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雑誌目次

論文

臨床検査33巻4号

1989年04月発行

雑誌目次

今月の主題 造血器腫瘍の新しい検査 カラーグラフ

急性白血病のFAB分類

著者: 大島年照

ページ範囲:P.364 - P.366

 急性白血病は正常骨髄細胞の未分化な段階で腫瘍化(白血病性幹細胞)し,増殖に伴って芽球の形態的な特徴を発現するものと考えられている.一口に急性白血病と言っても,白血病細胞(芽球)の形態はきわめて多彩であるため,世界的に共通する形態的分類法が望まれていた.
 1976年に提唱されたFAB分類は,通常の血液検査室レベルで行える技法(Romanovsky染色,ペルオキシダーゼ染色)で容易に診断でき,しかも診断の基準が従来の分類法と比較し,明確で客観的であることから広く普及している.

巻頭言

造血器腫瘍—最近の話題

著者: 高久史麿

ページ範囲:P.367 - P.368

 造血器腫瘍に関する最近の話題として病因,診断,治療に関連したさまざまなものがあるが,本誌の性質から考えて病因とそれに関係する診断に関する新しい事を思いつくままに述べたい.
 造血器腫瘍と癌遺伝子との関連については他のヒトの腫瘍の場合と同じように不明な点が多いが,ヒトの白血病や前白血病状態であるmyelodysplasticsyndrome (MDS)の患者の白血病細胞や骨髄細胞でras oncogeneのone pointmutationの起こっていることが認められている.特に最近,ras oncogeneの中でmutationの頻度が高いヌクレオチドを含んだoligomerをつくり,また白血病細胞や骨髄細胞のDNAの一定の部分をpolymerase chain reaction (PCR)で増やして上述のoligomerとSouthern hybridizationを行う方法が開発されてから,白血病やMDSの患者でras oncogeneのmutationがみつかる頻度が以前に比べて著しく高くなっている.

技術解説

TdT活性の測定

著者: 佐々木龍平

ページ範囲:P.369 - P.373

 ターミナル デオキシヌクレオチジル トランスフェラーゼ(terminal deoxynucleotidyl transferase;TdT)は,胸腺,骨髄リンパ球の一部に局在するDNAポリメラーゼである.それ故,未熟リンパ球に特異的なマーカーとして急性リンパ性白血病と急性骨髄性白血病の鑑別診断,慢性骨髄性白血病のリンパ性急性転化の診断,未分化白血病や,mixed type leukemiaの診断に利用されている.TdTの測定法はアイソトープを用いる生化学的測定法と,特異的抗体を用いる免疫学的検出法との2つに大別される.さらに後者は蛍光標識抗体を用いる蛍光抗体法や,ペルオキシダーゼ標識抗体を用いる免疫ペルオキシダーゼ法などに分類される.免疫学的検出法は,生化学的測定法にくらべて検出感度は高いが非特異的な反応も増強するため,TdTの存在を確認するには両者を併用することが必要である.

Fucosyltransferase活性の測定

著者: 須田啓一 ,   坂本忍

ページ範囲:P.375 - P.380

 Fucosyltransferase (FT)は6炭糖の1種であるフコースをGDP—フコースより受容体に転移し,糖蛋白,糖脂質などの糖類の合成にかかわる酵素である.FT活性は種々の癌患者血清中で上昇しており,治療により正常化することが知られている.血液疾患においても急性白血病,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫などで患者血清中のFT活性が上昇しており,寛解に入ると正常化し病態を反映していることがわかってきた.また,FTの等電点電気泳動像は白血病細胞に用いた場合,骨髄性白血病とリンパ性白血病の鑑別に使えることがわかってきた.

可溶性IL−2レセプターの測定

著者: 田川進一 ,   木谷照夫

ページ範囲:P.381 - P.384

 p55IL−2レセプター(IL−2R)はT細胞がIL−2や抗原やマイトゲンなどで刺激されると細胞表面に出現する.最近,抗Tac抗体で認識されるこのIL−2 Rが細胞膜表面のみならず,T細胞やT細胞株の培養上澄,さらにはT細胞性白血病のみならず広くB細胞性白血病患者の血清中,リンパ腫患者,膠原病患者血清中にも見いだされた.このIL−2Rは可溶性IL−2R(soluble IL−2R:sIL−2R)と呼ばれている.このslL−2Rの測定方法について概説し,その測定の臨床的意義について説明する.

