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雑誌目次

論文

臨床検査32巻5号

1988年05月発行

雑誌目次

今月の主題 心電図の最前線 カラーグラフ

体表面心臓電位図

著者: 平柳要 ,   谷島一嘉 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.472 - P.474

 体表面心臓電位測定記録装置は,体表面上の多誘導電極(87〜216個)から心電位を同時にデジタル記録することができる.したがって,心臓を囲むどの方向の心電位も測定できるため,各誘導点の時系列波形のみならず,ある時点ごとの空間的電位パターンも表示でき,体表面上での心興奮伝播の空間動態を把握することが可能である(図1).
 体表面心臓電位のディスプレイは従来より二次元の色面積図形(図2),等電位線図,輝度変調カラー等高面図などの方式で行われてきたが,最近ではコンピュータ・グラフィックス技術の向上によって輝度変調カラー等高面の立体的な表示が行われるようになり,直感的な画像診断としての意味合いが強くなっている.また,体表面心臓電位図自体の表示にとどまらず,この体表面心臓電位に情報処理を施し,臨床指標となりうる特徴量を抽出して心疾患診断に利用する方法,統計的基準によって体表面心臓電位図の情報圧縮を行う方法,および心電場の理論に基づいて心電源の構造を推定する方法,などの研究も行われている.

巻頭言

心電図の歴史と将来の夢

著者: 小沢友紀雄

ページ範囲:P.475 - P.476

 動物の心筋が心拍とともに電気を発生するのが発見されたのは,1843年イタリアのMatteucciによる.また,動物の心活動電位の記録は1876年フランスのMarceyがカエルで,そして1887年,イギリスのWallerが人間の心活動電位を初めて毛細管電流計で記録を行った.絃線電流計は1897年に発明されたが,1903年にオランダのEinthovenにより写真撮影できるように改造され,1910年に心電計が完成され市販されるようになった.心電図波形のP,Q,R,S,Tの名命は1895年のことである.本邦で最初に心電計が使用されたのは1911年のことと言われている.当時の心電計は一定の場所に設置され,大型で,容易に移動できるようなものではなく,記録にも非常に時間がかかったという.臨床的に活用できるようになったのは,1929年Siemens&Halske製可搬型真空管式心電計が市販されるようになってからである.その後12誘導心電図が出現し,広く使用されるようになって久しいが,その間の心電計の改良と発展は目覚ましく,写真の現像式から直記式へ,また軽量小型化され,過去には特殊な検査法であったのが,現在では検診などでスクリーニングに用いられるほど一般化されてしまっている.
 心電図の最前線という今月の主題にあたり,上記したような心電図の歴史をひもといてみると,膨大な時間と経験の積み重ねが土台となって今日の心電図学の発展をみたという実感が,改めて思い起こされる.

総説

電気生理学的検査で何を知るか

著者: 小川聡

ページ範囲:P.477 - P.483

 房室ブロックの部位診断のためのHis束心電図,sick sinus syndrome診断のための洞結節機能検査法などの電気生理学的検査法に加えて,近年,頻拍症の診断・治療を目的としたプログラム電気刺激法(programmed electrical stimulation;PES)による頻拍症の誘発試験が盛んに行われるようになってきた.従来は,WPW症候群を含む発作性上室性頻拍症が主な対象であったが,生命に対する危険性のより高い頻脈性心室性不整脈を有する症例に施行される機会が増えている.これらの頻拍症を誘発・再現することには当然リスクを伴うため,本検査法から得られる情報とのバランスを考慮したうえで検査実施の適応を決めなくてはならない.現時点でPES法を応用しうる病態として考えられているのは,①再発性持続性心室頻拍症の治療法の選択,②突然死蘇生例の再発防止,③失神例の鑑別診断,④心筋梗塞後の予後判定などであるが,それぞれの有用性と問題点について論ずる.

技術解説

心電図自動解析とデータベース

著者: 広木忠行

ページ範囲:P.485 - P.491

 近年,飛躍的な進歩を遂げつつある心電図自動解析とデータベースに関する最新の知見と問題点を要約した.従来から利用されているミニコン・パッケージ型心電図自動解析システム,および近年急速に普及しつつあるマイコン・パッケージ型の心電図自動解析機能内蔵の心電計の評価を中心に解説した.終わりに,心電図自動解析システムの将来の展望としてデータベースの重要性と今後の発展の可能性を論じた.

