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雑誌目次

論文

臨床検査33巻1号

1989年01月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床生理検査の自動化 カラーグラフ

臨床生理検査の自動化

著者: 小沢友紀雄 ,   谷川直 ,   池田恭二 ,   増田啓子 ,   高橋慶吾

ページ範囲:P.4 - P.6

 臨床生理検査の自動化は主として計測,解析,診断,表示,保存,時系列比較などについて行われているが,その多くが循環機能検査で,特に心電図検査において進歩が著しい.ここでは,心電図関係の検査の自動化された部分を中心に,併せて呼吸機能検査および脳神経機能検査の自動解析,表示の一部の例についても取り上げてみた.
 各臨床生理検査の自動化については,それぞれの項目で詳細に述べられているので,ここではカラーグラフに適当と思われるものを幾つか選択した.

巻頭言

臨床生理検査の自動化

著者: 小沢友紀雄

ページ範囲:P.7 - P.7

 改めて見回すまでもなく,昨今の自分の周囲を眺めると,仕事においても,遊びにおいても,また自宅の中にまでコンピュータが入り込んで,簡単なメモリーまで入れると日常生活におけるその利用には枚挙にいとまがない.
 以前には,壊れた機械は職人の手によって修理されたが,最近の種々の機械では,どこが故障したのか分からないまま部品を取り替えてしまう.このような状態は生理機能検査の中にも見られ,検査技師がテスターやドライバーを使って修理できた部品も電子回路の中に組み込まれ,修理をメーカーの手にゆだねざるをえない場合が多くなった.臨床生理検査に携わるものは,コンピュータと無縁ではいられなくなり,検査室の雰囲気も機械に使われているような感じが無きにしもあらずである.

技術解説

臨床生理検査の自動化と精度管理

著者: 石山陽事

ページ範囲:P.8 - P.15

 検査対象がつねに変動しており,かつ患者の協力が検査精度に直接影響することの多い生理機能検査の代表項目であるスパイロメトリー,心電図検査,脳波検査を例に検査方法の分析を行った.自動化が可能な部分について,現状の自動化の程度を①自動操作,②自動計測(分析),③自動計算(演算),④自動判定(診断),⑤自動表示,に分類し,そのおのおのについて具体例を提示した.すなわち,自動診断機能の具備すべき条件としてできるだけ不変的な診断アルゴリズムの確立が必要であり,特に自動化健診機器では重要である.しかし,臨床検査においては施設問,判読医,各科などによって若干のアルゴリズムの変更も時に必要であり,そのためには検査データおよび診断結果をファイルし,それを検査にフィードバックするデータ管理システムの充実が必要である.また,患者検査の自動化の精度を考えるうえでやはり原点である検査技術のなお一層の精通と自動化アルゴリズムの限界を知っておくことがたいせつである.

脳波検査の自動化

著者: 古和田正悦

ページ範囲:P.16 - P.22

 脳波を客観的,計量的に評価するため,コンピュータは早くから脳波解析に応用され,さまざまなシステムデザインが行われてきたが,脳波の自動診断が意図されて,そのための自動解析法や波形の自動認知法が行われるようになったのは1970年に入ってからである.従来の理論的分析法のほかに視察的解析法が発展し,脳波のパターン認知が試みられた.その後,医用画像処理技術の進歩に伴って脳波トポグラフィが導入されたのは1980年になってからである.脳波検査の自動化に関連して,主として波形の視察的認知法,集団脳波の自動化,脳波トポグラフィなどについて概説した.

呼吸機能検査の自動化

著者: 井川幸雄 ,   石井裕子

ページ範囲:P.23 - P.29

 JISあるいはアメリカの規準に合うような機種が登場しつつある.
 自動測定の設定は患者との関連(マン—マシーン関連)での困難が多く,その解決は難しい.

超音波検査の自動化

著者: 伊東紘一

ページ範囲:P.30 - P.34

 超音波画像からの自動検査や自動診断は困難と思われる.しかし,超音波信号の定量化が可能になれば,自動検査,自動診断への道は開けるものと考えられる.超音波信号の定量化は音響物理量の絶対値表示が実現することによって可能となるので,周波数依存減衰(FDA)の例をあげて説明した.さらに,今後の方向性として三次元表示が有望であることを述べた.

