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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査27巻2号

1983年02月発行

雑誌目次

今月の主題 プロスタグランジン カラーグラフ

プロスタグランジンの生体内役割

著者: 鹿取信

ページ範囲:P.124 - P.127

 細胞が他の細胞と共同作業をするとき,物質による情報の伝達が必要となる.プロスタグランジン(PG)はそうした物質の一つで,細胞の膜から生成される.前駆体不飽和脂肪酸としてPGは細胞の膜に蓄えられているが,われわれの体ではアラキドン酸が多く,細胞の働きに応じてもっともふさわしいPGの仲間が瞬時に生成遊離され,細胞の働きを微妙に調節する.ほとんどの細胞から生成され,全身の生理機能や病態時に出現して,種々な役割を演ずる.

技術解説

プロスタグランジンの測定

著者: 稲川壽夫

ページ範囲:P.128 - P.135

 多様な生理作用を示し,多くの構造類似体を有する体内産生特殊脂肪酸プロスタグランジン(PG)は,必須脂肪酸の増炭,不飽和化を経た後のTCAサイクルに入ってエネルギーを産生する本来の代謝系に加えて,主にアラキドン酸を基質とする,シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase)とリポキシゲナーゼ(lipoxygenase)という異なった酸素添加酵素を介して産生されるPGやトロンボキサン(TX),ロイコトリエン(LT)の代謝系と相互に重なり合って,壮大な代謝の流れ(カスケード)の一つとして位置づけられるようになってきた.筆者がPGに接し始めた15,16年前ごろは年間約20報程度だったPG研究報告が,今では毎週その程度は発表されていることからも,その発展ぶりにはすさまじいものがある.
 測定法においてもしかりである.今まで多くの検出手段がPGの測定に応用されてきたが,扱う検体が多様なうえに生体内濃度がきわめて低くて,実際的な方法は少なかった.いかなる検体の,いかなるPGでも,同一の方法で測定できるような,そんなPG定量標準法のようなものはまだ確立されていない現状である.したがって,本稿ではより普遍的な点に的を絞ってみた.

プロスタサイクリンの測定

著者: 久米章司 ,   桜井兵一郎 ,   新村浩一 ,   高畑京也

ページ範囲:P.136 - P.143

 血小板で作られ血小板の凝集と血管の収縮をもたらすトロンボキサンA2(TXA2)と,血管壁で作られ血小板凝集の阻害と血管の弛緩をもたらすプロスタサイクリン(PGI2)の両者はともに共通の前駆物質から生成され,しかも不安定であることは,生体における止血血栓機構を考えるうえで興味深い.PGI2とTXA2の陰陽的バランスが生体にとってたいせつで,この乱れが血栓や動脈硬化の成因と密接な関係を有している.したがって,臨床的にもTXA2およびPGI2量の測定について興味が集まり,かつその要求性が高まりつつある.
 PGI2の測定はその安定性のために,その代謝産物である6—ケト—PGFの定量として行われている.定量に関してはラジオイムノアッセイ法(RIA)は感度も高く,実用的で,もっとも一般に用いられているが,抗体の特異性,精度に関してまだ問題を残しているし,さらに血漿中の正常測定値レベルに関しても標準化はなされておらず議論が多く,近年さらに低レベル化の傾向にある.現在のところガスクロマトグラフィー—マススペクトロメトリー法(GC—MS法)による定量法がもっとも正確で信頼のおける方法と考えられてはいるが,機器やサンプル数処理の問題などがあり,一般的な方法とは言えない.血小板凝集を利用したPGI2のバイオアッセイ法は比較的簡単な方法で,目的によっては十分利用されうる価値を有している.

トロンボキサンの測定

著者: 小林紀夫 ,   高田雅史

ページ範囲:P.144 - P.150

 トロンボキサン(thromboxane;TX)は,血小板における主要なアラキドン酸の代謝産物である.トロンボキサンA2(TXA2)は強力な血小板凝集作用と血管収縮作用を示し,血小板の関与する種々の病態のmediator (媒介物質)として注目されている.TXの測定法は多数知られているが,本稿では主として,臨床的に重要と考えられる,末梢血中の,TXA2の安定代謝産物であるTXB2のラジオイムノアッセイ(RIA)法につき述べ,その臨床的意義につき概説した.

