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雑誌目次

論文

臨床検査33巻11号

1989年10月発行

雑誌目次

特集 癌の臨床検査

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1243 - P.1244

 癌は,いまやわが国における死因の第1位にのし上がり,年間約20万人が癌によって死亡している.癌の本質はいまだ解明されておらず,進行癌に対する決定的治療法がない.しかし,早期に発見し,完全に摘出することによって,完治しうるようになった.それは主として,一般住民の健康意識が高揚し,検診が普及したために,無症状の早期癌が発見されるようになったことによる.この意味からも癌の臨床検査の重要性はますます増大している.そこで今回は「癌の臨床検査」を本誌増刊号のテーマとして取り上げることになった.もちろん,癌という病気について不明な点が多い現状では,系統立った特集内容は望むべくもない.しかし,近年,遺伝子レベルでの研究がかなり進んでおり,それの癌診断応用への展望も見えてきたので,不備な点は多いとはいえ現時点での知見を集大成する意義が十分にあると考えたのである.
 「癌の臨床検査」というと,大きく二つの立場から考えられる.一つは"癌であるかどうか"を知るための臨床検査であり,もう一つは"癌とわかった場合に担癌生体がどのように侵食されているか"を知るための臨床検査である.

総説 癌の新しい知見

著者: 漆崎一朗

ページ範囲:P.1245 - P.1252

はじめに
 「癌の新しい知見」というテーマが与えられたが,基礎研究から臨床研究に及ぶきわめて広範囲でしかも高度に進歩している癌の研究領域において,最近の新知見を網羅することは,きわめて困難な仕事であるといわざるをえない.幸いにも,今回の増刊号の意図するところは「近年特に進歩している癌の診断・治療の側面のうち臨床検査が関係する知見を内容とすることにした」ということであるので,この方向に限ることにした.
 さて,この癌の臨床検査の分野はご承知のように分子生物学,生化学,免疫学の日進月歩の発展により新しい知見が集積されつつある研究領域であり,本号においても発癌ウイルス,癌関連ウイルスに始まり,癌遺伝子,各種腫瘍マーカー・病態検査,癌の検診に及ぶ,多くのトピックスが取り上げられている.これらとの重複を避け,紙幅を考慮して,以下の5項目を選択したことをお許し願いたい.

I 癌そのものをとらえる検査

4 癌の染色体異常

著者: 越智尚子

ページ範囲:P.1445 - P.1454

はじめに
 癌の染色体研究の歴史は古いが,その成因や病因論的意義などの面から多くの関心がもたれるようになったのは,1960年Nowellらによる慢性骨髄性白血病(CML)におけるPh1染色体の発見に端を発する1)
 この頃,染色体検査技術的にも低張液前処理法,空気乾燥法,オートラジオグラフィー法の導入など進歩がみられ,CML以外の白血病でもさまざまな染色体異常が発見されるようになったが,まだ個々の染色体の同定が不十分であったため,Ph1に匹敵するような病型に特異的な異常は見つからなかった.

5 細胞診

著者: 高橋正宜

ページ範囲:P.1455 - P.1465

はじめに
 細胞診は当初,腔分泌物のホルモン細胞診を端緒として始まり,約10年遅れて1950年代に子宮頸癌の発見を嚆矢として癌細胞診が主役を担うようになってから40年を経ている.
 癌の病理学的診断には,かつて基底膜を破壊した浸潤性増殖が重要な判定条件の一つであったが,0期癌の基準が確立されてからは癌の増殖機能を表す特徴に置き換えられている.細胞診は画像診断の発展に伴って活用域は拡大し,aspiration needle biopsy cytology(ABC法)として主要な分野をなしている.膵,肝,肺,卵巣など,乳腺,甲状腺,前立腺に加えて深部諸臓器も診断の対象となっている.しかも,それは単なる悪性腫瘍の確認ではなく,いつ(early or advancedstage),いかなる形状の(cell typing),どこから(primary site)発生し,どんな増殖性格か(growth behavior),の面の情報も提供する時代である.

6 組織診

著者: 里悌子 ,   長村義之

ページ範囲:P.1466 - P.1474

はじめに
 組織診は,患者から採取された種々の形状の組織を材料とし,良性・悪性を含めた質的診断を行う病理検査であるが,現在の医療では,癌の最終診断を行う検査として欠かすことのできない一診療分野である.現行の医療保険制度では,1臓器当たりの病理検査料は740点で,迅速診断はさらに1,000点が加算される.また日本病理学会による有試験の病理認定医制度があり,認定医が中心となって組織診を行っている.組織診は病理医により診断が下されるまでに,多くのステップを踏んで標本が作製される検査であり,どんなに小さな組織片でも,採取後最低1日は標本作製に時間がかかり,迅速診断を除いては即日返答のできない点で特異な検査である.また,病理医の診断力,情報評価力,および技師の標本作製能力の両者がそろって初めて的確な診断がなされる性質のものである.
 本稿では,組織診として扱う標本の種類,標本作製法,染色法を述べた後に,癌の組織診断を中心に組織標本の見かたを解説する.また癌診断にしばしば用いられる免疫組織化学にも言及し,実例を供覧したい.

1 ウイルスに関する検査

A.発癌とウイルス

著者: 畑中正一

ページ範囲:P.1254 - P.1258

はじめに
 ヒトの癌がウイルスによって起こる可能性を,10年前に信じる人は少なかった.ところが今は,癌の臨床検査の中に当然のこととして容れられるようになった.もちろんBurkittリンパ腫のように,1960年代からヘルペス型のウイルスであるEpstein-Barrウイルスが発見されて,ヒトの腫瘍にもウイルスが関与することが早くから明らかにされたものもある.それでもBurkittリンパ腫はアフリカの限られた地方に発生するきわめて特殊な腫瘍であり,われわれ日本人が普通の病院で出くわすような腫瘍ではない.
 日本人にとって最も衝撃的なニュースは,1981年にもたらされた.成人T細胞白血病がHTLV-Iと呼ばれるレトロウイルスによって生じることが,京都大学ウイルス研究所の日沼頼夫教授らによって発見されたからである.さらに驚いたことには,子宮頸癌がヒト乳頭腫ウイルス(HPV)によることがドイツのH.zurHausen教授らによって明らかにされた.HPVに感染している人は20〜50%に達するといわれており,今では子宮頸癌のみならず,肺癌などを含めて広くいろいろな臓器癌にも関係することが知られてきた.一方,肝臓癌はB型肝炎ウイルス,非A非B肝炎ウイルスの関与が濃厚になってきた.特に日本にとって関係の深いのはB型肝炎ウイルスである.毎年発生する実質性肝癌の半分はこのB型肝炎ウイルスによるもので,残りは非A非B肝炎ウイルスによるものが多いであろうと推測されている.

B.癌関連ウイルス 1)成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-I)

著者: 田中篤

ページ範囲:P.1259 - P.1262

はじめに
 成人T細胞白血病(ATL)は,日本の西南地方に偏在し,特有の臨床症状を呈する白血病,リンパ腫として1977年にその臨床概念が発表された1).その後1981年に,日沼らによってその病因ウイルスの存在が明らかにされ2),その遺伝子解析がなされた結果3),1980年にPoiezらによりヒトのT細胞白血病の培養株から発見され報告されていたもの4)と同一のレトロウイルスであることが判明し,現在,ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)と呼ばれている.ATLはヒトの白血病の中で,その発症にウイルスが関与することが明らかにされた最初の例であり,このHTLV-Iの関与のしかたを解明することは,ヒトの発癌機構の解明に直結することであり,また癌の予防,診断,治療に対してより具体的な道を拓く,実際に拓きつつあるものと期待されている.
 ここではまずHTLV-Iのウイルスそのものに関する知見,癌への関与のしかたに関する知見をまず述べ,次いで,このウイルス感染の検査法について概略し,最後にウイルス感染陽性という事実を発癌性という観点からどうとらえ,対処したらよいのかを考えてみたい.

B.癌関連ウイルス 2)ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)

著者: 岩坂剛

ページ範囲:P.1263 - P.1267

はじめに
 ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus;HPV)の検出は,このウイルス感染の特殊性から,他の多くのウイルス感染を診断するように簡単にはいかない.適当な血清学的診断法もないし,培養細胞を用いて臨床材料からウイルスを分離することもできない.一方,良性の増殖性感染を起こしている部分であれば,電顕や免疫組織化学的検索法を用いることによって,ウイルス粒子あるいはカプシド蛋白を証明することは可能である.しかし,いずれの方法もその検出感度に問題があり,特に癌細胞において観察されるようにウイルスDNAが存在するのに粒子形成がみられなかったり,カプシド蛋白が合成されていなかったりするような場合は検出不可能である.そこで,HPV感染の診断は,こうした労多くして実りの少ない検査法より,主に細胞診や生検組織の病理学的診断に頼ってきた.
 HPV感染による形態学的特徴は上皮組織表層から中層にかけて出現するkoilocytotic changeである.この診断は比較的容易であるが,この方法の欠点は,こうした形態学的変化を伴わないHPV感染を診断できないことであり,さらには最近重要視されているHPVの型について何の情報も得られないことである.HPV6,11型が一般に良性病変に見いだされ,HPV16,18,31,33,35型が主に悪性病変に強い関係をもつといわれていることを考えるとき,HPVの型の診断はこれから特に重要となってくる.

