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雑誌目次

論文

臨床検査30巻8号

1986年08月発行

雑誌目次

今月の主題 生体リズム カラーグラフ

皮膚温のサーモグラフィ

著者: 藤正巖 ,   満淵邦彦 ,   鎮西恒雄 ,   阿部裕輔 ,   渥美和彦

ページ範囲:P.802 - P.805

 サーモグラフィは,コンピュータによる画像処理機能の付与によって,まったく新しい生理機能画像処理装置に変身した,画像処理の技術開発のほとんどは,わが国によってなされており,最近海外の学会でも第3世代のサーモグラフィ装置として注目を集め始めている.末梢血流の評価,疼痛部位の発見とその起因部位の同定,交感神経系の機能評価などが,従来の体表温計測の領域を越えて出現し,まったく新しい医用画像のモダリティを医学に与えるに至った.ここではそのような新しい画像処理のあらましをカラー画像として眺めることとしよう.

生体リズム

採血時間と血液成分

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.806 - P.809

1.基本的な日内変動のパターン
 生物固有の現象である生体リズムのうち,おおよそ24時間を1周期とする変動を日内リズム(circadian rhythm),あるいは日内変動と言うが,この現象が体液,特に血液の成分にも反映してくる.しかし血液成分はこれ以外に食事,活動(体位),ストレス,薬剤といった変動因子によっても影響されるので,この日内変動は複雑な修飾を受けやすく,また一方では年齢,性という生理的変動因子による個体間差から,血液成分の日内変動は必ずしも普遍的な現象として理解されるべきものではない.しかしこのような制約はあっても,多くの血液成分にはある種の基本的な日内変動がみられる(表1).
 これらの中でもっとも著明な日内変動を示すものとして知られているのが血中コルチゾールであり,これは図1のように午前8時前後に最大,そして午後8時前後に最低という強固な日内変動を有している1)

血清鉄の日内変動

著者: 刈米重夫

ページ範囲:P.810 - P.815

1.はじめに
 生体には日周リズムのあることはよく知られており,その多くは外因性の光,労作,摂食,温度,音,気圧などの外界の変化あるいは社会習慣などの影響を受ける外因性リズムで,生体内の代謝,内分泌機能,酵素活性,免疫能などに広く表現される.しかしこのような外界の影響をまったく遮断した状態でも,独自の日周リズムを持っており,内因性の何らかのペースメーカーが存在して,外界の現象に影響を受けてない独立した体内時計を持っていると言われる.このような体内時計には中枢神経系の機能が重要な役割を持っている.私に与えられた生体リズムは造血に深い関係のある血清鉄のリズムについてである.血清鉄の日周リズムが,どのような機構によって発生するものかは,にわかに解明はできないが,まずその事実関係を提示して,それについて若干の考察を試みることにする.

消化器の生体リズム

著者: 伊藤漸

ページ範囲:P.816 - P.819

1.はじめに
 生体活動には一定の周期を持つ現象が知られており,古くから研究の対象となってきた.また,生体時計という概念も生まれてきた.この項では消化管やその付属器官に認められる周期的活動について解説し,その調節機構についても触れることにする.

直腸肛門運動

著者: 小野慶一 ,   橋爪正

ページ範囲:P.820 - P.824

1.はじめに
 直腸肛門の運動機能のうちもっとも重要なものは言うまでもなく排便機能である.食物の排泄過程で働く機構は多くの点で嚥下運動と類似している.ともに随意筋と不随意筋の協同作用が必須であり,大脳皮質をはじめとする上位中枢および自律神経の支配を受けているため,複雑な反射運動を行うと同時に感情的刺激により変化を受けやすい。
 消化器外科においては直腸の器質的疾患(直腸癌,大腸ポリポージスなど),肛門部病変を外科的に切除することがあるが直腸の切除と同時に必然的に排便機能をつかさどる各種の括約筋および骨盤内神経に損傷を生じることとなる.したがって直腸肛門部の外科において術後しばしば苦慮する点の一つは排便機能の保持でありなお解決すべき問題点が多い.

