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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査34巻11号

1990年10月発行

雑誌目次

特集 電解質と微量元素の臨床検査ガイド

序文

著者: 大久保昭行

ページ範囲:P.1268 - P.1269

 遺伝子工学の発展により,蛋白質や生理活性ペプチドをDNAレベルで解明することが可能となり,微量の生理活性成分の分子構造が明らかにされつつある.また,生理機能や細胞機能が分子レベルで解明されようとしている.水・電解質代謝の分野では,レニン,心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP),エンドセリン,脳性ナトリウム利尿ペプチドなどの生理活性因子の分子構造が,わが国の学者の努力で明らかにされた.また細胞膜のレセプターの解明も進み,電解質も含めて細胞膜での物質移送のメカニズム,細胞機能の制御機構が分子レベルで理解されようとしている.
 他方,分析技術の発達と測定機器の開発も進み,従来は測定が困難であった生体内成分も測定できるようになった.例えば,モノクローナル抗体を使用した,radioimmunoassay(RIA),radioimmunometric assay(RIMA),enzyme immunoassay(EIA),enzymelinked immunosorbent assay(ELISA)などの高感度イムノアッセイ法が開発されて,微量なホルモンや生理活性物質の測定が可能となり,原子吸光分析技術の進歩により微量金属を臨床検査で測定するようになりつつある.その結果,これまで不明であった種々の病態が明らかになり,検査データを基に合理的な治療が可能となった.

総論 1 代謝と生理

1)水

著者: 長坂昌一郎 ,   斉藤寿一

ページ範囲:P.1274 - P.1280

水代謝の生理
1.水の分布と出納
1)水の分布
 人間の体内に含まれている水は,体重の約60%を占める.この比率は乳幼児では若干高く,老人では低い.また肥満者など脂肪組織の割合の大きいものでは,この比率は低く,また女性では男性よりも低い.このように水の占める割合には若干の個体差があるが,各個体についてみると,恒常性維持機構によりほぼ一定に保たれている.
 体内の水は,細胞内液と細胞外液に大別される.細胞内液は体重の40%を,細胞外液は体重の20%をそれぞれ占める.細胞外液はさらに,血漿(水)と,組織間液(間質液)に分けられる(表1).細胞内・外液の浸透圧(osmolality)はいずれも,およそ290mOsm/kgH2Oである.これは,細胞内外の水が,細胞膜を介して速やかに移動するためである.

2)ナトリウム(Na)

著者: 堀尾勝 ,   折田義正

ページ範囲:P.1280 - P.1287

はじめに
 体重の約60%を占める水は2/3は細胞内液,1/3が細胞外液として存在し,細胞外液はさらに血漿水,間質液などに分けられる.このような体液の容量(水分量)やイオン組成は,食事内容や外的自然環境の変化にかかわらず一定に保たれる.これには,細胞外液の容量,浸透圧を感知し腎で排泄調節を行う機構が,重要な役割を果たしている.
 ナトリウムイオン(Na)は細胞外液に存在する主要な陽イオンであり,細胞内液にはわずかしか存在せず,カリウムイオン(K)の分布と対照的である.そのためナトリウム(Na)の量,濃度の変化は細胞外液の量および浸透圧の変化として反映され,細胞外液量は,基本的に血漿浸透圧調節系と循環血漿量調節系を介して腎での水・Na排泄により調節される.

3)カリウム(K)

著者: 水越洋

ページ範囲:P.1287 - P.1293

はじめに
 カリウム(K)は主として細胞内に存在する陽イオンであり,平均約150mmol/lの濃度で細胞内陽イオンの大部分を占める.一方,血清K濃度の正常値は3.5~5.0mmol/lの範囲内にあり,細胞内濃度に比して極めて低値である.この濃度差と細胞膜のKに対する高い透過性によって,静止膜電位が維持されている.Kはこの膜電位を介して細胞の機能,特に神経,筋の機能に重要な影響を与える.またKは種々の酵素作用に必須であり,蛋白合成,グリコーゲン合成などに重要な役割を果たしている.

4)酸・塩基平衡

著者: 石田尚志 ,   小澤定延 ,   若山孝 ,   福村正 ,   外山勝英

ページ範囲:P.1293 - P.1301

基礎理論
1.酸・塩基平衡異常とは
 体液のpH(水素イオン濃度の表現法の一つ)は常に一定の狭い範囲に保たれている.これは生体が示す恒常性(homeostasis)の一つであり,生体のpHはナトリウムイオン(Na),カリウムイオン(K),塩素(クロール)イオン(Cl)などほかの電解質と同じように,細胞外液,特に血液による動的な調節維持機構によって保持されている.
 生体のpHを考える場合,本来は細胞内液のpHと細胞外液のpHとに分けなければならないが,臨床医学では観察の対象が血液のpHに限られているので,特に断わりがない場合にpHは血液のpH,しかも動脈血のpHを指していることになる.動脈血が選ばれるのは,静脈血では特定部位の組織の代謝やガス交換を反映しているし,肺におけるガス交換の状態を把握しにくいからである.

5)カルシウム(Ca)

著者: 岡崎亮 ,   松本俊夫

ページ範囲:P.1301 - P.1307

はじめに
 成人の体内には約1kgのカルシウム(Ca)が存在する.その99%は骨にヒドロキシアパタイトとして蓄えられており,残る約1%のCaのほとんどは細胞内に存在し,血液中に存在するCaは0.1%(約1g)にすぎない.
 血液中に存在するCaの約40%は,アルブミンなどの蛋白と結合している.また,リン酸,クエン酸などとカルシウム塩を形成しているものもあり,50%弱が遊離Caイオン(Ca2+)として存在する.このうち,各種の調節ホルモンにより厳密な調節を受け,生体の細胞機能の維持に必須の役割を演じているのは,遊離Ca2+である.

6)マグネシウム(Mg)

著者: 吉田政彦

ページ範囲:P.1307 - P.1310

はじめに
 マグネシウム(Mg)は生体内でカルシウム(Ca),カリウム(K),ナトリウム(Na)に次いで豊富に存在する陽イオンである.一方,細胞内陽イオンとしては,Kの次に多く含まれている.Mgはすべての生物にとって必須のミネラルの一つであり,多くの重要な生物学的過程を制御している.賦活体およびエネルギー源としてリン酸代謝過程に密接に結びついており,ことにリン酸代謝に関与する酵素の大部分はMgを必要としている.このようにMgはエネルギーを要する反応とエネルギー産生に深い影響を及ぼしている.また,細胞膜の透過性や神経筋興奮伝導にとっても必須の役割を果たしている.
 二価陽イオンであるCaと比較されるが,Caの細胞内濃度が細胞外液の1/100~1/1,000と極端に低濃度であり,自ずと両者の代謝が大きく異なることが理解されることであろう.

7)鉄(Fe)

著者: 八幡義人

ページ範囲:P.1311 - P.1321

はじめに
 鉄(Fe)は地球上に広く分布しており,特に鉱石,土には大量に含有されており,その点では,決して微量金属ではない.しかし,いったん生体内をみると,その含有量は極めて微量で,成人男子でもその体内Fe量はおよそ数gにすぎない.また,体内分布にも著しい特徴があり,赤血球内には全体内Fe量の約60%が含まれている一方,他の体組織にはごくまれである.
 他方,機能面からFeの作用をみると,大別して,生体にとって,おおよそ四つの作用を持っているといえる1~9).第一は,ヘモグロビン(hemoglobin;Hb)分子とその生合成の点であり,第二は,細胞呼吸に関与する酸化還元系の諸酵素,例えばチトクロームC還元酵素,コハク酸脱水素酵素(SDH),NADH脱水素酵素,キサンチンオキシダーゼなど,Fe3+⇄Fe2+反応に関与するFeの役割である.第三は,細胞増殖に重要な細胞回転の調節酵素,例えばリボ核酸還元酵素などにおける構成成分としてのFeの作用であり,第四は,重金属としてのFeの直接作用,例えば肺結核症の空洞壁の異常Fe沈着などがそれであり,Feの殺菌作用が示唆されている.

8)亜鉛(Zn)

著者: 池田稔 ,   冨田寛

ページ範囲:P.1322 - P.1325

 亜鉛(Zn)は生体にとって必須微量元素の一つであり,ヒトをはじめ哺乳動物の正常な生命維持に不可欠な金属である.以下に,その生理的役割および代謝につき述べる.

9)銅(Cu)

著者: 寺尾寿夫

ページ範囲:P.1326 - P.1329

代謝と生理
 銅(Cu)は,生体にとって不可欠な金属元素の一つである.しかし,体内のCuの総量は成人で75~150mgにすぎない.このうち,肝に濃度が最も高く8~10%(10~15mg)が含まれており,また脳,心,腎,骨髄などにも比較的高濃度に含まれている.脳では色素の多い部分,例えば青斑核などに多く存在し,脳全体では約10mgが含まれている.骨,筋の単位重量当たりのCuの量は少ないが,臓器全体としては多く,体内Cuの約1/2はこの両者に含まれている1).ヒトの1日のCu摂取量は2~5mgであるから,1年間の経口摂取量を合計すれば,体内Cuの約10倍に達する計算になる.
 Cuは主に上部消化管で吸収される.吸収されたCuはまずアルブミンに,一部はアミノ酸,特にヒスチジンなどに結合しているが,その60~90%が吸収後数時間で肝に取り込まれる.しかし,一部はそのままの形で肝を通過し,また,ごく一部は赤血球中に入り,エリスロクプレイン(erythrocuprein)に取り込まれる.全血1l中の赤血球に吸収量の1~2%が取り込まれるといわれる.肝でのCuの取り込みはアルブミンにより阻害され,また,この阻害はL―ヒスチジンにより防がれる2)

10)微量元素

著者: 松本和子

ページ範囲:P.1329 - P.1333

はじめに
 高等動物にとって必須な微量元素と現在考えられているのは鉄(Fe),ヨード(ヨウ素,I),銅(Cu),マンガン(Mn),亜鉛(Zn),コバルト(Co),モリブデン(Mo),セレン(Se),クロム(Cr),スズ(Sn),バナジウム(V),フッ素(F),ケイ素(Si),ニッケル(Ni),砒素(As)の15元素である.このうちFe,Zn,Cuについてはすでに前節で述べられているので,本節では,その他の元素を中心にその分布と代謝について解説していきたい.

