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雑誌目次

論文

臨床検査35巻11号

1991年11月発行

雑誌目次

今月の主題 医療廃棄物 巻頭言

地球環境とライフスタイル

著者: 小泉明

ページ範囲:P.1147 - P.1148

 かって典型7公害と呼ばれ,大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下ならびに悪臭が,緊急に解決を要する課題として取り上げられたことは,今なお人々の記憶に新しいと思う.しかし今日では,フロン(クロロフルオロカーボン)やハロンによる成層圏オゾン層の破壊,二酸化炭素,メタン,亜酸化窒素,フロンなどの温室効果ガスによる地球の温暖化,酸性の降雨,海洋汚染,森林減少,砂漠化,野生生物の減少,有害廃棄物の越境移動,発展途上国の公害問題などの地球規模の環境問題がクローズ・アップされてきた.
 考えてみれば,今,地球環境問題と呼ばれているもののいくつかは,公害問題より早くから存在していた.野生生物の減少は数万年前,森林減少や砂漠化は数千年前の人間活動によって生じたと推測される.しかし,現代の人間活動すなわち科学技術と工業生産の加速度的な進展に伴う機械文明ないし物質文明の高度化が,典型7公害にも,地球環境問題にも,主要因として作用していることは明らかである.

解説

医療廃棄物処理ガイドラインについて

著者: 鈴木仁一

ページ範囲:P.1149 - P.1155

 1987年,病院内で医師がB型肝炎に感染した疑いにより死亡する事故が発生したことを機に,1988年11月医療廃棄物の管理,排出および処理の指針となる「医療廃棄物処理ガイドライン」がとりまとめられた.同ガイドラインでは,医療廃棄物のなかの感染性廃棄物について,医療関係機関での管理,分別,収集・運搬,梱包,表示,保管,施設内処理および感染性廃棄物処理の委託について示されている.

医療放射性廃棄物の処理

著者: 太田勝正

ページ範囲:P.1156 - P.1162

 核医学診療に伴って発生する放射性廃棄物には,①気体廃棄物,②液体廃棄物,③スラリー(汚泥),および,④固体廃棄物の4種類がある.このうち,気体,液体廃棄物はそれぞれ排気,排水施設から希釈放出できるが,固体廃棄物などは廃棄業者への廃棄の委託(引き渡し)が基本となる.
 引き渡しに際しては,廃棄物の種類,内容物,処理方法にいくつかの制限があり,廃棄物の仕分けなどを確実に行うことが重要である.

廃棄物関連機器開発の現状

著者: 白戸四郎

ページ範囲:P.1163 - P.1168

 近年,続々と発表されている医療廃棄物処理関係の機器のなかから,破砕滅菌方式を主とする注射針などの処理装置,注射針などの収納容器,オートクレープ,焼却炉を取り上げ,解説とともに問題点の指摘を試みた.総括すると,医療廃棄物の困難さについての理解が不足しているものが大半を占めており,今後,基礎知識の充実を踏まえての改善が強く望まれた.

―感染性廃棄物の取り扱いかた―院内集中方式

著者: 岡田淳

ページ範囲:P.1169 - P.1174

 検査室から排出される感染性廃棄物について,その種類と分別・中間処理の基本的な方策を記した.近年日和見感染が隆盛となり強毒菌による感染は減少したが,ディスポ製品の普及とともに,針刺し事故などによる感染の危険性はむしろ増加傾向にある.業務感染を防止するためには,廃棄物を正しく分別し,必要に応じて適正な中間処理を行うことが肝要で,そのためには病院全体で一貫性のある処理システムを構築することが不可欠となる.

―感染性廃棄物の取り扱いかた―病理検査室および剖検室

著者: 佐多徹太郎 ,   倉田毅

ページ範囲:P.1175 - P.1178

 病理検査室および剖検室における感染防止対策のうち,感染性廃棄物の処理について述べた.感染の原因としてもっとも危険なヒトの臓器・組織を扱う部門であるので,その検体および血液だけでなく,検体を扱った器具などについても消毒滅菌の必要があり,かつ取り扱いにも注意を払うべきである.感染性廃棄物が発生した場所での滅菌処理が望ましいので,滅菌処理についての整備が重要である.

非感染性医療廃棄物とその処理

著者: 白須賀公平

ページ範囲:P.1179 - P.1184

 廃棄物とは何かから説き起こし,医療関係者が今まで「まさか」と考えていた産業廃棄物に相当することを認識していただくため,東京大学医学部,附属病院の実例で,またこの処理を担当する東京大学環境安全センター実験廃棄物処理施設の処理技術を紹介した.

