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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査32巻6号

1988年06月発行

雑誌目次

今月の主題 免疫血液学検査法の進歩 カラーグラフ

免疫血液学検査法

著者: 池田康夫 ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.598 - P.600

 血球の細胞膜には,糖蛋白,糖脂質などの抗原が多数存在し,免疫反応の場になっている.それらの抗原の中には,血球の種類を問わず共通,または非常に類似しているものもあるが,多くはその血球に特異のものである.
 したがって,臨床で用いられる免疫学的検索の方法も血球により多少異なってくる.本カラーグラフでは異なった手法での免疫血液学検査のいろいろを示した.

巻頭言

免疫血液学の臨床検査

著者: 池田康夫

ページ範囲:P.601 - P.601

 免疫血液学の代名詞のようなDr.Coombsが抗グロブリン試験を考案したのは,1945年であり,彼が僅か24歳の時である.以後,クームス試験の名のもと,現在に至るまで,免疫血液学の主役の座に君臨している.2年ほど前,彼が来日した折,話をする機会に恵まれたが,いまだ現役として,研究を続けられていることをうかがい,免疫血液学は古いようで新しい学問であるとの認識を新たにした.
 しかし,免疫血液学は,今,大きな転換を遂げようとしている.
 数多くの免疫学的手法が,最近使用できるようになった.Western blotting,flow cytometryなどは研究面のみならず,臨床検査の場でもおおいに活用されている.モノクローナル抗体も今や臨床検査医学の分野で不可欠のものになってきている.

総説

免疫血液学検査の進歩

著者: 小島健一

ページ範囲:P.602 - P.605

 血液成分治療,臓器移植の進展を反映して,免疫血液学検査の対象は赤血球に限定されず,HLAを中心とする白血球抗原,血小板特異抗原にも拡大された.赤血球系ではモノクローナル抗体の開発・普及,検査機器の進歩,Coombs試験の改良が進行している.HLA抗原検査のもっとも実用的な対象はHLA適合血小板輸血である.HLAクラスII抗原はDNAタイピングも可能となった.血小板特異抗原不適合チェックのための交差試験も改良が進んでいる.

血球膜抗原の検査

赤血球膜抗原の検査

著者: 神奈木玲児 ,   繁田勝美 ,   山肩葉子 ,   平島國美 ,   日野明弘 ,   銭田晃一

ページ範囲:P.606 - P.616

 近年,赤血球膜の糖鎖性抗原や蛋白質性の抗原の分子生物学的研究が飛躍的に進歩した.このため,赤血球膜抗原の検査も,従来の伝統的な血清学的方法から,分子レベルで抗原を取り扱う時代へと移行しつつある.本稿では赤血球膜の糖鎖抗原の研究の最近の進歩を簡単に述べ,赤血球膜からの糖鎖抗原の検査室で実行可能な調製法の初歩を紹介した.

白血球膜抗原の検査

著者: 小林邦彦 ,   藤田京子

ページ範囲:P.617 - P.623

 白血球膜抗原の検査法として,主に好中球膜抗原の解析法について記した.実地的な面を重視し,①好中球の分離法,②好中球膜抗原の抽出法,③好中球膜抗原の125I標識の簡便法,④好中球膜抗原の分析法:a)電気泳動法,b)イムノブロット法,c)免疫沈降法とオートラジオグラフィ,d)フローサイトメトリー,の順に検査手技を解説した.最後に⑤として最近話題の白血球膜蛋白欠損を伴う免疫不全症の好中球膜抗原の解析の実例を示した.

