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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査32巻10号

1988年10月発行

雑誌目次

今月の主題 周産期の臨床検査 カラーグラフ

胎児の超音波検査

著者: 伊東紘一

ページ範囲:P.1056 - P.1057

 胎児モニターとしては分娩監視システムが利用され,主に心拍数,子宮収縮を記録している.胎児の診断や治療のために利用されるもっとも重要な検査法は超音波検査である.連続波を用いた胎児心拍検出装置やB—モードリアルタイム断層法,およびM—モード法が主たる方法であるが,最近では2D-Dopplerカラーフローイメージングが用いられるようになってきた.B—モードは胎児全身の形態異常を診断することに用いられ,M—モードは胎児不整脈の診断と治療効果判定に役だてられている.2D-Dopplerは胎児心奇形の血流動態を観察することができることから診断に役だてることが可能である.

羊水診断

著者: 林研

ページ範囲:P.1058 - P.1058

 羊水は子宮腔内で胎児を直接とり囲むように存在し,胎盤が完成する妊娠12週以降は羊膜から分泌した母体の血漿成分のほか,胎児の皮膚,腎,消化管,肺などの分泌物や細胞成分を含む.羊水中に存在するこれらの物質を分析し胎児の状態を把握する方法が羊水診断である.そのひとつに羊水細胞の染色体分析があるが,超音波装置の発達普及による安全な羊水穿刺法と細胞遺伝学の進歩による比較的容易で正確な診断法の確立により,胎児の先天異常疾患の一診断法として世界的に広く臨床に用いられている.しかし,羊水穿刺の時期的制約のため,妊娠5カ月以前には診断困難であったが,最近,妊娠初期(妊娠7〜11週)の絨毛採取法(CVS)および絨毛組織を用いた胎児診断法が開発され早期診断が可能となった.胎児への安全性が確認されれば将来羊水検査法にとってかわろうとしている.

巻頭言

周産期の臨床検査

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1059 - P.1059

 Perinatal stageという英語を使うとき,わが国では二つの言い方が用いられているようである.産科的な立場からは周産期,小児科的な立場からは周生期というわけである.国際死因統計では,在胎満28週以後の胎児死亡と生後7日未満の早期新生児死亡を合わせて,周産(生)期死亡と呼んでいる.したがって,一応,周産期といえばその間と考えてよいであろう.しかし,胎児期に発病の原因がある場合もあろうが,遺伝子や染色体レベルでの病因があって胎児病へと進展することも少なくないであろう.また,新生児期とは一般に生後28日未満とされているが,生後1週間は身体臓器の機能に著しい変化が起こる時期で,生命に対する危険が特に高いことも事実である.このように,周産期というのは母親にとっても,児にとってもさまざまな危険にさらされているわけで,いろいろな重篤な疾病を起こしやすい.それにもかかわらず,胎児は母体内にあるために異常の存在に気づき難いし,新生児はまた自分自身の外界への反応性が十分に発達していないこともあって,とかく明らかな臨床症状を表し難い特徴がある.それ故に,できるだけ早期に異常を察知し,適切な処置をほどこすためには,どうしても各種の検査に頼らねばならないことになる.
 胎児期または妊娠期の検査としては超音波検査や心電図,X線検査などのような生理学的・放射線医学的検査が有用であることはいうまでもない.また,母体の血液や尿の検査によって,胎児の置かれている生活環境の変化を知ることもたいせつである.さらに,最近では羊水穿刺の行われることがあって,羊水をいろいろな測定方法によって検査し,胎児の代謝の状況を知ることができるようになった.特に,遺伝子やDNAレベルでの診断技術の進歩によって,医学倫理のうえからも難しい判断にせまられている.

新生児の病気と検査

周産期感染症

著者: 後藤玄夫

ページ範囲:P.1060 - P.1064

 初めに,出生後の新生児の外界適応の過程とその感染防御機構について述べた.次に胎児・新生児の易感染性に関する免疫学的欠陥,周産期感染の感染時期および感染経路,起炎菌の特異性,非特異的な臨床症状と臨床診断の困難性について触れ,sepsis work-upによる確定診断の前提として新生児感染症のスクリーニング検査が必要になってくることについて述べた.

