icon fsr

雑誌目次

論文

臨床検査20巻2号

1976年02月発行

雑誌目次

カラーグラフ

パラフィン切片による脂肪染色の試み

著者: 諏訪幸次 ,   須山貞子 ,   長嶋和郎

ページ範囲:P.126 - P.127

 組織の脂肪染色は凍結切片にて染色するのが常識となっている.理由は,パラフィン標本作製過程で使用する有機溶媒で脂肪が溶解,消失してしまうためである.しかし脂肪染色がパラフィン切片で可能となれば,技術的な面ばかりでなく,研究や組織診断の方面で極めて有益な手段となることはいうまでもない.類脂質安定固定剤である重クロム酸カリと四酸化オスミウムとの混合液で再固定を行うことにより脂肪の溶解を阻止し,パラフィン切片での脂肪染色が可能となることを経験したのでここに紹介する.
 注図2以外はすべての厚さ6μmのパラフィン切片,脂肪染色漂本である.カラー写真はKodak PCFのフィルムを使用し,Photomax(ナリンパス製)で撮影した.現像は医学写真研究所に依頼した.

技術解説

リポタンパクの電気泳動法と免疫学的定量法

著者: 大島寿美子 ,   中野栄二 ,   土屋俊夫

ページ範囲:P.129 - P.134

 血清リポタンパク(以下Lpと略す)の分画法には,Lpの種々な性状を利用した多くの方法がある.人別すると,LP分子の比重(密度)の差を利川した超遠心分析法,電気的易動度の違いを利川した電気泳動法,抗原性を利用した免疫学的方法,高分子のポリアニオンとの親和性を利用した沈殿法などがある.現在,日常の臨床検査として多く川いられている方法は電気泳動法と免疫学的沈降法である.電気泳動法は,Lees&Hatchの改良した炉紙電気泳動法が臨床的応用の基礎を確立し,LP分画が臨床検査として普及させることに重要な役割を果たした.しかし現在では,電気泳動の支持体はセルロースアセテート膜やアガロースゲルが多く用いられるようになり,より簡易化されている.免疫学的沈降法はβ—Lpおよびpre—β—Lpがほぼ同一の抗原性を有することから,抗β—LP血清を用いた毛細管法やsingleradial immunodiffusion法が高脂血症のスクリーニングテストとして応用されている.
 ここでは,日常検査に最も多く用いられているオゾン化シッフ染色法を川いたセルロースアセテート膜電気泳動法と,脂溶性色素(Fat Red 7 B)染色を行うアガロースゲル電気泳動法,泳動像の読み方,それに免疫学的方法である毛細管法とsingle radial immunodiffusion法について述べる.

血小板粘着能検査—ガラスビーズ法

著者: 安永幸二郎

ページ範囲:P.135 - P.140

 血小板は止血血栓の形成に重要な役割を演ずるから,その減少や機能低下は出血傾向を生ずるが,逆に血小板の増加や機能亢進は血栓傾向を招来して問題となる.血小板機能のうち,最も重要なものはその理学的な機能ともいうべき粘着(adhesiveness)と凝集(aggregation)であって,これらの検査は先天性血小板機能異常症の診断に不可欠であるのみならず,近年,虚血性心疾患,糖尿病など,血栓傾向の予防的治療に際して大きな注目をひくようになった.
 血小板粘着能の測定には古くから種々の方法が考案されてきたが,現在ひろく用いられているのはSalzman法1)およびHellem II法2),ないしそれらの変法である,その原理は一定の大きさのガラスビーズを一定量(したがってガラスビーズの表面積が一定となる)を詰めた管内を血液を通過させ,その前後の血小板数を測定して,減少した血小板数(いわゆる粘着血小板)の比率(血小板粘着率を求めるものである.Salzman法が被検者よりガラスビーズ管を通して吸引採血するのに対し,Hellem II法はいったん採血した後ガラスビーズ管に血液を押し出して通過させるものである.Hellem I法は抗凝固血を用いたが,抗凝固剤は血小板粘着能を低下させるから,ナマの血液をそのまま通過させるほうが良い.