成長ホルモンの分泌リズム

著者: 高橋康郎

ページ範囲:P.825 - P.830

1.はじめに
 脳下垂体前葉から分泌される成長ホルモン(growth hormone;GH)は,標的内分泌腺を持たず,全身の代謝調節に関与するホルモンである.その分泌は視床下部のGH分泌促進ホルモン(GRF)と分泌抑制ホルモン(GIF,somatostatin)によって調節されている.神経性の調節要因は視床下部で液性要因(ホルモン)に変換されてGH分泌を調節している.
 睡眠覚醒は中枢神経系の基本的な休息と活動の状態を示すものであって,これが内分泌系活動に影響を与えているのは不思議なことではない.これが最初に証明されたのが,著者らによるヒト睡眠時のGH分泌亢進の発見であった(1968年)1).これを契機として種々のホルモン分泌と睡眠との関係が次々と明らかにされ,ヒトではほとんど検討されつくした感があるが,このなかで睡眠との結びつきがもっとも強力なホルモンが,このGHである.

男性におけるLH-テストステロン系およびACTH-コルチゾール系の概日リズム

著者: 山中英寿 ,   今井強一 ,   真下透

ページ範囲:P.831 - P.834

1.はじめに
 すべての生物は,活動と静止を繰り返しながら生命現象を営んでいる.生命活動の重要な現れの一つであるホルモンの分泌もまた,活動と静止を短い時間の間隔をもって繰り返している.すなわち,pulsatile secretionと呼ばれる間隔的な短時間の分泌を繰り返している.このpulsatile secretionは24時間を通じて一様ではなく,群発する時間帯と稀発する時間帯とがあり,血中半減期との関係より,ホルモン血中濃度はスパイク状の変動を示しつつ日内変動を示すようになる。この概日リズム(circadian rhythm)の大きな特長は睡眠・覚醒リズムと深い関連を持ち,一定の位相関係を持っていることである.近年,ラジオイムノアッセイ法による感度と特異性の高いホルモン測定法が可能となり,24時間を通じての血中ホルモン動態の検討が詳細に行われるようになった.本稿においては,ステロイドホルモンのうち,テストステロンとコルチゾールについてヒト男性にみられる概日リズムについて述べる.これらホルモンの分泌は上位中枢である視床下部―下垂体よりの刺激ホルモン(LHおよびACTH)により調節されている.さらに刺激ホルモンの分泌は,これら当該ホルモンにより,フィードバック機序により調節されている.

生体リズムとしての睡眠

著者: 大川匡子

ページ範囲:P.835 - P.840

1.はじめに
 たいていの人は1年を通じてほぼ同じ時刻に眠りにつき,ほぼ同じ時刻に目覚める.このような睡眠・覚醒の現象は1日を周期とする生体リズムの一つである.1晩,徹夜で仕事をしたり,遊んだりした時には,明け方には強い眠気におそわれる.しかし,この時間帯を通り越すと眠気は去り,日中には再び活動することができるようになる.しかし,夜になると再び強い眠気を感じ,このとき多くの人は覚醒状態を保ち続けることは非常に困難である.このことは,睡眠が,覚醒時間の長さだけでなく,1日を周期とするリズム,すなわちサーカディアン・リズム(日周リズム)により調節されていることを示している.
 睡眠・覚醒のみならず,体温,血圧などの自律神経系,下垂体ホルモンなどの内分泌系,免疫系などのさまざまな生体機能にサーカディアン・リズムがみられるのである.このような生体リズムは脳にある"生体時計"と呼ばれる時計機構により調節・維持されていることが,近年になって明らかにされた.この生体時計の働きによって,1日のうちで睡眠の起こる時間帯,睡眠の持続時間などが規定されるのである.

血糖

著者: 土井邦紘 ,   森田須美春 ,   馬場茂明

ページ範囲:P.841 - P.844

1.はじめに
 生体にとって血液中の糖(グルコース)は,エネルギー源として重要な働きを有していることは一般に知られているところである.しかし,血中のグルコースはそればかりではなく,組織・細胞とそれをとりまく外液との浸透圧バランスを握るきわめて微妙な働きをしている一つの因子であることもまた事実である.
 血糖値が高くなると,生体の細胞はグルコースの利用ができにくくなり,血管系のみならず全身の組織の代謝異常を生じせしめることになる.これが持続的高血糖状態となったのが糖尿病である.さらに血糖値が高くなると,グルコースに依存している脳,神経系細胞は機能を果たすことができなくなり,やがて意識障害を生じてくる.すなわち高血糖性糖尿病性昏睡である.反対に血糖値が低くなりすぎると,やはり,グルコースに依存する細胞は,障害を受け意識障害が現れてくる.両者とも生体にとって非常に危険な状態であり,ことに低血糖はすばやい治療を行わなけば,助命することが不可能であるか,たとえ意識が戻っても,もはや人間としての精神活動ができない,いわゆる植物人間となることが多い.このような微妙な血糖値はどのようにして生体では一定の値に保たれているのであろうか.

