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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査36巻8号

1992年08月発行

雑誌目次

今月の主題 輸入感染症 巻頭言

国際化と輸入感染症

著者: 三輪谷俊夫

ページ範囲:P.821 - P.822

 わが国は戦後の奇跡とも言うべき経済復興を遂げて短期間に先進国の仲間入りを果たし,世界の経済大国にまで成長して,21世紀に向け国を挙げて国際化時代に突入したと言える.特に発展途上国に対する互助精神の上に立った指導的役割が要求されている.
 わが国で開催される国際会議は民間企業主催も含めると年間1,000件を突破し,年々増加していく傾向にある.海外旅行者はここ十数年来飛躍的に急増し,わが国の国際空港における検疫人数は,1970年には213万人であったが,1974年には2倍近い400万人,円高メリットも作用して1980年には669万人,1990年には1,000万人を突破し,増加し続けている.このような海外旅行者の急増に対応すべく,関西財界の支援によって大阪湾の泉州沖では24時間営業の関西新国際空港の建設工事が急ピッチで進められている.当初は1993年の開港を目指していたが,埋め立て地の地盤沈下や人手不足もあって工事予定は大幅に遅れているが,事務予測として現在の大阪空港国際線の3~6倍の旅客数が見込まれ,アジア,アフリカから飛来する航空機の割合は全体の60%と推定されていて,関西新国際空港はまさに発展途上国からの日本の玄関口になろうとしている.はたして検疫体制,輸入感染症対策は十分なのだろうか.

解説

行政と輸入感染症

著者: 冨澤一郎 ,   堺宣道

ページ範囲:P.823 - P.827

近年の国際交流の活発化に伴い,国内に感染症が持ち込まれるケースが増えている.輸入感染症には,コレラなどの検疫の対象となる疾患だけでなく,AIDS,マラリア,結核など,多様な疾患がある.また,国内に常在しない感染症としてウイルス性出血熱などが重要視されている.〔臨床検査36:823―827,1992〕

発展途上国に対するわが国の感染症対策

著者: 松本慶蔵

ページ範囲:P.829 - P.832

発展途上国の感染症は共通の疾患(マラリア,結核,レプラなど)とともに地域特性の高い日本脳炎,オンコセルカ,住血吸虫症などの風土病的疾患がある.これらの感染症の現状を把握しさらにコントロールするための方策(共同研究,現地調査,建物供与など)が実施されなければならないが,わが国の全体的方策は確立されてはいないものの,着実に地道な協力と交流が行われ,近い将来信頼に基づいた協力関係が樹立されるであろう.〔臨床検査36:829-832,1992〕

原虫・寄生虫疾患のワクチン開発

著者: 小島莊明

ページ範囲:P.833 - P.837

重要熱帯病,とりわけマラリアと住血吸虫症は媒介生物の存在のゆえに流行の制圧が困難であるところから,これらに対するワクチンの開発が緊急の課題となっている.生体側のエフェクター機構の解析と,その標的となる種々の発育段階の抗原エピトープの正確な同定が必要であるが,それは長い進化の過程で原虫や寄生虫が宿主から排除されるのを免れるべく獲得してきたエスケープの知恵との闘いでもある.〔臨床検査36:833-837,1992〕

最近のわが国における輸入マラリアの概況

著者: 大友弘士

ページ範囲:P.839 - P.841

近年の国際化時代の到来とともに発展途上国との交流がこれまでになく頻繁になるにつれて,罹患者に苦痛と死をもたらしうる輸入マラリアが後を絶たない状況となり,その危険性が各方面から注目されるに至っている.しかし,その実態に関しては必ずしも明確に把握されているとは言えないのが現状であるので,最近のわが国のわが国における輸入マラリアの概況を紹介し,その問題点について言及した.〔臨床検査36:839-841,1992〕

技術解説

輸入腸管感染症―現状と検査法の進歩

著者: 松下秀 ,   工藤泰雄

ページ範囲:P.843 - P.848

本稿では,1970年代半ば頃より増加傾向を示すようになったいわゆる輸入腸管感染症の疫学的,細菌学的特徴,またその主体を占める大腸菌下痢症の診断についても併せて概略紹介した.わが国の海外旅行者は1,000万人を超える時代を迎え,この種の輸入事例に遭遇する機会も増加の一途をたどることは間違いない.検査室にあってもますます多彩・複雑化するこれらの疾病の細菌学的診断に対し,これまで以上に的確な対応が求められることとなろう.〔臨床検査36:843-848,1992〕

