヒスタローグなどすぐれた胃液分泌刺激剤が容易に入手できるようになったことが,きっかけになったともいわれているが,胃液検査の重要性などを話し合っていただいた.

異常値の出た時・7

カリウムの高い時,低い時

著者: 鈴木潤

ページ範囲:P.758 - P.763

 カリウム(以下,K)はナトリウム(以下,Na)が細胞外のおもな陽イオンであるのに対し,細胞内に総K量の98%が存在し,細胞外液(血清)中には2%しか存在しないので血清K濃度変化と総K量の過多,過少とは必ずしも一致しないことはいうまでもない.K代謝異常の臨床症状出現に際しては細胞内外のpH,Kその他血清,Na,Ca,Mgなどのイオンの影響もあり複雑であるが,血清K濃度の変化による影響も大きい.そこで細胞内K濃度が簡単に測定できない現状では血清K濃度を中心に血清,尿pH,尿中K排泄量,心電図変化などを参考にしてK代謝異常の病態を把握しなくてはならない.本稿ではまずK代謝の概要を述べ,次にK測定上の問題,測定した血清K値の評価すなわち異常値が出た時いかなる疾患を考えるかについて述べる.

論壇

微生物検査について

著者: 工藤肇

ページ範囲:P.764 - P.765

 臨床検査はここ10年来急速に進歩しました.昔は検尿などの一般検査,簡単な血液検査,血糖検査などは医師自からの手で行なっていましたが,今日では臨床検査は中央化され,臨床検査技師の手にまかされるようになりました.検査件数や検査項目も急激に増え,また検査の内容もしだいに高度なものになりつつあり,臨床検査技師の責任も今後ますます重くなってくるものと思います.検査件数の急増に対応して,検査の超微量化,簡易化,精度管理,自動化,コンピューター化も進められてきました.自動化の波は,生化学検査を筆頭に,血液検査,血清検査,一般検査,はては末梢血液白血球分類や細胞診検査にまで及び,さらに心電図などの生理検査の自動診断装置も開発されている現状です.一方,微生物検査については,一部感受性試験用の自動分析装置などがありますが,日常の細菌検査業務での自動化はこれからというところで,今後の大きな課題の1つと思います.
 微生物検査は,病理検査もそうですが,他の検査部門とは少しく異なった発展のしかたをしてきたようです.生化学検査,血液検査などは古くから基礎より臨床に移った部門ですが,微生物検査や病理検査は以前はそれぞれの基礎医学教室へ病院より検体を持参して検査を依頼する形をとっていた所が多い.中央検査部設立後はこれらの部門も病院内に移ってきました.中央化により検査技術は進歩し,術式も標準化,統一化される傾向になり,また検査の能率も向上いたしました.しかし,一面中央化により,直接的,間接的にいろいろの問題がでてきております.

第13回臨床ウイルス談話会

臨床ウイルス検査システムの進展

著者: 宍戸亮 ,   甲野礼作 ,   森次保雄 ,   遠藤元繁 ,   沼崎義夫

ページ範囲:P.766 - P.773

これは,昨年6月11日岡山市(市衛生会館)にて開催された第13回ウイルス談話会(会長 喜多村勇)のなから,特に臨床検査に関連の深いシンポジウム‘臨床ウイルス検査システムの進展(座長 穴戸 亮)’を抄録としてまとめたものである.

化学検査のうつりかわり・7

脂肪酸

著者: 松村義寛

ページ範囲:P.774 - P.778

 生体を構成している物質を大きく分けてタンパク,脂質,糖質,ミネラルとされてきた.この4群にはそれぞれは大きな特徴のある性質があるためで,脂質についていえば,水に溶けないかあるいははなはだ溶け難いものであり,そして有機溶媒と呼ばれる一連の液体には溶解しやすいという性質がある.
 典型的な脂質は油脂と称せられるもので植物の種子,動物の皮下脂肪などに多く含まれ,これらを圧搾すると得られることは古くから知られ,水と混ざらないで,水面に浮かび比重が1より小さいことも人目をひきつけたものである.ナタネ油,ゴマ油,牛脂,豚脂など,あるいは食用に,あるいは灯火用の燃料とするなど,広く愛用せられてきている.油脂は物理化学的に無極性の炭化水素の骨格をその分子内に多く含んでおり,それに対して極性を発揮する官能基群は比較的乏しいので,分子全体としては無極性の性質が優勢であるために,極性溶媒である水には不溶,無極性である有機溶媒には易溶である独特の性質を現わすものと考えられる.

