icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査34巻1号

1990年01月発行

雑誌目次

今月の主題 異常環境 巻頭言

異常環境と臨床検査

著者: 河合忠

ページ範囲:P.7 - P.7

 45億年も以前に地球が誕生し,20億年もの長い間を経て,今から27億年前に地殼が安定したと考えられている.さらに10億年も経過して,ようやく生物が誕生したらしい.そして人類が誕生したのは100万年前と推定されている.すなわち,人類の歴史は地球の歴史のうち99.9%以上も過ぎてからのものに過ぎないのである.地球の歴史の中で,大きな造山運動が数回はあったと考えられているし,人類が誕生してからだけでも4回の氷河期を経験している.こうした自然の環境が大きく変動している中で,生物はそれに適応して進化を遂げてきたのである.きっと,生物にとって地球は厳しい生活環境であったに違いない.それになお耐えられるように体内の調節機能が発達して,ホメオスターシスが確立されたのであろう.臨床検査値の生理的変動はそうした調節機能の結果なのである.
 人間社会における変革を"波"にたとえて,アメリカの未来学者であるアルビン・トフラー博士は3つの波に分けている."第1の波"は,原始時代からヨーロッパで起きた産業革命までの農業社会であり,人間は自然を畏敬し,自然と調和して生きていた."第2の波"は,産業革命から20世紀を生きつづけた産業社会である.そして,21世紀に向けて,"第3の波"超産業社会へと着実に移行しつつある."第1の波"が自然との調和の上に成り立ったとすれば,"第2の波"はまさに自然を畏れず,人間が自然に挑戦した時代なのである.その結果,農業社会で経験しなかった,新しい人為的な生活環境にさらされることになった.地球上での変化にとどまらず,海底へ,そして宇宙へと人間の生活の場を拡げつつある.そればかりか,原爆・水爆による放射能汚染,産業廃棄物による地球上および地球周辺の空間の汚染,さらに地球自然の貧欲なまでの破壊,など数えきれないほどの生活環境の変化が問題になっている.

総説

異常環境への人体の適応

著者: 上田五雨 ,   竹岡みち子

ページ範囲:P.8 - P.14

 異常環境に生体が曝露されると,代償作用があらわれ,続いて障害,危険,致死状態に入る.外界の刺激には特異的なものと非特異的なものとがあり,生体は体の各系統で,多重反応を示し,障害を修復するようにする.回復が不十分なときには,適応不全とか疾患を呈する.環境の要因が複合的に作用すると,陽性または陰性の交差適応を示す.個体レベルを超えて環境に適応すると,進化が起こる.最近では,異常環境は高度の技術で克服されつつある.

解説

高温

著者: 高谷治

ページ範囲:P.15 - P.19

 高温環境は通常でも人類は経験し,生存を保ってきているので,それが湿度とともに過度になり,また運動も加わって長時間に及ぶと異常を発生する.その総称を熱射病というが,この中には日射病(狭義の熱射病),熱疲憊および熱けいれんの3種の病態がある.これらの病的状態に対する診断,治療について,わかりやすく具体的に述べた.特に狭義の熱射病は健康体がおちいる急性の救急疾患であるので,これを救命することは大切なことである.今回はこの予防についてはふれていないが,それぞれの病態については臨床検査が重要であることはもちろんのこと,何かが怠られて大事に至ることは避けたいものである.

低温

著者: 熊切正信

ページ範囲:P.20 - P.23

 適応限界を越える寒冷刺激にさらされると,さまざまな病態が惹起される.全身が冷えて低体温になる偶発性低体温症と,裸露部に多い局所障害である凍瘡および凍傷とがある.特に直腸温で35度以下に下がった状態の偶発性低体温症は,外国での独居老人に多いとされていたが,本邦でも注目されるようになった.凍瘡と凍傷については,生活環境の向上と知識の普及とによって減少する傾向にあるが,予防の可能な疾患である.寒冷刺激時の末梢血管の収縮は手,足の温度低下をきたすが,頬,耳にも好発する.これらの部位は,サーモグラフを用いて観察すると,わずかな環境温度の変化にも敏感に反応し低温になる.

