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雑誌目次

論文

臨床検査33巻10号

1989年10月発行

雑誌目次

今月の主題 耐性菌をめぐって カラーグラフ

抗菌化学療法剤の作用機序および耐性

著者: 西野武志

ページ範囲:P.1114 - P.1116

 細菌細胞は原核細胞(Prokaryote)に,またわれわれ人間を含む動物細胞は真核細胞(Eukaryote)に属する.細菌細胞も人間細胞も同じ生きた細胞であり,細胞の分裂あるいは増殖など生命を維持するための基本的な機構は同じで,両細胞とも蛋白合成や核酸合成などを営んでいる.しかし抗生物質を含む化学療法剤は細胞の種類,特に細菌細胞と人間細胞の微妙な相違点に働いて,著しく異なる作用を示す.
 一方,臨床に使用された当初は耐性菌が存在しなくても,その抗菌剤の使用量が増加すれば増加するほど耐性菌は必ず出現してくる.すなわち耐性菌は感染症の治療を開始することにより,あるいは感染症の治療中に出現してくるものと思われる.したがって,いかなる抗菌剤も耐性菌の問題は避けて通ることができない.

巻頭言

耐性菌をめぐる諸問題

著者: 島田馨

ページ範囲:P.1117 - P.1117

 耐性菌が臨床上の大きな問題として認識されたのは,本邦においては戦後間もないころ流行したサルファ剤耐性赤痢菌が始まりであろう.これ以後,新しい抗菌薬が臨床に使われるたびごとに,新しい耐性菌が出現してきた.抗生物質と菌との鬼ごっこの繰り返しとも言われたゆえんである.しかしこの鬼ごっこの繰り返しの問に,耐性の問題に生化学的な,最近は分子生物学的なレベルで詳細な検討が加えられ,一つの学問的体系を築きあげた.最初はペニシリンを始め,ストレプトマイシン,クロラムフェニコール,テトラサイクリン,あるいはマクロライドと幅広く耐性機序が検討されたが,β—ラクタム薬が主流になるにつれ,β—ラクタマーゼ対策に努力が集中し,第三世代セフェムやカルバペネムに至ってβ—ラクタマーゼ対策は目下のところ成功したかの観がある.しかし,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の出現は大きな驚きであった.β—ラクタム薬と結合親和性の低いペプチドグリカン架橋酵素の出現は,黄色ブドウ球菌にとどまらず他の菌にもおこることは十分覚悟しなければならない.まだ数は少ないが,かかる耐性機構を持つペニシリン耐性肺炎球菌も発見されている.
 最近広く使われているニュー・キノロンの耐性菌の動向も気にかかる点である.緑膿菌と黄色ブドウ球菌で耐性化は確実に進んでいるようだが,他の菌についての報告は少ない.新しく使用された薬剤の耐性菌の動向をいち早く知るためには,何らかのサーベイランス・システムの確立が必要であろう.
 忘れてはならないものに結核菌がある.現在はリファンピシンを軸とする短期療法の時代に入ったが,結核菌がリファンピシンに耐性化してくれば,後を継ぐ薬剤のメドが立っていないだけに困った問題を提起するだろう.今のうちから考えておかねばならぬことの一つである.

総説

抗菌化学療法剤の作用機序および耐性のメカニズム

著者: 西野武志

ページ範囲:P.1118 - P.1126

 化学療法の進歩は目ざましく,多くの有用な抗菌性化学療法剤が開発されてきた.われわれ動物細胞と細菌細胞の間には微妙な相違点が存在し,抗生物質などは非常に優れた選択毒性を示す.しかし抗菌力の優れた薬剤が臨床に使用されるようになった今日では,分離されてくる耐性菌にも変化が現れ始めている.すなわち不活化酵素による耐性菌が現在でも臨床的に高率に分離されてくるが,標的部位の変異した耐性菌など新しい耐性機構をもった菌が,ある種の菌種では高頻度に分離される.今後このような耐性菌の動向に注目しておく必要がある.

新しい概念

Sub-MICsの概念と意義

著者: 紺野昌俊

ページ範囲:P.1127 - P.1134

 β—ラクタム薬はMIC以下の濃度でも菌体内に取り込まれ,菌に形態変化をもたらす.それは球菌においても桿菌においても同様である.しかし,これらの形態変化は,菌の種類によってもβ—ラクタム薬の種類によっても異なる.それは,それぞれのβ—ラクタム薬が持っている各種細菌の細胞壁合成に関与するペニシリン結合蛋白(PBP)に対する親和性によって左右される.その形態変化の臨床に及ぼす意義について解析した.

