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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査23巻4号

1979年04月発行

雑誌目次

今月の主題 感染症 カラーグラフ

腸内常在菌叢

著者: 光岡知足

ページ範囲:P.320 - P.321

 腸内には多種多様の細菌がいわゆる腸内菌叢として常在している.その菌数は大腸では内容1g当たり2〜4×1011,菌種にして100種類にも及ぶ.約10年前,その培養法に著しい進歩がみられ,徒来培養できなかった多くの菌種の培養が可能となった.腸内菌のあるものは宿主の感染防御や栄養の面で有利に働く一方,あるものは病原性を持ち,日和見感染を起こしたり胃腸炎に関係する.更に最近,腸内菌が発癌,免疫,肝臓病,動脈硬化などにも関係していることを示唆するデータも得られるようになり,いろいろな条件における腸内菌叢と宿主の関係が重要視されている.

技術解説

腸内常在菌叢

著者: 光岡知足

ページ範囲:P.322 - P.334

 腸内は多種多様の細菌が共生・拮抗し合う複雑な栄養的条件と強い嫌気的条件を持った環境であって,普通の方法では培養し難い細菌が優勢菌叢を構成し棲息している.このような腸内菌叢を検索してありのままの姿を知るためには,検体の採取,輸送,希釈,接種などすべての操作中に菌が死滅することのないよう留意し,培地としては,非選択培地と選択培地を併用し,前者によって最優勢菌種を余すところなく培養し,後者によって既によく知られた菌種が腸内に少数しか存在しないため非選択培地では優勢菌叢に隠されてしまうような場合,選択的に培養し,これらの結果を総合して菌叢のパターンを決める.培養法には高度な嫌気培養も加える必要がある.

マラリア原虫の検査法

著者: 中林敏夫 ,   小野忠相

ページ範囲:P.335 - P.341

 全熱帯地に発生するマラリアは,年間1億人以上の患者,100万人もの死亡者をみる熱帯感染症である.最近ではDDTの使用中止,クロロキン耐性熱帯熱マラリアの発生などもあって,患者数は増加の傾向にある.日本国内でもマラリアは輸入感染症としてしばしば問題になりつつある.
 マラリアは発熱,貧血,脾腫を主徴とする原虫感染症で,国内では患者の渡航歴と特有の熱発作から臨床診断を下しうる場合もある.しかし,多くの症例では他の発熱性疾患との鑑別が必要となり,また,熱帯熱にみられるような非典的な熱発作や,脳性マラリアでほとんど発熱を伴わない症例もある.このような場合,マラリアの確定診断のためには原虫の検出が唯一のよりどころとなる.

リムルステストによる内毒素微量定量

著者: 丹羽允

ページ範囲:P.343 - P.348

 グラム陰性菌内毒素は0.01μg/kg以下で強い発熱作用を示すほか,致死,骨髄懐死,白血球減少,補体系,凝固系の活性化など多彩な作用を示す.健康人では腸管菌叢の内毒素は吸収されても肝で解毒されるが,肝機能,腸管機能の阻害,感染巣の存在の場合には内毒素が血中に出現し,内毒素血症(Endotoxemia)となり,しばしば死亡率の高いショックを起こすことがある13).内毒素の定量が難しかったために,内毒素の病因論的意義の解明は遅れていたが,リムルステストが出るに及んで内毒素の臨床的研究は急速に進展してきた.
 カブトガニの血球抽出液のゲル化反応を利用するリムルステストは,簡便で感度の高い内毒素定量法として医学,薬学,環境衛生の分野で広く利用されており9),1978年10月ウッズホール海洋生物学研究所で開かれたカブトガニの生物学医学的利用シンポジウム14)の印象でも,リムルステストの声価は定まったと言える.FDAでは厳重な規制の下に,生物製剤や医療器具の内毒素汚染チェックには,ウサギ発熱性試験に代わるものと認めてゆこうとしている.確かにリムルステストは簡便で感度の高い内毒素検出法であるが,定量性を高め,臨床試料の内毒素を正確に測定するには未解決の問題も多い.

