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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査24巻11号

1980年11月発行

雑誌目次

特集 出血傾向のLaboratory Diagnosis Ⅰ.出血と止血のしくみ

止血機序の新しい考え方

著者: 松岡松三

ページ範囲:P.1238 - P.1245

 正常人では血管の損傷あるいは障害によって出血しても容易に止血する.これは止血に関して生体の有する基本的な機構が正常にかつ調和してその機能を発揮しているからである.haemostasisという言葉は止血と訳しているが,これは本来は止血に関して生体の有する多くの基本的機構を包含した言葉であって,止血機構というべきものである.
 ここにはhaemostasisの概念とこれに関与する各機構の関連について述べる.

Ⅱ.出血傾向を訴えてきたとき

1.乳幼児,小児

著者: 山田兼雄

ページ範囲:P.1248 - P.1253

 小児の出血傾向の患者を初めて診察したときに重要なことは,小児の年齢,性から好発する出血傾向の疾患を考えるということと,次に家族歴を問診で調べるということである.新生児,乳幼児,学童で好発する疾患がかなり異なっている.家族歴をよく聞くことで遺伝形式が明らかになり,検査前に病名を推定することが可能なことが少なくない.相手は小さな小児である.いたずらに無意味な検査を行って小児を痛めつけるようなことがあってはならない.はじめに総論的なことについて述べ後に代表的疾患について述べていく.

2.成人

著者: 野村武夫

ページ範囲:P.1254 - P.1259

 出血傾向とは,止血機構に欠陥があって外傷や外科的処置に際し異常に大量の出血を来し,あるいは正常者では問題にならない些細な外力が加わっただけで出血し,場合によっては自然に出血を生ずる状態を指している.実際には,患者が"出血傾向がある"と言って受診するわけではなく,紫斑,鼻出血,歯肉出血などの出血症状を訴えるのであり,これが果たして出血傾向に該当するか否かを判断し,もし出血傾向と思われれば,次いでその原因究明に取り掛かることになる.
 疾患の診断に当たっては,問診の結果と身体所見を参照して必要な臨床検査を選ぶというのは,内科診断学の最初で教わったところである.出血傾向を診た場合にもこのルールを当てはめるのはいうまでもない.出血傾向を来す疾患の診断に臨床検査を欠かすわけにはいかないが,問診を入念に行い,注意深く診察をすれば,血小板,血管,血液凝固のうちどこに異常があるのか,そしてそれが先天性か後天性かという点にほぼ見当をつけられることが多い.引き続いて,出血傾向に関するスクリーニング検査によって裏付けをとり,更に必要な検査項目を適宜取捨選択して遅滞なく最終診断が下せる.

3.婦人

著者: 鈴木重統

ページ範囲:P.1260 - P.1268

 止血機構そのものは,婦人であれまた成人男子であれ本質的に異なるものではないことは当然のことである.それにもかかわらず,婦人が男性に比して出血に悩まされることが多いのは,性器出血が実に生涯のうちの約半数近くの年数にわたって続くためであり,ある場合には,この出血のために健康をそこねたり,またごくまれに一命を落とすようなこともあるからである.加うるに成熟婦人には宿命ともいうべき妊朶現象が厳然として横たわり,妊娠の基盤にSchwarzman現象があると言われている以上,妊娠〜分娩〜産褥期においては,常にDICの発生に留意せねばならない.パンダに例をとるまでもなく,妊娠で腎疾患を合併したものは,特別な配慮が必要である.
 また性周期,すなわちプロゲステロン優位の黄体期,エストロゲン優位の卵胞期によって微妙な違いが出てくることも考慮する必要があろう.というのは,経口避妊薬による血栓形成傾向が欧米では久しく問題になっており,しかもエストロゲンのdose-responseなどによるという報告もあるからである.

4.老人

著者: 松田保

ページ範囲:P.1269 - P.1274

 老人にみられる出血性素因と,若年者または,幼小児の出血性素因とについては,出血を生ずる機序そのものに差があるわけではないが,出血の原因となる疾患の頻度や,出血症状の程度には,多少の差がみられることに注意する必要がある.