高地

著者: 半田健次郎

ページ範囲:P.24 - P.29

 高地は低気圧,低酸素分圧,低気温の環境である.生体が高地環境へ曝露された際の生理反応は,その環境の条件,曝露期間の長短によって著しく異なり,個体差も大きい.高地環境曝露に対しては,生体は呼吸・循環機能の亢進を中心とした順応反応により対応する.
 急性高山病は,海抜2700m以上の高地へ比較的急速に到達した際に起こる症候群であって,頭痛,不眠,悪心,思考力低下などを訴える.高地肺水腫は最も重症型で,呼吸困難,咳,血痰,チアノーゼ,肺の水泡性ラ音を主症状とする.放置すれば急速に悪化する.迅速な低地移送と酸素吸入が不可欠である.

無重力

著者: 谷島一嘉

ページ範囲:P.30 - P.34

 無重量の地上での模擬には,自由落下,弾道飛行,懸垂,長期臥床,水浸,6°ヘッドダウンなどの手段があり,目的に応じて使い分けられる.宇宙の無重量による人体の変化は,循環系のデコンディショニングと起立耐性の低下,骨からの持続的なCaの喪失,抗重力筋を主にした筋肉の萎縮,宇宙酔いなどがあげられる.特に,Caの喪失についてはまだ有効な対策がないのが今後の問題である.宇宙での臨床検査は,無重量という環境条件が地上で考えられないほど特殊なこと,持ち込む検査機器の安全性その他に関する厳しい制限があること,などのために特別な工夫が必要である.

微小重力とライフサイエンス実験

著者: 向井千秋

ページ範囲:P.35 - P.40

 微小重力を利用したライフサイエンス研究は,長期宇宙滞在や火星飛行を可能にするだけでなく,重力環境から免れることのできない地球上生命体と重力との関連を知るうえで非常に魅力的な分野と思われる.本稿では,宇宙環境,特に微小重力環境を積極的に利用して行うライフサイエンス実験を紹介するとともに,その有用性や宇宙ステーション時代に向けての発展性について述べたい.

減圧による障害

著者: 池田知純

ページ範囲:P.41 - P.45

 減圧によって生じる障害には,体腔内の容積が減圧に伴って増加することによる圧外傷やガス塞栓症,体内の不活性ガスが過飽和になって発生する減圧症,および臨床症状を呈するまでに長期間を要する骨壊死などがある.本稿では,これらのうち,減圧症と骨壊死を中心として,症状,発症機序について概説するとともに,主に障害の予防ないし軽減の見地から,今後さらに発展させるべき検査法について述べた.

放射線

著者: 赤沼篤夫

ページ範囲:P.46 - P.50

 自然環境には自然放射線もあり,生物はこれと共存してきた.環境を破壊するのは人工放射線であって,今世紀はじめより,まず医療に,ついで産業に利用されてきた.この人工放射線は,われわれの生活環境および労働環境との調和を図りつつ利用されなければならない.生活環境,労働環境を破壊するのが事故である.この異常環境に対して,まず生命保全の処置を行う必要がある.LD50は約3.5Gyと考えられているが,正しい医療処置により,5Gy程度の被曝までは生存できる.

赤外線・紫外線―眼科の立場から

著者: 堀内知光

ページ範囲:P.51 - P.55

 科学の進歩とともに,生活環境は大きく変わり,われわれを取りまく赤外線,可視光線,紫外線などの,強さも量も増加している.眼科の立場から,これら電磁波の眼球に及ぼす作用,特に熱作用と光化学作用を述べ,その結果とされている眼組織のさまざまな障害を紹介する.