パラフィン切片による脂肪染色の試み

著者: 諏訪幸次 ,   須山貞子 ,   長嶋和郎

ページ範囲:P.141 - P.144

 歴史的にみると,脂肪を組織学的に染色する最も古い方法はosmium tetroxide (四酸化オスミウム,以下OsO4と略す)の還元法であり,OsO4は不飽和脂肪酸と反応して黒色のOsO2(二酸化オスミウム)に変化することを利用したものである.髄鞘もOsO4で黒くなるが,Marchi(1892)は,クロム酸液で前処置を行うと変性した髄鞘のみが黒色を呈することを報告し,以後この固定液は変性髄鞘検索法CMarchi法)として利用されている1)
 一方,現在電子顕微鏡標本の固定液として用いる四酸化オスミウム(OsO4)に固定された脂質はアルコール不溶性となることも実証されている2).また,重クロム酸カリ(K2Cr2O7)も類脂質安定固定剤であることも知られており3),したがってOsO4とK2Cr2O7とを両方含んだ液で固定することにより,パラフィン包埋でも脂肪の溶出を防ぐことが当然期待され,既にLuna (1960)4)はこの固定剤を用いたパラフィン切片による脂肪染色を勧めている.

総説

病原菌—最近の動向

著者: 清水喜八郎

ページ範囲:P.145 - P.149

 最近の感染症の変貌は著しい.いわゆる強毒菌といわれる菌による感染,発病伝搬力の強い従来の法定伝染病は,姿を消したか,あるいは,その発生頻度は,著しい減少を示している.それに比して,一般の感染症は死亡率は減少したことは事実であるが,必ずしも,その発生数は,減少していないと考えさせる現象にすら遭遇することがある.
 感染症は寄生体と,宿主の相互関係によって成立つがゆえに,感染症の変貌は,一つは病原菌の変化であり,一つは宿主側の変化であると考えられている.

症例を中心とした検査データ検討会・7

免疫異常を呈した症例

著者: 川村直輝 ,   阿部喜久子 ,   荒木妙子 ,   岩田進 ,   大塚昌子 ,   河野均也 ,   中野栄二 ,   土屋俊夫

ページ範囲:P.150 - P.154

 司会(中野) 本日の症例は免疫不全症の一例で,検査データは免疫機能に関する検査が中心になっています.最近,免疫に関する知見が急速に発展しており,これに伴い,免疫機能を知るための新しい検査法が日常臨床検査として導入されつつあります.このデータ検討会では,このような新しい検査について検討するのは初めてなので,今日は特に河野助教授に解説していただきながら話を進めたいと思います.
 では,尿一般検査からお願いします.

異常値・異常反応の出た時・38

出血時間の延長

著者: 山中學

ページ範囲:P.155 - P.160

 生体の止血能をみるためのin vivoでの検査法としては,わずかに毛細血管抵抗試験と出血時間測定があるだけである.出血時間は止血の最初の反応における血小板機能を測定する方法で,手技も比較的簡単なために,日常の出血素因検査法として広く行われている.

私のくふう

2連球利用による濾過法

著者: 黒河和彦

ページ範囲:P.160 - P.160

 最近中性脂肪,とりわけトリグリセリドの測定が行われるようになった.定量法として化学的測定法と物理的測定法がある.物理的測定法として,0.1nmのボアサイズのメンブランフィルターで希釈血清を源過し,散乱光を測定することにより内因性トリグリセリドを検出する方法がある.これだと生理食塩水使用により経済的であり,短時間に簡単な操作で測定できる.
 T社のTGメーター炉過器のエアーポンプ使用に当たり気付いた点は,かなりの握力を必要とすることで,これに代わる方法を考えてみた.