11)毒性金属元素

著者: 和田攻 ,   佐藤元 ,   山崎幸子

ページ範囲:P.1334 - P.1338

毒性金属元素と臨床検査
 毒性金属元素に関する臨床検査の最も大きな目的は,金属中毒の検査である.しかし,この場合,二つの立場がある.
 第一は,中毒患者の検査で,①原因金属の確認と,②中毒による臓器障害度の判定の二つが中心となり,前者は生体試料中の金属の測定により,後者はその金属による標的臓器の機能異常の検査により,これは通常の臨床検査の方法が中心的に用いられる.

12)メタロチオネイン

著者: 鈴木和夫

ページ範囲:P.1339 - P.1343

はじめに
 亜鉛(Zn)は生体に必須な微量重金属のうちでは,最も多く含まれている元素である.また,金属蛋白あるいは金属酵素と分類される一群の生体構成成分のうちでは,Znを含むものが最も多い.さらに,Znを含む酵素は核酸の合成または分解を触媒するものが多く,Znが生体にとって極めて重要な働きを担っている金属であることは,古くからよく知られている.一方,周期律表上でZnのすぐ下に位置するカドミウム(Cd)が,どのような生物学的役割を持っている金属であるのか明らかでなかった.Cdの生物学的役割に興味を持ったVallee教授は,ウマの腎臓にCdが多く含まれているという文献から出発し,1957年にウマの腎皮質からCdを含む蛋白を単離した1)
 Cdを含む蛋白を精製し,その性質を明らかにするための研究が開始され,1960年と1961年にKägiとValleeによってその成果が公表された2,3).この蛋白は,それまでに知られていた蛋白と違っていかなる酵素活性も示さず,化学的性質もまったく異なっていた.Cd以外にZnと銅(Cu)を含んでおり,システイン含量も極めて高い低分子量蛋白であったため,金属とチオール基を多量に含む低分子量蛋白という意味で,メタロチオネインと名づけられた.現在に至るまで,メタロチオネインには酵素活性がまったく認められていないことや,化学構造は少しずつ異なってはいるが,あらゆる生命体にメタロチオネインと呼ぶことのできる金属結合蛋白が存在することが明らかになってきたことから,メタロチオネインという命名は適切なものであったといえる.

2 測定装置

1)血液ガス

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.1344 - P.1349

原理
 動脈血中の二酸化炭素分圧(PCO2)や酸素分圧(PO2)の濃度およびpH値を測定する装置が血液ガス測定装置である.

2)浸透圧

著者: 関口光夫

ページ範囲:P.1349 - P.1352

はじめに
 臨床検査における浸透圧の測定は,生体の浸透圧調節系異常の鑑別診断,水・電解質バランスの把握あるいは輸液により外因性物質が血中に増加した場合などの識別に重要な意義を持っており,緊急性の高い検査の一つである.近年これらの測定機器は,微小容量で緊急対応に優れた装置が開発されており,広く普及している.ここでは,市販されている測定装置についてその測定原理,測定時における注意点などを中心に解説したい.

3)イオン選択電極

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.1353 - P.1358

原理
 イオン選択電極(ion selective electrode;ISE.一般にイオン電極という)は,特定のイオンに感応して,比較電極(reference electrode)との間にイオン活量に応じた電位差を生じる電極をいう.このISEを図1のごとく比較電極と組み合わせて,電解質溶液に浸漬すると,イオン活量に応じた起電力が得られる.
 このとき生じる起電力は次のように表される1)

4)フレームフォトメトリー

著者: 谷渉

ページ範囲:P.1359 - P.1362

原理
1.フレームフォトメトリーとは
 金属塩を含む試料溶液をフレーム中にエーロゾルの形で導入すると,金属塩はプレームの熱により蒸発気化したのち解離して,多くは基底状態の金属原子となる.この金属原子の一部は軌道電子のエネルギー準位がさらに高い励起状態の原子となるが,この状態では不安定なため短時間(10-7~10-8秒)のうちに再び元の基底状態に戻る.このとき原子は,励起状態と基底状態のエネルギー準位の差(励起エネルギー)を共鳴線と呼ばれる光として放出する(図1).元素によって励起エネルギーは固有であることから,共鳴線の波長もまた固有となる.
 励起原子から放出されるこのような共鳴線の強度を測定することにより試料中の金属元素の定量を行うのが,フレームフォトメトリー(flame photometry,炎光光度法)である.

5)ボルタンメトリー,クーロメトリー

著者: 篠塚則子

ページ範囲:P.1362 - P.1367

はじめに
 電気化学的方法による金属イオンや有機物の分析は,比較的安価で簡単な装置で測定でき,操作も簡便ですぐ結果が得られ,しかも精度,感度が高い,などの利点があるので以前から行われており,特にポーラログラフィーは金属分析に画期的な成果をもたらした.最近は計測機器の発達によってより高感度な測定が可能になったため臨床化学的応用も盛んで,フローインジェクション分析,クロマトグラフの検出器などに用いられるケースが増えている.
 一般にある物質が電気化学反応を起こすとき,その電極の電位とそのとき流れる電流との関係を測定する方法をボルタンメトリーといい,特にある電位における電流値を観測する場合をアンペロメトリーと呼ぶ.また電極反応によって消費される電気量を測定する方法はクーロメトリーと呼ばれ,定電位において電極反応を行わせる場合を定電位クーロメトリー,定電流を流して反応を行わせる測定を定電流クーロメトリー(クーロン滴定法)と呼んでいる.ここではボルタンメトリー(特にアンペロメトリー)と定電位クーロメトリーについて取り上げることにする.

6)原子吸光

著者: 松本和子

ページ範囲:P.1367 - P.1371

フレーム原子吸光法
 原子吸光法とは,高温(通常1,700~2,700℃)中に試料溶液の霧を噴霧して分子を構成原子に熱分解させ,この測定元素のガス状原子にその元素固有の波長の単色光を照射することにより,その吸光度の測定から試料溶液中の分析元素の濃度を求める方法である.大別すると,試料溶液を原子化するための高温をフレーム(flame;炎光)によって得るフレーム原子吸光法と,炭素炉の電気的加熱(ジュール熱による加熱)による炭素炉原子吸光法がある.
 図1にフレーム原子吸光法の概略図を示した.光源には,中空陰極ランプ(ホローカソードランプ)という,各元素に固有のスペクトルを放射するランプを用いる.中空陰極ランプは放電電極の材質の元素が発光するもので,各元素により通常,別々のランプがあり,測定元素に応じて入れ替えて使う.一例として図2にカルシウム(Ca)の中空陰極ランプ光のスペクトルを示した.

7)発光分析(ICP)

著者: 森田昌敏

ページ範囲:P.1371 - P.1374

プラズマ光源と分析装置
 化学の実験で,炎色反応を試みた読者は多いであろう.白金線を薄い食塩水につけ,アルコールランプの炎の中に差し込むと,炎は橙色に着色する.ナトリウム(Na)原子の発光である.カリウム(K)は紫色に,リチウム(Li)は赤色に,バリウム(Ba)は緑色に輝く.夏の夜空を彩る花火の色も,これを応用したものである.アルコールランプの炎の代わりにより高温の電気加熱を行ったものが,プラズマ発光分析である.
 分光分析用のプラズマ光源としては,その発生方法の違いにより四つある.誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma:ICP),直流プラズマ(direct current plasma;DCP),マイクロ波誘導プラズマ(microwave induced plasma;MIP),容量結合プラズマ(capacitively coupled plaslma;CCP)である.このうち市販の装置があり,よく利用されているのは,ICPとDCPであるが,最近はほとんどICPが用いられるようになった.ICPの発光部分を図-aに示す.

8)蛍光X線分析

著者: 森正道

ページ範囲:P.1375 - P.1379

分析法の原理
1.原理
 物質にX線を照射すると,一部は透過し,一部は吸収される.吸収されたX線エネルギーは,二次効果としで物質固有の特性X線,β線,熱などを放出する.
 物質を構成する原子の模型を図1のように表すと,入射X線はK殻,L殻の電子をはじき飛ばし(光電効果),原子は励起状態になる.この電子の空位に,より外殻の電子軌道から電子が落ち込んで再び安定準位に戻るとき,軌道のエネルギーの差に相当する特性X線(蛍光X線)を放出する.
 蛍光X線の波長と原子番号の関係は式(1)のごとくMoseleyによって体系づけられ,Bohrの原子構造の実証ともなった.

9)分析電子顕微鏡

著者: 永谷隆

ページ範囲:P.1379 - P.1382

はじめに
 分析電子顕微鏡法(analytical electron microscopy)は,広義の立場で,各種電子顕微鏡と微小部化学分析法の組み合わせや,X線マイクロアナライザー(EPMA)を総称するものであるが,医生物学系では一般に,透過型電顕(TEM)を主体とした狭義の分析電顕を指している(図1).したがって,ここでも,TEMに微小部元素分析機能を付加した形の分析電顕について解説する.
 分析電顕では,図2に示したように,電子ビームと試料の相互作用の結果生じるさまざまな信号を利用する.電子ビームは容易にそのエネルギーや電流量を制御でき,しかも電子光学系によって,μm(マイクロメーター)やnm(ナノメーター)にまで細く絞ることができるから,極微小部の分析が可能となる点に大きな特長がある.