振動

著者: 的場恒孝

ページ範囲:P.56 - P.60

 この地球に存在する万物は,みな振動体である.人間もまた振動を発生している.このことは心音図,指尖容積脈波図,手掌のマイクロバイブレーションなどでみることができる.振動の人体への障害影響で問題となるのは,手腕系振動障害(または振動病),全身振動障害,公害としての低周波振動・交通振動である.これらの疾病の症状は,症度によって差がみられるが,全身的に影響する.良い影響として振動が使われている例としては,理学療法で用いられるバイブレータがある.

著者: 猪忠彦

ページ範囲:P.61 - P.67

 音や振動については,これをうまく利用したビジネスが多数成立している一方で,出された音や振動が人体に好ましからざる影響を及ぼしている場合もよくみられる.エネルギー消費量の急激な増大とともに騒音の発生量も増加し,騒音性難聴,ディスコ難聴,超低周波音公害などの社会問題も発生してきている.その一方で,防音,遮音,吸音,消音などの技術も進んできており,これらの好ましからざる影響から逃れるには,人々が自分の耳をどのように適切に管理できるかにかかっているといえよう.

大気汚染

著者: 島正吾 ,   落合昭博

ページ範囲:P.68 - P.74

 近年,大気汚染にかかわる環境問題は,酸性雨やフロンガスなどによる成層圏オゾン層の破壊の問題,炭酸ガス,メタンガスなどによる地球の温室効果,あるいは浮遊粉塵や排気ガス中に含まれる各種の新しい有害物質による環境汚染の進行とヒトへの健康影響などが注目されており,いずれも新しい次元において今後の取り組みが大きな課題となっている.ここでは,こうした地球規模レベルでの環境汚染の実態を浮きぼりにし,長期,微量かつ慢性曝露下における複雑にして深刻な今日的課題をめぐる今後の対応のありかたに言及せんとした.

時差

著者: 本間研一

ページ範囲:P.75 - P.79

 人が急激な時差の変化に暴露されると,不眠,覚醒困難,精神作業能力の低下,胃腸障害などを主症状とする一過性の精神身体的不調が生じる.原因は,再同調速度の異なる2つの生体リズム系に生じる内的脱同調にあると考えられる.その結果,睡眠構造や体温リズム,ホルモン分泌に特徴的な変化があらわれ,生体機能の時間的統一が失われる.時差症状は1週間ほどで自然に消失するので,多くの場合問題ないが,リズムの逆行性再同調による時差症状の遷延化や,くり返し時差に曝露されることによる症状の慢性化は治療の対象となることがある.

話題

宇宙ステーションの健康モニター

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.80 - P.83

 宇宙ステーションは,救急医療の面で地球とは独立した医療単位になるので,診断から治療にいたるすべての医療が要求され,さらには疾病の予防も担当する必要がある.しかも,医師が常駐しないことも前提となっている.容量的にコンパクトなドライケミストリーの採用が今のところ予定されているが,機器の開発は民間との協力で進められており,検査項目の選定は宇宙での特殊環境を考慮にいれるが,民間病院での救急医療の経験に基づく優先順位を参考にして決められる.

スポーツ医学に用いられるセンサ・テレメトリ

著者: 芝山秀太郎 ,   井元一豊

ページ範囲:P.84 - P.88

 スポーツ医学における検査では,運動する生体を取りあげるのが原則であり,スポーツ活動時の自由を拘束せず,無理なくセンサを装着しうることが条件である.生体電気現象や生体内外の物理的活動を採取するために,センサやトランスデューサには,一般の臨床検査とは異なる用法が工夫されており,多チャネルのテレメトリも実用化されている.しかし,法的規制が強化されたので,新たな遠隔距離無線搬送技術の開発が緊要の課題である.