追悼

吉田 富三先生を偲んで

著者: 畠山茂

ページ範囲:P.779 - P.779

 吉田先生は,わが国のみならず世界における癌研究に絶えず刺激と指標を与えてこられた方である.先生のお仕事を知るには,腫瘍学の歴史を若干理解しておく必要があろう.そもそもいまだ細胞の自由発生を信じていた時代に,ウイルヒョウがすべて細胞は細胞から生まれるという有名な金言を掲げ,‘細胞病理学’を確立したのは,1855年のことで今から約120年も前のことであった.この思想を裏付ける基礎的な材料となったのが癌であって,癌も正常の細胞から発生するという理念が確立し,さらに細胞の分裂には細胞の形成を促す刺激が必要であって,刺激の異常または異常なる持続が癌の発生を促すと考えられた.原理的には今日的理解と全く同じであって,120年も前に既に癌に対する考えの基礎は定まっていたのである.先生は癌研究者として将又(はたまた)病理学者として,現在ややもすれば偉大ではあるが歴史上の偶像として省みられないウイルヒョウの思索の跡を丹念に辿り,先生自身の大きな学問的糧を引きだされ,ウイルヒョウの人柄や社会的活動にも多大の感銘を受けていられたようである.先生は難解なウイルヒョウの「細胞病理学」を完訳され,また最近「細胞病理学雑記帳」と題する独創的なお考えを盛り込んだ随想風の読物を連載されている.
 1855年から約半世紀の間は,主として人癌組織の形態発生や分類の研究が行なわれ,その基盤の上に,1915年には山極,市川両先生の有名なタール癌が,世界で初めてつくられ,近代癌研究の新しい出発点となった.

研究

免疫拡散板による血漿フィブリノゲン測定法の検討

著者: 宮谷勝明 ,   中村容子 ,   萩野冨美子 ,   川島静 ,   高畑譲二 ,   福井巖

ページ範囲:P.780 - P.782

 血漿フィブリノゲンの測定法として,Cullen-VanSlykeによって開発されたフィブリン凝塊をKjeldahl法にかけて,その窒素を定量する術式が最もすぐれているとされている1).これには数多くの変法があり,その中で臨床検査によく用いられる方法として,Folin-Ciocalteu試薬で発色させて比色する方法2,3)や凝塊の重量を秤る方法4)などがある.これらの方法は操作が複雑であるのに対して,比濁法5,6)は簡単な操作で迅速にフィブリノゲンを定量しうることと,その定量値がCullen-Van Slyke変法によく一致する点で推奨されている1).最近,これとは別に免疫学的な方法7,8)が導入されるようになったが,著者らはManciniら8)によって開発された一元平板免疫拡散板を用いて測定を行なう場合の測定条件について検討を試みたので,その成績を報告する.

毛細管を用いてのRA-Testの検査成績について

著者: 鈴木武雄 ,   福士逸寿

ページ範囲:P.783 - P.785

 リウマチ様関節炎の患者血清中に存在するリウマチ因子の検出には,日常検査では,ポリスチレンラテックスにヒトγ-グロブリンを吸着させ着色をした試薬,いわゆるラテックス凝集反応のスライド法ともいえるRAテストが一般に用いられているが,現在市販されている国産,外国製品の試薬の性能についてのさまざまな批判が指摘されている1).また用いる試薬の差よりは,むしろ検査者の判定基準,なすわち判定時の眼を問題にすべきであるともいわれている2).最近著者らはRAテストの精度と再現性を高める目的で,RAテストの毛細管による検査法を開発したので,同一患者血清について従来のスライド法との比較試験を行ない,また毛細管法で陽性を示した慢性関節リウマチ患者血清の一部について,ロイマスライドとの比較も行なった.ロイマスライドはRFを特異的に検出する検査法の1つといわれている間接凝集反応によるローズ簡易法である.