B.癌関連ウイルス 3)Epstein-Barrウイルス(EBV)

著者: 巽英二

ページ範囲:P.1267 - P.1272

はじめに
 Epstein-Barrウイルス(EBV;ヘルペス・ウイルス属)の既感染が,①遺伝子(DNA),②遺伝子由来産物(抗原),③形態観察(電顕),④試験管内生物活性,⑤細胞性免疫,⑥血清学,などに基づいて証明されることは,他の遺伝子継続存在型(持続または潜伏)感染をするウイルスと同様である.EBV感染は,ⅰ初感染,ⅱ正常既感染状態,ⅲ再活性化,を区別して意識する必要があり,さらにⅱまたはⅲを前提として,EBVが多くの他の因子とともに腫瘍化に関与し,ⅳ腫瘍の担EBVが問題となる.良性に経過しつつある炎症性疾患の鑑別にⅰ (すなわち伝染性単核球症,以下IM)を問題にする場合は⑥で事足りるが,種々の免疫不全を伴うⅰやⅲの診断確定,そしてⅳが検索対象の場合,①から⑥を状況に応じ材料を選んで適用していくことが必要となる.
 以下,EBVに関係した臨床材料の検索について概説する.

B.癌関連ウイルス 4)単純ヘルペスウイルス(HSV)

著者: 森良一 ,   日高靖文

ページ範囲:P.1272 - P.1275

はじめに
 ヘルペス科のウイルスは,自然界に広く存在し,潜伏感染を特徴とする.そして,宿主の状態に応じて,ウイルスの再活性化,再発を引き起こす.それゆえに,病因不明の疾患の場合,病因としてヘルペス科のウイルスを疑うことがしばしばなされてきた.子宮頸癌の場合も例外ではなく,陰部に感染を起こし,潜伏して再発する単純ヘルペスウイルス(herpes simplexvirus;HSV)2型(HSV−2)が,病因として疑われたのである.子宮頸癌患者は正常人と比べてHSV−2に対する抗体価が高いことや,その抗体が子宮頸癌組織と反応することが報告されたこともあった.また,実験室においては,HSV−2を用いて動物に腫瘍を作る試みや,HSV−2のDNAを用いて細胞をトランスフォームさせる試みがなされてきた.しかし,自然発生するヒトの子宮頸癌とHSV−2の関連性はあまりないと考えられるに至っている1〜4).したがって,本特集にHSVを加えることには問題が多いが,歴史的には重要なウイルスであり,またHSVのDNAの断片にトランスフォーメーションの能力があることも事実であるので,この項が加えられることになった.本稿においては本特集の主旨に従い,まずHSVに対する検査法を概説し,HSVと発癌性について述べる.

B.癌関連ウイルス 5)B型肝炎ウイルス(HBV)

著者: 樋野興夫

ページ範囲:P.1275 - P.1281

はじめに
 マスコミでは,昨年来,大きく報道されていたアメリカのカイロン社による非A・非B型肝炎ウイルスの分離・同定に関する学術論文が,この原稿をしたためているときにちょうど,"Science"誌(1989年4月21日号)に掲載された1,2)
 これまでの非A・非B型肝炎ウイルスの発見の記事は,どれも発表されては,いつの間にか消えていく,という自然史をとってきたものであるが,今度こそは本物であると,多くの人々は期待を寄せている.カイロン社の発表によれば,このウイルスは,positive-strandをもつ約10,000塩基対の大きさのRNA型ウイルスで,TogaないしFlaviウイルス様であるという.この遺伝子の全構造も,間もなく学術論文に発表されることであろう.1965年Blumbergがオーストラリア抗原を発見(ノーベル賞受賞)して2年後,これが肝炎と関連することが判明し,この抗原がB型肝炎ウイルス(HBV)表面抗原そのものであることが確認されたときとよく似た情況になるのではないだろうか.その後,たちまちにしてHBVの診断,予防は確立されていったのである.

2 癌遺伝子に関する検査

A.発癌と癌遺伝子・遺伝子異常

著者: 関谷剛男

ページ範囲:P.1282 - P.1287

はじめに
 癌はDNAの病気である.30億個の塩基の配列で作り出される遺伝情報のどこかに傷がつくことによって,細胞は癌化する.では,DNA上のどこに傷がつくと癌になるのか,これが問題となる.DNA上には遺伝子が並んでいるが,細胞を殺さずに,逆に増殖させ続けるようなDNAの傷としては,蛋白質をコードするような遺伝子のどれかの傷が考えやすい.蛋白質をコードする遺伝子は5万〜10万個存在することが想定されているが,その中でも,細胞の増殖にかかわる遺伝子を考えるのが妥当である.
 それでは,どのような増殖制御遺伝子の異常がヒトの癌で観察されているかを概観してみることにする.しかし,細胞増殖にかかわる遺伝子といっても,どれについて調べればよいのかが問題である.ヒト癌で異常を示す可能性のある候補遺伝子を知る必要がある.まず,これらの候補遺伝子を見つける方法から紹介することにする.

B.癌遺伝子の検査法 1)DNAプローブ診断法

著者: 野島博

ページ範囲:P.1287 - P.1293

はじめに
 ここ十数年の癌に関する分子生物学的研究の著しい進展によって,化学発癌,ウイルス発癌にかかわらず,細胞の癌化過程における遺伝子上の変化の果たす役割の重要性が強く認識されてきた.正常細胞は増殖促進あるいは抑制という正,負のバランスをうまく保って節度ある生命活動を営んでいるが,化学物質,放射線,ウイルス感染などの外因あるいは複製の誤謬や遺伝的素因などの内因が単独で,あるいは絡み合って増殖制御を狂わすような形で遺伝子上に不可逆な変異を起こすと,細胞は無限増殖の道をたどることになる.
 これまでに発見され解析されてきた40種以上の癌遺伝子は,ほとんどが増殖シグナルの受容・伝達または核内での転写制御にかかわる増殖促進因子であったが,最近になって遺伝性腫瘍の研究から新たな癌関連遺伝子が癌抑制遺伝子の候補として注目を浴びている.これらの進展をもとに臨床検査の場でも早期診断から予後の予測,遺伝的素因の有無を知るための腫瘍マーカーとしてのDNAプローブ診断法への期待が高まっている1〜3)

B.癌遺伝子の検査法 2)RFLPによる方法

著者: 佐々木雅之 ,   笹月健彦

ページ範囲:P.1294 - P.1297

はじめに
 RFLP(restriction fragment Iength polymorphisms;制限酵素断片長多型)とは,DNAを制限酵素で切断した場合に特定の部位の断片の長さが異なることをいう.すなわち,約80種類の制限酵素はそれぞれ特定の塩基配列を認識してDNAを切断するが,DNAによって切断点が異なる場合にRFLPが生じる.DNAの塩基配列には数百塩基対に一つくらいの割合で変異がみられるといわれており,制限酵素の認識部位の中に変異が生じると切断不能となったり(切断点の消失),変異によって新たな切断点が形成されたりすることがある(切断点の新生).また,塩基対の挿入や欠失,遺伝子間の不等乗り換えなどによってDNA断片の長さが変化する場合もある(図1).

B.癌遺伝子の検査法 3)特異抗体を用いる方法

著者: 珠玖洋

ページ範囲:P.1298 - P.1302

はじめに
 多くの癌遺伝子の解析が,DNA,RNAおよびその最終産物の蛋白レベルで進められている.
 癌遺伝子産物(蛋白)に対するモノクローナル抗体は,とりわけ特異性および供給性という点で優れており,癌遺伝子解析のためにきわめて有用である.ヒト癌とのかかわりが強く示唆されているいくつかの癌遺伝子について,それらの蛋白に対するモノクローナル抗体が作製され,各種細胞(組織)における癌遺伝子の発現,蛋白の構造および機能解析に用いられている.

C.臨床に有用な癌遺伝子 1)erbB関連遺伝子—c-erbB−1/EGFレセプターとc-erbB−2

著者: 山本雅

ページ範囲:P.1302 - P.1308

はじめに
 強い発癌能を有するレトロウイルスの分子生物学的解析から,これまでに25種類の癌遺伝子の存在が明らかにされている.これらの癌遺伝子ならびに対応する癌原遺伝子の構造と機能の解析から,レトロウイルス癌遺伝子の多くは,細胞の増殖を調節する蛋白質をコードする細胞性遺伝子に由来することが明らかとなった1).また,25種類の癌遺伝子のうちの半数近くがチロシンキナーゼをコードすることから,チロシンキナーゼの発現異常が細胞の癌化を導く大きな要因となっていることがわかる.
 細胞性チロシンキナーゼには,3通りのグループが存在する2).一つはレセプター型で,EGFレセプターやインスリンレセプターなど増殖因子の受容体あるいはc-erb B−2/neu,ephやret,met遺伝子産物など,増殖因子受容体様蛋白質である.もう一つのグループは,非レセプター型チロシンキナーゼで,src,yes,fyn,lyn,fgr,hck,lck,tklの8種類の遺伝子産物である.src遺伝子産物p60srcに代表されるように,いずれの遺伝子産物も,分子量が60,000前後であり,アミノ酸配列の上でお互いによく似ている.これらの類似蛋白質をコードする遺伝子が8種類存在する意義について,特に,発現の特異性,また,それぞれの蛋白質の特異的な機能を中心に研究が進められているが,それらについてはここでは触れないので別の総説2,3)を参照していただきたい.