各論 1 生体に必要な元素

1)ナトリウム(Na),カリウム(K)

著者: 関口光夫

ページ範囲:P.1384 - P.1393

測定の意義
1.ナトリウム(Na)
1)生体内の分布,存在様式,摂取・排泄1)
 生体内のナトリウム(Na)量は,体重1kg当たり約40~70mmol含まれる.したがって,体重60kgの成人では総Na量は2,400~4,200mmol含有することになる.その約55%が骨を除く細胞外液に,約43%が骨に,約2%が細胞内液に分布している.しかし,骨に含まれているNaの約60%がリン酸カルシウムなどと結合した塩の形で存在するので,その約60%は難溶性で遊離しにくい.これ以外が代謝的に活性な交換性(exchangeable) Naであり,総Na量の約74%を占めている.交換性Naの97%は細胞外液中に存在している.
 Naは塩化ナトリウム(NaC1)として食事から摂取される.成人の1日必要量は5~15gといわれていたが,最近,高血圧との関連で食塩の過剰摂取はよくないために,10g以下にすることが好ましいとされている.いま,1日10gの食塩摂取量をNa量で表現すると170mmolとなる.一方,その排泄の大部分は腎臓からで,一部糞便からである.1日当たり腎臓からは約160mmolが,糞便中から10mmol以下が排泄され,バランスが保たれている.

2)カルシウム(Ca)

著者: 寺澤文子 ,   野本昭三

ページ範囲:P.1393 - P.1400

はじめに
 血液1l中に含まれるカルシウム(以下,Ca)は2.25~2.75mmol(9.0~11.0mg/dl)で,血漿(血清)中総Ca(イオン形48~55%,蛋白結合形40~50%,有機酸または無機酸との結合形数%)と赤血球内Caに分けることができる.
 このうち総Ca(total Ca;以下,T-Caと略す)は血清無機リン値と対応させて,副甲状腺機能異常や骨疾患のスクリーニングと経過観察などに欠かすことのできない臨床検査項目として利用されてきた.一方,血漿Ca測定に求められる正確度と精密度(誤差の許容限界)は,その生理的変動幅が小さいことに由来して1%以下とされている.

3)塩素(Cl)

著者: 関口光夫

ページ範囲:P.1401 - P.1405

測定の意義
1.生体内の分布,存在様式1)
 ヒト生体内の塩素(クロール,Cl)総量は,体重1kg当たり30~40mmolを含有している.平均33mmol/kg体重とすると,体重60kgの成人では約2,000mmolが含まれる.その分布としては血漿中に13.6%,組織間液に37.3%,結合組織内に17.0%,骨に15.2%,体腔液に4.5%,細胞内に12.4%存在している.すなわち,その約90%は細胞外液中に存在する.図1は,細胞外液の代表である血漿と,細胞内液中に含まれる電解質組成とそれらが含有する割合を示したものである2).血漿中の主要な陽イオンはナトリウム(Na)イオン(Na)であり,陰イオンはClイオン(Cl)で,次いで重炭酸イオン(HCO3)である.

4)マグネシウム(Mg)

著者: 戸谷誠之 ,   佐藤郁雄

ページ範囲:P.1406 - P.1409

測定の意義
 マグネシウム(Mg)は生体内の二価金属のうちで主要な成分である.細胞内ではカリウム(K)に次いで多い陽イオンであるが,細胞外液では全体量の約1.5%程度を検出するにすぎない.
 その機能としては,ATP(アデノシン三リン酸)を基質とする解糖系に関与する多くの酵素の活性賦活化(activator)として作用する.後述のように高Mg血症は重症の腎機能不全に,低Mg血症は消化器異常に起因することが多い.Mgの不足と循環器疾患,糖尿病などに関する報告もあり,注目される生体内金属となっている.

5)鉄(Fe)

著者: 宇治義則 ,   岡部紘明

ページ範囲:P.1409 - P.1413

測定の意義
 正常成人の生体中に鉄(Fe)は3~5g含まれており,その60~70%は赤血球中の血色素Feであるヘモグロビンとして存在し,20~30%弱が肝臓,脾臓,骨髄などの組織にフェリチンまたはヘモジデリンとして貯蔵され,3~5%は骨格筋中のミオグロビン,約1%が金属酵素(ヘム酵素,フラビン酵素)として存在している.血清中のFeはごく微量(3~4mg,0.1%程度)であり,グロブリン分画(β1グロブリン)のトランスフェリンとすべて結合して血清Feとして血管内を流れている(図1)1)
 Feの生体内での役割は酸素の運搬と貯蔵(ヘモグロビン,ミオグロビン),Feの貯蔵(フェリチンまたはヘモジデリン),臓器間のFe輸送にかかわるもの(トランスフェリン結合Fe),酵素と強固に結合し,酵素の活性発現などに関与しているもの(ヘム酵素,フラビン酵素)に大別される.

6)亜鉛(Zn)

著者: 牧野鉄男

ページ範囲:P.1413 - P.1417

測定の意義
 生体鮮おける亜鉛(Zn)は,網膜,前立腺,精液,肝,腎,膵,骨および毛髪中にkg当たり1,500μmol超という高レベルで存在し,耳下腺唾液,筋,皮膚,血液細胞中において150~1,500mg,さらに血漿,汗,母乳,尿中で15μmol,そして髄液中が0.15μmolと最も少ない.大部分のZnは高分子リガンドである蛋白との結合型で,しかもメタロエンザイムの形で特に核酸・蛋白代謝において生化学的・栄養学的に重要な役割を果たしている.さらに肝・腎ではなんらかの侵襲を受けた際に防御的に働くメタロチオネイン(Zn蛋白体)としての免疫学的重要性も知られている.
 Znの血液細胞中の存在は,赤血球の炭酸脱水酵素に代表される.違った生理的機能を示し,しかも大きさの異なるこれらの血液細胞のうち白血球に最も高濃度で存在するが,他の細胞との量的な差はそれほど大きくない.細胞1個当たりの濃度(fg)比はおよそ赤血球1:血小板0.25:白血球5である.そして血小板および白血球中のZnの大部分もまた非透析(蛋白結合)型で存在するらしい.

7)銅(Cu)

著者: 牧野鉄男

ページ範囲:P.1417 - P.1419

測定の意義
 銅(Cu)は成人体内で肝に最も多く総量(1.26mmol)の10%が存在し,次いで脳,心,腎にも多く分布し,筋,骨は濃度は低いが量的には総量の50%にも及ぶといわれる.Cuは主としてメタロエンザイム(特に酸化酵素)の形で,脳内代謝,骨および結合織代謝,造血などに重要な役割を果たしている.
 血清中のCuはその約90%がセルロプラスミンと強く結合し,残りが"交換しうる"型のCuとしてアルブミンやアミノ酸と緩く結合して存在するといわれる.赤血球中のCuの約60%がスーパーオキシドジスムターゼに,残りが未同定の蛋白およびアミノ酸との結合型で存在するといわれる.

8)ヨード(l)

著者: 及川紀久雄

ページ範囲:P.1420 - P.1422

測定の意義
 ヨードはヨウ素ともいい,元素記号Ⅰ,原子番号53,原子量126.9045,周期律表Ⅶ B族のハロゲン元素である.
 Ⅰはヒトや動物にとって必要不可欠な微量元素である。ヒトは通常,水,タマゴ,牛乳,野菜,海藻および魚を供給源とし,それらの食餌内容によって多少の差はあるが,1日100~200μgのⅠを摂取するとみられる.Heinrichら1)は栄養上のⅠ必要量をラットの実験から求め,これをヒト成人に当てはめると,60~120μg/日になると計算している.

9)セレン(Se)

著者: 井村敏雄 ,   黒田満彦

ページ範囲:P.1423 - P.1426

はじめに
 セレン(Se)は,地球上に広く存在する元素であるが,地域差がみられ,ニュージーランドや中国の一部の土壌中のSe含量は著しく低いことが知られている.このような地方では,植物中のSe含量も低く,これを食物とする家畜などのSe欠乏状態が問題となっている.さらに,これらの地方を中心にヒトのSe欠乏症も報告されている1~4).一方,Se含量の多い鉱山などでは,Seの生体に対する毒性が問題となったこともあるが1),管理対策の整備などにより今日ではあまり実際の問題とはなっていない.
 Seは,生体の抗酸化作用に関係するグルタチオンペルオキシダーゼ(以下,GSHPxと略す)を構成する必須微量元素の一つであり,ヒトのSe欠乏状態と発癌,動脈硬化症などとの関係に主な関心が移っている現状といえる.

10)モリブデン(Mo)

著者: 小泉利明 ,   山根靖弘

ページ範囲:P.1426 - P.1429

はじめに
 モリブデン(Mo)はほとんどすべての生物種に必須である.ヒトに対する必須性は,1967年の幼児における致死性重症精神障害を特徴とする先天性亜硫酸塩(sulfite)欠損症の発見と1969年における亜硫酸塩酸化酵素(sulfite oxidase)のMo要求酵素としての確認とにより確立された1,2).Moは穀物,野菜,ミルクなどから十分に摂取可能で通常の食生活では欠乏症を起こしにくいので,この欠損症は特殊な遺伝性疾患である.とはいえ,このほかに世界各地で同様な欠損症が見いだされているので,ある頻度で起こることは事実であり,Mo代謝の重要性を示唆している.
 ヒトにおけるMo過剰症に関する報告もまた数例に限られている.その一例は,ソ連のアルメニア共和国において起きた関節痛と過尿酸血症を伴う痛風疑似患者の発生を知らせるものであり,疫学的調査結果によれば調査された二つの村の成人362名中71名が手足の指および肘関節などに再発性関節痛を訴えたと報告されている.原因はMo過剰摂取によると考えられ,この地域の人々のMoの1日摂取量は対照地域の人々に比べて7~10倍も高い10~20mgで,また患者の血清中Mo濃度は正常人より5倍ほど高く,310±20ppbであった3)

11)コバルト(Co)

著者: 保田和雄

ページ範囲:P.1429 - P.1430

はじめに
 コバルト(Co)はビタミンB12(cobalamin)の構成成分として必須金属であることが知られている.
 Coが必須金属であることが証明されるきっかけとなったのは,反芻動物(ヒツジなど)におけるCo欠乏症(消耗性疾病と呼ばれた)の発見に始まる.また,これらの反芻動物のCo欠乏症に対する治療法については,すでにかなりよく究明されている.

