icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査28巻12号

1984年11月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床検査の標準化 カラーグラフ

臨床検査における規格のカラー化

著者: 富田仁

ページ範囲:P.1540 - P.1543

 臨床検査におけるカラー化は,仕事の能率を上げるために必須のことではあるが,規格化されたものは案外少ない.「規格化された医療設備,器材のカラー表示」については,『臨床検査』(25,1552〜1554,1981)に,藤咲喜一氏によって詳細に記載されているので,JIS規格にのっているものは,それを参考にされたい.今回は,筆者が日常しばしば見るものだけについて示す.

技術解説

標準について

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.1544 - P.1548

 ものの測定に標準の必要なこと,その標準を得るための考えかたについて,さらに,標準という言葉,臨床検査においては標準という語を安易に使いすぎているし,また,標準でないものに標準という語を充てていることが多い.
 臨床検査では,他の分野とは違った事情を有している.そのための特殊性と,代用基準,検量用物質などについて記し,それでもなお基準の得られないものに対しては,臨床検査を行ううえの注意事項を述べている.

プール血清の作りかたと使いかた

著者: 古閑十志子 ,   中山年正

ページ範囲:P.1549 - P.1556

 本稿におけるプール血清の作製法・保存法は,現在われわれが経験的に積み上げたものについて,アメリカ臨床化学会(AACC)のselected methodとの相違を挙げながら述べた.一方,現在の臨床化学検査項目・件数の爆発的増加と多項目自動分析機の普及はプール血清に対し,その品質向上の必要性を増大させている.この現状に対し,上記のプール血清作成法およびその周辺の諸点のつめは必ずしも十分とは言えず,今後さらに目的に合致した条件設定が必要である.

標準菌株の入手法と保存法

著者: 飯島貞二

ページ範囲:P.1557 - P.1562

 研究や試験に使う微生物はその性質が,文献に記載されたとおりに保たれていないと,それを使った結果に信頼が置けなくなる.
 微生物株保存機関は,分類学上の基準となる基準株のほか,種々の参考株を,性質を変えないよう注意しながら保存し,研究者の要求に応じて分譲するという役割を果たしている.

尿比重測定の問題点

著者: 斉藤正行

ページ範囲:P.1563 - P.1568

 腎疾患,特に腎盂疾患では尿濃縮能が早期に犯されるので,尿の比重値の低下からそれをとらえることが習慣として診療に利用されている.しかし,検査室から報告される値は昔の方法と同じではなく,屈折という他の物理的性質の変化率から換算したものである.測定上の再現性の信頼度はこのほうが格段に良いが,厳重な意味での比重値ではない.この測定法の差を理解したうえで,限界値などの臨床的評価上の再吟味が行われる必要がある.

総説

血液型抗体の標準

著者: 安田純一

ページ範囲:P.1569 - P.1576

標準が無い「標準化」
 「標準という言葉ほど,標準を決めずに各人各様の理解で用いられているものは無い」という意味の発言をどこかで聞いたことがある.血液型判定用血清の標準化の動きは,まさしく,いくつかの異なった見解の併立と妥協の繰り返しであった.まず,WHOのExpert Committee on BiologicalStandardization (ECBSと略)による血液型判定用血清の国際標準品設定の経過を紹介したい.この分野でわが国からの正式な貢献は何もなされていないが,そのうち1970年以後の責任は筆者自らが負うべきであることを,初めにお断わりしておかなくてはならない.
 安定な標準品に単位を設定し,それとの比較により検体の力価を相対的に表現するという概念はEhrlichに発している.彼は最初,500MLDのジフテリア毒素を中和する抗毒素量を1単位と決めたが,抗毒素の国際標準品によって単位が規定されるようになってからは,最初の定義そのものは意義を失った.言うまでもなく,モルモットに対するMLD (最小致死量)を基礎にして抗毒素の側を定量するとなると,使用する動物をはじめ,実験条件をこと細かに規定しておかないと,相互に成績を比較できない.しかし,安定な抗毒素の標準品があれば,これと検体とを同時に試験し,その活性の比を標準品に対して規定されている単位に乗ずることで,検体の力価を単位で表現できる.

主題を語る

呼吸機能検査装置の規格化

著者: 大久保隆男 ,   杉山吉彦 ,   太田保世

ページ範囲:P.1578 - P.1586

 呼吸機能の検査には原理の異なる種々の測定機器が用いられているが,機器に対する規格化もほとんど行われておらず,検査手技についてもスタンダードテクニックは規定されていない.機器と検査手技とが規格化されることにより,各施設間で同等同質の評価の可能なデータが得られるようになる.呼吸機能検査の規格化のため現状に潜む問題点と,将来への展望を探る.