C.臨床に有用な癌遺伝子 2)N-myc遺伝子

著者: 嶋武博之 ,   塚原哲夫 ,   中川千鶴

ページ範囲:P.1308 - P.1312

はじめに
 N-myc遺伝子は,神経芽細胞腫,網膜芽細胞腫およびWilms腫瘍などの特定の小児癌でのみ発現しており,胎児期を除いた正常組織ではその発現が認められない.これらN-myc遺伝子が発現している腫瘍(N-myc性腫瘍)の中には,N-myc遺伝子増幅型と非増幅型とが存在する.神経芽細胞腫において,N-myc遺伝子の増幅は予後と密接な関係を有しており,小児外科領域では不可欠な診断法となりつつある.一方,抗ヒトN-myc蛋白抗体によるN-myc遺伝子産物(N-myc蛋白)の検出法1)では,神経芽細胞腫などにみられるN-myc遺伝子増幅型腫瘍のみならず,非増幅型の腫瘍においてもN-myc性腫瘍であることを同定することができる.
 N-myc性腫瘍の検査は,①遺伝子増幅の有無を検出するものと,②N-myc蛋白の発現を調べるものとがあり,以下おのおのについて述べる.

C.臨床に有用な癌遺伝子 3)ras遺伝子

著者: 杉山武敏 ,   小川勝彦 ,   小川修

ページ範囲:P.1313 - P.1317

はじめに
 ras遺伝子にはHras,Kras,Nrasが知られているが,いずれも細胞増殖と分化に関与するG蛋白系列の遺伝子である.GTPに結合してGDPに変える加水分解機能をもち,細胞膜を通じての信号伝達機構に関与している,ras遺伝子に塩基置換による遺伝子突然変異が加わり活性化する.この遺伝子の突然変異が癌に頻繁にみられるので,癌発生や進展に本遺伝子が頻繁に関与しているとみられている.
 以下に,ras遺伝子の概要,遺伝子異常の検出法,癌における意義を総括的に述べたい.

3 癌組織産生物質"腫瘍マーカー"の検査

A.総論 1)概説

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1319 - P.1322

腫瘍マーカーとは
 腫瘍マーカー(tumor markers)というのは,癌細胞が産生し,そのものを組織や細胞または血液などの体液や分泌液や排泄液中に検出・定量することが臨床的に役立つ物質をいう.さらに,広義には,必ずしも癌細胞が産生しているわけではないが,癌の診断や経過観察に役立つ物質,例えば炎症マーカーまで広く含めることもある.理想的には,癌細胞のみがもっている癌特異物質(抗原)(cancer-specific substances or antigens)を測定することが望ましいが,現在のところそのような物質が発見されていないか,少なくとも実用的な測定法がないので,やむなく癌関連物質(抗原)(cancer-associated substances or antigens)が腫瘍マーカーとして用いられている.癌関連物質というのは,癌細胞のみに存在するというものではないが,癌細胞中に増加してくるものである.したがって,現在臨床的に使われている腫瘍マーカーは,厳密に癌のみに陽性または増加するというものではない.

A.総論 2)癌の糖鎖抗原

著者: 神奈木玲児 ,   高田亜希子 ,   松田弘二 ,   銭田晃一

ページ範囲:P.1323 - P.1330

モノクローナル抗体と癌の糖鎖抗原
1.モノクローナル抗体による癌抗原の研究
 最近,新しい腫瘍マーカーが次々と臨床検査に導入されている.腫瘍マーカーがこのように活発に開発されるようになった背景には,1975年にKöhlerおよびMilsteinによって樹立されたモノクローナル抗体による抗原研究法がある.この方法の応用によって,α—フェトプロテインおよびCEA以来長い間途絶えていた新しい腫瘍マーカーの開発が飛躍的に進展した.この十余年の間,世界中の癌抗原の研究者が,癌細胞に対するモノクローナル抗体を数多く作製した.これらが次々と臨床検査に導入されつつあるわけである.
 これらのモノクローナル抗体の多くは,マウスをヒトの癌細胞で免疫するという方法で得られている.したがって,癌細胞の表面に存在する物質であれば,蛋白質であろうと,糖鎖であろうと,脂質であろうと,原理的にはどんなものでも抗原たりうるははずである.しかしながら,こうして得られたモノクローナル抗体のうち,臨床的に役立っ抗体のほとんどのものが,糖鎖を認識抗原とすることが判明している.このため,糖鎖抗原が癌抗原としてたいへん重要であることがわかってきたのである.以上のモノクローナル抗体を用いた癌抗原の基礎研究の経緯については,総説(文献1〜4)を参照されたい.

B.各論 1)CEA

著者: 大倉久直

ページ範囲:P.1331 - P.1333

はじめに
 CEA (carcinoembryonic antigen;癌胎児性抗原)は1965年Goldが大腸癌から抽出した,分子量約20万の糖蛋白である.その後,CEAが単一の抗原でなく,CEAと抗原の一部を共通にもった類似抗原が,正常糞便,胎便,胆汁,肺組織などに存在することが知られ,NCA,NCA2,BGP−1,NFAなどと命名された.最近,精製抗原の解析からその抗原決定基(エピトープ)の構造が明らかにされ,ペプチド鎖を作る遺伝子が合成された.その結果からも,CEAと関連抗原の構造の類似性が明らかであって,最も特異性が高いとされているモノクローナル抗体でも,一部の非癌組織と反応する.したがって,われわれが日常測定しているCEAとは,癌と胎児細胞で作られる一定の共通抗原エピトープをもったCEAグループ糖蛋白分子の総称といえよう.またCEAは大腸・直腸癌だけでなく,胃癌,乳癌,肺癌などの多くの腺癌と甲状腺髄様癌でも産生される.

B.各論 2)TPA

著者: 越智幸男

ページ範囲:P.1334 - P.1338

性状
 1957年,Björklundがヒト腫瘍および胎盤から精製した腫瘍マーカーである1〜3).TPAは単純蛋白質であり,糖や脂質を含まない.電気泳動では,β—グロブリンの易動度をもち,等電点は4.8である.α—ヘリックス構造を有している.アミノ酸は,アスパラギン酸,グルタミン酸,ロイシンの含有量が多いが,システインが少ない.活性に必要なアミノ酸は,チロジン,アルギニンである.
 TPAは溶解しにくく,溶液の状態では凝集する傾向がある.SDSでのゲル濾過によって数個の分画(分子量:43,000,30,000,17,000)に分けられる.この分子量43,000のTPAB1は1本のポリペプチドで,380のアミノ酸から成り,主要アミノ酸は,グルタミン,グルタミン酸,アスパラギン,アスパラギン酸,ロイシンである.システインとシスチンは見いだされていない.

B.各論 3)BFP

著者: 石井勝

ページ範囲:P.1338 - P.1341

はじめに
 BFP (basic fetoprotein;塩基性胎児蛋白)は,1974年筆者1,2)によりヒト胎児の血清,腸および脳組織中に見いだされた,γ-グロブリン分画に電気泳動される蛋白である.本蛋白は分子量55,000,等電点8.5〜9.15の塩基性蛋白である3)
 BFPは生化学,免疫組織化学的研究により胃癌,結腸癌,原発性肝細胞癌,肺癌,乳癌,腎癌,膀胱癌,睾丸癌,子宮癌,卵巣癌,白血病細胞など広範囲の諸種の悪性腫瘍に存在し,主に原形質に局在することが明らかにされている4).1982年にはBFPのモノクローナル抗体が作製され5),これを用いた酵素免疫学的測定法(EIA)が開発され,BFPの腫瘍マーカーとしての有用性が検討された3).その結果,BFPは原発性肝癌,膵癌および胆嚢・胆管癌などの消化器癌,肺癌,腎癌,睾丸癌,前立腺癌,卵巣癌および子宮癌などの泌尿生殖器癌などbroad spectrumな腫瘍マーカーとしての有用性が報告7)されている.

B.各論 4)IAP

著者: 田村啓二 ,   佐藤豊二

ページ範囲:P.1342 - P.1345

はじめに
 癌患者では免疫機能の低下が広く認められており,細胞性免疫と液性免疫の両面の低下について研究がなされている.免疫機能の検査は大きく次の三つに分けられる.
(1)個体を対象に行う遅延型皮膚反応

B.各論 5)ポリアミン

著者: 久保田俊一郎

ページ範囲:P.1346 - P.1349

はじめに
 ポリアミンは低分子の非蛋白性窒素化合物で,生物界に広く存在する.代表的なポリアミンは,プトレシン〔H2N—(CH24—NH2〕,カダベリン〔H2N—(CH25—NH2〕,スペルミジン〔H2N—(CH24—NH—(CH23—NH2〕,スペルミン〔H2N—(CH23—NH—(CH24—NH—(CH23—NH2〕である.哺乳動物においては,ポリアミンはアミノ酸のアルギニン,メチオニンに由来し,細胞の増殖,分化に密接な関連をもつ.ポリアミン合成経路のうち,オルニチンからプトレシンが形成される反応に関与するのがオルニチン脱炭酸酵素(ornithine decarboxylase;ODC)である.ODCは,静止状態の細胞で活性が低く,ホルモン,成長因子あるいは組織の再生などの刺激により増加する.また発癌物質投与によるマウスの皮膚癌1)あるいはラットの大腸癌2)で組織のODCが誘導される.
 ポリアミン研究の歴史は古く,約300年前にさかのぼるが,臨床研究は,1971年にRussell3)により種々の癌患者で尿中ポリアミン排泄が増加するとの報告がなされて以来,癌の診断方法として,また治療に対する効果判定の指標として,尿・血液などのポリアミン分析が数多くなされてきた4).しかし,癌診断としてのポリアミンは,必ずしも癌に特異的でないこと,また早期癌の診断は難しいこと,などが明らかとなった.