シクロオキシゲナーゼとリポキシゲナーゼの活性測定法

著者: 吉本谷博

ページ範囲:P.152 - P.156

 アラキドン酸カスケードで種々の生理活性物質が生合成される場合に,最初にアラキドン酸の特定の炭素に分子状酸素が導入される.この反応はいわゆる酸素添加反応で,リポキシゲナーゼという酵素によって触媒され,アラキドン酸のどの位置に酸素分子を添加するかによって,酵素が分類されている.脂肪酸シクロオキシゲナーゼ(11,15—リポキシゲナーゼ)は,プロスタグランジン(PG)やトロンボキサン(TX)の生合成の初発反応を触媒し,生体内に広く分布している.最近になって,5—,12—,15—リポキシゲナーゼの生体内での存在が確認され,ロイコトリエン(LT)と呼ばれる一群の生理活性物質が生合成され,アレルギー反応や生体防御機構に深く関与していることが示されている.臨床的にも,血小板のシクロオキシゲナーゼ1)やリポキシゲナーゼ2,3)の欠損症の症例も報告されている.本稿では,このように臨床的にも重要な意味を持っているリポキシゲナーゼの活性測定法について解説する.

総説

プロスタグランジン研究の最近の進歩と臨床

著者: 渡辺恭良 ,   早石修

ページ範囲:P.157 - P.165

はじめに
 プロスタグランジン(PG),トロンボキサン(TX)およびロイコトリエン(LT)などのPG関連化合物は,いずれも前駆体として炭素数20の不飽和脂肪酸から生成する.図1に,前駆体とそれから生成される化合物の種類を概括した.これらの前駆体のうち,食物として摂取されるものによる影響を過大評価しなければ,動物細胞においてはアラキドン酸(AA)が主体であるので,その代謝物が大きなウェイトを占める.したがって,本稿でもアラキドン酸代謝物質について記述する.
 AAは,細胞内では遊離して存在せず,膜内のリン脂質のグリセロール骨格の2位にエステル結合して存在しており,種々の刺激に応答して放出されてくる.図2に示したような数多くの生理活性物質の前駆体であり,2種の酸素添加酵素に初発する経路すなわち,シクロオキシゲナーゼ経路(PG-TX合成系)とリポキシゲナーゼ経路(一部LT合成系)とによって代謝される.これらの代謝物は,プライマリーPGと呼ばれるPGE,PGFを除いては,すべて最近発見され,構造決定されたものばかりであり,炎症,血栓形成,末梢循環,平滑筋収縮などにおける作用のほか,新たに知られるようになった神経伝達や内分泌の調節作用など,多彩な生物活性を担っていることが明らかになってきた.また,組織や臓器によってAA代謝物の種類が異なることが知られ,PG関連化合物が特異的な生理機能に対して個別に働いていることを示している.

主題を語る〈展望〉

最近の筋生理学の臨床応用への展望

著者: 栗山熙 ,   木下真男

ページ範囲:P.166 - P.174

 今日,平滑筋と骨格筋とではその収縮蛋白が違うことが明らかになり,また筋肉内の受容体の種類やそれぞれの性質についても著しく研究が進んできた.今回は,さまざまな臓器の血管や子宮の筋肉の緊張・収縮のしくみに触れながら,種々のPGの筋肉に対する働きやそれを利用した薬としてのPGについて筋生理学上の立場からお話し合いいただいた.

検査と疾患—その動きと考え方・74

Behçet病

著者: 稲葉午朗 ,   川村洋和

ページ範囲:P.175 - P.181

 症例 34歳,男性,会社員(事務職).
 主訴 右眼の視力障害と口腔粘膜の有痛性潰瘍.

分離分析の技術Ⅱ・2

高速液体クロマトグラフィー—(1)胆汁酸の分析法

著者: 辻章夫 ,   前田昌子 ,   鎌田智

ページ範囲:P.186 - P.193

はじめに
 胆汁酸は,胆汁中の主要成分であり,肝臓でコレステロールから生合成され,胆道を経て十二指腸に分泌されて小腸から再吸収され,門脈系を経て肝臓に戻る腸肝循環を行っている.この過程で胆汁酸は,その界面活性作用により脂質や脂溶性ビタミンなどからリン脂質のレシチンとともにミセルを形成して,消化吸収に関与している.また,この過程で肝臓でC−24位のカルボキシル基か,グリシンまたはタウリンにより抱合され,腸管中で細菌により脱抱合されて,7α位の水酸基の脱水酸化により二次胆汁酸の生成が起こる.
 胆汁酸は,5β系のC24ステロイドに属し,その水酸基の数,位置および立体配置により一次胆汁酸のコール酸(cholic acid;CA),ケノデオキシコール酸(chenodeoxycholic acid;CDCA),二次胆汁酸のデオキシコール酸(deoxycholic acid;DCA),リトコール酸(1ithocholic acid;LCA),およびウルソデオキシコール酸(ursodeoxy cholic acid;UDCA)の5種の遊離型,グリシン抱合型およびタウリン抱合型の計15種が,ヒトにおける主な胆汁酸である(図1).