臨床化学分析談話会より・30<関東支部>

リポタンパクの代謝をめぐって—中性脂肪の酵素法

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.161 - P.161

 第186回分析談話会関東支部例会(1975.10.21)は東大薬学部記念講堂にて"なぜいけないか,本当によいかシリーズ"の4)として中性脂肪の酵素法について話題提供が行われた.
 話題提供者は,酵素法による測定法に関して大阪大学中検の高橋十郎氏であり,その臨床的評価については慶応大学内科の秦葭哉氏,discusserとしては都養育院の野間昭夫氏であった.

中検へ一言・中検から一言

危険なマンネリズムから脱する,他

著者: 平田清文

ページ範囲:P.162 - P.163

 臨床経験25年の過去を顧みて,臨床検査室は中央検査室(中検)としてシステム化され,その役割は将来ともにますます高く評価される段階にあるといえましょう.かつては臨床医自ら行っていた一般検査はもちろん,臨床のかたわら研究室で行っていた多くの特殊検査についても,現在は検体と依頼状を送れば,容易に成績(測定値)が得られるよう,臨床医学は大変進歩してきたことを切実に感じています,しかしその反面,中検の高度なシステム化に伴って,医師側にも中検側にも,様々な問題が指摘されるに至ったことは残念なことです.例えば医師側についていうと,検尿,検便,末梢血検査などの基本的手技を忘れ,中検なしには何も診断できないあわれな医師(?)もいる事実を否定できないのです.また多数の検査項目を指示しても,その成績や意義についての適切な評価ができない医師も少なくないと思われるのです.他方,中検側については,中検の作業がとかく制限時間のある機械的な流れ作業であることが多いため,医療における検査技術の重要性を忘れがちになることも否定できないように思われます.そこで中検への進言として,日ごろ感じていることを,順次列記したいと思います.①いかなる臨床検査においても,作業の開始前,常に測定原理と手技の再確認を要し,再現性のある確実な成績を報告することです.マンネリズムに陥り,無関心な作業を行うことは誤りを起こすもとです.

座談会

環境汚染をどう防止するか—検査室の立場から

著者: 宮慶二 ,   白戸四郎 ,   三村秀一 ,   松村義寛

ページ範囲:P.164 - P.174

 最近,特に六価クロムなどの環境汚染問題がクローズアップされ騒がれたが,これらを常時扱っている検査室の立場として,周りに迷惑をかけないよう配慮するには,この問題にどのように係わりあいをもってゆけばよいのだろうか.

質疑応答

希釈倍数と不溶血について

著者: G生 ,   松橋直

ページ範囲:P.175 - P.175

 問 梅毒血清反応の緒方法の定量検査の判定のときに抗体希釈倍数が高くなるにつれて不溶血を示すときにはどのようなことが考えられるのでしょうか.

研究

各種血球によるASO値の検討

著者: 清水初子 ,   鈴木久枝 ,   大谷純子 ,   浅川英男

ページ範囲:P.176 - P.178

はじめに
 レンサ球菌の感染が病因となる疾患は多く,リウマチ熱,腎炎,扁桃腺炎,猩紅熱,丹毒などがよく知られている.レンサ球菌の90%以上がA群に属するβ溶血性レンサ球菌であり,これが起因菌となって上記の疾患を引き起こす.このA群レンサ球菌には種々の抗原性物質を含んでいるので,それに対する抗体を追跡することは溶連菌感染の有無の指標となりうる.その最も代表的なものがASOであり,今日広くルーチンの検査法として使用されている.Rantz-Randall法1)が広く普及したが,日常検査においては検体数の増加とともに血清を半量使用する方法2)に移り,更にマイクロタイター法に移行するすう勢にある.しかしマイクロタイター法3-5)にするのには使用する血球,Rantz-Randall法のtodd単位との対比の問題など,検討すべき多くの余地を残している.そこで今回は,まずマイクロタイター法で行うに際して各種の入手しえた血球を用いて比較検討し,興味ある成績を得たので報告する.