12)マンガン(Mn)

著者: 田中幸夫

ページ範囲:P.1431 - P.1433

はじめに
 マンガン(Mn)が生体の機能に必須であることは何十年も知られているが,はたしてどのように作用しているのかについては,あまりよく理解されていない.同じことが,多くの超微量元素についてもいえる.この理由についてはいろいろ考えられるが,まず第一に,絶対量が少ないこと(70kgの人体中に10~20mg程度),さらに正確な分析が容易でなく,コンタミネーションが原因となって誤った分析結果を出しやすいことが主な問題である.また現在最も広く使用されている分析方法(フレームレス原子吸光法)では,組織なり体液中のMn全量を測定するのが精一杯である.したがって,例えば血清蛋白を分離してどのフラクションにMnがどれだけ結合しているのかというようなことを測定できない.この点で銅(Cu)や亜鉛(Zn)とは様子が大変違う.
 Mnの生理作用の機構がよくわかっていないのは,分析法の限度によっているので,将来,感度の向上に伴って機構も徐々に解明されていくと思われる.

13)クロム(Cr)

著者: 保田和雄

ページ範囲:P.1434 - P.1436

はじめに
 植物が土壌からクロム(Cr)を必須元素として摂取することは,古くから知られている.
 高等動物に対するCrの生物学的影響に関しては,毒性に関するものから始まって,その生理的役割についてもしだいに明らかにされてきている.すなわち,Crは糖および脂肪代謝に関与する必須金属の一つであり,これの欠乏は,耐糖能を低下させ,成長,生殖をも低下させることなどが報告されている.

14)硫黄(S)

著者: 産賀敏彦 ,   益岡典芳 ,   阿部匡史

ページ範囲:P.1436 - P.1441

はじめに
 硫黄(S)は,細胞構成元素の0.25%(重量比)を占め,生体構成元素組成中第8位の元素である.S元素は,主として蛋白質中の含硫アミノ酸の成分として体内に取り込まれる.自然界には約350種類のSを含むアミノ酸すなわち含硫アミノ酸が知られているが,蛋白質中に含まれる含硫アミノ酸はメチオニンとシステインの二つのみである.メチオニンは人体内でほとんど合成されないために,栄養素として摂取する必要がある.すなわち,栄養学的不可欠アミノ酸である.これに対して,システインは体内でメチオニンから生成されるので栄養学的不可欠アミノ酸ではないが,メチオニン要求量の一部を補うことができる.
 体内において含硫アミノ酸は複雑な物質代謝を受け,S元素の酸化が行われる.S元素の代謝の流れの概略を図1に示した.細胞内で生成した代謝産物はそれぞれの機能を果たした後,血液を経て尿中に排泄される.図1中下線で示したのは,尿中に常時排泄されている代謝産物である.欧米人におけるSの尿中排泄量は1日当たり平均約1gである1).そのうちの約80%が無機硫酸(遊離硫酸),約10%がエステル硫酸(エーテル硫酸ともいう),残りが含硫アミノ酸などのS化合物である.含硫アミノ酸として最も多いのはタウリンで,このほかシスチン,メチオニン,システイン酸,シスタチオニン,β-メルカプト乳酸システイン混合ジスルフィドなどが微量排泄されている.これらのS化合物は細胞内で生成した後,比較的速やかに排泄される.したがって,尿中S化合物を定量することによって,S化合物の栄養状態,代謝動態および代謝異常を推定することができる.

15)バナジウム(V)

著者: 石田吏

ページ範囲:P.1441 - P.1444

はじめに
 バナジウム(V)は,1931年スウェーデンである種の鉄鋼石中から,クロム(Cr)と性質の似た金属として発見された.その名はスカンジナビア地方の愛と実りの女神バナディスに由来している.
 Vは原始番号23の元素であり,自然界に広く分布している金属である.地殻では21番目に多く存在し,含有量は135mg/kgである.また化石燃料中にも多く含有されている.Vは硬度と融点の高さ,多くの原子価をとることから,種々の鋼鉄の製造や化学工業の触媒,染料工業などで使用されている.また近年においてはセラミックスや半導体製造などの新材料,電子工学の分野で重要な元素として利用されている.その生産量,使用量は年々増大している.

2 公害性・医原性金属

1)水銀(Hg)

著者: 田村行弘

ページ範囲:P.1445 - P.1448

はじめに
 水銀(Hg)は体温計,水銀灯,電池,歯科用アマルガムなど生活の中で広く使われているが,生体に対しては生理的有用性のまったくない元素である.蓄積性の有害金属で,特に低級アルキル水銀は半減期も長く,中枢神経系に親和性が高いために,特異的な神経症状を呈し,胎盤通過性もよく胎児に強く作用する.熊本,新潟の水俣病やイラクのHg農薬禍では多数の患者を出し,胎児にまで及ぶ悲惨な中毒事例を起こしている.
 Hgによる疾病は,過去にはそのほとんどが金属Hg蒸気を作業中に吸引して起こる職業病であった.しかしながら,水俣病は工場からの排水中Hgが食物連鎖を経て,一般人に取り込まれ,回復不能な強烈な神経障害などの疾病が起きたもので,現在の環境汚染問題のすべてを含む象徴的な公害の事例である.

2)カドミウム(Cd)

著者: 本多隆文

ページ範囲:P.1448 - P.1452

測定の意義
 カドミウム(Cd)は,自然界には微量ながら主に亜鉛(Zn)とともに存在する.Cdを取り扱う工場労働者で,その健康障害が見いだされていたが,社会的にも大きく注目され,広く研究されてきたのは,神通川流域で多発したイタイイタイ病がCdによるとされてからである.Znや銅(Cu)などの非鉄鉱山や精錬所から排出されたCdにより河川や土壌の汚染された地域が現在も日本各地にあり,住民に健康影響をもたらしている.

3)鉛(Pb)

著者: 野本昭三

ページ範囲:P.1452 - P.1455

はじめに
 鉛(Pb)の大規模な採掘や加工が始められたのは,西暦紀元前といわれている.融点が327℃と低く,延性に富み,加工が容易であり,しかも表面は空気中で酸化されて薄い酸化被膜を形成するが,これの溶解度が低く内部への腐食を防止する役割を果たすなど,優利な性質を有しているため,金属製品として早くから利用されるようになったことは,容易に推測できる.
 自然界のPbは,主として硫化物(方鉛鉱)として存在しているが,これはPbの化合物のうちで最も水に溶けにくい物質の一つ(<1mg/l)である.炭酸鉛(白鉛鉱),硫酸鉛(硫酸鉛鉱),塩化リン酸鉛(緑鉛鉱)なども白然界でよくみられる化合物であるが,いずれも水への溶解度は低い(40mg/l前後).このような,水に溶けにくい基本的な性質のために,近代工業の時代を迎えるまでは土壌から植物への移行は極めて少なく,水中の濃度は湖や河川の底土中の濃度に比べて著しく低いのが自然であった.

4)砒素(As)

著者: 山内博

ページ範囲:P.1456 - P.1458

はじめに
 砒素(As)は毒物の代名詞的な物質であり,中世から毒殺,自殺に用いられ,また職業性As中毒も多数発生した.現在,Asやアルシン類(アルシン〔AsH3〕,トリメチルアルシン〔(CH33As〕)は電子産業界を中心として需要が増えており,特に新素材としてガリウム砒素(GaAs)系の半導体に用いられている.他方,最近の研究から,Asの毒性は化学形態と化学構造の違いで大きく異なり,As中毒学では従来の"量"の概念に化学形態を加味する必要性が論じられている.
 本項では,As化合物とアルシン類の毒性,代謝,生体影響,暴露指標について概説する.

5)金(Au)

著者: 伯耆惟之

ページ範囲:P.1458 - P.1461

はじめに
 金(Au)剤による慢性関節リウマチ(RA)の治療は,1927年Landeが初めて試みた.その後,1935年Forestierが多数例の経験を報告して,今日のAu療法の基礎を築いた.Au剤はRAの免疫異常の改善に有効な免疫調節剤の一つとされているが,比較的副作用の頻度が高いため,その防止や有効濃度域確認の観点から体内濃度が測定されてきた.
 Au濃度の測定法に関しては,古くは比色法などが用いられていたが,感度・簡易性などの面から,原子吸光分析法が最も広く利用されている1~5)
 以下,RAと治療薬,Au剤の体内動態,副作用,測定の意義を述べ,Au濃度測定法を紹介したい.

6)白金(Pt)

著者: 髙橋修

ページ範囲:P.1462 - P.1465

はじめに
 白金(Pt)は原子番号78,原子量175.09で,周期律表Ⅷ群に属する元素であり,銀白色で銅と同じ程度の硬度である.酸に対する抵抗性があることから,歯科領域や医療器具,機器の一部分として広く用いられている.
 Ptが注目されるきっかけとなったのは,1965年,Rosenbergら1)が,Pt電極を用いた大腸菌の実験であった.それを機に研究が進められた結果,Pt錯体として抗腫瘍性があることが明らかになった.中でもシスプラチンは,注目されている抗癌剤である.本稿ではシスプラチンの測定法を中心にして述べることにする.