国際伝染病としてのウイルス感染症―現状と検査法の進歩

著者: 倉田毅

ページ範囲:P.849 - P.856

"国際伝染病"は,現在はウイルス性出血熱としてまとめられている.重要なものにクラス4レベルでラッサ熱,エボラ出血熱,マールブルグ病,クリミア・コンゴ出血熱があげられる.いずれも特別の感染予防,あるいは治療法はない.クラス3レベルでは腎症候性出血熱,リフトバレー熱などがある.ここではクラス4の病原体による4疾患について概説した.〔臨床検査36:849-856,1992〕

輸入寄生虫病―現状と検査法の進歩

著者: 藤田紘一郎

ページ範囲:P.857 - P.861

近年,わが国と海外諸国との交流が頻繁になるにつれて輸入寄生虫病が増加の兆を見せている.土着寄生虫病の制圧に成功しているわが国では,医師および検査技術者に寄生虫病の認識が欠ける者が多く,その医療対策が重要な問題となっている.輸入寄生虫病として最も重要なのはマラリアで,毎年数人の犠牲者を出している.アメーバ赤痢は国内感染例とともに増加しており,ランブル鞭毛虫症はインド亜大陸から輸入されている.蠕虫症としては無鉤条虫症と有鉤嚢虫症が多い.〔臨床検査36:857-861,1992〕

輸入感染症としてのSTD―現状と検査法の進歩

著者: 大里和久

ページ範囲:P.863 - P.868

輸入感染症として問題となるSTDについて,古くは梅毒,最近の淋菌感染症,クラミジア性器感染症,そして最も新しいHIV感染症を取り上げ,現状と検査法の進歩を述べた.梅毒はTp抗原を用いた検査法に改良がみられ,淋菌性,クラミジア性疾患には特異性の高いDNAプローブを用いた検査法が登場した.HIV感染症は,今後母子感染などが増加すると,抗体のみならず抗原検査も重要になると思われる.〔臨床検査36:863-868,1992〕

輸入マラリア―現状と検査法の進歩

著者: 海老沢功

ページ範囲:P.869 - P.874

輸入マラリア患者は年間届出数約50,実際はその倍と2~3人の死亡例がある.マラリアの診断は有熱患者にマラリアを疑うことに始まる.患者の血液は生きた原虫がいる材料であることを銘記し,次の点に留意する.採血後直ちに塗抹標本作製,新鮮なメタノールで固定,1/50mol/l, pH7.2~7.4のリン酸緩衝液でギムザ液を薄めて染色する.鏡検には定性と定量的観察を併用する.ギムザ染色法は今でも最良の方法である.〔臨床検査36:869-874,1992〕

座談会

輸入感染症をめぐって

著者: 今川八束 ,   江本雅三 ,   苗村光廣 ,   藤田紘一郎 ,   本田武司

ページ範囲:P.876 - P.887

 わが国の人的・物的な国際化が進み,世界はますますborder-lessの時代となってきた.この反映として,今,熱帯病を主とするいわゆる"輸入感染症"が大きな問題となりつつある.地球の温暖化は,この問題をさらに深刻化させる危険も言われている.このような時代を認識しながらも,医学教育や研究の現場では,この問題の軽視が続き,専門家が少なくなるという危機に直面している.
 行政的には,検疫と国内防疫という2段作戦で対応することにより一定の成果を上げてきたが,時代の変化に対応した新たな対策も必要であろう.