附 出血傾向を呈さない凝固因子異常

著者: 神谷忠

ページ範囲:P.1275 - P.1281

 先天性血液凝固因子欠乏症は血友病で代表されるように,その多くは重篤な出血傾向を伴うことが多い.しかし,止血検査で明らかな異常が認められ,しかもある特定の凝固因子活性が低下または欠如していながら,臨床的な出血症状を全く呈さない凝固障害症(因子欠乏症または異常症)も存在する.
 その典型的な例は先天性第XII因子欠乏症(Hageman trait)であり,その他では最近,新しく発見された二つの凝固因子欠乏症,すなわち,Fletcher因子,Fitzgerald因子欠乏症と異常フィブリノゲン血症である.

Ⅲ.最近注目されている出血性素因

1.血友病とvon Willebrand病

著者: 長尾大

ページ範囲:P.1284 - P.1296

 厚生省研究班(吉田邦男班長)の1976年の集計では,全国の先天性出血素因の患者数は3,341人であった(表1)1).そのうち血友病は約82%を占める約2,750人であり,von Willebrand病は280人であった.このようにその出血症状からも頻度からも,血友病は先天性出血素因の中で重要な地位を占めている.von Willebrand病は血友病に次いで多く,血友病Aとの鑑別において,また第Ⅷ因子を理解するうえに重要である.
 血友病の発生頻度は男子出生人口約4,500人に1人であり,諸外国に比し決して少なくない2).伴性劣性遺伝の典型と言われ,通常男子のみにみられるが,患者の約40%は家族歴を持たない.近年の保因者診断の進歩により,このかなりは隠れた遺伝子の伝達であるが,一部に突然変異によると思われる症例がみられている.

2.線溶阻止物質と出血

著者: 坂田洋一 ,   青木延雄

ページ範囲:P.1297 - P.1303

 血栓の成立には血管壁の変化,血流の異常,血液成分の異常など複数の因子が関与している.止血のために生じた血栓はすぐ除去されれば再び出血を招くし,適当に溶解されなければ臓器に虚血性変化が起きることになる.そこで生体のホメオスターシスの一環として,網内系細胞による貪食,プロテアーゼによる線維素溶解現象(線溶)などが血栓の除去,血管再疎通を微妙に調節しているわけである.線溶においては特にプラスミノゲンアクチベーター,プラスミンを介する系が主流であり,プラスミノゲンアクチベーター,プラスミノゲンアクチベーターの阻害因子,プラスミン,プラスミン阻害因子の均衡によって,その線溶能が決定される.プラスミノゲンアクチベーターとしては,血管壁内皮細胞より循環血中に放出される血管壁プラスミノゲンアクチベーターが最も重要であると考えられている.
 プラスミノゲンアクチベーターの阻害因子は組織中にはその存在が示されているが,循環血中のその本態はまだ解明されていない.プラスミンの血漿中の阻害因子としては表1に挙げたようなものが認められるが,最近我我の研究室で分離精製されたα2-プラスミンインヒビター(α2-PI)1)が,生理的に最も重要なプラスミンの阻害因子であることが判明してきた2,3).本稿では重篤な出血傾向を来したその遺伝的欠損症について述べ,それに関連してα2-PIの生理的意義について論ずることにする.

3.DIC

著者: 大里敬一 ,   加藤秀典

ページ範囲:P.1304 - P.1310

 血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagul-ation;DIC)は,種々の原因により全身の細小血管内に微小血栓が多発し,そのために様々な全身症状,臓器症状及び出血症状が現れる状態を示す重篤な症候群で,死亡率が非常に高く約70%にのぼると言われている.DICの概念が臨床面に導入されて20年以上を経過し,その病態がしだいに明らかになるに従い診断面でも進歩はみられるが,いまだに確実な診断基準がないのが現状であろう.
 DICの臨床診断は,凝固系の活性化を促進するような悪性腫瘍,感染症,ショックなどの基礎疾患(図1)が必ず存在し,細小血管の多発性血栓形成による腎,肺,脳,副腎,心,消化管などの臓器の機能不全症状や,凝固因子の大量消費によるいわゆる消費性凝固障害(consumption coagulopathy)に基づく皮下出血,口腔・鼻粘膜出血,消化管出血,頭蓋内出血,性器出血,血尿,創出血などの出血症状,特に多発性の出血傾向のいずれかまたは両者が現れた場合にのみ下されるべきである.