カラーグラフ

腎生検の実際

著者: 坂口弘 ,   緒方謙太郎

ページ範囲:P.4 - P.5

腎臓病の病理・1【新連載】

腎生検の実際

著者: 坂口弘 ,   緒方謙太郎

ページ範囲:P.90 - P.93

 経皮的腎生検法は,1951年,Iverson&Brunによってはじめて紹介された.これは今日,腎疾患,特に糸球体腎炎の組織分類,病像・病態の把握などのためになくてはならない検査法の1つとなっている.この検査は生検針を用いて腎組織を,長さ約1~2cm,幅約1mmの検体として採取し,光学顕微鏡,電子顕微鏡,さらに蛍光抗体法による検索を行うものである.腎臓病の病理について概観する前に,本稿では,腎生検の意義,実際に行われている生検手技,採取された検体のそれぞれの検索のための処理方法とその原理について述べた.

TOPICS

抗イディオタイプ抗体のワクチンとしての応用

著者: 竹田多恵

ページ範囲:P.94 - P.95

 抗体が個々の抗原と特異的に結合する可変部領域には,抗原に対応した固有の型,すなわちイディオタイプがある.これは抗体(Ab1)のH鎖とL鎖のN末端約100個のアミノ酸で構成されていて,それ自体もまた抗原決定基となりうる.すなわち,抗イディオタイプ抗体(Ab2)を誘導することができる.このAb2の中には,ほんの一部ではあるが元の抗原と同じか類似の構造(内的イメージ)を持ち,元の抗原と同じ抗原性を示すことができるものがある.これにヒントを得て,Ab2をウイルス感染や癌の予防・治療に応用する試みがなされるようになった.
 ワクチンとして使える可能性をはじめて示したのはSacksらである.彼らは,アフリカ睡眠病の病原体Trypanosoma rhodesienseに対するモノクローン抗体(MAb)でマウスを免疫し,得られたAb2をマウスに投与したところ予防効果が得られたと報告してる1).ただこの時の予防効果は,MAbを調整したのと同じ近縁のマウスにしか発現されなかった(allotype-restricted).内的イメージを持つAb2ではなかったようである.抗体可変部のイディオタイプ決定基の中には遺伝的背景が関与する領域や,パラトープ(抗原と直接結合する部分)にあずからない領域もあるので,Ab2がすべて有効なワクチンとはなりえない.

血清コレステロールの正常値

著者: 小泉順二 ,   馬渕宏 ,   竹田亮祐

ページ範囲:P.95 - P.96

 血清コレステロール(TC)が冠動脈硬化の重要な危険因子であることは,広く知られている.血清脂質の正常値は,従来,一般健康人の集団の平均±標準偏差で決められていた.しかし,この方法では環境因子により異なった値となり,また,健康人と思われる人で将来動脈硬化症を生じるおそれのある高脂血症患者を除外することはできず,動脈硬化症の危険因子としての高脂血症を定義する標準値(正常値)を決定することは困難である.したがって,正常値として大規模な疫学調査から得られた正常値が採用されるようになっている.
 フラミンガム・スタディによると,TCと冠動脈硬化症(CHD)の関係は,240mg/dlを越えると直線的に高くなると,CHDを生じる閾値が考えられていた1).しかし,1986年に発表されたMultiple Risk Factor Intervention Trial(MRFIT)の成績で,150mg/dlより300mg/dlまで,TCが上昇すればするだけCHDによる死亡が増加することが示され2),現在では,TCは低ければ低いほうが冠動脈硬化に良いと考えられている.

ホスホエタノールアミン

著者: 片岡洋行

ページ範囲:P.96 - P.97

 ホスホエタノールアミン(PEA)は,リン脂質代謝の重要な中間体であり,動物の組織や体液中に広く存在することが知られている.
 PEAの生理的意義については,リン脂質の構成成分としての役割を除いて十分解明されていないが,ラット乳癌細胞に対して増殖促進作用1)あるいは増殖阻害作用2)を示すことや,造血機能に対する生理的な抑制因子として作用している可能性3)が示唆されている、また,アルカリホスファターゼ活性低下を伴う低リン酸酵素症4)や代謝性骨障害5))の患者の尿中にPEAが多量に排泄されることから,これらの疾患の生化学的指標となっている.また最近,アルツハイマー病(AD)やハンチントン舞踏病(HD)患者の脳内PEA含量が病変の好発する領域で著しく減少していることが認められ,注目されている6).そこで本稿では,PEAとADおよびHDの病因との関連性に関する知見について紹介する.

