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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査27巻11号

1983年11月発行

雑誌目次

特集 臨床細菌検査

Ⅳ.細菌の同定キットならびに迅速同定法

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.1369 - P.1377

 細菌の同定検査にキットが用いられるようになったのはわが国では今から約10年くらい前のことである.当時の評価は必ずしもよくなく,これには輸入品であるため,経済的な負担が大きいことがかなり影響していたように思う.
 一方,近年,日和見感染症が増加し,検査室で同定する細菌の範囲が拡大され,検査室での菌株同定作業は限界に達したともいえるほどである.これに対応すべく次々と新しい同定キットが開発され市販されている.すなわち,腸内細菌科の同定キットに端を発し,現在では好気性菌,嫌気性菌,真菌と次々に開発がすすめられている.これらの同定キットはその性能の良否にはなお改善を要するものもあるが,使用範囲を限定することにより正確性を維持することが可能である.

Ⅴ.自動化機器

著者: 古田格

ページ範囲:P.1378 - P.1396

 現在,検査室において実施されている細菌検査は,迅速性,効率性,および経済性などで大きな問題を抱えている.
 周知のごとく,細菌検査の重要な使命として,迅速かつ正確に起病菌の同定や,その薬剤感受性成績を報告しなければならないことはだれしもが知っている.

Ⅵ.薬剤感受性測定法

著者: 五島瑳智子 ,   金子康子

ページ範囲:P.1397 - P.1411

 臨床細菌検査室における薬剤感受性試験の最大の目的は,感染症の治療に適切な抗菌薬を選ぶことにある.すなわち,正確に検出した原因菌に,どの薬剤が抗菌作用を示すか,またどの程度の抗菌力があるかを測定するのであるから,当然正確さと同時に迅速性が要求される.一方,分離された細菌の薬剤感受性の成績から,各菌種の感受性パターンの推移を知るための,疫学的調査にも応用される.
 薬剤感受性測定方法には大別して拡散法と希釈法とがある.拡散法は迅速性,簡便性を目標にした薬剤含有ディスクを用いたディスク法がもっとも広く使われている.希釈法は定量的に最小発育阻止濃度(mini-mum inhibitory concentration;MIC)を求める.寒天平板希釈法と液体培地希釈法がある.後者の方法では続いて最小殺菌濃度(Minimum bactericidal con-centration;MBC)も測定できる.MIC測定は手数がかかるので日常検査にはもっぱらディスク法が用いられてきたが,MICで得られる感受性値は薬剤の体内動態のデータとの関連においてin vivo効果,臨床効果を推測するのに有用であるため,近年,MIC測定を自動機器で行う方向に向いつつある.

Ⅶ.医学細菌の分類学—現状と問題点

著者: 藪内英子 ,   江崎孝行

ページ範囲:P.1412 - P.1422

 細菌分類学は,一つには生物に関連した自然科学各分野での知識と技術の目覚しい進歩,二つには国際細菌命名規約の改訂1)および細菌学名承認リスト2)の刊行,この二つの画期的な事柄の相乗作用を受けて,いま新しい時期に入りつつあると言わねばならない.ここで言う分類学(taxonomy)とは,①狭義の分類(classification),②命名(nomenclature),および③同定(identification)を包含する.

Ⅲ.疾患別検査の進め方

1.中枢神経系—特に髄膜炎

著者: 古田格

ページ範囲:P.1223 - P.1229

 中枢神経系の感染は脳実質と脳軟膜(髄膜)の炎症とに大きく区別され,脳実質炎(脳炎)はウイルスの感染が中心となるので,脳炎については省略し,ここでは,細菌検査と関係の深い髄膜炎について述べる.
 髄膜炎は各種の病原体,例えば,細菌,真菌,ウイルスおよび原虫などによって惹起されるが,本症は脳および脊髄の表面を覆う髄膜の炎症である.髄膜の炎症であっても,炎症が拡がれば,炎症は脳実質や脳室にも及び,精神・運動活動をコントロールする中枢神経系の感染症であるため,迅速で適確な診断や治療が必要とされる.

