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雑誌目次

論文

臨床検査37巻4号

1993年04月発行

雑誌目次

今月の主題 閉経と臨床検査 巻頭言

閉経と更年期

著者: 河合忠

ページ範囲:P.347 - P.348

 人間は,成長期,成熟期,退縮期,老化期を経て死を迎えるライフサイクルを持っている.現在では,日本人は世界で最も寿命の長い民族となり,急速に長寿社会へと突き進んでいる.女性のほうが男性よりも長命であるが,更年期障害は女性に特有なものと思われがちである.しかし,更年期とは,成熟期から退縮期への移行期であって,女性のみではなく,男性にも存在するはずである.たまたま女性で比較的急激な変化が現れるだけのことであり,それが閉経という形でみられ,退縮期への移行が明確であるために問題視されている.
 女性のライフサイクルの中で,最も大きな転機となるのは思春期と閉経期である.動物が生存する最大の目的は種族維持と考えてよい.動物の世界では,生命維持のために食欲を満たす行動に次いで,種族維持のために性欲を満たす行動で壮絶な戦いをすることはよく知られている.生殖機能それ自体は個体の生命維持に不可欠の要素ではないが,種族維持にとっては生殖機能が不可欠である.それ故に,女性にとっては生殖機能の始まる思春期,生殖機能の終わる閉経期が精神的にも,身体的にも最も大きな変化を伴うことになる.

総説

閉経と内分泌変動

著者: 赤祖父一知 ,   生水真紀夫

ページ範囲:P.349 - P.354

 閉経期を境に,女性の内分泌環境は大きな変貌を遂げる.卵巣性エストロゲンの低下は,ゴナドトロピンの分泌亢進とエストロゲン依存性雌性臓器の萎縮・脳機能の変調をもたらし,脂質代謝や骨代謝などにも大きな影響を及ぼす.
 閉経期には,副腎にも老化に伴う機能低下(副腎性アンドロゲンの低下)が進行する.しかし,その進行は卵巣に比し緩やかであるため,閉経後においては,相対的アンドロゲン優位の代謝環境になる.〔臨床検査37(4):349-354,1993〕

閉経と生化学(変動)変化

著者: 千場梅子 ,   澁谷陽子 ,   岡部紘明

ページ範囲:P.355 - P.359

 血液生化学値の閉経後の変化について項目別に示した.報告者により多少異なるが,閉経後著明に上昇する主な成分は尿素窒素,尿酸,総コレステロール,LDLコレステロール,トリグリセライド,アルカリホスファターゼ,アスパラギン酸アミノ基転移酵素,ロイシンアミノペプチダーゼ,カルシウム,無機リン,ナトリウム,血清鉄などであり,逆にHDLコレステロールは閉経後有意に低したした.〔臨床検査37(4):355-359,1993〕

閉経と組織変化

著者: 桜井幹己

ページ範囲:P.360 - P.363

 更年期から閉経に至る子宮内膜は,かなり個人差があり,微妙なホルモンの影響によって複雑な組織像を示す.
 ホルモンの異常による不規則な内膜の増殖は,前癌病変としての種々な内膜増殖症と紛らわしいことがある.両者の鑑別には,臨床データを十分参考にした詳細な組織学的検討を必要とする.〔臨床検査37(4):360-363,1993〕

技術解説

オステオカルシン

著者: 藤田拓男

ページ範囲:P.364 - P.366

 オステオカルシンは骨の非コラーゲン蛋白の主要構成成分であり,カルシウムと結合するγ-カルボキシルグルタミン酸の残基を有し,骨芽細胞によってビタミンDおよびビタミンKの影響のもとに合成され,一部が血中に出現し,また尿中に排泄される.断片を含むC末端の測定とインタクトの分子をラジオイムノアッセイで測定する方法があり,前者は骨の吸収による基質の分解放出を,後者は骨芽細胞機能,すなわち骨形成の指標となりうる.〔臨床検査37(43): 64-366,1993〕