技術解説

グラム陽性球菌の耐性機構と検査—MRSAを中心に

著者: 横田健

ページ範囲:P.1135 - P.1140

 臨床分離される肺炎球菌,ブドウ球菌などの薬剤耐性は,プラスミドによるものと,染色体遺伝子の変化によるものとに大別される.前者はAGs不活化酵素,TCs透過性低下,リボゾームRNAの変化(MLs耐性),CATase,PCase (ブドウ球菌のみ)を耐性機構とし,後者は作用点変化(MRSA,キノロン耐性,RFP耐性)が原因となる.PCaseによる耐性は接種菌量が感受性検査に影響し,MRSAは低温培養のほうが高温時より耐性度が高い.

薬剤耐性メカニズムと遺伝学的検査

著者: 橋本一

ページ範囲:P.1141 - P.1148

 細菌の薬剤耐性機構には,薬剤の方を分解や修飾で不活化する場合と,菌自身が変わり透過性や作用点の親和性が低下する場合とある.前者はプラスミドによる場合が多く,染色体性耐性は多く後者である.耐性発現は量的にMICで示されるが,誘導耐性と突然変異によるMICの動きも考慮すべきである.検体における耐性菌と感受性菌の混在,また多剤耐性菌では異なる遺伝体上の耐性遺伝子の存在とその伝達性も解析することが望ましい.

薬剤耐性菌のモニタリングと院内感染対策

著者: 小林芳夫

ページ範囲:P.1149 - P.1154

 臨床分離菌の薬剤感受性検査を施行してつねに耐性率を把握しておくことは,院内感染予防対策の面からは重要なことであり,かつまた有益なことである.ただし,折角集計した貴重な成績をこの目的に使用するためには,各施設の事情に応じた指導性のある委員会を設置し,すべての医療従事者,特に医師にこの情報が十分に伝達され理解を得ることが必須の条件である.

座談会

わが国における薬剤感受性検査をめぐって

著者: 五島瑳智子 ,   菅野治重 ,   山根誠久 ,   渡邉邦友 ,   本田武司

ページ範囲:P.1156 - P.1168

 感染症検査の基本である起病菌の培養分離同定検査は,より適切な治療法を選択するための情報を臨床家に提供するものとして重要である.また,これらの分離菌について行われる薬剤感受性検査成績も,薬剤選択上重要な情報として臨床家に利用されている.しかし,薬剤感受性の検査術式そのものをみても,わが国ではまだ標準化されていない部分が多く,種々の問題をかかえている.

学会印象記 第41回アメリカ臨床化学学会(AACC)

目だつ脂質関連テーマの発表,他

著者: 長裕子

ページ範囲:P.1169 - P.1171

 第41回アメリカ臨床化学学会(AACC)が7月23日から27日までの5日間,米国南部ジョージア州アトランタ市で,Carl A.Burtis博士を大会会長として開催された.
 6年前ニューヨークで開催されたときに出席して以来,AACCにも御無沙汰していたが,セルロースアセテート膜等電点電気泳動に関する仕事がかなりまとまってきたので発表することを思い立ち,6年ぶりに参加した.成田空港からデルタ航空を約16時間乗り,小説「風と共に去りぬ」の舞台として有名なアトランタに着いた.果てしなく広がる緑の平野と青い空の多いアトランタは,のどかなアメリカ地方都市という印象であった.会場となったジョージア・ワールドコングレスセンターはコンベンションシティーとして世界有数のものとして知られているだけあって,シンプルかつ機能的な多目的ホールで広さも十分あり,さすがに"土地のあり余るアメリカ"を感じさせるものであった.会場は町から少し離れていたが,主たるホテルから15分おきにシャトルバスが出ていたため,交通の不便さはまったく感じなかった.

生体の物理量計測・10

超音波による計測

著者: 椎名毅

ページ範囲:P.1174 - P.1181

 超音波による生体計測とは,超音波を生体内に送り込んで,内部組織との相互作用により生じた反射波や透過波を受信し,それから生体内の情報を抽出することである.この超音波と生体との相互作用の形や情報抽出の方法によりきわめて多様な計測法が開発され,現在,エコー法診断装置やドプラ血流計を中心とした超音波計測法は,X線についで医療のさまざまな分野で幅広く用いられている.一方,これらの計測法は生体内の超音波の特性を簡略化した理論に基づいているため,計測結果の意味を正確に理解するには,計測法の原理をある程度知る必要がある.
 ここでは,生体の超音波物性と,各計測法の原理を簡単に解説している.さらに,超音波計測法の新たな発展の方向として期待されている超音波による組織診断についてもふれている.

