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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査32巻7号

1988年07月発行

雑誌目次

今月の主題 病原体抗原の免疫学的検査法 カラーグラフ

病原体抗原の免疫学的検査法

著者: 本田武司 ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.720 - P.722

 微生物を"生き物"としてではなく"物質"としてとらえる病原体抗原の免疫学的検出法は,DNA診断法とともに微生物検査の迅速化の一つの重要な方向である.手技からみると,現在実用化されているものには,ラテックス凝集反応を応用したものが最も多いが,標識法の応用例である蛍光(あるいは酵素)抗体法も利用されている.モノクローナル抗体が応用されたキットも増え,かつて問題となった非特異的反応が減少し,免疫学的診断法が次第に臨床検査の現場に導入されつつある.この種の検査法の利点と欠点を十分理解したうえで上手に利用すると,感染症診断に有用である.

巻頭言

病原体抗原の免疫学的検査と迅速診断

著者: 三輪谷俊夫

ページ範囲:P.723 - P.723

 感染症の診断,治療方針の決定には微生物検査が不可欠であるが,一般に広く行われている日常の培養検査法では検査成績が出るのに時間がかかり過ぎ,臨床医の要求に応えられず,精度・感度ともに優れた簡易迅速検査法の開発が強く要望され続けている.
 培養検査法の基本的な考え方は,患者材料中に存在する生きた推定起病菌を純培養状に分離し,その純培養菌について分類学の規準に従って生物学的・生化学的性状を培地の変色などを指標として肉眼的に確認することによって菌種を同定し,薬剤感受性テストにより有効な抗菌剤を選定することにある.微生物は微小細胞であるため,かなりの細胞数にまで増殖しなければ性状を肉眼的に確認できないので,検査成績が出るのにかなりの時間がかかるのは当然のことである.

総説

病原体抗原の免疫学的検査法—現状と展望

著者: 本田武司

ページ範囲:P.724 - P.729

 微生物を"生き物"として扱う現行の培養分離法は正確であるが,結果が出るまでに時間がかかり,必ずしも治療に結びつかないとの批判があり,微生物検査の迅速化が望まれてきた.微生物を"物質"としてとらえる微生物抗原の免疫学的検出法は,DNA診断法とともに微生物検査の迅速化の一つの重要な方向である.
 現在では沈降反応,凝集反応,標識法など種々の免疫学的方法が応用され,市販・実用化されているものもかなり出てきた.免疫学的微生物検査法における問題点は,どの系を用いるかの選択ももちろんであるが,用いる抗体の種類が重要である.微生物そのものよりもより特定された物質,特に毒素や定着因子などの病原因子を認識する特異抗体が今後より広く用いられよう.最近種々の例で知られるようになった免疫学的交差性を克服する工夫も必要である.

技術解説

感作ラテツクス凝集法による起因菌の検出

著者: 久保勢津子 ,   菅野治重

ページ範囲:P.730 - P.736

 感作ラテックス凝集反応は,特異抗原に特異的な抗体を吸着させたラテックス粒子と検査材料を混合させ,材料中の抗原を検出する抗原抗体反応検査である.
 緊急に治療を必要とし,起因菌の迅速な診断が求められるとき,髄液,血清,尿,咽頭粘液,糞便などの検査材料より直接,起因菌を検出する際に,この反応法が利用される.細菌,真菌,ウイルス,毒素と幅広く検出することが可能で,細菌ではStreptococcus(以下S.)Pyogenes,S. agalactiae,S. pneumoniae,Haemophilus(以下H.)influenzae,Neisseria(以下N.)meningitidis,ウイルスではRotavirus,毒素ではClostridium(以下C.)difficile D-1毒素などの検出に現在利用できる.

腸管感染症起因菌の免疫学的推定法

著者: 三宅真実 ,   余明順 ,   本田武司

ページ範囲:P.737 - P.744

 細菌性腸管感染症においては,患者材料から迅速かつ正確に起因菌を同定し,患者の診断,治療,および感染源の究明とともに,その後の二次的な感染の発生防止に的確な情報を確保することが必要となる.しかし,一般に糞便などから培養細菌検査によってこれらの情報を得るには,早くて48時間かかるのが現状である.近年の,簡易同定キット,自動細菌検査機器の開発により,この時間の短縮が試みられているが,同時に,免疫学的手法を用いての,特異的微量抗原検出による起因菌の推定も,臨床検査への応用が始まっている.糞便など患者材料からの感染起因菌に特異的な抗原(毒素,菌体抗原など)の免疫学的直接検出法は,腸管感染症においても,診断や菌同定の簡易化,迅速化に大きな可能性を秘めた手法として注目すべきだと考えられる.