連載 重複表現型の白血病細胞・2

巨核球系と顆粒球系の形質を併せ持つ白血病細胞

著者: 榎本康弘

ページ範囲:P.816 - P.817

 本題に入る前に電顕的ペルオキシダーゼ(PO)反応法に触れる.表は現在用いられているPQ反応法を要約したものである.光顕的にPO反応は骨髄系細胞の鑑別に古くから用いられてきたが.電顕レベルでは同一基質で固定法や基質の濃度を変えることで多系統の細胞の識別を可能にする.血液細胞には顆粒球系・単球のMPO1),血小板・巨核球系のPPO2),赤血球系のHbのPO活性を示すヘム蛋白が証明でき細胞の帰属や成熟度の判定に用いられている.MPOは幼若球では核周囲腔(NE)と粗面小胞体(r-ER),ゴルジ装置(GO),顆粒(PG)が陽性を呈するが成熟すると顆粒のみ陽性になる.一方,PPOはNEとr-ERは陽性,GOと血小板特殊顆粒(PSG)は陰性である.さらにPPOには類似の反応が表の枠内の巨核球系以外の系の細胞にも同様な局在で検出されPPO様反応と呼ばれぜいる.このためPPO活性は現在では巨核球系の特有な指標でなくなっているが,巨核芽球の同定には必要条件である.Hbはそれの有する過酸化活性で細胞基質が黒化する.これはHbの含成能に比例するため,成熟とともに黒化度は増す.以上のようにPO反応は血液細胞の電顕的観察には不可欠な方法になっている.
 FAB分類のM7急性巨核芽球性白血病では芽球のすべてが巨核球系で占められることは少なく,多かれ少なかれMPO陽性芽球の混在が認められる場合が多い.

COFFEE BREAK

CIS

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.868 - P.868

 最近の国際情勢の変化はめまぐるしい.その1つはソ連邦の解体であろう.そして,新しくできたものにCISという略語が与えられた.これはCommonwealthof Independent Statesの略で,日本語は独立国家共同体という名を与えて用いている.
 このCISという同じ略語は,臨床検査でも用いられたものがあり,それは,上皮内癌Carcinoma in Siteのことで,病理細胞検査に関係深いものである.

21世紀の科学

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.874 - P.874

 私たちの若い頃,旧制高校ではデカンショという歌をよく歌った.デカルト,カント,ショーペンハウエルという三大哲学者の頭文字をとったもので,デカンショデカンショで半年暮らしあとの半年寝て暮らすという哲学三昧の生活を謳歌したものである.
 この春の日本内科学会の特別講演は,現代の哲学者であり多くの分野で高名な京都の梅原猛先生の「医学と生命」という話であった.先生によると近代哲学の開祖と言われたデカルトも,心と体の二元論者ということで現在の自然環境破壊にもつながる物質文明偏重の責任者として評判が悪く,きびしい批判が加えられている.たしかに医学界でもデカルト哲学の行きつくところ生命の概念を失わせ,肉体的機械的の分析を主体とする,つまり近代医学の末期的現象をもたらしたと言われても仕方がない.

血管病変の病理・2

動脈の攣縮―発生機序と疾患

著者: 桜井勇 ,   新橋真理 ,   生沼利倫

ページ範囲:P.889 - P.896

 動脈はただの管ではなく,その壁自体が収縮もし拡張もする.動脈の過度の収縮(攣縮)によって,その動脈が血液を供給している諸臓器に虚血性の傷害を起こしうる.例えば,異型狭心症や心筋梗塞症,クモ膜下出血後の脳動脈攣縮,急性腎不全や両側腎皮質壊死,胃潰瘍なども動脈の過度の収縮によるとの考えがある.動脈攣縮は血管造影によって証明できるが,病理組織学的にも動脈壁に中膜平滑筋細胞の周核空胞のような形態学的変化も認められる.
 動脈攣縮を起こす機序は複雑で,多数の因子が絡み合っている.その中で,特に内皮細胞と中膜平滑筋細胞の相互作用ならびにアセチルコリン誘発冠動脈攣縮の発生機序に関するわれわれの考え方を記述した.〔臨床検査36:889-896,1992〕

トピックス

免疫寛容状態の誘導

著者: 場集田寿

ページ範囲:P.897 - P.897

 移植免疫における免疫寛容(immunological tolerance)状態とは移植片に対する拒絶反応が特異的に消失している状態をさす.一般に移植片はその臓器により生着に差異があると言われるが,種種の報告を見るとある臓器が移植後生着し,さらに移植した皮膚も拒絶されずに生着した場合,免疫寛容が誘導されたと判断しているものが多い.
 さてその誘導方法において現在注目されているものに接着分子に対するモノクローナル抗体がある.最近マウスを用いてその異所性心移植で,抗接着分子抗体使用によるトレランス誘導の成功が2編報告されている.Isobe1)は抗ICAM-1抗体(YN 1/1.7)と抗LFA-1抗体(KBA)を各50μgずつ6日間投与,Chen2)は抗CD 4抗体(YTS 177.9.6)と抗CD 8抗体(YTS 105.18.10)を各1mgずつ22日間併用投与して,主要組織適合抗原の全く異なる系にトレランスを誘導している.しかもChenはPVGラットからCBAマウスという異種間の移植でもトレランスが誘導できたという画期的なものである.Isobeはトレランスを誘導したマウスの脾細胞を用い細胞障害性活性を測定し,抗体併用群では非投与群に比し有意に抑制されていることも指摘している.しかし,そのトレランス誘導の機序については両論文ともに詳しい説明はされていない.