尿中ハイドロオキシプロリン

著者: 五十嵐省吾

ページ範囲:P.367 - P.372

ハイドロオキシプロリン(Hyp)はコラーゲンを構成するペプチドに特異的に含まれるアミノ酸である.したがってHypの量を測定することによりコラーゲン量を推定できる.臨床的には主として尿中に排泄されるHypが測定される.コラーゲンは骨や皮膚に多く含まれるので特に骨を侵す疾患で尿Hypは増加する.副甲状腺機能亢進症,甲状腺機能亢進症,末端肥大症などの内分泌疾患,Paget病,癌の骨転移でその増加が著しいが,特に癌の骨転移の際には,Hypの測定により,骨転移を早期に診断することができる.また,病勢の判定にも有用である.〔臨床検査37(4):367-372,1993〕

酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ

著者: 今井利夫

ページ範囲:P.373 - P.377

 従来から,骨代謝に関与する生体成分の動態が種々検討されてきた.
 近年,血清中のL―酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼが破骨細胞活性の生化学的指標の1つとして注目されており,閉経後の骨代謝においても,骨粗鬆症との関連などで興味ある知見が得られている.ここではそれら研究に用いられている測定法を中心に解説する.〔臨床検査37(4):373-377,1993〕

骨容積(骨量)

著者: 加藤順三 ,   佐々木真紀子

ページ範囲:P.378 - P.383

 骨粗鬆症は骨量が減少した状態であり,骨量がある一定レベル以下に減少すると骨折の危険率が増大する.骨粗鬆症の正確な診断,骨折の予知のためには,定量的な骨量測定により骨量減少を早期に検出することが重要である.現在,骨量定量法としてMD法,SPA法,DPA法,DEXA法,QCT法などが用いられており,中でも正確度,再現性,測定時間,被曝線量,測定部位の解剖学的特性(海綿骨含有量)などの点でDEXA法は特に優れている.
 各種骨量測定法の開発により,骨粗鬆症の診断が客観的かつ正確に行えるようになったが,そのスクリーニングの方法,対象の選択,測定機種の選択,骨量減少の基準などについてはまだ一定の基準はなく,より具体的なガイドラインの設定が望まれる.〔臨床検査37(4):378-383,1993〕

尿中ピリジノリン,デオキシピリジノリンの測定

著者: 堀江均 ,   関根恭一 ,   松山雅彦 ,   青木紀夫 ,   畠啓視

ページ範囲:P.384 - P.388

 骨吸収の新しい生化学的マーカーとして注目されている,尿中ピリジノリン(Pyr)およびデオキシピリジノリン(D-Pyr)の測定法について,筆者らの方法を中心に解説する.Pyr,D-Pyr (以後まとめてPyrsと略)の測定は尿試料を塩酸で加水分解後,CF-1セルロースカラムで精製し,蛍光検出液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した.尿中Pyrsは各種代謝性骨疾患の評価において,鋭敏で有効なマーカーであることが示唆され,今後の臨床応用が期待される.〔臨床検査37(4):384-388, 1993〕

検査と疾患

更年期障害

著者: 五十嵐正雄

ページ範囲:P.389 - P.392

 更年期障害の定義は実は各人各様であるが,更年期に起こる卵巣からのエストロゲンの急減によって起こった特定の症状群(顔面紅潮,多汗,情緒不安定,肩こり・背部痛など)と考える定義が新しくかつ合理的である.血中エストロゲンの低下(低値ながら分泌があるのが更年期,完全低値は老年期を示す),血中FSHの上昇が更年期の指標になる.エストロゲン療法が無効なのは更年期障害ではないとさえ言える.精神安定剤は一時的に有効な対症療法にすぎない.更年期障害とうつ病との鑑別は重要である.〔臨床検査37(4):389-392,1993〕

閉経後の骨粗鬆症

著者: 小原範之

ページ範囲:P.393 - P.399

最近,DEXA法の導入により微細な骨量変化を高い精度で定量的に測定することが可能となり,骨粗鬆症の診断法が飛躍的に進歩した.一方,生化学的検査は従来から鑑別診断に利用されてきたが,近年,さらに鋭敏に骨代謝回転を反映するマーカーが開発,検討されている.将来,新しい骨代謝マーカーを用いたスクリーニング,治療薬の選択および治療効果判定などが臨床応用されるものと期待される.〔臨床検査37(4):393-399,1993〕

話題

オステオネクチン

著者: 富田明夫

ページ範囲:P.400 - P.401

1.はじめに
 最近,骨形成における非コラーゲン性蛋白質の役割が注目されるようになり,オステオカルシン,オステオネクチン,オステオポンチンなどの一次構造や骨芽細胞における遺伝子発現などの研究が進んでいる.オステオネクチンは1981年Ter-mineらによって,骨組織中に存在する主要な非コラーゲン性蛋白質の1つで分子量は約30,000であり,骨のハイドロオキシアパタイトやI型コラーゲンとの親和性を有する骨特有の骨石灰化に関係のある蛋白質として報告された1).しかしその後の研究により非石灰化の組織中にもみつかり,オステオネクチンが単に骨組織特有の蛋白ではないことが明らかにされつつある.本稿ではオステオネクチンの骨組織における生理的意義とともに他の組織における存在意義について知見をまとめてみたい.