医療廃棄物に関する職員教育

著者: 畑尾正彦

ページ範囲:P.1185 - P.1191

 医療関係機関が本来の使命と社会的責任とを果たすうえで,廃棄物の適正処理は基本的に重要である.すべての職員がそのことをよく認識し,高い関心を持つことから医療廃棄物についての職員教育は始まる.
 教育は廃棄物処理委員会または清潔管理委員会が中心となって推進する.教育目標を明確に定め,医療廃棄物管理規定や清潔管理マニュアルをテキストとして,多角的な方法で,反復・継続的に教育プログラムを組む必要がある.

座談会

医療廃棄物をめぐって

著者: 田中勝 ,   松本昭一郎 ,   笠原和恵 ,   本田武司

ページ範囲:P.1192 - P.1202

 地球レベルでの環境汚染が社会問題とされているなかで,いわゆる感染性"医療廃棄物"問題がクローズアップされてきている.わが国でも1989年には厚生省が『医療廃棄物処理ガイドライン』を出すなど,国レベルでもこの問題の解決へ向けて動き出している.この座談会では,医療廃棄物問題の過去・現在・将来をめぐって,この面でリーダーとして活躍されている方々に語ってもらった.

カラーグラフ

肝硬変(I)通常型肝硬変

著者: 奥平雅彦 ,   大部誠 ,   岩渕啓一 ,   鈴木正道

ページ範囲:P.1144 - P.1146

肝臓病の病理・11

肝硬変(I)通常型肝硬変

著者: 奥平雅彦 ,   大部誠 ,   岩渕啓一 ,   鈴木正道

ページ範囲:P.1203 - P.1208

 肝硬変はすべての慢性進行性肝疾患のいわば"なれの果て"病変として,肝臓全体にび漫性に偽小葉結節を形成した病態である.肝硬変を通常型と特殊型に分けたうえで,ここでは通常型肝硬変について概説した.そして,特に,肝構造の改築が実質域のみならず間質域にも強く起こっていることを強調するとともに,肝血行路の改築の実態について図説した.

TOPICS

ヒト尿中有機酸の光学異性体

著者: 西尾久英 ,   松尾雅文 ,   中村肇 ,   斎木加代子

ページ範囲:P.1210 - P.1211

1.はじめに
 不斉炭素を有する物質は,光学異性体の一方の対掌体のみが特異的に生物活性を示し,また体内動態も異なっていることが多い.したがって,ある代謝産物の光学異性体を同定することはその代謝経路や体内動態の解明につながるということにもなろう.
 ヒトの代謝に利用されているアミノ酸や有機酸は光学的にL―体が多く,その代謝産物もL―体が多いと考えられてきた.ところが,最近,ヒト尿中にL―体のみならず,D―体の有機酸が検出される例が報告され,注目されるようになった1).尿中有機酸の光学異性体を同定することにより,先天代謝異常症の原因をつきとめたり,未知の代謝経路を発見したり,また患者の病態生理を明らかにすることが期待されるからである.

フラン脂肪酸の測定と腎不全

著者: 前田憲志 ,   新里高弘

ページ範囲:P.1212 - P.1213

 腎不全で血清アルブミンをhydroxyazo-benzen carboxylic acid(HABCA)を用いた色素結合法で測定すると著しい低値を示し,bromcresolgreen (BCG)を用いた方法では正常に近い値を示すことが知られていたが,これは腎不全で蓄積したいくつかの物質がHABCAのアルブミンとの結合を阻害するためであった.しかし,腎不全血清を十分に透析してもHABCA法での測定値は一定度の改善は見られるもののBCG法の値よりかなり低値を示し,それ以上透析を続けても改善されなかった1).この原因物質としてフラン環を有する脂肪酸(フラン脂肪酸と略す)が同定された.これらの物質は腎不全で著しく増量しており遊離型がほとんどなく全量がアルブミンと結合していること,血液透析によってもまったく除去できないことが明らかとなった.

B型劇症肝炎ウイルス

著者: 小坂義種

ページ範囲:P.1213 - P.1214

 今からちょうど4年前の7月,われわれにとっては悪夢ともいうべき事態が発生した.20日間に2人の医師があいついでB型劇症肝炎で死亡し,1人の看護婦がB型重症急性肝炎に罹患したというものである.
 当時は連日,新聞や週刊誌などに取り上げられ,病院関係者,なかでも病院長や小児科の教授,ウイルス肝炎対策委員長であった筆者などは苦渋に満ちた日々を送っていたものであった.7月16日には緊急にウイルス肝炎対策委員会を開き,職員全員にHBVに対する注意を喚起し,それに相前後して小児科医師,看護婦の肝機能,HBs抗原,IgM-HBc抗体を測定し,新規肝炎発生者のないことを確認するとともに,3人の血清を自治医大予防生態の真弓忠教授に送り,デルタウイルス関与の有無などの検索を依頼した.このことがきっかけとなり後日,真弓教授らにより劇症肝炎ウイルスともいうべきHBVの変異ウイルスが発見された.