TOPICS

拒絶反応の早期画像診断法

著者: 磯部光章

ページ範囲:P.898 - P.900

 拒絶反応は臓器移植における最も深刻な合併症でありながら,初期症状に乏しく,現状では有効な非侵襲的な診断法がない.腎臓移植においては,クレアチニンのモニタリングにより,拒絶の診断は可能であるが,サイクロスポリンの副作用や急性尿細管壊死に伴う腎不全との鑑別には無力であり,生検診断か診断的治療が行われているのが現状であり,早期診断法の開発が急務となっている.
 筆者は,組織適合(MHC)抗原が拒絶に伴って早期から移植片の細胞上に誘導発現されるという,最近の免疫染色による報告に着目し,新しい診断法の開発を行っている1,2)

寄生虫の保有とスギ花粉症

著者: 藤田紘一郎

ページ範囲:P.900 - P.902

 現在,日本人の10人中1人はスギ花粉症にかかっているという.昔はスギ花粉症という言葉さえ日本には見あたらなかったが,最近では春先になると,くしゃみや鼻水・鼻づまりに悩まされている人々をいろいろな所でごく身近に観察できるようになった.
 なぜ,日本で花粉症がこんなに増加したのであろうか.まず,スギ花粉量が最近著しく増加したことを多くの人々が指摘している1).次に,ディーゼル車のDEPやガソリン車のNOxなどの環境要因をその原因として挙げている2).これらの物質は,スギ花粉とともにヒトに与えれば確かにIgE抗体を上昇させるアジュバント効果を発揮するという2).さらに,食生活や住居環境の変化が花粉症増加にかかわっていると主張する人もいる.

毛髪分析による服薬歴検査

著者: 植松俊彦

ページ範囲:P.902 - P.903

 現代の医療において薬物療法は大きなウエイトを占め,欠くことができない.しかし,使用薬物の種類・量の増加に伴い,また,複数の診療科・診療施設をかけもち受診する機会が増加するのに伴い,薬物の相互作用による副作用などの危険性が増大している.また同時に,患者が指示どおり服薬しない(ノンコンプライアンス)という問題を生じてきている.
 患者の過去の服薬歴やコンプライアンスといった情報は,現状では問診に頼る以外になく,必ずしも正直に,正確に申告されるとは限らない点が問題である.人口の老齢化に伴い高齢の患者が増加しており,そういった情報を正確に聴取することが困難な状況も増えてくると想像される.その点は小児の患者の場合も同様である.したがって,薬物の適正な使用に当たっては,過去の薬物の服薬歴やコンプライアンスの客観的検査法が望まれる.

MRSAの感染対策に手指の消毒

著者: 野口行雄

ページ範囲:P.903 - P.904

 メチシリン・セフェム耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症1)が社会問題化している.第三世代セフェム剤の濫用で正常細菌叢が破壊されて惹起されたのである.黄色ブドウ球菌は皮膚の常在菌でもあるので,医師の手指を介して患者に伝染する.伝染経路を断っことが,伝染病予防の定石である.
 私どもの病院のMRSA感染症は1989年6月に手術目的で外科に転入院して来た患者から主として外科系の病棟に広がった.院内感染症対策委員会では第三世代セフェム剤の術後感染予防投与の自粛と手指消毒の徹底励行を同年秋に呼びかけたが.結果は惨憺たるもので,翌1990年には大流行となった.1991年に各病棟に自動手指消毒器(サラヤBM-5500)が配備された(図1).消毒液の主成分は83%エタノール,0.2%グルコン酸クロルヘキシジンで,この器械に手を差し入れるだけで自動的に消毒液が噴霧される.エタノールは揮発性で,速乾性である.MRSA保菌者の診察後に手指を消毒することで,MRSA保菌者がこの年に半減した(図2)ことは,4月21日付け朝日新聞(夕刊)で報道されたとおりである2)

