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雑誌目次

論文

臨床検査34巻4号

1990年04月発行

雑誌目次

今月の主題 結核菌と非定型抗酸菌をめぐって 巻頭言

結核:古くて新しい疾患

著者: 島尾忠男

ページ範囲:P.393 - P.394

 石器時代の人骨の化石に骨結核と考えられる病変があり,エジプトのミイラに脊椎カリエスが発見されていることを考えると,結核は人類をもっとも古くから悩ました疾患の一つと思われる.欧米諸国では社会の近代化,工業化とともに結核が強く蔓延し始めたが,18~19世紀に蔓延の頂点に達した後は,結核対策もなかったのに結核は減少し始めた.生活水準の向上によって,感染,発病が少なくなったためと考えられている.
 コッホが結核菌を発見したのは1882年で,これを契機として結核を予防し,診断する技術が次々と開発された.もっとも遅れていた抗結核薬も,1944年にストレプトマイシンが発見されると,新薬の開発が続いた.これらの新しい技術を応用することによって,1945年以降結核は急速に減少した,日本も第二次大戦以降は欧米諸国と同じ早さで結核を減らすのに成功したが,近代的な対策を始めた時点での蔓延状況の差が縮まらず,結核既感染者の多い世代に20歳以上の開きがみられている.

総説

抗酸菌の分類学の現状と問題点

著者: 束村道雄

ページ範囲:P.395 - P.399

 抗酸菌の分類学は,計数分類法,ミコール酸解析,DNAハイブリダイゼーションの三本の柱の上に成り立っている.計数分類法とミコール酸解析の結果は,よく一致する.DNAハイブリダイゼーションの結果も,計数分類法で得た結果と,大抵の場合一致するが,2,3の菌種については一致しない.これらの菌種の取り扱いが向後の問題点である.

技術解説

抗酸菌の分離と同定の実際

著者: 斎藤肇

ページ範囲:P.400 - P.404

 近年,結核症が減少する反面,非結核性抗酸菌による肺結核類似症が増加の傾向にあり,なかでもMycobacterizam avium complexはAIDSにおける日和見感染の主要な原因菌として注目されているところである.過去数年来より非結核性抗酸菌症の原因菌は多様化の傾向にあり,分離菌を迅速かつ的確に同定し,適切な治療が望まれる.抗酸菌の同定法は近年著しく進歩し,従来の生物学的性状検査に加えるに,脂質分析やDNAプローブによる同定法が抗酸菌学領域にも導入されつつあり,より迅速かつ的確に同定されるようになるであろうことが期待される.

抗酸菌の薬剤感受性検査

著者: 髙橋宏

ページ範囲:P.405 - P.411

 感性薬剤を選択するための感受性検査は,これと表裏の関係の耐性検査にくらべ,検査目的が前向きというちがいがある.
 結核菌の発育が遅いこと,均等菌液の作製が困難であること,および培地中の薬剤力価の低下など検査成績に影響する宿命的な難点がある.検査法の単純化と改善すべき問題点を述べる.

病態解説

抗酸菌症の臨床

著者: 山本正彦

ページ範囲:P.413 - P.417

 わが国の結核は順調に減少しているが,若年層にみられる減少率の低下,集団感染の多発などの問題がある.治療についてもなお多くの問題があり,結核が制圧されるのは2050年と予想され,今後の取り組みを弱めてはならない.
 非定型抗酸菌症については結核の減少に反して増加しており,その多様化とともに今後大きな問題となると思われる.M.avium complexの治療は未解決であり,今後の努力を必要とする.本稿では両疾患の臨床の概要を,問題点を中心に述べた.

抗酸菌症の病理像

著者: 田島洋

ページ範囲:P.418 - P.424

 抗酸菌症は抗酸菌による疾患全部を総称する病名であるが,結核症と非定型抗酸菌症が代表である.これら1群の疾患は類上皮細胞肉芽腫という非常に特異的な病理像を共有するが,菌の病原性や毒力と生体との関連から病像や病理像に多少の相違があることを述べた.結核症において重要なことは,その「感染」と「発病」を分離する病理像が認められ,「初感染発病学説」が確立していることである.