DNA被覆赤血球凝集反応による抗核抗体検出について—螢光抗体法との比較および甲状腺疾患における出現頻度

著者: 幸地良勝 ,   新井加余子 ,   奥間啓一 ,   網野信行

ページ範囲:P.179 - P.181

はじめに
 抗核抗体測定は自己免疫疾患,なかでも全身臓器に障害のみられるSLEの診断治療上の重要な指標の一つとなっている.対応する細胞核抗原も核タンパク,DNA,核可溶性抗原,ピストンおよび核小体タンパクなどの成分に分けられ検索がされているが1),これらのうちDNAに対する抗体はSLEの病像と最も深い関連があるものとして注目されている2).血中抗核抗体の検出法には従来より種々の方法が考案されているが,現在日常臨床検査としてはLE細胞現象,Coonsの間接螢光抗体法が最もよく普及している.核抗原は臓器特異性がなく,したがって抗核抗体測定も一般には全身臓器に障害のみられる自己免疫疾患につき行われているが,逆に慢性甲状腺炎などの臓器特異性のある自己免疫疾患での出現頻度に興味がもたれる.今回,私たちは受身赤血球凝集反応を用いた抗DNA抗体検出法と従来よりの螢光抗体法とを比較検討した.更に両測定法を用いて臓器特異性自己免疫疾患も含めた各種甲状腺疾患における抗核抗体の出現頻度を調べ,抗甲状腺自己抗体との関連を検討した.

血球酸ホスファターゼ染色の改良法について

著者: 榊尚男 ,   松田百合子 ,   小林詳子 ,   柴田昭

ページ範囲:P.182 - P.185

緒言
 酸ホスファターゼ(以下SPと略す)は,細胞質のlysosomeに含まれる非特異的phosphamonoesteraseで,酸性域(最適pH 5.2)においてo-リン酸モノエステルを加水分解する反応を触媒する代表的な加水分解酵素である.
 血球中の本酵素の細胞化学的証明法には,大別して,Gomori1)による金属塩法すなわち,β-glycerophospha-teより酵素によって遊離するリン酸イオンを金属イオンによって置換呈色させる方法と,Seligman2)らによるアゾ色素法,すなわち,naphtholphosphateから加水分解によって遊離するナフトールをジァゾニウム塩と反応させて呈色検出する方法の2法があるが,今日,光学的証明法では一般に特異性,染色穎粒の鮮明さ,再現性,手技の簡便さなどに優れるアゾ色素法が多く用いられている.

新しい精子運動能の測定法

著者: 高橋勝治 ,   白井将文 ,   光川史郎 ,   石井延久

ページ範囲:P.186 - P.187

はじめに
 従来,精液検査は専門分野,特に婦人科,泌尿器科などにおいてのみ行われていた.この検査の内容は運動率,生存精子,死滅精子,精子数などを検査し,それらの結果と妊娠との関係について検討されてきた.これら精液検査のうち運動率の算定は,慣れない者にとっては非常に難しく,算定誤差も20〜30%と個人差が大である.また,従来の運動率算定法では妊娠とは直接関係しないような動きを示す精子も算定されてしまうので,これらの欠点を除外するため,我々はだれにでも簡単に算定でき,しかも再現性の良い新しい精子運動能測定法を考案したのでここに紹介する.

特別寄稿

10年ぶりの米国の検査室

著者: 西部ひな

ページ範囲:P.188 - P.189

 十年前,筆者は第18回アメリカ臨床化学会(Miami)に出席したついでに,いくつかの病院を見学した.アメリカではオートアナライザーが全国に普及し,SMA−12が出始めたころである.オートアナライザーでできる検査しか行っていないような検査室(Boston)もあった.
 今回,第9回国際臨床化学会(Toronto)に出席する機会を利用し,アメリカの検査室—University ofWashington (Seattle),Sacred Heart Medical Center(Spokane),Roswell Park Memorial Institute(Bu-ffalo),NIH CIinical Center (Bethesda)──を訪問した.ここに,今回の訪問で気がついた点につき述べてみたい.

