icon fsr

雑誌目次

論文

臨床検査27巻5号

1983年05月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床診断のロジック カラーグラフ

自己走査型電荷素子を用いた新しい細胞画像解析法

著者: 髙橋正宜 ,   西川秋佳 ,   吉見直己 ,   青木久枝 ,   布施正樹 ,   前田修身

ページ範囲:P.478 - P.480

 細胞の生物学的特性による細胞の分類や細胞の機能的変化に伴う形態変化を客観的に解析する方法には,従来細胞化学的染色を施し,光学顕微鏡的に鑑別する方法がとられ,また相対的定量法として顕微分光測法が用いられた.
 近年の医用工学の目覚しい進歩に伴い,高性能画像解析法(定性および相対的定量)と多数細胞を鞘流の中心に流して種々の細胞特性をパラメーターとして分類するフローサイトメリー(定性および相対的定量)が登場してきた.本稿ではわれわれの開発してきた高性能画像解析装置を判別ロジックとともに報告する.

技術解説

細胞診のロジックと自動化

著者: 田中昇 ,   池田栄雄 ,   上野哲夫 ,   石川明 ,   鴻池克寛 ,   島岡より子 ,   細井清夫 ,   岡本勇三

ページ範囲:P.481 - P.491

 形態学に頼らざるをえない早期癌発見の重要な分野として細胞診が大きく貢献している事実は周知のとおりで,特に子宮癌については老人保健法で細胞診による集団検診が法文化されている.細胞像の解析から悪性,非悪性を判別する過程で,客観性のある計量的な特徴抽出,特徴評価に基づく発想について記載した.このフィロソフィーは「勘」とか,脳,思考を持たないコンピューターを用いる細胞診断自動化に直結するものである.1967年に,画像処理による細胞診スクリーニング自動化の基礎的研究を開始,1972年,CYBEST (Cytobiological ElectronicScreening System)のプロトタイプを試作,1974年にflying spot scannerの自動二段切り換え(粗・精走査)によるModel 2を(現在金沢医科大学病理学武川教授が集検に実験的に応用),1978年にTVのシャドーイングのソフトウエアによる自動補正に成功し,TV走査を導入したModel 3を開発.従来,1枚6分間処理であったものが,種々の高速化機構導入によって1枚3分間処理が可能になった.1981年はModel 3のミニコンピューターをマイコンに置き換えた机サイズの実用型を開発した.1枚3分間,連続200枚が10時間で処理される.

計量診断の手技

著者: 梶谷文彦 ,   鍵山光庸

ページ範囲:P.492 - P.497

 計量診断は数理科学的手法を応用した診断法ないし診断のアシストであると定義される.ロゴスコープなどを除いてほとんどの場合,コンピューターを利用することになるのでコンピューター診断とも呼ばれている.計量診断においては,診断・治療という行為を,患者という一個の生体システムを次のような過程を介して制御する一種のフィードバック制御系と考える(図1).
 1)患者に関する情報の収集(問診,検査)

検査依頼情報の入力とサンプルIDの方法

著者: 村井哲夫

ページ範囲:P.498 - P.505

 臨床検査室における事務的作業の合理化,検査報告の迅速化,精度の向上,データファイルによる臨床研究,診療への応用などを目的に,コンピューター(CPU)によるいわゆるシステム化が広く実施されるようになってきた.
 システム化に当たってこれらの目的にどのように対応するかは,検査室の規模,整備される分析機器の種類,病院中央のCPUの有無,経済的条件,検査部管理者のCPUに関する知識,システムのありかたについての考えかたなどにより異なったものとなる.しかし検査部システムとして十分な機能を果たすためには,多量の検体についての情報を正確に入力することが必要であり,ここで時間と労力を要することは,検査部運用上大きな障害となる.そのため検査依頼情報の合理的な入力方法の採用と,これに適合した検体の取り違いなどをきたすことのないサンプルID (identification:識別)の方法および処理工程の確立は欠かすことのできない条件である.実際にCPUにより検査部をシステム化する場合,プランナーがもっとも苦心するのもこの点にあると言えよう.