白血球細胞のCD抗原の分析

著者: 高田勝利 ,   仁田正和

ページ範囲:P.385 - P.389

 ヒト白血球のCD抗原の分析方法として,フローサイトメトリーを用いた技術解説を行った.CD抗原には特異な細胞系に出現するもの,特定の分化段階に出現するもの,リンパ球の免疫機能と関係したもの,活性化した細胞に出現するものがある.臨床的活用法として免疫機能検査におけるリンパ球のCD抗原の分析,白血病およびリンパ腫における腫瘍細胞の起源,分化状態の分析に役だつ.しかし正常検体とくらべ疾病時のCD抗原の分析では,検体の取り扱い,測定器の操作技術により,測定結果にばらつきが生じやすいため,解析には多数の抗原分析結果のもと慎重に行う必要がある.CD抗原の分析方法は多用であり,今後基礎的研究の進歩とともにその臨床的応用も広がるものと思われる.

総説

血中微量M蛋白の検出法

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.391 - P.396

 種々の免疫グロブリン異常症では,血中に微量モノクローナル免疫グロブリン(M蛋白)が出現することが少なくない.このようなM蛋白をできる限り見逃しなく検出するためには,臨床サイドではM蛋白の出現しうる病態・疾患を熟知して,患者診察時の異常所見からその存在の可能性が疑われる場合には,積極的に検索を進める姿勢がたいせつであり,臨床検査サイドでは,臨床サイドとの協力の下に,M蛋白の病態に関連した種々の検査所見に注意を払いながら,血清蛋白分画,血清・尿免疫電気泳動法(IEP)を基軸に,より精密な分析法も組み合わせて細心の注意を払って,その発見に努めることが肝要である.しかしこれらの努力にもかかわらず検出されなかったり,見逃されているものもあるのもまた事実である.

染色体・遺伝子検査

リンパ系腫瘍

著者: 多和昭雄 ,   河敬世

ページ範囲:P.397 - P.402

 リンパ系増殖性疾患において,免疫グロブリン遺伝子,T細胞受容体遺伝子の再構成の有無を検討することで本疾患のクロナリティの証明や,その細胞起源の同定が可能である.したがって,これら抗原受容体遺伝子の解析は,リンパ系腫瘍の診断,分類にきわめて有用であると考えられる.また,特定の染色体切断点に相当する部位のプローブを使用し,DNA分析を行うことで,通常の染色体検査を補足することも可能である.

慢性骨髄性白血病

著者: 鎌田七男

ページ範囲:P.403 - P.408

 慢性骨髄性白血病細胞で転座の起こる9番,22番染色体上の正常のc-abl遺伝子やbcr遺伝子の構成,mRNA,遺伝子産物について述べ,これらの転座によって生ずる新しいbcr-ablhybrid遺伝子の構成,mRNA,その遺伝子産物などについて解説した.また,慢性骨髄性白血病の診断・病態・鑑別に必要なin situ hybridization法,bcr再構成の証明法,トランスフォーム遺伝子検索法などについてわれわれのデータを示しながら説明を行い,Ph1陽性白血病の多様性,今後の問題についてもふれた.

前白血病

著者: 石川冬木

ページ範囲:P.409 - P.413

 前白血病は,主に高齢者をおかす貧血症状を主徴とする疾患で,経過を追うにつれて高率で白血病化する予後不良の疾患である.NIH 3T3細胞に患者骨髄DNAをトランスフェクションした後,ヌードマウスに皮下接種してin vivo selection assayを行い,N-rasがん遺伝子が高率で活性化されていることを見いだした.この活性化N-rasは,ポリメーレス・チェーン・リアクション法を用いると,きわめて簡便に検出された.本法は患者の経過を追ううえでも,有用で,近い将来,検査室レベルで実行可能と思われる.

成人T細胞白血病

著者: 清川哲志 ,   山口一成 ,   高月清

ページ範囲:P.414 - P.418

 ATL病因がHTLV−1であることは,プロウイルスDNAの組み込みをSouthernブロット法で解析することから明らかとなった.プロウイルス検出は,現在,ATLの確定診断,病態把握に用いられており,染色体分析とも合わせて,ATL発症のメカニズムの解明に重要な役割をはたした.

骨髄移植へのDNA診断の応用

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.419 - P.423

 DNA診断は骨髄移植の分野でも広く応用されている.RFLPs,さらにはDNA fingerprintを用いた移植骨髄の生着の判定は,すべての移植例において,より詳細な生着の質の検索を可能とし,移植のbiologyを考えるうえで有用な手段である.HLAクラスII lociのDNAタイピングはGVHDの発症とよく相関し,unrelated donorを含めたdonorの選択に今後有力な方法であると考えられる.DNAを用いたCMV間質性肺炎の診断も,その迅速性,正確さより,治療の早期開始を可能とし,その予後を考えるうえで重要である.