7)アルミニウム(Al)

著者: 野本昭三

ページ範囲:P.1466 - P.1468

はじめに
 人体のアルミニウム(A1)代謝に特別の関心が寄せられるようになったのは,透析患者における脳症,脳軟化症,貧血などの中にA1の慢性中毒によるもののあることが指摘されたことからと考えられる1~2)
 A1は地球表層では酸素,珪素に次いで3番具に多い元素であるから,ヒトを含めたあらゆる地球上の生物は,常時A1と接した環境で生活し進化してきたはずで,A1に対する生理的防御能を持たない,または持てなかった生物は今日まで存続しえなかったろうと考えるのが自然である.このようなA1と生体のかかわりをみるうえでもう一つ重要なことは,A1が酸素,珪素およびリン酸などと結合した形で安定で,金属単体の形で生物と接することは少なかったであろうと考えられることである.そのためか,現在生存している動植物細胞内のAlは極めて微量にとどまっており,動植物における必須性も確認されていない.

8)リチウム(Li)

著者: 髙橋修

ページ範囲:P.1468 - P.1472

はじめに
 リチウム(Li)は原子番号3,原子量6.94でナトリウム(Na),カリウム(K)と同じアルカリ金属に含まれる元素である.
 1949年,Cadeら1)によって躁病に対する治療効果が報告された.1980年代になるとわが国においても躁うつ病治療にLi製剤(炭酸リチウム:分子式Li2CO3,分子量73.89)が広く用いられるようになった.さらに,高血圧の予防,甲状腺機能の抑制など医学的効果の面で注目を集めているとの報告もある2),炭酸リチウムは白色の結晶性の粉末で無臭である.水にはやや溶けにくく,希酢酸に溶ける性質がある.

9)ゲルマニウム(Ge)

著者: 森田秀芳 ,   下村滋

ページ範囲:P.1472 - P.1475

はじめに
 ゲルマニウム(Ge)は原子番号32番,原子量72.61の炭素族元素(4B族)の一つである.地殻中存在量は約2ppmで,海水中には0.05ppb程度存在する.
 食品中の濃度については,SchroederとBalassaが非常に多数の魚介類,食肉,穀物,野菜,飲み物,果物などについて報告している1).それによれば,ほとんどすべての食品に0.15~2μg/g含有され,Geの1日当たりの摂取量は約1,500μgであるとしている.しかし,最近の注意深い研究2,3)により推察される食品中のGe濃度は非常に低く,多くの場合,検出限界以下である.したがって,SchroederとBalassaの報告値をそのまま日本の食品に当てはめることはできないと考えられる.なお,今のところGeの動植物に対する必須性は認められていない.

3 ホルモン・生理活性物質

1)レニン・アンジオテンシン系

著者: 寺山百合子 ,   二川原和男 ,   舟生富寿

ページ範囲:P.1477 - P.1481

はじめに
 レニン・アンジオテンシン(renin-angiotensin;R-A)系は,図1に示したようにアンジオテンシノーゲン(angiotensinogen;A-ogen)を出発物質として,レニンおよびアンジオテンシン変換酵素(angiotensinconverting enzyme;ACE)によりアンジオテンシンI(angiotensin Ⅰ;AI)およびアンジオテンシンⅡ(AⅡ)となり,その後アンジオテンシナーゼ(angiotensinase;A-ase)によって不活性分解物(A-aseは単一でないため一部はアンジオテンシンⅢ〔AⅢ〕を経る)に代謝されていく,一連のカスケードの総称である.本系は血圧,水・電解質代謝および酸塩基平衡に重要な役割を演じており,その本態はAⅡである(AIは不活性,AⅢは部分活性を有する).

2)アルドステロン

著者: 高柳涼一 ,   名和田新

ページ範囲:P.1481 - P.1489

はじめに
 アルドステロン(aldosterone;Aldo)は副腎皮質球状層から分泌され生体のナトリウム(Na),カリウム(K)平衡を調節する重要なミネラルコルチコイドホルモン(mineralocorticoid hormone;MC)である.本稿では副腎におけるAldoの生合成や受容体に関する最近の知見を紹介し,血中および尿中Aldo測定法とAldoの異常値を示す疾患について概説する.

3)抗利尿ホルモン(ADH)

著者: 小島元子 ,   福地総逸

ページ範囲:P.1489 - P.1494

はじめに
 抗利尿ホルモン(antidiuretic hormoneあるいはvasopressin,以下ADHと略)は,オキシトシンとともに下垂体後葉の代表的ホルモンである.ADHの最も重要な作用は,腎の集合尿細管を標的臓器とする抗利尿作用である.すなわち,ADHにより,腎尿細管における水の再吸収が起こり,尿量が減少し,尿の浸透圧が上昇する.
 ADH欠乏状態では,多尿,口渇および多飲が起こり(尿崩症,あるいは中枢性尿崩症),ADHが不適切に過剰に分泌されれば血漿成分が希釈されて低ナトリウム(Na)血症および低浸透圧血症(ADH不適合分泌症候群,syndrome of inappropriate secretion of ADH;SIADH)をきたす.このほか,ADHの分泌は正常であるが,レセプター異常により欠乏症状を呈する疾患(腎性尿崩症)がある.

4)キニン・カリクレイン

著者: 笠井豊 ,   阿部圭志

ページ範囲:P.1495 - P.1502

はじめに
 カリクレイン・キニン系は一連の酵素反応系を構成し(図1),他の酵素反応系と密接な関係を保つことが知られている.すなわち,血液凝固系,線溶系,補体系,レニン・アンジオテンシン系,プロスタグランジン系,カテコールアミン系などである1)
 カリクレイン(kallikrein)はセリンプロテアーゼ(serine protease)群に属し,血中または組織中に不活性状態で存在する.種々の病態(炎症,外傷,火傷,ショック,アレルギー反応,心血管病変など)において,カリクレインが活性化されるとブラジニキン(bradykinin)やカリジン(kallidin)やMet-Lys-ブラジキニンなどのキニン(kinin)を作り出す.これらのキニンが,痛み,浮腫,腎機能調節などの生理作用を発現させると考えられている.

5)心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)

著者: 赤羽敏

ページ範囲:P.1502 - P.1506

はじめに
 われわれの遠い祖先が《母なる海》を体内に持って上陸したときから,水・電解質の保持は生命の基礎的条件であった.しかしながら,一方で過剰な水やナトリウム(Na)を排泄する作用を持つホルモンが存在している.心臓から分泌されるANP(心房性Na利尿ペプチド)である.

6)Na-K ATPase

著者: 椎名達也 ,   吉田尚

ページ範囲:P.1507 - P.1511

はじめに
 Na-KATPaseは細胞膜に存在し,細胞内に低く,細胞外に高いナトリウムイオン(Na)と,逆に細胞内に高く細胞外に低いカリウムイオン(K)を,その濃度勾配に逆らって能動輸送するポンプである(図1).
 この能動輸送に必要なエネルギーはATPの加水分解により供給され,細胞内のNa3個を細胞外へ排出し,細胞外のK2個を細胞内へ取り込んでいる.腎においては,Na-KATPaseは尿細管上皮細胞の基底膜に存在し,Naの再吸収を行っている.その他,このNa-KATPaseによって形成されたNa濃度勾配により,糖,アミノ酸,カルシウムイオン(Ca2+),水素イオン(H)などの二次輸送が行われるとともに,膜の興奮性の維持にも関与している.

7)プロスタグランジン(PG)

著者: 渡辺毅

ページ範囲:P.1511 - P.1517

合成,代謝,生体内分布
 プロスタグランジン(PG)を代表とするエイコサノイドは,脂肪酸であるアラキドン酸(AA)の酸素添加酵素による代謝物の総称である.これらは細胞の静止状態では存在せず,さまざまな刺激で細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度が上昇すると,ホスホリパーゼA2による膜のリン脂質からのAAの遊離が引き金となって合成される.その産生刺激には,ペプチドホルモン(アンジオテンシンⅡ,ブラジキニンなど),神経刺激,炎症,阻血,機械的・物理的細胞障害などが含まれる.
 遊離したAAは,おのおのの細胞に存在する酵素によって,AAカスケードと呼ばれる生合成系で速やかに代謝されるか,再びリン脂質ヘエステル結合するかする(図1).AAはリポキシゲナーゼによりロイコトリエン(LT)などPG以外の種々の物質に変換されうるが,シクロオキシゲナーゼの存在する細胞でAAはPGH2という共通の前駆体となり,さらに存在する酵素の種類によりトロンボキサン(TX)A2,PGI2,PGE2,PGF,PGD2などに変換され,細胞外に放出される.これらは局所で産生細胞自身か周辺の細胞に作用し,機能調節を行った後,特異的な脱水素酵素により,局所で,または血液循環中に肺で速やかに不活性化され,次いでさまざまな臓器で代謝を受ける.またTXA2やPGI2は化学的に不安定で,非酵素的にTXB2や6-keto-PGFに分解され(生理的条件での半減期はおのおの30秒と2分),さらに肝,肺,腎,胃などで代謝される(図2).この性質は,産生臓器と標的臓器が区別され,血中を安定形態で輸送されるホルモンと異なるのでオータコイドと呼ばれる.一方,PGはおのおの類似した構造を持ちながら,諸臓器で異なった多彩な作用を示す(表1).各PG作用は,細胞内への情報伝達の媒介をする特異的な細胞表面受容体の存在で決まる.

