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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査34巻2号

1990年02月発行

雑誌目次

今月の主題 補体系 巻頭言

補体研究の新しい展開

著者: 廣瀬俊一

ページ範囲:P.143 - P.144

 補体系はいわゆる補体成分以外に補体系のco-factorとして,そのカスケードに関係する多くの因子が存在する.それらの因子は物質として存在が検出されるとともに,その物質としての存在は生物学的な活性と関係して意味付けされることに意義がある.すなわち,補体系の研究ではC1~C9の補体成分と多数のco-factorについて,それぞれ個々に,また両群のそれぞれの因子相互間の関係を考えなければならない.このような補体系の個々の因子については,これまでも多くの研究があり,また現在でもそのものとしての存在とともに活性についての問題,補体系活性化の環境条件の問題に関連して研究され,次々と解明されている.
 このような研究に関連して日本の研究者が占めた役割は大きい.しかし,このように補体は基礎的研究がおおいに進歩しているのに対して,その臨床的応用はあまりなされていない.このことは,補体系についての検査が物としての補体成分の定量と,活性因子としての補体の各成分の活性の測定を同時に行うことが困難であり,臨床の場におけるその方法がいまだ十分に確立されていないことと関係があると思われる.

総説

補体系の生化学と機能

著者: 藤田禎三

ページ範囲:P.145 - P.151

 補体系は,約20種類の血清蛋白と数種の膜蛋白の総称で,その活性化は,抗原抗体反応に引続き起こる特異的反応の古典的経路と非特異的反応の第二経路より構成されており,生体防御に抗体とともにあるいは単独で重要な役割を果たしている.種々の生物活性は,補体の主要成分C3が分解されることで発来する.これらの補体活性化経路は種々の制御因子によりコントロールされており,さらに,細胞膜上には,自己補体による細胞破壊を守る強力なインヒビターが存在する.

技術解説

血清補体価の測定

著者: 北村肇

ページ範囲:P.153 - P.158

 血清補体価は血清中のC1からC9までのすべての補体成分の活性を一括して測定するもので,体内の補体を知るための第一歩として用いられる.全身性エリテマトーデスを含む各種疾患の診断や予後判定に不可欠の検査である.血清補体価は補体の持つ感作ヒツジ赤血球を溶血させる活性として測定する.ここでは血清補体価測定の実際を,原理,緩衝液作りから補体価算出までを一般的な方法と2つの簡易法による方法について解説した.

補体系蛋白の測定

著者: 柳田国雄 ,   竹村周平 ,   近藤元治

ページ範囲:P.159 - P.163

 C3, C4など補体系蛋白の定量法について一元免疫拡散法,レーザーネフェロメトリー法,免疫比濁法,ラテックス凝集比濁法などの原理,器具・試薬,実際の操作,特徴,問題点について解説した.いずれの方法も,それぞれの蛋白に対する抗血清を用いた抗原抗体反応を利用しているが,その検出方法に特徴がある.また補体系活性化の指標となりうるであろう補体分解産物の測定についても簡単に述べた.

補体成分蛋白の多型性の測定

著者: 竹内二士夫 ,   徳永勝士

ページ範囲:P.164 - P.169

 補体成分蛋白の多型は,主として電気泳動法を用いて,近年詳細に研究されるようになった.MHC領域クラスⅢに属するC2, BF, C4をはじめ,C3, C6, C7などが検討された結果,疾患との関連が明らかにされつつあり,免疫学的研究や,人類遺伝学的研究にも寄与している.本稿では,C2, BF, C4を中心にその多型検出法の概略と,その意義について述べる.

補体レセプターの測定

著者: 木佐木友成

ページ範囲:P.170 - P.175

 補体レセプターの測定法は,ロゼット法より始まり,レセプター分子の研究の進歩につれて,モノクローナル抗レセプター抗体を用いた酵素抗体法やフローサイトメトリーが現在使用されている.補体レセプターの構造のみならず機能の研究も進んでいるが,補体レセプター測定の臨床的な意義は,一部のレセプター欠損例の診断を除いては現在確立されている場合は少なく,今後の臨床的研究の進展が期待される.