総説

生体リズムに関する考察

著者: 中山昭雄

ページ範囲:P.845 - P.849

 生体リズムとは具体的に何を指すのかと改めて自問すると,はなはだあいまいな答しか思いつかない.リズムとはある事が周期的に反復することであり,四季のリズムということばがあるから,生体が四季の移り変わりとともに,その生理的活動を変えるのも生体リズムであろう.リズムに乗ってとか,リズミカルということばは調子の良い状態を意味し,リズムが狂ってというのは不調時に用いるところをみると,リズムというのは生体機能をうんぬんするばあい無視できないもののようである.
 春夏秋冬,それぞれに応じて心理的生理的変化が緩やかに起伏するような,自然に則した生活が望ましいと筆者はかねがね考えているが,今日では多かれ少なかれ,ほとんどの人が冷暖房など人工気象環境に依存して生活している.このような四季のリズムの減弱が長期的にわれわれの生理機能にどのような影響を及ぼすかは,まだよくわかっていない.

主題を語る

生体酵素の日内リズム

著者: 奥田拓道 ,   斉藤昌之

ページ範囲:P.850 - P.856

 酵素研究の発展は華やかなものがあり,酵素万能とも言うべき現代において,酵素が触媒であるということをわれわれは忘れていたのではないだろうか.生命が反応するのは,必ずしも酵素ではなく,酵素反応によって生命現象は発現している.酵素反応のリズムという立場から新しい展開は期待できないだろうか.

座談会

体内時計の謎

著者: 森本靖彦 ,   高橋清久 ,   大村裕 ,   中川八郎

ページ範囲:P.858 - P.868

 脳内に明暗サイクルを環境同調因子とする概日(約24時間周期)時計が存在し,そこから発信される時刻情報によって摂食,睡眠—目覚めなどの行動や,神経活動,ホルモン分泌に概日リズムが生じ,その結果,代謝に24時間周期の変動が誘発される.したがって,臨床検査値を正確に評価するには,これらの周期変動,リズムを見極めなければならない.本座談会では概日時計の問題点を指摘した.

学会印象記 第25回日本エム・イー(ME)学会

医学と工学が直結した研究を目ざして

著者: 山下安雄

ページ範囲:P.857 - P.857

 第25回日本エム・イー(ME)学会大会は1986年4月28日から3日間,東京の平河町にある日本都市センターにおいて開催された.MEとは医工学(medicalengineering)の略称であって,医学・医療と理工学の境界領域における学際的な研究協力と知識・情報の相互交流を目的としており,関連分野では最大規模の学会である.今大会の特別企画は,招待講演,大会長講演,シンポジウムI〜III,ワークショップ4題,特別展示などであった.招待講演は,旭川医大生理学の森茂美教授により「人間の具えたセンシング機構」と題して,姿勢制御を例として感覚情報を受容する中枢神経機構とその機能動態の解説がなされ,精緻を極めた人体の感覚と制御の関係を理解するうえできわめて有益であった.大会長講演は東海大生理学の沖野遙教授が「センサーの開発と私」と題し,長年にわたる循環器系のセンサーの研究開発を顧みて,研究法や生体情報の計測法に関するものであった.その中で計測技術の臨床応用に際しては,生体環境での特異な要求と原理との矛盾の理解と妥協が重要であると話され,ME研究者に強い感銘を与えた.また大会長の要望により,本講演に関連した圧力,偏位,流れなどのME用センサーが展示され,近年のIC技術による超小型多機能化の過程が手にとるように理解できた.

編集者への手紙

新しい万能,無臭性固定液"マスクドホルム液"の検討

著者: 笠原正男 ,   八木彌八

ページ範囲:P.875 - P.876

1.緒言
 固定法に関する研究は,従来より,多くの報告がなされている.最近では,各種の病理組織学的検索方法が発達し,それらに応じた固定法も検討されている.その一つとして,"固定法"に関する研究がある.
 最近,われわれは,通常のホルマリン固定液の悪臭と刺激性を除いた固定法"マスクドホルム液"について,日常の光顕組織標本,蛍光抗体標本,酵素組織化学および免疫組織化学標本を作製し,その目的にこたえうる固定液かどうかを組織レベルにて検討し,従来のホルマリン固定液標本と比較し,2,3の利点ある結果が得られたので報告する.

