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雑誌目次

論文

臨床検査33巻6号

1989年06月発行

雑誌目次

今月の主題 筋疾患と臨床検査 カラーグラフ

筋生検

著者: 岡本幸市

ページ範囲:P.616 - P.618

 神経・筋疾患の診断には罹患筋の組織学的な検査が必要なことが多い.通常上腕二頭筋または大腿四頭筋より採取し,凍結切片の組織学的,組織化学的染色(図1)以外に,電顕的観察,一部は生化学的検索も行われる.組織標本では,筋線維径の変化,筋線維の内部構築の異常,核の異常,間質の状態などに注目して鏡検する.異常所見として,①脱神経による「神経原性変化」,②筋肉自体の疾患による「筋原性変化」,および③特殊な筋線維の構造上の変化より診断される「先天性ミオパチー」などに大きく分類される.ここでは代表的な筋病変を呈示する.

巻頭言

筋疾患と臨床検査

著者: 里吉営二郎

ページ範囲:P.619 - P.620

 私どもが医学部を卒業して医師になった40年余り昔は,臨床検査といえば主治医がそれぞれ血液を調べ,血液像をみ,尿検査をし,血糖や尿糖を測定していたことを思い出す.臨床検査の内容については過去30年の間に素晴しい進歩を遂げ,一般的な血液検査のほかに多くの酵素学的,生化学的検査法が開発されたが,検査の手技や器機の進歩によって電気生理学的検査,生検による組織学的,組織化学的検査法,電子顕微鏡による検査など数えきれない程の多くの検査法が開発されてきた.主治医にとっても多数の伝票に印をつけ,もどってくる情報をいかに整理し,病状をどう判断するかがもっとも大切な仕事となっている.臨床の世界も情報診断の時代になりつつあるといえよう.
 筋疾患に対する臨床検査としては,一昔前は血中,尿中のクレアチン,クレアチニンの測定が行われてきたが,もっとも画期的な検査は血清クレアチンキナーゼ(CK)の測定であろう.CKの測定によって筋の変性,破壊が起こっているか否かが容易に判断できるようになったからである.現在ではCKのアイソザイムを測定し,その病変が筋肉の病変によるものか,心筋に由来するものか,脳その他からきたものかが推定できるまでになっている.

総説

筋疾患と免疫

著者: 福永秀敏 ,   納光弘

ページ範囲:P.621 - P.625

 免疫学の進歩とともに,筋疾患(神経筋接合部疾患も含めて)の病因に免疫異常の関与を示唆するものが多くなってきた.なかでも重症筋無力症はアセチルコリン受容体に対する,そして筋無力症候群は神経終末のアセチルコリン放出部位に対する自己免疫疾患であることが判明した.また,多発性筋炎に対しても,液性,細胞性免疫の立場から新たな知見が加えられつつある.本稿では上記三疾患について臨床的,免疫学的概説を述べることにする.

技術解説

筋力テスト

著者: 稲葉午朗 ,   岸いずみ

ページ範囲:P.627 - P.632

 筋力テストの目的は,①神経筋疾患の診断と治療効果の判断,②体力検査の中心バッテリーとしての意味をもつデータを獲得することである.前の目的のためには徒手筋力テストが行われ,単一筋またはごく限られた筋群に対象をしぼって検査する.後の目的には,一定の動作や行動に動員される筋群の力を一括して測定するのが適切で,静的筋力,瞬発筋力,筋持久力などを総合的に評価する.これらの技法を概説した.

筋電図検査

著者: 鳥居順三 ,   松本信子

ページ範囲:P.633 - P.637

 筋電図検査は,神経・筋疾患の重要な補助検査として,臨床的に広く用いられている.特に筋の脱力・萎縮が,神経原性か筋原性かを鑑別するのに有用である.筋疾患では,干渉波形・低振幅電位・短持続時間電位・多相性電位などが認められ,神経疾患とは明らかに異なる所見が得られる.また,ミオトニアに認められるmyotonic dischargeは,特異的な所見で診断的価値がある.重症筋無力症では,反復刺激で漸減現象が認められる.

心電図検査

著者: 島田尚史 ,   石川恭三

ページ範囲:P.639 - P.645

 進行性筋ジストロフィー症を初めとする筋疾患は,全身の横紋筋が進行性に侵され,しばしばその予後が問題となる.また多くの疾患で心筋病変を合併することが報告されており,特に心臓病変がしばしばその予後を決定することが判明して以来,進行性筋ジストロフィー症,筋緊張性ジストロフィー症,多発性筋炎,Pompe病などを中心に心電図変化について多くの報告がなされてきている.しかし,その病態や心電図変化の詳細な検討はようやく本格化しはじめたところであり,今後の研究が期待されている.本稿ではこれらの疾患について,心筋病変と心電図変化を中心に概説する.