循環機能検査の自動化

著者: 谷川直 ,   小沢友紀雄

ページ範囲:P.35 - P.42

 循環機能検査部門においてはコンピュータの進歩により多くの検査が自動化され,臨床応用されているが,その最も使用頻度の多い検査はやはり心電図であろう.最近では,自動解析装置のついた心電図の利用頻度は60%を超え,なんらかの自動機能が90%の機種に付属している.また,心電図波形のアナログからデジタルへの信号処理の進歩から体表面平均加算化心電図,体表面電位図,長時間心電図,運動負荷心電図が発展し,日常臨床できわめて重要な情報を提供している.
 心音図は心エコー図の進歩により,検査法としては利用頻度が減少しているが,学童の集団検診においてはその自動化が診断率の向上に有用である.

血液ガス分析の自動化

著者: 白石透

ページ範囲:P.43 - P.49

 最近では,サンプルの注入だけで誰でも容易に測定できる全自動型血液ガス分析器が普及してきた.精度も臨床的な目的には十分であるが,故障,不調に気づきにくい欠点があり,トノメータ血,コントロール液を測定するとか,別装置でも測定してみるなどの精度管理が必要である.
 採血によらず,間接的に動脈血ガス分析を行う装置としては,オキシメータ,経皮O2電極,経皮CO2電極,経皮質量分析法,CO2計があり,現在,成人ではパルスオキシメータ,乳児,幼児では経皮電極がしばしば使用されるようになっている.これらの装置はいずれも,測定部皮膚の血流が十分にあることを前提にしているので,循環上の問題のある場合のデータの解釈には十分の注意が必要と思われる.間接的ガス分析法は種々の疾患における知見の増加に伴ってその臨床的意義も大きくなり,使用も増加していくものと考えられる.

光ディスクによる原脳波データベースと臨床脳波検査自動化への応用

著者: 斎藤陽一

ページ範囲:P.50 - P.60

 最近の技術進歩によって,巨大記憶容量をもつ媒体として信頼性を確立した光ディスクを使用して,脳波の原信号データベースを作成し,高精度のディスプレイおよび大容量のハードディスクをもつホストコンピュータにより,原データの編集・閲覧・半自動計測および解析と,さらに対話型の質問系列への診断医の応答系列の整理・記憶・出力を行うことによる脳波診断支援システムを構築することを試みた.
(1)当初,懸念された新メディアでドロップアウトなどの生ずるトラブルは,ハードウェアのフォーマット時のチェック・システムによってほぼ完全に回避され,脳波信号のデータベース媒体として十分機能しうることが証明された.

話題

医療用レーザーカード

著者: 椎名晋一

ページ範囲:P.61 - P.63

はじめに
 一人の患者について,検査データをはじめ医療情報が急速に増加する昨今,それに対応する方策が考えられている.コンピュータは情報量の増加に対応する容易さと検索の速さなどの点で目をみはるものがある.このことが,病院へのコンピュータ導入を促進させることになった.しかし,コンピュータ利用は現在のところ院内のシステム化にとどまり,大きな意味でのシステム化には至っていない.したがって,患者へのコンピュータの恩恵は十分とはいえない.患者の転医,外出先での事故などに際して,かかりつけの病院での患者情報を即座に提供することはこれまで困難であったが,それが可能になれば患者にとっての恩恵はどんなにか大きいことだろう.
 そこで私どもは,医療用レーザーカードのリーダー・ライター装置の開発を目指して,日本コンラックス(株)と共同研究を行ってきて,世界に先駆けて実用化に成功したのである.このカードには医療情報を1メガバイト,すなわち普通のB5版の本として約280ページ分というきわめて膨大な文字や数字を収納することができる.したがって,このカードを患者が携帯することによって,健康保険証として,カルテ代わりとして,診療費領収書としてなど,さまざまな用途が考えられ,その有用性はきわめて高いと思われる.

脳磁図

著者: 丹羽真一 ,   四元秀毅

ページ範囲:P.64 - P.67

脳磁図(MEG)とは
 脳の神経細胞の興奮により神経線維に沿って電流が流れると,その線維の周囲に微弱な磁界が発生する.その磁界の強さは流れる電流の強さ,すなわち複数の神経細胞の興奮の同期の具合いによって変動する.この磁界の強さの変動を時間軸に沿って記録したものを"磁気"脳波図あるいは脳磁図(Magnetoencephalography;MEG)と呼ぶ.
 図1に脳磁図記録の一例を示す.この図1では,脳波(EEG)と脳磁図(MEG)が同時に記録されている.上の5本のトレースが通常の脳波("電気"脳波,Electroencephalography)で,下の7本のトレースがMEGである.図1からわかるように,MEGでもEEGと類似した波形が記録される.