インターロイキンと骨変化

著者: 中村雅典 ,   笠原忠

ページ範囲:P.402 - P.403

1.はじめに
 骨はハイドロオキシアパタイトの結晶中に人体中のCaの99%,Pの88%,Mgの50%を貯蔵し,また,有機質としては90%以上をコラーゲンが占め,他は非コラーゲン性蛋白質,プロテオグリカン(PG)から成る.骨は,破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返しており(骨のリモデリング),これによって古い骨が新しい骨に置換され,骨全体の強度が保たれている(図1).また,このリモデリングは種々のホルモンやサイトカインによって調節されており,このアンバランスが種々の病態を引き起こす.さらに,最近,筆者(中村)らは破骨細胞によらない単核細胞による骨吸収の可能性を見いだした.

ピリジノリン

著者: 中塚喜義 ,   森井浩世

ページ範囲:P.404 - P.406

1.はじめに
 代謝性骨疾患の臨床的評価や治療効果の評価に用いられる生化学的指標は,骨粗鬆症に代表されるこれらの疾患に対する関心が高まるとともにその研究,開発は著しく,骨代謝臨床研究はもちろん臨床検査においても興味ある分野と言える.
 これまでも種々の生化学的指標が骨代謝回転を表現するものとして提案されてきたが,臨床応用に当たってはその測定方法論の正確性,異常高値はもちろん閉経や骨粗鬆症のような微妙な骨代謝回転の変化も認識可能な感度,他の臓器や食事に影響されない骨特異性を有することが必要であり,これらの点を克服することが求められる.

COFFEE BREAK

PAP

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.388 - P.388

 この略語をみてなにをまず,考えるでしょうか.それぞれの分担している分野で違うでしょう.
 病理学的検査に携わっている人々は,好銀線維の染色法のPAP法を思い出すでしょうが,それは略語ではなくてPapanicolaou J.という人名なのです.

小樽の秋

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.399 - P.399

 平成4年10月下旬の数日間小樽に滞在した.北海道は初冬の寒さだろうと思って沢山着こんで行ったがいい陽気で汗ばむ程で,第32回を迎えた臨床化学会年会のためにはまことに結構であった.
 学会前日,時代がかった建物の日銀支店の近くに宿をとったが,目の前に市立小樽文学館があった.入館すると丁度市民写真大会も開かれており,小樽周辺の風景,生活が手にとるようにわかり,そのうえ郷土への愛情が滲み出ていて思わぬ収穫であった.

学会だより 日本総合健診医学会第21回大会

雪のち快晴の別府でアトホーム感覚で開かれる

著者: 伊藤機一

ページ範囲:P.407 - P.407

 1993年1月28,29両日,日本総合健診医学会第21回大会が大分県別府市杉乃井ホテルで和田秀夫氏(大分総合健診センター長)を大会長に開催された.本学会は最初,日本自動化健診システム研究会として発足,1975年に日本自動化健診学会と改称,さらに1985年に現在の日本総合健診医学会と発展してきた.21年目を迎えた今大会は初めての地方開催であったが,650人以上の参加者があり,内容豊富なプログラムに加え,気配り精神に満ちた大会スタッフの尽力により他学会にないアトホームな大会との印象を得た.
 大会初日会場周辺は雪,やがて晴れ上がり,会場ロビーからの眼下の別府湾の眺望はまさに筆舌に尽くせないほどだった.今大会のメインテーマは"21世紀に向けてのライフプランニング"で,日野原重明会長の言を借りれば「非常に刺激的なテーマ」であった.