検査と疾患—その動きと考え方・95

糖尿病;糖負荷試験

著者: 羽倉稜子 ,   古河享子 ,   原陽子

ページ範囲:P.1587 - P.1596

はじめに
 糖負荷試験は,糖尿病を診断するための有力な検査法として長い間用いられてきたが,負荷するグルコースの量や,負荷試験の結果を判定する基準値に統一性が無く,検者がもっとも適当と思うものを選んで行っていたというのが実情であった.糖代謝異常の軽いものでは,ある判定基準を用いると糖尿病と診断されるが,他の判定基準を用いると糖尿病ではないという結果が得られる場合がしばしばあった.日本糖尿病学会では,このような混乱を避けるためにも,共通して用いられる判定基準の必要性を痛感し,1970年,「糖負荷試験における糖尿病診断基準委員会報告1)」に,「糖尿病の診断に用いるための糖負荷試験の判定基準についての勧告」という副題を付けて公表した.本報告では,100gグルコース負荷試験(GTT)と50gGTTの判定基準を設定するとともに,糖尿病の概念から説き起こし,糖尿病診断におけるGTTの役割と限界についても論及した.
 以来10年,わが国においては100gまたは50gGTTが,糖尿病診断の有用な検査法として普及し,定着していた.世界的にみても,100gと50gが多用されていたが,その判定基準はまちまちで,各施設間相互の比較が困難であった.

座談会

酵素活性値の標準化は可能か

著者: 鈴木宏 ,   大久保昭行 ,   堀尾武一 ,   小川善資 ,   北村元仕

ページ範囲:P.1598 - P.1607

 酵素活性は種々の測定原理に基づいて測定されるが,表示される酵素活性値の単位がさまざまであるために,また同単位であっても存在する施設間差のために,臨床の,検査室の,あるいは医学教育の現場に混乱とひずみとをもたらしている.酵素活性値を相互に比較することを可能にし,意味のあるものとすることができる共通の「尺度」はあるのだろうか.

講座・リンパ球の検査・11

マクロファージ活性化因子の測定法

著者: 森川茂 ,   原田孝之

ページ範囲:P.1612 - P.1621

はじめに
 マクロファージ(Macrophage:以下Mψと略)はMetchinikoffの細胞性免疫現象の原型の発見以来,生体防衛の第一線の要員としてその重要性が指摘され,未梢循環中にみられる単球(mono-cyte)以外生体のあらゆる部分に分布していることが知られている1).今日では単に抗微生物活性,抗腫瘍活性としての異物排除の機能以外に免疫応答の引き金を引くもの,あるいは調節に働くものとして生体の恒常性維持(ホメオスタージス,homeostasis)に深くかかわっているとされている.
 Mψ機能を効率良く発揮するためにまず,その活性化(activation)が要求される.生体内(invivo)や試験管内(in vitro)でMψを活性化する要因はいくつも知られている1,2)が,二大別すると感作T細胞が抗原特異的に活性化され産生・放出するリンフォカイン(lymphokine)に属するMψ活性化因子3)と感染微生物由来物質とになる.後者ではGram陰性菌の内毒素であるリポ多糖体(lipopolysuccharide;LPS)や結核菌膜成分由来のムラミールジペプチド(muramyl dipeptide;MDP)4)などをはじめとする細菌由来のアジュバント活性物質が含まれている.

基礎科学からの提言・17

生体信号と雑音

著者: 塚原仲晃

ページ範囲:P.1623 - P.1630

はじめに
 筆者が,研究室に入りたてのころは,脳生理学(これが筆者の専門分野であるが)は脳波全盛の時代であり,脳波計を前に,動物に電極を突っ込んで,終日,脳波を眺めて過ごしたものである.脳固定装置や,深部脳波記録もまだ珍しい時代のこととしてお読みいただきたい.
 ある日,皮肉屋として有名な先輩がやって来て,「雑布からも脳波が出る」と言い出したのである.早速,先輩の目の前で雑布を取り出し,その中へ深部電極を突き刺したところ,何やら,脳波計のペンが描き出したのを覚えている.先輩は,驚いている筆者に「"脳波"は,脳から出るとは限らんぞ,よく覚えておけよ」との言葉を残して立ち去ったのが,いまだに印象に残っている.