B.各論 6)エラスターゼ

著者: 平沢豊 ,   竹内正

ページ範囲:P.1349 - P.1352

はじめに
 エラスターゼは,動脈壁,項靱帯,肺,皮膚などに広く分布する繊維性蛋白"エラスチン"を分解・消化する酵素である.したがって,当初は肺気腫,動脈硬化症,出血性膵炎などの成因の観点から研究されていた.エラスターゼが膵癌における腫瘍マーカーとして注目されるようになったのは,大山ら1)によってラジオイムノアッセイ(RIA)によるヒト血清膵エラスターゼの測定法が開発され,さらに,木村ら2)によって膵疾患との関連性が示された1970年代後半からである.
 確かに,エラスターゼは他の膵酵素に比べると,膵癌をよく反映する.しかし,必ずしも膵癌だけではなく,急性膵炎や慢性再発性膵炎などの炎症性の膵疾患によっても血中エラスターゼの上昇がみられ,またエラスターゼが癌細胞によって産生される物質ではないことから,狭義の意味での腫瘍マーカーとは呼ばれていない.一方,膵癌による膵管閉塞や炎症が原因となって上昇した血中エラスターゼが,膵癌発見のきっかけとなることもしばしば経験されることである.

B.各論 7)CA19-9

著者: 澤武紀雄 ,   松田直人

ページ範囲:P.1353 - P.1357

はじめに
 近年,ハイブリドーマ法の導入によって,免疫原性の弱い糖鎖部分を認識できる力価の高い単クローン抗体(モノクローナル抗体)を得ることが可能になり,癌化に伴い変化した糖鎖を認識できる単クローン抗体が多数開発されるようになった.CA19-9はこのようなものの中で,血清腫瘍マーカーとして最も早くから登場し,臨床的にも高い評価を受けている.
 本稿では,本抗原の性状と腫瘍マーカーとしての有用性について概説する.

B.各論 8)KM01

著者: 曽山信彦 ,   大柳治正 ,   斎藤洋一

ページ範囲:P.1357 - P.1361

性状
 KM01は,ヒト結腸癌株化細胞COLO201を免疫原として,ハイブリドーマ法により,われわれの教室で作製されたモノクローナル抗体KM01抗体で認識される癌関連糖鎖抗原であり,抗体のサブクラスはIgG1である1,2)
 KM01はCOLO201細胞膜上に発現するとともに培養上清中にも分泌され,培養上清から抗体カラムで精製されたKM01は,トリプシンやプロナーゼ処理では失活せず,シアリダーゼ処理で失活することから,エピトープにシアル酸が関与していると考えられる(表1).

B.各論 9)DU-PAN−2抗原

著者: 澤武紀雄 ,   里村吉威

ページ範囲:P.1361 - P.1365

はじめに
 1982年,米国デューク大学のMetzgarら1)はヒト膵癌培養細胞(human pancreatic carcinoma-1;HPAF-1)を免疫原として,DU-PAN-1から-5の5種の単クローン抗体を得た.これらのうち,DU-PAN-2が膵癌患者の体液中の分泌抗原と高率に反応することから,腫瘍マーカーとして期待されるようになった.

B.各論 10)CA−50

著者: 石井勝

ページ範囲:P.1366 - P.1369

はじめに
 CA-50は,1983年スウェーデン,ゲーテボルグ大学のLindholmら1)によってヒト結腸直腸癌由来培養細胞株(Colo205)を免疫原としてハイブリドーマ技法を用いて作製されたモノクローナル抗体C-50が認識する糖鎖抗原である.CAはcarbohydrate antigenに由来する略称である.CA-50のわが国への導入は,1985年当初,Lindholmから競合RIA(competitive radioimmunoassay)用試薬供与の機会が筆者に与えられたことに初まる.これを用いて血清CA-50を測定した結果,Lindholmらが当時主張した大腸癌の腫瘍マーカーではなく,CA19-9とは若干異なる膵癌,胆嚢・胆管癌の腫瘍マーカーとしての高い有用性を認め,報告2)した.その後,わが国でもCA-50測定キットが開発され,他方,測定キットが国外からも導入され,今日ではほぼ膵癌,胆嚢・胆管癌の優れた腫瘍マーカーとして確立されてきたと考えられる.

B.各論 11)シアリルSSEA−1抗原

著者: 神奈木玲児 ,   井村裕夫

ページ範囲:P.1370 - P.1373

はじめに
 シアリルSSEA−1抗原は,癌胎児性の糖鎖抗原の一つであり,肺腺癌,卵巣癌および膵癌をはじめとする各種の腺癌患者血清中で高値となるので,これらの癌の血清診断に用いられている.本抗原の研究史は,SSEA−1抗原の研究に始まる.SSEA−1抗原は,初め米国ウィスター研究所のSolterおよびKnowlesによってマウスの着床前の初期胚に発見された抗原である.胚発生の一定の時期に特異的に出現するため,stage-specific embryonic antigen−1(発育時期に特異的な胎児性抗原の第1号)と名づけられた.これを略してSSEA−1抗原と呼ばれている.生化学的にはSSEA−1は糖鎖抗原であり,1982年になって抗原糖鎖の全構造が解明された.

B.各論 12)NCC-ST−439

著者: 大倉久直 ,   菅野康吉 ,   広橋節雄

ページ範囲:P.1374 - P.1376

はじめに
 NCC-ST−439とは,国立がんセンター研究所の広橋らがヒト胃癌をヌードマウスに免疫して作製したモノクローナル抗体,NCC-ST−439が認識するシアリル糖鎖抗原の名称である1).その抗原構造はいまだ不明であるが,末端にシアル酸をもった比較的短い糖鎖で,CA19-9,CA−50,シアリルSSEA−1,シアリルルイスXなどの既知の糖鎖とは異なることが確認されている.抗原が胃癌に対して作られ,免疫染色によって胃癌組織に高頻度に検出されたため,当初は早期胃癌診断に期待がもたれたが,血清中の抗原測定研究によって胃癌患者血清での陽性率は低く,むしろ乳癌,膵癌,胆道癌,大腸癌など多種類の腺癌での診断的意義が注目された.

B.各論 13)PIVKA-II

著者: 大倉久直 ,   梶村直子 ,   岡崎伸生

ページ範囲:P.1377 - P.1380

性状
 PIVKA-IIとは,ビタミンK欠乏に際して作られる異常プロトロンビンの一種で,protein induced by vitamin Kabsence-IIまたはdes-γ-carboxylprothrombinと呼ばれる.プロトロンビン前駆体のN端にある10個のグルタミン残基をカルボキシル化してグルタミン酸に変える酵素,γ-glutamylcarboxylaseにはビタミンKに依存性があるため,ビタミンK欠乏状態では正常なプロトロンビンが作られず,代わりにグルタミン酸残基を欠くか,または数の少ないPIVKA-IIが作られる.このPIVKA-IIはカルシウムイオンと結合できず凝固活性を欠いているために,正常プロトロンビンが低下し,PIVKA-IIが増加した病態では凝固異常がみられる.
 PIVKA-IIは初め未熟児のビタミンK欠乏性出血の病態把握のための指標として開発されたが,その後,新しい肝癌の腫瘍マーカーとして評価された.

B.各論 14)AFP

著者: 武田和久

ページ範囲:P.1380 - P.1384

はじめに
 ヒトα—フェトプロテイン(AFP)遺伝子はアルブミンおよびビタミンD結合蛋白とともにジーン・ファミリーをなして4番目の染色体上にあり,完全なDNA配列が決定されている1,2).いずれの遺伝子も肝で発現されるが,AFPは胎児,肝細胞癌,ヨークサック腫瘍などの悪性腫瘍で発現され3),その分子生物学的調節機構もしだいに明らかにされつつある4)
 本稿では,一本の複合糖鎖を有する糖蛋白としての量的および質的変化を取り上げ,肝細胞癌の診断にかかわる臨床的事項を中心に述べる.

B.各論 15)CA15-3

著者: 榎本耕治 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1385 - P.1387

 CA15-3は乳癌に対して特異性の高い腫瘍マーカーである.CA15-3RIAキットはヒト乳脂球膜(human milk fat globule membrane)上に存在する抗原MAM-6に対するモノクローナル抗体115D8をポリスチレンビーズにコーティング1)し,他方,乳癌細胞の膜成分に富む細胞抽出画分に対するマウスのモノクローナル抗体DF3を125Iであらかじめ標識しておいて2),固相サンドイッチ法でCA15-3を測定するキットである.

B.各論 16)SCC抗原

著者: 竹島信宏 ,   加藤紘 ,   中村薫

ページ範囲:P.1388 - P.1390

はじめに
 SCC抗原は扁平上皮癌の腫瘍マーカーとして利用されているが,一方では,皮膚科疾患などいくつかの陽性例も新しく報告されており,また細胞における産生について新しい影響因子も見いだされている.ここでは,SCC抗原の測定法や臨床成績の評価についての現況とその注意点について述べてみたい(詳細については総説1,2)を参照していただきたい).

B.各論 17)γ-セミノプロテイン

著者: 江藤耕作 ,   吉武信行

ページ範囲:P.1390 - P.1393

はじめに
 前立腺腫瘍マーカーとしては,1938年Gutmanら1)が報告した血中酸性ホスファターゼ(ACP)が長らく前立腺癌の診断,治療効果判定に用いられてきた.しかし特異性,感受性に乏しく,1964年Schluman2)がACP中の前立腺組織特異分画(PAP)を報告し,現在までこのPAPが腫瘍マーカーとして広く用いられている.そのPAPも,早期癌で陽性率が低いこと,遠隔転移を有する進行癌においても20〜25%に陰性例をみることから,前立腺癌に対する感受性,特異性の高い腫瘍マーカーの開発が待たれていた.
 われわれは,原ら3)によって発見されたヒト精漿特異抗原であるγ-セミノプロテイン(γ-Sm)に着目し,新しい前立腺腫瘍マーカーとして臨床応用し,その有用性を報告してきた4,5).今回,γ-Smの性状,測定値の読みかた,臨床的効用について述べる.