免疫複合体の測定

著者: 𠮷野谷定美

ページ範囲:P.176 - P.178

 免疫複合体測定は,過去に測定法の不安定性と免疫複合体そのものの複雑性のため,標準化,精度管理に失敗し一般臨床市場への流通が困難であった.新しく,Clq固相法の改良,モノクローナル抗体の開発が行われ,抗Clq抗体法,抗C3d抗体法,モノクローナルリウマトイド因子法(mRF法)が登場し,より安定な測定キットが誕生した.一方,臨床側では,血漿交換療法,免疫抑制剤,リンパ球輸液療法などが行われるようになり,免疫複合体測定の需要が高まっている.測定法の原理を正しく理解し,測定結果の判断をすることが検査室側に要求されている.

病態解説

補体と膠原病

著者: 行山康

ページ範囲:P.179 - P.183

 補体と膠原病について病態および臨床的意義について解説した.
 補体は特にそのアレルギー反応に関与する作用と炎症を促進する作用の2つの面で膠原病とかかわりをもつ.SLE, RAなどの疾患では補体の変動が疾患の活動性の変化に対応するので特に臨床上重要である.補体レセプターも自己免疫疾患一般で変化があり,レセプターを含めた補体系が膠原病と深くかかわりをもつことを述べた.

補体と腎疾患

著者: 大井洋之

ページ範囲:P.184 - P.188

 近年,補体系よりの腎疾患病態へのアプローチは,種々の研究がなされいくつかの新知見が得られている.また補体学の進歩により将来,腎炎病態について重要なテーマになると思われる結果も認められている.各種腎疾患でAGN, MPGN(Type Ⅱ), IgA腎症は第二経路,MN,SLEは古典的経路が主に関与していることが知られている.AGNは種々の因子により補体活性が出現している.MPGNはNephritic factorを主に病態の解明がなされている.また腎炎の病態にmembrane attack complexの関与が認められている.

補体と肝疾患

著者: 森藤隆夫 ,   高木徹 ,   粕川禮司

ページ範囲:P.189 - P.194

 肝は補体蛋白の産生臓器であり,蛋白合成能.胆汁うっ滞,co1d activationなどで影響されるので,CH50, C3, C4蛋白量の変化については注意して解釈すべきである.CH50は急性肝炎で増加,慢性肝障害で減少,劇症肝炎ではさらに減少する.初期PBCではCH50が増加するが,他の自己免疫疾患を合併すると正常域に復してC3, C4蛋白量が減少する.PBCではC3,Clqの異化亢進と免疫複合体,IgMとの関係が注目されている.

先天性補体成分欠損症

著者: 稲井眞彌

ページ範囲:P.195 - P.199

 わが国では補体成分欠損症のうちC9欠損症を含め後期反応成分の欠損症の頻度が高い.
 わが国におけるC9欠損症の頻度は約1000人に1人で,また本症はわが国のどの地方でも,ほぼ同じような頻度で存在する.一方,わが国では前期反応成分の欠損症の頻度は非常に低い.C9欠損症を含め後期反応成分の欠損症は髄膜炎菌などグラム陰性球菌に感染する機会があった場合,これら細菌による感染症を発症する危険性が高い.

話題

補体とMHC

著者: 徳永勝士

ページ範囲:P.200 - P.201

1.はじめに
 哺乳類や鳥類などでは,組織適合性を決定する一群の遺伝子が特定の染色体領域に密に連鎖して複合体を形成することが知られ,主要組織適合性複合体(Major Histocompatibility Comp1ex;MHC)と呼ばれている.MHC領域にはいくつかの補体成分の遺伝子も位置することから,免疫システムの遺伝的制御における役割は多大であるといえる.
 本稿ではMHCに属する補体遺伝子群について,MHCハプロタイプや疾患感受性に関する話題を紹介し,また近傍に見いだされた新しい遺伝子群についても触れたい.なお,ここでは主としてヒトに関する知見について述べる.