アルカリホスファターゼの化学発光基質AMPPD

著者: 芦原義弘

ページ範囲:P.97 - P.98

 臨床検査に用いられるアルカリホスファターゼの基質としては,従来より比色測定用のp-ニトロフェニルリン酸(PNP)が知られている.また,高感度基質としては4-メチルウンベリフェリルリン酸(4MUP)が一般的である.これらは臨床検査の分野では生化学のみならず,免疫血清でのEIAの標識酵素であるアルカリホスファターゼの基質として利用されている.一方,EIAにおける迅速,高感度化にともない,化学発光あるいは生物発光法が注目されている.本稿では,最近報告されたアルカリホスファターゼの新規な化学発光基質(AMPPD)の反応原理,その特徴,応用について述べる.
 1988年,米国のDr.Bronsteinらは,アルカリホスファターゼの安定な化学発光基質3-(2'-spiroadamantane)4-methoxy-4-(3"-phosphoryloxy)phenyl-1,2-dioxetane(AMPPD)を合成した1).その構造は図1の(Ⅰ)に示すように,ジオキセタンに結合するフェニルリン酸とジオキセタン骨格を立体的に安定化させるアダマンチル基よりなる.このAMPPDは酵素により加水分解されて,比較的不安定な中間体(Ⅱ)となる.この化合物はアルカリ溶液中でジオキセタン骨格が開裂して,1重項励起状態のm-ヒドロキシ安息香酸メチルエステル(Ⅲ)とアダマンタノンになる.この励起化合物(Ⅲ)は波長470nmの光を発して基底状態に戻る.この反応は酵素で励起化合物の生成をくり返すため,酵素反応時間20分~30分で発光量がプラトーになる増幅型となっている.アルカリホスファターゼのこの基質に対するKm値は2×10-4mol/lであってPNPや4MUPと類似しており,基質の親和性にアダマンチル基は影響していない.

HCV抗体検査

著者: 宮村達男

ページ範囲:P.98 - P.99

 実験的に感染の成立した非A非B型肝炎感染チンパンジーの血漿から抽出されたRNAのcDNAライブラリーから,回復期の患者血清を用いてimmunoscreeningされて得たcDNAクローンが,非A非B型肝炎の原因としてのC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)由来であろうとする根拠は2つある.1つは,その遺伝子がまったくヒトやチンパンジーの細胞DNAとハイブリダイズせず,gene walkingの結果,全長約10kbのプラス鎖のRNAであったことである1).この塩基配列は,一部のフラビウイルスと相同性があり,クローニングの出発材料であるチンパンジーの血漿の感染実験を長年にわたって地道にやっていたCDCのBradleyらが1982年当時から想定していた感染性因子の諸性状と矛盾しない2)
 もうひとつの根拠は,はじめに得られたcDNA断片の近傍のcDNA (非構造蛋白をコードする領域の一部)を組換え酵母の中で発現させ,得られたポリペプチドを用いた抗体のアッセイの結果である3).すなわち,①この抗体が輸血後非A非B型肝炎の大半や散発性の非A非B型肝炎の半数以上に検出されること,②A型やB型肝炎患者にこの抗体は検出されない.これらの結果は,このアッセイ系の抗原が非A非B型肝炎の原因となる感染性因子に由来することを示すと同時に,さらにこのアッセイ系が感染性のウイルスの存在を示唆することがわかり,ウイルスキャリアの検出や,ウイルスの感染経路などについて調べるHCVの血清疫学に強力な武器となりうることがわかった4).日本での献血人口の約1%前後がウイルスキャリアであろうことから,輸血用の供血者のスクリーニングにも有用であることが示された5).また,このアッセイを利用して,肝硬変や肝癌患者(非B型)にも高率に抗HCV抗体が検出されること6)や,母児感染や夫婦間の感染を示唆するような症例も見いだされた7).