総説

腸内常在菌叢と感染症

著者: 小澤敦

ページ範囲:P.349 - P.359

 疾病に対する治療法の進歩に伴う医原的要因,例えば化学療法薬剤の乱用,多用,副腎皮質ホルモン,抗癌剤などの広範な使用ならびに放射線療法などの導入によって疾病構造が大きく変容し,我々が健康時保有している常在細菌叢のメンバーに属している菌によるいわゆる日和見感染(opp-ortunistic infection)が,臨床医学的問題として注目されている.
 Theobald Smithによって提出された"感染は生物学的な寄生現象(parasitism)にほかならない"という考え方は,現在の変貌した感染症を理解し把握するうえに,極めて示唆的な基礎情報を提供している.感染症の病因論はRobert Kochの歴史的業績を基盤として出発し,結核症,チフス,コレラ,ジフテリア,百日咳,猩紅熱などの各種の古典的な,あるいは外来性(exogenous)の感染症の多くのものについては,ある種の条件付きで"Kochの条件"を満足させることができ,その起炎または原因菌は単一で,いわゆる"病原細菌"の範疇に属しているものであるということはよく知られた事実である.かくして一般的にこのような外来(原)性感染(exogenous infection)は,宿主と寄生体の間の単純な1対1の交渉の結果惹起されるものであるというふうに理解されよう.

臨床検査の問題点・114

opportunistic pathogenをめぐって

著者: 五島瑳智子 ,   清水喜八郎

ページ範囲:P.360 - P.364

 最近,感染症の変貌が認められ,特にopportunistic infectionと呼ばれるものが増加し,病院の日常診療で遭遇する機会が多くなった.このopportunistic infectionを起こすopportunistic pathogen—ここでは細菌検査における平素無害菌—をめぐって,その実態と問題点を検討する(カットは緑膿菌の鞭毛染色標本).

検査と疾患—その動きと考え方・28

マラリア—抗マラリア剤の作用機序と診断上の問題点

著者: 海老沢功

ページ範囲:P.365 - P.372

 症例1 28歳,女.
 主訴 悪寒戦慄を伴った発熱,頭痛,吐き気.

座談会

病院における消毒法の実際

著者: 藤本進 ,   池本秀雄 ,   小張一峰

ページ範囲:P.374 - P.381

 病院内の消毒法は,その時代によって変化を求められ,標準的な方法をたてることが困難とされており,同一病院内でも病棟によってその消毒法が違うという不合理な現実がある.そこで今月は病院内の消毒法の実態を紹介し,各種消毒法の作用濃度・温度による殺菌効果を示し,消毒法選択の一指針としたい.

Ex Laboratorio Clinico・28

風疹ワクチン

著者: 高橋理明

ページ範囲:P.382 - P.387

風疹感染による奇型の発見
 風疹の症状ははしかに似ていてはしかよりも軽いことから三日はしかとも呼ばれ,古くからあった病気であるが,小児の疾患としてはそれほど重要視されていなかった.しかし1941年オーストラリアの眼科医Greggが小児の先天性白内障について母親を問診しているうちに,母親がその子供を妊娠している初期に風疹に罹患していたことが多いこと及び,それらの子供は先天性心疾患をも併せ持っていることが多いことに気付き,母親の妊娠中における風疹の罹患がこれらの先天性疾患の原因であろうと発表した1).これは大きな反響を呼び,その後続々とこれを確認する成績が発表され,先天性奇型の原因として風疹感染が非常に重要視されるようになってきた.
 風疹が原因と分かっている先天性疾患としては現在図1のごとくたくさんあるが,そのうち主なものは眼疾患,心疾患及び耳疾患である.これらの先天性疾患児が風疹罹患妊娠母体からどのくらいの割合で出生するかについては研究者によって異なるが,かなりの高率であるとされていた.しかしこれらの発表時には風疹ウイルスがまだ分離されておらず,したがって風疹の診断は必ずしも確実とは言えないうらみがあった.

