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雑誌目次

論文

臨床検査20巻3号

1976年03月発行

雑誌目次

カラーグラフ

細胞内乳酸脱水素酵素—化学的同定法を用いる鑑別染色

著者: 高橋正宜

ページ範囲:P.240 - P.241

乳酸脱水素酵素(LDH)はNAP-dependent dehydrogenaseの代表的なもので,可溶性細胞成分と糸球体とに分布し,腫瘍細胞における増強は組織化学的にも生化学的にも判明しているが,特異性の低い面から細胞診への応用がなされなかったようである.しかし,アイソザイムの見地から尿素阻害や耐熱性の差異など,化学的,物理的同定法を応用することにより胸腹水細胞診では鑑別診断的価値が高い.方法論的には尿素2.5mol処理下Nitroblue tetrazolium液を用いる酵素染色法と,細胞を集めその抽出液を用いる細胞内LDHザイモグラムによる判別(本文57ページ)が有用である.

解説 細胞内乳酸脱水素酵素—化学的同定法を用いる鑑別染色

著者: 高橋正宜 ,   三輪和子 ,   国実久秋

ページ範囲:P.292 - P.294

はじめに
 生体内でピルビン酸と乳酸の代謝を仲介するLDHは,電気泳動によりアミノ酸組成の異なるHとMのSubunitsから成る5分画に分かれ,各臓器により,その分布に差があることは広く知られている.また悪性腫瘍組織内におけるLDH総活性の特異的な上昇は現在認められていないが1),正常組織に比し分画では変化がみられ2),マウス胎生期と生後では同一組織でも分画に差があり3),悪性腫瘍と細胞の幼若化の関連につながる興味がもたれている.血清LDHアイソザイムは心および肝疾患に特異的であるが4),悪性腫瘍に関しては癌病変部との隔たり,血漿LDHによる希釈,血球の関与など問題が多く,鋭敏に組織病変を反映せず,その特異性は認められていない5).我々は癌患者に貯留した胸腹水LDHアイソザイムにつき検討を行い,胸腹水V分画上昇30例の内,肝癌8例に血清V分画上昇がみられたが他の癌例の血清は正常パターンを示した.一方,癌患者の胸腹水86例中,癌細胞陽性51例は陰性例に比しV分画に有意の上昇を認めた.また,この場合,剥脱癌細胞内のLDHホルマザン陽性度と上清胸腹水V分画上昇率とは相関を示した.すなわち,胸腹水LDHアイソザイムパターンは,肝疾患以外では,その血清と関係なく体腔液中に剥脱してくる細胞LDHに支配されているといるといえる.

技術解説

The Fastest Kinetic Analyzer System Olli 3000の機構と評価

著者: 原田二郎 ,   春日誠次

ページ範囲:P.243 - P.251

 臨床検査の自動分析機が開発されてからまだ歴史は浅いが,近年,我が国においても輸入,国産の自動分析機が各検査室で数多く使用されている.各施設の自動分析機を作動原理的に分けると,フローシステム,ディスクリートシステム,遠沈システム,反応速度測定システム(ReactionRate Assay),簡易型などがある.
 System Olli 3000は,フィンランドのOL-LITUOTE社によって開発された装置で,今までの自動分析機が分析作業操作すべてを自動化する方向で開発されてきたのに対して,測定結果が出されるまでの過程のうちに何度か手動による操作が入る点が,従来のシステムとは異なっている.

