シリーズ・先天性遺伝性疾患の診断に役だつ検査・4
先天性有機酸代謝異常症
著者:
成澤邦明
ページ範囲:P.437 - P.442
はじめに
有機酸代謝異常症はカルボン酸が体内に大量に蓄積する疾患である.現在まで20数種類が報告されており,表1にその主なものを示した.これらの疾患の最終診断にはガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)による有機酸分析や酵素学的検索を必要とする場合が多い.しかし,すべての患者にこのような検査を適用することは労力や効果の点から無意味であり,したがってハイリスク患者をいかに見い出すかが重要になってくる.図1に有機酸代謝異常症の診断手順を示した.有機酸代謝異常症に特徴的な臨床症状や徴候は新生児や乳児期初期では多呼吸(ときに無呼吸),頑固な嘔吐,脱水,けいれん,嗜眠,筋緊張低下,体重増加不良を伴うケト・アシドーシスである.かかるアシドーシスは蛋白負荷や感染などによって容易に繰り返す.一方乳児期後半から幼児期にみられるものは筋緊張低下,けいれん,精神運動発達の遅れ,小脳失調症,舞踏病・アテトーゼ様運動,異常眼球運動などの神経症状を主徴とするもので代謝性アシドーシスを伴うことも伴わないこともある.以上の臨床症状に加えて,母親が頻回に流産したり,原因不明で急激な経過で死亡した同胞がいるなどの家族歴もおおいに参考となる.一般臨床検査では血清電解質(Na,K,Cl,Ca),血液pH,ガス,血糖,血中アンモニア(最近アミテストで手軽に測定可能),末梢血液検査,尿では尿臭や試験紙などの簡易検査がなされる.アシドーシスがあり,PCO2が正常でHCO3-が低下していれば代謝性アシドーシスと判定されるが,この際anion gapをみるとより明確となる.anion gapは〔Na+-(Cl-+HCO3-)〕の式で算出され(正常値8〜16mEq/l),これが増大すればH+の産生充進による代謝性アシドーシスと推定される.ただし,anion gapの上昇は腎機能不全でもみられるので,同時に腎機能の検査を必要とする.
有機酸代謝異常症ではしばしば二次的異常として低血糖,高アンモニア血症,高グリシン血症,好中球減少,血小板減少をみることがあり,これらが最初に見い出されて診断のきっかけとなることが知られている.異様な尿臭も診断のきっかけとなる.メープルシロップ尿症ではメープルシロップ様,イソ吉草酸血症では"汗臭い足"様のにおい,β-メチルクロトニルグリシン尿症では"ネコの尿臭"が特徴的である.試験紙では蛋白質,糖,ケトン,潜血をチェックする.一般に新生児,乳児期初期にケトン尿をみることはまれであり,もし陽性なら有機酸代謝異常症を疑う根拠となる.さらに尿中にブタノンなどの長鎖ケトン体をみたならばプロピオン酸血症,メチルマロン酸血症,β-ケトチオラーゼ欠損症などを疑いうる.表2に示した簡単な呈色反応もスクリーニング法として有用であろう.