マイクロメカニズムの応用

著者: 江刺正喜

ページ範囲:P.68 - P.71

はじめに
 高度な機能を持っていながら侵襲を最小限にできる診断・治療機器を実現する有力な手段として,半導体微細加工技術(マイクロマシーニング)がある1,2)
 SF映画の"ミクロの決死圏"とまではいかなくても,細いカテーテルや内視鏡の先端などにセンサやアクチュエータを取りつければ,体内の局所的な計測や遠隔手術ができる.

座談会

臨床生理検査—自動化の現状と展望

著者: 小沢友紀雄 ,   白石透 ,   石山陽事 ,   江部充

ページ範囲:P.72 - P.83

臨床生理検査の場合,自動化といっても,操作,計測(分析),判定(診断),表示,保管(利用)など各種の段階が含まれる.この点を念頭に置きながら,自動化の最も進んでいる心電図検査,検査によって自動化のバラツキの大きい呼吸機能検査,さらには,数値化できないため自動化が最も困難な脳波検査などについて,それぞれの現状と問題点が,将来への期待をこめて語られる—

学会印象記 第35回日本臨床病理学会総会

臨床病理学の"聖地"での意義深い総会/"Dream & Challenge"を相言葉に

著者: 神奈木玲児

ページ範囲:P.84 - P.86

 第35回日本臨床病理学会総会は,昭和63年10月20日から22日の3日間,宮地隆興教授(山口大学臨床検査医学教室)を会頭として山口市で開催された.総演題数は688題で,16会場にわかれて行われた.参加者は,2000名を超えている.総演題数とその分野の内訳は例年とほぼ同じ傾向であり,本邦の臨床病理学会が安定し,着実に発展していることを示している.
 山口は,1951年に本邦ではじめて臨床病理学講座が設けられた,臨床病理学のいわば聖地であり,大会第1日は,発足当初この講座を担当された柴田進教授の特別講演「臨床化学:辿りつき振り返りみれば」が行われた.若い医学徒のころ,とある基礎医学の教室に出入りし,そこで当時の臨床医学があまりにも粗雑な学問であることを印象づけられたことが,後年臨床病理学という学問を構想する大きなきっかけとなったことが述べられた.さらに,臨床病理学の基礎づけには,生化学をはじめとする実証科学が大切であるとの考えから,技術面では臨床化学の定量法の開発と機械化へ,また診断面ではコンピュータを導入した検査診断(いわゆるCALD)に進んで来られた道筋が紹介された.

生体の物理量計測・1【新連載】

電磁気計測

著者: 金井寛

ページ範囲:P.88 - P.94

 生体の物理特性を電気的に測定し,臨床診断に利用する方法は古くから試みられているが,実際に臨床で広く使用されているものは少ない.この原因は,(1)生体の電気特性に関する研究が少なく,まだよく分らないことが多い,(2)生体の電気計測法についての検討が不十分であったことなどである.
 このようなことを考慮して,本文では生体の電気計測法について基本的な問題を解説した.特に測定用電極,四電極測定法,周波数特性測定法などに重点をおいて解説した.

資料

リンパ球two-color解析における年齢の影響

著者: 神田享勉 ,   大島茂 ,   湯浅和男 ,   渡辺孝 ,   横山知行 ,   鈴木忠 ,   村田和彦 ,   岩城孝次

ページ範囲:P.103 - P.105

 リンパ球two-colorサブセットの加齢による影響について検討した.対象は健康な日本成人30人で,年齢は20歳から96歳までである.年齢と正相関を示したサブセットは,CD 8・CD 11(サプレッサーT細胞,NK細胞の一部),dull CD 8・CD 11(NK細胞の一部),CD 4・HLA-DR(活性化インデューサ,ヘルパーT細胞),CD 8・Leu 7(NKサブポピュレーションまたはナチュラルサプレッサー)であった.CD 8・CD 11(細胞障害性T細胞)は,ともに減少傾向にあるが,有意差は認めなかった.種々の疾患群でのリンパ球サブセット判読に際し,加齢の影響を加味する必要がある.

4-Nitrophenyl 6-0-Benzyl-α-Maltopentaoside(BG5P)を基質に用いたインヒビター法によるα-アミラーゼアイソザイム分別測定法

著者: 松田宣子 ,   牧瀬淳子 ,   斎藤恵美子 ,   棚橋洋子 ,   金山正明

ページ範囲:P.107 - P.112

 α-アミラーゼ測定の合成基質として新たに開発された4-nitrophenyl6-0-benzyl-α-maltopentaosideは,P型およびS型アミラーゼ両アイソザイムの水解速度が等しく,Km値もほぼ一致しており,基質の1か所のみを切断するグルコース数5個の理想的なオリゴサッカライド誘導体である.また,非還元末端グルコースにベンジル基が修飾されているため,ブランク反応がほとんど認められないなどの長所を有する.われわれは,本基質を小麦由来のインヒビターを用いたAMYアイソザイム分別測定法に適用し,その至適条件を検討した.本法は拮抗,非拮抗混合型の阻害形式であることが確認され,測定精度,他法との相関,直線性,共存物質の影響などの点で良好な成績を得た.したがって,本法は本基質による総AMY測定法とともにAMY分別測定法としても有用な方法であることが確認された.