血清ビリルビンの定量に適するジアゾニウム塩の条件

著者: 鈴木優治 ,   坂岸良克

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 血清ビリルビンの定量法はスルファニル酸のジアゾニウム塩をビリルビンのカップリング剤として用いるジアゾカップリング法が広く普及している.しかし,最近ではこの反応原理に基づく測定法にも測定にまつわる種々の問題が生じている1).ビリルビンのカップリング剤となるジアゾニウム塩は多数存在すると考えられるが,臨床検査領域ではなぜスルファニル酸のジアゾニウム塩が選定されているかの理由は明確ではない.いずれにしても,血清ビリルビンの定量をより正確に行うためには,ビリルビンのジアゾカップリング反応についての基礎的な検討が必須であり,血清ビリルビンの定量に適するジアゾニウム塩の選定が多数のジアゾニウム塩を用いて行われた2,3).その結果は次のように要約される.
 まず,ビリルビンのカップリング剤として用いるジアゾニウム塩は芳香族第一アミンのジアゾ化で速やかに生成するものでなければならない.ジアゾ化に時間がかかる芳香族第一アミンでは,調製後のジアゾニウム塩溶液中に亜硝酸ナトリウムと塩酸との反応で生成した亜硝酸が残存する.この物質は一部の血清ビリルビンをビリベルジンに酸化し,ビリルビンの正確な定量を妨害する2)

血中ピラリンの測定

著者: 宮田哲 ,   老籾宗忠

ページ範囲:P.1215 - P.1216

 グルコースなどの還元糖は,非酵素的に蛋白質などのアミノ基と反応してシッフ塩基結合を形成した後,Amadori転位して安定なケトアミンとなる.ここまでの反応は,グリケーション(glycation;メイラード反応)の初期段階と呼ばれ,その反応によって生成される化合物の量はグルコース濃度,蛋白質の寿命に依存する.ヘモグロビンのグリケーション初期段階化合物であるHbA1が,赤血球の寿命が120日であることを利用して,血糖のコントロールの指標として臨床応用されているのは周知の事実である.
 一方,Amadori化合物以後の反応は,グリケーションの後期段階と呼ばれ,脱水,転位を繰り返し,蛍光や発色素を持つ物質を形成する.

研究

動的な筋持久力運動に伴う血清逸脱酵素の変動―11日間の長期間の検討

著者: 東純一 ,   瀬戸米蔵 ,   原田尚門 ,   井原義二 ,   武部雅人 ,   望月則子 ,   丸山一伸

ページ範囲:P.1219 - P.1224

 筋肉痛を訴えるような運動後に,AST, ALT, LDH, CPKおよびALDの血清酵素活性は5倍から159倍まで上昇し,臨床上異常値と判断される値にまで上昇した.この事実は,臨床の場において運動負荷後の上記酵素の上昇を肝機能障害または筋肉疾患と誤診する可能性を示唆するものである.

B型肝炎ウイルスのアルブミンレセプターの新しい検出法のくふう

著者: 瀬戸幸子 ,   熊田博光 ,   柴田洋一 ,   藤田和子 ,   松橋直

ページ範囲:P.1225 - P.1228

 マイクロプレートのウェル壁に吸着させた重合ヒトアルブミンに,検体血清のHBVを補捉させ,次に抗HBs抗体結合赤血球を加えると,抗HBs抗体は壁に補捉されているHBVと反応するため,赤血球は凝集され,陽性の管底像を示す方法をくふうした.本法を肝炎患者血清・HBs抗原または抗体陽性を示す血清などについて検討を行い,HBVのアルブミンレセプターの検出に有効であることを確かめた.

18FDGポジトロンCTを用いた病的心筋蘇生能の定量的評価

著者: 森反俊幸 ,   斎藤正男 ,   大嶽達 ,   佐々木康人 ,   横山郁夫 ,   杉本恒明

ページ範囲:P.1229 - P.1232

 虚血性心疾患,心筋症を対象に18FDGポジトロンCTを用いて心筋の蘇生能の定量的評価を試みた.心筋が収縮に必要なエネルギーのうちグルコースに依存する割合を求め,この割合が高いと心筋は低酸素状態にあるが,代償機序が作動し,心筋の蘇生能は保たれていると思われた.またグルコース輸送担体の活性化を示す速度定数を求めることにより心筋の蘇生能が定量的に評価できる可能性が示された.