ウイルス同定の免疫学的迅速検査

著者: 畠野靖子

ページ範囲:P.745 - P.753

 従来からのウイルス同定は,患者からの検体を培養細胞・鶏卵・マウスなどにより増殖させた後,動物免疫血清を用いて中和法,凝集法などの手技により行われていた.
 近年ウイルス同定は,患者検体中から直接ウイルス(抗原)を検出・同定する試薬が市販されるようになり,迅速同定検査法として急速に発展してきた.迅速同定法には種々な方法があるが,ウイルス学は勿論,免疫学・化学・遺伝子工学など広い分野での原理・理論が応用されている.一方,手技の面では,キット操作の簡便化がすすみ,特殊な設備・技術を要せず,検査日数も1〜2日でウイルスの検査室診断が可能となってきている.

STD領域で利用されている病原体抗原の免疫学的検査

著者: 津上久弥 ,   松永欣也

ページ範囲:P.754 - P.761

 感染症であるSTD疾患の診断は,まず病原菌の検出により,また抗体の測定によってなされている.抗原の検出には,従来染色鏡検や培養同定などの細菌学的な検査が主流であったが,最近,免疫学的な手技を用いた蛍光抗体法や酵素抗体法などの新しい検査法がつぎつぎと開発され,実用化されてきた.
 疾患の種類および病期によっては,どの検査法が適当であるかという問題もあるが,STDの細菌学的検査については,本誌(28(2),124〜129,1984)に記載したので,今回は,梅毒,淋病,クラミジア感染症,陰部ヘルペスの免疫学的抗原検出法について述べる.

B型肝炎ウイルス抗原の免疫学的検査

著者: 大堀均 ,   菅野厚 ,   角田行

ページ範囲:P.762 - P.769

 HBVならびにHBV関連抗原について概説するとともに,その免疫学的検査法ならびに臨床的意義について述べた.①HBV (Dene粒子)は直径42nmの球形粒子で,表面にエンベロープ(HBs抗原),内部にコア構造を有す.コアの内部に,HBV DNAとDNAポリメラーゼが存在する.HBV DNAにはHBs抗原,HBc抗原(HBe抗原)などHBV関連抗原をつくり出す4つのopen reading frameがある.②血中HBs抗原・抗体,HBc抗原・抗体,HBe抗原・抗体の測定にはRPHA,PHA,RIA,EIAなどが用いられる.また,肝組織内ウイルス抗原も,蛍光抗体法や酵素抗体法を用いて検出可能である.③HBV感染症におけるHBe抗原・抗体系のもつ意味は大きく,HBe抗原はウイルス増殖ならびに肝炎の進行と深くかかわっている.

注目すべき病原体

MRSA感染症

著者: 横田健

ページ範囲:P.770 - P.775

 MRSAは新型多剤耐性黄色ブドウ球菌で,治療できる薬剤が限定される.黄色ブドウ球菌は強毒菌なので,対応が正しくないとMRSA感染症患者の予後は悪い.MRSA感染症は火事にたとえられる.最良の方法は,術後感染予防や炎症性患者の治療には,ブドウ球菌に強い抗菌力を示す薬剤を使い,それを増加させないことである.不幸にしてMRSA感染症が発症したときは,早期に正しい細菌学的検査を行い,早期に有効薬剤で治療して,小火のうちに消しとめることである.多剤耐性ブドウ球菌で,37℃以下ではLMOXやCZXに〔+〕または〔—〕の耐性を示し,43℃では〔⧺〕または〔⧻〕となるものはMRSAである.治療は免疫正常者では,MINOまたはDOXYの静注,免疫不全者を含めると,CMZ+FOM,またはCZON+FOMが有効である.大火となったMRSA感染症の治療は困難である.