新しいキットの紹介

イムノリングによる血清免疫グロブリン測定法の検討

著者: 宮谷勝明 ,   高畑譲二 ,   福井巌 ,   金田吉郎

ページ範囲:P.190 - P.192

緒言
 免疫グロブリンであるIgA, IgMおよびIgGの測定法としては,Oudin Tubeを用いる方法1),Ouchte-rlony法2),Schultze and Schwlckの方法3),一元平板免疫拡散法4)などがあって,それぞれ特徴を有するが,なかでも一元平板免疫拡散法については各社で製品化され,日常検査の一つとして広く用いられるに至っている.
 著者らはBehringwerke,医学生物学研究所(以下MBLと略記)の免疫グロブリンについては既に報告5,6)を行ってきたが,今回は日水製薬で開発されたイムノリングIgA, IgMおよびIgGを用いて行う場合の測定条件について吟味を加えたので,その成績を報告する.

ジアゾ化パラニトロアニリン反応によるVMA定性試験紙の検討

著者: 山田正明 ,   相沢俊子 ,   渡部咲子 ,   小川秀一

ページ範囲:P.193 - P.196

はじめに
 尿中VMA (3—methoxy−4—hydroxymandelic acid)の検出は,神経芽細胞腫や褐色細胞腫の診断に重要であることは周知のごとくである.
 VMAの定性検査法には,ジァゾ化パラニトロアニリン反応による尿1滴法1),試験管法2)および試験管抽出法3),半定量法にはGitlow法4),更に定量法としてTLCによる方法5,6)およびSunderman法7)があげられる.

リンテストによる血清中無機リン測定法の検討

著者: 大井昭代 ,   荻三男 ,   荒木仁子

ページ範囲:P.197 - P.199

緒言
 血清中無機リンの測定法は,一般的に酸性のもとで無機リンをモリブデン酸と結合させて生成されるモリブデン青を比色定量する.還元剤として,Fiske-SubbaRow1)およびその変法2,3)ではamino-naphthol-sulfon酸を使用する方法で,現在でもこの方法が主に日常検査に採用されている.Lowry-Lopez4)はアスコルビン酸を還元剤に使用しモリブデン酸濃度を下げ不安定リン酸の加永分解を5%以内に下げた.高橋5)は,酸性においてリンモリブデン酸をイソブタノールに抽出分離しアスコルビン酸で還元させ発色を安定させた.この方法では不安定有機リン酸の分解が全く起こらないことを報告している.また,微量法としてTaussky法6)を改良し簡便化させたGoldenberg法7),および久城ら8)による塩化第一錫を用いる方法などがある.しかし,これらの方法はすべて除タンパク操作を行うため操作が煩雑である.今回,L—アスコルビン酸(還元剤)を錠剤化し,除タンパク操作を行わず,迅速に無機リンの測定が行えるリンテスト(関東化学製造,中外製薬販売)について基礎的な検討を行ったので報告する.

ACTH測定用キットの検討

著者: 福地總逸 ,   中嶋凱夫 ,   高橋哲之助

ページ範囲:P.200 - P.204

緒言
 下垂体より分泌されるACTHは,副腎皮質ホルモン分泌の調節を介して,生体の代謝に重要な役割を演じているので,古くからその測定の必要性が注目されている.しかしACTHの血中濃度は低く,かつ高い抗体価をもつ抗血清の作製が困難なだけでなく,生物活性に一致したN末端抗体を得ることが難しいため,ACTHのラジオでムノアッセイは他のペプチドホルモンに比較してキット化が遅れていた.我々は,最近,科研化学から英国のRadiochemical Centerが開発したキットを提供され,若干の基礎的検討を行ったので発表する.