編集者への手紙

顕微蛍光測光法による蛍光ラテックス粒子を用いた貪食能測定の検討

著者: 庄野正行

ページ範囲:P.1233 - P.1233

 マクロファージの貪食能を測定する方法として次の3種類がある.①細胞内に貪食された粒子を直接,光学顕微鏡下で観察し計数する1,2).②放射性同位元素であらかじめ標識しておいた粒子を貪食させ,細胞内に取り込まれた放射活性により貪食能を測定3)する.③蛍光色素で標識された粒子を貪食させ,細胞内の蛍光量をフローサイトメトリーで測定する.しかしながら,フローサイトメトリーを使用する方法に関しては高額の機器を必要とするため一般的ではない.また,光学顕微鏡で貪食した細菌やラテックス粒子を数える方法は,食作用の初速度を見るのが困難なため定量性に乏しい.そこで第4番目の方法として,蛍光色素で標識されたラテックス粒子を貪食させ,顕微蛍光測定装置で蛍光量を測定し貪食能の定量性を検討した.

血清トランスフェリンの測定時にみられたCOBASMIRAの機器間差について

著者: 山田満廣

ページ範囲:P.1234 - P.1234

1.はじめに
 現在,当施設では血清鉄(Fe),不飽和鉄結合能(UIBC),トランスフェリン(Tf)をはじめ,アポリポ蛋白,血中薬物など多項目の測定をCOBAS MIRA (旧型と仮称)により実施している.これらの日常検査に柔軟に対応するためFe, UIBC, Tfの測定を新型機であるCOBAS MIRA S (新型と仮称)との併用を目的として相関性を調べたところ,FeおよびUIBCでは良好な相関関係を示したのに対して,Tfでは機器間差と考えられる測定値の乖離を認めたので,その原因について検討を行った.

質疑応答 臨床化学

ロットの変更に伴う精度管理

著者: Q生 ,   中恵一

ページ範囲:P.1239 - P.1240

 Q ヘパリン・カルシウム比濁法で日立736-60形を用いβ―リポ蛋白の測定を行っています.精度管理用としてL―コンセーラN (450mg/dl), Validate A (Lot167,290mg/dl)を用いています.新しいロットのValidateに変更するために次のロット(Lot 522,75 mg/dl)を併せて測定しました.さらにその期間中試薬のロットも変更になりました.この時,L―コンセーラNが405 mg/dl, Lot 167のValidate Aが200 mg/dlに,Lat 522のValidate Aが150mg/dlと測定されました.Validate Aの新・旧のロットで試薬のロットの変更に対し,値に変化が起こった原因は何でしょうか.

血液

HPLCによるヘモグロビンの測定

著者: 沢光治 ,   大庭雄三

ページ範囲:P.1240 - P.1242

 Q HbA1およびHbA1cの測定を従来はミニカラム法で行っていましたが,最近になりHPLCによる測定に変えました,HPLCではHbFの分離が可能なため,HbA1cの測定値は,従来の値より1%前後低めに出てきます.臨床側にはどのように報告すればよいでしょうか.また,サラセミアではHbFの値はどれくらい上昇するのですか.併せてお教えください.

微生物

gliding motilityとtwitching motility

著者: 松尾啓左 ,   篠田純男

ページ範囲:P.1242 - P.1245

 Q 上記について差異と機序についてご教示ください.

病理

検査法の違いによるHBs抗原検出の不一致

著者: 村上まゆみ ,   福里利夫

ページ範囲:P.1245 - P.1248

 Q  HBs抗原を,血清試料を用いてHA法で検査したところ(-)でした.同じ患者さんの肝組織では,オルセイン染色による病理組織診断で(+)でした.これはどのように考えたらよいのでしょうか.お教えください.

臨床生理

カラードプラー心エコー法による逆流の評価

著者: K生 ,   北畠顕 ,   田内潤

ページ範囲:P.1248 - P.1250

 Q カラードプラー心エコー法による逆流の評価に関して,市販されている機種により差があるように思われますが,それをどのように理解し,評価の調整を行ったらよいでしょうか.

診断学

髄液中CRP測定の臨床的意義

著者: A生 ,   浜野建三

ページ範囲:P.1250 - P.1252

 Q 上記についてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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