4.特発性血小板減少性紫斑病

著者: 安永幸二郎

ページ範囲:P.1311 - P.1319

 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,血小板減少を来す原疾患や遺伝的要因が認められず,赤血球系,白血球系には異常がなく,骨髄で低形成を認めないものであって,成因や治療について決定的なものがなく,現在いわゆる難病の一つにも挙げられているものである.本症については厚生省特定疾患調査研究でも取り上げられ,昭和48〜50年には小宮正文教授,昭和51年には高久史麿教授,昭和52〜54年には内野治人教授(特発性造血障害班の分科会として)によりそれぞれ研究が進められた.本編ではそれらの研究成果を踏まえつつ,本疾患の概要について述べることにする.

5.血小板機能異常症

著者: 磯部淳一

ページ範囲:P.1320 - P.1329

 血小板機能異常癖とは,血小板の数は正常であるが質的異常のために出血症状を来す疾患群を指す.疾患によっては量的異常を伴うものも知られている.
 従来から血小板の機能異常を示す疾患は先天性及び後天性に大別されており,前者が機能低下に基づく出血性疾患であるのに対し,後者には易出血性ならびに機能亢進状態による易血栓性疾患も含まれる.本稿では主として先天性血小板機能異常症を対象として記述を進める.

6.薬剤と出血

著者: 岡本緩子

ページ範囲:P.1330 - P.1334

 近年,新しい優れた薬効を持つ薬剤の開発は目覚ましいものがあるが,一方ではこれらによる副作用も少なくなく,特に動物実験では認められなかったような副作用がヒトではみられることさえあり,臨床家に不安を学えているのが現況である.
 出血傾向のある場合にも,原因疾患によるものであるかどうかを検索するとともに,服用薬剤(いわゆる常用薬をも含めて)ならびに化学薬品との接触ないし暴露の有無などについても,病歴を詳しく聴取しないと,出血傾向の真の原因を見逃してしまうことになりやすい,薬剤が原因であるかどうかについては,特に出血傾向の出現時期と薬剤投開始時期との関係を十分に追求する必要がある.

Ⅳ.各種疾患と出血

1.血液疾患

著者: 阿部帥

ページ範囲:P.1336 - P.1340

 血液疾患の中で止血機構の異常を本態とする凝血障害,血小板減少症及び血小板機能異常症などについては別項で詳しく取り上げられている.本稿ではそれらの疾患を除いた出血傾向を合併しやすい主要な血液・造血器疾患,すなわち再生不良性貧血,巨赤芽球性貧血,急性白血病,慢性骨髄性白血病,原発性骨髄線維症,真性多血症,原発性血小板血症,悪性リンパ腫などについて,出血症状の頻度,成因,臨床病態などについても述べる.

2.肝胆道疾患

著者: 上野幸久 ,   遠藤了一

ページ範囲:P.1341 - P.1347

 凝固と線溶に関与する血漿蛋白質のうち第Ⅷ因子を除く他の多くは,肝細胞において合成される.また凝固〜線溶系ならびにインヒビターは相互に密接な関連を持ち,その生理的な動的平衡が正常に維持されている.これら凝固系の活性化に対応するインヒビターも肝細胞によって生成されるものが多い.また活性化された第Ⅸ,Ⅹ,ⅩⅠ因子などの凝固線溶系因子の処理機構が肝網内系に存在すること,更には肝硬変において血小板の減少と異常が出現しやすいことなど,肝と血液凝固とは密接に関連している.このため,肝障害がある程度以上高度となると,これら凝固因子の合成障害と異常消費,線溶亢進ならびに血小板の減少を伴い出血傾向を来すことが多い.本稿では主として肝疾患における重症度と血液凝固線溶系の異常と,それらの検査法についてその臨床的意義を解説してみたい.