シリーズ・生体蛋白質の検査法・8

色素を用いる微量定量

著者: 中尾順子 ,   芝紀代子

ページ範囲:P.877 - P.882

はじめに
 微量の蛋白質を定量しようとして,バッファーなどにより測定値が変動して困ったというようなことは,誰でも一度は経験することだと思う.ことにLowry1)法の場合は単純にブランクを差し引くだけでは解決はできない,したがってカラムからの溶出液や,ショ糖密度勾配法で分画した材料などはしばしばその結果を混乱させる.私どももNa・K-ATPaseの精製の途中で必要に迫られて,バッファー,ショ糖などに影響されない色素とメンブレンフィルターを組み合わせた蛋白質の定量法を考案した(1973)2,3).色素はアミドブラックを用いたが,その後,感度の良い色素であるCoomassieブリリアントブルーG250(以下,CBB)を用いて溶液のまま定量できる方法をBradford4)が1976年に報告した.この方法は簡便で多数のサンプルを測定するのに適しているが,最大の欠点はブランクが高いことであるが,原法そのままでも,あるいは目的に応じて改良しても良し,十分に研究用として利用できるとし,すでに試薬として調製したものが,Bio-Rad社から発売されているので試薬の調製のための手間を省くことができるため便利である.ここではBradford法およびその変法について述べる.Bradfordが本法を発表してすでに10年を経過しており,細かい検討の結果を報告した論文も見かけられるようになってきた5)

シリーズ・超音波診断・8

肝臓・脾臓

著者: 秋本伸

ページ範囲:P.884 - P.887

 肝・脾の超音波検査における注意点も,他の腹部超音波検査のそれと大きく異なるものではない.すなわち臓器の大きさや形態の異常,臓器内部の変化,周辺臓器の間接的病変などを診断するためには,臓器全域を,可及的に多断面から観察することが必要である.この意味ではリアルタイム装置が有用であり,肝や脾のスクリーニング検査にはセクタ走査やコンベックス型探触子の使用がきわめて有効であり必須と言っても過言でない.最近の装置には簡便に2種以上の探触子をスイッチ切り換えで使用できるものがあり,観察の部位によって,また病変のより良い記録には,これらを適宜使い分けることが望ましい.さらに肝脾の全体像についての立体的な把握,関連する臓器内外の血管などの立体的把握,および画面上でのこれらの理解(すなわちいわゆる超音波解剖)が基本的な知識として重要である.

シリーズ・微量元素の検出法・2

毒性金属の分析

著者: 和田攻 ,   真鍋重夫 ,   柳沢祐之 ,   郭新彪

ページ範囲:P.889 - P.893

はじめに
 原子吸光法が金属の定量分析に導入されて以来,その高感度,簡便性および高選択性のために広く普及し,現在一般の臨床検査室での金属の測定には,フレームおよびフレームレス原子吸光法(Zeeman型原子吸光法も含めて)が広く用いられている.当初はシングルビーム分光器とフレームを用いる分析が主で測定値間のバラツキや感度の点でかなり問題があったが,やがてD2ランプによる光学的バックグラウンド補正,Zeeman効果補正法が開発され,さらに黒鉛炉法によるフレームレス(ノンフレーム)法も改良されて,現在では精度,正確度,特異性および感度に優れた方法となり,入手も簡単になり使用も容易となり急速な普及を示し,毒性金属の測定法の主流となっており,この傾向は当分続くものと思われる.
 かつて用いられたジチゾン比色法は現在ではあまり用いられず,一方では,誘導結合プラズマ発光分析法(ICP発光分析法)や,放射化分析法も一部特定の機関で用いられつつあり,今後毒性金属の分析法は大きく発展するものと思われる.