B.各論 18)PA

著者: 三木誠

ページ範囲:P.1394 - P.1396

はじめに
 PA (prostate specific antigen;前立腺特異抗原)は,1979年にWangら1)がヒト前立腺組織から発見した蛋白質であり,他の臓器および組織には含まれず,ヒト前立腺にのみ存在するといわれる.したがって,前立腺癌の腫瘍マーカーとしては最も普及しているPAP (prostatic acid phosphatase;前立腺性酸性ホスファターゼ)以上の臨床的価値が期待されてきた.しかし,現在までの臨床的検討では,血清PAの測定が血清PAPの測定の価値を大きく凌駕するまでには至っていない.

B.各論 19)PAP

著者: 町田豊平 ,   池本庸

ページ範囲:P.1397 - P.1400

はじめに
 1936年にGutmanら1)が血清酸性ホスファターゼが前立腺癌で上昇することを見いだして以来,血清酸性ホスファターゼは前立腺癌の診断や,治療後の経過観察の指標として注目され用いられてきた.しかし,酵素法による酸性ホスファターゼ測定は検体の取り扱い(溶血など)や,酵素活性の不安定性,さらに偽陰性が多いなどのため,臨床的評価はいま一歩であった.しかし1970年代後半から,前立腺にのみ由来する酸性ホスファターゼ(prostatic acid phosphatase, PAP)の免疫学的な臓器特異性が解明されると,ラジオイムノアッセイ(RIA)やエンザイムイムノアッセイ(EIA)などの免疫学的測定法が次々と開発された.これらの免疫学的定量法は特異性,感度,安定性などの点で明らかに酵素法より優れ,その有用性が高く評価され,今日に至っている.
 以下に前立腺由来酸性ホスファターゼ(PAP)の性状,測定法,臨床的意義,問題点を教室での経験を中心に述べる.

B.各論 20)CA125

著者: 福島雅典 ,   木村英三 ,   佐々木寛 ,   寺島芳輝

ページ範囲:P.1401 - P.1404

性状
 CA125は,上皮性卵巣癌でも発生頻度の高い漿液性癌の培養株を用いて作製されたモノクローナル抗体OC1251)により認識される癌関連抗原である.CA125抗原の性状は十分に解明されていないが,セファロース2Bカラムによるゲル濾過でvoid volumeに溶出するので,全分子量は200万以上と考えられる.生化学的性状としては過ヨウ素酸,グリコシダーゼ処理で抗原活性は消失せず,加熱,プロテアーゼ処理で抗原活性が減弱することから,抗原決定基は糖鎖ではなくペプチド部分に存在すると推定される2)
 一方,OC125を用いた免疫組織化学的検討によって卵巣癌細胞のみでなく良性卵巣腫瘍組織,正常子宮内膜細胞,羊膜上皮などにも局在を認めており,この点に関しては癌特異性は低いといえる.なお,CA125の血中半減期については十分に解明されていないが,かなり短いものと予想される.

B.各論 21)NSE

著者: 有吉寛 ,   桑原正喜

ページ範囲:P.1404 - P.1407

はじめに
 臨床上有用性の高いマーカーの条件と考えられる因子には,腫瘍特異性,腫瘍感受性,臨床経過の正確な反映,あるいは簡便で信頼性の高い測定系の存在などが挙げられるであろう.近年,神経内分泌腫瘍や肺小細胞癌の腫瘍マーカーとして注目を集めている神経特異エノラーゼ(neuron-specific enolase;NSE)は,こうした要件をある水準以上で満足する腫瘍マーカーである.本稿ではNSEの性状と腫瘍マーカーとしての臨床的意義について詳述したい.

C.臓器別腫瘍マーカー 1)食道癌・胃癌

著者: 遠藤光夫 ,   竹下公矢 ,   山際明暢

ページ範囲:P.1408 - P.1410

はじめに
 食道癌,胃癌患者の術前に,また術後の経過観察過程で血清中の腫瘍マーカーを測定することは,実地臨床上,日常のものとなっている.食道癌と胃癌とでは,胃癌における実績のほうが多く,CEA,CA19-9がよく用いられている1,2)
 食道癌では,血中SCC(扁平上皮癌関連抗原)を主に測定しているが,CEAやCA19-9もいっしょに測定することが多い.また最近は,京都産業大・山科郁男教授により開発されたモノクローナル抗体(MSW-113)も食道癌の腫瘍マーカーとして用いている3)

C.臓器別腫瘍マーカー 2)大腸・直腸癌

著者: 小山洋 ,   丹羽寛文

ページ範囲:P.1410 - P.1413

はじめに
 近年わが国においては,環境の変化,特に食生活の欧米化に伴い大腸疾患,特に大腸癌は増加傾向にある.
 大腸癌の診断は通常,X線,内視鏡検査によって行われる.これらは形態学的に十分に確立された方法であり,これだけで確定診断ができるので腫瘍マーカーに頼ることは少ない.しかし,これらの検査は,前処置の複雑さおよび検査自体の被検者に対する負担が大きいことのために,腫瘍マーカーなどの簡便な方法で大腸癌がスクリーニングできれば,非常に有用である.しかし,残念ながら,現在では,そこまでには至っていない.
 以上のことから,大腸癌確定診断には腫瘍マーカーはあまり意味をもたない.しかし,大腸癌の再発についての診断のモニタリングには,腫瘍マーカーは非常に有用である.その点を考慮に入れて検査することが,重要である.したがって,すべての患者にスクリーニング目的で腫瘍マーカーの検査を行うことは,意味がない.同様に大腸癌,かなりの進行癌であっても,必ずしも陽性率は高くない.特に早期癌では,ほとんど意味がない.そのことを十分に認識したうえで,腫瘍マーカーを使用しなければいけない.将来,もっと特異性があり,感度の高い腫瘍マーカーが出現したときには,スクリーニングへの応用が期待される.しかし,現状では,そこまでには至っていない.

C.臓器別腫瘍マーカー 3)膵・胆・肝癌

著者: 服部信

ページ範囲:P.1414 - P.1417

はじめに
 膵・胆・肝癌は,従来,早期発見が難しく,かつ症例数も多く,増加の傾向も著しかった.1960年頃,ソ連のAberevがα—フェトプロテイン(AFP)の存在を実験的化学発癌で発表したのは,単に肝癌のみならず,腫瘍マーカー研究領域への一大刺激となり,現在に至るまで,この領域の癌に限定してもかなりの種類のマーカーが開発され,その各個についても基礎的に,臨床的に深く追究の手が及ぶ時代となった.また従来腫瘍マーカーと考えられなかったものの中にも,実はその性格を露呈するものが散見されるようになり,腫瘍マーカーの領域は著しく拡張した.

C.臓器別腫瘍マーカー 4)肺癌

著者: 石井芳樹 ,   北村諭

ページ範囲:P.1417 - P.1420

はじめに
 最近,モノクローナル抗体の技術の進歩によりさまざまな新しい腫瘍マーカーが開発され,検討されている.しかし,肺癌に特異的で,良性疾患との鑑別が可能であり,早期から検出され,スクリーニングにも役立ち,さらに肺癌の組織型も判定できるといった理想的なマーカーの発見,開発にはまだ成功していない.だが,特異性,感受性においてまだ十分とはいえないまでも,腫瘍マーカー測定の診断,治療における有用性は大きい.
 肺癌は,他の臓器腫瘍と比較し,その病理組織学的多様性から,関与する腫瘍マーカーも多彩である.肺癌における主な腫瘍マーカーを表1に示す.本稿では,代表的マーカーの臨床的意義について述べるとともに,肺癌の産生する異所性ホルモンについても触れたい.

C.臓器別腫瘍マーカー 5)乳癌

著者: 園尾博司

ページ範囲:P.1421 - P.1425

はじめに
 近年,種々の悪性腫瘍に対する腫瘍マーカーが発見され,乳癌についても多くの腫瘍マーカーが報告されている1).乳癌の腫瘍マーカーとしては血中,尿中の腫瘍マーカーのほかに,組織内のエストロゲンレセプター(estrogen receptor)や表皮増殖因子(epidermalgrowth factor)が挙げられるが,本稿では血中,尿中腫瘍マーカーのうち代表的なものを挙げ,原発および再発乳癌の診断,治療効果,予後における有用性について述べる.

C.臓器別腫瘍マーカー 6)泌尿器科領域の癌

著者: 斉藤泰

ページ範囲:P.1425 - P.1429

はじめに
 泌尿器科領域の癌である前立腺癌,膀胱癌,腎細胞癌などの中で,腫瘍マーカーが診断および治療経過を見るうえで役立っているのは,前立腺癌である.膀胱癌や腎細胞癌などでは特に役立つ腫瘍マーカーといわれるものはないが,現在診断や治療経過を見るうえで多少なりとも役立つものを病気の解説と併せて述べる.