日常検査の基礎技術

ガラス細工

著者: 木下義夫

ページ範囲:P.205 - P.212

 日常生活を営むうえて一日たりとガラスの恩恵なしに過こすことはてきない.ガラスか我々の生盾を支えているのてある.特に臨床医学の分野における理化学ガラス器具の役割の重要性については,いまさら多言を要しない.そこで,ガラス細工の基本技術を修得しているならは,現場での簡単な破損品なら更生させることもできるし,緊急の用に役立たせることもできる.例えは,フラスコ,試験管,メスシリンダーなと,リンプの壊われ程度なら専門家の手を煩わすまてもなく,実験室内で簡便に修理できる、技能は反復の訓練によってのみ上達する.ガラス細工の技術も同様であり,余暇を利用し練習されることを望みたい.明日の臨床医学の進歩と発展のために,ガラス細工の基木技術の一端を述へ参考に供したい.

検査と主要疾患・38

脳腫瘍

著者: 神保実

ページ範囲:P.214 - P.215

 脳腫瘍とは,頭蓋内に発生する新生物の総称であるが,これを二つに分けることができる.一つは,脳組織そのものから発生する腫瘍で,神経膠腫といわれる.神経膠腫は浸潤性に脳を侵し,いわば悪性の脳腫瘍である.手術による根治は不可能である.脳腫瘍全体の30〜40%を占める.他の一つは,同じく頭蓋内に発生するのであるが,脳組織以外の組織,例えば,髄膜,脳下垂体,脳神経,胎生期の遺残物などから発生する腫瘍である。髄膜腫,下垂体腺腫,聴神経腫瘍,頭蓋咽頭腫などである.これらの腫瘍が脳を圧迫するわけであるが,周囲脳組織との問に境界鮮明な被膜をもって発育するため,手術によって根治可能である.脳腫瘍全体の約40%を占める.以上の大ざっぽな分け方では律しぎれない脳腫瘍ももちろんあるわけで,その中で大切なのは転移性脳腫瘍である.これは癌の脳転移であって,通常,原発巣から血行性に脳に転移する.いわゆる癌が最初から脳に発生することはない.
 頭蓋内には,脳がコンパクトに納められているから,そこに余計な新生物が発生すれば,当然のことながら頭蓋内圧が上昇してくる.頭痛,嘔吐,眼底のうっ血乳頭などが圧上昇の症状である.また,脳組織を圧迫して,種々の神経症状を呈する.片麻痺,てんかん,視力,視野の障害,運動失調などであるが,場合によっては精神症状をも呈する.脳腫瘍の診断で大切なことは,これらの症状はいずれも進行性であるということである.

検査機器のメカニズム・50

血清自動分取装置

著者: 一木貢 ,   根本利夫

ページ範囲:P.216 - P.217

 最近の臨床検査法の進歩は著しいものがあり,その重要性は日ごとに高まっている.現在は血液検査をする場合,採血した血液を遠心機で遠沈し,血清(上澄)と血餅に分離し,血清のみをピペッターなどでサンプルカップに手分取している.そのため多くの人手と時間を要するばかりでなく,検体数の増加に伴って,直接検体に手を触れる機会も多くなり,血清肝炎の感染にも気を使わなければならない.
 血清自動分取装置(SD−2形日立血清自動分取装置)はこれらの要求に応え,遠沈後の上澄の血清を分取する操作を自動化したものである.

検査室の用語事典

精度管理用語

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.219 - P.219

15)管理限界;control limit
検査室,工場などでのX—R管理図における管理限界としては普通±3σがとられている.すなわち,安定状態であれば,1,000の測定値のうち3個のみがこの限界を越えることになる.

臨床検査のコンピューター用語

著者: 鈴木孝治 ,   春日誠次

ページ範囲:P.220 - P.220

11) Analog-Digital Converter (アナログ・ディジタル変換器);AD変換器
アナログ信号を量子化して,ディジタル信号に変換する装置で,機械量のAD変換には符号板方式が,電圧,電流のAD変換には計数型,逐次比較などのAD変換器が使われる.本装置の性能として,変換速度と,ディジタル量(ビット数)が問題となり,1μs〜数msの変換速度で8〜12Bitのものが使われている.