3.腎疾患

著者: 久米章司 ,   山中學 ,   苅家利承 ,   田部章

ページ範囲:P.1348 - P.1352

 腎疾患にはしばしば種々の血液学的異常を伴う.いちばんよく知られているのは,慢性腎不全における貧血である.最近,腎疾患における出血性素因も,その疾患の治療上,更には病態生理の理解のうえに注目を集めつつある.本稿では,腎疾患における出血性素因ということに関して,特に腎疾患における血尿,尿毒症における出血,及び特殊な腎疾患における出血について若干の考察を加えてみたいと思う.

4.血漿蛋白異常症

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1353 - P.1356

 出血傾向を伴う血漿蛋白異常症としては表1に示すごとき疾患または症候群がある.このほかにも広義には血液凝固系及び線溶系に含まれる諸因子の欠乏または増加も血漿蛋白異常症に含まれるが,これらについては他の項で述べられるので,本項では省略する.
 これらの病態において認められる止血異常は多岐にわたり,検査所見も症例によってかなり異なっている.また,出血傾向の発生機序について不明な点も少なくないが,次のような幾つかの異常が指摘されている1〜5)

5.免疫学的疾患

著者: 斉藤昌信

ページ範囲:P.1357 - P.1361

免疫と出血傾向について
 免疫疾患における出血症状は,免疫過程と密接な関連を持った凝固,線溶,キニン,カリクレイン,血小板,及び血管系における反応性の病的変化として認められるが,それらの相互関係はなお十分明らかでない.それらの中で,補体系とは相互に密接な関係を持つことが明らかにされており,血小板傷害をはじめ,凝固系の活性化の促進とその消費などによる凝固障害を機転とした出血症状の発現も,重要な役割を果たしていることが知られている.
 また凝固第Ⅷ,Ⅸ因子などに対する自己抗体による凝固阻止物質も出血に重要な因子である.凝固阻止物質は他の項目で扱われるので省略し,主要な免疫疾患における出血傾向の問題を中心にして,その病態と関連した臨床事項を述べることにする.

Ⅴ.出血性素因のスクリーニング検査

1.出血時間の長いとき

著者: 山中學

ページ範囲:P.1364 - P.1370

 出血時間は,皮膚にある一定の切創を加え,創口からの出血が自然に止まるまでの時間を言う.

2.凝固時間の長いとき

著者: 福武勝博 ,   梶原功介 ,   藤田武央

ページ範囲:P.1371 - P.1376

 一般に止血検査に際して凝固時間と呼ばれているのは,トロンボエラストグラム(TEG)のk+r値を指すか,Lee-White法(1913)によって測られる全血凝固時間(whole-blood clotting time;CT)のことである.Lee-White法の技術的な弱点は,血液が凝固した終点を決める際に測定者によって多少の個人差を生ずることである.正常値は一般に10分前後と言われているが,我々の研究室では8〜12分となっている.しかし,各検査室では各自の終点の決定方式を決めて,それによる正常値を設定しておく必要がある.Lee-White法には多少の変法が行われているが,我が国で最も普及している方法は次のようである.

3.血液が固まらないとき

著者: 真木正博

ページ範囲:P.1377 - P.1381

 普通のガラス管に採血した血液,または出血してきた血液が凝固しないのは,凝固因子が欠乏している場合,あるいは凝固因子としての機能を果たさない場合,抗凝固物質が存在している場合とである.凝固因子の欠損や機能障害には先天性のものと後天性のものとがある.抗凝固物質は血中に天然にも存在しているが,血液を非凝固性にさせてしまうほどの量は存在しない.したがって,人為的なものか,ある種の病的状態においてのみみられる(表1).
 筆者に与えられたタイトルは前後の割りふりを考えて,先天性の無フィブリノゲン血症を除けば,他は主として後天的な非凝固血液についての内容と思われるので,その線に沿って解説を進めることにしたい.

4.術前のスクリーニング検査

著者: 松田道生

ページ範囲:P.1382 - P.1386

 止血・凝血系のスクリーニング検査法の術式については,今日この方面に関する数多くの成書や特集1〜4)で取り上げられており,ここでその技術的解説を加える必要はなさそうに思われる.それよりも,本稿ではむしろ実地臨床上,手術を予定されている患者に,あるいは潜んでいるかもしれない出血性素因を見落とさないようにするにはどうしたらよいかを,検索の進め方と得られた成績の評価を中心に述べてみたい.