補体制御膜蛋白

著者: 西岡雄一

ページ範囲:P.202 - P.203

 酸性条件下での赤血球の易溶血性をみる検査として,Ham試験(酸溶血試験)がある.これは,赤血球が,補体に対する感受性の亢進した状態にあることを示す検査であり,発作性夜間血色素尿症(PNH)の診断にもっとも有用と言われている.PNHは,発作性あるいは慢性に血管内溶血を示す,後天性溶血性疾患である.造血細胞の中に生じた突然変異により細胞膜に異常をきたす結果,赤血球のみならず,顆粒球,リンパ球,血小板に及ぶまで補体に対する感受性が亢進する.このため時として溶血性貧血のみならず,顆粒球減少,血小板減少などの,汎血球減少症を呈することがある疾患である.
 最近の臨床検査の面での補体学の進歩は,細胞膜表面上に,活性化補体の障害作用を防ぐ,補体制御因子が存在することを明らかにしたことであり,かつ,この膜表面補体制御蛋白がPNHの細胞膜表面上において欠損しているということを示すことができたことである.

補体成分の遺伝支配

著者: 高橋守信

ページ範囲:P.204 - P.206

1.遺伝子重複による補体系の進化
 補体系は約30種の構成成分(血清蛋白と膜蛋白)からなる生体反応系で,生体防衛機構として重要な働きをしている.補体系はこのように複雑な反応であるが,もともとは,単純なシステムであったと思われる.下等脊椎動物の円口類では,おそらくはC3, B因子, CR1, H因子などの数成分しかないらしく,古典経路の成分や,膜傷害に関与する後期補体成分は,存在しない.これらの成分が全部揃うのは,硬骨魚の段階らしい.このような,補体系の進化の原動力は遺伝子重複(geneduplication)という機構である.遺伝子重複は,クロモゾームの複製や組み換えの際に,ときどき起こる誤りの結果,遺伝子のさまざまの長さの領域が,重複する現象を言う.重複した遺伝子領域に変異が蓄積した場合,互いによく似た塩基配列をもちながら,異なる機能分子をコードする1組の遺伝子が並列して存在する可能性がでてくる.本来,共通の先祖遺伝子から,相同性が高く,しかもコードする蛋白が多様な,複数の遺伝子へと進化してきたと考えると,補体系の進化は非常によく説明できる.例えば,補体成分のC2とB因子,C3とC4とC5, C1rとC1s,などは互いによく似た構造と機能をもっていて,まるで双子か3つ子の分子のようである.また,補体系の2つの活性化経路,古典経路と別経路は,活性化経路全体が,重複して存在している.最近の遺伝子工学の進展によって,補体成分のほとんどすべての遺伝子と相補DNAクローニングが行われ,補体成分の全アミノ酸配列が容易に決定されるようになった.その結果補体系の多くの成分の遺伝子が,少数の先祖遺伝子から進化したものであることが確実となった.補体成分のアミノ酸配列と,他の蛋白とのアミノ酸配列との比較により,補体蛋白と他の蛋白との類縁関係も明らかになってきた.例えば,C3,C4,C5と,血清プロテアーゼ阻害因子であるα2マクログロブリンとは相同性蛋白である.また補体のレセプターCR1とCR2は,血清中にある補体調節蛋白C4 BPとH因子,それに細胞膜に存在する補体調節蛋白DAFと相同性の蛋白である.補体の後期成分C6,C7,C8α,C8β,C9は,互いに相同性蛋白であるばかりでなく,NK細胞やキラーT細胞の細胞質中にあるパーフォリンと相同性が高い.このパーフォリンは,上記リンパ球が,標的細胞の細胞膜を破壊する時に働く蛋白である.このように,補体による膜傷害と,リンパ球(細胞免疫)による膜傷害が,相同性蛋白によって,類似の機構を介して行われることが確定したのである.