抗酸菌の耐性機構と化学療法

著者: 山田毅

ページ範囲:P.425 - P.428

 結核菌はクロモソームの突然変異をおこし,薬剤の透過性をかえたり,薬剤の作用点の構造を変え耐性を獲得する.耐性を獲得するとINH耐性菌やバイオマイシン耐性菌のように病原性が弱くなる場合がある.非定型抗酸菌の薬剤不感受性のメカニズムとしては透過性の変化,薬剤の不活化機構の可能性が挙げられている.

話題

―抗酸菌の迅速同定―ポリメレース・チェイン・リアクション(PCR)の応用

著者: 永井良三 ,   和田昭仁 ,   竹脇俊一 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.429 - P.431

1.はじめに
 抗酸菌は分裂速度がきわめて遅く,分離と同定には4~8週間が必要である.そのため臨床的に結核症が疑われても治療方針の決定が遅れるケースも多い.また非定型抗酸菌は抗結核剤に感受性をもつものともたないものとがあり,できるだけ迅速に菌種を同定しなくてはならない.このような問題にアプローチする新しい方法として,DNAプローブを用いた診断法が導入されつつある.すでにGen-Probe社からはDNA-RNAハイブリダイゼーション法による抗酸菌同定キットが臨床応用されており,優れた成果を上げている.DNA-RNAハイブリダイゼーション法の問題点としては,現在125I標識したプローブを用いているためアイソトープ管理が必要であること,臨床検体からの抗酸菌の直接検出が必ずしも可能でないことが挙げられる.
 一方,われわれは新しい遺伝子工学的手法として最近開発されたポリメレース・チェイン・リアクション(PCR)を抗酸菌DNAの検出に応用し,いくつかの興味深い結果が得られているのでここに紹介させていただく.

―抗酸菌の迅速同定―DNAプローブ法

著者: 岡田淳

ページ範囲:P.432 - P.434

 Mycobacterium属による結核症や非定型抗酸菌症が近年漸増傾向にあり,特に従来は重視されていなかった非定型抗酸菌による感染がcompromised hostの増加に伴い,あらためて注目されるようになってきた.抗酸菌は一般的に発育が遅く(2~8週),もっとも発育の早いrapidgrowersでも1週前後を要するため,迅速同定が切望されてきた.近年分子生物学や遺伝子工学が飛躍的に進歩し,感染症診断にも応用されるに至った.いわゆる"DNA hybridization(ハイブリダイゼーション法)"である.ハイブリダイゼーションとは,由来の異なる2種類のDNAから得られる単鎖の間に二重鎖ができるか否かを調べることで,DNAの二本鎖(ヌクレオチド鎖)が比較的簡単な操作(加熱またはpHを上げる)でほどけ,逆の操作(冷却またはpHを下げる)で相補性のある元の二本鎖に戻る性質を利用し,DNA構造の明確な微生物と未知の微生物との間でハイブリダイゼーションを行い,相同性を調べ,微生物の同定を行う方法である(詳細は文献1,2)参照).DNAハイブリダイゼーション法に用いられる標識DNAをprobe(プローブ)と呼ぶ.標識には従来アイソトープが用いられてきたが,最近アイソトープを使わない(非放射性)標識法が開発されている(ビオチンや化学発光物質).またプローブとしては,全染色体DNA,DNA断片および病原性遺伝子を使う場合があり,目的に応じて使い分けられている.
 本稿は抗酸菌の迅速同定としてDNAハイブリダイゼーション法(プローブ法とも言う)について説明するが,ここではすでにFDAの認可を得てアメリカ国内で市販されているキットについて筆者らも検討する機会を得たので,その概要を紹介し,今後の問題点について考察する.

―抗酸菌の迅速同定―α抗原について

著者: 田坂博信

ページ範囲:P.435 - P.437

 α抗原は遅育抗酸菌に広く分布する分子量約30000ダルトンの相同蛋白質である.相同蛋白質のアミノ酸配列は各蛋白質に共通な部分と進化の過程で変異した部分とによって構成されている.α抗原の場合には変異の程度がspeciesまたはcomplexとよく相関しているので,変異したアミノ酸配列の部分の抗原決定基を血清学的に検出することによって菌株の同定を,確実に,簡単にしかも迅速に行うことができる.
 今までに明らかにされた特異性はM. kansasii,M. marinum,M. scrofulaceum,M. gordonae,M. szulgaiおよびM. malmoenseでは,speciesspecificであり,M. avium complex(M. avium-M. intracellulare)およびM. tuberculosis complex(M. tuberculosis-M. bovis-M. microti)においてはcomplex specificである.