Ⅵ.出血性素因の新しい検査法と問題点

1.免疫学的検査法

著者: 池松正次郎 ,   松原泰久 ,   藤巻道男

ページ範囲:P.1388 - P.1393

 血液凝固因子の単離精製技術の進歩は,その分子酵素学的解析の発展をもたらすとともに,凝固因子に対する免疫学的アプローチを可能にして検査技術の開発に貢献した.本稿では開発された多くの免疫学的検査法のうち,検査室レベルで行うことのできる測定法を中心に述べることにする.

2.合成基質による検査法

著者: 浅井紀一

ページ範囲:P.1394 - P.1402

 凝固・線溶反応における合成基質の導入は,1954年Sherryらの合成したTAMe (Tos-Arg-メチルエステル)などのアルギニンエステルが,基質としてトロンビンのエステラーゼ活性の測定に使用されたのに始まるが,エステル水解活性が凝固活性と一致せず,基質の特異性や感度が低いなどの問題があった.しかし最近の蛋白質化学の進歩から,フィブリノゲンのトロンビンによる解裂部のアミノ酸構成に類似した発色性ペプチド基質Bz-Phe-Arg-p-ニトロアニリド(S-2160)がBlombächら(1972)により合成され,酵素反応を受けて遊離したパラニトロアニリン(pNA)の黄色の発色による酵素化学的初速度分光分析の容易なこと,試薬調整の容易さなどから,しだいに研究検査に用いられるに至った.
 続いて,同様に遊離すると螢光を発するアミノメチルクマリン(AMC)を結合させた螢光性ペプチド基質も岩永ら(1977)により開発され,AMCは励起380nm,螢光460nmで螢光分析が可能であり,両種の合成ペプチド基質は多数合成されて凝固・線溶因子の測定用に応用され特異性も向上し,トロンビン,第Xa因子,カリクレイン,プラスミン,ウロキナーゼなどに適用が可能となり,更に発色基β-ナフチルアミンや螢光基アミノイソフタル酸ジメチルエステルなどの誘導体も出現し,普及拡大の状勢にある(表1).

3.血小板機能検査法

著者: 山崎博男

ページ範囲:P.1403 - P.1409

血小板の機能
 血小板は生体の出血に対する防衛細胞である.血管に傷が付くと,直ちにその部分に血小板が粘着することから止血機転が始まる.粘着した血小板から細胞内小器官である特殊顆粒に含まれているアデノシン二リン酸(ADP),セロトニン,カテコールアミンなどが放出される.主として放出されたADPが周囲の流血中血小板に働き,この血小板が凝集し血小板塊は大きくなる.すなわち血小板血栓ができる.一方血管傷害によって引き金を引かれた血液凝固系も活動を始め,血小板血栓によって血流をせき止められた局所で活性凝固因子の濃度が高まり,フィブリンが析出し止血機転が完成してゆく.この過程で血管壁内成分中でコラゲンが血小板粘着に当たり重要視されるが,粘着の機構にはなお分からぬ部分が多い.粘着に当たって血漿中のvon Willebrand因子や,血小板膜糖蛋白Ⅰが必要であると考えられている.また血小板膜表面荷電の意義も考慮されている.
 血小板以外の組織や物質に血小板が付着する現象が粘着であり,血小板同士が付着する現象が凝集と呼ばれるが,凝集の真の機構にもまだ分からぬ点が多く,また粘着凝集はあい伴って起こることが多く,この点臨床検査上の成績にも問題が起こる場合がある.凝集には膜糖蛋白Ⅱが関係すると考えられている.粘着凝集には血小板の放出現象が密接に関与している.

