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雑誌目次

論文

臨床検査25巻2号

1981年02月発行

雑誌目次

今月の主題 救急検査 カラーグラフ

アメリカの救急検査室

著者: 篠塚規

ページ範囲:P.124 - P.125

 米国北東部の中規模都市Pittsburghの,主要5病院の救急体制,検査室の一端を紹介する.救急の連絡体制は充実しており,救急車と救急室とは無線で,また救急室と検査室一手術室とは専用のホットラインで連絡されており,更に一刻を争う重症患者には,保険でカバーされるLife Flightと呼ばれるジェットヘリコプターも活用されている.
 近年,救急医学は,新しい分野として急速に伸びつつあり,専任医師,専任看護婦,X線技師,事務員で構成された救急部がどの病院にもある.これを支える臨床検査室も,24時間体制(技師は3交代制)で動いており救急で必要とされる検査を,速く正確に行っている.

技術解説

緊急検査と検体採取法

著者: 清瀬闊

ページ範囲:P.126 - P.135

 近年,高度な医療技術の発展によって,従来救命しえなかった症例でも救命しうる段階に達しており,これが救急医療の重要性を再認識させる大きな基盤となっている.
 一般に緊急検査と簡易検査とが混同されるきらいがあるが,決して同意語ではない.検査の中には"あるか? ないか?""高いか? 低いか?"のような定性的判断で事足りるものもあるが,一般にはルーチン検査の精度と同等のレベルの分析が要求される.緊急検査に際して,ルーチン検査の機器,試薬を共用する場合はまだよいが.全く独立したシステムで運営される場合には,両者の精度を一致させるよう努力することが極めて大切である.更にまた,"緊急"という名の下に検体の取り扱いが粗雑になりやすいので,採取から分析までの間の取り扱いには十分注意を払う必要がある.以下各検体につき,その概要を述べる.

生体中の薬物の分析法

著者: 西川隆 ,   斎藤正行

ページ範囲:P.136 - P.141

 今日私たちの生活ではたくさんの化学的物質を使っている.しかしこれらが時には幼児が誤って殺虫剤を飲むとか,医薬品の過剰摂取とかの事故を起こし,また自殺や他殺にも使われている.実際厚生省及び警察庁の調査によると,化学物質による中毒で死亡した人数は年間約6,000人で,交通事故による死亡者約9,000人の60%にもなる1)
 最近我が国も欧米同様,交通安全対策及びそれに関連した救急医療体制が着々と整備されてきたが,それに比し薬物中毒対策は欧米に比しかなり遅れているというより,全く手が着けられてない.早急に我が国でも中毒情報センターや中毒物質分析センターが設置さねる必要がある.もちろんこれらセンターは,24時間年中無休のサービス体制でなければ機能は発揮しない.薬物中毒によるらしい昏睡患者の原因薬物が直ちに検出されれば,それに応じて適切な治療が行われ多くの人が死から免れるであろう.

臨床検査室における呼吸管理

著者: 西邑信男 ,   阿部由美子

ページ範囲:P.142 - P.147

 呼吸とは組織に十分な酸素を与え,臓器よりの炭酸ガスを吐き出す機能を言う.
 酸素は人体ではもちろん肺より取り入れられるが,炭酸ガスはその大部分は肺より,その一部は重炭酸塩となり腎より排出される.しかしこれらのガスのバランスにおいて最も重要なのは肺である.しかし一方肺より酸素が取り入れられても,これが血液によって末梢に運ばれなければならず.また組織がこれらの酸素を十分利用できなければならない.したがって本当の意味での呼吸の効率を調べるためには,呼吸機能のみならず,循環や血球,特にHbの酸素親和性などを総合的に調べなげればならない.一般には呼吸の効率は動脈血のpH,PaO2及びPaCO2の値の分析により,これらの値を基として酸素の流量,人工呼吸のセッティングを変えたりして呼吸管理が行われる.したがって血液ガスの分析は最も重要な検査項目となる.

総説

アメリカの救急検査室

著者: 篠塚規

ページ範囲:P.149 - P.153

 Allegheny General Hospitalの救急部の主任,Emily J. Lucid医師は次のように語った.
 「この国では,"救急"かどうかは患者が決定する.救急部ではすべての患者を受け入れ,病院のすべてのサービスが,日曜祭日も含めて毎日24時間体制で行われている.」

臨床検査の問題点・136

簡易化学検査機器

著者: 斎藤正行 ,   赤塚涼子

ページ範囲:P.154 - P.160

 簡易化学検査機器は,その簡便・迅速性により,外来診療,緊急検査そして小規模検査室でその有用性を高めている.その一方,データの信頼性はどうだろうという不安がなくはない.試薬のチェックや日常の精度管理がいっそう大切となってくる.