2.呼吸器 1)上気道

著者: 杉田麟也

ページ範囲:P.1230 - P.1238

 上気道は固有鼻腔にはじまり,咽頭(上咽頭,中咽頭,下咽頭)および喉頭からなり付属器官として中耳腔と副鼻腔がこれにつながる.上気道は外界と接し,空気や食物の通り道でもあるので粘膜に種々の細菌が付着しうる.上気道粘膜は,通常は常在細菌叢により感染から守られているが常在菌叢に乱れが生ずると外界から侵入した菌が増殖し感染を起こすことになる.気道の粘膜は固有鼻腔から下咽頭までひとつづきであっても,感染の主役となる細菌は上気道でも部位によって異なる.細菌の種類によって感染しやすい部位があり,例えば中咽頭,扁桃はStreptococcus Pyogenesが,上咽頭はHaemophylus influenzaeとStreptococ-cus Pneumoniaeが感染の中心となる傾向がある.
 上気道に感染がおきたときに細菌検査を実施すると,原因菌とともに常在菌叢を形成する細菌も検出され,臨床的に原因菌と常在菌も区別することが必要となる.起炎菌を正しく判断することが感染症治療の重要な鍵である.そのためには,①細菌培養の検体を病巣部位から汚染を防いで確実に採取すること,②検体採取直後からの保存,③適切な培地選択,④上気道各部位での常在菌についての知識,などが必要となる.本稿では中耳炎,副鼻腔炎を含めた上気道感染症の起炎菌決定に必要な事がらにつき述べてみたい.

2.呼吸器 2)肺

著者: 松本慶蔵

ページ範囲:P.1238 - P.1246

下気道および肺実質病変における検体とその採取法
 肺感染症は大別して肺実質の感染症と気道の感染症に分けられる.前者は肺炎,肺化膿症であり,後者は急性気管支炎,慢性気管支炎,気管支拡張症,び漫性汎細気管支炎(慢性気管支・細気管支炎に同じ)であり,肺気腫,気管支喘息,肺線維症など慢性呼吸器疾患に随伴する慢性気道感染症も後者に含められるが,これらは病理学的,細菌学的に見て慢性気管支炎にほぼ等しいので,以後この疾患は特に触れないこととする.
 また肺実質ではないが,胸膜の感染症も重要な肺感染症の一環であるので,この項に含め取り上げることとした.

2.呼吸器 3)肺マイコプラズマ

著者: 武田博明 ,   小林宏行

ページ範囲:P.1246 - P.1249

 Mycoplasmaは,ヒト・動物・植物などに広く疾病を惹起させる病原体であり,ヒトに関与するものとして,肺炎病原体であるM. pneumoniae,泌尿生殖器疾患病原体として,M. hominis,M. salvarium,M. orale,Mycoplasma T strainなどがあげられている.この中でM. pneumoniaeは,主として小児および若年成人における呼吸器感染症の病原体として広く知られ,原発性肺炎の15〜30%を占めるとされている.通常は,混合感染や合併症は少なく,予後は良好である.

3.口腔内

著者: 佐川寛典

ページ範囲:P.1251 - P.1259

口腔内疾患の特殊性
 口腔の感染症は,身体の中では発症頻度が高いといわれている.それは口腔の環境が微生物にとってきわめて好い条件が揃っているからである.水分,温度,pH,好気的,嫌気的条件や栄養源などである.また,口腔は直接外界と通じ,微生物の排出や侵入が常に繰り返えされている.この流動的な状態であるにもかかわらず,口腔には多くの菌種と安定した常在菌叢が成立している.そこで口腔内での感染症は,常在菌による感染,すなわち内因感染と外来性の細菌による感染疾患とに2大別することができる.口腔内疾患は,そのほとんどが内因感染で宿主である生体の抵抗性の減弱やその他の素因,誘因は発症の引き金となっている.外因感染で口腔内に原発巣をもつ疾患はきわめて少なく,また内因感染症においても,単一の起病菌で起こす口腔疾患はきわめて少ないのである.大部分の口腔内疾患はその病名は異にしても,起病菌は共通した菌によることが多い.そこで,本項では,単一起病菌で特異的感染をする疾患として,内因感染症から口腔カンジダ症と放線菌症,外因感染症から口腔梅毒を例とし,口腔のその他の疾患については統括的に検査の進め方を述べ,さらに歯の歯内療法領域の検査法について述べることにする.