新しいキットの紹介

ラテックス凝集反応によるオーストラリア抗原の検出法

著者: 伊藤忠一 ,   塗たか子 ,   福岡良男

ページ範囲:P.786 - P.788

はじめに
 Australia抗原(Au抗原)といろいろな疾患とのassociation studyはかなり明らかにされてきつつあるけれども,まだその完成にはほど遠い.このようなassociation studyの完成にとって決定的な方法論上の隘路があるからである.方法論上の隘路として2つのことをあげることができる.1つはAu抗原の多様な抗原性であり,ほかは検出法の感度の問題である.
 われわれは非常にしばしば‘Au抗原陰性血液’を輸血に用いたにもかかわらずAu抗原陽性のB型ウイルス性肝炎が発症するという奇異な現象を経験している.しかし,これを真実奇異となしうるであろうか.われわれが用いているAu抗原検出法の感度が鋭敏でないため一見‘Au抗原陰性’実は‘Au抗原陽性’である可能性はきわめて大きい.これはAu抗原検出法の感度と特異性を改善する研究の過程においてだいたい証明されてきた事項として著者は考えている.

血清モノアミンオキシダーゼ測定キットの検討

著者: 尾辻省悟 ,   西村辰志 ,   西川正二

ページ範囲:P.789 - P.793

はじめに
 最近血清モノアミンオキシダーゼ(以下MAOと略す)活性値が慢性肝疾患1,2)をはじめとして諸疾患3-5)の診断に役だつことが報告され,しだいに臨床検査に応用されつつある.
 MAOは次式の通りモノアミンの酸化的脱アミノ反応を触媒する酵素で活性値測定はこの反応に基づくものである.

霞が関だより・14

試験と免許と……

著者:

ページ範囲:P.794 - P.794

 去る2月11日の第7回理学療法士作業療法士国家試験(第1次試験)を最初に,そして5月19日の第3回視能訓練士国家試験を最後に,厚生省医務局で実施する全部で12種目に及ぶ医療関係者の48年春の国家試験が終了した.これら12種目の試験実施に伴う合格者の発表がつぎつぎに行なわれている.
 試験合格者数を47年春の実績によってみれば,看護婦の11,489人を最高に,作業療法士の40人を最低として,全部で約28,000人となっている.受験者数あるいは合格者数は養成定員数と密接な関係にあることはいうまでもないが,このなかでも絶対数あるいは就業者数が不足している医師,歯科医師,看護婦については,今後とも養成施設の新設や既養成施設に対する定員増という措置が積極的に進められるであろうから,職種全体としての受験者数(合格者数)が一時的に減少するという事実があるとしても,再び増加の方向をたどることはまちがいないところである.(一時的減少を伴う職種としては,身分の制度化に伴う受験資格の特例が認められている臨床検査技師(最終期限,昭和52年12月末)などわずかにすぎない.)

走査電顕の目・7

金米糖状赤血球

著者: 小川哲平

ページ範囲:P.797 - P.798

 赤血球膜は常に二次元の膜を作りやすい性質を持ち,外力で膜がきれてもすぐ穴が修復される.赤血球の崩壊つまり溶血には断片化(fragmentation)が重要な役割をし,金米糖状赤血球(crenated red cell)は断片化の前段階と考えられる.
 赤血球特有の中央部凹の円盤状という形態の維持は,ATPの膜に対する働きの1つとして重要なものと考えられている.中尾(真)らによるとATPのレベルが正常値の半分以下になると金米糖状に変形し,さらに1/10以下になると平滑球になる.この形状の変化は可逆的でATPレベルの低下した血液にアデニンとイノシンを添加して,ATPレベルを正常に戻すと特有の円盤状形に戻る.しかし,ATPがどのような機序で赤血球形態を維持するかについては明らかではないが,大西は赤血球膜からアクチン様およびミオシン様タンパク質を抽出したという.

シリーズ・一般検査 尿検査・1

検尿の誤りを防ぐ

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.799 - P.800

尿検査は一般検査のなかで最も検体数が多い.検査者は定性,定量,鏡検など検査項目ばかりに気を取られ,採取上のまちがいや検体の受け付け,報告など事務的処理の誤りなどには案外無関心なものである.
検尿の過誤を防ぐ第1のポイントは,検査の手順をよく整理してとりかかることにある.また,たいせつなことは,尿の清濁,色調,臭気などに多くの情報が含まれており,決してなおざりにしないことであろう.

私たちの検査室

創意をこらした中小病院検査室—更埴中央病院検査室

ページ範囲:P.801 - P.804

更埴中央病院は川中島古戦場,月の名所姨捨山の近くで千曲川の清流のほとりにあり,診療圏を主として人口3万3,000の更埴市としている典型的な地方の一般病院(96床)である.
地域住民に密接な関係をもちつつ‘患者のためになる医療の供給’をモットーに経営を進めており,市の老人健診,妊婦健診などでは主として検査部門で積極的な協力を行なっている.検査室は120m2ほどの面積だが,機能性,安全性の面で創意・くふうが実行されており,小数の技師がむだなく効率の高い業務ができるよう配慮されている.これは,中小病院検査室の一つのパターンを示すものと思われる.