カラーグラフ

腎臓の発生と正常腎の構造

著者: 坂口弘 ,   緒方謙太郎

ページ範囲:P.140 - P.141

腎臓の病の病理・2

腎臓の発生と正常腎の構造

著者: 坂口弘 ,   緒方謙太郎

ページ範囲:P.208 - P.212

 腎臓は胎生期第4週より,前腎,中腎,後腎として発生し,後腎が生後永久腎として発達する.正常腎の主な血行路は,腎動脈が分枝を繰り返し小葉間動脈となり,これより糸球体輸入細動脈が分枝し糸球体毛細管網を構成し輸出細動脈としてこれを出た後にも,間質で毛細管系を構成し,静脈系に入る.糸球体は腎皮質に存在するが,ボーマン嚢で囲まれた毛細血管網はメサンギウムによって支持されている.そして毛細管壁は,内側から,小孔を有する内皮細胞,基底膜,上皮細胞という3層構造からなっている.さらに上皮細胞は足突起という特徴的な構造を有しており,正常な糸球体ではこの足突起が基底膜の外側に並んでいる.

TOPICS

チトクロ―ムP-450とステロイド合成―最近の進歩

著者: 笹野公伸

ページ範囲:P.214 - P.215

 ステロイドホルモン合成系において,ヘム含有蛋白であるチトクロームP-450は,NADPH依存性の電子伝達系のterminal oxidaseとして種々の水酸化反応,C-C結合のcleavageを触媒することが知られている.副腎,卵巣,精巣などにおいての合成経路では,それぞれのステロイドホルモンの化学反応が,おのおのに特異的なチトクロームP-450によって触媒される.近年,これらチトクロームP-450が精製,純化され,特異的な抗体,cDNAが得られるようになり,これらを用いてステロイドホルモンの合成,代謝を検索することにより,次々と新たな知見が報告されている.本稿では,これらの内から,ステロイドホルモン合成酵素欠損症および病理組織学的ステロイド合成の局在性に関する最近の進歩を紹介する.
 ステロイド合成に関するチトクロームP-450に対するcDNAが前述のように得られ,これらの遺伝子の染色体上の位置,分子構造も表1に示すように明らかにされてきている.ところで,これらステロイド合成に関する酵素の欠損症,すなわち先天性副腎過形成症候群は決してまれな疾患ではなく,先天性内分泌疾患の内ではもっとも重要なものの1つである.この疾患は,発見が遅れると患者が生命の危険にさらされたり,成長,性発育の障害が著明に認められるため,これらのことを最小限に防止させるためにも早期発見,早期治療がきわめて重要となる.また,特に21-水酸化酵素欠損症の場合,母体にステロイドを投与することにより障害発生を予防できる可能性もあるので,保因者および胎児の遺伝子診断が注目されている.そこで,これらチトクロームP-450に対するcDNAプローブを用いることによって,21水酸化酵素,11β-水酸化酵素欠損症を中心に種々の遺伝子異常が報告されており,従来から行われていたHLAタイピング,羊水中のステロイドホルモン値の測定とあわせて,羊水細胞あるいは絨毛組織由来のDNAを,両親および家系中の発症者のDNAとあわせて,これらチトクロームP-450に対するプローブを用いて解析することにより,より確実な出生前診断を行うことが可能になってきた.

血清カルシウムの酵素的測定法

著者: 片山善章 ,   栢森裕之

ページ範囲:P.215 - P.216

 血清カルシウム(Ca)の存在様式は,約35%が非透析性で蛋白質と結合した型であり,残りが透析可能なイオン型として存在し,一部は非イオン型の重炭酸塩やクエン酸塩などになっている.
 現在,広く日常検査法として使用されている方法はo-CPC (o-cresolphthalein complexone)法である.この方法は,同じ二価イオンであるマグネシウムの影響を除くために8―ヒドロキシキノリンを用い陰ぺいし,Caをo-CPCで発色させるものであるが,マグネシウムの影響については若干問題点を残しており十分な特異性を満たしておらず,また,蛋白濃度の増加によってもわずかに正誤差を受ける.さらに,温度に対して大きく影響すること,およびo-CPCがアルカリ溶液中では不安定であるために試薬添加など,一定条件下で操作を行う必要性がある.