出血性疾患

著者: 白幡聡

ページ範囲:P.1065 - P.1072

 血液は向血栓作用(止血作用)と抗血栓作用を状況に応じて巧みに使い分けることを要求される.そのため生体には多くの凝固因子,凝固阻止因子,線溶因子,線溶阻止因子,血小板活性化因子,血小板活性化阻止因子が存在しているが,新生児は止血系と抗血栓系に関与するさまざまな因子の不足あるいは機能の未熟性のため,出血傾向と血栓傾向のいずれをもきたしやすい.本稿では新生児期を念頭におき,検査法の選択と出血性疾患における検査の進めかたを述べた.

溶血性疾患

著者: 久永幸生

ページ範囲:P.1073 - P.1078

 血液型不適合新生児溶血性疾患の出生前診断,胎内治療および予防法の確立は周産期医学の進歩に先駆的役割を果たしてきた.本症の検査は新生児についての検査よりも母血清中の抗体検査や,羊水による罹患胎児の重症度の予測に重点がおかれるべきものである.本症の98%はRhとABO式血液型不適合により発症するものであるから,この両者に重点を置き概説した.

免疫不全症

著者: 早川浩

ページ範囲:P.1079 - P.1082

 原発性免疫不全症候群のうち,新生児において診断される可能性のある疾患とその臨床検査を含めた診断の要点について述べた.
 免疫不全症は新生児においては一般にまれであるが,DiGeorge症候群はほとんどが新生児に発症するので注意が必要である.

胆道閉鎖症

著者: 松井陽 ,   太田抜徳

ページ範囲:P.1083 - P.1088

 胆道閉鎖症は予後不良の乳児肝疾患であるが,その主な理由は黄疸,淡黄色から灰白色の便,黄色尿などの臨床症状が1か月健診の時に見逃されていることによる.本症を早期発見するための一つの方法として,1987年度から栃木県で新生児マススクリーニングが行われている.この方法の完成により,肝臓移植によらなければ救命できない患児が1名でも少なくなれば幸いである.

新生児のカルシウムとマグネシウム

著者: 竹島俊一 ,   清水章 ,   川本豊 ,   藤村正哲

ページ範囲:P.1089 - P.1095

 血清Ca濃度は臍帯血10.4〜11.0mg/dlと母体血より高い濃度を示すが,生後は母体からの供給が中止し,腸管での吸収がまだ不安定であり,腎での活性型ビタミンDの産生も低く,そのためCa濃度が低下し24〜48時間で最低となる.特に未熟児ではこの期間に病的に低下しやすい.また生後1〜2か月の間に低Caによって骨成長が障害される危険性が高い.
 Mgについて,まれな吸収不全の自験例を示すとともに,低Mgの原因,症状についてつけ加えた.

呼吸窮迫症候群

著者: 小川雄之亮

ページ範囲:P.1097 - P.1102

 呼吸窮迫症候群は早産未熟児にしばしばみられる予後不良の疾患で,胎便吸引症候群,新生児一過性多呼吸とともに新生児の三大呼吸器疾患の一つである.肺表面活性物質欠如がその病因であり,広範な無気肺とこれに伴う低酸素症の悪循環が病態の中心である.最近では肺表面活性物質を指標として,羊水を用いた出生前診断,気道吸引液や胃吸引液を用いた出生直後の診断が可能となってきており,また人工肺表面活性物質の経気道補充療法が臨床の実際に導入されている.グルココルチコイドによる胎児肺成熟化促進を図っての発症予防も行われており,現在もっとも脚光を浴びている疾患である.

先天性代謝異常症

著者: 北川照男 ,   大和田操 ,   谷本正志 ,   小野正恵 ,   鈴木健

ページ範囲:P.1103 - P.1110

 1977年より,フェニルケトン尿症,メープルシロップ尿症,ホモシスチン尿症,ヒスチジン血症,ガラクトース血症の新生児マス・スクリーニング検査が公費で行われるようになり,障害児の発症予防に大きな効果を収めてきたが,1980年より先天性甲状腺機能低下症のマス・スリーングが加えられ,さらに1989年1月から先天性副腎皮質過形成症のスクリーニングが公費で全国的に実施される予定である.
 このように治療可能な代謝異常の早期治療は効果的に行われているが,このほか治療法がなく予後不良な経過をとる代謝異常も少なくない.これらの疾患の出生前診断の方法と現況を述べて,その問題点について指摘した.