研究

各種疾患における血中PIVKA-II測定の意義

著者: 山下勉 ,   竹元久美子 ,   古川好美 ,   永野貞明 ,   三村幸一 ,   松岡瑛

ページ範囲:P.895 - P.899

はじめに
 ビタミンK依存性凝固因子と呼ばれる血液凝固因子第II(プロトロンビン),VII,XI,X因子は,肝臓で生成される際,その最終段階でアミノ末端近傍にあるグルタミン酸残基(Glu)がカルボキシル化反応を受けγ-カルボキシグルタミン酸残基(Gla)となって血中へ放出される.この反応にはビタミンKが必須要素であるが,ビタミンKが存在しない場合,またワーファリンなどのビタミンK拮抗剤が存在する場合は,カルシウム結合能を持たない異常蛋白PIVKA(protein induced vitamin K absence or antagonist)が血中へ放出されることが知られている1).ビタミンK依存性凝固因子の異常に基づく出血傾向は,古くより報告されている2).また,近年,広域抗菌スペクトラムを有するセフェム系抗生物質投与によるビタミンK依存性凝固因子の低下を原因とする出血傾向が指摘される3〜4)など,各種疾患におけるビタミンKの産生,利用障害などが問題となってきた.著者らは,ビタミンK依存性凝固因子の異常をPIVKA-IIを指標として各種疾患について検討し,血中PIVKA-IIの測定意義について考察した.

リンタングステン酸処理によるHolzer染色の検討

著者: 近藤ひろみ ,   山下つやこ ,   羽賀千恵 ,   松下正明

ページ範囲:P.900 - P.903

はじめに
 神経グリア線維の染色として一般的に用いられているHolzer染色1)は,1921年にHolzerによって考案された.現在行われている原法のほかに1973年佐伯らにより改良された佐伯変法3)がある.
 この方法は過マンガン酸カリウムとシュウ酸による酸化還元処理を行い染色性を高め,色素をアルコール・クロロホルム溶液から80%アルコール溶液に変えることにより切片の乾燥を防ぎ色素顆粒の沈着などを防ぎ,操作を容易にしたものである.

私のくふう

ウラン-鉛染色法におけるパラフィルムの応用

著者: 福田利夫 ,   引野利明

ページ範囲:P.903 - P.903

 電顕診断の必要性が増している現在では,超薄切片の作製も必然的に多くなってきている.この超薄切片の作製過程で最後に行うのが電子染色であり,今日では自動染色器などが一部のメーカーから発売されている.しかし,高価なこともあり,完全な普及には至っていない.そのため,多くの施設が小型シャーレ,ラップフィルムおよびパラフィルムを使用し電子染色を行っているのが現状である.
 染色器の中では,パラフィルムを利用した染色法が簡便で良いとされ,現在多くの施設で用いられているようである.われわれはこのパラフィルムにくふうを行い,従来法以上に簡易に,また,多数の染色ができるよう考案したので紹介する.

資料

全血検体でも検出可能なCRPテスト「三和」Latexの検討

著者: 妹尾よしみ ,   佐々木勝一 ,   山岸安子 ,   岩田弘 ,   河合忠

ページ範囲:P.904 - P.907

 C-reactive protein(CRP)は,炎症性疾患や体内組織に壊死があるような病態で著しく増量する血漿蛋白の一つであり,代表的な急性相反応物質として知られている.
 1930年にTillet and Francis1)によって肺炎球菌感染症患者の血清中に見いだされ,Ca++の存在下で肺炎球菌菌体のC—多糖体と沈降反応を起こすことがわかり,Volanakisら2)によりC—多糖体分子中のリン酸コリン残基が主たる結合部位であると報告されている.

医学の中の偉人たち・8

Louis Pasteur 免疫学の父

著者: 飯野晃啓

ページ範囲:P.908 - P.908

 Pasteurはもともと生物学者でもなく医者でもなかった.医者でなくして,彼ほど医学の分野に貢献した人物はRöntgenらほんの少人数であると思う.パリの高等師範学校を出たPasteurは,化学者として第一歩を踏み出した.Pasteurをして人類の大恩人と言わしめるのは,晩年に開発した狂犬病予防ワクチンによるものであるが,20歳代の化学研究における業績も,酒石酸の結晶の性質を明かにした,超一流のものであった.
 1845年リイルの理科大学の化学教授兼理学部長となったころから,Pasteurの研究方向は生物学および医学の分野に傾いていった.リイル大学はフランスの主要産業であるブドウ産地の中にあり,当時ブドウ酒製造業者は商品価値のない酸っぱいブドウ酒のために経営の危機に瀕(ひん)していた.Pasteurは正常に発酵しているブドウ酒は酵母菌が盛んに繁殖しているが,腐敗したブドウ酒には別の微生物が繁殖しているのを見つけ,50℃でゆっくり加熱する方法を考案し,ブドウ酒造りを根本から改良した.Pasteurはこの研究を通して発酵と腐敗とはすべて微生物のしわざであることを確信した.