運動負荷心電図の方向

著者: 川久保清

ページ範囲:P.492 - P.498

 運動負荷心電図の適応は拡大しつつあり,ACC/AHAのガイドラインによれば,①冠動脈硬化症やその疑いのある患者,②明らかな健康人のスクリーニング,③急性心筋梗塞後早期の患者,④特殊な治療後,⑤弁膜症患者,⑥高血圧症,⑦子供,をあげている.しかし,適応の選択にあたっては,運動負荷心電図のpositive predictive valueを十分考えなければならない.適応が拡大し,多段階負荷試験が多用されるにつれ,運動負荷心電図の判定法が,最大負荷時のST下降度だけでなくなり多様化している.それには,ST下降以外の心電図変化の評価,心電図変化以外の運動負荷の諸指標の評価,コンピュータ処理による心電図の解析などがあげられる.特に,コンピュータ内蔵の負荷心電図解析システムが多くの施設で用いられるようになってきたが,多数のパラメーターの評価法が確立していないのが現状である.

ホルター心電図の問題点

著者: 明石勝也 ,   中村俊香 ,   宗武彦 ,   三宅良彦 ,   佐藤忠一 ,   須階二朗

ページ範囲:P.499 - P.505

 ホルター心電図法はその開発以来,約25年を経て広く日常臨床に普及してきたが,技術的,臨床的に未だにいくつかの問題をもっている.技術的問題点としては,信号の入力,記録における電極やテープ,再生・解析における波形の歪み,つまりは磁気記録の制約などがあげられる.また臨床的問題点としては,特に虚血を対象としたST偏位の評価や,これに適した誘導法,診断基準の決定などが考えられる.
 こうした諸問題に対して,筆者らの教室において検討されてきた体位センサーの開発とその応用,新しい誘導法の考案などが解決の一助となるものと思われ,ここに紹介する.また,磁気記録の制約を離れた新しい世代へ向けての,従来と異なった新しいホルターシステムについても紹介する.

体表面電位図の臨床的有用性

著者: 林博史

ページ範囲:P.506 - P.512

 心臓の電気現象を体表面からできる限り正確に把握するために用いられている従来の標準12誘導心電図やベクトル心電図は,長年にわたり,理論的および実験的検討が十分なされており,また多くの経験の積み重ねにより,その臨床的有用性が優れていることは,論をまたない.しかし,一方では,これらの心電図誘導法にも,いくつかの問題点があることが指摘されている.そこで,より優れた心電図法の開発により,感度が優れ,特異性の高い診断とともに,定性診断のみならず,定量診断が可能となることが強く望まれる.こうした要請の中で,近年のコンピュータの普及に伴い,体表面上の非常に多くの誘導点からの心電図情報をもとにして作成される体表面電位図(body surface isopotential map;電位図)が発達しつつある.電位図は,おびただしい電気的情報を持ち,先の要請にある程度応える方法論として優れているが,一方では,心電図法に共通の問題点や,その他の解決されなければならない点もある.

体表面心臓電位図の逆問題解—体表面心臓電位から心臓内起電力を推定するには

著者: 平柳要 ,   小沢友紀雄

ページ範囲:P.513 - P.518

 体表面心臓電位図の逆問題,もしくは心電図逆問題とは,胸壁面全周上で観測された多数誘導(87〜216誘導)心電図から数値計算法によって心臓内の起電力を推定することである.近年,ME機器やコンピュータの性能が向上してきたため,体表面心臓電位の測定・記録や心電図逆問題の計算が小規模の装置で行えるようになった.心電図逆問題に関して,これまでに種々の解法が提案されており,推定精度の検討や臨床応用が試みられている.しかし,心電図逆問題で唯一の解が得られるのは心表面電位までであり,心臓内の起電力は一意に決定できない.そのため,逆問題の推定対象は実際の心起電力の代わりに,双極子や多重極子などの心起電力モデルをあらかじめ与え,そのパラメーター(等価心起電力モデルの位置,方向,大きさなど)を決定するか,心表面電位を求めるかの二通りの方法が用いられる.いずれの推定法においても,逆問題で得られる心電異常部位の位置情報はかなり高いが,微細な心電異常や複雑な心電異常の部位推定では,双極子間の相互干渉や推定心表面電位値の低下などを引き起こし,精度が不十分となることがある.そのため,これからの心電図逆問題は,体表面心臓電位の高精度計測,正確な体型モデルや心臓モデルの構成および興奮伝播などの生理的条件の導入によって,心臓内の興奮波面を推定する方向に進んでおり,今後の理論・実験・臨床における検討により,さらに推定精度が高い心電図逆問題の開発が期待される.