検査と疾患—その動きと考え方・50

頭部外傷

著者: 中村紀夫 ,   安江正治

ページ範囲:P.161 - P.168

 症例 I.O.,56歳,男性.
 主訴 話す内容がおかしい.ろれつが回らない.

Ex Laboratorio Clinico・50

唾液による尿素の迅速簡易測定

著者: 奥田清

ページ範囲:P.169 - P.174

 よく知られていることではあるが,研究のテーマやちょっとしたアイディアは偶然に得られることが少なくない.そして理詰めの推論の積み重ねから得られるものよりも,一味違っていることが多い.
 今回依頼があって唾液中尿素濃度の研究のルーツをたどってみたが,とんでもないところにそのきっかけをつかんでいることに驚いている.すなわち,それは尿ウロビリノゲン用試験紙の開発を思いたった時点にさかのぼることになる.

負荷機能検査・14

胆汁酸負荷試験

著者: 有阪治 ,   入戸野博

ページ範囲:P.175 - P.182

胆汁酸負荷試験の起こり
 胆汁酸の合成,抱合,排泄及び血中からの取り込みは肝細胞の特異な機能であり,各種肝胆道系疾患において血中の胆汁酸値が上昇することはよく知られていた.しかしその測定法が煩雑であるために,臨床的に利用されなかった.
 最近,ラジオイムノアッセイ(RIA)及び酵素螢光法による胆汁酸の微量測定法が確立され,血中胆汁酸の測定が簡単となり,精度が向上し,血中胆汁酸値によって肝胆道系疾患を診断し,病態を解析しようとする試みがなされている.

アイソエンザイム・2

アイソエンザイムの分離・1—クロマトグラフ法

著者: 石黒伊三雄 ,   篠原力雄

ページ範囲:P.183 - P.188

 アイソエンザイムは,基質特異性が同じでも酵素の構造上の違いを有する複数の酵素を呼んでいる言葉で,このような酵素の特徴から生体内では臓器組織によって異なった分布を示したり,細胞内でも局在性の差異が見られるので,臨床検査領域においては血清中のアイソエソザイムを分離して酵素活性や酵素の起源を調べることによって,疾病の診断に極めて有効な手段となることから注目されるようになり,アイソエンザイムの分離の検査技術の発展に伴って実際に臨床検査室でよく利用されるようになった.
 アイソエンザイムの分離については次号で電気泳動の実施技術が紹介されるので,ここではクロマトグラフ法を中心に実際的な技術について述べる.

研究

サーモグラムパターン分類による甲状腺腫瘤の診断

著者: 戸塚寿子 ,   川上憲司

ページ範囲:P.189 - P.193

はじめに
 甲状腺腫瘤性病変の診断には従来,放射性ヨード,テクネシウムを用いた甲状腺シンチグラフィーが行われているが1),最近は201T1などの腫瘍親和性核種によるシンチグラフィー2)も利用されている.また腫瘤の形態,内部構を知るのに超音波断層法3),CT4)が広く用いられている.
 甲状腺腫瘤に対しては,上述のイメージ診断法のほかに,サーモグラフィーの利用5,6)も可能と思われるが,その普及はいまだ一般的でない.我々は今回,種々甲状腺腫瘤にサーモグラフィーを応用し,質的診断の可能性について検討した.

学生の12分間走と蛋白尿の関係

著者: 金川克子 ,   稲垣美智子 ,   河野保子 ,   橋羽裕規男 ,   斉藤善蔵 ,   鏡森定信

ページ範囲:P.195 - P.198

はじめに
 激しい身体活動によって尿中に蛋白質が排泄されると言われており,我々も以前に看護学生の実習教育の効果的方法を学生の体力の面から検討した際,12分間走という激しい身体活動に際して,走行後は半数以上の学生に尿蛋白がみられ,走者(学生)の健康状況に疑問をいだくほどであった1)
 そこで今回は,改めて12分間走に焦点を当て,12分間走という身体負荷が尿蛋白の排泄にどのような影響を与えるのかを時間的推移とともに観察し,また走者(学生)の腎疾患の有無や尿沈渣についても検討したので報告する.

急性心筋梗塞における血清ミオグロビンの変動

著者: 片桐敬 ,   鳥羽憲二 ,   佐藤龍次 ,   湊口博之 ,   笹井泰文 ,   小林洋一 ,   新谷博一

ページ範囲:P.199 - P.203

緒言
 ミオグロビン(以下Mb)は,骨格筋,心筋のみに存在するヘム蛋白であり1),酸素との結合,解離により細胞内呼吸の一役を担っている.分子量17,500の低分子蛋白で,骨格筋,心筋の傷害に際し,早期にクレアチンキナーゼ(以下CK),GOT,LDHなどの酵素と同様に血中に遊出してくる2).近年血清中の微量のMbを測定する方法としてラジオイムノアッセイ(RIA)法が開発され,各種骨格筋,心筋疾患における血清Mb (以下S-Mb)の動態が研究されてきている.我々は今回このRIA法を使用して急性心筋梗塞患者のS-Mbの変動を梗塞早期から経時的に検索し,CKとの比較などにおいて有益な結果を得たので報告する.