学会印象記 第62回日本感染症学会総会

今後の研究へ夢馳せる学会

著者: 菅原和行 ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.776 - P.776

 第62回日本感染症学会総会は,4月21日,22日,23日の3日間,名古屋市鶴舞公園内の名古屋市公会堂の大ホールを主会場として開催された.今学会は,外科系の由良二郎名古屋市立大学教授が学会長として企画され,特別講演2,教育講演2,招請講演2,シンポジウム4,一般演題290(要望演題:ブランハメラ6,周産期感染症9,細菌の付着・定着7,特異な外科感染症3を含む)と盛りだくさんの内容であった.
 これまで本学会は,細菌,ウイルス,クラミジア,リケッチア,原虫,寄生虫などの感染性微生物に起因する感染症全般を包括し,発表内容も感染症の発症メカニズム,治療法,診断法,症例報告および疫学などの広域な演題が報告されてきた.今回は,細菌関係が全演題数の約70%,ウイルス関係が18%を占めており,中でも今話題となっているAIDS関連13題,MRSA 5題,つつが虫10題,院内感染5題,Campylobacter pylori9題であった.さらに,診断法に関する報告が27題あり,この中には今後検査室に導入される可能性が高いハイテクニックの診断法も含まれている.また診断法に関しては,吉川昌之介東京大学医科学研究所細菌研究部・教授が「細菌の病原性の分子遺伝学とその同定」と題した教育講演で,細菌学におけるDNAプローブを用いた病原性因子の解析と検出法および同定学への応用を,さらに,抗生物質耐性遺伝子由来プローブ作成に伴い迅速有効薬剤選択法の実用化への可能性について講演された.一般演題では,DNA分析法の新しい試みとして岡山大学医学部の荒尾雄二郎氏が「パルスフィールド電気泳動を用いたウイルスの分子疫学(DNA分析の簡便,迅速化)」の報告で,ウイルス感染細胞を蛋白分解処理した後,DNA抽出や制限酵素切断などの操作なしにヒトサイトメガロウイルス,単純ヘルペスウイルス,水痘・帯状ほう疹ウイルスを,ウイルス分離やハイブリダイゼーションの操作なしに直接ウイルスの存在を判定できたと報告している.この方法は,ウイルス性上皮感染症の診断に有用と思われるために今後の研究の進展を期待したい.三菱油化メディカルサイエンスの渡沼稔氏は,「MTT法による中和試験の自動判定」と題する発表で,従来多大な時間と人手を要していたウイルス中和試験の判定をMTTを用い,自動判定が可能な多検体処理法を報告している.

編集者への手紙

染色体標本の作りかた—トリプシンを用いたG-分染法

著者: 西田俊朗 ,   涌井敬子 ,   山岸彰 ,   伊藤武 ,   稲葉俊哉 ,   山本圭子

ページ範囲:P.777 - P.777

はじめに
 染色体分析は先天異常,奇形,精神遅滞の原因究明などに利用され,また白血病・悪性腫瘍においても核型異常と病型,予後との関係が明らかにされてきた.これらの染色体分析には,分染法として一般的にはG-分染法やQ-分染法が行われている.G-分染法においては,トリプシンの濃度,作用時間などが分染の成否を決めるキーポイントになるが,このトリプシンの取扱いは施設によりさまざまで一定しておらず,詳細に記載された文献は紺谷らの方法1)にすぎない.われわれは,凍結されたトリプシン液を37℃に一晩放置することによりその活性を低下させ,その後,冷蔵庫中で4℃に保存し,これを使用することにより,安定した成績を得ているので報告する.

高速液体クロマトグラフィー・1

臨床検査における高速液体クロマトグラフィーの現状

著者: 大久保昭行

ページ範囲:P.780 - P.785

 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は,多成分系の分画分析法として有力な武器である.HPLCの分画能は,充填剤の性能によって決まる.今日では,多種類の優れた充填剤がつぎつぎと開発されており,適切な充填剤の選択に迷うほどである.また,機械工学の進歩により,性能がよく使いやすい機器が開発され,臨床検査でも使用できるようになった.今日では体液中のアミノ酸,カテコールアミン,ヘモグロビンA1cなどの専用分析機は検査室に欠かせない装置となっている.血中薬物の測定が臨床検査の大きな業務となるにつれ,薬物分析の標準法として,薬物代謝物も測定できる方法としてHPLCはますます広く検査室で使用されるようになると思われる.

研究

モノクローナル抗体を用いた組織リンパ球表面抗原検出におけるperiodate-lysine-paraformaldehyde固定時間の影響

著者: 設楽保江 ,   林幸子 ,   野上重子 ,   小池盛雄

ページ範囲:P.795 - P.799

 組織切片上のリンパ球表面抗原に対し,PLP固定時間が及ぼす影響について,種々のモノクローナル抗体を用いて経時的に検討した.固定時間の延長によりいずれの膜抗原の染色性も低下したが,逆に形態保存は良好となった.また,染色性の低下の程度はモノクローナル抗体の種類により異なっており,固定による抗原決定基の影響の受けかたに差がみられた.組織形態保持およびリンパ球膜抗原性の保存の両者を満たす適切な固定時間は,6〜10時間であった.

