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雑誌目次

論文

臨床検査30巻6号

1986年06月発行

雑誌目次

今月の主題 定量的細菌検査とその臨床的意義 カラーグラフ

定量的細菌検査とその臨床的意義

著者: 三輪谷俊夫

ページ範囲:P.566 - P.568

 定量的細菌検査として,技術解説では血液,喀痰,尿の定量培養法,体液中の抗菌剤濃度の測定法,下痢便中に存在する起病菌の蛋白毒素検出法をそれぞれの専門の先生がたにお願いして解説していただいた.
 細菌培養検査の目的は真の起病菌を検出して感染症の診断・治療に直接役だつデータを医師に提供することであるが,定量培養検査は分離・検出菌が真の起病菌であるかどうか,感染症の軽重,治療効果ならびに予後の判定に役だつ重要な検査法である.

技術解説

血中細菌の定量法

著者: 藪内英子 ,   山本啓之

ページ範囲:P.569 - P.578

 菌血症,敗血症患者の血液から細菌を検出することは診断はもとより治療方針の決定,予後の判定にきわめて重要であることは言うまでもない.血液培養瓶の考案と市販以来,患者血液からの細菌の検出はもっぱらこの増菌培養法に依存し,患者血液から細菌を検出するという定性的な培養法のみが日常検査で広く実施されているのが現状である.このような中で,近年特に血中細菌の定量に目を向けた論文も少なくない.したがって鏡検または培養によって血中細菌を簡便に定量することができ,検出菌の同定とともに血液単位容積当たりの菌数が判明すれば,各菌種による感染症の病態の解明に新たな視点が開けるかもしれないし,また菌種と患者の防衛能に応じた予後の判定が可能になるかもしれない.
 このような観点から血中細菌の定量法について過去約80年間の流れを顧みるとともに,感染症の変貌とも関連してその意義付けと新しい手技を考えてみよう.

喀痰の定量的細菌検査法

著者: 松本慶蔵 ,   渡辺貴和雄

ページ範囲:P.579 - P.586

 本稿においては,主題に添いながら喀痰の定量的細菌検査法の具体的方法と,その信頼性について,またブランハメラ・カタラーリス(Branhamella catarrhalis)およびコリネバクテリウム(Corynebacterium pseudodiphthericum)による呼吸器感染症についての二点を中心に記述することにしたい.C. pseudodiphthericum感染症は,今後の注目すべき感染症となる可能性があり,特に注意を喚起しておく.

尿の定量的細菌検査法

著者: 村中幸二 ,   河田幸道

ページ範囲:P.587 - P.592

 尿路感染症の診断に際して尿中細菌定量培養法はもっとも重要な検査法の一つである.しかし,尿中細菌数は採尿方法や尿の保存状態によって異なってくるため,尿の採取から分離に至る過程が正しく行われてはじめて診断的価値を発揮するものであることを忘れてはならない.尿の定量培養法としては,平板混釈法または平板塗布法が定量性の高い検査法として用いられているが,これらの方法は器材の準備や検査手技が煩雑であるため,最近は簡易定量培養法が普及している.その代表的な方法はディップスライド法であるが,低菌数細菌尿における定量性に関しては,まだ問題点が多い.また細菌検査の自動化,迅速化を目的とした機器の開発がなされ,普及しはじめている.これらは散乱光や光透過法,生物発光を測定原理とするもので,菌数の測定も行え,今後,尿路感染症の診断や治療に大きく貢献すると考えられる.
 尿路感染症の原因となった細菌を尿中から分離することは,尿路感染症の診断上もっとも重要であるが,採尿の過程において真の原因菌以外の細菌が混入する可能性があるため,たんに尿から細菌を分離しただけでは非特異性尿路感染症の診断を下すことはできず,原因菌の決定には定量培養法が不可欠である.

抗菌剤体液中濃度の定量検査法

著者: 西園寺克

ページ範囲:P.593 - P.600

 抗生物質の体液中濃度測定の目的は,薬物自身の体内動体解析と,TDM(therapeutic drug monitoring)に分けられる.方法論はbioassay,HPLC,non-isotopic immunoassayなどが使われ,bioassayは,薬剤の生物学的活性を,HPLCは薬剤の代謝産物の測定,多剤同時測定に,non-isotopicimmunoassayは,TDMを対象に開発された.STRATUS,EMIT,SLFIA,TDX systemなど各法が臨床応用可能である.体液中の薬剤測定には,目的に応じたサンプリング,測定系の選択が重要である.本稿は方法論の技術的解説を主に,各法の測定経験を記した.