―抗酸菌の迅速同定―結核症の迅速診断におけるTuberculo stearic Acid (TSA)の検出意義

著者: 村西寿一 ,   中島道夫 ,   重松信昭

ページ範囲:P.438 - P.439

 Tuberculostearic acid (TSA)は1929年,米国Yale大学のAndersonらにより結核菌菌体成分のアセトン可溶分画より分離・抽出された脂質成分の一つで,分子量298(C19H38O2)の側鎖飽和脂肪酸である1).一般名は10―methyl-octadecanoicacidで,図1に示すようにstearic acidの10位の炭素にメチル基が結合した比較的単純な構造の脂肪酸である.生物学的活性が乏しいため,結核菌の脂質に関する膨大な研究の歴史の中でも,あまり注目されることはなかったが,TSAの合成法や結核菌におけるTSA生合成の代謝過程が解明されていく中で,TSAは結核菌を初めとするActinomycetale目の一部の菌種に特異的な脂肪酸であることが判明した2).非定型抗酸菌やノカルジアの菌体成分中にも存在するため,それらの菌種との鑑別にはならないが,その発症頻度を考慮すると,TSAの検出は臨床的には結核症の診断に有用と考えられる.なお,結核菌菌体成分中には,このTSA以外にも10―methyl基の分枝を持った脂肪酸が数種存在することが確認されているが,量的にはこのTSAが圧倒的に多く,結核菌脂質成分中の約10%を占めると言われている2).ガスクロマトグラフィー(GC)の細菌学への応用の歴史はかなり古く,分離培養された多量の細菌菌体成分の脂質分析におけるGC波形のパターンから菌種を同定しようとする試みは数限りなく行われた.しかし,臨床検体(喀痰,尿,胸水,腹水,髄液などの体液)へ直接応用するには感度の点などで問題があり,GCと分子構造の決定が可能なマススペクトロメトリー(MS)とが結合されたGC/MSの開発によりSelected Ion Monitoring(SIM)の手法が導入され,特異性の高い微量分析が可能となる時代を待つことになる.1979年,Sweden, Lund大学のLarssonらは喀痰の5日間培養検体中よりGC/MSを用いてTSAを検出し,肺結核症の迅速診断法としての有用性を初めて提唱した2).彼らは塗抹検査陽性の,5名の肺結核症患者および,1名のMycobacterium aviumによる非定型抗酸菌症患者より採取した喀痰から脂質を抽出し,3%塩酸メタノールにてメチルエステル化後,薄層クロマトグラフィーに展開して粗分離した検体をGC/MSに注入し,TSA-methylの分子イオン(m/e=312),およびその特異的フラグメント(m/e=167)をターゲットとして,SIMの手法でTSAを検出した.喀痰よりの直接検出では6名中5名でTSAが検出されたが,同じ喀痰をL6wenstein-Jensen培地にて5日間培養した培地洗浄液を用いた場合には6名すべての検体からTSAが検出された.GC/MSによるTSA検出の典型例を図2に示す.m/e312および167のいずれでもTSA(bのピーク)が検出されており,合成標品(t)の追加により(bのピークがb+tのピークになっている)TSAとして同定されている.彼らは図2からもわかるように5日間培養検体のほうが喀痰自体の脂質成分(a,c,dのピーク)の混入も少なく,より有用であると報告している.一方,非結核性の肺炎患者8名から採取した喀痰からはいずれもTSAは検出されなかったという.さらに,1983年には同グループのMardhらが髄液中のTSA検出の一例を報告して,結核性髄膜炎の迅速診断における有用性を提唱している3).われわれも彼らの方法に準じて1985年より検討を開始し,短期培養検体での有用性については確認し報告した4).Larssonらは少数例で,しかも明らかに塗抹検査陽性の患者についてしか検討を加えていなかったが,1987年Hong KongのFrenchらは多数の肺結核症患者について喀痰中のTSA検出を試み,その有用性を確認している5).彼らは脂質の抽出方法に若干の改良を加えるとともに喀痰自体からの直接検出にて,約300名の肺結核症患者について検討した結果,表1に示すように,GC/MSによるTSA検出の感度は塗抹検査よりは優れているものの,培養検査よりは若干劣っていると結論づけている5).われわれも培養過程を経ず検体からの直接検出を試みるとともに,検出方法の一部にも工夫を加え,より迅速化を図ってみた.また,臨床検体についても喀痰のみならず,胸水や気管支洗浄液などまで範囲を広げ応用し,その経過を追いつつ検討した結果,培養検査陰性例でもTSAが検出される症例を認めている6).いずれにせよ,本法の感度に関しては若干検討の余地が残されているようだ.