4.血小板の産生,崩壊に関する検査法

著者: 塚田理康

ページ範囲:P.1410 - P.1417

 骨髄の幹細胞から分化した骨髄巨核芽球は,細胞分裂を伴わないDNA合成によってDNA量を8〜64Nと増加させ,その大きさを増大させていく.次いで胞体の成熟が起こり骨髄巨核球となって血小板の産生が行われるようになる.ヒトにおける巨核球の成熟には恐らく4〜5日を要すると報告されている1)。巨核球の細胞質が分離してできた血小板は末梢血液中に一定期間出現した後,老化,消費あるいは破壊によって消失していく(図1).
 単位時間内に末梢血液中に出現してくる血小板量(有効血小板産生量)と消失していく血小板量の均衡が保たれているときは,末梢血液中の血小板数は不変である.かかる状態においては,血小板産生量あるいは血小板消失量の一方を知ることにより,他方を推定することができる.

5.血小板抗体検出法

著者: 柴田洋一

ページ範囲:P.1418 - P.1423

 血小板抗体の検出は主に二つの点で現在ますます重要となっている.一つは白血病患者や化学療法中の患者で,血小板減少を来した人々への血小板輸血に際してである.繰り返し血小板輸血を受けた患者では約80%の症例で血小板抗体(同種抗体)が生じる.いったん血小板抗体が生じると,それ以降の血小板輸血で血小板が急速に抗体によって破壊され,有効な輸血にならず発熱などの副作用が起こる(refractory state).このような状態になった患者への血小板輸血では,患者のHLA型と適合する供血者の血小板を輸血することが現在最も有効な手段である.しかしこのように供血者を選択しても約2割は無効と言われ,血小板型に対する抗体の存在が考えられている.したがって患者に血小板抗体が存在するか否かを決めるため,及び現在急速に普及しつつあるsin-gle donor plateletpheresis (Haemonetics model 30, IBM2997を使用)での血小板交差適合試験を行うために,血小板抗体の検出が重要である.
 もう一つは長年にわたって大きな疑問を残してきた,特発性血小板減少性紫斑病(ITP)患者中での血小板抗体(自己抗体)の検出である.

6.血管に関する機能検査法

著者: 前川正 ,   小林紀夫

ページ範囲:P.1424 - P.1430

 止血は血管の示す反応で,間接法としては血管運動神経を介する神経支配,各種ホルモンやビタミン,蛋白や脂質などの栄養,血行動態すなわち,血流,血圧,組織液圧のほか,血中のPO2,PCO2,pHなどの影響も受けるが,直接関与するのは血管収縮や止血血栓の形成である.これら止血反応における直接相のうちで,主役を演ずる止血血栓形成は,血管壁と血小板及び凝固系の反応で始まる.損傷血管壁への血小板の粘着・凝集,内因性凝固系の接触活性化,損傷部に露出した組織トロンボプラスチンによる外因系凝固過程の賦活など,いずれをとっても止血にあっては血管が中心的な役割を果たすことが理解できる.
 したがって,何らかの原因による血管壁の異常が一次的でありかつ直接的な原因となって,出血傾向を惹起することは当然ありうることで,実際ここに分類される出血性素因は少なくない.しかるに,その診断は血小板や凝固線溶系の異常に基づく出血傾向のごとく,止血機構における障害を検査によって直接明らかにできるのと異なり,それぞれに特有な出血症状の把握と,現存する止血能検査に異常を認めないという成績に依存するのが現状である.血管機能を検討する良い検査法がないからである.血小板,凝固線溶系の研究は近年著しく進展した.それに伴って,血管,特に内皮細胞や基底膜,コラゲンなどに関する研究も盛んとなり,これらの機能も徐徐に解明されつつある.

Ⅶ.検査機器と問題点

1.トロンボエラストグラフ

著者: 大塚博光 ,   雨宮章 ,   山中昭二

ページ範囲:P.1432 - P.1435

 Thrombelastgraph (TEG)は,Hartertによって1948年に考案され,それ以来,血液凝固の第Ⅰ相から第Ⅳ相までの変化を,経時的かつ総合的に記録できる機器として利用されてきた.最近では,直記式のTEG (Hellige製;図1)が考案され,急性DICなどの場合,刻々と変化していく病態に対して高い利用価直が認められている.