下痢便中のエンテロトキシンの検出法

著者: 本田武司

ページ範囲:P.601 - P.607

 下痢便は,腸管感染症の唯一の証拠物件と言える.したがって,下痢便中には,原因微生物に由来した種々な物質が含まれているはずであり,その量はある程度菌量に比例するはずである.それらの中で,各微生物が産生する特異な毒素は,病態に直接関与するものであり,その検出をもって起病菌を推定することは,理にかなっていると言える.毒素の検出法をくふうすれば,毒素の有無判定に要する時間は検体入手後3〜4時間で済み,従来から行われている菌の検出・同定による診断決定法に比べ,はるかに迅速な診断法となりうる.
 本稿では,これらの可能性について述べるとともに,現時点における問題点にも言及した.

総説

腸内フローラと疾病

著者: 小澤敦 ,   高橋靖侑 ,   相場勇志

ページ範囲:P.609 - P.616

はじめに
 健康状態のヒトの消化器管腔内には,つねに常在細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれる多種の細菌群が生息しており,宿生との間に生態学的調和を保持している.腸管内細菌への注目は19世紀の終わりごろ,Pasteurの時代に生体の生命維持に必須のものかどうかという論議から始まり,20世紀に入って,腸管内細菌の病原性,細菌の生産する外毒素,内毒素の研究が盛んとなり,ヒトの罹患する疾患への直接の関係がしだいに認められてきた.現在では,こうした腸内常在細菌に属する細菌感染による病態への注目と,無菌動物や抗生物質の開発から,腸内フローラが果たす宿主の生理や病態生理への関係が考えられるようになり,免疫,発癌,栄養吸収などとの関連にも目がゆきとどき始めている1,2)
 われわれは健康な状態においては,菌側因子と宿主側因子との相関性の中で,常在菌叢の生態学的バランスが保持されている.このようなバランスが破たんをきたすのは,生体における器質的,機能的障害や悪性腫瘍,血液疾患,代謝不全疾患などの内的要因と,それに伴う抗菌的,抗癌的化学療法剤の乱用といった外的要素によってもたらされるものである1).近年特に,化学療法剤の乱用,多用,副腎皮質ホルモン,抗癌剤などの広範な使用,ならびに放射線療法などの導入によって疾病構造が大きく変貌し,チフス,コレラ,赤痢,結核,ジフテリア,百日咳などの各種の古典的,あるいは外来性の感染症による疾病とは異なる,いわゆる非病原菌または弱毒菌という名で総括される菌によって起こされるところの日和見感染症が臨床医学的に注目されてきている3)

検査と疾患—その動きと考え方・112

慢性気管支炎と起炎菌の決定

著者: 谷本普一

ページ範囲:P.617 - P.621

症例
 症例 WM,82歳,男性.
 主訴 咳,痰.

座談会

定量的細菌検査とその臨床的意義

著者: 清水喜八郎 ,   藪内英子 ,   河田幸道 ,   松本慶蔵

ページ範囲:P.622 - P.630

 細菌性心内膜炎の血中細菌数の定量は,菌の同定と予後の判定に重要であり,尿中細菌数の定量の重要性は言うまでもない.喀痰内細菌数の定量の重要性もしだいに広く認識されるようになったが,これらの対象はいずれも,元来無菌部位でのものである.定量結果の正しい臨床的意味づけこそが今求められている.また定量培養の前の塗抹染色の重要性はきわめて重要であり決して忘れてはならない.

シリーズ・生体蛋白質の検査法・6

フェノール試薬法(Lowry法)による定量

著者: 吉田文男 ,   樋口正

ページ範囲:P.633 - P.638

はじめに
 臨床診断試料をはじめとして,各種生体材料中に多種類かつさまざまな存在様式で存在している蛋白質を,実験目的に応じて定量しようとする場合,まず知っておかなければならない一般的基本事項や,定量方法の種類,そしてそれら個々の定量法の特徴などについての詳細は,本誌におけるこの巻の前号,もしくは後の号に順次掲載される予定と聞いているので,ここでは,筆者に与えられた表題の定量法のみについて述べることとする.

シリーズ・超音波診断・6

心臓・3—心筋疾患

著者: 山口徹

ページ範囲:P.640 - P.643

 心筋疾患は,主として心筋症と心筋炎で,後者は重症例を除くと,心エコー図上は異常所見を認めない例が多い.一方,心筋症は,心エコー図検査が普及するにつれ,軽症から重症まで広く存在することが知られるようになった.心筋症は,病因的には原発性と続発性に分けられ,機能的には肥大型,拡張型,拘束型に分けられる.単に心筋症といえば原発性のものを指す.