学会印象記

第26回電気泳動学会—重点は"分離"から"解釈・意義"へ

著者: 中島弘二

ページ範囲:P.221 - P.221

 新しい方法の開発が科学の各分野で飛躍的な発展と重要な貢献をなすことは周知の事実であり,特に医学の分野においてはそれが応用科学であることから,分析法の開発改良はそれ自体が病気の解明,患者の診断治療に役立つ事実を提供する.
 チゼリウス電気泳動の日本での第1号が完成すると同時に発足した電気泳動学会は25回にも及び,日本での電気泳動法の進歩,発展の中心となり,それが医学,生物学,化学の各分野で果たした役割は大きい.臨床検査の分野においても血清タンパク分画,アイソザイム,リポタンパクなどの日常検査とともに特異抗血清を使った免疫電気泳動,ロケット電気泳動などの応用範囲が広い.

Senior Course 生化学

—臨床化学検査における酵素化学—酵素による定性・定量分析 Ⅱ

著者: 山下辰久

ページ範囲:P.222 - P.223

ブドウ糖の定性・定量(前号より続き)
 前号でグルコースオキシダーゼはβ-グルコースを特異的に酸化する酵素であるにもかかわらず,α,β2つの異性体の平衡混合物であるブドウ糖の定量に使用されている理由を説明したが,ここで高度に精製されたグルコースオキシダーゼ標品にもなおムタロターゼ(両異性体の平衡の成立を促進させる酵素)が含まれていることを付記しておく.
 グルコースオキシダーゼの他,ブドウ糖の定量に用いられている方法にはヘキソキナーゼ(HK;ATP-D-hexose-6-phosphotransferase, EC 2.7.1.1)とグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6P-DH;D-Glucose-6-phosphate:NADP 1-oxidoreductase, EC 1.1.1.49)とを用いた方法がある.

血液

ヘモグロビン量の測定について

著者: 黒川一郎

ページ範囲:P.224 - P.225

ヘモゲロビン
 ヘモグロビン(以下Hb)は6.4×5.5×5.OÅの大きさを持ち,グロビン(globin)にヘム(heme)が結合した色素タンパク体で,グロビンは2種のポリペプチド鎖(α,β)のそれぞれに1個ずつのヘムがついたものが2つずつ集まった4量体である.成人Hb (Hb A adultα2,β2)のα鎖は141個,β鎖は146個のアミノ酸のポリペプチド鎖で,全体として曲りくねって三次構造を作っているが,その中でらせん状の部分と直線部分を区別する.グロビン鎖のN末端からアミノ酸に番号をつけるが,らせん状部はA……H,直線部分はその両側のらせん部分の字(例えばBC, EFなど)で表現する.鎖の終末はC末端であるが,親水性の基は外方に,疎水性の基は内方に向かい内面疎水性の空間を作る.2対のα,β鎖は2つの様式で結合する(α1≡β1,α2≡β2,α1—β2,α2一β、).前2者は34のアミノ酸残基を含み,固く結合しているが,後者は約20個のアミノ酸残基を含み緩く結合している(図1,2).
 ヘム核はプロトポルフィリンの中央にFeをもち,Feは2価のイオン価をもつが同時に6個の配位結合をしている.4個はポルフィリン核の中心のNと,2個はαでは58,87番目のhistidine,βでは63,92番目のhis-tidineと結合している.