脳波検査

著者: 大石実

ページ範囲:P.647 - P.651

 筋疾患と脳波検査は直接的な関係はないが,ミトコンドリアミオパチー,筋緊張性ジストロフィー,福山型先天性筋ジストロフィー,内分泌性ミオパチーなどの多臓器疾患では脳波に異常がみられることが多い.ミトコンドリアミオパチーは,Kearns-Sayre症候群,ragged-red線維を伴うミオクローヌスてんかん,ミトコンドリアミオパチー・脳症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作などの疾患を含む.ミオクローヌスがみられる患者では脳波計で表面筋電図も記録すると,ミオクローヌスが出現する直前に脳波で棘波がみられることがあり,Lance-Adams症候群ではnegative myoclonusがみられることがある.

臨床化学検査

著者: 松永高志 ,   古川哲雄

ページ範囲:P.653 - P.658

 臨床化学検査は生理検査,筋生検とともに筋疾患の診断に欠くことのできない重要な検査であり,また他の検査に比べ侵襲が少ない点で,スクリーニングや経過の観察にも適している.本稿ではクレアチンキナーゼなど血清筋内酵素とクレアチンについて,その検査法,臨床応用などを概観し,最後に周期性四肢麻痺,筋糖原病の特異な検査所見について付記した.

免疫血清検査

著者: 高守正治 ,   松原四郎

ページ範囲:P.659 - P.666

 骨格筋構成部分を標的とする免疫学的機序により発症.病像修飾が成立する重症筋無力症と筋炎をとりあげた.前者では,アセチルコリン受容体を標的とする抗体の検出について,2抗体免疫沈殿法,トキシン結合阻止法,組織培養法のほか,モノクローナル抗体産生細胞,合成ペプチド,イディオタイプ.ネットワークの観点から,概念と技術の進歩についてふれた.後者では,液性因子検出の疾患特異的陽性率は必ずしも高くないが,抗核抗体,抗筋抗体のほか,ウェスタンブロット法や分子生物学的手法の導入で抗原蛋白が特定されつつある現況をふまえ,抗Jo−1抗体ほか数種の抗体の検出と意義について述べた.

ミオパチーにおけるDNAプローブ検査

著者: 永井良三

ページ範囲:P.667 - P.672

 Duchenne型筋ジストロフィーとミトコンドリアミオパチーにおいては,原因となる遺伝子の異常がほぼ明らかにされた.これは遺伝疾患の新しい診断法の開発につながっただけでなく,筋肉の生理学や遺伝学といった基礎科学の分野にも大きなインパクトを与えている.これらの発見は複雑な技術と多くの労力を駆使した結果であるが,いったん異常遺伝子の構造が解明されれば,これを臨床検査として応用することは困難ではない.特にポリメレース・チェイン・リアクション(PCR)のような有力は手法が開発されたこともあり,DNA診断は一段と身近なものになったと考えられる.

染色体検索

著者: 中井博史 ,   山本克哉 ,   山本良嗣 ,   萩原久

ページ範囲:P.673 - P.679

 遺伝子工学による進行性筋ジストロフィーと遺伝子マッピングの最近の研究にふれた.顕微鏡下の染色体をそのままクローズアップし,遺伝子・DNAレベルの構造を基に疾患をとらえる近接遺伝子症候群の概念が生まれた.染色体検査はこれによって同時に遺伝子検査とオーバーラップするようになった.高精度分染法,原位雑種形成法,DNA複製パターンなどが注目される分子細胞遺伝学の新しい展開を一覧していただきたいと思う.本稿がさらに今後の研究にも示唆を与えるものとなれば幸いである.

話題

血中乳酸と,ドライケミストリーによるその新しい測定法

著者: 下條信雄 ,   中恵一

ページ範囲:P.680 - P.681

 生体内において乳酸は主に骨格筋,脳,赤血球などで産生され,肝および腎で利用される.血中乳酸濃度はこの産生と利用の平衡関係のバロメーターである.ショックや心疾患などによる循環不全,すなわち組織の低酸素状態,過呼吸によるアルカローシス,糖尿病の乳酸アシドーシス,重症肝疾患や悪性腫瘍などで血中乳酸値は上昇し,病勢や予後を判定する指標のひとつとされている.
 近年,血中乳酸値は運動生理学の分野において注目され,運動の適合性やトレーニング効果の判定などに広く応用されている.昨年のソウルオリンピック前の選手強化トレーニングの際,一部の競技では血中乳酸値を測定してそれを判定材料として用いたことはよく知られている.

鼎談

神経・筋疾患をめぐる最近の話題

著者: 有森茂 ,   高守正治 ,   納光弘

ページ範囲:P.682 - P.693

 神経・筋疾患をめぐる最近の医学の進歩は目覚ましい.臨床検査の領域でも,新しい方法論と新しい検査の意義づけの導入が盛んである.この鼎談では神経・筋疾患のなかから,重症筋無力症,Eaton-Lambert筋無力症候群やHAMなど,話題を提供できる限られたいくつかの疾患の最近の進歩を中心にとりあげた.臨床検査との関連で医学研究の足跡の一断面を語ることによって,臨床検査のあり方に示唆を与えることができればよいがと願って企画した.