8)ビタミンD

著者: 清野佳紀 ,   久保俊英

ページ範囲:P.1518 - P.1520

代謝と生理作用
 食事中のビタミンDの供給源は魚類であり,マグロなどの回遊魚に多く含まれている.植物性食品ではビタミンD2含む場合が多く,シイタケなどのキノコ類に多いといわれる.食品中のビタミンD2あるいはD3は十二指腸を中心に,小腸から吸収される.一方,皮膚の表皮層ではプロビタミンから日光照射によりD3が産生されるが,いずれも肝臓に運ばれて25位が水酸化され,それぞれ25-OHD2,25-OHD3となる.
 小林らは,25-OHD2値が年間を通じてほぼ一定であるのに対し,25-OHD3値は2月に最も低く,8月に最も高い結果が得られたと報告している.筆者らの成績によっても,冬期と夏期では25-OHD濃度が10ng/ml程度の差があった.これは,紫外線の照射によりビタミンD産生が依存していることを示唆している.

9)副甲状腺ホルモン(PTH)

著者: 藤田拓男

ページ範囲:P.1520 - P.1524

はじめに
 副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)は甲状腺の右面に上下,左右4個ある米粒大の副甲状腺(parathyroid gland)から分泌されるペプチドホルモンであって,図1に示すような84個のアミノ酸が単鎖を形成し,主要な生物学的活性はN末端1~34個の中に認められるので,これを活性断片ともいう.
 PTHは,カルシウム(Ca)代謝の要ともいうべき重要な役割を果たしている.すなわち,副甲状腺を摘除するか,その分泌が低下すると,血清Caは著明に下降し,逆に副甲状腺が腺腫を形成して大量のPTHが血中に分泌されると,高Ca血症が出現する.これらの疾患を診断し,またCa代謝異常の診断の筋道をつけるために,臨床検査上,血中PTHの測定は極めて重要である.

10)カルシトニン(CT)

著者: 稲葉雅章 ,   金尾啓右 ,   森井浩世

ページ範囲:P.1524 - P.1530

はじめに
 カルシトニン(CT)はその血中Ca低下作用で知られているが,その作用はCTの最も主要な作用とはいい難い.CTは種特異性があり,Ca低下作用が最も強力なのは,下等な脊椎動物のものである.しかし,これらの動物においてCTが血中Ca濃度の調節に働いているという明確な証拠はなく,CTの生理的な役割についてはまだ明らかではない.
 CTの存在は,1961年Ca恒常性維持の研究中に見いだされた1).副甲状腺と甲状腺に血液を供給する血管の灌流実験で,高濃度のCaを含む液を灌流させると,その灌流液中に血中Ca濃度を下げる作用を持つ物質の存在が見いだされ,この物質こそが甲状腺のC細胞から分泌されるCTであった.

11)甲状腺ホルモン

著者: 乾武広 ,   越智幸男

ページ範囲:P.1531 - P.1536

はじめに
 甲状腺ホルモン(thyroid hormone)は,その分子内にヨード原子を含むヨード化アミノ酸であり,甲状腺の濾胞細胞から分泌される.ヨードの結合する位置と数により,物理化学的および生物学的性格が異なる.

12)甲状腺刺激ホルモン(TSH)

著者: 西川光重 ,   稲田満夫

ページ範囲:P.1537 - P.1542

はじめに
 甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone,thyrotropin;TSH)は下垂体前葉で合成・分泌され,甲状腺での甲状腺ホルモンの生合成,貯蔵および分泌などを調節するホルモンである.TSHは甲状腺の機能の維持に不可欠なホルモンであり,TSHの欠乏は甲状腺機能低下症を引き起こす.
 一方,甲状腺ホルモンである3,5,3',5'-テトラヨードサイロニン(3,5,3',5'-tetraiodothyronine,別名サイロキシン〔thyroxine;T4〕)および3,5,3'-トリヨードサイロニン(3,5,3'-triiodothyronine;T3)は下垂体でのTSH産生を抑制する(このような,標的臓器からの分泌ホルモンによる逆向き調節をネガティブフィードバック〔negative feedback〕という).また,TSHは視床下部から分泌されるTSH放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone;TRH)によりその分泌が刺激される.

13)副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)

著者: 橋本浩三

ページ範囲:P.1542 - P.1548

ACTHの産生と生理的作用
 副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone;ACTH)は,下垂体前葉のACTH産生細胞で産生されて血中に分泌されている,39個のアミノ酸から成るポリペプチドで,分子量は約4,500である.下垂体以外にも脳,副腎髄質,胎盤などでACTH様物質が生成されるが,その生理的意義は不明である.また肺,胸腺,膵などの腫瘍でACTH様物質が産生されることがあり,これらは異所性ACTH産生腫瘍と呼ばれている.ACTH産生細胞内では,ACTHの前駆体であるpro-opiomelanocortin(POMC)がまず産生され,酵素によって順次分解されてACTHが生成される.POMCはその構造中にACTHのほかに,N端ペプチド,β-メラニン細胞刺激ホルモン,β-リポトロピン,エンドルフィン,エンケファリンに相当するアミノ酸配列を含み,ACTHとともにそれらのペプチドも血液中に分泌されている.
 ACTHの生理的役割は,文字どおり副腎皮質刺激作用であり,副腎皮質細胞に作用してコレステロールからプレグネノロンへの転換を促進させることにより,各種皮質ステロイドホルモンの生成分泌を刺激する.特に糖質ステロイドであるコルチゾールの分泌促進作用が生理的に重要である.ACTHが長期的に副腎に作用すると,副腎重量の増加作用が認められる.また,副腎外作用としてメラニン細胞刺激作用,血糖降下作用,脂肪組織に対しての脂肪動員作用が知られているが,副腎皮質刺激作用に比較すると生理的意義は低い.

4 結合蛋白

1)トランスフエリン

著者: 木村一郎

ページ範囲:P.1549 - P.1551

 トランスフェリン(Tf)はその名のとおり鉄を輸送する蛋白質で,栄養素としての鉄(Fe)を,吸収部位(小腸,細網内皮系など),貯蔵部位(肝臓,脾臓など),そして利用部位(各種細胞,特にヘモグロビン産生細胞など)の間を体液を介して輸送し,各細胞に効率よくFeを供給する1).近年の細胞生物学的研究により,すべての細胞の生存,増殖,分化などにはFeが必須であることが知られるようになった.生体内では細胞へのFeの供与は,すべて細胞膜に存在するTf受容体を介して行われる2)
 Tfはアスパラギン残基に結合したN-配糖型の糖鎖(ヘキソース,ヘキソサミン,フコース,シアル酸)を持ち,分子量がおよそ80,000の糖蛋白質(アミノ酸残基数679,糖含量約6%)で,そのペプチド,糖鎖両部分の構造も明らかにされている.N端側半分(N-ドメイン)とC端側半分(C-ドメイン)で高度の相同性がみられ,このことからTf分子は遺伝子重複によって生じたのであろうと考えられている.Tfの等電点はおよそ5~6であるが,それらは糖鎖末端のシアル酸残基数やFeの結合状態,あるいはペプチドの一次溝造によって異なる.電気泳動などによる分析において,一つの個体に異なるTf分子種が検出されるが,それには上記の等電点の違いが原因している.

2)フェリチン

著者: 桜田恵右 ,   宮﨑保

ページ範囲:P.1552 - P.1555

はじめに
 フェリチン(ferritin;Ft)は生体において鉄(Fe)貯蔵蛋白として知られているが,そのmicroheterogeneityの研究から病態生理学的意義が明らかにされつつある.Fe欠乏症,Fe過剰症,悪性腫瘍,炎症,感染症などにおける臨床的意義は,血清Ftの測定が容易になってからは著しいものがある.
 以下,Ftの性状と作用,血清Ftの測定法と問題点などについて述べる.

3)セルロプラスミン(Cp)

著者: 宮沢光瑞 ,   大津信博

ページ範囲:P.1555 - P.1558

測定の意義
 セルロプラスミン(Cp)はα2―グロブリンに属する銅(Cu)結合糖蛋白であり,オキシダーゼ活性を有する.この蛋白は肝臓で合成され,主に血中に分泌されるが,胆汁,関節液,涙液,脳脊髄液,羊水にも存在する.血中のCpは血清銅の90~95%を占め,Cu代謝異常をきたすWilson病で著明に減少する.また急性相反応蛋白の一つでもあり,活動性炎症で増加することから,疾患の診断,経過観察,予後判定に用いられている.

4)オステオカルシン

著者: 上好昭孝 ,   大田喜一郎 ,   鳥住和民

ページ範囲:P.1558 - P.1562

はじめに
 従来,骨代謝の血液学的なマーカーとしてアルカリ性ホスファターゼ(ALP)が用いられているが,肝障害などがあれば必ずしも骨代謝を正しく表現しない.ALPは肝障害を伴わない場合,大方は骨由来のものであるから,健常者においてはある程度反映するとされている.しかし,常にこの条件を満足しているとは限らず,新たな骨代謝マーカーが探索されていた.これはグルタミン酸のr位炭素がビタミン(V)K依存性の酵素反応によってカルボキシル化されたアミノ酸で,このアミノ酸を分子内に含有する蛋白質をGla蛋白質と命名されている1)

5)メタロチオネイン

著者: 伏見尚子

ページ範囲:P.1562 - P.1565

はじめに
 生体内には微量金属が含まれ,代謝はされないで,多くは金属酵素として触媒作用を持ち,ないしは酵素の活性化に関与している.足らなくても多すぎても異常事態が生じてくるし,もしなければ生命の維持ができない.また生体の病的状態でも金属濃度の変化が認められる.例えば,肝硬変,肝炎,外傷,感染などでは血中亜鉛(Zn)が低下する1)
 これらの微量金属の吸収,貯蔵,輸送をつかさどるとされているのがメタロチオネイン(MT)で,1957年に初めてValleeら2)により発見された金属結合蛋白質である.この蛋白質は哺乳類から脊椎動物,無脊椎動物,高等植物,キノコ類,海藻,細菌にまで広く分布して,鉄(Fe),銅(Cu),Zn,マンガン(Mn),モリブデン(Mo)などと結合している3).種々の金属やホルモンで誘導合成される.DNAの解析から14種のイソ蛋白があり,疾患によりイソ蛋白の組成が異なるともいわれる4).しかし研究も1980年代からやっと盛んになってきたばかりで,臨床的に使えるにはまだ程遠い.
 本稿ではMTの測定法と臨床的意義について現在までにわかっているところを記したい.