発光法による15N分析法

著者: 木村廣子

ページ範囲:P.506 - P.511

 初めから話が横道にそれるが—かれこれ10年以上も前のこと.今はなき生化学のオーソリティー吉川春寿先生(東京大学名誉教授,前女子栄養大学副学長)の研究室の向かいに,私どものささやかな研究室があって,しばしばお茶の時間(ティーセミナー)にお招きを受けたりした.その折,吉川先生から,第二次世界大戦前の1939年ごろすでに,放射性同位体(RI)に先んじて,安定同位体(SI)を用いた代謝研究が,Schönheimerらによりなされていたこと,さらに,この論文に啓発されて吉川先生は放射性同位体を用いる生化学研究の道へ入られた由うかがった.安定同位体はヒトへも利用可能なことや,放射性同位体とは別の情報も得られ,近い将来,必ずやSIをトレーサーとしての利用研究が盛んになるだろうという予測も述べられた.
 当時,同位体と言えば放射性同位体のことと(恥ずかしながら)理解していた私は,興奮にも似た興味を覚えた.中でも,蛋白質代謝の動態を窒素を追跡して行う場合,利用可能な同位体は15Nをおいてほかにない(表1)ことを知り,ことさらに興味深く,前述のSchönheimer,Rittenbergらの15Nを用いた蛋白質代謝の研究(Studies in protein metabolism)は,耳学問ながら長く記憶にとどめていた.

総説

臨床診断のシステム論的考察

著者: 古川俊之

ページ範囲:P.513 - P.520

はじめに
 近年の臨床診断が著しく厳密性を増したことは,何びとも疑わないところである.しかし考えてみると,これは観測の精度化によるものであって,診断の論理過程そのものはなんら変化も進歩もしていない.その意味では診断学は学問として進化の行き止まりにある.この指摘は一見暴論のように聞こえるかもしれないが,医師の診断ロジックは単なる標本照合にすぎず,標本照合の技術が論理表や枝分かれ図以上に出ないのが事実であり,しかも今後とも新規な技術の実現は望めそうにない.その打開策は人間の思考過程の欠点を,機械によって補強する以外はない.このことはコンピューター診断の研究者が永らく夢想してきた目標であるが,コンピューター科学の発展はその夢が現実化する可能性を高めてきている.以下,医師の診断思考について考察し,診断学の教科書の史的分析によって裏づけたうえで,現在の問題点と今後の進路について私見を述べた.

座談会

臨床診断のプロセスとロジック

著者: 影山圭三 ,   阿部裕 ,   屋形稔 ,   吉利和

ページ範囲:P.522 - P.533

 臨床診断に当たって医師は,多種多様の情報の中より必要な情報を選択し裏づけを行いつつ推論し,最終的な判断を下す.この臨床診断の理論の組み立てはどのように展開され,どのように総合されているのか.臨床診断の過去から,現在を見つめて話題は移ってゆく.

検査と疾患—その動きと考え方・77

慢性膵炎

著者: 近藤孝晴 ,   早川哲夫

ページ範囲:P.535 - P.540

 症例 34歳,男性,無職.
 主訴 膵精査のため他院より当院へ転科.

分離分析の技術Ⅱ・5

高速液体クロマトグラフィー—(4)アイソザイム分画

著者: 中村亙志 ,   加野象次郎

ページ範囲:P.542 - P.548

はじめに
 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は,1969年Kirkland1)が,ガラスビーズに固定相を被覆したペリキュラータイプの充填剤を開発したことに端を発し,低分子量物質の分離を中心に多くの生体成分の分析に応用されてきた.しかしながら,蛋白質のような水溶性高分子の高速分離法の開発の歴史は比較的新しく,1976年,Regnier2)らが硬質充填剤の開発に成功してからである.
 1978年,深野3)らは蛋白質の高速分離用充填剤TSK-GEL SWタイプを開発し,生体高分子物質の分析は著しく進歩した.

ベッドサイド検査法・5

髄液検査法

著者: 二宮恒夫 ,   渡辺力 ,   岩井朝幸 ,   広瀬政雄 ,   宮尾益英

ページ範囲:P.550 - P.557

緒言
 中枢神経組識は髄液によって保護されており,ここに生じた異常は直接髄液に反映される.そのため,髄液検査は中枢神経疾患の診断,治療効果の判定に欠くことができない.近年,生化学的物質の測定や免疫学的検査法の導入によって診断技術は一段と進歩した1).例えば感染症ではウイルス感染との鑑別や細菌の同定検査としてCPRの定量2),LDH分画3〜5),ラテックス凝集反応6),対向流免疫電気泳動7),Limulus lysate assay8),ラジオイムノアッセイ9)などが開発され,その有用性が実証されている.しかし,これらの検査は特殊な技術と装置を必要とし,一般の検査室やベッドサイドでは容易に行えない.日常検査として細胞数と分類,蛋白や糖の定性および定量,電解質の測定,細菌の塗抹培養検査が行われている.このうち細胞分類は基本的な検査にもかかわらず,計算板上で多核球か単核球かの区別にとどまっていることが多い.髄液中にも多種類の細胞があり10),詳細な分類は,診断,治療効果の判定だけでなく,疾患の病態を推定するうえに重要である.今回,一般検査のほかにベッドサイドで簡単に行える髄液細胞標本の作製方法を紹介し,検出される細胞の臨床的意義を中心に述べる.