血液成分輸血

著者: 徳永栄一 ,   羽田憲司

ページ範囲:P.252 - P.258

血液成分療法の概念
 これまでは,輸血といえば保存血液による全血輸血を指すのが普通であった.保存血液というのは,抗凝固剤であるACD液(クエン酸,クエン酸ナトリウム,ブドウ糖を含む液)を入れたガラスまたはプラスチックの容器中に血し液を採り,4〜6℃の氷室に72時間以上おいたものである.ACD液は,凝固を妨げる機能の他に,赤血球の代謝を助けて生存期間を延長する作用がある.保存血液の有効期限は採血後21日目までであるが,これは赤血球の活性を指標として定められたもので,21日まで保存した保存血液中の赤血球はその70%以上が生きていることが確かめられている.保存血液は,採血の時点では血液の各成分をすべて含むことは確かであるが,保存とともに赤血球以外の成分は機能を失うものが多い.輸血の目的は大部分が赤血球の補給であるから,保存血液を用いることによって目的は果たされるようなものではあるが,それならば赤血球のみを患者に与えるほうがより効果的であることは,だれでも考えつくことであろう.赤血球とほぼ同量の血漿が体内に入れられることは,心臓の負担を多くし,赤血球補給の目的をかえって阻害することになる.むしろ全血輸血というものは,赤血球とともに血漿成分の補給をも必要とする比較的少ない症例にのみ用いられるべきものであるはずで,無批判に全血を患者に与えることの愚かさが世界的に認識されはじめている.

総説

一元放射状免疫拡散法の実施

著者: 右田俊介

ページ範囲:P.259 - P.271

 生体成分を測定する場合に免疫学的な方法が,しばしば用いられる.その特徴は1特異性,2微量性,3反応の即時性にある.特異性は,抗原抗体反応の特徴であって,混合物の中のある1種類をそのまま定量することができる.微量性は,反応の操作によって1mgから10ng,放射性同位元素を使えば0.1ngまでの範囲を検出することができる1).即時性は,抗原抗体反応の平衡定数が105〜107であって,瞬間的に抗原抗体結合物に変わるのであるが2),これを検出する手段によっては必ずしも短時間で終わるとは限らない.次に欠点としては反応の不安定性であって,それは検出に用いる抗血清の不安定性,あるいは反応自体の不安定性などにより再現性が悪く,十分な注意のもとに行わないと,条件によって異なった結果が得られることである.免疫学的な定量法として現在最もよく使われるのは,抗体カンテン板による一元免疫拡散法(SRD)である.この方法は1965年にMancini3)とFahey4)によって別々に発表され,人によってMancini法,Fahey法と呼ぼれている.これは抗血清とカンテンを混合した平板に穴をあけて,階段希釈した抗原を一定量ずつ穴に入れると,作られる沈降輪によって抗原濃度が算定できるという発表であった.しかしこの2人の発表は,詳細な点では異なっていた.その相違点,両者の長所および短所は何であるかが第一の問題点である.

座談会

免疫グロブリン測定

著者: 右田俊介 ,   川村明義 ,   河合忠 ,   松橋直

ページ範囲:P.272 - P.278

最近の免疫学の進歩は著しい.とりわけ普及性の強い免疫グロブリンの定量法は,ミエローマや免疫不全などを検討するうえで重要性を増している.今回は,免疫特定研究班(文部省)で取り上げた問題について討論し,免疫グロブリン測定の標準的な方法を探る.

異常値・異常反応の出た時・39

補体価

著者: 田村昇 ,   中山秀英

ページ範囲:P.279 - P.283

 補体(complement)は,1880年代に血清中に存在する易熱性(56℃加熱で破壊される)因子として,しかも抗体の殺菌作用を補うものとして見出されてきたものである.その補体は,現在では,全く異なる十数種の血清タンパクと数種の阻害因子(inactivator)とから成る一つの反応系であることは周知のごとくである。この補体系は,抗原抗体複合物に第1成分から順次に反応していく場合(classical pathway)と,プロパージンなどが反応し,第1,第4,第2成分をby-passし直接C3などが反応していく場合(alternati-ve pathway, classical pathwayに対して別径路という意味)が知られてきた.また,補体成分や阻害因子の欠損症例が報告されてくるなどして,補体価の異常が種々の疾患を招き,あるいは疾患の経過中に,その結果として補体系に様々な異常をもたらすことが明らかにされてきた.ここでは,血清の補体価を測定して異常値が得られたとき,どのように対処していくべきかという点についてまとめてみよう.