平均加算化心電図法

著者: 小沢友紀雄

ページ範囲:P.519 - P.526

 通常の12誘導心電図では,体表からmVの電位差で心臓の電位の変化を記録できるが,μVの単位の微小な電位はノイズレベルよりも小さな信号のために,高感度増幅するとS/N比が悪く,通常の方法では体表からは記録が困難である.例えば,ヒス東電位は従来は観血的にカテーテル電極を心腔内のヒス束付近に置いてのみ記録がなされていた.このような微小な電位でも,もし出現するタイミングが同じであれば,高感度増幅の後に各心拍ごとの信号を時相を一致させて加算していき,加算回数で平均化すると,ランダムノイズは加算平均の回数nを増加するほど小さくなり,S/N比は√nだけ改善され,取り出したい信号が記録できるようになる.このような方法が平均加算化心電図法である.
 一般に,本法は得ようとする微小電位の大きさや周波数特性に応じて,増幅度と帯域濾波処理を設定して,マイクロコンピュータにより加算平均を行わせるものであるために,目的に応じて信号処理のやり方が少しずつ異なることになる.臨床的に本法が応用されるのは,現在主に,ヒス束電位や心室遅延電位の体表からの記録についてであり,その他,洞結節電位や房室結節電位の記録の試みもなされている.本稿では,これらの心内微小電位の検出と,その臨床的役割について述べたいと思う.

病態解説

緊急医療と心電図

著者: 大木清司 ,   髙野照夫 ,   清野精彦 ,   森規勝

ページ範囲:P.527 - P.533

 急性心筋梗塞や致死的不整脈,各種ショック状態など,病状の急変しやすい重篤な症例に対応する救急医療の場において,心電図が診断の決め手になるのみならず,電解質異常,血液ガス異常,血行動態の障害など,病態生理の分析に関しても必要不可欠なものになっている.本稿では,救急医療の場で問題になる心電図変化につき,症例を提示し,その病態を解説する.

頻脈性不整脈はなぜ起こるか

著者: 須山和弘 ,   大江透

ページ範囲:P.534 - P.538

 不整脈とは,正常の規則正しい洞調律から逸脱した状態であり,大きく頻脈性不整脈と徐脈性不整脈に分類できる.不整脈の発生機序は,①興奮生成の異常,②興奮伝導の異常,③その両者の組合せ,の3つに区別できる.興奮生成の異常としては,自動能の異常(生理的自動能の異常,異常自動能),triggered activityがある.興奮伝導の異常としては,reentry (リエントリー),reflection (リフレクション)などがある.頻脈性不整脈の発生には,それらが複雑に絡み合っている.臨床上の不整脈の多くは,リエントリーに基づいていると考えられ,また,機序の解明も他の機序に比べて最も進んでいる.しかし,その他の機序に基づくと考えられる重要な不整脈が存在することも言うまでもない.不整脈の発生機序に関しては,不明な点も多数存在し,今後の検討が期待される.

徐脈性不整脈はなぜ起こるか

著者: 山口巌

ページ範囲:P.539 - P.546

 徐脈性不整脈の成因には自動能の抑制と刺激伝導の遅延および杜絶があり,臨床的結果としての洞不全症候群(sick sinus syndrome)と房室ブロックの診断と病態の把握は予後の予知と治療の選択に重要であるばかりでなく,頻拍性不整脈との関連性についても注目されている。洞不全症候群には内因性および外因性洞結節機能障害があり,その臨床像は補充収縮の機能に大きく依存し,病態が洞結節のみにとどまらないことを示している.房室ブロックは表面心電図所見によって,1度,2度および3度に分類され,臨床像は主としてブロック部位に依存する.いずれにおいても,病態の確実な把握と治療の決定にはHis束心電図を含む電気生理学的検索が不可欠であるが,表面心電図所見は重要な情報を提供する.QRS幅は補充収縮の発生部位と房室ブロック部位の予測に重要であり,右脚ブロックに伴うQRS電気軸の偏位により分枝ブロックの診断が可能である.