4.消化器 1)消化管

著者: 瀬尾威久 ,   正司房 ,   松原義雄

ページ範囲:P.1260 - P.1267

 消化管感染症の原因となる微生物はウイルス,細菌,原虫ときわめて多様であるが,ここでは細菌によるもの,特に法定伝染病病原菌の検索を主体として取り上げたい.また鑑別を要する他の細菌性腸管感染症についても概説するが,それらの詳細については別項の「食中毒」および「嫌気性菌感染症」に譲る.
 法定伝染病の起因菌は,他に感染する恐れが強いため,特に迅速な同定が要求される.また法定伝染病と診断された場合には,患者は強制隔離され,同時に家族検便あるいは周辺の消毒が行われるなど,本人はもとより家族らに対しても著しい影響を与えることになるので,菌の同定には特に慎重かつ正確を要する.万一他の細菌を法定伝染病の起因菌と見誤って報告した場合には,関係者に多大な迷惑を及ぼすことになる.一方では防疫上その同定には迅速さが要求されるので,細菌検査に従事する者は日ごろから法定伝染病起因菌の検査には特に熟達しておく必要がある.

4.消化器 2)肝・胆道

著者: 谷村弘

ページ範囲:P.1268 - P.1276

 本来,肝臓,胆嚢,胆管およびその中を流れる胆汁は,多少の細菌が存在しても0.6ml/分という正常な胆汁の流れによりVater乳頭から十二指腸へ排泄されるので,胆道感染症は起こらない.これに胆汁うつ滞の条件が加わると,胆汁が腸内細菌(特にグラム陰性桿菌)の増殖を助長し,胆道感染症が発症する1).このように胆道感染症が成立するためには,細菌感染と胆汁うつ滞という二つの要因を伴うことが必須条件であり(図1),その治療は胆汁うつ滞の解除と抗生物質の投与が主体となる2).胆道感染症における化学療法の施行に際しては,起炎菌と考えられる細菌を早期に分離,同定し,その菌に感受性が高く,かつ,肝臓や胆嚢組織および胆汁中移行の優れた薬剤を選択する3).そのためには,検体の採取,運搬,菌の分離,同定に際し,雑菌の混入,検体中細菌の偽陰性化を防ぎ,正しく起炎菌を把握せねばならない.

5.尿路

著者: 中牟田誠一 ,   熊澤浄一

ページ範囲:P.1277 - P.1282

 尿路感染症は臨床各科で頻度も高く,不完全な治療により腎不全に陥る危険もある重要な疾患である.尿路感染症の診断では,まず感染があるか否かを知り,炎症の部位および拡り,その原因ないし誘因を明らかにすることが大切である.治療は,正しい起炎菌を決定し,それに対する適切な化学療法が第一である.したがって尿路感染症の診断,治療には検尿が必須の検査法であることは言うまでもない.しかし,実地医家では多忙のため,また大病院では,新しい検査法にたよりすぎてもっとも基本的で重要な検尿法がないがしろにされ,思わぬ誤診を犯すこともあるので注意を要す.
 尿路感染症は急性と慢性,単純性と複雑性または部位により上部尿路と下部尿路に分類される.上部尿路の代表は腎盂腎炎であり,下部尿路の代表は膀胱炎である.臨床的にもっともよく経験するのは,急性単純性膀胱炎,急性単純性腎盂腎炎,慢性複雑性膀胱炎,慢性複雑性腎盂腎炎である.慢性複雑性では全身的基礎疾患や尿路の基礎疾患が存在し,抗菌剤の投与だけでは治療し得ない.尿路の基礎疾患として尿路結石,カテーテルなどの尿路異物,前立腺肥大症,神経因性膀胱,先天性奇形などによる尿の停滞,尿路腫瘍,膀胱尿管逆流現象など多彩な疾患が含まれており,検尿のみならず,レ線検査,膀胱鏡など泌尿器科的検査も必要となってくる.