臨床化学分析談話会より・67<関東支部>

サーベイからみた脂質測定の問題点—標準化を目指して

著者: 仁科甫啓

ページ範囲:P.388 - P.388

 第218回臨床化学分析談話会関東支部例会(1978.12.19)は東大薬学部記念講堂にて行われた."サーベイから見た脂質測定の問題点"と題して,神奈川県こども医療センター中検山田正明先生,昭和大藤ヶ丘藤院中検前畑英介先生,三井記念病院中検中甫先生及び仁科らにより話題提供がなされた.話題の内容は山田先生を中心に行っている東京,神奈川の82施設参加の小グループの第2回目のサーベイ結果のまとめで,報告書が出来上がったので,研究会の活動内容のPRを兼ねて,サーベイ結果から見た脂質測定の問題点を取り上げたものである.
 山田先生からは,このグループの臨床検査精度研究会が旗上げした目的とその経緯,更にサーベイは項目をしぼり,参加施設が自己評価できるようユニークなレイアウトを行ったことが述べられた.しかも,液状血清試料を主体にし,これに液状血清試料と同じ成分の凍結乾燥血清も行うようにし,一般のサーベイで用いられる乾燥試料を用いる問題点,特にリポ蛋白中の脂質を測定する酵素法でどのような問題点があるかを明確にするためにレイアウトをした旨,また液状試料を中心としたため試料配布は東京,神奈川県中にならざるを得なかった事情も述べられた.

研究

マイクロタイター法の寒冷凝集反応への応用

著者: 山岸安子 ,   中尾文子 ,   河合忠

ページ範囲:P.389 - P.392

はじめに
 寒冷凝集素は正常人でも血清中に存在するがそのほとんどは64倍以下である.しかし,寒冷凝集素症,マイコプラスマ肺炎また,伝染性単核症などにおいても高値を示すことから,寒冷凝集反応の臨床的意義が大きく,日常検査における寒冷凝集反応の占める割合は大きい.私たちは寒冷凝集素価測定に試験管法を用いているが,検体数の増加に伴い検査法の省力化が望まれた,そこでマイクロタイターによる測定法を検討し,方法を設定したので報告する.

アンモニアガス選択性電極を用いた血漿アンモニア自動化定量

著者: 森下芳孝 ,   中根清司 ,   高阪彰

ページ範囲:P.393 - P.396

はじめに
 血漿アンモニア測定は肝障害,特に肝性昏睡の指標として緊急性を有する重要な検査である.定量方法には微量拡散法1),イオン交換樹脂法2),直接比色定量法3),酵素法4)など種々の方法が採用されているが,これらの方法はいずれも比色分析あるいは紫外部吸収変化によるものである.
 一方,アンモニアに特異的なアンモニアガス選択性電極を用いる血漿アンモニア定量法も,最近試みられている.この方法はColeman5)によって最初に報告され,その後Proelessら6)は,血液を過塩素酸で処理しその上清を用いる血中アンモニア定量法を報告している.Parkら7)はTechniconのオートアナライザーを使用し,自動化定量を行っている.しかしProelessらの方法では血液3.0ml, Parkらの方法では血漿約4mlが必要であり,臨床検査法として採用するには微量化に欠ける問題がある.

レポート

国立病院グループにおける日本医師会精度管理結果の解析

著者: 国立病院検査科管理協同研究班 ,   佐藤乙一 ,   鈴木宏 ,   星野辰雄 ,   下杉彰男 ,   松尾明 ,   五十川豊治 ,   石崎庄一郎 ,   森忠敬

ページ範囲:P.397 - P.400

まえがき
 厚生省の委託を受けて1971年度から実施した日本医師会精度管理調査は,当初,医師会病院,医師会検査センターなどのグループと,臨床検査施設のみが対象となり,他の医療機関の検査施設は自由に参加することはできなかった.したがって国立病院もReferenceとして42施設が参加したのみである.
 当時,国立病院,同療養所は単独で統一精度管理調査を行っていたが,日医精度管理調査は1975年度以来官公私立病院と一般登録検査所も対象として応募することになったため,国立医療機関が独自で行っていたこの種の調査は一切中止し,全施設が統一してこの精度管理調査に参加することになった.