中検へ一言・中検から一言

検査項目の新陳代謝,他

著者: 佐々木博

ページ範囲:P.284 - P.285

近年中央検査室では,測定の自動化とコンピューター導入によるシステム化により,臨床検査の精度向上,データ集計の敏速化が行われ,臨床面,特に内科領域の診断レベルの向上にますますその貢献度が高まっている.しかし反面,今後機械化の進歩する中検システムの前に,我々内科医はデータの解読に追われ,患者の問診,診察を省略するいわゆる"カルテ医者"になる危惧なしとはいえまい.内科領域から中検への要望の一つは,従来より一つでも多くの検査項目を取り入れてほしいことである.過去あるいは現在の時点では研究室レベルで行われている検査でも,明日にはルーチン化される検査項目が年々増加している。しかし中検側の省力化にもかかわらず,これら要望のすべてを直ちに取り入れてもらえないのは現状であろう.したがって,一方ではルーチン化されてきた検査を減らす努力もされるべきで,例えば肝機能検査の項目に入っている膠質反応の多くは,現在では血清酵素,タンパク分画その他の検査によりその必要性は痛感されない.救急時における臨床検査データへの依存はますます高まってきてはいるが,夜間,休日における中検の対応は,すべての医療機関で満足される状況ではない.急性腹症診断時にレントゲン診断の必要性と同程度に,血清生化学的検査データは,肝胆道,膵疾患の鑑別に不可欠といえる.

臨床検査の問題点・76

事務的エラーのチェック

著者: 北村元仕 ,   影山信雄

ページ範囲:P.286 - P.291

 日常臨床化学検査の成績管理にX-R管理図法がほぼ定着し,その有用性は周知のとおりである.しかし,この方法だけでは,検査の全行程をチェックすることは不可能である.検査ミスというと,すぐに測定技術上のミスが問題になるが,この他に検査の受け付けから成績の提出までの行程で生じたミス,事務的エラーが検査事故にもつながってこよう.
(カットは一般検査の尿検体)

研究

オートアナライザーを使用した血中カテコールアミンの簡易測定法

著者: 橋本雅 ,   三好勝彦 ,   工藤尚文 ,   武田佳彦 ,   橋本浩三 ,   綱島勝政

ページ範囲:P.297 - P.300

緒言
 Epinephrine (E),Nor Epinephrine (NE)などのいわゆるCatecholamine (CA)は副腎髄質および交感神経末端より分泌され,その作用は1,2)ホルモンとして心血管系のTarget Organに働き代謝調節のmediatorとして糖脂質などの代謝に関連するのみでなく,交感神経系や中枢神経系に作用するなど,防御反応系の構成因子としての意義が高く,その血中濃度は病態の把握に極めて重要である.しかしCAの測定方法は操作が煩雑であったり,回収率,測定精度などに問題があったりして,いずれもまだ日常検査の方法となっていないのが現状てある.今回我々は抽出分離操作に改良を加え,螢光測定3〜5)にオートアナライザーを組み合わせることによって,簡単かつ正確にCA血中を測定する方法を確立したのでその成績について報告する.測定方法の原理はtrihydro-xyindol法(THI)3〜11)によっており,試料の精製とpH調整に工夫を加え,オートアナライザーを使用して反応時間の均一を得ることができたところに特色がある.

血清トリグリセライド測定法における吸着剤の基礎的検討

著者: 木下忠雄 ,   佐々木博 ,   中沢千浪 ,   吉田光孝

ページ範囲:P.301 - P.303

 血清トリグリセライド(以下TGと略)の定量法としては,近年Van-Handel (1957)1)のクロモトロープ酸を利用して発色させる方法や,現在ではFletcher2)によってアセチルアセトンなどを用いる発色法などがよく用いられ,また,この他TGをn—ノナン3)などによって選択的に抽出する方法や,酵素法4〜6)などが知られている.
 アセチルアセトン法においてTG測定を行う場合,あらかじめ発色干渉物質,なかでも血清試料中に共存するリン脂質やグルコースなどは,含有するホルムアルデヒドと,測定試薬であるアセチルアセトンとHantzsch反応を起こし,正の誤差を生じる.したがって発色操作の前に吸着剤を用いて除去しなければならない.従来用いられてきた吸着剤としてはゼオライト,ケイ酸,フロリシルなどがあげられるが,その吸着剤の種類によって,測定値に変動を来すことを認めたので,著者らは最も良いと思われる吸着剤を選定するために基礎的検討を行った.すなわち,発色の干渉物質であるリン脂質やグルコースを除去するために用いる吸着剤の吸着能力,吸着剤の発色への影響,吸着剤を用いない方法との比較などについて検討を行った結果,フロリシル系の吸着剤が優れていることが分かったので,その検討成績について報告する.