わだい

胆汁中の金属動態

著者: 越永従道 ,   森田建 ,   竹内重雄

ページ範囲:P.1566 - P.1567

 金属元素は,生体の機能維持に極めて重要な働きをすることがわかってきている.特にカルシウム(Ca),銅(Cu),亜鉛(Zn),マンガン(Mn)などは胆汁中に排泄される金属元素の中では重要と考えられているが,その生理的または病態的な意義についてはほとんど知られておらず,これからの研究分野である.
 本稿では紙数の都合もあるので,胆汁中の代表的金属元素について,胆石症,特に黒色石の胆汁分析も交え簡単に述べたい.

眼球中の金属動態

著者: 石川弘

ページ範囲:P.1567 - P.1568

 生体内微量金属は,酵素の活性や蛋白質の合成に重要な役割を果たしている.微量金属の中で亜鉛(Zn)は特に大切であり,前立腺,骨,および皮膚などとともに,眼球に高濃度に含まれている.ヒトのZnの全含有量は約2g,大部分の臓器のZn濃度が20~30μg/gであるのに対し,眼球各組織,特に網脈絡膜は470μg/gと極端に高い値を示しており,生体内で最もZn濃度が高い組織であることが知られている.したがって,Znが網脈絡膜の機能に深くかかわっていることが予想される.
 さて,眼におけるZnの働きを臨床例で最初に報告したのはPrasadであり,2例の栄養性Zn欠乏症で夜盲と視力低下を指摘した.当時,これらの視機能障害の発現機序は不明であったが,その後の研究により次のように考えられている.すなわち,網膜の感光物質であるロドプシン(視紅)は,活性型ビタミンAであるレチナールから合成される.このレチナールは,網膜内でアルコール脱水素酵素の働きにより,肝臓から運ばれてきた循環型ビタミンAであるレチノールから変換される.このアルコール脱水素酵素はZnをコファクター(cofactor)としているので,Zn欠乏が生じると活性が低下し,レチノールからレチナールへの変換が阻害され,夜盲や視力低下が出現する.さらにZnは,ビタミンA輸送蛋白であるレチノール結合蛋白の肝臓内での合成にも関与することから,これらの視機能障害の発現には,Zn欠乏によるビタミンAの減少も加わるものと考えられる.

血清中亜鉛の存在様式

著者: 野本昭三

ページ範囲:P.1569 - P.1570

 血清中の亜鉛(Zn)が,共存する蛋白や他のイオンとどのようにかかわりを持ちながら存在しているかについては,1970~1974年頃に,A. F. Parisiら,R. I. HenkinとE. L. Girouxらの研究グループが図1に示すようなものとして報告している1~2).すなわち,血中でのZnはいずれも,なんらかのリガンドに結合して流れていて,その主たる内容は66%がアルブミンに,32%がα2-マクログロブリン(α2-M)に,残りの2%ほどがヒスチジンやシステインなどのアミノ酸に,それぞれ異なる強さで結合しており,このうちアミノ酸結合Znとアルブミン結合Znの間には交換性があるが,α2-M結合Znについては,その結合が他のリガンドにおける結合より強いために血流中で他のリガンド結合ZnとZnを高換することはないものと報告している.また,α2-M結合Znは,もっぱら肝細胞内で合成される際に組み込まれ,肝内で代謝されるものであろうとしている.この報告は,その後一般に受け入れられ,最近まで血中Znについての一つの概念になっていたように思われる.
 この報告と前後して,われわれも血清中に存在するニッケル(Ni)結合蛋白を分離して,そのおおよその性質を報告した3).1987年夏,われわれはかって報告したこのNi結合蛋白について再度確認する必要が生じて実験に取り組んだが,このときにLC-AASシステムと称して,ファルマシアのFPLCシステムの溶出液のディテクターのーつとして原子吸光分光光度計を,UVディテクターとシリーズに,またはパラレルに結合させて用いた.結果的には,このような金属結合蛋白の分離および分取には,このシステムが極めて有用であることを確かめることができた4)

金属ポルフィリン―金属ポルフィリン挿入反応の触媒反応

著者: 田端正明

ページ範囲:P.1570 - P.1571

 ポルフィリンは生物の生命維持に重要な鍵を握る化合物の一つである.しかも,ポルフィリンの多様な生体内での機能のために,ポルフィリン生成の異常に由来する病気の診断法として,尿や血液中のポルフィリンの分析が使われている1).また最近はポルフィリンの癌細胞への選択的濃縮が話題になっており,癌の光化学治療も行われるようになった.しかし,金属ポルフィリンの生成の異常がなぜ起きるか,あるいは癌細胞へのポルフィリンの集積のメカニズムは研究の緒に着いたばかりである2).ここでは,実験室での溶液内の金属ポルフィリンの生成の反応機構を紹介し,その立場から生体系での反応機構の一部に触れる.
 生体系でのヘムの合成の最終段階はプロトポルフィリンIXへの鉄(Fe)(II)の挿入であり,フェロキレターゼによって触媒される.

新しいイオン認識機能分子"armed macrocycle"

著者: 築部浩

ページ範囲:P.1571 - P.1573

はじめに
 化学の分野においても分子認識に関する研究が目覚ましい進展を遂げている.とりわけ1987年ノーベル化学賞の授賞対象となったクラウンエーテルに代表される合成ホスト分子は,優れた認識機能を分子レベルで設計することが可能であり,特定イオンの分析のためのセンシング素子として医療計測,工業プロセス計測,環境分析などに新風を吹き込もうとしている(図3).

全血検体保存中に生じる見かけ上の血清Na,K濃度の異常/原発性副甲状腺機能亢進症と血清Cl/P比

著者: 大久保昭行

ページ範囲:P.1573 - P.1574

 最近は民間の検査センターが発達して,血液化学検査などの検体を用いる検査については,開業医師でも大学病院なみの検査が行えるようになった.ところで,生体成分の中には酵素やペプチドホルモンなど不安定なものが多く,検体の保存法が適切でないと,保存中にこれらの成分が変化し,異常な検査結果となる場合もある.このような検体保存中に起こる変化を防ぐために,検査項目によっては変化を防止するための試薬入りの試験管に血液を採取したり,採血後に検体を低温で保存したりしなければならない場合もある.
 検査センターなどでは,採血後の成分の変化を防ぎ,検査を適切に行えるように,検査項目ごとに決められた色のキャップがついた試験管に採血するように指示し,あるいは血清を分離後,4℃で保存するように指示しているところが多い.

骨粗鬆症の要因分析のためのストロンチウム

著者: 野本昭三

ページ範囲:P.1574 - P.1576

 年齢に伴って骨塩量が低下してゆく傾向がみられるのが一般とされ,その傾向の著しい場合にはやがて骨折など骨の障害を起こしやすくなる,いわゆる骨粗鬆症(オステオポローシス)であるが,先進国では女性に25%,男性では5~10%にみられる1)といわれている.世界有数の高齢者社会を迎えつつあるわが国においても,特に関心を集めつつある問題の一つということができよう.
 この骨粗鬆症は,さまざまな要因によって起きる骨の疾患と考えられている中で,小腸におけるカルシウム(Ca)吸収障害はその主要因の一つに挙げられている.そのため,小腸でのCa吸収の様子を査定する手法を手にすることは,骨粗鬆症の研究を進めるうえで必須条件の一つという見かたがある.

情報伝達系としてのイオンチャンネル

著者: 小島至

ページ範囲:P.1576 - P.1577

 体液の電解質組成はほぼ一定に保たれている,このことは,臓器を構成する基本単位である細胞が十分にその機能を発揮するために重要である.
 細胞内では与えられた機能を発揮するためにいろいろな生化学反応が営まれているが,それらの反応が正常に進行するためには細胞内液の電解質組成が厳密に保たれていなくてはならない.これにより細胞の内外を隔てる細胞膜は,イオンが勝手に通過できないようになっている.そして,細胞膜上にはイオンを通過させるトンネルであるチャンネルと呼ばれる蛋白やポンプと呼ばれるイオン汲み出し装置が存在し,これらは調節されて細胞内のイオン恒常性を保っことができるようになっている.一方,生体の恒常性を保つために,細胞は外部からの刺激,例えばホルモンやニューロトランスミッターに反応してその機能を変化させる必要がある.このような細胞外の情報に対応して細胞内に産生される物質をセカンドメッセンジャーと呼ぶが,カルシウムイオン(Ca2+)がこの役割を果たしていることが多い.ホルモンなどの細胞外情報物質は直接または間接的に細胞膜上のイオンチャンネルに作用してその機能を変化させ,細胞内のイオン環境,ことにCa2+の動態を大きく変化させることが知られている.

