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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査33巻8号

1989年08月発行

雑誌目次

今月の主題 糖尿病 巻頭言

糖尿病にとっての臨床検査

著者: 金澤康徳

ページ範囲:P.871 - P.872

 ある疾患を診断する場合には,痛みがある,胸苦しい等々の苦痛を伴った症状を持って患者が医師を訪ね,医師は眼と耳と手を使って診察することにより病名についての方向づけをし,必要な検査を行い,診察により疑った病名を確認するという順序で行われる.しかし糖尿病,特にインスリン非依存型はその初期にはきわめて症状に乏しい.しかし十分注意すれば夜中にトイレに起きるようになった,多少体重が減り気味か?以前に比べ少し疲れやすいかもしれない,ということが気づかれる場合が少なくない.しかし,特に医師より指摘されなければ,通常の変動の範囲と考えて患者自身では病的なものとしては取り上げないことが多い.したがってとつぜん昏睡で発症する小児のインスリン依存型糖尿病を除いては,健診により尿糖が見つけられる場合や,他疾患にて受診した際の検尿による尿糖発見が,糖尿病診断のきっかけになることが多い.もちろん非常に急速なやせ,口渇・多尿・強い疲労感などの比較的はっきりした症状から医師を訪ねることもあるが,その場合,合併症の存在することもまれでない.最悪の事態は視力が低下し眼科医を訪ねて糖尿病が発見されることで,このような場合その後の網膜症の進行はきわめて早く,治療が十分に行われてもしばしば失明は防止できない.
 このような糖尿病に特有の合併症(網膜症,腎症,神経症といった糖尿病による組織変化で日常生活を著しく障害し,時には生命を脅かす)を予防し,その発症・進展を遅くするためには糖尿病の早期発見,早期治療が不可欠である.そのような意味でもまったく無症状のうちに検尿による尿糖の発見(食後尿糖でないと軽い糖代謝障害はつかまらない),血中ブドウ糖の測定(経ロブドウ糖負荷試験)による糖尿病の早期診断はきわめて重要である.

技術解説

糖負荷試験

著者: 島健二

ページ範囲:P.873 - P.878

 糖負荷試験には経口的ブドウ糖負荷試験(OGTT),静脈内ブドウ糖負荷試験(IVGTT)のほか2,3の方法があるが,OGTTがもっともよく用いられている.OGTTは主として糖尿病の診断のために用いられるが,その他,低血糖症の鑑別診断にも用いられる.前者の目的に用いられる場合,75gブドウ糖を負荷,0,30,60,120分に採血,血糖を測定し,基準値と比較して異常を判断する.OGTTの再現性は必ずしも優れたものではなく,成績評価に際してはその点を考慮してなされる必要がある.

HbA1とHbA1c

著者: 森谷茂樹 ,   河津捷二

ページ範囲:P.879 - P.884

 近年臨床においては,HbA1およびHbA1cが血糖コントロールの指標として広く用いられている.この糖化ヘモグロビンは1970代になってから臨床的にも応用されるようになり,種々の測定方法が考察されているが,データを正確に解釈するにはその測定方法の特徴ならびに測定値を変動させる多くの干渉因子の存在を考慮しなくてはならない.さらに,その他の糖化蛋白の応用の試みや合併症との関係も注目されつつある.

フルクトサミン

著者: 下條信雄

ページ範囲:P.885 - P.891

 血漿蛋白のグリケーションの程度を,その還元性を利用して比色定量するのがフルクトサミンである.フルクトサミンは食事の影響を受けず,日内変動も認められないが,幼児や低蛋白血症の例では低値を示す.糖尿病患者においては過去2週間程度の血糖コントロール状態をよく反映するので,短期のコントロール指標となる.また他の指標との組み合わせにより,糖尿病スクリーニング検査としても今後期待される.