脳波各種単極誘導法の研究

著者: 阪本実男 ,   石川準一

ページ範囲:P.304 - P.308

はじめに
 脳波を記録するには1対の電極が必要である.この一方の電極を脳の電位に対してゼロまたはゼロに近い点に置けば,ほぼ脳の電位変動をそのまま記録できる.このような電極を不関電極と呼び,これを使って記録する方法は単極誘導法である.したがって常にゼロ電位にある不関電極を使って単極誘導を行えば,脳の電位変動の絶対値が得られる,すなわち,脳波の周波数や振幅,波形その他の情報を知るためには,単極誘導が基準となる.現実に電気的に真のゼロ点を選び出すことが極めて困難であるので,通常は脳から比較的離れた1耳朶,2鼻尖,3眉間,4後頭結節,5乳頭突起,6第7頸椎棘突起,などを利用している.しかし,これら1〜5の部位は,近接する脳からかなりの量の電気活動の波及を受けて電位変動を起こしている.また一つの脳波記録図の内に異なった条件—頭皮上の活性電極と不関電極の距離によって短いものは低振幅に,長いものは高振幅に出現する—が混在することは好ましくない,したがって最適な不関電極の選択ということが常に問題となってくる.
 著者らは,不関電極の電位変動の影響を調べるため,耳朶単極誘導法,平均関電極法1,2),頭部外平衡不関電極法3)を並行して使用し,視覚的観察により3者を統計的な方法で比較検討し,知見を得たので報告する.

パラフィン包埋カルチノイド顆粒の電顕的診断価値について

著者: 田沢賢次 ,   曽我淳 ,   佐野宗明 ,   畑野高四 ,   興梠建郎 ,   師岡長

ページ範囲:P.309 - P.312

はじめに
 最近では臨床病理検査の分野においても,電顕的観察が積極的に施行され,種々の疾患についていろいろな病変の微細構造上の観察が行われ,数多くの知見が得られている4〜6)
 日常私たちが検査室においてルーチンの生検および剖検材料を光顕的に観察している際に,その材料から電顕的観察を必要とする場合がある.この場合私たちは,ホルマリン固定材料の中から再び切り出しを行うか,またパラフィンブロックの組織片を脱パラフィン後に電顕用材料として再固定しなければならないことになる.特にカルチノイド腫瘍の場合には,術前に診断が確定することは内視鏡生検による場合が多くなったとはいえ,なお比較的少ない現状である.

私のくふう

水流ポンプを用いた分液吸引排除装置

著者: 塚本博康

ページ範囲:P.308 - P.308

 近年,有機溶剤による抽出操作を伴う検査が著しく増加している.
 この操作には通常分液ロートが用いられるが,多数の検体処理には適当でない.そのため共栓試験管がしばしば代用されるが,その際分液された一方の液層,特に下層の液を排除することは必ずしも容易でない.

検査ノート

Twin Plot Method(双値法)—臨床化学検査精度管理の一方法

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.313 - P.315

はじめに
 臨床検査成績の精度管理の必要性と重要性については既によく知られているものであるが,その実際的な方法として,Levey-JenningsによるX-R管理図法が臨床検査に取り入れられ,多くの人々によって,我が国にも紹介され,応用されて臨床検査成績の精度の向上に大変役立ってきた.
 プール血清を用いたX-R管理図法,その他はいずれも優れた方法であり,検査過程におけるいろいろの問題点をみつけるに良い方法であるが,プール血清などを使用するということから,管理対照は,いわゆる正常値付近のものになってくるのは当然であるが,一方,臨床検査というものは,一定の値のものだけを良い精度で作り出し,規格外のものを作り出さないようにするという工業生産などと違って,異常値,病的な値,言い換えれば,正常値付近の値より離れた測定値をみつけ出すことにもその意義の大半がある.ゆえに,その付近の値に対しても高い信頼度と精密度が要求されなければならない.