C.臓器別腫瘍マーカー 7)産婦人科領域の癌

著者: 佐藤信二 ,   遠藤敦 ,   矢嶋聰

ページ範囲:P.1430 - P.1434

はじめに
 腫瘍マーカーは,1848年Sir Henry Bence Jonesにより多発性骨髄腫患者尿中に,Bence Jones蛋白の存在が報告されたのに始まる.その後Abelevによるα—フェトプロテイン(AFP)の発見,GoldによるCEAの発見などを経て一つの時代を迎え,近年はKoprowskiにより発見されたCA 19-9など,バイオテクノロジーを利用した細胞融合法で作られたモノクローナル抗体が,腫瘍マーカーに利用されるようになり,急速な進歩を遂げようとしている.
 本稿では産婦人科領域の癌に対する腫瘍マーカーの臨床応用の現況と問題点につき論述する.

C.臓器別腫瘍マーカー 8)甲状腺癌

著者: 岩崎博幸 ,   伊藤國彦

ページ範囲:P.1434 - P.1437

はじめに
 甲状腺癌は,濾胞癌,乳頭癌,髄様癌,未分化癌,その他に分類されているが,組織型によって臨床像も著しく異なっている.また内分泌腺から発生する腫瘍なので,特有な物質を産生・分泌する特徴を有している.最近,免疫組織化学の進歩により種々の知見が得られてきた.特にC細胞由来の髄様癌はカルシトニンを分泌し,各種腫瘍マーカーの中で最も理想的な腫瘍マーカーといいうる.
 本稿ではサイログロブリン,カルシトニンを中心に,新しい知見を含め,甲状腺癌における腫瘍マーカーについて述べたいと思う.

C.臓器別腫瘍マーカー 9)造血器腫瘍

著者: 吉田稔 ,   三浦恭定

ページ範囲:P.1437 - P.1441

はじめに
 造血器腫瘍のうち日常臨床の場でよく遭遇する疾患は,急性および慢性白血病,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫などである.従来はきわめて予後不良とされたこれらの疾患も,近年の多剤併用化学療法や骨髄移植などの進歩により長期生存(治癒)例が増加している.
 本稿では現在臨床上でその診断や治療後の経過観察に有用な腫瘍マーカーについて解説し,近い将来導入が期待される分野についても簡単に紹介する.なお,癌遺伝子についての詳細は別項を参照されたい.

C.臓器別腫瘍マーカー 10)小児癌

著者: 金子道夫

ページ範囲:P.1441 - P.1444

はじめに
 小児の悪性固形腫瘍としては神経芽腫,腎芽腫(Wilms腫瘍),肝芽腫,悪性奇形腫,横紋筋肉腫の5腫瘍が頻度が高く,重要である.これら5腫瘍のうち,診断・治療にきわめて有用な腫瘍マーカーを有するのは神経芽腫,肝芽腫,悪性奇形腫で,腎芽腫,横紋筋肉腫では臨床的に有用な腫瘍マーカーはまだ知られていない.小児腫瘍は成人の癌と違い,いずれもまれな疾患である.最も頻度の高い神経芽腫でも年間の新規患者数は200名程度にすぎない.したがって,成人のがん検診のような無症状な患者の効率的な早期発見はきわめて困難であった.しかし,神経芽腫では尿中のカテコラミン代謝産物のスクリーニングにより乳児期に早期発見ができるようになった.現在,全国的に神経芽腫のスクリーニングが実施されており,その治療成績はきわめてよい.この点に関して,わが国は世界の最先端を行っている.腫瘍マーカーの有用性を示した好例といえよう.
 最近では遺伝学の進歩により,これまでの生化学的腫瘍マーカーに加えて染色体や遺伝子も診断や予後予測の有力なマーカーとなってきており,今後さらに新しいマーカーが登場してくると思われる.

II 癌による病態変化をとらえるための検査

1 血液学的検査—造血器腫瘍を中心に

著者: 塚田理康

ページ範囲:P.1486 - P.1495

はじめに
 造血器腫瘍細胞の同定法としては,従来から細胞化学を利用した特殊染色法を含む形態学的観察が用いられてきたが,最近は免疫学的手段を用いる細胞膜抗原の同定,染色体分析の導入による腫瘍細胞に特徴的な染色体異常の検出,さらにDNA解析による遺伝子再編成(rearrangement)の証明,といった手法が取り入れられ,腫瘍細胞の正確な分類,予後の判定などが可能になってきた.
 悪性腫瘍の中でも造血器腫瘍細胞における分析は,材料である細胞が容易に入手しやすいことから最も進んでいる.したがって,本稿では,急性白血病,悪性リンパ腫を中心に,細胞化学,細胞膜抗原の種類,染色体異常について述べてみたい.

2 血漿蛋白検査と炎症マーカー

著者: 大谷英樹

ページ範囲:P.1497 - P.1500

はじめに
 体内に炎症性病変が存在するときに血中に増量する化学物質あるいは蛋白成分は,炎症マーカーと呼ばれるが,これらは癌患者血清においても増量するので,癌の補助診断や経過観察の指標としても広く利用されている.特に癌の病態変化をとらえるための血漿蛋白検査としては,簡単なものでは赤沈,電気泳動による血清蛋白分画などがスクリーニング検査法として用いられている.また,CRPを代表とする急性相反応蛋白に属する蛋白成分の定量も普及し,容易にしかも安価に測定しうる利点がある.

3 血液・尿中酵素の検査

著者: 菅野剛史

ページ範囲:P.1501 - P.1504

はじめに
 個体内に腫瘍が存在する場合に,その腫瘍の存在が異常酵素の出現または血清酵素活性値の変動として観察される例が多い.異常酵素の出現の例は腫瘍マーカーとしてとらえることも可能であり,耐熱性アルカリ性ホスファターゼのReganアイソザイムで代表される.また,腫瘍マーカーのように直接腫瘍を診断する検査所見ではないとしても,腫瘍の存在を疑わせ,かつ精密検査への第一歩として重要なのは,酵素活性値が変動する例である.これには白血病,悪性リンパ腫でのLDHの増加などを挙げることができる.しかし,それ以外に腫瘍自体がもつ直接の浸潤性,転移性迫性,閉塞性などの性質のために,酵素活性の変動として観察されるものも数多くある.肝内占拠性病変での膜結合酵素群の変動,骨転移での骨性アルカリ性ホスファターゼの活性上昇などは,その代表的なものである.
 ここでは,主に血中の酵素活性の変動からの悪性腫瘍の診断(存在の可能性の推定)について述べることとする.

4 免疫機能検査

著者: 河野均也

ページ範囲:P.1505 - P.1508

はじめに
 われわれの体には,生まれながらにして,自己と非自己を見分けて,非自己の成分を体外に排除しようとする防御機構(免疫機構)が存在し,一方,癌細胞には正常細胞には存在しない抗原が発現していると考えられる.したがって,生体に存在する免疫機能が正しく機能していれば,当然,腫瘍化した細胞はこの免疫機構によって排除されるはずである.しかし,このような免疫機構,特に細胞性免疫機能が障害されると,非自己であるはずの癌細胞を見逃し,増殖を許してしまうことになる.事実,原発性免疫不全症症例や,強力な免疫抑制療法を行っている臓器移植症例などでは,悪性腫瘍の発生が非常に高いことが知られている.また,癌を体内に保有する担癌生体では,その初期から免疫機能の低下が認められることが多く,進行癌ほどそれが著しく,その原因には腫瘍による免疫組織の破壊や,免疫抑制物質の出現,あるいはサプレッサーT細胞の増殖などが考えられている.
 本稿では,悪性腫瘍の経過観察中にしばしば実施されている免疫機能検査法とその意義について簡記してみたい.

5 ホルモン検査

著者: 中井利昭

ページ範囲:P.1509 - P.1512

 「癌による病態変化をとらえるホルモン検査」というのが本題であるが,内分泌腫瘍におけるホルモン検査は他稿に譲り,今回は異所性ホルモン産生腫瘍におけるホルモン検査およびホルモン感受性腫瘍におけるホルモンレセプター検査の二つに限って述べる.
異所性ホルモン産生腫瘍とホルモン検査

III 制癌剤に関する検査

1 血中薬物濃度モニタリング

著者: 藤本孟男

ページ範囲:P.1514 - P.1518

はじめに
 癌の化学療法による治療は,腫瘍・宿主および薬物の相互関係から抗癌剤の薬理学的特徴と腫瘍細胞の細胞増殖動態をうまく結合させ,体内薬物動態により,個々の患者の状態に応じた適正治療で,より多くの患者に,より高い治療効果を施すことが大切である.
 臨床薬物治療において,適正な投与量,投与スケジュールの設定は,試行錯誤によって発展してきた.しかし,一定量を患者に投与した場合,ある患者には卓効するが,ある患者には効果のみられないことが経験されている.この理由について大きな関心が寄せられている.近年になり,血漿(血清),髄液など体液中の薬物濃度を迅速,正確かつ容易に測定する技術が進み,臨床薬理学的に,効果または毒性と薬物濃度の間に密接な関連性があることが判明した.すなわち,薬物濃度が適正値域内にあることが望ましい臨床効果を示すことであり,異常な薬物濃度では毒性が生じることが判明した.

2 感受性を知るための検査

著者: 小林国彦 ,   仁井谷久暢

ページ範囲:P.1519 - P.1522

はじめに
 抗癌剤感受性試験は,その目的から次の二つに大別される.すなわち,個々の担癌患者からの検体から採取された癌細胞について種々の抗癌剤に対する感受性試験を行い,その薬剤の効果を予測するためのものと,新しく開発された薬剤が臨床導入前に有効かどうかスクリーニングするためのものとである.今回は前者について概述する.
 残念ながら,個々の症例について細菌感染症における感受性試験のような予測性の高い方法は,いまだ確立されていない.臨床における効果と抗癌剤感受性試験の成績との高い一致率を目指して,いろいろな試みが展開されている段階である.その試みを方法によりin vitro, in vivoに分けて述べる.