ベッドサイド検査法・2

腎疾患のベッドサイド検査法

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.195 - P.200

はじめに
 腎疾患の診断には,まず患者の病歴聴取,視診,触診,打聴診などの理学的検査を十分に行うことであり,次いで,客観的に異常の有無を知る臨床検査,機能検査を行う.
 腎疾患の診断や経過観察のための検査には,多くの種類がある.検査を進めるに当たり重要なことは,まず腎臓に病変があるかどうかを知ることである.そして,もしあるとすれば,その病変の活動性はどの程度か,進行性かどうか,重症度はどうか,軽症か,中等症か,重症か,また腎以外に合併症があるかどうか,などを考えて検査に移ることになろう.表1に阪大第一内科折田義正博士による「腎疾患の診断・治療のための諸検査の目的別選択」を一覧表にしたものを引用した1)

研究

重合ウシアルブミンと改良低イオン強度メディウム(OAES)を用いての不規則抗体検査法について

著者: 河瀬正晴 ,   木村都 ,   中谷ふみよ ,   有近智津代 ,   西本康代 ,   福岡彰宏 ,   蓬萊真理子 ,   岩本澄清 ,   山梨暢子 ,   望月憲雄

ページ範囲:P.201 - P.206

はじめに
 交差試験および不規則抗体検査を実施する場合,短時間に実施でき,検出感度も高く,非特異反応の出現率の低い方法を選ぶ必要がある.
 Hughes-Jones1)らは,pHとイオン強度が不規則抗体の検出感度を高めることを報告し,StroupとMacllroy2)はアルブミンの存在下では抗グロブリン法の感度が増強されることを報告している.

資料

長期間IgM型の抗E抗体を保有していると推定された二症例

著者: 古坊孝志 ,   松崎廣子 ,   田中景子 ,   宮沢郁夫 ,   西真弘 ,   原訓子 ,   田村昇

ページ範囲:P.207 - P.211

はじめに
 日本人では,抗D抗体よりも抗E抗体がより多く検出されている.東大病院輸血部の資料によれば,一般患者における抗E抗体の検出率は抗D抗体のそれの約5倍である1).これは,日本人においてはE因子陽性の頻度が約50%で,陽性と陰性の頻度の差がないためにE因子の不適合が生じやすいこと,さらに免疫原性もD因子に次いで強いこと,などによるものと考えられている2)
 一般に,Rh因子に対する抗体は輸血や妊娠により産生される免疫抗体であり,その大部分はIgGクラスの抗体で不完全抗体として検出されている.今回われわれは,IgMクラスの抗E抗体を長期にわたり保有していると推定できた二つの症例を見いだしたので報告する.

酵素免疫測定法によるAFP測定キットの基礎的検討

著者: 岸孝彦 ,   河合ゆかり ,   井上正晴 ,   浅沼春樹

ページ範囲:P.212 - P.214

 α-フェトプロテイン(AFP)は1956年,Bergstrandら1)によって胎児血から発見され,1963年Tatari-nov2)が肝癌患者の血清中に出現することを認めて以来,広く追試験検討され,この胎児特異蛋白と肝細胞癌との密接な関係が明確となった.また最近は,肝炎,肝硬変3),チロシン血症4),妊娠5)などでも血清AFP値が上昇することが知られ,これの測定が診断に際して意義のあるものとなっている.
 従来,AFP測定には免疫学的手法が用いられており,その中で高感度で信頼性が高いのがRIAであるが,EIAはそれに匹敵する感度を持ち,さらに放射性物質を使用しないためその取り扱いも簡便で,一般の検査室で問題なく測定することができ,注目されている.今回,筆者らは富士臓器製薬㈱が新しく開発したAFP測定用EIAキット「イムザインAFP」を使用する機会を得たので,その結果を報告する.