Acanthamoebaによるコンタクトレンズ保存液汚染と角膜炎

著者: 坂本雅子

ページ範囲:P.99 - P.100

 Acanthamoebaによるコンタクトレンズ(以下CL)保存液汚染とそれによる角膜炎が問題となり,一部マスコミで報導され,特にCL装用者においては混乱をきたしたのは記憶に新しい.
 Acanthamoeba角膜炎はAcanthamoebaの寄生によっておこる感染症であり,近年欧米で注目され,本症例の半数以上がCL装用者であることからCLの保存方法などとあわせて問題となっている.以下Acanthamoebaの特徴,検査方法,疫学などについて紹介する.

学会印象記 第36回日本臨床病理学会総会

医療全般から見た臨床検査の再検討―経験主義から統合的選択へ,医学判断学の登場!!/新たな試みに満ちた充実の3日間

著者: 野口英郷

ページ範囲:P.102 - P.103

 平成時代最初の第36回日本臨床病理学会総会は,1989年10月5日(木)から7日(土)までの3日間にわたり,京都市宝ヶ池の国立京都国際会館にて,京都大学医学部臨床検査医学教授・村地孝総会会長の下で開催された.一般口演379題,一般掲示343題の計722題のほかに,シンポジウムが16ものテーマで討論された.また,恒例の総会会長講演と特別講演があり,他に技術セミナーが10本,各種専門部会7本があり,最後に公開フォーラムが持たれた.なお,3日間を通して,120社にのぼる医療関連企業の参加の下に,恒例の医療検査機器展示会が今年は同一会場に併設された.
 総会会長講演は「calpainとcalpastatin」であった.calpainはCa2+で活性化されるSH基を持ったプロテアーゼの総称で,細胞内ペプチド鎖の限定分解を担う非リソソーム・プロテアーゼであり,calpastatinはcalpainに特異的に作用する細胞内在抑制因子の総称であって,両者とも細胞内に局在して,calpain―calpastatin系という一種の生体制御系を形成している.calpainにはⅠ型とⅡ型,calpastatinには組織型と赤血球型というそれぞれ2種ずつのアイソエンザイムが存在する。両者ともほとんどすべての動物細胞に分布しているが,それらの含有量には組織細胞の種類により大差がある.この事象の意義の解析は今後の課題である.

編集者への手紙

顕微蛍光測光装置による単一細胞内pH測定の検討

著者: 庄野正行 ,   石田富士雄 ,   池原敏孝 ,   宮本博司

ページ範囲:P.104 - P.104

 従来細胞内pHの測定は,pH電極,弱酸性,弱塩基色素などを用いていたが,現在は超高感度pH指示薬BCECF-AMが使われるようになった.BCECF―AMは細胞内pH測定のための蛍光試薬としてRinkらによって開発されたfluorescin誘導体である.BCECF-AMは細胞膜を透過した後,細胞内でエステラーゼにより水解され,膜不透過性のBCECFになる.BCECFは励起光450~530nmに対し約504nmにピークをもつ蛍光を発する.現在,細胞内pHは励起光496/450nmの蛍光強度比とpHの関係を示すキャリブレーションカーブ(標準曲線)を用いて算出されている.この方法を基礎にして単一細胞内pHの測定を試みた.図1はThomasらのナジェリシン/K法による標準曲線を示す.