不安定HbA1C

著者: 中島弘二

ページ範囲:P.216 - P.217

 糖尿病の血糖コントロールの指標として広く使用されているグリコヘモグロビン(HbA1C)は2段階の非酵素的反応により形成される.グルコースはまずヘモグロビンAのβ鎖のN末端のバリンとシッフ結合し不安定HbA1Cとなるが,これは可逆的反応で,さらにアマドリ転移して不可逆的な安定HbA1CとなるものとグルコースとヘモグロビンAとに分解するものとがある.不安定成分は採血時の血糖値により変動し,さらに採血後時間とともに低下する.そのため過去の血糖値の指標としては不安定成分を除いて安定HbA1Cのみ測定することが望ましい.
 安定HbA1Cのみを測定する方法として,エレクトロフォーカシング法,比色法,アフィニティークロマトグラフ法などが報告されているが,現在もっとも広く使用されているHPLCに比べ検体処理能力,安定性など問題がある.HPLC法においては不安定成分のピークは安定成分のピークの前に出現するためピークを区別して測定することができる.しかしそのために長時間(12分以上)かけてクロマトをしなければならず,カラムの能力をつねに最高に保たねばならない.不安定成分をカラムにかける前に除く前処理をしてHPLC法で短時間(4分以内)に分析する方法が現時点では実用的であろう.

赤血球デオキシATP

著者: 坂場幸治

ページ範囲:P.217 - P.218

 デオキシATP (deoxy adenosine triphosphate以下dATP)は核酸代謝のうちプリン体代謝産物の一つで図11)に示すようにデオキシアデノシンを基質としてデオキシアデノシンキナーゼによりdAMP,さらにヌクレオチドキナーゼによりdADPを経て産生される高エネルギーリン酸化合物である.dATPは重症複合免疫不全症(SCID)を発症するアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症において赤血球,リンパ球内に増加することから注目されている.
 赤血球内dATPの測定は赤血球抽出物とdCTP, dGTPおよび〔3H〕dTTPを使用し,DNAの鋳型とDNAポリメラーゼを用いてインキュベートし,HPLCにより定量される2)

Trichosporon cutaneum

著者: 安藤正幸

ページ範囲:P.219 - P.219

 Trichosporon cutaneum(トリコスポロン・クタネウム)は,Candida属やCryptococcus属などと同じく,不完全菌類に属する酵母の1種であり,別名Trichosporon beigeriiとも呼ばれている.本真菌は,古くは砂毛(頭髪の表面に本真菌が増殖して結節をつくる疾患)の原因菌としてよく知られていたが,衛生状態が良くなった今日では砂毛は消滅したために,最近では,本真菌は日和見感染症の原因菌としてときに話題にのぼるにすぎなかった.しかし,われわれが本真菌がわが国に固有といわれている夏型過敏性肺臓炎の原因抗原であることを発見して以来,一躍脚光を浴びるようになった.
 夏型過敏性肺臓炎とは,わが国でも特に西日本を中心に,5月から10月の高温多湿な時期に,一般家庭の居住環境に関連して発生するアレルギー性肺炎のことである.本症は主に古い木造家屋の居住者,ことに主婦に多いことから,その原因抗原はこれらの環境に増殖するカビではないかと考えられてきたが,われわれの居住環境に生育するカビはきわめて多数存在するために,長い間原因抗原を特定することができなかった.われわれは患者家庭から,落下真菌培養法,室内塵培養法,swab法を用いて真菌を分離培養し,これらの結果を健常対象者の家庭のものと対比して,患者家庭にのみ見られる有意な真菌はT. cutaneumのみであること明らかにするとともに,患者血清中の抗T. cutaneum抗体の測定ならびにT. cutaneum培養濾液抗原を用いた吸入誘発試験などの免疫学的検討を行い,本真菌が夏型過敏性肺臓炎の原因抗原であることを明らかにしてきた.