ME機器と安全・4

医療用気体安全の基本的原理

著者: 福本一朗

ページ範囲:P.1190 - P.1194

医療環境における気体とその危険性
 物質は固体・液体・気体の3態を有する.そのうち気体状態にある物質はもっとも物理法則に支配された振る舞いを呈する.気体の一番顕著な性質として,圧力と温度に対する変化の大きさが挙げられる.気体は小さく圧縮することができ,また無制限に拡散することもできる.気体はそれがおかれた空間や血管をその形にかかわらず隅々まで完全に等濃度で満たす.気体はまたそれが接触する液体や固体中に溶け込むこともできる.以上の性質は生体に気体が適用されるときつねに心に止めておかねばならない.
 医療環境で用いられる気体には大別して2種類のものがある.その一つは酸素・窒素・一酸化炭素・水蒸気など自然界の中で人間を取り巻き,人間の生存に不可欠の物であり,他の一つは笑気・シクロプロパン・ハロタン・エフラン・エチレンなどの麻酔剤のように生理学的効果を得るために人為的に供給されるものである.生理学的効果とは外的刺激に対して恒常性を維持するための生体の反応であるということができる.その意味では麻酔ガスによる血中二酸化炭素分圧変化や血圧の変動なども含まれる.その生体変化は直接観察できるものから,複雑な臨床検査機器を用いて長時間かけねば測定できないものまでいろいろなものが含まれる.

研究

フローサイトメトリーによる細胞質内白血球分化抗原の検出

著者: 小池考一 ,   安藤学 ,   上田龍三 ,   須知泰山

ページ範囲:P.1195 - P.1200

 未熟リンパ球の細胞帰属決定に,モノクローナル抗体による細胞質内白血球分化抗原の検出が有用な場合が少なくない.従来は塗抹標本を用い,顕微鏡による判定法を行っていた.今回フローサイトメトリーによる測定法を検討の結果,検索細胞を1%パラホルムアルデヒド加50%エタノールで−20℃15分間固定し,細胞質内CD3抗原検出にはLeu4抗体を,同CD22抗原検出にはOK22抗体を用いることにより,フローサイトメトリーによる測定が可能となった.今後フローサイトメトリーによる細胞質内抗原解析は新しい検査法として有望である.

81mKr持続静注法による右心駆出率の測定—因子分析法の応用

著者: 細田孝子 ,   平沢規之 ,   川上憲司 ,   森豊 ,   井川幸雄 ,   島田孝夫

ページ範囲:P.1201 - P.1204

 81mKr持続静注法による右心駆出率の測定に因子分析法を応用し,その有用性について検討した.10名の心疾患例を対象に81mKrを静注し,心電図同期法によって右心駆出率を求めた.右心室辺縁の抽出に因子分析法を応用した結果,駆出率算出の再現性もよく,従来の方法との間にも高い相関を認めた.複雑な形状をした右心室の辺縁抽出にとって因子分析法は有用と考えられた.

資料

IMXシステムによる血中CEA測定の基礎的検討

著者: 桑原正喜 ,   岩越典子 ,   有吉寛 ,   須知泰山

ページ範囲:P.1205 - P.1213

 固相にポリマー粒子を,B/F分離にグラスファイバーディスクを,酵素基質に蛍光物質を用いたEIAの全自動測定システムIMXによる血清CEA測定の基礎的検討を行った.その結果,本システムは,その装置,試薬ともに満足できる精度および安定性を有していることが認められた.またその測定値も従来法のものと同様に利用できることも認められた.これより本システムは日常の腫瘍マーカー測定の省力化に大いに寄与し,またその導入に抵抗が少ないものと考えられた.

各種腎疾患における尿中GP-DAPと各種パラメータとの比較検討

著者: 千葉茂実 ,   野城宏夫 ,   庄子嘉治 ,   佐藤寿伸 ,   斉藤喬雄 ,   吉永馨

ページ範囲:P.1214 - P.1217

 各種腎疾患患者における尿中GP-DAP (グリシループロリルージペプチジルアミノペプチダーゼ)を測定し臨床的に検討した.多発性骨髄腫による腎障害では著明な高値を示す例があり,尿NAGとも相関があったことから尿細管障害を示す良い指標と考えられた.またクレアチニンクリアランス,β2ミクログロブリンとは相関が認められなかったが,尿蛋白とは相関があり,尿細管だけでなく糸球体障害との関連性も示唆された.