低分子クロム結合物質

著者: 真鍋重夫

ページ範囲:P.1577 - P.1578

 1950年代から実験動物において三価クロム(Cr)が正常糖代謝に必要であることが認められ,このCrの作用はインスリンのコファクターであろうと考えられた.Cr欠乏動物では,高血糖,高インスリン血症,高コレステロール血症のほかに著しい動脈硬化などが認められるが,Cr投与により血糖値,インスリン値,血清コレステロール値は正常化することが知られていた1).その後,遺伝的糖尿病マウス(高血糖,高インスリン血症を呈する)では,無機Crは無効であるが,ビール酵母から抽出した三価Crを含む物質を投与すると著明な糖代謝の改善がみられることが報告され,MertzらによってCr含有耐糖因子(glucose tolerance factor;GTF)と命名された2).以来,種々の研究成績はGTFの存在を支持しているが,現在でもその構造は明らかではない.この原因は,GTFの化学構造上の不安定さによると考えられている.
 一方,哺乳動物(マウス,イヌ,ウサギ,ウシ)の生体試料中にインスリンの作用機構とは異なるブドウ糖の取り込みおよび利用促進作用のある低分子のCr含有物質が存在していることが明らかになっている3~5).この物質は主要臓器(肝,腎,脾,腸管など)に分布し,部分精製されたCr含有生理活性物質は,分子量約1,500と推定され,Crを除去すると生理活性を失い,再びCrを添加するとブドウ糖の取り込みおよび利用促進作用が回復する.このCr含有生理活性物質を低分子Cr結合物質(low-molecular-weight chromium-binding substance:LMCr)と命名して精製が進められたが,完全な精製にはいまだに成功していない.奇妙なことに,一定以上の精製操作は,生理活性を失わせてしまうのである.このため構造解析が行われておらず,前述のGTFが,LMCrと同一のものか異なったものかは結論されていない.

癌の産生する体液性骨吸収因子

著者: 永田直一

ページ範囲:P.1578 - P.1580

 Stewartらが1980年,従来,副甲状腺ホルモン(PTH)の腎作用の指標とされてきた腎性cyclic AMP(cAMP)を癌に伴った高カルシウム(Ca)血症患者で測定し,これらの患者が腎性cAMPの異常高値群と異常低値群にきれいに二分されることを報告してから,癌患者の高Ca血症の発症機序がにわかに注目されるようになった.癌が異所性にPTHそのものを産生することはあるとしても,極めてまれであることがPTHの蛋白,mRNAのレベルで証明されていて,彼らの発見は,腎性cAMP高値群では免疫学的にはPTHと異なるが生物学的にはPTH作用を持っ物質が産生されて,それが高Ca血症の原因物質として作用している可能性を示したものであった.腎性cAMPが低値を示す群では一般に癌の骨転移が著明であり,癌細胞の局所的な骨破壊作用で骨からCaが遊出し,結果的にPTH分泌が抑制されて対照的に腎性cAMPが異常低値になると解された.こうした知見を基に癌に伴った高Ca血症(malignancy associated hypercalcemia;HHM)は臨床的にPTH様因子の産生に伴うhumoral hypercalcemia of malignancy(HHM)と転移性骨病変によるlocal osteolytic hypercalcemia(LOH)に分けて考えられるようになった.
 PTH様因子については内外の研究室でその本体の解明が試みられ,HHM腫瘍の抽出物あるいはその細胞の培養上清での活性が調べられ,PTHよりは大きな分子で骨や腎のPTH受容体に結合してcAMP産生上昇活性を示すこと,in vitroにおいて骨吸収促進活性を示すことなどが明らかにされてきたが,ようやく1987年に至って実際に物質として同定された.まずMartinらがヒト肺癌細胞の培養上清からの精製・分離に成功し,N末端のアミノ酸配列が決定され,引き続いて乳癌,腎癌由来の因子が精製され,いずれもN末端のアミノ酸配列は等しく,それらアミノ酸13個のうち8個はPTHと相同であることが明らかとされ(図8),この新しく発見された蛋白はPTH関連蛋白(PTHrP)と呼ばれるようになった.

克山病とセレン欠乏

著者: 真鍋重夫

ページ範囲:P.1581 - P.1581

 克山病(Keshan disease)は,心筋障害を主徴とする中国の風土病の一つで,1935年,中国黒竜江省克山県で初めて発見され,地名にちなんで名づけられた疾患である.その後,中国の東北部から西南部にかけての細いベルト地帯での発生が確認された1).特に,山岳部や農村で発生し,小児や妊産婦での発生率が高い.また,克山病患者の大部分は,食物を自家産生する農家に発生し,その家庭の多くは経済的に貧困な農家である.
 以前は,慢性一酸化炭素中毒とかウイルス性心筋炎などが疑われたが,その後の研究により生体試料中のセレン(Se)含量の低下が認められ,また発生地区の農作物や土壌中のSe含量が著しく低いことが明らかにされた2,3).このような事実から,克山病がSe欠乏を中心とする栄養障害によるものと考えられるようになった.この考えかたに基づいて克山病流行地域での大規模な亜セレン酸の予防的投与が行れ,著しい克山病の発生減少が認められた.しかし,この亜セレン酸の予防的投与(週1回,0.5~1mg経口投与)以外に,主食(キビやトウモロコシ)に大豆を加えたり,豆腐を配給したりしても,克山病の発生は減少しており,Se欠乏以外に全体的な栄養障害が克山病の原因とも考えられている4)

甘草による偽性アルドステロン症

著者: 永田直一

ページ範囲:P.1582 - P.1582

 低カリウム(K)血症の鑑別診断を進める際,尿中K排泄が高くかつ血中レニン,アルドステロン値が低い場合には,アルドステロン以外の鉱質コルチコイド作用を持つ因子の異常増加を考えることになるが,そうした病態の中で最も頻度の高いのは甘草摂取によるものである.甘草中にはグリチルリチン酸,その水解物であるグリチルレチン酸が多量に含まれているが,急性実験ではグリチルリチン酸のアンモニウム塩2~5gの投与で著明なナトリウム貯留およびK利尿がみられ,慢性実験では0.5g/日の投与で低K血症,高血圧をきたすと報告されている.わが国でよく話題となるのは,甘草含量の高い漢方製剤の服用によるものである.
 グリチルリチン酸やグリチルレチン酸はステロイド類似構造を持つことから,アルドステロンの受容体に作用して電解質作用を持つものと考えられてきた.しかし,グリチルレチン酸のアルドステロン受容体への結合親和性はアルドステロンの10-4倍であること,偽性アルドステロン症の発症には副腎が無傷であることが必要なこと,またグリチルリチン酸がAddison病で鉱質コルチコイド作用を示すのは糖質コルチコイドとの同時投与の際に限ること,などの知見から,近年にはステロイド代謝に対する作用が注目されるようになった.

抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)

著者: 中井利昭

ページ範囲:P.1583 - P.1584

 抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone〔ADH〕;SIADH)とは,「血漿浸透圧の低下にもかかわらずADHの分泌が持続して十分な希釈尿を排泄できないため,水分貯留が起こり,低ナトリウム(Na)血症をきたす症候群」のことである.

リチウムセンサー

著者: 喜納兼勇

ページ範囲:P.1584 - P.1585

 躁うつ病の治療に炭酸リチウムが用いられている.その血中レベルは0.7~1.5mmol/l程度であり,2mmol/lを超えると毒性を示す.長期投与の影響を見るためにも,リチウム(Li)イオンをモニターする必要がある.
 アルカリ金属イオンの測定といえば古くから炎光光度法が知られているが煩雑であり,自動化も難しい.したがって,血中Liイオン濃度を測定するための簡便なLiセンサーの必要性は高い.

細胞内カルシウム測定の現状

著者: 工藤佳久

ページ範囲:P.1585 - P.1586

 一般に細胞内の遊離カルシウム(Ca)濃度は100nmol/l以下であり,細胞外液における濃度約2mmol/lに比べると圧倒的に低く保たれている.外的な刺激などの動因でCaイオンが細胞外から流れ込んだり,細胞内のCa貯蔵部位から遊離されたりすると,Ca濃度は一気に数倍から数十倍に高まる.そのレベルによって,細胞内に存在するいくつかのCa依存性酵素や機能蛋白質が活性化されるのである.Caはまさに細胞に備えられた多数のスイッチを状況に合わせて入れるための役割を担っているのである.
 この細胞内遊離Ca濃度を知ることは生物機能の本質を解く鍵となるものとされ,生理学や生化学研究の中心的テーマの一つになってきた.これまでにもエクオリンやアルゼナゾⅢなどのCa指示薬が使われてきたが,使いかたが難しく,なかなか一般化しなかった.細胞内に容易に負荷できるように分子設計されたquin 2やfura-2などの蛍光指示薬が登場してから,細胞内遊離Ca濃度の測定が急速に普及したのである.

液体クロマトグラフィー手法による微量金属イオンの計測

著者: 四ツ柳隆夫 ,   金子恵美子 ,   星野仁

ページ範囲:P.1587 - P.1588

 一般的に分析法が備えるべき要件は,感度,選択性,および正確度・精度であるが,特に臨床検査の場面を想定すれば,ミクロ化能力,生体マトリックス対応性,簡易迅速性,非熟練性,低コスト性などを重要な要件として加えることができるであろう.微量金属イオンの定量法としては,原子スペクトル分析法(ICP原子発光法,原子吸光法)や中性子放射化分析法が想起されるであろうが,これらによってしても上述の要件の充足は容易ではない.
 本小稿では血清アルミニウム(A1)の計測を例に,吸光/蛍光分析法と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)との結合システム,プレカラム誘導体化一HPLCによる超微量金属イオンの分析法とその有用性について紹介する.

特に微量金属分析のための器具類の洗浄法

著者: 野本昭三

ページ範囲:P.1588 - P.1589

 清浄な器具類をどのようにして手に入れるか,または,いかにして器具を清浄に洗い上げるか,このことが実験の成否を分ける重要な鍵になっていることは,分析化学の分野ではごく基本的な常識といえる.特に微量元素を取り扱う分野では,事の重要性はさらに大きい.
 ところで,現在どのようにして器具の洗浄が行われているかというと,ガラス製容器が主体をなしていた古い時代の洗浄法が,伝統的に受け継がれてきているように見受けられる.これは,現在,分析実験法などの教科書を書く立場にある方々が,かつて勉強された時代の教科書を参考にされる場合が多いために起きている現象ではないかと思われる.私もそうした年代に育った人間の一人である.

〔資料〕

検査項目別正常値―慣用単位と国際(Sl)単位

ページ範囲:P.1590 - P.1592

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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