研究

高速液体クロマトグラフィーによる血清遊離脂肪酸の同定と定量

著者: 下村𠮷治 ,   谷口清昭 ,   杉江利治 ,   村上雅之 ,   角田信三 ,   杉山理 ,   小沢高将

ページ範囲:P.561 - P.564

 血中の遊離脂肪酸(FFA)は,生体組織における重要なエネルギー源の一つであるが,その濃度は栄養条件および疾病によって大きく影響を受けることはよく知られている.一方,そのFFAの主な組成は,正常な人において10種類近くの長鎖脂肪酸により構成されており1),体組織におけるそれらの脂肪酸の利用度は一様ではないことが明らかにされている2〜4).さらに,近年そのFFA組成と加齢1)および疾病5,6)との関連も検討され始めており,そのFFAの組成と各種脂肪酸量に対する関心が高まりつつある.
 従来,生体成分を含めある資料の脂肪酸組成を分析する場合は,脂肪酸をメチルエステル化してガスクロマトグラフィーにより分析する方法が主に用いられてきた.しかし,Nimura & Kinoshita7)によって,食品中の脂肪酸を蛍光物質である9-アンスリルジアゾメタン(ADAM)と結合させることにより,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって簡便に同定定量できることが報告された.本報告は,このNimura & Kino-shitaの方法を血清FFAの同定と定量に応用すべく,反応条件,操作に検討を加え,あわせて他の血清FFA定量法との比較検討を行ったものである.

真空浸透器を用いた組織の固定とパラフィン包埋

著者: 前田君子 ,   矢川寛一

ページ範囲:P.565 - P.570

はじめに
 組織のパラフィン切片標本の作製過程において,パラフィン包埋に減圧が有効であることはすでに1800年代にFrancotte,Hoffman1)らが減圧により液体の交換を早め,組織処理時間を短縮できることを示したと言われている.その後パラフィン包埋における減圧の効果は,組織の処理時間を短縮するのみならず,組織の収縮を軽減し,薄切を容易にするとともに染色性にも優れていることが認められ2,3),近年では真空浸透器を用いたいわゆる吸引パラフィン包埋法が,バキュームロータリーなどにも応用され広く普及してきた.
 また,組織の固定にも真空浸透器を応用し固定の迅速均等化を図り,死後の変化を防止しようとする試みもある4,5,7)

私のくふう

ビクトリアブルー-H・E染色—H・E染色標本で癌の血管侵襲を観察するためのくふう

著者: 横川和子 ,   大橋ひろみ ,   加藤洋

ページ範囲:P.571 - P.572

 癌の血管侵襲は予後を決定する重要な因子の一つである.例えば胃や大腸の癌において,血管侵襲(静脈侵襲)の陽性例は陰性例に比較して肝転移の率が高い1,2).このために癌手術材料における血管侵襲の検索は,必須のルーチン検索項目となっている(胃癌取扱い規約3),大腸癌取扱い規約4)などでは静脈侵襲をvで表記することを勧めている).
 血管侵襲の検索には従来よりエラスチカ—Van Gieson (EVG)染色がもっとも良い方法として行われていたが,このためにはH・E染色のほかに一枚多く染色しなくてはならない.H・E染色所見と血管侵襲を同時に観察できれば非常につごうが良い.そのために弾性線維染色とH・E染色を重ねるくふうが行われており,喜納はエラスチカ—H・E染色を勧めている5).しかし,この方法では切片全体が暗くなり,H・E染色所見が読みにくくなる.このためにわれわれはH・E染色が損なわれずに静脈侵襲を同時に観察できる方法として,ビクトリアブルー染色とH・E染色を重ねる方法(VB-H・E染色)を考案した.