奇形

著者: 長谷川知子

ページ範囲:P.1111 - P.1114

 出生した新生児が奇形を伴っていた場合,いかに検査を進めていくかという問題に対する答は,原則として他の疾患と同様に行うこと,すなわち検査の目的を明確にし,系統だった方針の下に実行し,さらに,患児の状態に応じて臨機応変に適応を変えていくことである.検査の主な目的は,現症の把握,奇形の診断(合併奇形の有無とその診断も),治療の適応判定,原因究明などである.奇形の診断で特殊なものとしては,次子の再発の有無を調べる胎児診断がある.外表奇形をみた場合,内臓奇形や骨奇形などを伴っている可能性をつねに念頭において検査を進めていかなければならない.そのためには,チーム医療が必要である.また,診断法が正確・精密になる程早期に診断可能となるので,家族への心理的・社会的援助も一段と重要になる.

胎盤機能不全

著者: 桑原慶紀

ページ範囲:P.1115 - P.1120

 胎盤機能の不全は,直ちに胎児の状態に反映され,子宮内胎児発育遅延(IUGR)や胎児仮死の原因となる.したがって,胎盤機能の判定は,産科臨床上きわめて重要であり,現在は,母体尿中・血中エストリオールや血中hPLなどの内分泌生化学的検査と,胎児心拍数陣痛図や超音波画像によるME検査が広く用いられている.それぞれの有用性と限界を知り,適切な総合判断に基づいて胎児管理を行う必要がある.

鼎談

周産期医学の現状と問題点

著者: 栁沼忞 ,   白幡聡 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.1122 - P.1130

 少出産時代に入り,両親が抱く赤ちゃんの健康への関心はますます高まっている.他方DNA検査法,画像診断法,胎児胎盤機能検査法の発達によって,胎児診断技術は著しく進歩し,一部の疾患群については胎児期における対応あるいは治療手段も可能となった.しかしまだ発展が期待される周産期医学領域も少なくない.この座談会では周産期医学の現状と問題点について,産科の立場から栁沼先生,小児科の立場から白幡先生に語っていただいた.

私のくふう

一定量の尿沈渣作成法

著者: 黒河和彦

ページ範囲:P.1082 - P.1082

 尿沈渣作成時,新鮮尿をよく振り約10mlを遠心器で1500回転5分間遠心してその沈渣を使用している.遠心時には尿量,回転数,回転時間など常に一定に保たなければならない.遠心後の沈渣量も一定でなければならない.
 一定量の沈渣を作るため,図1のような,上気道の粘液・痰を吸引排出させる医療器具を使用した.

高速液体クロマトグラフィー・4

蛋白質およびペプチドの分析

著者: 加藤弘眞 ,   吉岡正則

ページ範囲:P.1132 - P.1141

 高性能液体クロマトグラフィーは,今や,多くの分野でなくてはならない分離分析手法となった.装置面では,脈流がなくかつ高精度な流量制御が可能な送液ポンプなどの開発が行われ,またカラム充填剤の面では,製法の改良により均一な粒径のものが作られたり,新しい基材による新規充填剤が盛んに開発されている.両者の進歩がいろいろな分野における研究の遂行に寄与している.本稿では,蛋白質などの生体高分子用のカラム充填剤を中心にしてその現状を紹介する.

研究

ヒト末梢血単球分離法における付着剥離法と高張食塩水法の比較検討

著者: 吉永泰彦 ,   西谷皓次 ,   山村昌弘 ,   波多野誠 ,   川端芙紀子 ,   渡辺忠寿 ,   鈴木信也 ,   太田善介

ページ範囲:P.1151 - P.1154

 高張食塩水を用いたヒト末梢血単球分離法と,従来使用されていた付着剥離法の両方で分離された細胞の回収率,生存率,エステラーゼ染色,Fc—,C3—受容体,アクセサリー機能,IL—1産生能について比較検討した.高張食塩水法は操作に要する時間面,回収率に優れ,IL−1産生能において後者より比較的低値を示したが,他の機能においては付着剥離法と差異を認めなかった.