第26回日本プリンピリミジン代謝学会総会

多くの分野からの情報を積極的に取り入れる

著者: 鎌谷直之

ページ範囲:P.408 - P.408

 第26回日本プリンピリミジン代謝学会総会は1993年2月5~6日,仙台で開かれた.冬の仙台にしては例外的に暖かく青葉城からの眺望もそれ程寒い思いもせずに楽しむことができた.学会は,サイエンティックでしかも心温まる雰囲気に満ちたものであった.
 遺伝子が生物学と医学のあらゆる分野で中心的役割を果たすようになった現在,その構成成分であるプリンとピリミジンの代謝には当然ながら注目が集まる.分子生物学の初期の段階で遺伝子診断が可能になったのはプリン代謝欠損症であるLesch-Nyhan症候群であったし,世界で初めて遺伝子治療が行われたのもプリン代謝欠損症であった.日本で初めて遺伝子診断が実用化されたのも同じくAPRT欠損症であった,というように分子生物学の臨床応用の最先端を歩み続けたのがこの分野である.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・4

持続性のLDH-H型異常高値血症

著者: 山内一由 ,   五十嵐富三男 ,   中山年正

ページ範囲:P.411 - P.413

●検査結果の判定●
1.血清LDH活性値の推移
 表1に血清乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の総活性値およびアイソザイム分画値の経過を示す.LDH総活性は入院時から患者が死亡するまでの間,持続的に10,000IU/l以上(正常値:278±82IU/l)の異常高値を示し,また,アイソザイム分画値もつねにⅠ分画(H4)が50%以上(正常値;34.5±5.7%)を占め,Ⅰ,Ⅱ分画の合計では約90%とH型(心筋塑)サブユニットに著しく偏倚した結果となった.このような結果は,従来教科書的に知られている心筋硬塞や溶血性疾患では説明できない著変である.

TOPICS

mecA遺伝子

著者: 平松啓一

ページ範囲:P.414 - P.415

 院内感染症として世界中に蔓延しているMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の耐性は,MRSAが産生する特異な細胞壁合成酵素であるPBP 2’(ペニシリン結合蛋白2’)によって説明される.この酵素は本来ブドウ球菌には存在しない遺伝子mecAによりコードされており,その由来は明らかでないが,ある時点で黄色ブドウ球菌の染色体上に外来性のmecA遺伝子が挿入されMRSAが誕生したと考えられる.このようにして誕生したMRSAは,その遺伝子発現がmecA遺伝子に付随したレプレッサー遺伝子産物(MecI)により抑制されており,そのままではメチシリンなどのペニシリン剤には感受性である.つまり,初期のMRSA株はメチシリン感受性であるというその呼称とは矛盾した性質を持っていたことが明らかになり,筆者らはこの初期の株を"プロトタイプMRSA"と呼んでいる.
 プロトタイプMRSAからは,メチシリンをはじめすべてのβ-ラクタム剤(ペニシリン,セフェム剤の総称)に耐性の変異株が10-5という高頻度に出現する.これが現在世界中に蔓延しているいわゆるMRSA株である.このような株の染色体の構造を解析すると,どの株でも突然変異が起こってMecIレプレッサーの機能が失われていることがわかった.つまり,プロトタイプMRSAのMecIレプレッサーが失活したものがMRSAである.

蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)による腫瘍の染色体分析

著者: 渋谷誠 ,   長村義之

ページ範囲:P.415 - P.417

 腫瘍細胞では染色体数の異常や,欠失,転座などの種々の構造異常が出現し,腫瘍の発生や悪性化との関連が報告されている.これまで細胞の染色体分析は,組織培養によって得られた分裂中期染色体標本に種々の染色体分染法を用いて行われてきた.この方法は時間と手間が多くかかるばかりか,その手技に熟達を要し,しかも必ず結果が得られるとは限らないのが現状である.また,分裂中期染色体が得られたとしてもその数は少なく,しかも分裂能の高い腫瘍細胞のみから情報を得ることとなるので,1つの腫瘍に含まれる腫瘍細胞の多種性(heterogeneity)を的確に表現することが困難であった.
 一方,蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescent in situ hybridization;FISH)は,非放射性物質(ビオチン)で標識したDNAをプローブとして,1本鎖化した染色体DNAをスライドグラス上でハイブリダイズさせ,ビオチンと親和性の高い,蛍光物質で標識したアビジンで蛍光染色し,蛍光顕微鏡下に特定部位を検出する方法である.