シリーズ・癌細胞診・18

ウィルス感染症

著者: 石束嘉男

ページ範囲:P.645 - P.648

 各種ウイルスの感染に共通した細胞学的変化には,次のごときものがある.
(1)封入体の形成:核内あるいは細胞質内に,時にはその両者に封入体を見ることがある.その位置,形態,数はウィルスの種類により特異であり,それによりウイルスの種を同定しうることも多い.また,その大きさや頻度により,ウィルス感染後の時間あるいはそれが初感染か再感染かもわかることもある.

研究

p-フェニレンジアミンを用いた血清セルロプラスミンのオキシダーゼ活性測定の変法について

著者: 三浦利彦 ,   千葉正康 ,   寺崎茂 ,   大内栄悦

ページ範囲:P.649 - P.652

はじめに
 ヒト血清のα2-グロブリンから分離された,分子量約13万の青色蛋白質のセルロプラスミン(以下Cpと略す)は,オキシダーゼ活性を有する酵素であることが知られている.Cpは銅代謝異常をきたすWilson病で減少し,感染症や妊娠,悪性腫瘍で増加することなどから,Cpの測定は各種疾患の診断,ならびに予後の指標として重要である.
 Cp自身の青色がアスコルビン酸の添加により消失することを利用した方法は精度の不良,免疫学的測定法は操作の煩雑性のため,いずれも実用性に欠ける.しかしCpのオキシダーゼ活性を測定する方法は操作も容易であり,精度も良好なため汎用されており,基質にベンチジン1),N,N'-ジメチル-p-フェニレンジアミン2),ο-ジアニシジン3),p-フェニレンジアミン4)を用いた方法が報告されている.

Simplate法による出血時間の検討

著者: 毛利博 ,   荏原茂

ページ範囲:P.653 - P.656

はじめに
 出血時間は,血小板の量および質的異常と,毛細血管の脆弱性とを反映し,これらの異常を知る手段としてきわめて簡便であり,日常の検査によく用いられている.出血時間の測定には,Duke法1)が広く使用されているが,穿刺創の大きさ,耳朶の毛細管の個体差など問題が多く,必ずしも精度の良い結果は得られていない.近年,静脈圧を一定に保ち,創の深さと長さを一定にしたTemplate法2)は,良好な成績が得られるが,操作の煩雑さなど問題を有している.
 今回,著者らはディスポーザブルで簡便に一定の長さ,深さの創を作ることが可能なSimplate (ワーナーランバート社)を用いて出血時間の検討を行い,若干の知見を得たので報告する.

資料

心電図用感熱式記録紙の変色防止対策に関する検討

著者: 白井康之 ,   石山陽事

ページ範囲:P.657 - P.660

はじめに
 心電図記録用の感熱式記録紙には従来のワックスタイプが使用されていたが,その外観や感触が普通紙と異なり,表面のワックスが機械的に弱いなどの欠点があった1).しかし,最近これらの点の改良された二成分発色系の感熱式記録紙が製品化されている.この二成分発色系の感熱式記録紙は高感度で,解像度も高く,かつ生産性,経済性にも優れている2).ところが原理的に,有機溶剤に接すると変色するという欠点がある1).このことは,一般に発色感度が高いほど強調される.このため,心電図の記録中あるいはデータ整理中にアルコールなどに接すると,記録を汚す原因となる(図1).また,記録紙を台紙に固定する際,有機溶剤を含む接着剤を使用すると,保管中に変色し,後日の心電図判読に支障をきたすこともある.われわれは,従来の高感度記録紙の表面に富士写真フイルム社提供による耐熱性を有する特殊な高分子化合物を塗布することにより,上記のような有機溶剤による変色を防ぎ,かつ優れた熱応答特性を持った感熱式記録紙を作ったので報告する.

パーソナルコンピュータによる病理検査材料の簡単かつ実用的な管理システムについて

著者: 岡村明治 ,   斎藤志郎 ,   佐々木茂生 ,   伊藤裕子

ページ範囲:P.661 - P.663

はじめに
 医療の進歩と昨今の緊縮を求められる医療行政の中で,蓄積する膨大なデータの効率的な管理・運用は医療機関に課せられた重大な課題である.その中でも特に疾患の確定診断にかかわることの多い病理材料の効率的な管理は,今や病理医のみならず,その医療機関の発展を左右すると言っても過言ではない.このような時勢の中で,当センターでは昨年の開院を契機に検査部の化学,免疫,血液,尿検査などのデータをすべて汎用コンピュータで処理・管理するシステムを導入しているが,これらのデータを手もとで把握し,診断の助けとするよう病理医のデスクにも端末機としてOA用パーソナルコンピュータを設置している.そこでこのパーソナルコンピュータの本来のOA用に開発された機能を利用し,複雑多岐にわたる病理生検,手術材料のデータを比較的簡単に処理するシステムを作成し,存外の効果を上げているので,このシステムについて若干の文献的考察を加え報告する.