Maillard反応化合物

著者: 秦文彦 ,   老籾宗忠

ページ範囲:P.893 - P.899

 蛋白と糖との非酵素的・非特異的結合反応は,glycationあるいはMaillard反応といわれ,自然界の普遍的な反応であり生体内でも生じることが知られている.本反応は,蛋白のアミノ基と糖とがSchiff塩基を介して安定なケトアミン付加物(Amadori化合物)を形成する初期段階とそれ以降の後期段階とに大別される.Maillard反応初期段階化合物は,血糖コントロールの指標として臨床応用されている.一方,半減期の長い蛋白では後期段階化合物が形成され,それが蓄積し糖尿病性合併症の成因および老化との関係で注目されている.本稿では,Maillard化合物の測定法,および本化合物の病因的意義について概説した.

1・5-アンヒドログルシトール

著者: 川合厚生 ,   赤沼安夫

ページ範囲:P.901 - P.907

 血中1・5-アンヒドログルシトールは,ブドウ糖の1位が還元されたピラノイド構造をもつポリオールであるが,これまでの他の指標とは対照的に,糖尿病のコントロールが悪化すると減少し,改善すると増加するユニークな指標である.その変動機序の詳細は不明だが,現時点ではその血中レベルは過去の尿糖量に依存する.つまり,血糖値が比較的最近,腎の排泄閾値以下にとどまっていたか,あるいは,頻繁にそれを凌駕していたかを反映する.

膵島抗体(ICA,ICSA)

著者: 花房俊昭 ,   桂勇人 ,   伊藤直人

ページ範囲:P.909 - P.914

 膵島抗体の測定法および意義について,ICAを中心に概説した.測定においては,新鮮な膵組織を得ること,蛍光の判定に熟練すること,の2つがもっとも重要である.ICAはI型糖尿病の診断に重要な参考となる検査で,NIDDM患者で検出されれば,将来IDDMに移行する可能性が高くなるといわれる.今後,対応抗原の同定を含め,検査法の改良が望まれる.ICSAについてはその存在意義を疑問視する意見もあり,慎重な対応が必要である.

インスリン遺伝子のDNA診断

著者: 武田純 ,   清野裕 ,   井村裕夫

ページ範囲:P.915 - P.920

 近年の遺伝子工学の進歩に伴って,遺伝性疾患のいくつかについてDNA診断が可能となりつつある.糖尿病は遺伝素因の濃厚な疾患であり,何らかの関連遺伝子の異常が考えられる.最近,インスリン遺伝子近傍に多数の多型性が存在することが明らかにされた.その結果,Southernプロット法と遺伝連鎖解析によりDNA診断を行うことが可能となった.本稿では,筆者らが行っている方法を中心に,インスリン遺伝子の多型性の解析技術を具体的に解説する.

尿中微量アルブミンとその他の蛋白

著者: 小田桐玲子

ページ範囲:P.921 - P.927

 糖尿病性腎症(腎症)を早期に確認するためには,その病態について十分に理解する必要がある.尿蛋白の生成機序と腎症の病期分類,尿中微量アルブミン;α1—マイクロアルブミン;β2—マイクロアルブミンの測定方法,臨床的意義,問題点などについて述べる.

尿中酵素

著者: 芝紀代子

ページ範囲:P.929 - P.935

 糖尿病性腎症の早期診断にNAGが有用とされている.しかしながらNAGの上昇は必ずしも腎症のみとは限らず,HbA1cとの相関も良好なことから,長期の高血糖により何らかの代謝異常が生じ,NAGの増加が生じるとも考えられている.本稿では糖尿病における尿中酵素として,主にNAGをとり上げ,総活性およびアイソザイム分画の解釈,および近年注目されているDAPIVの測定意義についてふれてみた.