資料

EAプレートキットによる溶血活性測定の検討

著者: 西間木友衛 ,   粕川禮司 ,   富塚敏子

ページ範囲:P.573 - P.575

はじめに
 血清補体価の測定は,膠原病,肝疾患および腎疾患患者の診療上,必須の検査となってきた.血清補体価の測定法としては従来からの50%溶血法が広く行われてきたが,手技が煩雑であり,多数検体の測定には下向きなため,最近では,補体成分のC3とC4の蛋白定量法が臨床的なルーチン検査として普及するようになった.しかし,蛋白質と活性とは平行しないこともあり,また補体価は補体の最低成分により規定されるので,一成分の測定では,補体活性の全体的な表現にならないことがある.そこで,より簡便な補体活性の測定法が要求されている.
 筆者1)らは,1976年に寒天内溶血法が補体価のルーチン測定法として応用できることを報告してきた.Martin2)やMilgrom3)らによって開発された寒天内溶血法は,抗体感作ヒツジ赤血球を含んだ寒天プレートの穴に新鮮血清を入れ,4℃で一定時間拡散させた後37℃に保ち,生じた溶血輪の大きさにより補体の溶血活性を表現しようとしたものである.このような感作血球含有寒天プレートを作製しておけば,多数検体の補体価を一度に測定することが可能であり,補体価のルーチン検査法として優れていると考えられる.以前に作製した感作血球含有寒天板では,長期の保存が困難であり,高補体価血清における溶血輪の伸びが悪いことが指摘されていた.

α1-マイクログロブリン測定用EIAキットの基礎的検討

著者: 奥村伸生 ,   亀子光明 ,   金井正光

ページ範囲:P.577 - P.580

はじめに
 ヒトα1-マイクログロブリン(以下α1-m)は,1975年Ekströmら1)によって尿細管障害患者および健康人の尿から単離・精製された低分子糖蛋白質で,電気泳動上fastα1位に泳動されることから命名された新しい蛋白質である.近年,α1-mの物理化学的・免疫学的性質が明らかにされるとともに2,3),各種疾患における血中および尿中α1-mの動態についての検討が行われている4,5).しかし,現在のところ,α1-mの生体内における機能,産生部位,代謝などの詳細については不明の点が多く残されている.
 今回,筆者らは富士臓器製薬で開発された酵素免疫測定法によるα1-m測定キット"イムザインα1-m"について基礎的検討を行ったので報告する.

質疑応答

臨床化学 CPKの異常高値

著者: 上坂敏弘 ,   元田憲 ,   M子

ページ範囲:P.581 - P.582

 〔問〕 下痢症状で受診された患者さんで,CPK値が異常高値,約800単位(Oliver変法)を示した例が2例ありました.ECGで心筋障害も否定され,また筋炎,脳血管障害もないとのことです.アイソザイム解析は行っていません.下痢症状をきたしている患者さんで,CPKが異常値を示すことがあるのでしょうか.あるとすれば,どのような生体反応で起こっているのでしょうか,お教えください.

臨床化学 臨床検査値に影響を及ぼす薬剤

著者: 林康之 ,   T生

ページ範囲:P.582 - P.585

 〔問〕 肝・腎機能検査項目,血液一般,尿検査,血清学的検査などの成績に影響を及ぼす薬剤の種類とその商品名をお教えください.

血液 血液粘度と血栓形成

著者: 松田保 ,   T生

ページ範囲:P.585 - P.586

 〔問〕 血液粘度と血栓形成との関連についてお教えください.

輸血 薬物過敏症者の献血,輸血

著者: 遠山博 ,   O生

ページ範囲:P.586 - P.587

 〔問〕 数年前に抗生剤で薬物過敏症になり,同じ抗生剤を使用すると薬疹ができます.このような体質で,献血をしてもかまわないのでしょうか.また,輸血した場合,受血者には何の反応も出ないのでしょうか.

免疫血清 トレポネーマ抗体について

著者: 水岡慶二 ,   S生

ページ範囲:P.587 - P.588

 〔問〕 HBウイルスなどでは抗体産生によりその抗原ウイルスは死滅しますが,トレポネーマではかなりの期間抗原と抗体との共存期間があるようです.また,このIgG抗体はかなり持続するにもかかわらず梅毒に再感染することがあると言われています.これは,トレポネーマ抗体はトレポネーマを殺さないということでしょうか.そうだとしたら,生体がこの抗体を産生する理由は何でしょうか.

臨床生理 無侵襲体表面His束電位記録法

著者: 加藤孝和 ,   N生

ページ範囲:P.588 - P.590

 〔問〕 無侵襲による体表面His束電位の記録法と,その臨床評価についてご教示ください.

診断学 NMRの原理と応用

著者: 桃井宏直 ,   O生

ページ範囲:P.590 - P.592

 〔問〕 NMRはどのような原理で,医学分野で今後どのような応用が考えられますか,お教えください.

雑件 平均値の比較検定

著者: 臼井敏明 ,   M生

ページ範囲:P.592 - P.594

 〔問〕 例えば,血圧について年齢別平均値の差が有意であるかどうか,成人の白血球数の男女別平均に差を認めた場合その差が有意なものであるかどうか,を統計学的に検定する方法,および実施の際の必要条件をお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?