編集者への手紙

コロイド銀液(Ag-NORs染色液)による真菌染色法

著者: 引野利明 ,   中島孝

ページ範囲:P.220 - P.221

 核小体にはDNAの大きなループ構造があり,そこではRibosomal RNA (rRNA)遺伝子がRNAポリメラーゼにより次々と転写され,rRNAの合成が行われている.この部分はNucleolar Organizer Regions(NORs)と呼ばれ1),強い銀親和性を持つことが知られている.NORsの銀親和性はこの領域に存在する銀親和性蛋白によるもので,通常のパラフィン切片でもコロイド銀液を使用すると細胞核内に点(dot)状にNORsを染めだすことができる2).このNORsの形状や数は一般に細胞の活性に反響し1),核小体の増加や悪性細胞でしばしばその数を増すとされている3)
 私どもはこのコロイド銀液によるAg-NORs染色を行った際,NORs以外にも組織内に増殖した真菌が濃く明瞭に染め出されることを知った.以下,簡単に紹介する.

研究

血中グルコース,総コレステロール測定における施設間差是正の方策

著者: 飯塚儀明 ,   村井哲夫

ページ範囲:P.222 - P.226

 標準血清を用いて,近隣5施設の日常検査法における血中グルコースおよび総コレステロール測定値の陽正確さを評価するとともに各施設の測定値に差が生じる原因について検討した.その結果,誤差(標準血清の標準値とそれを各施設の日常検査法で測定した値との差)の大きさは,標準値を基準にしてグルコースで3~12%,総コレステロールで-6~9%であった.また,総コレステロール値に施設間差を生じる大きな要因の1つは,水溶液のキャリブレーターを用いる場合,測定試薬の違いによって差が大きくでることであった.しかし,血清ベースのキャリブレーターでは,その差が小さいことから,正確な表示値をもった血清ベースのキャリブレーターを相互に利用することにより施設間の測定値是正と正確さの確保が可能となることがわかった.

資料

慢性糞線虫症における糞便検査法について―実験感染イヌおよびサルによる検討

著者: 塩飽邦憲 ,   千種雄一 ,   角坂照貴 ,   金子清俊 ,   渥美ふき子

ページ範囲:P.227 - P.230

 慢性糞線虫症はほとんど無症状であるうえに,糞便検査でラブジチス型幼虫を検出することが困難である.このため,イヌ,サルに糞線虫を感染させて,4種の糞便検査(ベールマン法,MGL法,試験管濾紙培養法,薄層塗抹法)を定量的に比較した.検出できるラブジチス型幼虫は排便後の時間経過とともに減少し,排便後6時間以降は急激に減少したため,6時間以内の検査が必要である.ヒトの慢性糞線虫症の検査としては,検体を保存できる面からもMGL法がもっとも優れており,病院での検査としてはMGL法と濾紙培養法の併用が推奨される.

Protein C測定におけるアミド水解活性法(Berichrom Protein C),ELISA法,抗凝固活性法の比較

著者: 田中由美子 ,   川田勉 ,   小野仁 ,   太田川和美 ,   関つぐみ ,   芝高子 ,   池田政勝 ,   市川幸延 ,   布施川久恵 ,   安藤泰彦

ページ範囲:P.231 - P.236

 Protein C (PC)測定法についてアミド水解活性法(アミド法,Berichrom PC)を中心に検討し,ELISA法,抗凝固活性法(凝固時間法)と比較した.アミド法は自動測定装置による測定が可能であり,迅速性,簡便性,再現性に優れ,ビリルビン,ヘモグロビン,脂質の干渉も少なかった.3方法により測定した患者血漿のPC値は,膠原病患者群では高値,DIC群,肝疾患群で低値を示し,3方法とも一致した成績であった.これに対し,ワーファリン投与群では,アミド法,ELISA法に比し,凝固法でより高率に低値例が認められ,前2者と解離する例があった.これはアミド法,ELISA法が,PIVKA-PCをも測定するためと思われた.この点に注意すれば,アミド法は有用なPC測定法と考えられた.