新しいキットの紹介

トリヨードサイロニン・ラジオイムノアッセイ—T3 PEGリアパックの検討

著者: 橋本信雄 ,   嶺山隆司

ページ範囲:P.401 - P.404

緒言
 サイロイドホルモンであるサイロキシン(T4)及びトリヨードサイロニン(T3)の測定は,各種甲状腺疾患の病態生理の把握に不可欠のものである.その生物学的活性がT4の2〜5倍と言われるT3が1952年,Gross & Pitt-Rivers1)によって発見されて以来,T3の生理的意義が注目されてきた.しかしT3はT4に比較して血中濃度が1〜2%と低く,T4共存下での定量が困難であったため,その役割は明らかでなかった.1970年になって初めてBrownら2)がT3の定量にラジオイムノアッセイ(RIA)を取り入れ,その後高感度で特異性の高いRIA法が開発されるに至った.今回我々は,科研化学のT3 PEGリアパックについて若干の知見を得たのでここに報告する.

検査室の用語事典

統計学

著者: 土肥一郎

ページ範囲:P.405 - P.405

25) deviation;偏差
 測定値xi(i=1,2,3…n)があった場合,平均値をxとすると(xi−x)を平均からの偏差と言い種々に利用される.もちろんnΣi=1(xi−x)=0である.

超音波検査〈基礎編〉

著者: 竹原靖明

ページ範囲:P.407 - P.407

28)セクター走査;sector scan
 超音波ビームを連続的に扇状に移動し,被検体の断面を描く方法を言う.この走査法は肋間などのように,狭いechowindowから広い視野を得ることができるので,主に心臓の断面を描くのに用いられる.この場合ビームは高速機械的あるいは電子的に走査される.

質疑応答

臨床化学 glyoxal bis超微量比色法によるCa測定

著者: I子 ,   松宮和人

ページ範囲:P.409 - P.411

 〔問〕glyoxal bis (2-ヒドロキシアニル)超微量比色法によるCa測定(血清中または他の無機実験溶液)の場合の,誤差の原因,妨害イオンなど教えてください.
 現在,約10mg/mlの測定実験で器具の洗浄,ピペットの洗浄,発色試薬は毎日調製,測定時間を守る,温度は室温,水道水など混入しないことなどに注意していますが,バラツキがOD値0.01〜0.03あり,大きいように思います.実験時の注意も教えてください.また,妨害を調べるとき,試液にスタンダードCa溶液を一定量加えてOD値が正しく出れば,妨害物は含まれていないと考えていますが,これで良いでしょうか.

血液 血液学における半減期の意義

著者: K生 ,   野村武夫

ページ範囲:P.411 - P.413

 〔問〕血液学に関する文献には半減期(半寿命)のことが頻繁に出てきます(例:第Ⅷ因子,10時間〜半減期).単に寿命で表現せずにこの用語を使用するのはなぜでしょうか.

免疫血清 血清の不活化と梅毒反応

著者: T生 ,   大谷英樹

ページ範囲:P.413 - P.414

 〔問〕56℃で血清不活化を行ったところ,白濁ゲル状になって梅毒反応ができなくなりました.どうすれば良いのでしょうか.その原因と対策を教えてください.

微生物 食中毒の原因菌

著者: W生 ,   寺山武

ページ範囲:P.414 - P.417

 〔問〕食中毒で原因物質不明の事例が多いのはなぜですか.

臨床生理 ST上昇・ST下降の生理学的解釈

著者: M生 ,   星猛

ページ範囲:P.417 - P.418

 〔問〕心電図の異常所見としてのST上昇,ST下降は生理学ではどのように説明されるのでしょうか.

検査機器 ディスポ製品の選択法

著者: H生 ,   富田仁

ページ範囲:P.418 - P.420

 〔問〕最近試験管,ピペットなどにディスポ製品が増えましたが,その選択の方法や材質,実際に検体に影響しないかどうかをご教示ください.

診断学 DECDとは

著者: K生 ,   永島成晃 ,   畔柳武雄

ページ範囲:P.420 - P.422

 〔問〕DECD (disseminated eosinophilic collagen disease)とはどんな病気ですか.また診断に必要な検査法を教えてください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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