質疑応答

心電計の取り扱い

著者: N生 ,   桜井隆

ページ範囲:P.316 - P.316

 問 1)四肢電極で,簡易で分極電圧の低くなるような型といえば,ハサミ式以外にどんなものがありますか.
 2)校正電圧をチャート上に書かせるとき,SENSE,DAMPで調整するが,心電計内部の校正発生装置とどのような関連があるのでしょうか.

新しいキットの紹介

免疫拡散板による血清β2-ミクログロブリン測定法の検討

著者: 宮谷勝明 ,   高畑譲二 ,   福井巌 ,   金田吉郎

ページ範囲:P.317 - P.319

緒言
 ある種の慢性カドミウム中毒,ファンコニー症候群,ウィルソン氏病などの診断にβ2-ミクログロブリンの臨床的応用1〜4)が考えられているだけでなく,IgGのCH3部分との類似性およびリンパ球表面に存在する組織適合抗原の一成分であることから,抗原の認識,T細胞とB細胞間の相互作用などの免疫反応に関与する機能5,6)についても注目されてきている.
 一方,測定法としてはSDSディスク電気泳動法7),Isoelectric Focusing法8),一元平板免疫拡散法9),更には放射性免疫測定法10)などが用いられている.これらの測定法はそれぞれ特徴を有するが,最近,一元平板免疫拡散板であるβ2-ミクログロブリンが生化学工業によって開発された.著者らはこの拡散板を用いて行う場合の測定条件について検討を加えたので,その成績を報告する.

逆受身赤血球凝集反応によるHepatitis Bs抗原の検出

著者: 沢部孝昭 ,   中山昇 ,   大倉久直 ,   向島達

ページ範囲:P.320 - P.324

はじめに
 Blumberg1)らが発見したオーストラリア抗原(Hepa-titis B Surface Antigen,以下HBs抗原)は,肝炎,肝硬変,肝癌との関連で注目を集め2),その検出は上記疾患,その周辺疾患における病因論,疫学論上必須の手技となっている.
 しかしながら,このHBs抗原検査法は用いた手技により成績が異なるため,それぞれの検査法の成績について比較検討する必要がある.

臨床化学分析談話会より・31<関東支部>

行政レベルでスクリーニングを—先天性代謝異常の検索

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.328 - P.328

 第187回分析談話会関東支部例会(1975.11.18)か東大薬学部記念講堂にて開催された.話題は"先天性代謝異常症とその分析法"ということで日大小児科の北川照男先生が話題を提供された.
 まず初めに,先天性代謝異常を酵素欠損症として考えたときに治療の可能なもの,不可能なも,のに分類され,治療可能なものについては出生後のなるべく早期の診断が必要であり,治療不可能なものについては出生前の診断が不可欠であるという話から,診断のための分析法の確立の必要性が述べられた.そして分析法の確立は代謝異常症の十分な理解の上に立つものであることを,フェニルケトン尿症を例にあげて話を進めた.

細胞診セミナー・5

細胞診スクリーニング—観察と判定の仕方

著者: 浦部幹雄 ,   高橋正宜

ページ範囲:P.329 - P.334

症例1 胸水(中央鉄道病院出題)
 司会(浦部) 最初に,担当医の山本先生から臨床経過をお話し願いたいと思います.
 山本(幸彦,中央鉄道病院産婦人科,医師) 症例は14歳の女子中学生で,主訴は下腹部膨隆,発熱,咳漱です.1975年6月17日入院.入院時の主な所見は,発熱(38〜40℃),貧血,胸水の貯留(図1)であり,また超音波断層法により,下腹部に充実性腫瘍を認めました.胸水は手術までに6回穿刺し,計3,750ml得ています.その性状は淡褐色,漿液性でαフェトプロテイン660mμg/ml(血清700mμg/mt)と高値を示しまた,6月26日手術(左付属器切除),腫瘍は左卵巣で,成人頭大,表面平滑,一部凹凸でカプセル保存され,癒着はありませんでした.腹腔内には約700mlの腹水を認め,その性状は胸水とほぼ同様でしたが,腹腔内には転移を認めておりません.術後,化学療法を行い,現在順調に経過しています.