自動機器を用いた抗酸菌の迅速検出と同定

著者: 東堤稔

ページ範囲:P.440 - P.441

1.はじめに
 抗酸菌検査の自動化機器として実用化されているものは現在のところBactec TB 460 System(以下バクテックTBシステム)のみである.バクテックTBシステムは約10年前にジョンソンラボラトリーズ社(USA)によって開発,市販され,欧米において広く普及し,抗酸菌症の迅速診断に成果をあげている.最近ではAIDS患者からのMycobacterium spp.の検出に効果的に活用されている.
 バクテックTBシステムの特徴は,抗酸菌の検出,同定,薬剤感受性試験を14C標識のミドルブルック7H12B液体培地を使用することにより検出感度を高めるとともに検出時間を大幅に短縮することに成功していることである.本システムは,測定器と培地,選択剤PANTA,同定試薬NAP,薬剤感受性試薬(ストレプトマイシン以下S,イソニアジド以下I,リファンピシン以下R,エタンブトール以下E)によって構成されている.この測定機器には安全フードが組み込まれており使用者の感染防止が図られている.

結核集団感染

著者: 青木正和

ページ範囲:P.442 - P.443

1.跡を絶たない集団感染
 ・中学3年の女子が感染源となり,下級生も含めた293人に感染させ,36人が発病した事例.
 ・高校3年の運動部選手が感染源となり,部監督の教師1人を含め31人が発病,116名に化学予防を行った事例.

PPDの最近の知見

著者: 倉澤卓也 ,   新実彰男

ページ範囲:P.444 - P.446

1.はじめに
 PPD皮内反応(ツベルクリン反応:ツ反)はGell and CoombsのIV型アレルギー反応(細胞性免疫型)の代表例として,結核症の補助的診断,BCG接種や化学予防の是非の判定,細胞性免疫能の測定など,広く用いられている1).しかし,抗原としての精製PPDが結核菌に特有の単一抗原ではないため,BCG接種や他の抗酸菌の感作による交叉反応がみられ,鑑別しえないことや非特異的な弱い偽陽性反応も見られること,また,各種の要因がツ反の減弱化に影響し(表1)2),ツ反陰性結核患者もまれではないことは周知の事実であり,ツ反の鑑別診断学的意義づけを難しくしている.以下に,私どもの検討した各種の呼吸器疾患患者のツ反の最大発赤径の成績を概述し,ツ反の今日的な診断学的意義について考察したい.

座談会

結核菌と非定型抗酸菌をめぐって

著者: 斎藤肇 ,   青柳昭雄 ,   阿部千代治 ,   本田武司

ページ範囲:P.448 - P.459

 Robert Kochによる1882年の結核菌の発見以来,今世紀の半ばまでつねに死因のトップを占めて人類を苦しめてきた結核症も,種々な要因によりしだいに減少し,現在ではわが国の死因順位16位となっている.しかし,最近はその減少傾向にもブレーキがかかり,新たな問題を提起しつつある.この座談会では,検査法,予防法,治療法など抗酸菌症をめぐる種々な話題を,第一人者の先生方に語ってもらった.

カラーグラフ

糸球体疾患(Ⅱ)

著者: 坂口弘 ,   緒方謙太郎

ページ範囲:P.390 - P.391

腎臓病の病理・4

糸球体疾患(Ⅱ)

著者: 坂口弘 ,   緒方謙太郎

ページ範囲:P.461 - P.467

 原発性糸球体疾患は病変の分布,特徴像から分類される.微小変化型ネフローゼ症候群は同症候群の原因疾患としてもっとも多い.その糸球体病変は,光顕像は正常の糸球体とほとんど変わりなく,電顕にて糸球体上皮細胞の足突起の消失が認められる.巣状分節性糸球体硬化症は特に小児科領域で重要で,難治性のネフローゼ症候群を呈し腎不全に陥ることが多く予後不良な疾患である.前2者の鑑別は時に難しく,臨床的にも重要である.膜性腎症は,ネフローゼ症候群を呈することがほとんどであり,糸球体基底膜上皮下に免疫複合体の沈着が起こることによって惹起される免疫複合体病である.