私のくふう

フローティング・マイクロテストチューブラックとその台

著者: 高橋豊三 ,   高橋直子 ,   奥田研爾

ページ範囲:P.1630 - P.1631

 近年,科学の発展に伴い省力化や微量化が進み,非常に微量な単位で成分を検出したり,反応を行ったりすることができるようになった.これは微量試料の精密測定操作を可能にしたピペットや,それに付随する小型試験管に負うところが大きい.
 最近ではどの検査室でもマイクロピペットを備えており,試験管としてはディスポーザブルの1.5mlもしくは0.5ml容量のエッペンドルフ・マイクロテストチューブ(EMT)が利用されている.これらのマイクロテストチューブを固定するいわゆる試験管立てに関しては,チューブ自体が小さいだけに,ある処理をした後に温水浴槽中で一定時間反応させる際,温水面と試料の位置を調整するのが難しい.温水浴槽中にいろいろな高さのものを投げ込み,その上にチューブを立てた試験管立てを載せて調節しているのが常である.それでもなかなかつごうの良い高さのものが身近かに見つからずに,正確に反応が行われていないことも珍しくない.

第5回医学書院臨床検査セミナーより・1【新連載】

病理形態検査の課題をめぐって

著者: 高橋正宜

ページ範囲:P.1632 - P.1634

はじめに
 今回臨床検査セミナーに,このような課題を掲げました理由を最初にお話ししましょう.
 形態検査といいますのは経験に基づく判別を基盤とする学問ですから,判定には検者による変動はもちろん,日による変動もあるかと思います.形態検査ではなかなかquality controlを行うことが難しいのですが,結果の明らかな,また検出されるべき細胞の所在も明らかな標本を日常の染色標本の中に入れ込む方法があります.特に第一次スクリーニングをする細胞診の偽陰性(false negative)を避けるために,信頼度のチェックは必要なことです.この方法はまだ認定試験を経ない方と指導的な技師の方も参加して施行したところ,経験の深い方が必ずしもいい判定をしなかったり,見落としをしたりすることがありました.つまり,dou-ble checkのsenior cytologistはつねに問題となる細胞の評価のみが仕事となって,第一次スクリーニングの精度を落としていることがあるのですね.一方,国際会議でよく行われる自己採点法は20問ぐらいの症例を判定する実力試験で,自らの判別力を試すやりかたで,学力テストのような方式でいずれも有用性があります.生検組織診においてもdysplasiaのgrade分類が軽度と中等度と同一例で日によって変更されることもあるように,形態学ではなんらかの客観的解析法が導入される必要があろうかと思われます.

研究

尿中NAG活性値と尿細管上皮細胞高NAG活性値症例の検討

著者: 青木哲雄 ,   榊原英一 ,   滝田資也

ページ範囲:P.1635 - P.1640

 尿中のN-acetyl—β—D-glucosaminidase (以下NAG)は,腎の尿細管上皮,特に近位尿細管上皮細胞のライソゾームに由来する酵素の一つであり,尿細管上皮細胞が障害を受ける疾患,すなわち各種腎疾患1〜3),腎移殖後の拒絶反応4〜5),薬物の腎毒性6〜7),糖尿病8),などで尿中の活性値が上昇すると言われている.
 われわれは,尿沈渣鏡検時にSternheimerの藤林変法9)を施して細胞分類を行うなかで,白血球大のものやその2〜3倍大の大きさで,核は偏在性で萎縮状,そして細胞質は濃赤色粗大顆粒状で,一見破壊した細胞様のものを尿細管上皮細胞と分類し,それらの細胞成分が尿沈渣中に認められる被検尿のNAG活性は高値であることを報告した10〜11)

資料

Mycoplasmelisa test kitの肺炎マイコプラズマ感染症診断における実用性

著者: 宮地辰雄 ,   洲崎健 ,   新津泰孝

ページ範囲:P.1641 - P.1645

緒言
 肺炎マイコプラズマ感染症の確定診断に用いられる血清反応としては補体結合反応(CF),間接赤血球凝集反応,代謝阻止反応などがある.最近ではenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA法)による抗体測定も報告されている1〜5)が,抗原,試薬の調整などに時間がかかり,手技が比較的煩しいという問題がある.
 このたびM.A.バイオプロダクツ社が開発したMycoplasmelisa test kitは,ELISA法を用いて血清中の肺炎マイコプラズマに対するIgG抗体を測定する方法である.

編集者への手紙

国内で感染したと思われる毒素原性大腸菌下痢症

著者: 竹田多恵 ,   三輪谷俊夫 ,   高橋美由紀 ,   松尾奈穂美 ,   森山ゆみ子 ,   田中秀武

ページ範囲:P.1646 - P.1646

 1983年夏の終わりに,バングラデシュに行く機会に恵まれ,ダッカの国際下痢疾患センター(ICDDR, B)に17日間滞在した.そこでコレラや赤痢患者に混じって,毒素原性大腸菌下痢症にあえぐ多数の患者をみた.その臨床像はまさにコレラに匹敵する.
 毒素原性大腸菌が発展途上国だけの問題ではなく,こうした流行地を訪れる人々を悩ませ,さらには日本国内へも多数持ち帰られている事実はすでに明らかにされている.また発展途上国から輸入される冷凍魚介類によっても,本菌のみならず多種類の下痢原因菌が持ち込まれていることも事実である.