日常検査の基礎技術

プラスチックの接着法

著者: 沖津後直

ページ範囲:P.335 - P.342

プラスチックは一見同じようでも種類が多い.とんなプラスチソクにもよくつく万能接着剤は難しく,それぞれ専用の接着剤が望ましい,そこであらかじめプラスチックを識別することが必要である.表にプラスチックの簡単な見分け方と適当な接着剤を示す.ドープセメントとは,その同じプラスチックを溶剤に溶かしたものてある.シアノアクリル系の瞬間接着剤は,比較的多くのプラスチックにつくが,溶剤に溶けないポリエチレンなと,は接着できない.不溶性のポリエチレンなどけ,それ自身を熱で融着するか,ホットメルト接着剤を使用する.また溶剤に溶けないベークライトなどは,2液型のエポキシ接着剤で接着できる.今これらプラスチックの接着性の秘密と接着方法につき立ち入ってみよう.

検査と主要疾患・39

血管炎

著者: 細田泰弘

ページ範囲:P.344 - P.345

1.血管炎とは
 "血管炎"という言葉はangiitisないしvas-culitisに対する訳語であるが,我が国ではしばしば"壊死性血管炎"(necrotizing angiitis)をより広く,より漠然と考えて用いられていることが多い.
 壊死性血管炎という考えは,本来,膠原病諸疾患および類縁疾患群の血管病変を整理し,再分類するために提案されたものであって,Zeek (1952)は便宜的な統一的な名称として"血管の内・中・外膜3層を侵す炎症で,しばしばフィブリノイド壊死(類線維素変性)を伴うもの"と定義している.今日では,人によって"血管炎"という言葉の使い方がまちまちで混乱が生じているが,"血管壁そのものの炎症で,血管壁構成成分の変性,壊死を伴うもの"とわく付けるのが妥当であろう.このわく付けの中に含まれる疾患は表に示すとおり,膠原病ないし免疫異常を伴う全身性疾患が多数含まれている.しかし壊死性血管炎の存在は直ちに免疫異常を意味するものではなく,またフィブリノイド変性も,すべての壊死性血管炎に必発ではなく,フィブリノイド変性,即免疫異常でもない.ただ,このような病変が認められた場合には,膠原病の可能性や免疫異常の介在を吟味しておく必要がある.これら3者の関係は図1のように考えることができる.

検査機器のメカニズム・51

ファクシミリ

著者: 疋島博

ページ範囲:P.346 - P.347

 ファクシミリは写真電送と模写電送を総称したものであり,文書,図面,地図,伝票などをそのままの形で相手に伝送するもので,特殊な操作技術が要らず,だれにでも手軽に操作できることから,事務連絡のスピードアップや正確化を図るための情報機器として各企業で導入されつつある.
 もちろん医療関係でも,従来の情報網に代わってファクシミリがどしどし導入されることが十分考えられる(例えば,臨床検査データの伝送,投薬指示,ナースステーションへの指示,その他)ので,以下ファクシミリの一般的特徴,原理につき簡単に述べることとする.

検査室の用語事典

精度管理用語

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.349 - P.349

27)工程能力;process capabilify
 工程管理症状にあるときの能力のうち,不良率,欠点数などの特性値で表される質的な能力で,生産能力(process capacifty)が量的な能力を示すのに対するもの.X-R管理図その他の管理図の目的は工程能力の維持,改善にある.

臨床検査のコンピューター用語

著者: 鈴木孝治 ,   春日誠次

ページ範囲:P.350 - P.350

23) Channel(チャネル)
 コンピューターの中央処理装置と,各入出力装置の間を連結するデータの伝送路をいう.入出カチャネルとも呼ぶ.