編集者への手紙

メッケル憩室における異所性胃粘膜とキャンピロバクター様細菌の検討

著者: 井上文彦 ,   古川裕夫 ,   浅井哲 ,   坂洋一

ページ範囲:P.468 - P.469

1.はじめに
 メッケル憩室は消化管奇型の中では頻度が高く,異所性胃粘膜を有することが多く1),出血,憩室炎,腸閉塞などの合併症を引き起こす.一方,Warrenら2)が胃粘膜からキャンピロバクター様細菌(Campylobacter-like organisms;CLO)を分離培養し,胃炎や胃潰瘍の成因になりうる可能性を報告して以来,本菌はCampylobacter Pyloriと称され,潰瘍発生因子の1つとして注目されている.
 今回,われわれは,異所性胃粘膜にCLOが存在するかどうかを検討する目的で,外科的に切除されたメッケル憩室を組織学的に観察した.

『血膿尿についての定量的研究』臨床検査,33(6),711-713,1989についての疑問点

著者: 横田正春 ,   吉田永祥

ページ範囲:P.490 - P.490

 まず,1視野中の白血球数についての式ですが,y=2000(a+50x)/(a+5×104x)=2/50・(a+50x)・1/x+a/(5×104)≒2+2a/50・1/x+a/(15×104)になると思います.ここで,影響が出るというx=0.04よりも大きな値,0.05を入れるてみるとa=100,50,10の時,それぞれy=79,41,10となります.故に,この時点ではあまり影響がないことを示しています.
 1視野に2000個の赤血球を入れるのに必要な出血は,本文から0.04%ですからそれ以下ではこの式は意味がなくなります.即ち,x<0,04では,1視野中の血球数が2000個に満たないので,(a+出血した血液由来の白血球)が見られることになります.

"『血膿尿についての定量的研究』臨床検査,33(6),711-713,1989についての疑問点"に答えて

著者: 藤田公生

ページ範囲:P.491 - P.492

 拙稿に関する考察をありがとうございました.この論文についてはいろいろな感想を聞き,それなりに意味があったことをよろこんでおります.
 まず計算式で近似式を導く段階で,y≒2+2a/50・1/x+a (5×104)となるべきところを,2が落ちてしまったのはご指摘のとおりです.

TOPICS

ネコひっかき病の病原菌と皮膚生検

著者: 森嶋隆文

ページ範囲:P.470 - P.470

 ネコひっかき病はその名の示すようにネコからヒトに伝播される疾患で,古くから有名な疾患であるが,確定診断しえた症例の報告は少ないように思われる.本症は世界に広く分布し,季節的には夏から秋に多く,ヒトにのみ発症し,感染源と考えられるネコは無症状である.男女差はなく,幼小児から青年に好発する.ネコ,ことに仔ネコにひっかかれた3~5日後,病原体の侵入門戸となった受傷部位に一致して初発皮膚症状が生じる.罹患部位は上肢,ことに手に多く,単発性の丘疹としてはじまり,2~3日後水疱様あるいは膿疱様に変化し,後に痂皮に覆われる.皮膚病変は軽微で気づかないことも多く,所属リンパ節腫大をきたしてはじめて医師を訪れることが多い.
 初発皮膚病変出現1~3週後にリンパ節が腫大する.局所症状が一見重篤にみえても全身症状は通常軽度で,ときに発熱,悪感,頭痛などを訴える.リンパ節腫大は通常,片側性,単発性で,急性または亜急性に経過し,大きさは鳩卵大から鶏卵大に達し,波動を触れ,ときに自潰排膿することもある.自発痛は軽度であるが,圧痛は常にみられる.リンパ節の組織学的検索は非定型例の確定診断のために重視されている.初期では皮質や髄質に細網細胞の増殖を認め,中間期では結核結節に類似した肉芽腫性炎症像を示し,晩期では膿瘍を形成する.