心電図自動診断装置導入に対する追加誘導の必要性に関する検討

著者: 城山昌代 ,   石山陽事 ,   桑山美知子 ,   中西成元

ページ範囲:P.800 - P.802

 心電図自動診断システムの導入に伴う心電図原物データの保存フォーマットの簡易化を目的として,心電図追加誘導(V3R,V4R,V7)の必要性について検討した.
 心電図記録7007例のうち,追加誘導記録が心電図所見を得る必要条件となったものは小児を除きほとんどなかった.この結果現在の心電図自動診断システムに採用されている標準12誘導記録(不整脈を診断するための記録を含む)用のフォーマットのみでも,心電図所見を得るという点でまた原物データを得るという点で十分に臨床検査に役だつものと考えられる.

資料

蛍光色素による各種原虫感染症の迅速診断の試み

著者: 川本文彦

ページ範囲:P.803 - P.806

 三種の蛍光色素を用いた原虫感染症の新しい簡易迅速診断法について記載した.Calcofluorwhite M 2 Rによる染色では,各種のアメーバやメニール鞭毛虫のシスト壁がリング状に染色され,容易に同定された.また,4',6—diamidino−2—phenylindole (DAPI)およびpropidiumiodide (PI)を用いた二重染色では,各種の原虫類がきわめて短時間で観察と同定が可能となった.特に,アメーバ,クリプトスポリジウム,マラリアなどの迅速診断への応用の可能性について報告した.

質疑応答

臨床化学 リポソームを用いた抗体測定法

著者: Q生 ,   軽部征夫 ,   中野安裕

ページ範囲:P.807 - P.810

 〔問〕「電極を用いた抗体測定法」(本誌,31,797〜799,1987)でリポソームを用いた方法が紹介されていますが,その具体的なやり方をご教示ください.また,①リポソームとはどのようなものか,②レシチン,コレステロール,ホスファチジン酸のリポソーム形成でのそれぞれの役割,③TMPAイオンやグルコースのリポソーム膜透過性,④抗原・抗体の固定化法,などについてもご教示ください.

血液 血栓性疾患における血小板・凝固検査

著者: I生 ,   池松正次郎

ページ範囲:P.810 - P.811

 〔問〕血栓性疾患における血小板・凝固検査にはどのようなものがあるのでしょうか.スクリーニング検査と専門的検査のそれぞれについてご教示ください.

血液 経口抗凝血薬療法のモニタリングについて

著者: 濱崎正 ,   磯部淳一

ページ範囲:P.811 - P.813

 〔問〕経口抗凝血薬療法の治療域をチェックするのに,PT (プロトロンビン時間)によるか,トロンボテストによるか,それぞれの長所,短所についてご教示ください.

免疫血清 HBs-ICの陽性化

著者: 山田朗美子 ,   森藤隆夫

ページ範囲:P.813 - P.815

 〔問〕次の2症例のように,HBs抗原・抗体が陽性なのにHBs-IC陰性となるのは,測定感度の問題なのでしょうか.HBs-ICが陽性となる場合を含めて,ご教示ください.

免疫血清 ATLA(成人T細胞白血病)抗体について

著者: 山本豊 ,   川名林治

ページ範囲:P.815 - P.817

 〔問〕ATLA抗体の測定をPA法にて実施し,確認試験はWB法で行っています(検体数1170例,陽性7例).WB法で7例のいずれもIgM陽性,IgGは陰性でした.通常,ウイルス感染の初期にはIgM抗体が産生されるとのことですが,IgG抗体はどれくらいの月(または年)でできるのか,またIgM抗体陽性は初期感染を意味していると考えてよいのか,ご教示ください.

免疫血清 免疫固定法の長所・短所・注意点

著者: Q生 ,   金光房江

ページ範囲:P.817 - P.819

 〔問〕免疫固定法による注意点,長所,短所についてご教示ください.

一般検査 尿中有形成分の経時的変化

著者: Y生 ,   今井宣子

ページ範囲:P.819 - P.820

 〔問〕検査センターに依頼される尿検査(沈渣)では,採尿から鏡検までかなりの時間が経っていると思われます.そこで,赤血球・円柱などの有形成分の経時的変化と,それとpHとの関係についてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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