MRSAの感染予防にお茶のエキス

著者: 島村忠勝

ページ範囲:P.904 - P.905

 茶の抗菌・殺菌作用については腸管感染症起因菌に関し,このトピックス欄で以前(33巻3号,323-324,1989)紹介した.その後の研究によって,茶が百日咳菌,マイコプラズマなどの呼吸器感染症起因菌や白癬菌に抗菌・殺菌作用を示すこと,黄色ブドウ球菌α毒素,腸炎ビブリオ耐熱性溶血毒,コレラ溶血毒,コレラ毒素や百日咳毒素などの細菌性外毒素の作用を阻害すること,およびインフルエンザウイルス,ロタウイルス,ポリオウイルスなどの感染性を阻止することが判明した.また,これらの作用を示す本体はカテキンやテアフラビンであり,その構造と機能の関係もカテキン誘導体やその構造類似物質を用いて明らかにされている.さらに,茶がコレラやインフルエンザに対して感染防御能を有することは動物実験により確かめられている.
 最近問題になっている感染症にAIDSがある.茶はHIVの逆転写酵素の活性を阻害することはできるが,HIVそのものを不活化したりHIVの感染を阻止することはできない.もう1つの問題となっている感染症にmethicillin resistant Staphylococcus aureus(MRSA)があり,病院内で多発し,その感染防止対策が望まれている.

学会印象記 第41回日本臨床衛生検査学会

「新世紀への飛翔―すこやかな明日への臨床検査」,他

著者: 池田昌伸 ,   森下孝 ,   亀子光明

ページ範囲:P.907 - P.909

 第41回日本臨床衛生検査学会が,4月24日(土),25日(日)の2日間にわたり上野一誠学会長のもと四千数百名の会員が参加し,熊本市で開催された.学会前日は雲仙普賢岳からの大量の火山灰に遭遇したが,会期中は好天に恵まれ,九州の森の都にふさわしい新緑に囲まれた会場はさわやかな印象を与えていた.今回は「新世紀への飛翔,すこやかな明日への臨床検査」のテーマのもと,招待講演3,シンポジウム5,パネルディスカッション4が企画され,一般演題も878と昨年を上まわる発表があった.

海外だより

ブータンの総合病院

著者: 南川真理子

ページ範囲:P.910 - P.911

 1989年7月21日の,ブータンパロ空港上空は厚い雲に覆われ,着陸できない場合はカルカッタへ降りると,機内放送が乗客に告げていたらしかった.しかし,私の脳裏は,初めて見るブータンという国への思いばかりで,機内放送など耳に入ってくるはずがなかった.が,結局私の思いが通じたのか,一瞬雲の切れ間ができ,気がついた時はすでにパロ空港上空であり,機体は降下をはじめていた.私のブータンでの協力隊員としての2年が始まったのである.
 ブータン王国は西南アジアに位置し,北は中国のチベット,南はインドのシッキム州,アッサム州などに囲まれた九州の1.1倍の面積を有する仏教王国である.

私のくふう

PAM染色における一工夫

著者: 安藤千秋

ページ範囲:P.912 - P.912

1.はじめに
 PAM染色は腎糸球体基底膜の変化を知るうえで重要な染色である.この染色の難点はメセナミン銀液(56~60℃)での反応中にプレパラートあるいは染色瓶の内面が黒ずみ,以後の操作過程で切片上に銀粒子が付着しコンタミネーションの原因になることである.この解決法としてメセナミン銀液中にアルミ箔(家庭用アルミホイル)を入れたところ,銀粒子がアルミ箔に吸着しプレパラートおよび染色瓶の内面に鍍銀反応が見られないことがわかった.したがって切片上でのコンタミネーションがなく美麗な染色結果が得られ(図1)実用的な方法であると考える.併せて当院で行っているPAM染色を紹介する.

研究

全身性エリテマトーデスにおける血漿ならびに血小板の凝固第XIII因子a-subunit抗原量

著者: 大久保進 ,   大谷哲司 ,   安永幸二郎

ページ範囲:P.913 - P.914

 SLE 26例で,血漿ならびに血小板第XIII因子a-subunit抗原量(XIII-a)をLaurell法で測定した.血漿XIII-aの低下例が多く,血小板XIII-aは血小板減少合併例で有意に高かった.血小板数と血小板XIII-aとの間には負の相関が認められ,血漿XIII-aの低下例では総血小板XIII-a (血小板XIII-a×血小板数)は低い傾向であった.血漿XIII-aと血小板数や血小板XIII-aとの間には相関はなかった.SLEでみられる血漿XIIIの低下は,産生障害よりも消費の亢進によるものと推測された.