6.性器—STDを中心に

著者: 津上久弥 ,   大里和久

ページ範囲:P.1283 - P.1288

 性病とは本来,性的接触によって皮膚や粘膜から感染する疾病のことで,外国ではvenereal diseases (愛の女神ビーナスの病気)とよんでいる.このうち重大な病状や後遺症があり,伝染力の強いものとして,わが国の法律では梅毒 syphilis,淋病gonorrhea,軟性下疳 chancroid,鼠径リンパ肉芽腫症(第4性病)Lymphogranuloma venereumの4疾患を性病と指定している.外国においても同様の考え方であったが,最近それ以外の疾病も広く含めてsexually transmit-ted diseases (STD,性行為感染症)と呼称するようになってきた.それには非淋菌性尿道炎,トリコモナス膣炎,陰部ヘルペス,尖圭コンジローム,毛じらみ,疥癬,膣および外陰カンジダ症,B型肝炎などがあり,これらは感染の原因はかならずしも性交だけではないが,性交によって他人に感染が可能な疾患であって,欧米はもちろん,わが国においても最近,年々患者が増加しており,社会的にも重要な問題となりつつある.
 このうち臨床的に検査の必要な梅毒,淋病,軟性下府,トリコモナス症を中心に述べる.

7.皮膚

著者: 朝田康夫 ,   西嶋摂子

ページ範囲:P.1289 - P.1294

 皮膚細菌感染症の大半は膿皮症である.これは毛包炎,癤,よう,尋常性毛瘡,汗口炎,乳幼児多発性汗腺膿瘍(エックリン汗腺炎),伝染性膿痂疹,SSSS,膿瘡,丹毒,梶紅熱,リンパ管炎,リンパ節炎,蜂巣織炎などを含み,その起炎菌はブドウ球菌とレンサ球菌(これらを化膿球菌と呼ぶ)の二つである.ブドウ球菌の中でも殊に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による場合が多い.
 次いで多いのはグラム陰性桿菌症で,中でも緑膿菌感染症が多く,さらに大腸菌やプロテウス菌,まれにはセラチアなども挙げられる.これらは大半はoppor-tunistic infectionとして生ずる.特殊な場合としては皮膚結核,皮膚非定型抗酸菌感染症,癩などのミコバクテリアによる感染症がある.

8.運動器(骨,関節,筋肉)

著者: 藤井千穂

ページ範囲:P.1295 - P.1301

骨,関節,筋肉に関する主な化膿性疾患
 骨,関節,筋肉に関する主な化膿性疾患と起炎菌を列挙すると以下のようになる.
 なお現在でも骨に関しては結核性のものも多く,梅毒,チフスによるものもときにみられる.結核性のものには結核性脊椎炎(脊椎カリエス),股関節および膝関節結核,肋骨カリエス,結核性腱鞘炎などがあげられる.また特異なものとしては,ガス壊疽(図1),破傷風がある.これらは臨床経過とその局所ならびに全身症状により診断をつけることができる.しかしガス壊疽の場合はその菌種により放出するexotoxin (外毒素)も異なり,また他の菌が多数同時に見い出されることが多いので,菌の分離,同定は必須の事項となる.

9.菌血症,敗血症

著者: 安達桂子 ,   島田馨

ページ範囲:P.1302 - P.1305

 敗血症,菌血症が疑われる患者の血液から起因菌を検出することは,診断および治療上重要となるため,血液培養は最良の方法となる.このような患者の多くは重篤であることから,検査室は適切な方法を選択し,得た情報を早急に主治医へ報告すべきである.