免疫血清検査の自動化の検討―Biomek 1000を用いた凝集反応および血清補体価測定について

著者: 井上武志 ,   松永清二 ,   村角彰彦 ,   石黒隆一 ,   木田信章 ,   荒武八起 ,   小谷富男 ,   大滝幸哉

ページ範囲:P.237 - P.241

 マイクロタイター法による凝集反応および血清補体価(CH50)測定をBiomek 1000に応用し自動化した.本装置は任意に作成したプログラムにより,繁雑なピペッティングおよび比色定量を自動的に行う装置である.凝集反応であるTPHA, TOXO, ASK, RAPA,およびATLA定量の5項目について,それぞれの使用書に従いプログラムを作成し,従来法との比較を行った結果,良好な成績が得られた.CH50測定はMayerの変法に基づき,1/10量の方法で行った.1検体につき5ポイントの希釈系列を組み,マイクロプレート1枚で16検体の測定を可能にした.測定精度は良好で,Mayerの変法ときわめて高い相関(r=0.97)が得られた.また,試薬の微量化がはかられ,日常検査としての有用性が示された.

質疑応答 臨床化学

高速液体クロマトグラフィーで測定される臨床検査項目と臨床評価

著者: 山本征夫 ,   眞重文子 ,   大久保昭行 ,   高井信治

ページ範囲:P.243 - P.246

 〔問〕高速液体クロマトグラフィーは現在生物・医学分野で活発に用いられ貴重なデータが出てきているし,これまで測定できなかった生体成分の分析も可能となってきました.現在どのような項目について検査が可能になっているか,ご教示ください.

血液

PIVKA-ⅡとビタミンKの投与量

著者: 岩下有希子 ,   大倉久直 ,   岡崎伸生

ページ範囲:P.246 - P.248

 〔問〕PIVKA―Ⅱ(EIA)は肝細胞癌の腫瘍マーカーとして最近注目されていますが,ビタミンK投与時に肝細胞癌の病態と関係なく減少してきます.これでは腫瘍マーカーとしての意味がないので,ビタミンKを投与しながらもPIVKA―Ⅱを効果的にとらえることのできるビタミンKの濃度(投与量)をご教示ください.

免疫血清

血清を希釈する溶液

著者: 佐藤幸一 ,   河合忠

ページ範囲:P.248 - P.249

 〔問〕TIA法で血清を前希釈するのに,一般的には生理食塩水を使用しますが,水で希釈した場合どのような問題がありますか(IAPとIgG,―A,―Mについて数件の検体で比較したかぎりでは,大きな差はありませんでした).試料/全量比が問題の場合,どの程度から無視できるのか,よろしくご教示ください.

臨床生理

加算平均心電計の基準点設定とそのポイント

著者: S生 ,   中橋義尚 ,   大沢寛

ページ範囲:P.249 - P.252

 〔問〕最近,加算平均心電計が市販されていますが,平均加算のための基準点の設定はどのように行われるのでしょうか.また,加算平均法についてそのポイントをご教示ください.

一般検査

腎機能の低下と脂肪球の出現

著者: Q生 ,   折田義正 ,   今井宣子

ページ範囲:P.252 - P.254

 〔問〕尿沈渣で,特に蛋白が300mg/dl以上出ている尿の場合,脂肪球や脂肪円柱が観察されます.腎疾患ではなぜ脂肪球が出るのか,また脂肪球はどのようにしてつくられるのか,ご教示ください.

診断学

好中球減少症の診断法

著者: T生 ,   倉辻忠俊

ページ範囲:P.254 - P.256

 〔問〕免疫機序による好中球減少症の診断法についてご教示ください.また,良い検査法があれば具体的にお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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