TSHレセプターの分子機構

著者: 中井利昭

ページ範囲:P.471 - P.471

 1956年Adamsらは,バセドウ病患者血中に甲状腺刺激物質が存在することを発見し,この物質はlong acting thyroid stimulator (LATS)と命名された.この甲状腺刺激物質は検索法の違いによりHTS, HTACS, TSAbなどいろいろ名づけられてきた.
 1974年Smithらは,バセドウ病IgGが標識TSHとヒト甲状腺膜分画との結合を阻害することを発見した.その後,このIgGがTSHレセプターに対する自己抗体であることが示され,バセドウ病はこの抗TSHレセプター抗体の甲状腺刺激効果によって発症することが明らかとなった.さらに最近になって,特発性甲状腺機能低下症が同じく抗TSHレセプター抗体によってひき起こされることがわかってきた.同じ自己抗体が一方でバセドウ病をきたし,他方で特発性甲状腺機能低下症をひき起こすという抗TSHレセプター抗体の多様性の病態生理を解明することは,診断.治療の向上に不可欠であり,多くの研究者がTSHレセプターの分子機構をテーマとして取り組んでいる.以下その一端を紹介する.

石綿の健康リスク

著者: 細田裕 ,   冨田眞佐子

ページ範囲:P.472 - P.473

1.石綿はなぜ使われるのか
 最近,石綿の環境汚染がマスコミをにぎわしている.石綿は繊維状の鉱石で,広く使われる種類はクリソタイル(白石綿),クロシドライト(青石綿),アモサイト(茶石綿)である.人類との出合いは古いが,多量に使われはじめたのは産業革命以後である.石綿は耐熱性,耐磨耗性,酸アルカリ耐性,防音性にすぐれているため多目的に使われ,わが国の年間輸入は20万トンあまりである.主に建築用として壁,天井,屋根材などに使われ,病院内でも古い建物だとボイラー室,配管設備などに石綿が潜んでいる.自動車や列車のブレーキにも用いられる.石綿スレートのように固められている場合は,取り付け,除去以外に石綿粉じんは飛散しないので危険はないが,吹付石綿天井のような場合には空中に舞う危険がある.石綿曝露は採掘,製造,加工など職業的なものから,素人の末端使用者にまで及んでいる.このうち,悪性腫瘍のリスクが著しく高いのは職業性曝露である.

Neuropeptide Y

著者: 片桐忠

ページ範囲:P.473 - P.474

 Neuropeptide Y(NPY)はpancreatic polypeptide familyの1つに属し,ブタ脳から抽出されたアミノ酸36個からなるペプチドで主として神経系に存在する1).免疫組織化学的方法によると,NPY様免疫活性神経細胞は大脳皮質,線条体,視床下部,海馬などに多く,ついで前嗅球核,中隔,側坐核,扁桃核,中脳水道中心灰白質にみられ2),さらに脳幹部のノルアドレナリン含有神経細胞の多くがNPYを含んでいる.
 なかでも線条体に豊富にみられることから,同部を主病変とするハンチントン病での変化について研究が盛んに行われている(図1).ハンチントン病は優性遺伝形式をとり,中年に発症し,進行性の舞踏様不随意運動と知能障害を主症状とする変性疾患である.最近,本症の異常遺伝子の座が第4染色体の短腕にあることが明らかにされたが3),その病因に関しては依然不明である.

熱ショック蛋白質と免疫応答

著者: 平芳一法

ページ範囲:P.474 - P.475

 熱ショック蛋白質(Heat Shock Protein;HSP)は,生体がその生存にとって危険な状態にさらされた時に誘導されてくる蛋白質であり,バクテリアからヒトに至るまで種を越えて非常によく保存されている.温度の上昇だけでなく,重金属,pHの変化,低酸素状態やウイルスの感染によっても誘導されることから,最近ではストレス蛋白質と呼ばれることもある1).発見された当初HSPは,熱により特異的な誘導を受けることから,遺伝子発現のモデルとして研究されてきた.しかし,あらゆる生物に存在し,非ストレス条件下でも少量ながら発現されていること,バクテリアや酵母では突然変異によるHSPの欠失が致死的に働くことなどから,正常な細胞内でも重要な役割を担っている可能性があり,多くの細胞生物学者の注目も集めるようになった.その結果,主要なHSPであるHSP 70は蛋白質の高次構造形成や細胞内輸送に関与し,HSP 90はグルココルチコイドリセプターと共役していることなどが明らかになった.さらに,この1~2年,免疫学の分野からも注目されつつある.今回は,HSPと免疫反応について少し紹介させていただこう.