私のくふう

フォトンカウント方式による顕微蛍光測定システム

著者: 庄野正行 ,   石田富士雄 ,   宮本博司 ,   藤盛健 ,   山田正興

ページ範囲:P.646 - P.646

 顕微蛍光測光装置は,DNA,RNA,また,蛍光抗体法により,FITCの定量化をするためには欠かせない機器となっている.そこで,蛍光顕微鏡をベースとし,顕微蛍光測定システムを試作した.この装置の目的は,フォトンカウント方式を採用し,組織および単一細胞内の微弱蛍光量を高感度で検出するためである.光路図は図1で示すように簡単で安定性の良い装置にした.

生体の物理量計測・6

粒子計測

著者: 岡田徳弘

ページ範囲:P.695 - P.700

 物理量計測の対象となる生体粒子は,細胞から分子までの広範囲に及ぶ.また,白血球や精子のような遊離(単体)細胞と多くの癌細胞のような固形(集合)細胞もある.
 臨床検査分野で計測される生体粒子のもっとも一般的なものは,血液細胞,細菌,尿中細胞などであり,これらの物理量計測値は古くから診断や治療のための生体情報として広く利用されている.特に血液細胞はその種類が多いこと,細胞の機能が多様であることから,多くの測定項目があり,その測定技術も日進月歩といえる.

研究

血膿尿についての定量的検討—血尿か尿沈渣白血球数に及ぼす影響

著者: 藤田公生

ページ範囲:P.711 - P.713

 血尿が沈渣中の白血球数に影響することを定量的に検討した.1視野にはいりうる血球数は2000個程度と考えられ,その前提で計算した理論式が測定値とよく一致した.血尿が0.04%前後になるとこの影響が起こりはじめる.血尿の存在下ではその程度に反比例して膿尿の白血球数が減少する.

スポーツ選手にみられる徐脈—24時間ホルター心電図による検討

著者: 大林千代美 ,   山崎元 ,   大西祥平 ,   林公代 ,   関原敏郎

ページ範囲:P.714 - P.717

 スポーツ選手のうち安静時心電図で洞性徐脈,房室ブロックを呈した無症状例と,失神発作を起こした例にホルター心電図記録を行い正常対照例と比較してみた.最少心拍数は対照例の42.9±4.5/min (mean±SD)最少37/minに対し,スポーツ選手群では35.3±5.7/minであり半数以上の例に35/min以下が記録された.最大心停止時間についても対照例の最大値2000msecを超す心停止が多くの例で記録され,5000msecという例も見られた.また,安静時心電図で1度房室ブロックを呈した10例中9例に2度ウェンケバッハ型房室ブロックが記録された.
 しかし,典型的失神発作例の最少心拍数・最大停止時間は無症状例と差はなく,ホルター心電図を用いてその診断を確定することは困難であると思われた.

資料

高速液体クロマトグラフィーによる非脱分極性筋弛緩薬の定量法

著者: 福島和昭 ,   内田和秀

ページ範囲:P.718 - P.720

 筋弛緩薬は,破傷風その他の痙攣の治療や,精神疾患のショック療法における補助剤に用いられていた.また今日では,全身麻酔時の気管内挿管および開腹時の円滑な手術操作のための筋弛緩,あるいは呼吸管理などに本薬が使用されている.これらの薬剤は基礎および臨床上の必要性から,定量法が検討されているが,近年,高速液体クロマトグラフィーを用いた,非脱分極性筋弛緩薬の新しい定量法が報告されているので,ここに紹介する.

質疑応答

血液 凝固系検査の採血法

著者: S子 ,   松田保

ページ範囲:P.721 - P.723

 〔問〕凝固系検査の採血を21Gの翼状針で行う医師がみられます.この場合,TEG,血小板凝集能,PT,APTTにおける影響についてご教示ください.

微生物 ヒトパピローマウイルスの病原性と検査法

著者: H生 ,   高見恭成 ,   笹川寿之

ページ範囲:P.723 - P.725

 〔問〕最近,ヒトパピローマウイルスが子宮頸癌の原因となっているという可能性がいわれていますが,この関連性について教えてください.また,ヒトパピローマウイルスの検出法についてもご教示ください.

微生物 抗菌剤使用中の検体からの微生物の分離

著者: T生 ,   安達房代

ページ範囲:P.725 - P.727

 〔問〕感染症の臨床の現場では,起炎菌の同定を待たずに抗菌剤を投与してしまう例が多いため,抗菌剤投与時の検体から起炎菌を分離・同定するよう依頼されることがしばしばあります.このような検体からの微生物の分離に用いる手技の実際について教えてください.

臨床生理 24時間ホルター血圧計

著者: A生 ,   兼本成斌

ページ範囲:P.727 - P.730

 〔問〕最近,24時間のホルター血圧計が用いられていますが,その意義と適応,技術上の問題点およびその精度と,記録成績の解釈上の注意点について教えてください.

臨床生理 心内圧の非観血的推定法

著者: Y生 ,   鈴木修

ページ範囲:P.730 - P.732

 〔問〕心内圧を非観血的に推定するためには,どんな検査が行われ,どのように判定するのか,教えてください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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