検査と主要疾患・7

全身性エリテマトーデス

著者: 有森茂

ページ範囲:P.806 - P.807

 膠原病といわれる疾患群の中で,最も多彩な症状と検査所見を呈するのが,全身性エリテマトーデスである.本疾患の原因はまだわかっていないが,全身の結合組織に,フィブリノイド変性を中心とした慢性炎症像を認めることができる.その病変は血管の変化が主流で,病変の範囲も,皮膚や腎臓以外に,脳・神経,眼底,リンパ腺,胸腺,心臓,肺,肝臓,胃腸,膵臓,骨髄,甲状腺,性腺,骨格筋,骨・関節と五臓六腑にわたっていると考えてよい.このように完成した全身性エリテマトーデスは,臨床症状からだけでも診断は容易であるが,軽症あるいは緩解期にある全身性エリテマトーデスと,非定型的エリテマトーデス,たとえば溶血性貧血が主体であったり,大腿骨頭壊死が唯一の臨床所見であったり,血小板減少性紫斑病とかネフローゼ加味慢性腎炎が現在の診断名であったり,Raynaud現象や,末梢神経炎(多発性神経炎),更年期障害程度で見すごされている症例になると,これからのべる検査所見がはなはだ有力な武器となる.

検査機器のメカニズム・19

ILメーター

著者: 白石透

ページ範囲:P.808 - P.809

 ‘ILメーター’とは,血液用pHメーター,CO2分圧測定用のSeveringhaus電極,O2分圧測定用のClark電極を組み合わせたもので,アンプは共通で,切替スイッチで各々の値を読み取るようになったものであり,本来は米国In-strumentation Laboratory社製セットの商品名であるが,類似の装置も数種にのぼり,なかば普通名詞的に扱われているようであるので,ここではそのように解釈し,解説する.
 上に述べた3つの電極は,すべて恒温槽の中に組み込まれていて,生体内と同じ37℃で測定しうるようになっており,さらに,較正用混合ガスを水蒸気で飽和させるためのガスヒュミディファイアーが組み込まれている.

検査室の用語辞典

自動化学分析

著者: 北村元仕

ページ範囲:P.811 - P.811

31)Glass fitting;ガラスフィッティング
  ガラス製の接続子.→fitting

細菌学的検査

著者: 坂崎利一

ページ範囲:P.812 - P.812

39)Growth factor;発育素
 菌はその発育と増殖のため,栄養素以外の特殊な物質を必要とする.この物質は発育素と呼ばれ,一般には多くのビタミンがこれに該当する.発育素は補酵素として作用し,多くの菌では細菌細胞自身がそれを合成するが,ある菌ではその能力を欠く.そのような菌では人為的にその発育素を培地に加えてやらないと発育しない.菌の要求する発育素にはいわゆるビタミンのほか,葉酸,ニコチン酸,DPN,ヘミンなどがある.

Senior Course 生化学

LDH Anomaly

著者: 内田壱夫

ページ範囲:P.813 - P.813

 1.LDH Anomaly報告の概要
 LDHアイソエンザイムのパターン異常(以下LDHAnomalyと略す)には,遺伝的素因によるものと,LDHが修飾されたものに大別される.その電気泳動像は多様であるが,長嶺1)は,(1)各分画の泳動位置の異常,(2)過剰分画の出現,(3)正常分画の欠損,(4)ある分画の活性増加の4型に分類し,これらの異常が単独にみられる症例,いくつかの異常を兼ねそなえた場合がある.今日までに報告されているLDH Anomalyの症例は以下のごとくである.
 A.遺伝子レベルの変化によるもの:Boyer, S. H. etal2), 1963.Kitamura, M. et al3), 1971.

血液

骨髄像の見かた,考えかた(7)—細胞形態観察の基礎

著者: 桑島実

ページ範囲:P.814 - P.814

 末梢血液細胞の形態観察は主に,赤血球系,顆粒球系,リンパ球系などのそれぞれの系列で分化と成熟の最終段階にある細胞相互を,その特徴ある形態から分類することに主眼が置かれている.これに対し骨髄では各系列相互の分類に加えて,それぞれの系列のうちで分化と成熟に従って段階的に分類することが加わる.
 骨髄細胞の分類がむずかしい点は,1つの系列のうちで細胞そのものが不連続に分化,成熟するのではなく連続しているため常に中期の形態をもつ細胞があること,分化と成熟の初期に各系列相互の形態が似ていることなどがあげられる.そこで今回は主に前者に関連して,成熟過程に伴う細胞形態の変化を理解するのに必要な基本事項について整理してみる.