一元放射補体結合法による緒方法および抗DNA抗体価,抗ENA抗体価の測定

著者: 山田巖 ,   沢江義郎

ページ範囲:P.915 - P.918

 一元放射補体結合法により緒方法および抗DNA抗体価,抗ENA抗体価を測定し,マイクロタイター法の成績と比較検討した.その結果,一元放射補体結合法による緒方法は,反応の読みにスコアを設置することによりマイクロタイター法の成績とよく一致し,再現性,特異性ともに良好であった.一方,抗DNA抗体価,抗ENA抗体価の場合,いずれも39例中2例(5.1%)で両反応間に不一致があったものの,よく相関していた.

資料

関節液中のATL細胞

著者: 米田操 ,   上野征夫

ページ範囲:P.919 - P.921

 成人T細胞白血病(ATL)は,特徴的な臨床像,血液像を示す日本の西南部地方に多い疾患である,末梢血中の、ATLに特有な核をもつ異常細胞によって気づかれることが多い.われわれは関節液中に多数のATL細胞が出現した症例を経験したので供覧する.

尿中微量アルブミンの測定用試験紙Micral-Testに対する有用性の検討

著者: 中恵一 ,   石田繁則 ,   下條信雄 ,   奥田清

ページ範囲:P.923 - P.925

 エンザイムイムノアッセイによる尿中微量アルブミン測定用試験紙(Micral-Test)の信頼性について検討した.免疫比濁法による結果と照合した結果,本法による半定量値で10mg/l以下を陰性とする場合,本法の診断感度は83.1%,診断特異性は94.7%であった.本法による尿中微量アルブミン測定は簡便で,定量法と同等の信頼性が得られ外来受診時の検査法として優れている.

編集者への手紙

簡易ピークフローメーターの正確度および精密度について

著者: 川根博司 ,   沖本二郎 ,   副島林造 ,   小島健次 ,   小山聡江 ,   神山敦子

ページ範囲:P.926 - P.927

 最近,わが国でも喘息患者の自己測定器具として,小型・軽量化された簡便なピークフローメーターが使用されるようになってきた.このような簡易ピークフローメーターとして普及しているのは,英国製のミニライト・ピークフローメーター(以下ミニライト)と米国製のアセス・ピークフローメーター(以下アセス)である.今回,これらの機器の正確度および精密度について検討したので報告する.

質疑応答 臨床化学

低アミラーゼ血症診断へのアプローチ

著者: K生 ,   松岡瑛 ,   中田直行

ページ範囲:P.929 - P.931

 Q血中アミラーゼアイソザイム活性の解析から低アミラーゼ血症の病態を知ることができるようですが,その方法をお教えください.

アラキドン酸代謝産物の作用と体内動態

著者: M生 ,   鹿取信

ページ範囲:P.931 - P.933

 Q 炎症のケミカルメディエーターの1つであるロイコトリエンB4,C4,D4やトロンボキサンA2はどのような刺激,状況下で発生するのでしょうか.体内での産生場所,代謝経路,測定方法を併せてお教えください.

血液

トロンビンレセプターの臨床的意義

著者: 藤本導太郎 ,   矢冨裕 ,   久米章司

ページ範囲:P.933 - P.934

Q 上についてお教えください

微生物

慢性下気道感染症に対するエリスロマイシンの投与

著者: S生 ,   三笠桂一 ,   澤木政好 ,   成田亘啓

ページ範囲:P.934 - P.937

 Q 慢性下気道感染症に対してエリスロマイシン少量長期投与の有効性が言われていますが,作用機序についてお教えください.また,耐性菌誘導の危険性はないのでしょうか.

臨床生理

いわゆる"もやもやエコー"について

著者: A生 ,   石光敏行

ページ範囲:P.937 - P.939

 Q 心エコー図で"もやもやエコー"ということばが使われていますが,どんなときに見られ,どのような意味があり,なぜそのようなエコーとなるのでしょうか.ご教示ください.

診断学

グルタチオンペルオキシダーゼの臨床的意義

著者: Q生 ,   吉峯徳

ページ範囲:P.939 - P.940

Q 上についてお教えください

検査機器

ESR-CTを用いた生体内ラジカルの測定

著者: K生 ,   濱田昭 ,   内海英雄

ページ範囲:P.941 - P.942

 Q 上について現況をお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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