ハロセン肝障害

著者: 田中亮

ページ範囲:P.475 - P.476

 ハロセンは1961年以来本邦でも吸入麻酔薬の主役として用いられてきた.ハロセンを摂取するとほぼ50%の患者は術後に軽度の肝障害をきたすといわれている.一方,35000回に1回という頻度で重篤な肝障害を招くことがNationalHalothane Study (1969)によって判明した.ハロセンの肝障害にはいくつかの問題点が指摘される.Rehder1)らは摂取したハロセンは18%が体内で代謝されることをヒトで証明した.代謝経路も判明し好気性代謝の最終代謝産物はトリフルオロ酢酸(TFA)である.TFAは蛋白と結合してハプテンとなり免疫反応の原因となることから肝障害の原因ともなりうる.嫌気性代謝では家兎の実験でジフルオロクロロエチレン(CF2CBrC1),トリフルオロクロロエタン(CF3H2C1)が検出された2).フェノバルビタールの前処置,低酸素でこれらの代謝物質濃度が増加し,この反応過程でフリーラジカルが生成される.肝障害は嫌気性代謝過程でもおこりうることが示唆されている.肝障害の元凶は不明であるが,手術侵襲による肝血流障害,低酸素症,併用薬物による酵素誘導などの因子が考えられる.臨床報告と疫学的調査により判明していることは,劇症肝炎はハロセン初回投与より反復投与例において多いことである.ハロセン反復投与の危険性ついての注意文が1988年厚生省「緊急安全情報」として配布され話題となった.上記情報は「ハロセン使用上の注意改定」であるが,英国医薬品安全性委員会(CSM)の勧告に従い反復使用期間を従来の4週間から3か月に延長した.Inman & Mushin3)によるとハロセン麻酔後黄疸合併例の82%は反復投与例であり,75%は28日以内の投与である.黄疸発症の潜伏期は初回投与で11,4日,反復投与では5.8日である.潜伏期が短縮するのはハロセンに対する過敏性が高まったためではないかと推測している.ハロセン麻酔後の劇症肝炎の危険因子をみると,男女比は1:2であるが男性の予後が悪い.中高年層に多く,小児の発症は稀である.術前に代償性肝疾患を背景にもつ患者はリスクとならない.肥満も因子とされている.この調査では手術室勤務者の肝障害の原因がハロセンか,ウイルス感染かは断定されていない.反復投与の期間設定も大切であるが,2年後の再投与で肝障害をおこしたという報告もあり,医学的に安全期間はないといえる. 最後にハロセンの適応,禁忌にふれる.ハロセン以後の吸入麻酔薬が導入され,ハロセンが唯一の適応となる状況は考えにくくなってきた.筆者は小児の繰り返し投与も避けるべきと考える.喘息例にはハロセンは適切な選択であるが,昇圧薬併用ができない.しかし多くの臨床家はハロセンの調節性,有用性を認めており,新しい麻酔薬への変化を好まないかもしれない.

研究

免疫組織化学法を利用した全血塗抹標本の白血病細胞の解析について―Biotin-StreptAvidin Complex Alkaline Phosphatase標識new fuchsin法による検討(第2報)

著者: 永井淳一 ,   鈴木弘文 ,   永倉隆夫 ,   坂井慶子 ,   片平宏

ページ範囲:P.477 - P.481

 免疫組織化学法であるBiotin-StreptAvidin Alkaline Phosphatase CompiexにAlkaline Phosphatase標識抗体法のため開発された高感度な永久標本作製法であるnew fuchsin法を応用して,白血病細胞の表面形質の解析がどの程度可能かを,蛍光抗体法であるフローサイトメトリー(FCM)の成績と比較検討した.対照は白血病11症例でCommon ALL 6例,B細胞性ALL 1例,T細胞性ALL 1例,急性骨髄単球性白血病1例,急性巨核芽球性白血病1例と骨髄芽球と巨核芽球の2系統が混在する骨髄巨核芽球性白血病1例であった.今回の結果から,白血病細胞の細胞表面形質の検索は免疫組織化学法で,ある程度把握することが可能で,蛍光抗体法との併用によって細胞質内の抗原検出にも有用と考えられた.また形態の同時観察が可能であるため,細胞における抗原の局在性の観察や,形態の異なる細胞が混在する症例においてはきわめて有用であった.免疫組織化学法とFCM法の成績で差があった抗体ではFCM法の蛍光強度が微弱であったことから免疫組織化学法の抗原検出感度に改良の余地があると考えられた.