質疑応答

臨床化学 血清電解質測定と流動パラフィン重層

著者: 玄番昭夫 ,   市川義信

ページ範囲:P.1647 - P.1647

 〔問〕血清電解質を測定する際は,クロライドシフト現象を抑えるために流動パラフィンを重層する,と成書にあります.当院では検体が病棟より検査室に届くまで約3時間かかっていますが,流動パラフィンを重層する必要があるでしょうか.

臨床化学 ALPの異常な変動と異常高値

著者: 飯野四郎 ,   高原享

ページ範囲:P.1648 - P.1648

 〔問〕 5歳の女児で,外来初診時にALP 337 KAUと異常高値を示し,GOT 25 KU,GPT 7 KU,CRP〔−〕でした.当時薬剤は服用しておらず,6日後の再検時にはALPl87 KAUで,GOT 31 KU,GPT 11 KU,LAP 124 GRU,γ-GTP 8IU/l,そしてCa 8.3mg/dl,P 4.4mg/dlでした.さらに2か月後にはALP 21KAUと正常域に戻り,他の検査にも異常はみられませんでした.また,ALPアイソザイムにおいて,高値を示した初診および再来時には,ALP 3(骨性)のほかにALP 1(肝・胆性)が明確に出現しており,2か月後にはALP 3のみでALP 1は消滅していました.この症例におけるALPの異常高値とアイソザイムとをどう考えればよいのか,ご教示ください.

臨床化学 回復期の膵炎患者のアミラーゼ測定

著者: 石井兼央 ,   石田美恵子

ページ範囲:P.1649 - P.1649

 〔問〕 アミラーゼ値は,食事の影響は小さく,膵炎の回復期には日差・日内変動が大きいとのことですが,膵炎患者のアミラーゼ値の変動を調べる場合,食後何時間の採血・採尿が良いのでしょうか.膵炎患者の回復のようすを知るためのアミラーゼ検査の行いかたをお教えください.

免疫血清 F-Ⅱ反応もF-Ⅲ反応もリウマチ因子ではないのか

著者: 鈴田達男 ,   笠原勝

ページ範囲:P.1650 - P.1650

 〔問〕 リウマチ因子(RF)検出法にはRAテストやRAHAテストがありますが,前者はRFのスクリーニングに,後者はRFの確認に用いられると成書にあります.RFは単一なものではなく,F-Ⅰ〜F-Ⅲまであり,また,その特異性はIgGのFc部分に反応することによるとされていますが,RAテスト〔+〕,RAHAテスト〔−〕の場合はRFとは言わないのでしょうか.上の,RFの多様性からすれば,F-Ⅱ反応もF-Ⅲ反応もRFとしてよいのではないでしょうか.

微生物 Mueller-Hinton寒天培地と薬剤感受性試験

著者: 五島瑳智子 ,   M生

ページ範囲:P.1651 - P.1652

 〔問〕 Mueller-Hinton寒天培地が,薬剤感受性試験(特にディスク法)に用いられる理由は,何でしょうか.

微生物 輸送培地および綿棒とチャコール

著者: 佐竹幸子 ,   A生

ページ範囲:P.1653 - P.1653

 〔問〕 市販輸送培地トランススワブシステムの培地中に添加されたチャコールと,検体採取用綿棒のリン酸緩衝液チャコール処理との,意義と目的についてご教示ください.

微生物 ヒトのPneumocystisの呼称について

著者: 住吉昭信 ,   A生

ページ範囲:P.1654 - P.1654

 〔問〕 AIDSの際にPneumocystis carinii肺炎併発があると言われますが,この病源体は元来ヒトに感染するものでないことからcariniiというのはよくない,との意見があります.この点についてこ解説ください.

臨床生理 多種目の肺機能検査装置の信頼性

著者: 毛利昌史 ,   N生

ページ範囲:P.1655 - P.1655

 〔問〕肺機能検査について,最近は数種の検査を組み合わせて,自動的に結果を表示する装置が市販されています.これらのうち,信頼性のうえから問題のある組み合わせ,装置について,その問題点を挙げてお教えください.

臨床生理 自動血圧計の原理と信頼性

著者: 平野三千代 ,   中居賢司 ,   B生

ページ範囲:P.1656 - P.1656

 〔問〕家庭用あるいは集団検診用の自動血圧計について,その原理および信頼性をお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?