学会印象記 第22回日本臨床病理学会

臨床病理10年の足跡を見る

著者: 本誌編集室

ページ範囲:P.351 - P.351

 第22回日本臨床病理学会総会(総会長・糸賀敬)は長崎市にて1975年11月13〜15日の3日間開催された.連日の降雨にもかかわらず,約2,000人の参加者は,長崎市市民会館をはじめとする市内5か所(7会場)で熱心に討論に加わった.
 一般演題は478題を数え,前年の大阪と比べて160題の増加で,史上最多となり,生化学から生理までカバーするこの学会の幅広さを物語る一方,臨床化学が過半数を占め,細菌,病理からそれぞれ28,21題と少なく,テーマの偏りを見せていた.

Senior Course 生化学

—臨床化学検査における酵素化学—酵素による定性・定量分析 Ⅲ

著者: 山下辰久

ページ範囲:P.352 - P.353

尿素の定量
 タンパク質代謝すなわちアミノ酸窒素代謝の主要な終末産物である尿素は,肝臓において合成され腎を通って尿中に排泄される.したがって,腎機能の低下により血中尿素量は増量し,また肝機能が極端に低下するとNH3→尿素の生成が行われなくなり,血中アンモニアが増加する.
 現在用いられている尿素定量法には,Xanthydrolによる方法(尿素と反応して不溶性沈殿(Dixanthyl ur-ea)を生ずることを利用し,この沈殿を比濁法,比色法その他Kjeldahlによる窒素定量法などを用いて測定する)やDiacetyrmonoxime, Dimethylglyoximeまたはp-Dimethylaminobenzaldehydeによる比色法などがあるが,最も特異的な定量法は下に示すような反応を触媒するウレァーゼ(Urea amidohydrolase,EC 3.5.1.5)を用いる方法であり,尿素の酵素分解により生じた二つの反応産物であるアンモニアと炭酸ガスとを測定することにより試料中の尿素量を定量しようとする方法で,ウレアーゼは尿素のみに作用するので生じた反応物は尿素だけから生じたものである.

血液

ヘマトクリットと赤血球恒数

著者: 黒川一郎

ページ範囲:P.354 - P.355

 Wintrobeが赤血球恒数(Constants)を提唱したのは1929年といわれるが,それ以前から赤血球の容積と血色素量(Hb)との関係について関心がもたれ,ColorIndex (Hayem),Volume Index (Capps)などの概念が提示された.また,Price-Jonesは自己の血液を調べ,静止したとき(A),歩行時(B),疾走時(C)の赤血球の直径を比較し,C>B>Aの順序の大きさであることを認めた.この赤血球数,ヘマトクリット(Hct),Hbの三つの数値からMCV, MCH, MCHCが計算される.血球数,Hb測定法が当時なりに確立したあとを受け,Wintrobeがヘマトクリット(ヘマト=血液,crit=診断する)を行ったことと関係があろう.
 Hct測定はWintrobe管による遠心法から微量高速遠心法に移った.更に血液の電気抵抗を測定する方法が工夫された.赤血球が直流電流に対して抵抗が大きく,電導度の低下が認められるので,これを利用して値を測定せんとするものである.便利な迅速法であるが,血漿タンパク濃度による影響が大きく,濃度が低下するとHct値が低下する.また二重シュウ酸塩のような電気伝導性の高い抗凝固剤を用いると,やはり計数値は低下する.最近は血球希釈液中の血球信号を電気的に積算する方法が現れ,今後発展しそうである.

血清

沈降反応の臨床的応用

著者: 浅川英男

ページ範囲:P.356 - P.357

 沈降反応の中で現在日常の臨床検査に利用されているものは多い,その筆頭がCRP検査である.その他βリポタンパク試験があり,免疫電気泳動法,Mancini法,Laurell法,Electrosyneresisなどがあげられる.特に最近はHBs抗原・抗体やαフェトプロテインの検出など,その感度に不満足を訴えつつも,沈降反応を利用することは初歩的重要性としてその価値は失われてはいない.