血小板膜抗原の検査

著者: 半田誠 ,   池田康夫

ページ範囲:P.624 - P.629

 検査室業務でしばしば遭遇し,臨床的に重要な同種抗体の対応抗原として血小板膜上にはHLA抗原,ならびに血小板膜特異抗原がある.後者は血小板膜糖蛋白質上にのみ存在し,輸血後紫斑病や新生児同種抗体血小板減少症などで発現する抗体の対応抗原となる.また,特発性血小板減少性紫斑病などに出現する自己抗体の対応抗原の一部でもある.それら血小板膜糖蛋白質の中でGPIbならびにGPIIb,GPIIIaが特に重要で,今まで知られている同種抗体や自己抗体のほとんどすべてが,これらの上にその対応抗原を持っている.対応抗原の同定には1.免疫沈降法,2.イムノブロッテング法,がある.前者は血小板膜糖蛋白質をラジオアイソトープで標識したものを抗原として被検血清に存在する抗体と免疫複合体を形成させる.それをプロテインAビーズで沈降させ,SDS-PAGEのあとオートラジオグラフィーで免疫沈降された対応抗原を同定する.後者はまず,血小板膜をSDS-PAGEで分離しニトロセルロース膜にトランスファーさせ,そこへ被検血清を作用させる.膜上の対応抗原と結合した抗体をアルカリホスファターゼなどで標識された二次抗体で酵素抗体法を使って同定する.

血清型の検査

著者: 松本秀雄 ,   鈴木広一

ページ範囲:P.630 - P.635

 血液型といえばABOやRhが直ちに連想されるが,ヒトの血液中にはこれらのほかにも多型を示す形質が数多く存在することが明らかにされている.血清型は血清蛋白のなかで多型をしめすものの総称で,ハプトグロビンやγグロブリンにおける多型の研究に端を発して,多くの血清蛋白について研究されており,人類学,人類遺伝学,法医学を中心として多くの領域で利用されている.本稿では血清型検査法の一般的原理と,いくつかの血清型についてまとめた.

抗体の検出

好中球抗体の検出

著者: 倉辻忠俊

ページ範囲:P.636 - P.640

 抗好中球抗体の検査法には細胞凝集法,細胞結合性抗体法,補体を介した細胞傷害試験,リンパ球を介した細胞傷害試験などがある.簡単な方法として毛細管を用いた細胞凝集法,フローサイトメトリーを利用した間接蛍光法がある.おのおのの方法で検知した抗体と,病態・臨床症状との因果関係は直ちには結びつけられないが,ある種の好中球減少症や自己免疫疾患,顆粒球輸注などで,ある程度の指標にはなる.

血小板抗体の検出

著者: 倉田義之 ,   林悟 ,   押田眞知子 ,   冨山佳昭 ,   椿尾忠博

ページ範囲:P.641 - P.647

 血小板抗体の検出法は,患者血小板表面の免疫グロブリンを測定するPAIgG法と,血清中の血小板抗体(自己および同種)を検出するPBIgG法の二つに分けられる.本稿ではPAIgG法としてcomplement-lysis inhibition assay,radioactive antiglobulin test,蛍光抗体法,competitive solid-phase enzyme immunoassayの4法の測定原理や各方法の長所,短所について概説する.PBIgG法としては血小板固相酵素抗体法を紹介する.また,抗HLA抗体を検出する方法であるリンパ球細胞毒試験,最近注目されているimmunoblotting法と血小板糖蛋白固相プレート法についても簡単に紹介したい.

寒冷凝集素の特徴と検査法

著者: 藤岡成徳 ,   鈴木征子

ページ範囲:P.648 - P.654

 寒冷凝集素は特発性寒冷凝集素症で持続的に高値になるほか,マイコプラズマ肺炎や伝染性単核症などの感染症に続発して上昇するので,比較的しばしば経験される赤血球自己抗体である.検出法はもっとも簡単には,4℃の冷蔵庫に放置するだけで赤血球凝集をみれば足りるわけであるが,実際は鋭敏で安定した凝集素価を得るためにくふうがいる.さらに溶血性貧血を伴う症例では反応温度域やIi抗原特異性など調べなければならない.輸血時の検査や合致する血液の供給の問題もある.Ii以外の抗原特異性や抗体グロブリンの性質,臨床との関連なども重要である.このような観点から検査法を中心に寒冷凝集素について述べた.