学会印象記

第62回日本細菌学会総会/The 89th American Society for Microbiology

著者: 橋本安弘

ページ範囲:P.892 - P.892

病原細菌研究の新展開
 第62回日本細菌学会総会は加藤巌会長(千葉大学医学部微生物学第二講座・教授)によって主催され本年3月27,28,29日の3日間,東京都千代田区平河町の日本都市センターとこれに隣接する全国都市会館で盛大に開催された.
 今年の浅川賞受賞講演は「B群赤痢菌による細菌性赤痢の病理発生に関する分子遺伝学的研究」と題して東京大学,医科学研究所の吉川昌之介教授が第2日目(3月28日)の午後,一時間にわたって講演された.細菌性赤痢の病理発生に細胞侵入性が決定的に重要であり,完全な病原性の発現には染色体上の少なくとも三領域が必要であることが20数年前からわかっていたそうであるが,吉川教授とその御一門は,Rプラスミドの遺伝学的,分子遺伝学的研究で培われた鋭い思考と的確な新技術を駆使して,Shigella flexneriのプラスミドおよび染色体上のビルレンス遺伝子をみごとに解析され,1983年以来精力的に行われた研究を手際よくまとめて提示された.われわれの講座の江崎講師が吉川教授の指導を得てSalmonella typhiのラクトース遺伝子を解析し,現在さらに講座を挙げてその病原因子の分子遺伝学的研究にとり組んでいることから,吉川教授の受賞講演によりその研究の全貌を要約した形で聞かせていただき非常に感銘深かった.

生体の物理量計測・8

X線による計測

著者: 福田国彦 ,   川上憲司

ページ範囲:P.937 - P.943

 X線画像は生体組織間におけるX線透過性の違い(濃度分解能)と,X線の直進性(空間分解能)を利用して得られる.このX線画像の基本についてふれ,さらにコンピュータを用いてX線透過性の違いをデジタル化したX線CTとディジタルラジオグラフィについて述べる.

ME機器と安全・2

ミクロショツクと病院内配電設備

著者: 福本一朗

ページ範囲:P.953 - P.956

ミクロショック
 心臓はそれ自身が精巧に作られた生物発振器一電気信号伝達系でもあることからも,容易に類推されるように通電に対して非常に敏感である.極微小電流が心臓に流されただけで心臓の同調率は失われ,心室の収縮は不規則となり,心臓の各部分は勝手に収縮してポンプとしての機能は激減する.この状態を心室細動という.心室細動が生じてしまうと2Aから6Aという大電流を心臓に通電して心筋の再同期を期待する直流除細動以外の方法では心機能を回復させることは困難である.
 心臓カテーテルなど心臓近辺に挿入された物質が低インピーダンス電流路となって,心臓に通電された時には心臓への生理的影響が体外からの通電量より低い電流値で生じる.これをミクロショックと呼ぶ.右心室先端近くに置かれたカテーテルはイヌを用いた実験では約10μA,ヒトでは約60μAで心収縮の欠落をもたらすことがわかっている.カテーテルを入れたままで電流量を増していくとイヌにおいては2μAで心室細動が生じる.ヒトにおいて心室細動を起こす電流閾値は,心筋針電極の場合で200μA,心尖円盤電極で75μAと測定されている.この閾値より低い電流の場合では可逆性の心室性頻脈を生じるが,閾値を越えると上述の心室細動へと移行する.

研究

ELISA法によるヒト血漿ビトロネクチン濃度の正常値

著者: 高橋恒夫 ,   細田真理 ,   関口定美 ,   長谷川有加 ,   下岡正志 ,   伊井一夫

ページ範囲:P.957 - P.960

 健常献血者881名から得た血漿中のビトロネクチン(VN)濃度をELISA法により測定し,性,年齢,体重,血液型による差を調べた.CPD添加血漿のVN濃度は212±36μg/mlであり,CPDの希釈を補正すると正常値は162〜330μg/mlとなった.年齢とVN値に相関はなかったが,体重とは正の相関が認められた.男性のVN値は女性より高かったが,これは平均体重の差に起因すると考えられた.また,0型の平均値は他の血液型に比べ有意に高かった.