ショ糖液を用いたクリプトスポリジウムの集オーシスト法に関する2,3の検討

著者: 宇賀昭二 ,   松村武男 ,   依田行能 ,   矢冨謙治 ,   片岡陳正

ページ範囲:P.1155 - P.1159

 先天性および後天性免疫不全症候群の患者に長期にわたる激しい下痢を起こすことで知られるクリプトスポリジウム(コクシジウム類の原虫)について,患者糞便内オーシストを検出するために用いられるショ糖液による集オーシスト法の条件を検討した.その結果,①試験管をシリコン処理する,②550G10分の遠心分離を行う,③試験管ミキサーで30秒以上の攪拌を行う,④分離用のショ糖液の比重を1200とする,および⑤位相差顕微鏡を用いて観察する,ことが重要であることが明らかとなった.

学会印象記 第18回国際医学検査学会総会

友好の花開く国際会議/運営に細かい配慮

著者: 秋山昭一

ページ範囲:P.1160 - P.1161

 The 18th Congress of The International Association of Medlcal Laboratory Technologists(IAMLT)が1988年7月17日から22日まで,神戸市のポートアイランドでメインテーマ"Bioscienceの発展とHumanity"を冠して開かれた.40か国,約600人の方々が参加している.一般演題は,口演172題,ポスター156題計328題で,その分野は多岐にわたっている.そのすべてを記することはできないので割愛し,この印象記では特別講演・基調講演・シンポジウム・セレモニーなどを主体にした.
 この総会のトップを切って17日夕刻から歓迎ビアパーティが市民広場で開かれ,大勢の参加者でにぎわった.ビールを片手にそれぞれが歓談していた.外国の方々と日本の人たちとの交流はいまだしの感があるが,神戸太鼓の響きとともに歓談の輪は広がっていった.

質疑応答

臨床化学 シアンメトヘモグロビンアルカリ変性法"Betke法"について

著者: K子 ,   清瀬闊

ページ範囲:P.1163 - P.1164

 〔問〕4月号の本欄に「ヘモグロビンFの測定法」(32,457〜459)が掲載されていますが,その記載中にありますメトヘモグロビンアルカリ変性法(Betke法)についてご教示ください.

臨床化学 測定値の評価における誤差変動の理論的根拠

著者: S子 ,   桑克彦

ページ範囲:P.1164 - P.1166

 〔問〕測定値の評価に用いられる誤差変動(Sy,x=√Σ(y1—Y12/N−2)とは,いかなる理論から導かれた数式なのでしょうか.また,その活用に当たってはどんな点に注意する必要があるでしょうか.

臨床生理 開眼時の脳波記録における基礎波の判断について

著者: 寺尾浩美 ,   山磨康子

ページ範囲:P.1166 - P.1170

 〔問〕生後2歳まではEEGにおいて開・閉眼の影響はない(大田原)とのことですが,重症心身障害児では睡眠時あるいは光刺激時以外に閉眼させたまま記録することは不可能に近いことです.基礎波の判断について安静閉眼時というラインはありますが,開眼におけるラインは確立されていないのでしょうか.睡眠時のlazy phenomenonおよび突発波の出現の判定にとどまるのか,ご教示ください.

診断学 無鉤条虫が人体に与える影響は

著者: 阿部和弘 ,   中林敏夫

ページ範囲:P.1170 - P.1172

 〔問〕「便中に白いひも状の片節が出る」との患者の訴えで,その片節を調べた結果,無鉤条虫であると同定しました(虫卵では有鉤条虫と鑑別できない).成書には,多くの患者について症状はないと書かれていますが,一般的に,この条虫は無害と考えてよいのでしょうか,ご教示ください.

診断学 ALPの高値で何を疑うか

著者: 池側英彦 ,   豊田幸子

ページ範囲:P.1173 - P.1174

 〔問〕閉塞性黄疸もなく肝疾患もみられないのに,血液生化学検査でALPだけ20以上になった場合(正常値2〜10K-A単位),何を疑ったらよいか,ご教示ください.

診断学 成人T細胞白血病の血液像と皮膚症状

著者: 益田由美 ,   田口博國

ページ範囲:P.1174 - P.1176

 〔問〕成人T細胞白血病の特徴として,①成人期に発症し予後不良,②ATLA抗体陽性,③末梢血液像において,くびれや花弁状を呈する特異な核形態をもつ,④高頻度の皮膚症状を示す,⑤肝・脾腫,リンパ節腫脹が高率にみられる,などがあげられますが,血液像は具体的にどういう形態を示すのか,またどういう皮膚症状があらわれるのか,ご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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