研究

37℃および32℃培養によるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の検出状況に関する検討

著者: 小林宣道 ,   鈴木彰 ,   大水幸雄 ,   上原信之 ,   中村徹 ,   田代正光 ,   黒川一郎 ,   熊本悦明

ページ範囲:P.105 - P.108

 黄色ブドウ球菌臨床分離株を用いて,32℃および37℃培養におけるメチシリン感受性について調査検討を行った。その結果,被検菌株の約56%は,32℃におけるMICが37℃の2~16倍増加し,それに伴いMRSA検出率の上昇が認められた.また,32℃における感受性試験では,セフェム系多剤耐性傾向を有するMRSAの検出率は37℃に比して有意に高率であった.以上より,MRSAおよびセフェム多剤耐性株の検出において,32℃培養による感受性試験の重要性が示唆された.

資料

解糖阻止剤4種(NaF,モノヨード酢酸,クエン酸,D―マンノース)の比較

著者: 佐藤富美子 ,   平野哲夫 ,   松崎廣子

ページ範囲:P.109 - P.114

 4種の解糖阻止剤について,その阻止効果を比較検討した.NaF,モノヨード酢酸は速効性に欠け,採血1時間以内に血糖値の低下を生ずる.クエン酸は速効性を有するが,溶解性が悪く,検体の溶血が起こりやすい.D―マンノースは速効性を有し,溶解性も良いが,阻止効果は十分でなく,また,血糖および他の検査項目の測定も可能だが,場合によっては影響を及ぼすこともある.以上それぞれ利点,欠点がみられた.

COBAS BACTによる薬剤感受性測定と希釈法,センシディスク法との比較検討

著者: 三澤成毅 ,   小栗豊子

ページ範囲:P.115 - P.119

 臨床材料分離株を用い,COBAS BACTによる薬剤感受性成績を希釈法ならびにセンシディスク法と比較検討した.COBAS BACTと希釈法およびセンシディスク法との成績の一致率はそれぞれ,90~94%,73~94%であり,センシディスク法より希釈法とよく一致した.薬剤別には,一部の菌種と薬剤の組合せについては一致率が低く,また,偽感性の成績も多く認められた.菌種別には,COBAS BACTと希釈法とでは差が認められなかったのに対し,センシディスク法とではEnterococcusとPseudomonas aeraginosaにおいて一致率が低かった.

質疑応答 臨床化学

リポ蛋白質への超遠心法の影響

著者: Q生 ,   寺本民生

ページ範囲:P.121 - P.125

 〔問〕HDL,βリポ蛋白を精製するのに超遠心法がよく用いられています.その方法では2~3日超遠心するようですが,その場合,リポ蛋白質として影響はないのでしょうか,ご教示ください.

免疫血清

EIA法によるASO価測定

著者: K生 ,   荒川正明

ページ範囲:P.125 - P.127

 〔問〕マイクロタイターにSLO (ストレプトリジンO)などの抗原を固定化してEIA法によるASO価測定を実施するのに,よい固定化法,およびその方法(EIA)を確立するまでの注意点および操作法について,具体的にご教示ください.

微生物

Campylobacter pyloriと上部消化管疾患

著者: T生 ,   山本一成 ,   福田能啓 ,   下山孝

ページ範囲:P.127 - P.130

 〔問〕最近,上部消化管疾患とCampylobacter pyloriの関係が注目されているようです.その現状とC.pyloriの検出法についてご教示ください.

診断学

健常者にみられる弁口部逆流と病的逆流の鑑別

著者: K生 ,   石光敏行

ページ範囲:P.130 - P.133

 〔問〕健常者でもみられるという弁口部での逆流について,病的なものとの鑑別はどのように行われるのかご教示ください.

一般検査

フィッシュバーグ濃縮試験直後のPSPテスト

著者: 中西寛治 ,   折田義正

ページ範囲:P.133 - P.134

 〔問〕フィッシュバーグ濃縮試験直後にPSPテストの依頼がありました.前者で腎臓に負担がかかっていると思われますが,その直後にPSPを実施して正しい成績が出るのでしょうか.よろしくご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?