IV 癌の検診—主要な症候別癌診断・検査のポイント

1 主な症候血痰—肺癌

著者: 吉田清一 ,   譜久山當晃

ページ範囲:P.1524 - P.1528

はじめに
 上気道,下気道,さらに口腔からの出血が喀血あるいは血痰として認められるわけであるが,かつては結核を心配し,今は肺癌を含む気道系の悪性腫瘍と結びつけて心配するように知識が普及しているため,患者本人の受けるショックは小さくなく,大部分は比較的早く受診する人が多い.しかし,まれには高齢者で遅れて受診する例もみられる.一般的には,"のどから出た"との感覚があるためか,耳鼻咽喉科を受診するのが多い.耳鼻咽喉科的に血痰の原因が明確であればともかく,不明確なときには呼吸器専門医の受診を受けるよう紹介されるのが適当である.

2 主な症候胃部不快感—胃癌

著者: 石森章 ,   川村武

ページ範囲:P.1529 - P.1533

はじめに
 胃癌はわが国において最も頻度の高い癌であり,世界的にみても高率であることはよく知られている.したがって,わが国では胃癌の集団検診システムが早くから確率され,1958年の日本対ガン協会設立以来,広く実施されてきた.その結果,胃癌の早期発見と治療が可能となり,年齢訂正死亡率からみても減少傾向にあるが,一方においては罹患率も低下していることが指摘されている.
 実際にはこのような胃癌の訂正死亡率の減少は世界的な傾向でもあることが報告されており,富永の報告1)をみると,わが国の胃癌死亡率の減少は諸外国のそれと比較しても顕著なものではない.胃癌の集団検診を実施していないアメリカにおいても,わが国よりもむしろ著明な死亡率の低下を認めていることから,胃癌の死亡率の低下は集団検診の効果のみに起因するのではなく,食生活や環境の変化など複数の要因の関与が示唆されている.また従来の胃集団検診の評価に関する検討方法についても検査対象の偏在や特殊性が指摘されており,無作為対照比較試験による評価が要求されている2).国際的にはnot recommended as apublic health policy,except in Japanとされているが,しかし,いずれにしても胃集団検診が早期発見,治癒率の向上に寄与してきたことに変わりはなく,その意義を損なうものではない.

3 主な症候便潜血—大腸癌

著者: 北條慶一

ページ範囲:P.1534 - P.1539

はじめに
 大腸癌の主な初発症状をみると下部大腸癌では出血(血便)であり,上部大腸癌(結腸癌)では腹痛である1).後者ではかなり大きくなって腸管の狭窄が起こり,疼痛が出現するまで自覚症状が乏しいということがあるが,これは,少量の出血では肉眼的に気づきにくいためである(図1).最初はわずかな潜血である.癌の発育増大に伴って出血が増え,単なる血液の付着のみでなく粘液を混ぜた血塊ないし黒みを帯びた血便がみられ,それが長く続くと貧血を呈するようになる.このことから大腸癌の発見に便潜血テストが,また大腸癌の集団検診には便潜血テストによるスクリーニングが手段として利用されている2〜6)
 ここに大腸癌の検診,特に大腸集検における便潜血テストの意義を述べる.

4 主な症候黄疸—膵・胆・肝癌

著者: 小林誠一郎 ,   山本雅一 ,   高崎健

ページ範囲:P.1540 - P.1543

はじめに
 肝・胆・膵癌において,黄疸症状は大切な症候の一つである.特に胆管癌,乳頭部癌,膵頭部癌においては黄疸が初発症状である場合も多く,確実な診断により適切な治療法を選択してゆく必要がある.実際には,肝胆膵の悪性疾患にて経皮経管的胆管ドレナージ(PTCD)を施行した患者の約半数に外科的治療が選択されていた(表1).的確な診断のためには,閉塞性黄疸(外科的黄疸)の鑑別が重要であり,閉塞性黄疸の病態,緊急性を理解したうえでの検査計画が大切である1)
 本稿においては,一般検査から閉塞性黄疸の鑑別のためのキーポイントについて述べ,さらに特殊検査による質的診断,検査計画について記載する.

5 主な症候貧血—造血器腫瘍

著者: 大屋敷純子 ,   外山圭助

ページ範囲:P.1544 - P.1549

はじめに
 造血器腫瘍の診断においては,従来の細胞学的検査に加えて,モノクローナル抗体による細胞膜抗原の解析や染色体分析,遺伝子解析など多角的解析が必要になりつつある(表1).ことに,近年の分子生物学の進歩に伴う遺伝子解析は臨床のレベルで応用されつつあり,造血器腫瘍の新しい診断技術として注目されている.そこで本稿では,造血器腫瘍のうち白血病とリンパ腫について診断の進めかた,検査のポイントを新しい検査技術を含めて概説したい.

6 主な症候血尿—腎・膀胱癌

著者: 本間之夫 ,   阿曽佳郎

ページ範囲:P.1550 - P.1554

 血尿は腎癌・膀胱癌のみならず,他の多くの泌尿器科疾患の症候としても重要であり,癌に限ることなく,その臨床的意義と鑑別診断におけるポイントについて以下に述べる.
血尿の確定診断—血尿以外の《血尿》の除外

7 主な症候排尿障害—前立腺癌

著者: 秋元晋 ,   井坂茂夫 ,   島崎淳

ページ範囲:P.1555 - P.1559

はじめに
 排尿障害を訴える前立腺疾患は,老齢人口の増加とともに増えつつある.大部分は前立腺肥大症に代表される良性疾患で占められるが,前立腺癌も含まれる.この癌は年間死亡3,000を数え,近年,増加がいわれている1)
 排尿障害を中心に,診断を含めて述べる.

わだい

色素性乾皮症における発癌

著者: 堀嘉昭

ページ範囲:P.1475 - P.1476

はじめに
 色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum;XP)は,乳幼児期から強い日光過敏性を有し,露出部皮膚の悪性腫瘍の発現など種々の皮膚障害に加えて知能発達障害,その他の中枢・末梢神経障害などを伴う常染色体劣性遺伝性疾患である1)
 現在,A,B,C,D,E,F,G,H,Iの9群の遺伝的相補性群とvariant (変異型)の合計10亜群に分けられている.わが国におけるXP患者は推定10万人に1〜2.5人の割合と考えられており,それらの約30%に血族結婚がある.わが国では遺伝的相補性群Aと変異型が多く,F群はわが国においてのみ見いだされている2,3)

骨髄腫とサイトカイン

著者: 加納正

ページ範囲:P.1476 - P.1477

 リンパ球,マクロファージは生物活性を有する液性因子を多数産生・分泌し,免疫応答の調節を行っている.これらの因子の産生・分泌には,リンパ球,マクロファージ以外の細胞(多核白血球,線維芽細胞,上皮細胞など)も参加していることが明らかとなり,これらはサイトカイン(cytokine)と総称されている.
 骨髄腫(形質細胞腫)はB細胞系腫瘍の一つで,骨髄腫細胞は免疫グロブリン(単クローン性,M成分)を産生・分泌する.免疫グロブリンも一種のサイトカインと考えられるが,これよりもはるかに微量の種々のサイトカインが骨髄腫細胞によって産生・分泌されていることが明らかになった.さらに,一部のサイトカインについては,その受容体(レセプター)が細胞膜上に表現されている.受容体を介して,骨髄腫細胞は骨髄腫細胞自身あるいは別の細胞から分泌されるサイトカインと反応する.このようなサイトカインの関与する反応の解析を通じて,骨髄腫の生物学に光が当てられつつある.その成果は,骨髄腫細胞の増殖様式,骨髄腫の臨床像,さらに治療について,新しい視点を提供している.

シアル酸と癌

著者: 中恵一

ページ範囲:P.1477 - P.1479

はじめに
 シアル酸は,ノイラミン酸のアセチル誘導体の総称である.その臨床検査測定法や,臨床的意義についてはすでに総説もあり1,2),今日では日常的に測定されているので,ここでは癌関連検査の一つとしてのその測定意義を簡単に記述するにとどめたい.