編集者への手紙

検査技術者の教育に思う—第18回国際医学検査学会から

著者: 谷島清郎

ページ範囲:P.1218 - P.1218

 IAMLTすなわちInternational Association ofMedical Laboratory Technologistsが主催する第18回国際医学検査学会が,昨年の夏に神戸のポートアイランドで行われた.日本が開催国として選ばれたことは,日本の臨床衛生検査技師会の学術活動が世界的に評価されている証拠であり,たいへん喜ばしいことと思います.世界各国の検査技師と直接接触できるこのような学会に私も出席させていただき,貴重な体験をしました.医学検査ないしは臨床検査に関する理論や方法,新しい技術や方法の改良などを,いろいろの国の検査技術者たちが発表しあっており,いずれも興味深いものばかりでしたが,その中でも特に印象深かったのは世界の検査技術者の教育や養成制度についてです.報告数もわりあいに多く,熱心な討議にこの方面への関心の大きさが示されているようで,そのいくつかを紹介したいと思います.
 その第一は,"医学検査技術者の現状と将来の展望"というシンポジウムです.米国の検査技術者は,大学で一定の単位を修め,最終的に一年間の医学検査学コースで学士号を取得すれば免許資格が得られたようですが,現在は,CAHEA(Committee on Allied HealthEducation and Accreditation)という,米国医学協会と種々のaHied health分野の専門団体との合同協議体で決めた教育プログラムに従い,各医療技術専門分野に応じた大学での一貫教育が主流になりつつあるようです.しかし,問題は,このような教育を受けようとする16〜21歳代の若者が米国ではだんだん少なくなっていることと,業務の自動化とそのソフト面への対応の増加だということでした.

私のくふう

顕微蛍光測光装置による単一細胞内カルシウム測定の検討

著者: 庄野正行 ,   山口久雄 ,   佐藤幸一 ,   宮本博司

ページ範囲:P.1219 - P.1219

 顕微蛍光測光装置を改良して,細胞内カルシウム量の定量を検討した.細胞内カルシウムの測定は細胞群によって測定されていたが,最近単一細胞での測定が,アメリカ,ヨーロッパ,そして現在日本でも盛んに行われるようになってきた.今回,個々の細胞のカルシウム量を蛍光色素FURA−2で染色し測定した.FURA−2は細胞内カルシウム濃度測定のための蛍光試薬としてR.Y.Tsienによって1985年に発表されたものである.カルシウムと結合したFURA−2の励起光は340 nm〜380nmに対し約500 nmにピークをもつ蛍光を発する.現在,カルシウム濃度は励起光340nm/380mmの蛍光強度比とカルシウム濃度の関係を示すキャリブレーションカーブ(相関グラフ)を用いて算出されている(図1).この方法を基礎にして測定した.

質疑応答

臨床化学 pH勾配ゲル電気泳動法

著者: 島尾和男 ,   K生

ページ範囲:P.1221 - P.1224

 〔問〕 pH勾配ゲル電気泳動法の操作法や利点について,具体的にお教えください.

臨床化学 尿中微量アルブミン定量の診断的意義

著者: 羽田勝計 ,   吉川隆一 ,   繁田幸男 ,   N生

ページ範囲:P.1224 - P.1226

 〔問〕 尿中微量アルブミン定量の診断的意義として,その基準をご教示ください.また,採尿条件などもあわせてご指導ください.

微生物 組織侵入性大腸菌の検査法と疫学

著者: 松下秀 ,   工藤泰雄 ,   N生

ページ範囲:P.1226 - P.1229

 〔問〕 組織侵入性大腸菌の検査法についてご教示ください.また,この菌の疫学についてもお教えください.

微生物 HIV感染の予後・病期診断のための検査法

著者: 中井益代 ,   佐野浩一 ,   K生

ページ範囲:P.1230 - P.1232

 〔問〕ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)感染の予後診断や病期診断のマーカーとなる検査法についてご教示ください.

一般検査 セロファン厚層塗抹法

著者: 肥塚卓三 ,   中恵一 ,   N生

ページ範囲:P.1232 - P.1234

 〔問〕虫卵検査法の"セロファン厚層塗抹法"についてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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