脳脊髄液中ネオプテリン測定の臨床的意義

著者: 山本英明

ページ範囲:P.417 - P.419

 ネオプテリン(neoptrin,6-D-erythro-trihy-droxypropylpterin)は分子量253 kDaで,グアノシン3リン酸(guanosine triphosphate;GTP)の代謝産物てある.生体内におけるネオプテリンは,おもに免疫担当細胞であるT細胞の活性化に伴って放出されるインターフェロン-γ(IFN-γ)あるいはリポポリサッカライド(lipopolysacchar-ide)か単球・血管内皮細胞を活性化することによって産生されると考えられている1)(図1).
 近年,RIAによるネオプテリンの測定法か開発され,大量検体を容易に測定することか可能になった.この高感度測定法の開発によって,尿中のほか血清中でのネオプテリン測定も可能になり,細胞性免疫能の亢進の指標として,臨床評価の検討か行われてきている.疾患としてはウイルス感染症,細菌感染症,若年性関節リウマチ,全身性紅斑性狼瘡,AIDSなど,さらに腎,骨髄など臓器移植後の拒絶反応やgraft-versus-host disease(GVHD)などの病態において血清あるいは尿中のネオプテリン濃度か増加すると報告されている2~5)

好中球67kDa蛋白質

著者: 柿沼カツ子

ページ範囲:P.419 - P.421

1.スーパーオキシド(O2)産生とその異常症(CGD)
 白血球のO2生成酵素,すなわちNADPHオキシダーゼの研究は,この約10年の間に大きく進歩した.その理由は,この酵素系の異常症である慢性肉芽腫症(clonic granulomatous disease;CGD)の白血球の研究により,欠損している蛋白が分子レベルで解明されたことによる1,2)
 NADPHオキシダーゼは単一酵素ではなく細胞膜に局在する膜因子(チトクロムbとフラビン)と,細胞質因子(47kDaと67kDaの蛋白,および低分子量G蛋白)から成る複合酵素系である.白血球が刺激を受けると,これらの3つの細胞質因子は互いに会合して細胞膜へ移行し,膜因子と結合してNADPHオキシダーゼ活性が誘導される3)(図1).

抗SRP抗体の多発性筋炎における意義

著者: 丸山俊昭 ,   宮坂信之

ページ範囲:P.421 - P.422

 多発性筋炎(polymyositis;PM)と皮膚筋炎(dermatomyositis;DM)の患者には筋炎関連自己抗体とも呼ばれる一連の自己抗体か高率に見られる.中でも,抗SRP (signal recognition parti-cle)抗体は,Reevesらか初めて典型的なPMにおいて報告したユニークな自己抗体である1).抗SRP抗体を持つ患者は,抗Jo-1(histidyl-trans-fer RNA[tRNA]synthetase)抗体を初めとするさまざまなaminoacyl[AA]-tRNA sythetaseに対する抗体を持つ患者と比較して異なる臨床上の特徴があり,最近注目されている.
 SRP蛋白は,細胞質低分子である7SLのRNAと72,68,54,19,14,9kDaの6つのポリペプチド鎖から成る細胞質リボ核酸蛋白(RNP)である2,3).54kDaのポリペプチドを除いて,すべての蛋白は7SL RNAに直接結合しているが,54 kDaのポリペプチドは,19kDaのポリペプチドを通して7SL RNAと結合している.SRP蛋白は分泌蛋白N末端に共通して存在するシグナルペプチドを認識して,粗面小胞体上のリボゾームにおける蛋白合成を調節し,endoplasmic reticulumを通しての蛋白の分泌と移動に重要な役割を果たしているらしい2,3)

研究

肥大型心筋症の経年変化―心エコー図による観察

著者: 谷内亮水 ,   秦泉寺寿美雄 ,   長谷川香代 ,   元吉安芸子 ,   棚野智子 ,   深田晴子 ,   沼本敏 ,   大脇嶺 ,   山本浩史 ,   武市直樹 ,   西村直己 ,   永森誠一郎

ページ範囲:P.423 - P.428

 肥大型心筋症の経年変化について心エコー図法を用い検討した.1982~1992年の間に平均68.1か月経過観察できた14例を対象とした.経過とともに平均左室径の増大を認め,一部の閉塞性症例では左室径の拡大とともに,収縮期前方運動の消失が見られた.一方,心室中隔,左室後壁ともに壁厚は変化せず,左室内径短縮率,駆出率などの収縮能に有意な変化はみられなかった.経過中にLDHの上昇を示し拡張型心筋症様病態に移行した1症例を認めた.