質疑応答

臨床化学 イオン電極法による電解質測定に影響を及ぼす因子

著者: 井上裕二 ,   高橋浩 ,   A子

ページ範囲:P.909 - P.911

 〔問〕 Beckman System E3Aで血中Na,K,Clを測定しています.外科から,心臓の手術後の患者で心筋保護のためKを高値に保っているのに,検査データでは突然K値が上下し,臨床と並行していないと指摘されました.pHとも無関係な変動でした.術後の電解質は2時間おきに測定しています.このK値の変動の原因についてお教えください.

血液 赤血球沈降速度(赤沈)測定は必要か

著者: 磯貝行秀 ,   T子

ページ範囲:P.911 - P.913

 〔問〕 赤沈は古くから使われており,結核などの診療に不可欠と考えられてきたしたが,近年種々の検査法の開発に伴い,赤沈の意義も従来と異なってくるものと考えられます.現在,感染症や妊娠におけるDICの検査にたいへん有用とされていますが,それ以外にはどうなのでしょうか.

輸血 血液型転移酵素の由来

著者: 山本茂 ,   松岡幸則

ページ範囲:P.913 - P.914

 〔問〕 血液型転移酵素(A型,B型,H型)は,どの臓器で産生されているのでしょうか.また,多臓器で産生されるならば,その由来臓器別の比率はどれぐらいなのでしょうか.

臨床生理 食道超音波内視鏡の特徴

著者: 田内潤 ,   Y子

ページ範囲:P.914 - P.915

 〔問〕 食道超音波内視鏡の臨床評価について,特に光学的内視鏡との比較においてどのような利点があるか,また優れた点があるのかをご教示ください.

臨床生理 三叉神経誘発電位

著者: 白井康之 ,   D生

ページ範囲:P.915 - P.917

 〔問〕 三叉神経刺激による頭皮上での誘発電位の刺激について,その手技と問題点,および典型的なパターンについてご教示ください.

一般検査 尿の潜血反応/Rivalta反応とヘパリンの有無

著者: 林康之 ,   前原通代 ,   大谷英樹 ,   染谷洋子 ,   M子

ページ範囲:P.918 - P.919

 〔問〕 尿の潜血反応における,ミオグロビンとヘモグロビンとの鑑別についてご教示ください.尿の色が淡黄のときはミオグロビンは否定されるのでしょうか,淡黄色の尿で,沈渣の赤血球〔一〕,潜血反応〔3+〕,細菌〔一〕の成績が持続するとき,臨床的原因として何が考えられるのでしょうか.

 〔問〕 胸水のRivalta反応で,ヘパリンの入っているものでは陽性,入っていないものでは陰性となりました.フィブリノゲンが含まれているためか固まってしまい,遠心して上清のみでしか検査できませんでした.この場合,Rivalta反応は陰性としてよいのでしょうか.また,Rivalta反応以外の他の検査も,上清で検査するべきでしょうか.

診断学 脂質と対応する病名の見直し

著者: 山村卓 ,   山本章 ,   藤本導太郎

ページ範囲:P.919 - P.921

 〔問〕 近年の分析法の進歩は著しく,分析項目も増加しましたが,その中で例えば脂質について,①コレステロール,②HDLコレステロール,③アポリポ蛋白,とあるとき,各項目と病名との対応がよくわからなくなってきています.病名について再分類が必要ではないでしょうか.また例えば,高脂血症は上の①〜③でどのように分類されるでしょうか,お教えください.

診断学 リポ蛋白亜分画時の各脂質の臨床的意義

著者: 板倉弘重 ,   梅原徹

ページ範囲:P.921 - P.922

 〔問〕 超遠心法でリポ蛋白をVLDL,IDL,LDL,HDL2,HDL3に分画し,各分画中のコレステロール,TG,PLを測定していますが,HDLをさらにHDL2とHDL3とに分画したときの各脂質の臨床的意義についてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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