簡易化されたMIF法キットによる腸管寄生原虫類の保存と検出率についての検討

著者: 小林正規 ,   奥沢英一 ,   金子信明 ,   野崎智義 ,   田辺将信 ,   三浦左千夫 ,   竹内勤

ページ範囲:P.113 - P.118

 わが国では最近寄生虫感染症が明らかに増加しつつあり,その鑑別診断が重要となってきている.その中でも栄養型の鑑別がしばしば必要となる腸管内寄生原虫類の場合,その同定の成否は新鮮材料を用いることができないかぎり,固定方法と保存方法によって大きく左右される場合が多く,検査材料の取り扱い上,注意を要する点となっている.そこで,従来より原虫類の固定保存のために考案されていたMIF法をさらに一般化し,キット化した製品がMarion社により考案されたので,今回われわれはこれをインドシナ難民について試みた.その結果,このMIFキットは原虫類嚢子や栄養型の形態保存およびその鑑別に有用と考えられた.

編集者への手紙

肺気腫患者における低酸素血症と多血症および栄養状態との関係

著者: 沖本二郎 ,   中島正光 ,   梅木茂宣 ,   川根博司 ,   副島林造 ,   平井紀之

ページ範囲:P.106 - P.106

 一般に低酸素血症が長期にわたると,二次性多血症を起こすと言われているが,肺気腫患者ではヘマトクリット(Ht)値の上昇をみる頻度は少ないと成書に記載されている1,2).そこで,肺気腫患者では,赤血球系は低酸素血症の影響を受けていないのか,多血症が起きないとすればその理由は低栄養状態によるものか,の2点について検討を行った.

質疑応答

臨床化学 ICGテスト時の採血法

著者: 安本義博 ,   南部勝司

ページ範囲:P.119 - P.120

 〔問〕ICGテストなどの際,成書によると,原則として注入した静脈でなく反対側の静脈から採血すると書かれていますが,その理由は?同一の静脈ではなぜいけないのか,片腕を欠損した人の場合どこで採血すればよいか,ご教示ください.

免疫血清 血清補体の不活化について

著者: S生 ,   上田一仁 ,   稲井眞彌

ページ範囲:P.120 - P.122

 〔問〕血清検査における不活化(非働化)について,成書では56℃30分間,または60〜62℃2〜3分間とあります.この温度と時間でなければならない理由をご教示ください.もしかりに,60℃で30分間不活化してしまったとき,その血清は検査にたえますか.

免疫血清 HIV検査におけるウェスタンブロット(WB)の偽陽性反応について

著者: Q生 ,   吉原なみ子

ページ範囲:P.122 - P.123

 〔問〕AIDSの確認テストであるイムノブロッティングアッセイで,AIDS抗原をブロットしてあるキットに,「溶血血清を避ける」「サイトメガロウイルス(CMV)感染者は偽陽性を示すこともある」と書かれていましたが,その理由をご教示ください(バイオ・ラッド社のキット).乳ビ血清でもよいのですか.

微生物 腟トリコモナス検査について

著者: K生 ,   東堤稔

ページ範囲:P.124 - P.126

 〔問〕検体採取後,運搬その他により検査までに数時間を要し,観察時はすでに死亡している場合があります.そこで,次の点についてご教示ください.
 ①長時間生存させておける検体採取用具と保存方法.

臨床生理 向精神薬の循環器に及ぼす影響

著者: 江戸一 ,   陣野和彦 ,   小沢友紀雄

ページ範囲:P.127 - P.130

 〔問〕近年,精神神経系疾患の患者が増加したためか,向精神薬の使用に伴ってしばしば心電図上,ST-T異常や不整脈の出現がみられます.これらの現象と突然死の因果関係および向精神薬の循環器に及ぼす影響を,心電図所見とあわせてご教示ください.

雑件 臨床検査従事者の職業病とその予防

著者: N生 ,   森三樹雄

ページ範囲:P.130 - P.131

 〔問〕臨床検査に従事する者の職業病にはどのようなものがあるか,またその予防法についてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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