資料

腫瘍マーカーPIVKA-Ⅱ測定用検体としての血清

著者: 新井智子 ,   川上圭子 ,   塚田敏彦 ,   中山年正

ページ範囲:P.429 - P.430

 PIVKA-II測定用検体としてのクエン酸血漿と血清の比較を行った.血漿PIVKA-II値がカットオフ値(0.07AU/ml)付近以上の肝疾患患者を対象とし,同時採血した血清を測定した.全例の相関関係は,回帰式У=1.11χ-0.09(χ:血漿,У:血清〉,相関係数γ=0.995であり,クエン酸溶液による希釈を考慮に入れると両者は事実上一致し,血清によるPIVKA-II測定に重大な問題は認められなかった.

マウスIgG型モノクローナルリウマトイド因子を利用した血中免疫複合体の測定法―その基礎的・臨床的検討

著者: 乾武広 ,   陳文 ,   岡部英俊 ,   越智幸男

ページ範囲:P.431 - P.434

 免疫複合体(IC)を形成したIgGに特異的なマウスのモノクローナル抗体を利用したEIA法,イムノコンプッレクスmRF"ニッスイ"を用い,血中IC値を測定した.再現性は良好であった.検体を56℃で30分間非動化するとIC値が上昇した.血中IC値は甲状腺機能亢進症,橋本病,RAやSLE患者で高値であった.各疾患群の血中IC値と各抗体価(甲状腺疾患における甲状腺抗体,RA患者におけるRF値,また,SLE患者における抗DNA抗体)とは有意な相関を認めなかった.

酵素免疫法による尿中微量アルブミン半定量試験紙(Micral-Test)の基礎的検討

著者: 根岸清彦 ,   小林真由美 ,   石井淳 ,   佐藤義文 ,   斉藤妙子

ページ範囲:P.435 - P.438

 酵素免疫測定法を用いた尿中アルブミン半定量試験紙について基礎的検討を行った.本試験紙はRIA法との一致率(91.1%)も良好で,両法のカットオフ値を20mg/lとすると特異性は92.9%,感度は83.3%であった.操作はきわめて簡便で,迅速に半定量が可能であり,糖尿病性腎症のスクリーニング法として有用と考えられる.

質疑応答 臨床化学

癌進行病態における血清リポ蛋白組成の変化

著者: 荒木英爾 ,   S生

ページ範囲:P.439 - P.441

 Q 上についてお教えくだきい.

血液

好中球アルカリホスファターゼ染色の技法と抗凝固剤の影響

著者: 寺田秀夫 ,   吉田弘行

ページ範囲:P.441 - P.442

 Q 好中球アルカリホスファターゼ染色における抗凝固剤の影響の程度と,染色手技上の注意点について,お教えください.

散乱光を用いた血小板凝集能の検査

著者: 尾崎由基男 ,   S生

ページ範囲:P.443 - P.445

 Q 軽度の血小板凝集を測定するときに,散乱光が応用されているそうですが,有用性と今後の展望について,お教えください.

微生物

Helicobacter pyloriと胃・十二指腸疾患

著者: 長岐為一郎 ,   Y生

ページ範囲:P.445 - P.447

 Q H.pylonriと胃・十二指腸疾患との関連が示唆されています.最近の知見についてお教えください.

一般検査

尿蛋白定量に色素結合法を用いる場合の問題点

著者: 中恵一 ,   成田浩喜

ページ範囲:P.447 - P.449

 Q 当院では尿蛋白定量は,色素結合法で行っています.色素結合法の持つ問題点について,お教えください.

診断学

DNA分析による親子鑑定

著者: 山田良広 ,   長尾正崇 ,   高取健彦 ,   K生

ページ範囲:P.449 - P.451

 Q 親子鑑定にDNAの分析が応用されています.その有用性についてお教えください.

爪・毛髪試料から得られるDNAの解析

著者: 高木恵子 ,   兼重俊彦 ,   S生

ページ範囲:P.451 - P.452

 Q 上について,臨床上の活用法や将来の展望をお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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