EIA法による血清AFP濃度の測定—RIA法との比較を中心に

著者: 坂田達朗 ,   渡辺明治 ,   長島秀夫

ページ範囲:P.215 - P.218

 肝細胞癌を含む各種の肝疾患67例と健常対照34例の血清α-フェトプロテイン(AFP)濃度を,ペルオキシダーゼ結合抗AFP抗体を用いる固相酵素免疫測定法によるエンザイムイムノアッセイ(EIA)法とラジオイムノアッセイ(RIA)法の二抗体法,ならびにポリエチレングリコール(PEG)法で測定し,両測定法の感度や精度について比較検討した.EIA法による血清AFPの最小検出濃度は5ng/mlで,RIA法のそれと大きな相違はみられなかった.また,本法での再現性は変異係数4〜9%,回収率94〜99%と良好であり,この点でもEIA法はRIA法に劣らなかった.同一血清を用いた両方法による測定値は,10ng/ml以上の濃度域でγ=0.981ときわめて高い相関を示し,EIA法による血清AFP濃度測定は,感度と精度の面でRIA法に比肩しうるものと考えられた.

質疑応答

臨床化学 試薬の検討法

著者: 坂岸良克 ,   O生

ページ範囲:P.221 - P.223

 〔問〕 試薬を検討する際,溶血の影響や糖,ビリルビン,薬剤の添加の影響を調べますが,具体的な方法を教えてください.また,乳靡の影響はどのようにして検討すればよいのでしょうか.

臨床化学 基質の違いによる活性値の差

著者: 戸谷誠之 ,   N生

ページ範囲:P.223 - P.224

 〔問〕 コリンエステラーゼのキットがいろいろと開発されていますが,基質の違いで,同じ国際単位なのに大幅な活性値の差が示されています.どのような方法が好ましいのでしょうか.また,標準化へのアプローチはどのように考えられているのでしょうか.

輸血 交差適合試験の際の補体とフィブリン析出

著者: 小島健一 ,   O生

ページ範囲:P.224 - P.226

 〔問〕 最近の輸血パイロットには抗凝固剤が添加されており,その血漿を取り扱う際に,(1)補体が消失した場合(2)フィブリンが析出した場合の対処のしかたを教えてください.

病理 ピクリン酸固定とセロイジン/一般検査 試験紙による尿比重測定

著者: 畠山茂 ,   U子 ,   伊藤機一 ,   Y生

ページ範囲:P.226 - P.228

 〔問〕 病理の実習で,ピクリン酸とセロイジンとの関係について学びましたが,どうしても次の二点がわかりませんでした.ご教示をお願いします.
 1)ピクリン酸固定したものをセロイジンに直接包埋すると,どうしてピクレートカリウムができるのか

 〔問〕 最近,尿比重が測定できる試験紙が開発された(本誌第26巻第9号,座談会)そうですが,その原理や使用上の注意点をお教えください.

一般検査 尿沈渣中の悪性細胞とは

著者: 赤井俊洋 ,   奥田清 ,   U子

ページ範囲:P.228 - P.230

 〔問〕 尿沈渣を引いて染色し,「悪性細胞があるかどうか」との検査依頼がありました.どのようなものを調べればよいのでしょうか,お教えください.

一般検査 腸のpHの測定法と意義

著者: 三好秋馬 ,   岸本真也 ,   K生

ページ範囲:P.230 - P.231

 〔問〕 腸のpHの測定が行われ,臨床に活用されるようになり始めたとのことですが,測定法と臨床的意義についてお教えください.

診断学 急性心筋梗塞と血糖値,脂質値

著者: 高木誠 ,   A美

ページ範囲:P.231 - P.232

 〔問〕 ある本に次のようにありました.
(1)急性心筋梗塞時に血糖値が上昇することが少なくない.また今まで潜在していた糖尿病が表面に出てくることもあり,時には糖尿性アシドーシスが促進されることもある.

制度・資格 RI検査に有用な資格とその取得法

著者: 松村義寛 ,   O生

ページ範囲:P.232 - P.233

 〔問〕 RI検査を行うに当たって,得たほうがよい,あれば有用な資格と,その取得法,教材を具体的にご教示ください.

雑件 免疫血清検査における相関係数の求めかた

著者: 臼井敏明 ,   A生

ページ範囲:P.233 - P.234

 〔問〕 免疫血清検査のように希釈倍数で検査データを表現する項目の二方法間の相関係数を求める具体的な方法を教えてください.また,希釈倍数を整数に置き替えて相関係数を求める方法もあると聞きますが,この方法で求めた場合に,求められた相関係数の評価(意味づけ)の際に注意すべき点も教えてください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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