2.自動凝固測定器

著者: 鈴木弘文

ページ範囲:P.1436 - P.1441

 血液凝固検査領域における自動測定装置の変遷過程をたどってみると,興味ある点に気が付く.すなわち1930〜1940年代と1970年〜現在の二つの時期に,血液凝固自動測定装置の開発考案が盛んに促進されている点が一つ挙げられる.第二点として血液凝固自動測定装置開発の目的が,血液凝固能の観察→血液凝固検査の精度管理の改善→凝固検査の省力化及び能率的管理→用手法では得られない凝固能の情報の取得,と変遷している点である.もちろん第二点として列挙した自動化開発の目的の変遷に関しては明確な区別があるわけではなく,徐々に移行していることが推察されるにすぎないし,またある意味においてはこれらの目的とする事項のすべてが,今日の血液凝固自動測定機器の目的とするところであると言えるかもしれない.
 いずれにせよ今日我が国での入手可能な血液凝固自動測定装置は,30種とも40種とも言われているくらい多数存在していることは明らかであり,過去においても例をみないことである.このように今日多数の凝固検査自動測定装置が登場してきた原因として,ME工学の発達はさておいて,血液凝固学の進歩に伴い血液凝固検査の重要性が強く認識され,広く普及してきた点が挙げられる.こうした現況下における凝固自動測定装置の有する意義は極めて重要であり,ただ単に操作の簡易化,処理能力の増大を重視した装置であってはならないことは言うまでもない.

3.血小板自動計数機

著者: 武内恵 ,   山本美保子 ,   安藤泰彦

ページ範囲:P.1442 - P.1451

 血小板数の算定は従来,間接法(Fonio法),直接法(Brecher-Cronkite法,Rees-Ecker法)など視算法が用いられていた.視算法は血小板数の多少を技師が直接確認できるという長所はあるが,再現性が悪く,検体処理能力が低いなど重要な欠点があった.また,最近では全身性血管内凝固(DIC),悪性腫瘍,白血病治療時の血小板減少などに対して,血小板輸血その他のきめ細い治療が行われ,また外科手術時の術前術後においても血小板数を慎重に検査することが常識となってきた.そのため血小板計数の検体数は年々増加してきており,同時に血小板数算定の迅速性,正確性などに関する臨床側の要求もより高度になってきた.以上の理由から,血小板計数自動化の必要が切実なものとなり,自動機器の開発が行われるようになった1,2)
 血小板数を算定するためには,血小板を赤血球,白血球と区別して測定することが必要であるが,このために幾つかの優れた工夫がなされ,現在では数種類の測定原理の異なった機器が実用に供せられている.今回は我々が実際に使用する機会を得た機種を中心に,これら機器の特徴及び問題点を述べてみたい.

4.血小板凝集計

著者: 松野一彦 ,   寺田秀夫

ページ範囲:P.1452 - P.1458

 血小板機能検査は,先天性血小板機能異常症の診断に必須なことは言うまでもないが,種々の疾患に合併する出血傾向の病態に血小板が深くかかわっていることが知られるようになり,その必要性が増してきた.また近年心筋梗塞や脳梗塞などの血栓疾患の予防ならびに治療に血小板機能抑制剤が使用されるようになり,血小板機能検査の重要性は更に増すように思われる.
 血小板機能検査のうちin vivoの検査では,出血時間,特に器具及び測定条件を標準化したtemplate Ivy法が最も優れた検査とされている.in vitroでは血餅退縮能,血小板粘着能(停滞率),血小板凝集能,血小板第3因子活性,血小板放出などの検査が行われているが,血小板凝集能検査はその中で最も重要であり,比較的容易に血小板の重要な働きの一つである凝集をみる検査である.

Ⅷ.座談会

出血傾向のLaboratory Diagnosis

著者: 山中學 ,   青木延雄 ,   塚田理康 ,   風間睦美 ,   河合忠

ページ範囲:P.1459 - P.1467

 出血傾向の診断は臨床医の問診・視診が肝要であることは不変であるが,一方凝固因子の酵素学的・免疫学的定量法の進歩,血小板検査の普及に伴い凝固・線溶系の検査は著しく進歩している.そこでここでは臨床と検査の専門家に出血傾向のlaboratory diagnosisの現状を語っていただく.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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