癌性アルカリ性ホスファターゼ

著者: 飯野四郎

ページ範囲:P.1479 - P.1480

 癌性アルカリ性ホスファターゼ(ALP)として知られているものには,胎盤ALPに類似するものと胎児小腸ALPに類似するものの二つがある.前者は1967年,Fishmanらによって,肺癌患者血清中にケタはずれにALPが高値を示した例に見いだされたもので,当時としては,物理化学的にも,血清学的にも,生化学的にも胎盤ALPと区別できない腫瘍産生性ALPとして報告され1),患者名にちなんでRegan isoenzymeと名づけられた.その後,性状が多少異なるものの同じく胎盤性ALPに属するものが中山らにより発見され,Nagao isoenzymeとして報告された2)
 胎盤性ALPの最大の特徴は65℃の熱処理を行っても失活しないことであり,時に胎盤性ALPで上記の処理で多少の失活をみる場合もあるが,この場合でも,微量のMg2+を加えることにより,活性が低下しないことに特異性がある3)

サイログロブリンと甲状腺癌

著者: 内村英正

ページ範囲:P.1480 - P.1481

 サイログロブリン(Tg)は分子量66万の糖蛋白で,甲状腺濾胞細胞が生成し,濾胞内のコロイドの主成分として存在する.したがって,甲状腺細胞が特異的に生成し分泌している蛋白であり,甲状腺の組織量や活動性に関連して甲状腺内の含有量も変化する.正常者の血中にも検出され,その濃度はコロイド内と同様に甲状腺組織量,活動性に関係していることが明らかとなり,臨床検査としての有用性が認められた.RIAやEIAによる簡便な測定法も開発され,日常検査として容易に測定が可能となった.
 生理的には,TSHに依存して甲状腺から血中に放出され,甲状腺ホルモン(T3,T4)を服用すれば甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌が抑制されるため,血中Tg濃度は減少する.女性,特に妊娠婦人では増加していることが多い.また,バセドウ病患者の血中に認められ,甲状腺刺激作用のある甲状腺刺激抗体(TSAb)の刺激によっても甲状腺から血中に分泌されるので,TSAbにより甲状腺が刺激されているバセドウ病病患者では増加している.

hCG-βサブユニット

著者: 友田豊

ページ範囲:P.1481 - P.1482

 hCGは,胎盤の絨毛細胞から分泌される糖蛋白ホルモンで,妊婦および絨毛性腫瘍患者の血清中と尿中に存在する.その構造は,1970年Swaminathanによる報告以来,α,βの二つのサブユニットから成り,hCG-αサブユニットは89〜92個のアミノ酸残基から構成され,糖含量に差異はあるものの,アミノ酸配列は他のゴナドトロピン,とりわけLHのα-サブユニットときわめて類似していること,一方,hCG-βサブユニットは139〜145個のアミノ酸残基をもち,hCG-βサブユニットのC末端より28〜30個のアミノ酸は,LH-βサブユニットをはじめ,他のゴナドトロピンのβ-サブユニットにはまったく含まれておらず,hCGの免疫学的特異性を決定していることが知られている.図は,hCG-サブユニットとLH-βサブユニットのC末端アミノ酸配列の相違を示す.
 hCGの生理学的機能は,LH様作用を介して妊娠黄体を刺激することにある.

DNA損傷と発癌

著者: 穴井元昭

ページ範囲:P.1482 - P.1483

 癌形質が細胞分裂によって娘細胞に伝えられ安定に保持されることや,ヒトの発癌因子の一部にDNAに損傷を与える紫外線,X線あるいは化学発癌物質があることから,癌化とは特定の遺伝子の突然変異に原因があるとする考えかたがあった(体細胞突然変異説).この説の直接の証明は,癌遺伝子(c-H-ras)がヒト膀胱癌由来の細胞株から分離され,さらにこの遺伝子に相同な部分がヒト正常細胞のDNAにも含まれており,その違いは,単一の塩基置換のためにc-H-ras遺伝子がコードする分子量21,000の蛋白質のN末端から12番目のグリシン(GGC)がバリン(GTC)に変化していることが明らかにされたことである1)

顕微蛍光法の癌研究への応用

著者: 星野一正

ページ範囲:P.1484 - P.1484

 癌は,細胞核の異型度,癌巣の組織像,浸潤様式,転移などの病理組織学的所見,細胞生物学的特徴,臨床的な所見や経過から総合的に診断する.
 顕微蛍光法は,核DNAを測定して,ploidy解析による悪性腫瘍の細胞生物学的特徴から個々の癌症例の診断や患者の予後の推定に著しく貢献する.

癌抑制遺伝子

著者: 井川洋二

ページ範囲:P.1560 - P.1561

1.レチノブラストーマ遺伝子の単離
 ヒトの癌から得た癌細胞の染色体をみると,特定の染色体が欠落したり,部分的異常を示したりすることがあり,特に家族的背景を持つ網膜芽細胞腫(レチノブラストーマ)において,第13番目の染色体の長腕の異常が注目された.数多くの初発巣の染色体検査の集積から,その患者の正常組織において,すでに第13番目の染色体の一方のある部位に欠損があり(京大の佐々木正夫らによると日本人では父方由来の染色体が多い),なんらかの機転で同様の変化がもう片方の染色体にも起こったときに腫瘍が発生することがわかった.
 このレチノブラストーマの発生を抑えている遺伝子をRB遺伝子と呼び,上記の所見から"劣性癌遺伝子"とされたが,数年前,その遺伝子が米国ケンブリッジのWhitehead研究所のWeinberg博士らのグループにより単離された1)

ヒト癌移植とヌードマウス

著者: 中谷勝紀 ,   小西陽一

ページ範囲:P.1561 - P.1562

はじめに
 ヌードマウスは,1968年,Pantelourisにより偶発的に胸腺の欠如が見いだされたマウスで,Tcell由来の免疫反応が起こり難い.このマウスを用いてのヒト悪性腫瘍の移植実験は,1969年,RygaardとPovlsenの報告以来,多くの報告者によりなされている.
 筆者らは1975年以来,胃癌を中心とした消化器癌の生物学的特性や制癌剤感受性などを検討する目的で,種々のヒト消化器癌をヌードマウスに移植している.今回は,われわれの成績を中心にして,ヌードマウス移植の有用性について述べてみたい.

リンホカイン活性化キラー細胞(LAK細胞)

著者: 井廻道夫

ページ範囲:P.1563 - P.1564

 末梢血リンパ球あるいは脾細胞を高濃度のリンパ球の分化誘導・成長因子であるリンホカイン,インターロイキン−2(IL−2)の存在下で培養すると,ナチュラルキラー(NK)細胞に抵抗性の株化癌細胞や新鮮な癌組織の癌細胞を殺すキラー細胞が4〜5日で誘導され,このようなキラー細胞はリンホカイン活性化キラー細胞(lymphokine-activated killer細胞;LAK細胞)と呼ばれる.LAK細胞の誘導には腫瘍抗原刺激は必要でなく,LAK細胞は主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompatibility complex;MHC)に規定されずに広範囲の腫瘍細胞を殺す.LAK細胞は不均一なキラー細胞の集団であり,大きくはMHCに拘束されない細胞傷害性T細胞(CTL)とNK細胞の2群に分かれ,IL−2との培養の初期に誘導されてくるLAK細胞は,主としてNK分画に属し,長期培養を行うとCTL分画のLAK細胞の割合が増してくる.
 IL−2は,1976年MorganらによりT細胞増殖因子として報告されたヘルパーT細胞により産生されるリンホカインの一種であり,CTLの分化・増殖,NK細胞の増殖・増強,γ—INFの産生誘導を促す作用を有する.1983年には遺伝子組換えIL−2(rIL−2)の生産技術により,大量のrIL−2を得ることが可能となった.

癌の温熱療法—RF誘電加温

著者: 古賀成昌 ,   浜副隆一 ,   前田迪郎

ページ範囲:P.1564 - P.1564

 癌に対する温熱療法の歴史は古く,文献的には紀元前2000年のヒポクラテスの時代まで遡る.しかし,当時の加温法は焼いたコテで癌の部分を焼いてしまうという単純なもので,体表面以外の腫瘍には応用できず,その後長い間,進展は見られなかった.20世紀後半になり,温熱の選択的な抗腫瘍性と放射線や化学療法剤との併用効果が,進歩した細胞生物学的手技によって確認され,癌の温熱療法への関心が高まった.さらに,理工学系技術の進歩により精度の高い加温装置が開発されたことによって,温熱療法の臨床的適用対象が拡大されるに至り,最近では集学的治療の一環に組み入れられるようになってきた.しかし,治療対象となる癌腫の多くは身体深部に存在するので,温熱療法が癌治療法の一つとして普及していくためには,深部腫瘍をいかにして加温するかが課題である.
 加温方法は,全身加温と局所加温の二つに大別される.全身加温ではもちろん深部臓器も十分に加温され,広範な進展あるいは遠隔転移をもつ消化器症例に対しても有効であることが確認されている.一方,深部腫瘍を加温できる局所加温法としては,食道あるいは胆管などの管腔臓器内に発熱体を置いて加温する方法や,腹腔,胸腔あるいは膀胱などの体腔内を温水などで灌流する方法などが報告されているが,腫瘤内への温度の深達性は弱く,その適応は限られている.

腫瘍壊死因子

著者: 川上正舒

ページ範囲:P.1565 - P.1566

 癌患者が重症の感染症やエンドトキシン血症にかかると,癌が自然に治癒することがある.この現象は,患者の体内で細菌やウイルスあるいはエンドトキシンに反応した免疫細胞が抗腫瘍性の物質を作り,これが癌細胞を殺すことによるものと推測されていた.1975年,米国のOldらがエンドトキシン血症のマウスにおいてこれを証明し,この抗腫瘍性物質をtumor necrosis factor(TNF)(腫瘍壊死因子)と呼んだ.TNFは分子量17,000のペプチドで,現在ではアミノ酸配列はもとより遺伝子も同定されている1)
 一方,細胞障害性T細胞(cytotoxic T cell)による移植抗原の拒絶あるいはウイルス感染細胞や癌細胞の排除の機構の一つとして,T細胞は標的細胞に付着した後,リンフォトキシン(LT)と呼ばれる細胞障害性の因子を分泌する.リンフォトキシンはTNFとはまったく異なった,分子量約25,000のペプチドであるが,TNFとLTを結合する標的細胞上の受容体は同一であり,したがって,その生物作用もほとんど同じである.そこで,TNFをTNFα,LTをTNFβと呼ぶこともある.

アイソフェリチンと癌

著者: 浅川英男 ,   山口稽子 ,   森亘

ページ範囲:P.1566 - P.1566

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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