抗lgA抗体の検出

著者: 小沢直宏

ページ範囲:P.655 - P.660

 抗IgA抗体は,血清成分による輸血副作用の原因としてはもっとも重要なものの一つである.抗IgA抗体の種類としては,クラス特異性の抗α,サブクラス特異性の抗α1と抗α2,アロタイプ特異性の抗A2m (1)と抗A2m (2)の各抗体がある.これらの抗IgA抗体は同種抗体であり,抗α抗体はIgA完全欠損例のみにしか産生されないが,抗α1,抗α2抗体はおのおののIgAサブクラス欠損例に,抗A2m (1),抗A2m (2)は正常のIgAをもつ例にも産生される.
 以上すべての抗IgA抗体をスクリーニングするには三種類のIgA感作血球—IgA1,IgA2〔A2m (1)〕,IgA 2〔A 2m (2)〕—を用いる必要がある.スクリーニングによる抗IgA抗体陽性検体の抗体の同定には,これら三種類のIgA感作血球の凝集状況,すなわち,①三種類すべてが凝集した場合,②IgA 1感作血球だけ凝集した場合,③IgA 2〔A 2m (1)〕とIgA 2〔A 2m(2)〕の二種類の感作血球が凝集した場合,④IgA1は陰性であるが,IgA 2〔A 2m (1)〕かIgA2〔A2m (2)〕のどちらか一方が凝集した場合,とがあることから,①と②と③については吸収試験とHI法を組み合わせて行い,④についてはHI法を行うことが必要とされる.

異好抗体の検出

著者: 狩野恭一

ページ範囲:P.661 - P.668

 患者血清中に検出される異好抗体は,血清学的にF (Forssman),P-B (Paul-Bunnell)およびH-D (Hanganutziu-Deicher)の三つに分かれる.これらのエピトープの違いは,精製各抗原の構造解析の結果により裏付けられている.一方,精製各抗原を用いたEIAやRIA法が確立され,従来の吸収試験は不必要となり,直接検出することができる.おのおののモノクローナル抗体も開発されつつある.
 免疫診断上P-B抗体の検出は白人の伝染性単核症の診断に不可欠なテストであり,H-D抗体は肝炎・肝癌およびメラノーマにおいてその意義が追求されている.F抗体の臨床的意義は不明である.最近これらの抗原の腫瘍免疫における重要性が注目されている.

リンパ球抗体の検出

著者: 関口進

ページ範囲:P.669 - P.674

 リンパ球抗体にはT・B細胞におのおの室温・低温で反応する抗体があり,それぞれの意義がある.特に臨床的に問題となるのは臓器移植時のクロスマッチであろう.この場合には陽性反応はスコアが低くとも問題にする.また,長時間のインキュベーションで陽性になる場合もあるので注意する.HLAタイピングのための抗血清としてアロ血清をスクリーニングする場合には強い陽性のもので特異性の明らかなものを目的とするので前者とは異なる.モノクローナル抗体の場合は抗体価も高いのでEIA法(マイクロ)を用いることができる.目的によって抗体検出法も選択していく必要がある.

生物電気化学分析法・6

酵素センサおよびその他のバイオセンサと臨床検査

著者: 戸谷誠之

ページ範囲:P.678 - P.682

 バイオ識別機能を持つバイオセンサは体液中生体成分濃度の定量分析に適したデバイスである.本稿では生物電気化学分析と臨床検査についての解説として企画された最終回として,前号までに述べられたトランスデューサ側からのセンサ技術に呼応して,生物信号との接点にあるディテクターからみたセンサ技術を中心として解説する,すなわち,①センサを構築する上でバイオ素子の選択と設計,②最終信号の種類,③検知計測系の選択といった異なった点に立った問題解決は不可欠な要素である.これらの各点の,特に①に力点を置き,具体的な例を示しながら解説をする.最後にバイオセンサ使用の現状と将来への展望についても触れ,今後のセンサ開発研究が,医用センサとして高度に利用されるためには,さらに高度な多機能化(例えば人工感覚器のような)を備える必要を述べる.