モノクローナル抗体を用いたEIA法による尿中THP測定法の開発―間接法

著者: 谷口直行 ,   入江章子 ,   竹立精司 ,   坂部真由美 ,   片山善章 ,   松山辰男

ページ範囲:P.482 - P.484

 Tamm-Horsfall glycoprotein (THP)は腎で特異的に生成され,尿中に排泄される糖蛋白である.われわれは腎機能の指標としてのTHP測定に注目し,測定法の開発を行っている.
 本論文では固相にモノクローナル抗体を使用したマイクロプレートEIA法についての検討成績を報告する.本法は再現性,希釈直線性,回収試験とも良好であり,市販の抗体を使用しているので,どの施設でも簡単に実施することができる.

資料

カラムを用いた酵素法による血中ポリアミン測定キットの基礎的検討

著者: 鈴木久美子 ,   眞重文子 ,   花博一 ,   大久保滋夫 ,   亀井幸子 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.485 - P.488

 抽出カラムを用いた酵素法による血中ポリアミン測定用キットが開発された.本キットは,カラムを用いて血液から抽出したポリアミンに,プトレッシンオキシダーゼおよびカラスムギ由来のポリアミンオキシダーゼを同時に作用させ,生じる過酸化水素を赤色キノンとして比色定量する方法である.今回,本法の基礎的検討を行ったところ,測定精度,回収試験,従来法との相関とも良好な結果を得た.また抽出にカラムを用いて行うため,共存物質の影響も認められず,本法が血中ポリアミン測定法として優れた方法であることが確認された.

質疑応答 臨床化学

フルクトサミンの標準液と測定値

著者: 平塚孝一 ,   中恵一

ページ範囲:P.493 - P.494

 〔問〕 フルクトサミンの標準液は,4%ヒトアルブミン溶液にDMFを各mmol/lになるように溶解し,530nmの波長で10分から15分に変化した吸光度から4%アルブミンの示す吸光変化を差し引いた吸光度でキャリブレーションするのがJ. R. Baker(Clin, Chim. Acta, 127, 87~95, 1982)の方法だと思います.実験したところ,市販試薬添付の標準血清はアルブミンの吸光度を差し引いていないように思われますが,この辺の定義をご教示ください.

微生物

腸炎ビブリオの神奈川現象

著者: K生 ,   本田武司

ページ範囲:P.495 - P.497

 〔問〕 腸炎ビブリオの神奈川現象は,病原性の指標として以前から重視されてきましたが,最近,神奈川現象検査用培地(我妻培地)の市販が中止になっています.また,神奈川現象陽性菌のみならず陰性菌の病原性も,最近指摘されているようです.神奈川現象に関する最新の情報をご教示ください.

一般検査

便潜血反応と食事などの影響

著者: S生 ,   土屋周二 ,   今井信介 ,   大木繁男

ページ範囲:P.497 - P.499

 〔問〕 前日に肉類を食べた患者さんの便を検査した結果,オルトトリジン法(3+),グアヤック法(±),そしてヘモグロビン法(-)でした.化学的検査と免疫学的検査に対する食事などの影響(出かたの違い)と,潜血食をまもれば,化学的検査(オルトトリジン,グアヤック)でも口腔内出血から食道・胃の出血までちゃんと調べられるのか,ご教示ください.

白血球用試験紙と鏡検のズレ

著者: Q生 ,   今井宣子

ページ範囲:P.499 - P.502

 〔間〕 A社の白血球用試験紙を用いています.顕微鏡下では白血球が認められるのに試験紙が(-)の場合,どのようなことが考えられるかご教示ください.また,白血球用試験紙が(-),(+/-),(1+)などのとき,通常,毎視野に何個の白血球が認められるのですか.

尿試験紙でアスコルビン酸の影響を除去する方法

著者: K生 ,   太田宜秀 ,   小川豊

ページ範囲:P.502 - P.504

 〔問〕 各社いろいろの方法を用いているようですが,どのようにしてアスコルビン酸の影響を試験紙上で除いているのですか.試験紙中にアスコルビン酸オキシダーゼなどをしみ込ませてあった場合,その影響を完全に回避できるのでしょうか,ご教示ください.

診断学

小腸癌のスクリーニングと疫学

著者: Q生 ,   石森章 ,   蝦名弘子 ,   川村武

ページ範囲:P.505 - P.506

 〔問〕 免疫学的方法による便潜血反応は大腸の癌や潰瘍のスクリーニング検査とされていますが,小腸癌のスクリーニングには用いられないのですか.また,胃・大腸に比べて小腸の癌や潰瘍が少ない理由をご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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