座談会

FAB分類の問題点と検査

著者: 外山圭介 ,   大島年照 ,   中原一彦 ,   関口進

ページ範囲:P.424 - P.436

 学問の世界でも情報の交換・伝達が迅速に行われるようになった.国際語としては英語がもっとも使われているが,形態を基本としたものでは多くの説明よりも実物がもっとも理解が早く情報が伝達しやすい.国際的分類も特に白血病などを取り扱う場合には,国の内外を問わず,例えばM1といった場合に同じイメージがわかなければならない.FAB分類は同じ土俵の上に立った共通言語としておおいにその威力を発揮しているが,問題点もある.

生体の物理量計測・4

振動・運動の計測

著者: 池田研二

ページ範囲:P.439 - P.445

 振動・運動の区別,また寸法計測との区別を厳密には行わず,対象ごとに関連ある計測を包括的に述べた.
 主として振動現象のものは心拍動に伴う心音,脈波,バリストカーディオグラムなど,また骨格筋の活動に伴う手のふるえや立位の重心動揺などの計測について述べた.

資料

腎移植後急性拒絶反応に対する免疫抑制剤Muromonab CD 3投与時のリンパ球サブセットの変動

著者: 樺澤憲治 ,   長崎聡子 ,   森田秀 ,   松山茂 ,   高橋信好 ,   鈴木唯司

ページ範囲:P.455 - P.460

 腎移植後急性拒絶反応に対して,モノクローナル抗体のMuromonab CD 3(以下,OKT 3)を投与した1症例のリンパ球サブセットの変動について,臨床経過とともに観察し,検討した.OKT 3投与直後リンパ球数は,著しい減少を示した.また,ADCC反応のeffector細胞であるNK/K細胞のLeu−7/Leu−11c細胞とLeu−7/Leu−11 c細胞が増加を示し,リンパ球減少との関連が示唆された.OKT 3投与期間中に認められたT細胞はLeu−4(CD 3)マーカーがmodulatedされたLeu−4のLeu−2 a細胞とLeu−3 a細胞であった.

リポソームを基質とする血清LCAT(Lecithin-Cholesterol Acyltransferase)活性の自動測定法

著者: 山田満廣 ,   小林一三 ,   大西将則

ページ範囲:P.461 - P.465

 血清LCAT活性の測定法は,自己基質法および共通基質法によるキットが開発されているが,いずれも酵素反応に長時間を要し測定操作が繁雑で自動化が困難であることから,現在でも用手法により測定されている.今回,共通基質法にもとつく試薬(リボソーム基質法)を用い,これを検体前希釈機能をもつCOBAS-MIRA自動分析装置に適用することにより,LCAT活性の自動測定法を確立することができた.本法は用手法と同等の測定精度(再現性),ならびに良好な相関性を示すなど,日常検査法としての有用性が認められた.

質疑応答

臨床化学 濃縮尿の蛋白分画像の読みかた

著者: Q生 ,   渡辺信子

ページ範囲:P.467 - P.470

 〔問〕 尿を濃縮して免疫電気泳動,および蛋白分画を行っていますが,その像の読みかたについてご教示ください.

臨床化学 臨床化学検査における血漿の使用

著者: 及川洋良 ,   鈴木庄一郎 ,   中甫

ページ範囲:P.470 - P.473

 〔問〕 透析患者の検査において,フィブリン析出によるノズルの詰まりと,これによると思われるデータのバラツキに悩んでいます.化学検査に血漿を使用することについて,その動向と注意点をご教示ください.

血液 末梢血液像の経時変化

著者: 高橋松雄 ,   武内恵

ページ範囲:P.473 - P.474

 〔問〕 血液像の検査にあたっては,EDTA使用の,血液の算定(WBC, RBC, PLT)と同じ検体を用いることが多いと思います.採血後,時間の経過につれて,好中球が分葉から桿状に移行していく傾向がありますが,その理由をご教示ください.

輸血 輸血による副作用の要因

著者: Y生 ,   平野武道

ページ範囲:P.474 - P.477

 〔問〕 不規則性抗体(IgG)の補体結合性の有無は何によって決まるのですか.抗Eや抗JKbはよくDHTRを引き起こしますが,輸血による副作用の強弱は何によって決まるのか,ご教示ください.

資格・制度 診療報酬の点数の算定方法

著者: 佐藤正人 ,   松谷有希雄

ページ範囲:P.477 - P.478

 〔間〕診療報酬の点数について,例えばGOTが40点,CPKが25点と決められていますが,どのようにして決定されるのでしょうか.ご教示ください.

雑件 検体の廃棄方法

著者: N生 ,   松本昭一郎

ページ範囲:P.478 - P.480

 〔問〕 検査室における検体の廃棄方法についてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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