医学の中の偉人たち・6

Edward Jenner 天然痘の予防

著者: 飯野晃啓

ページ範囲:P.664 - P.664

 1980年5月「天然痘終息宣言」がWHO総会で決議された.遅くまでアフリカの諸国に残っていた天然痘が,強力な種痘の実施によりこの地球上からまったくなくなったことをWHOは高らかに宣言したのである.Jennerが1796年,8歳の男児,Jams Hippsに牛痘の膿を接種し,これが成功してから,この世に天然痘のなくなるまで約180年の年月が流れた.
 天然痘にかかって回復した人は生涯二度と発病することがないという事実は,そうとう以前からわかっていた.特に中国やインドでは人痘接種が,天然痘予防法として古くから知られていた.天然痘の人が着ていた衣類をわざわざ着せ感染させる方法,痘の膿を綿や布に浸して鼻孔に入れる方法などいくつかの方法があった.この人痘種痘法はヒトの天然痘そのものを感染させるので,真性の天然痘を発病させる危険性が高く,被接種者に梅毒など他の伝染病を感染させることがあるなど重大な欠点があることは免れなかった.また,牛痘が天然痘を予防することを知っていた者も,Jenner以前に何人かいた.しかし,それを研究として推し進め,広く人類を救おうとする努力まではしなかった.初めて牛痘接種の意義を明かにし,広く一般に広めたのはJennerの功績である.

質疑応答

臨床化学 総脂質の測定法

著者: S生 ,   山田俊幸 ,   櫻林郁之介

ページ範囲:P.665 - P.666

 〔問〕血清総脂質の中央検査室向きの測定法は何でしょうか.また,その再現性,正確度などもお教えください.

臨床化学 胃液pHの測定法

著者: 藤本導太郎 ,   石井暢

ページ範囲:P.666 - P.667

 〔問〕胃液のpHによって薬物の吸収に相違のあることがわかってきましたが,胃液のpHを開業医レベルで測定する方法をお教えください.

臨床化学 人間ドックのOGTT

著者: I生 ,   梶沼宏

ページ範囲:P.667 - P.668

 〔問〕人間ドックにて50gOGTTを行っていますが,血糖値が〔負荷前>1時間値>2時間値〕と徐々に低下する例がみられます.これを,どのように解決したら良いのでしょうか.また,この場合追加検査として何を行えば良いでしようか.

臨床化学 コントロール血清の溶解と使いかた

著者: S生 ,   中甫

ページ範囲:P.668 - P.670

 〔問〕コントロール血清では,溶解後の放置時間で値の変わる項目があります.患者血清ではあまり変わらないと思いますが,どうして変わるのでしょうか.また,何時間以上の放置では使えないという基準はありますか.

免疫血清 ラテックス法における抗原,抗体の吸着法

著者: Q生 ,   鈴田達男

ページ範囲:P.670 - P.671

 〔問〕ラテックス法では,抗原,抗体の吸着にはスペーサーを使っていましたが,現在ではスペーサーを使わず,ラテックスと蛋白質とを混合して自然に感作する方法が使われていますが,これはなぜでしょうか.

微生物 腸内細菌の呼称の変更

著者: N生 ,   桑原章吾

ページ範囲:P.671 - P.672

 〔問〕『臨床検査』の座談会(vol.29,no.12(11月号),1658〜1669)にもあるように,腸内細菌の分類とか呼びかたが時に変わるので困ることがあります.どのように決定されるのか,概略をお教えください.

臨床生理 Omniscope

著者: E生 ,   鈴木豊

ページ範囲:P.672 - P.674

 〔問〕Omniscopeとは,どのような目的に用いられる,どのような装置ですか.また,その信頼性,熟練度,危険性などについてご教示ください.

臨床生理 肺機能検査データの総合評価

著者: H生 ,   神辺眞之

ページ範囲:P.674 - P.676

 〔問〕肺機能検査データを総合的に評価する方法と,その実際的な有用性についてご教示ください.

臨床生理 Holter心電図

著者: G生 ,   田村康二

ページ範囲:P.676 - P.678

 〔問〕私の施設ではHolter心電図検査を某メーカーと契約して行っております.ST-Tの評価について注意すべき点をお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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