組織の2,7-フルオレンジアミン法によるペノレオキシダーゼ反応

著者: 小畠勝巳 ,   葛城ひとみ ,   菊池昌弘

ページ範囲:P.204 - P.206

はじめに
 組織レベルでの骨髄系細胞鑑別には,従来ベンチジン法によるペルオキシダーゼ染色が用いられていたが,ベンチジンの発癌性が明らかになって以来,McJunkin法が使用不可能となった.そこで,ベンチジンを用いない新しい方法が開発されてきている.その一つに,Graham-Karnovsky法があるが,これに用いられるDAB (3,3'-ジアミノベンチジン)は高価で,鋭敏な反応だけに固定剤によって影響を受けやすいことから1),今日ではペルオキシダーゼと同じ目的で用いられるナフトール-AS-D-クロロアセテート(NASDCI法)の使用頻度が高くなってきているようである2,3).しかしNASDCIは肥胖細胞が強く反応するために,その鑑別が困難である.
 そこで我々は,ベンチジンやDABに替わる2,7-フルオレンジアミン(2,7-F1)に注目し,血液塗抹標本で報告された福大法4)を組織切片に応用できないかと検討し,有効な結果を得たのでここに報告する.

尿中FDPの測定と産科領域における応用

著者: 中村幸夫 ,   竹内泉 ,   品川信良 ,   成田憲一

ページ範囲:P.207 - P.209

はじめに
 尿中FDP(fibrin and fibrinogen degradation products)は腎炎1〜5),腎移植患者6),膀胱腫瘍7),妊娠中毒症8)などで上昇することが報告されており,その変動は腎糸球体内,下部尿路,流血中などの凝固線溶動態を反映する9)とされている.近年,尿重FDPをラテックス凝集法を応用して,簡便に測定することが可能となり,私たちはこの方法で産科領域について測定したので報告する.

臨床化学分析談話会より・89<関東支部>

GOT測定法標準化の学会勧告案作成—三つの委員会活動から

著者: 仁科甫啓

ページ範囲:P.194 - P.194

 第235回臨床化学分析談話会関東支部例会(1980.9.16)が慶応大学医学部第2校舎で行われた。今回は関東支部に設立され,現在活動がなされている幾つかの小委員会のうち,三つの委員会の活動報告が下記の諸氏によってなされた.
 酵素小委員会:慶応大 松本宏治郎

私のくふう

マゲネチックスターラーを用いたサコマノ集細胞法実施上の一工夫

著者: 稲荷公一 ,   門屋清輝 ,   大泉えり子 ,   井手寿夫 ,   重松授

ページ範囲:P.210 - P.211

 肺癌は年々増加傾向にあり,現在胃癌に次いで癌死亡中第2位の死亡率を占めている.従来の喀痰細胞診では,検体が,検査室に届くまでに変性が起こりやすく,多量に含まれる粘液によって細胞数の希釈が起こり,連続的検査を必要とする.これらの欠点を補うサコマノ集細胞法が注目されてきたが,私どもは高速ミキサーの代わりにマグネチックスターラーを使用し,かなり優れた標本を作製することに成功した.

学会印象記

第27回日本臨床病理学会総会

著者: 村上賢二

ページ範囲:P.212 - P.212

実用段階に入った各種機器・製品
 東大寺昭和大修理落慶法要でにぎわう奈良市で,第27回日本臨床病理学会総会(総会長梅垣健三奈良医大学長)が,10月17,18,19日の3日間,奈良県立文化会館を中心に7会場で行われた.今年は総会長講演と特別講演,シンポジウム2,一般演題725,それに微生物,血清関係の教育集会,公開講演会がもたれ,参加総数は2,500名以上であったという.
 今回の総会長講演は"臨床病理学における血液凝固の進歩"と題して,凝固,線溶系測定の歴史,凝固囚子の各種病態生理学的解析への応用について講演され,従来の凝固検陛は精度管理に問題があるので,将来は自動化の方向に向かうべきであることを指摘された.