10.眼

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1306 - P.1310

検体採取法
1.眼瞼(縁)炎,結膜炎
 眼瞼縁と結膜から検体を採取するときは,できるだけ局所麻酔剤を用いないようにする.麻酔剤に含まれている保存剤が細菌の増殖を阻止することがあるからである.
 眼瞼縁は綿棒で拭いとって培地に塗抹培養する.結膜は下眼瞼を反転して,円蓋部結膜を露出し,ブイヨンまたは滅菌生食水に浸した綿棒または滅菌白金耳で眼脂などの分泌物を採取する(図1).これを血液寒天またはチョコレート寒天平板に塗抹培養する.

11.細菌性食中毒

著者: 坂井千三 ,   伊藤武

ページ範囲:P.1311 - P.1322

 食中毒発生時における細菌学的検査の目的は,患者材料や原因食品などから,迅速かつ正確に起因菌あるいはその産生毒素を検出し,患者の診断,治療およびその後の二次発生防止に的確な情報を提供することにある.
 現在までに明らかにされている食中毒起因性細菌の種類は表1に示すごとく15菌種である.これらの細菌のうちわが国で発生頻度の高い食中毒の原因菌は,腸炎ビブリオ,ブドウ球菌,サルモネラ,カンピロバクター,腸炎起病性大腸菌,ウエルシュ菌およびセレウス菌の7菌種である.しかし,エルシニア・エンテロコリチカおよびボツリヌス菌による食中毒も決してまれではなく,またいわゆるNAGビブリオも海外旅行者の下痢患者からしばしば検出されるので,本稿ではこれらの10菌種を対象にその検査法について述べる.

12.蛋白毒素の簡易検出法

著者: 本田武司

ページ範囲:P.1323 - P.1330

 病態の多くを,細菌が産生する蛋白性外毒素によって説明できる一群の細感染症がある.有名なHar-rison内科書(第6版)には,このような疾患については項目を分けて「毒素産生菌による疾患」として記載されている.このような疾患の真の起病菌の同定には,分離菌の毒素産生能の有無の判定が必須である.蛋白質化学の進歩に伴い感染・発症における細菌性蛋白毒素の役割が次々明らかにされるようになり,今後,一般臨床検査室でも細菌の産生する毒素の検出・定量が必要となってくる機会はますます増加してくることであろう.
 ところで,細菌の産生する蛋白毒素の量は一般にきわめて微量であるために,毒素の検出・定量には種々の工夫が必要である.表1に蛋白毒素の検出法の原理をまとめて示したが,蛋白毒素の検出には,①毒素の持つ毒作用そのものを何らかの生物系を用いて測定する生物学的方法,②毒素に対する特異抗体を用いて毒素を測定する免疫学的方法,さらに,③近年の遺伝子操作技術の進歩に伴って開発された毒素産生遺伝子そのものを検出する方法の三つに大別できる.

13.Mycoplasma, Chlamydia

著者: 加藤直樹

ページ範囲:P.1331 - P.1337

Mycoplasma
 Mycoplasmaは細胞壁を欠くことが大きな特徴で,多形性を示し,人工培地で培養できる最も小さな微生物である.その分類は図1に示した.Acholeplasmaを除き発育にコレステロールを要求し,培養には血清(ほとんどの場合,ウマ血清)の添加が必要である.臨床検査の場において,病原性との関係から現在分離・同定が必要と思われるのは,Mycoplasma Pneumoniae,Mycoplasma hominis,Ureaplasma urealyticumである.ヒトからはその他にMycoplasma fermentans,Mycoplasma salivarium,Mycoplasma orale,Mycoplasma buccaleなどが分離されるが,現在までのところ,病原性は認められていない.