研究

フローサイトメトリーによるDNA/BrdU分析法の検討

著者: 水野重孝 ,   磯部宏 ,   宮本宏 ,   川上義和

ページ範囲:P.693 - P.697

 サイミジンのanalogueである5-プロモデオキシウリジン(BrdU)とそれに対する抗BrdU抗体を用い,フローサイトメトリーによるDNA/BrdU分析の,特に塩酸を用いたDNA変性処理の至適条件について,ヒト肺癌培養細胞株(腺癌,小細胞癌,扁平上皮癌由来)を対象に検討した.その結果,3N塩酸10分間から4N塩酸20分間処理が良好であり,細胞型によって処理条件を決定する必要を認めた.本法は基礎および臨床の面から有益と思われる.

セロファン表面培養法を用いた迅速・簡便な細菌産生蛋白の検出法について

著者: 生貝初 ,   関啓子 ,   西原祥子 ,   村井美代 ,   北村富士子 ,   荒井美子 ,   益田昭吾

ページ範囲:P.698 - P.700

 筆者らが開発したセロファン表面培養法により,黄色ブドウ球菌を被検菌として用い,産生蛋白を高度に濃縮された状態で得ることができた.この培養上清を,そのままSDSポリアクリルアミド電気泳動にかけ蛋白染色を行うと明瞭なバンドが観察された.各菌株のバンドのパターンは良好な再現性が確認され,特定の蛋白に限っても高濃度で得られるので,本培養法が臨床検査の領域においても十分実用的であることが示された.

質疑応答

臨床化学 H型LDH欠損症の検索について

著者: Q生 ,   川崎理一 ,   塚田敏彦 ,   北村元仕

ページ範囲:P.701 - P.704

 〔問〕LDHをSMACで測定したところ57単位と低い値だったので,H型LDH欠損症ではないかと考えLDHアイソザイムを行いました.LDH1=5.8%,LDH2=10.9%,LDH3=21.9%,LDH4=20.6%,LDH5=40.6%という結果から,欠損症は否定できるのでしょうか.またこの結果をどう考えればよいか,LDHのなにかの酵素の異常とすれば,どのように検索してゆけばよいのか,ご教示ください(LDHアイソザイムそれぞれの移動度には異常はないようです).

臨床化学 パラコートの血中濃度の測定

著者: 鈴木郁雄 ,   和田攻 ,   柳沢祐之 ,   郭新彪

ページ範囲:P.704 - P.705

 〔問〕尿中パラコートの定性検査は以前から実施していますが,最近は低濃度のことが多いので,血中濃度を測定し,患者の病態を認識する必要があると指摘されました.緊急を要する検査なので,短時間で測定できる方法を,また,農薬・毒物の検出法に関する文献をご紹介ください.

血液 赤血球の形態と疾患

著者: 中西寛治 ,   新倉春男

ページ範囲:P.706 - P.707

 〔問〕近ごろ,赤血球の形態について,連銭形成と標的赤血球の観察されることが多いのですが,手技上の過誤なのでしょうか.また,連銭形成では骨髄腫が疑われるとのことですが,両形態と疾患についてご教示ください.

輸血 後天性Bの場合のクームス試験〔—〕の理由

著者: 続隆文 ,   平野武道

ページ範囲:P.707 - P.709

 〔問〕後天性Bの場合には,A型の人はオモテ試験で抗Bとも反応しますが,そのときの直接クームス試験は〔—〕でした.その理由をご教示ください.

免疫血清 寒冷凝集素の測定

著者: 岡山直子 ,   遠井初子 ,   浅川英男

ページ範囲:P.710 - P.711

 〔問〕CHA反応測定について,血清・生食水ともに0.25mlの倍数希釈したものに,0.2%自己赤血球0.25mlを加えて氷水中に入れ,冷蔵庫に一晩放置して,翌日凝集を観察しています.もっと迅速な測定方法はないものでしょうか.また,採血後の運搬時保温のもっともよい方法,室温に放置した場合どのくらいで低下するのか,冷えてしまったあと37℃に入れたらどのくらいで再上昇するのか,などの点についてご教示ください.

免疫血清 EBウイルスの抗体測定法

著者: Y子 ,   荻野武雄

ページ範囲:P.711 - P.714

 〔問〕EBウイルスの抗体測定法にはどのような方法があるのでしょうか.その臨床的意義も含めてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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