血清

Lymphocyte Mediators(4)—標的細胞障害現象について

著者: 伊藤忠一

ページ範囲:P.815 - P.815

 移植免疫や腫瘍免疫に対する細胞性免疫の成立の有無は,それに感作されている同種あるいは同系動物のリンパ球を介して起こる標的培養細胞(target cell)に対する障害性の有無によって知ることができる.in vitroの検査法としては,
 (1)核の濃染・濃縮,胞体の濃青染,細胞溶解などの形態学的変化を顕微鏡によって観察する方法.

細菌

細菌の名は学名で記載しよう

著者: 藪内英子

ページ範囲:P.816 - P.816

 戸籍簿に記載されている私たちの本名は1つしかない.しかも本名を外国語に翻訳することはできない.細菌の名についても同じことがいえる.亜種subspecies以上の分類学的群taxon(複数はtaxa)すなわち目order,科family,族tribe,属genus,種species,および亜種はそれぞれただ1つの正しい名,学名をもっている.正しい名とはそのtaxonに対してつけられた最初のラテン語名でしかも国際細菌命名規約に適合しているものをいう.細菌の種名specific nameは属名genericname,たとえばPseudomonas,とそれに続く単一の種形容語specific epithet,たとえばaeruginosa,の組み合わせで成りたっている.そして属名または種形容語のどちらか一方で種名を代用することはできない.P.aeruginosaに対して古くから用いられてきたいろいろな翻訳名,たとえば緑膿菌,green-pus organism,Pyocyaneusbazillen,bacille de pyocyaniqueなどはもはや学名ではなく通俗名である.genus Pseudo-monasにはP.aeruginosa以外に多数の菌種が含まれており,family PseudomonadaceaeにはPseudo-monasの他XanthomonasやAeromonasなど全部で12の属がおかれている.このように複雑なfamily Pseudomonadaceaeを緑膿菌科と翻訳することはいろいろな誤解を生むもとになる.同様なことは各種のtaxaについていうことができる.

病理

核酸の染色

著者: 掘浩

ページ範囲:P.817 - P.817

 1.DNAのためのFeulgen反応
 これはDNAの含むデオキシリボースを塩酸で処理して生ずるアルデヒド基をシッフの試薬で発色させる方法で広く用いられている.DNA量と反応の間に定量的関係が存在するので,顕微分光測光法によって細胞の含むDNA量を定量することができる.ただし,前述のごとくほかの細胞の含むDNA量に対する相対的値しかえられない.
 1)切片作製法

生理

分娩監視装置

著者: 木村雄治

ページ範囲:P.818 - P.818

 最近,胎児心音,陣痛強度など胎児情報を中心にした分娩監視装置の活用が盛んになってきているが,CCU,ICUなどの分野に見られる監視装置がその測定精度をあげ種々の情報処理を行ない判断機能を加えて臨床検査・診断などに役だってきているのに比べて本装置はいまだに測定結果の記録にとどまっている状態である.長時間記録したものを見て分娩の経過とその後の進行状態を予測することは必要なことであるし,さらには母体心電・胎児心電などを加えて適確な判断を行なうことも重要なことは当然である.それゆえにこの種の装置が年々増加し活用の度合を深めているのである.
 しかし,ここで問題にしたいのは,これをより有効な方向に発展させるためにどのようなことを考えたらよいかという点である.成人の心電・心音・血圧・脈波などの計測では信頼性の高い信号が得られその上に立って情報処理が行なわれているが,いまさらと思われるかもしれないが胎児情報の計測技術はまだ十分確立されたとはいえない.たとえば次のようなことがあげられる.

My Plannning

続・検査技師とはどうあるべきか

著者: 清水一枝

ページ範囲:P.819 - P.819

 4月号本欄にて,小島けい子さんが,‘検査技師とはどうあるべきか’と題して検査技師という職業の独立性を訴えておられましたが,それに関連して,私自身,病理検査にたずさわっている1人として,ふだん考えていたこと,経験した事柄を述べてみます.皆さんのご意見(プラン)はいかがでしょうか.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?