細菌

抗酸菌の同定(確認) Ⅱ

著者: 工藤祐是

ページ範囲:P.358 - P.359

 各抗酸菌種を鑑別同定するのに多くの方法が発表されている.そのうちから手技が簡単で成績の安定しているものを選び,多数の菌株について検討して,Kubicaは表に示すような発育速度からマッコンキーカンテン発育の12項目にわたるキイを提案している(Amer.Rev.Resp.Dis.,107,9,1973).旺盛に発育している菌株の検査成績が,この表のパターンの一つに一致すれば,その菌は該当する菌種であると判定してよい.もし成績がいずれの菌種とも一致しない場合は今一度検査を繰り返す.それでも菌種名決定できない場合は,その菌種を専門機関に送って検討してもらう.この表に加えてあるTCH耐容性,ウレアーゼ,発育温度も重要な検査であるが,12項目で不十分な場合に,動物接種などとともに行われる第二段の検査と考えてよい.

病理

—病理検査の技術と知識—包埋操作

著者: 橋本敬祐

ページ範囲:P.360 - P.361

 包埋の目的はメスの刃が組織に切り込んでいく際に適度の物理抵抗を与えることにあるが,生体内で体液とか空気を含む部分(腺腔とかチステとか肺胞など)では抵抗が全くないから,メスの刃に押されて変形してしまうのを防ぐために何か抵抗性のある物質をつめ込んでおく必要がある.組織の物理的硬度は,水分の多い幼若組織や上皮細胞原形質とかリピドの多い脳組織では小さいし,筋肉とか血管結合織では大きい.しかもそれぞれに硬さの異なる成分が混ざり合っているわけだから,この硬さを一様に高めておかないと一定の厚さの薄切片が得られないことになる.したがって,組織内成分のどれよりも硬度が大きく,しかも組織や細胞内部に浸透して完全に隙間をなくしてしまう物質中に組織を埋め込んでしまわなくてはならない.通常はパラフィンとセロイジンが用いられるが,骨とか石灰はそれよりも更に硬いので,この場合は骨や石灰を軟組織から取り出して別個に薄切するか,あるいは脱灰して硬度を落としてからパラフィンに包埋するか,もっと硬い合成樹脂に包埋したりあるいは合成樹脂やセロイジンよりも硬い氷に埋めて氷結切片とするなどの方法がある.パラフィンは包埋剤としては最も軟らかいが,普通の組織よりはずっと硬く,使いやすいから,たいていの場合パラフィンで十分である.いずれにしても,氷結切片以外はすべて組織内に異種物質を浸透させる必要があるから,包埋には次のような操作が必要である.

生理

—電気生理検査に必要な電気の基礎知識—交流回路

著者: 石山陽事

ページ範囲:P.362 - P.363

 前回まで直流電源を使用した抵抗回路網について述べたが,交流についても,直流と同じようにオームの法則やキルヒホッフの法則などが当てはまる.むしろ直流は交流回路理論を先に勉強し,その特殊解として周波数f=0における理論を展開すれば良い.
交流とは,電流の方向が図1に示すように,時間的に変化するものをいうが,このような複雑な波形でも周期性があるとみた場合に,いろいろな振幅と周波数をもった正弦波の合成波と考えることができる.すなわち時間的に変化する合成波f(t)はf(t)=a0/2+a1sinωt+a2sin2ωt+a3sin3ωt+…          +b1cosωt+b2cos2ωt+b3cos3ωt+…    ω=2π∫ f:基本周波数となる.これをフーリエ級数という.

共通

検査物の保存法

著者: 中野栄

ページ範囲:P.364 - P.365

 本来,臨床検査は,検体採取後できるだけ早く検査成績を出し,病気の診断,治療に役立てるもので,ある意味では臨床検査すべてが緊急検査である.しかし,検査業務が中央化されている現在では,検査科側の体制により,ある程度の時間内の検体保存が必要となっている.また,精度管理や研究的な目的で,検査後に長期間検体を保存する必要もある.
 検体の保存法により,検査成績に大きな影響を与えるので,より正しい成績を得るためには,検査技術の習熟とともに,検体の保存法についても十分知っておかなくてはならない.ここでは,検体中の各成分が保存によりどのように変化するかを中心に,短期間および長期間の保存法について簡記する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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