新しいキットの紹介

エラグ酸含有APTT試薬Cephotestについての検討

著者: 坂部尚子 ,   秋山康博 ,   薄和保 ,   川島英敏

ページ範囲:P.213 - P.216

緒言
 我が国における内因性凝固能の測定は,古くは全血凝固時間や血漿カルシウム再加凝固時間によって行われてきた1).近年,部分トロンボプラスチン時間(PTT),更に接触因子の活性化剤を加えた活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が使用されるようになった.しかし今までのAPTT試薬は,活性化剤であるカオリン,セライトなどの沈降と試薬液の安定性が乏しいという問題点があった3).Cephotestは,Nyegaardがこの点を補い,至適サイズと濃度に標準化された安定なセファリン懸濁液に,可溶性の活性化剤(エラグ酸)を加えたAPTT試薬である2,3)
 長谷川らは4),Cephotesしと他のAPTT試薬の臨床経験について既に報告している.今回我々は,Cephotestの測定条件の検討及びヘパリン加血漿におけるPTT,APTT試薬との比較検討,更にCephotestの安定性,機器による測定などについて検討したので,その概略を報告する.

サンドイッチRIA法を用いた乾燥血液濾紙中TSHの測定

著者: 水田仁士 ,   川島実 ,   市原清志 ,   宮井潔

ページ範囲:P.217 - P.220

はじめに
 先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)は非可逆的な知能低下をまねく疾患であるとされていたが,新生児期のマススクリーニングにより早期発見早期治療を行えば,これを防ぐことができる1).その一つとして乾燥血液濾紙中TSHをRIAで測定するクレチン症マススクリーニングは,宮井2),入江ら3)によって開発され,本邦では1975年以来,大阪・東京地区でその成果を上げている4〜6).また1980年春から,厚生省の指導により全国的に行政実施されつつある7).そこで乾燥血液濾紙中TSHの測定法として,幾つかの方法が開発されつつあるが,今回Corning製の乾燥血液濾紙中TSH測定用RIAキットを使用する機会を得,その基礎的検討を行ったので報告する.

検査室の用語事典

凝固・線溶検査

著者: 藤巻道男

ページ範囲:P.221 - P.221

11)異常フィブリノゲン;abnormal fibrinogen
 フィブリノゲン分子のアミノ酸の配列異常によるもので,次の3段階に分けて考えられる.①トロンビンによってフィブリノペプチドAとBの遊離,②フィブリンの重合,③フィブリンの安定化など.これらの段階の異常により凝固障害を来すのである.

細胞診

著者: 浦部幹雄

ページ範囲:P.223 - P.223

11)石だたみ状配列;pavement
 細胞配列の状態が石畳を敷きつめたように見受けられるもの.細胞間の結合がよく中間層細胞に認められ,組織標本などでは鮮やかにうかがえる.シート様配列とも言う.

質疑応答

臨床化学 試薬キットでの界面活性剤

著者: 下村弘治 ,   S生

ページ範囲:P.225 - P.228

 〔問〕 試薬キット類のほとんどに界面活性剤が加えられているようですが,どうして加えるのですか.またその種類,利用法などについて教えてください.

血液 凝固検査の順序

著者: 福武勝幸 ,   S生

ページ範囲:P.228 - P.231

 〔問〕 プロトロンビン時間,部分トロンボプラスチン時間及びトロンボテストは,なぜ凝固検査の中でいち早く行わなければならないのですか.

免疫血清 肝炎感染予防の見地よりの体液検体等の取り扱い

著者: 遠山博 ,   製薬会社勤務者

ページ範囲:P.231 - P.233

 〔問〕 最近,HB抗原陽性の結果が出た者です.肝機能検査は今のところ異常ありませんでしたが今後が不安です.そこで以下のことについてお教えください.
(1)血液,血清,血漿の取り扱い方

免疫血清 モノスポットテスト

著者: 水谷昭夫 ,   O生

ページ範囲:P.233 - P.235

 〔問〕 伝染性単核症の診断の際,Paul-Bunnell反応やDavidsohn吸収試験を行いますが,"MonospotTest"というのがちると聞きました.詳しく教えてください.

微生物 感受性ディスク法におけるガラス玉接種法について

著者: 金沢裕 ,   T生

ページ範囲:P.235 - P.237

 〔問〕 滅菌ガラス玉を培地の表面でころがすと,コンラージ棒や白金耳で塗り広げるよりもはるかに多量の培地において,簡単で仕上がりがきれいで判定しやすいのですが,一濃度法では接種菌量をかなり厳重にするよう成書には書かれています.ガラス玉では表面に菌が付着し菌量が少なくなると思われますが,ガラス玉の採用の是非をお教えください.

臨床生理 気管支拡張剤吸入テスト

著者: 木田厚瑞 ,   福島保喜 ,   S生

ページ範囲:P.237 - P.238

 〔問〕 気管支拡張剤吸入テストの実施に当たり,検査技師の注意すべき点を教えてください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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