Single-chain urokinase-type plasminogen activatorの測定法

著者: 松尾理 ,   上嶋繁 ,   岡田清孝 ,   深尾偉晴 ,   大柿光臣 ,   有村博文 ,   渡辺良三

ページ範囲:P.961 - P.966

 Single-chain urokinase-type plasminogen activator(scu-PA)は別名Pro-UK,Plasminogen Pro-Activator(PPA)とも呼ばれていて,plasminogen activator活性を有しない一本鎖の前駆体である.Plasminによって二本鎖に分解されるとurokinaseとしての活性が出現する.本研究ではscu-PAの活性測定の定量的な方法について述べた.単位をIUPACおよびIFCCの勧告に基づき設定した.scu-PAの1単位はurokinaseの335IUに相当した.

編集者への手紙

ラット肺胞マクロファージのリソゾーム内pH測定の検討

著者: 庄野正行 ,   森口博基 ,   藤沢謙次 ,   宮本博司

ページ範囲:P.967 - P.967

 従来細胞内pHの測定は細胞群の測定でされていたが,最近単一細胞で行われる時代になってきた.そこで食細胞で有名なマクロファージ(ラット肺胞)1)にコラーゲンを食べさせ,リソゾームと融合2)した時のリソゾーム内pHの測定を試みた.一般にリソゾームはおよそpH3〜6ぐらいといわれている.これは酵素の貯蔵庫として有名な顆粒である.食べさせたコラーゲンは蛍光色素FITCでラベルされており,pHの変化に伴って蛍光強度が変化する.蛍光色素FITC溶液は450nmと495 nmの蛍光強度の比により,pHの標準曲線が得られることは以前より知られており3),この理論を基礎にして検討した.

質疑応答

臨床化学 レクチンによるALPアイソザイムの測定

著者: 小澤仁 ,   三浦雅一 ,   小山岩雄 ,   菰田二一

ページ範囲:P.969 - P.972

 〔問〕 レクチンを用いて電気泳動を行うことで肝臓型と骨型ALPが分離されるという報告がありますが,易動度が同じ肝臓型と骨型ALPがなぜレクチンにより分離されるのか,ご教示ください.

免疫血清 Chlamydia trachomatis抗原検査と抗体検査

著者: 山本豊 ,   津上久弥

ページ範囲:P.972 - P.975

 〔問〕 クラミジア抗原検査(「Chlamydiazyme」)で陽性者は1231例中77例(6.3%),次いで抗体検査(「IPAzymeクラミジアAG」)による陽性者は79例中17例(21.5%)でした.検体採取法の問題もいろいろあると思いますが,Chlamydiazymeで陽性に出れば一応感染していると考えられます.IPAzymeクラミジアAGの試薬を使用して抗体陽性の場合,陽性者全員を感染者とみなしてよいものか,治癒後にも抗体(IgG)が残るものか,ご教示ください.

微生物 菌株の分譲について

著者: M生 ,   余明順 ,   本田武司

ページ範囲:P.975 - P.979

 〔問〕 微生物の同定や研究においては,他施設が保有している既知の菌株と比較して検討する必要がしばしば生じます.そのような際の菌株の入手方法,特に論文などで用いられている菌株の入手法について教えてください.逆に,分譲依頼を受けた場合にどう対処すればよいか(特に外国からの場合)についてもご教示ください.

診断学 ネフローゼ症候群における脂質の増加

著者: Q生 ,   永野正史 ,   多川斉

ページ範囲:P.979 - P.981

 〔問〕 ネフローゼ症候群は,診断基準にも示されているように,高脂血症が特徴とされています.腎疾患で脂質(コレステロール)が増加する機序についてご教示ください.

雑件 人間ドックの実施について

著者: 菊池啓記 ,   今鷹耕二

ページ範囲:P.981 - P.982

 〔問〕 半日人間ドックを開設する際の検査項目と手順,検査室の対応法(4人体制の場合)などをお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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