血清

沈降反応について

著者: 浅川英男

ページ範囲:P.226 - P.227

今回は沈降反応について述べる.次回に述べる凝集反応と沈降反応は本質的に相違するものではなく,沈降反応では抗原となるものがタンパクとか糖とかの分子レベルのものであり,凝集反応は赤血球,白血球,血小板その他の細胞あるいは組織の断片といったものの違いである.沈降反応は
(1)混合法

細菌

抗酸菌の同定(確認) Ⅰ

著者: 工藤祐是

ページ範囲:P.228 - P.229

1.同定の意義
 現行の結核菌分離培養法を用いれば,発育してくるのは結核菌(M. tuberculosis—旧称ヒト型結核菌)だけではなく,それ以外の多数の抗酸菌種も同様によく分離されうる.これらの多くは永い間,結核菌中心の抗酸菌の世界で雑菌扱いされていたものであるが,ここ十数年来の研究により,そのうちには人間にとりつき感染を起こしうるものもあることが明らかとなってきている.
 結核菌,癩菌以外の抗酸菌によって引き起こされた感染症を広く非定型抗酸菌症と呼んでいる.一方,自然界には雑菌性の抗酸菌が多く分布しているので,これが臨床材料に一時的に迷入する可能性も多い.したがって人間から分離される抗酸菌は全く雑菌性のものから病原性をもちうるものまで広い範囲にわたっている.

病理

—病理検査の技術と知識—固定 Ⅱ

著者: 橋本敬祐

ページ範囲:P.230 - P.231

固定液の浸透
 固定作用の本質は生の組織を硬化させ(薄切のため),かつ被染色性を与える(いうまでもなく染色の目的で)ことにあるのであるから,固定の良否判定や固定がどの程度まで進行したかなどの判定は,すべてこの基準に照らして判断されなければならない.初めの組織硬化のほうは,細胞と組織の構造を規定する主役であるタンパク質の凝固あるいは凝結という現象と密接な関係があって,前回に述べたごとくアルコール,アセトンなどの有機溶媒,硫酸アンモニウムなどの中性塩,トリクロール酢酸,スルフォサリチル酸などの有機酸,アルカロイド試薬,昇宏などの重金属塩を加えることによりタンパクが沈殿し凝固するために組織の硬化が起こることが基礎になっている.したがって,タンパク凝固作用が主となる固定液をJ. R. Bakerは凝固性固定液(coagulant fixative)とし,エチルアルコール,ピクリン酸,昇汞をあげている.これに対して非凝固性固定液(non coagulantfixative)としては,ホルマリン,オスミウム酸,酢酸,重クロム酸カリをあげているがこのグループは一般に組織に対する硬化力の弱いもので,このことは卵白アルブミンを用いた模型実験によっても確かめられている.

生理

—電気生理検査に必要な電気の基礎知識—抵抗ブリッジ回路の応用

著者: 石山陽事

ページ範囲:P.232 - P.233

 前回はキルヒホッフの法則について述べたが,ここでもう少し計算例について述べることにする.

共通

科学論文の書き方—若い研究者のために

著者: 春田三佐夫

ページ範囲:P.234 - P.235

論文執筆の意義
 研究成果を論文にまとめて公表するのは,研究者としての当然の義務なのです.しかも研究というものは,フルペーパーの形でしかるべきものに発表されて,初めて完了したことになるのです.いかに内容の良い研究をしても,それをまとめて一般に公表しなければ,だれも認めてはくれません.だが,ひとたび文字にして出すとなると,その内容について独創性があるとかないとか,考え方や方法論がどうとか,いろいろ批判されるのを覚悟しなければなりません.それがこわくて発表しないというのなら,研究などやらないことです.論文の価値判断はあくまで第3者のやることで,自分がやるのではありません.内容にようては一顧の価値なしとされることもあり,逆にそれにヒントを得て,もっと立派な研究をする人も出てくるでしょう.しかし,コロンブスの卵ではないが,初めに土台を築いた入はやはり先輩として尊敬されるのです.ということは,より良い研究はあくまで先人の業績を基礎にして実るものだからです.研究に当たっては妙な功名心を捨て,謙虚にかつ冷静に真実のみを追求する誠意と勇気をもって,絶えず努力を積み重ねていくことが肝要です.人生は,いわば試行錯誤の連続です.そうした過程の中で,時には少しずつ,あるときは大きく進歩し,発展していくのが人間の姿だといえましょう.ですから,今後は,どんな小さな仕事でも論文の形にして公表するよう努力すべきです.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?