座談会

心電図検査の現状と将来

著者: 広木忠行 ,   小川聡 ,   林博史 ,   川久保清 ,   小沢友紀雄

ページ範囲:P.548 - P.557

 コンピュータ技術の進展に伴って急速に普及しつつある心電図自動診断,多段階負荷で診断精度の向上と適応の拡大が著しい運動負荷心電図,長時間記録により12誘導の見落しをカバーしてきたホルター心電図,心電図検査に革命をもたらすか体表面電位図,急性心筋梗塞の予後判定に注目を集める電気生理学的検査など—心電図の最前線からホットな話題をお届けする.

私のくふう

大型標本のBodian染色用,容量可変型染色バット

著者: 大谷静治 ,   山縣恵 ,   金沢仁幸

ページ範囲:P.547 - P.547

 脳の大型切片のBodian染色は既存のガラス製染色バットでは染色枚数が1回の染色で2枚程度と少なく,さらに,染色液のプロテイン銀液が既存の染色バットでは少なくとも100 ml以上必要なため,高価なプロテイン銀を使い捨てにするBodian染色では標本1枚あたりの銀溶液を必要最少限度にとどめることが要求される.そこでわれわれは大型標本を染色枚数に応じ,必要最少限度の量のプロテイン銀溶液で済むようアクリル製の容量可変型の染色バットを当医大共同研究施設部中央研究機械室の協力を得て作製した.その結果,染色作業の効率化とプロテイン銀溶液の節約に寄与することができたので紹介する.

生物電気化学分析法・5

ISFETと臨床分析

著者: 前田拓巳

ページ範囲:P.560 - P.566

 ISFETは,半導体加工技術を応用して作製される新しいイオンセンサであり,微小化が可能なうえ,電気的雑音が少ないなど,種々の特長を有している.本稿では,このISFETに関する基礎的事項ならびに現在の開発状況について解説を加えるとともに,臨床分析,特に生体成分の連続モニタリングの分野へのISFETの応用について紹介する.

研究

慢性閉塞性換気障害の心電図診断基準の精度

著者: 荒谷清 ,   坂口陽子 ,   井上和子 ,   林実 ,   荒井正夫 ,   小林利次 ,   城戸優光

ページ範囲:P.575 - P.578

 FEV1.0%<70%の閉塞性換気障害群(293例)とFEV1.0%≧70%の対照群(120例)のECG所見より,閉塞性換気障害の心電図診断基準を設定しその精度を検討した.R1+S1≦0.5 mVおよびP軸≧+70°(1点),R1+S1≦0.5mVおよびQRS軸≧+70°(1点),P11≧0.2mV(2点),R/Sv4≦1(1点),Rv5≦1.0mV(1点)の基準を選定し,合計点3点をsuggestive,4点をconsiderable,5点以上をprobableとする診断基準を設定した.この基準はBonnerプログラムに比し感度,精度ともに上回る成績を示し,有用性が高いと考えられた.

質疑応答

臨床化学 ICGの停滞率

著者: 小松隆則 ,   南部勝司

ページ範囲:P.579 - P.581

 〔問〕肝機能検査において,患者の体重に合わせてICGを静注しますが,0分値の血中ICG濃度がすべて1mg/dlにはならず,ICGが多く注射された場合,消失率に比べて停滞率が悪くなります.補正の必要性についてご教示ください.

血液 自己溶血試験の試薬について

著者: K生 ,   新倉春男

ページ範囲:P.581 - P.583

 〔問〕自己溶血試験について,「臨床検査法提要」(第29版)にはベンジジンを使用した方法しか記されていませんが,現在ベンジジンは市販されていないとのこと,変法をご教示ください.

微生物 乳児ボツリヌス症の細菌学的診断法

著者: T生 ,   阪口玄二

ページ範囲:P.583 - P.585

 〔問〕蜂蜜と乳児ボツリヌス症の関係が問題になっていますが,乳児ボツリヌス症の細菌学的診断法について教えて下さい.

微生物 輸入寄生虫病の現状とその検査法

著者: K子 ,   山浦常 ,   松本克彦 ,   和田芳武 ,   小林和代 ,   岡本雅子 ,   白坂龍曠 ,   上田季乃

ページ範囲:P.585 - P.589

 〔問〕最近,輸入寄生虫病が問題となっており,特に赤痢アメーバ症は法定伝染病であり重要だと言われています.その現状と検査法について,ご教示ください.

診断学 TAMの病態と検査所見

著者: K生 ,   野口英郷 ,   鞭煕

ページ範囲:P.589 - P.592

 〔問〕TAM (transient abnormal myelopoiesis)とはどのような病気なのでしょうか.臨床検査ではどのような所見が特徴的なのか,併せてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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