14.日和見感染

著者: 舟田久

ページ範囲:P.1338 - P.1347

 最近の医療の進歩は,基礎疾患を有する患者に日和見感染の増加をもたらし,これが患者管理の大きな障害となっている.日和見感染の臨床細菌検査といっても,検査法自体は一般感染症の検査法と基本的に同じであるが,病原体の種類が広範囲にわたり,通常,ヒトの皮膚や粘膜,病院内環境に常在する病原性の低い病原菌の感染が多いために,強毒な病原菌を検索する通常の細菌検査法と異なり,培養成績の読み方に多少とも困惑を感じることが多い.また,患者には疾患自体や治療による免疫抑制がかかるために感染徴候が明瞭でないうえに,感染過程が急激に進行して死に結びつきやすい.このため,日和見感染の臨床細菌検査にあたっては,適切な培養検体の採取,迅速な検査,適確な培養成績の読み方が治療上要求されるが,基礎疾患の病態と合併感染症の関係や症状の推移を全体的に把握したうえで,感染巣自体からの培養でなく,感染の波及が考えられる部位からの培養で原因菌を推定せざるをえないことも多い.
 こうした点を考慮しながら,日和見感染に対する日常の臨床細菌検査の進め方を概説してみたい.人手や時間を要する研究室的検査法を避け,小規模の検査室でも十分臨床医の要求に応じられる検査法を述べることにする.

15.嫌気性菌

著者: 上野一恵

ページ範囲:P.1348 - P.1364

嫌気性培養法
 嫌気性培養には,主として①Anaerobic jar法,②Bio-bags法,③HungateのPRAS培地法(わが国ではガス噴射法ともいっている),④Anaerobic cham-ber法またはAnaerobic glove box法などが用いられている.一方,⑤還元剤を混入した液体培地や半流動高層寒天培地も用いている.

16.手術後感染

著者: 中山一誠 ,   秋枝洋三 ,   川口広

ページ範囲:P.1365 - P.1368

 外科手術は,その程度により,概念的に無菌手術,準無菌手術,および汚染手術と大きく三つに古くより分類されている.それぞれの手術方法も単純な手術より複雑な手術まで当然のことながら種々であり,術後感染の発生頻度も異なる.無菌手術でさえ,術後感染を4%以下に留めることは不可能との専門家の一致した意見であり,その理由に関しては多くの議論がある.準無菌手術に生ずる術後感染率は10%前後と考えられている.さらに汚染手術にいたっては術後感染の頻度は30〜35%とされており,感染症の種類にいたってはすべての感染症が含まれるといっても過言ではない(図,表1).以下手術後感染の中でも膿汁を中心に述べる.

Ⅷ.感染症の診断の進め方

1.感染症の診断の進め方

著者: 勝正孝 ,   小花光夫

ページ範囲:P.1423 - P.1429

 感染症は細菌,マイコプラズマ,ウイルス,真菌,リケッチア,クラミジア,スピロヘータ,原虫,寄生虫などの病理微生物により惹起される疾患である.したがって,感染症の診断にあたっては病原微生物を証明することがもっとも重要である.日常診療において感染症を疑わせるもっともポピュラーな症状は発熱である.それゆえ,発熱を呈する患者をみたとき,まず何らかの感染症であるのか,それとも感染症以外の疾患であるのかを既往歴,現病歴,現症,スクリーニング検査によりおよそ鑑別し,さらに感染症であると考えられた時には,その病巣部位診断,病原体診断(細菌学的検査,免疫学的検査)へと進めていく.

2.迅速診断法の現状とその評価

著者: 中村正夫

ページ範囲:P.1430 - P.1436

 日常検査として行われる臨床検査において重要な条件の一つは,正確な成績を出すと同時に,これを臨床に役立てるため,できるだけ速やかに行うということである.たとえ詳細な精度の高い検査が行われたとしても,成績が何日もかかるようでは日常検査としては価値が少ない.この点で生化学検査は自動機器の発達などにより,ある程度この目的に沿う結果が得られつつある.さらに血液検査,血清検査においても自動化が進められ,迅速診断の試みがなされている.
 これに対し,微生物検査,病理検査などは自動化が行われにくい分野で,多くの面が人手によらなくてはならない.しかし,この分野においても最近では自動化が進み,それだけ迅速化のうえでも進歩がみられつつある.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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