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雑誌目次

論文

臨床検査38巻1号

1994年01月発行

雑誌目次

今月の主題 MRI 巻頭言

MRIの進歩

著者: 荒木力

ページ範囲:P.5 - P.7

 MRI(magnetic resonance imaging)は核磁気共鳴現象(NMR;nuclearmagnetic resonance)を利用した画像診断法である.NMRは1946年に,Bloch1)およびPurcellら2)が各々独立に発表した現象で,その業績により1952年にノーベル物理学賞を受けている.
 NMRはその後一貫して物理化学の分野における主要な研究手段として発展してきた.これが医学の分野の注目を集めるきっかけとなったのは,癌組織の緩和時間が正常組織に比べ有意に延長しているとするDamadianの論文3)と,実際に管に詰めた水をNMR現象を利用して画像化したLauterburの論文4)である.その後,1977年から78年にかけてNMRを利用した画像法が次々に発表され5~7),1980年のSNM (米国核医学会)やRSNA(北米放射線学会)において製品として機器展示され多くの医学関係者の注目を集めた。

MRIの基礎

NMRの原理

著者: 吉田英夫

ページ範囲:P.9 - P.12

 核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance;NMR)は,一定の静磁場の中で原子核のスピンの向きが変化するのに伴って観測される現象である.共鳴により吸収,放出される電磁波はラジオ波の周波数程度できわめて弱いエネルギーである.ここでは人体中最も観測しやすい1H原子核についてNMRの原理,緩和現象について概説した.〔臨床検査38:9-12,1994〕

MRIの原理

著者: 阿武泉

ページ範囲:P.13 - P.19

 "NMRの画像化"の説明は"NMR現象"のそれと異なり難解である.NMR現象ではコマという直感的に理解しやすいモデルで説明できた.一方,NMRの画像化が難解であるのはフーリエ変換の概念を,数式を使わないで直感的かつ正確に説明することが難しいためである.本稿では多少不正確であるが,NMRの画像化とはおおよそこのようなものであるという直感的なイメージとして理解していただきたい.〔臨床検査38:13-19,1994〕

MRIの機器と取扱い

著者: 菊池務

ページ範囲:P.20 - P.24

 近年ではMRIは画像診断のみならず,機能診断の可能性も高く評価され始めており,臨床医学の診断法として従来のモダリティにみられない深遠な可能性を持っている.これらMRIの機器の性能を最大に活用するためには,NMRの原理や画像構成技術の把握とともに,ハードウエアの性能を左右する基本的要因を十分理解し,常に安定した状態に保守管理することが重要である.また本機器の特性である強磁場と高周波パルスから,患者やスタッフの安全保護に対する配慮が必須条件である〔臨床検査38:20-24,1994〕

MRIの臨床応用

頭部

著者: 青木茂樹 ,   浜走倫人 ,   町田徹

ページ範囲:P.25 - P.30

 MRIの頭部での有用性は確立し,ほとんどの腫瘍を中心に多くの病変についての所見がすでに報告されている.MRIの特徴の1つに,水素原子の状態の違いにより信号強度が変化して生化学的情報が得られる点があり,出血,蛋白濃度の違いなどにより特異的な信号強度を示す場合がある.ここではそのような信号強度の変化を示す病変や,読者に比較的馴染みやすいと思われる臨床検査で異常所見が出るような病変を中心に解説する.〔臨床検査38:25-30,1994〕

脊椎・脊髄

著者: 白水一郎 ,   青木茂樹 ,   町田徹 ,   大久保敏之 ,   荒木力 ,   佐々木康人

ページ範囲:P.31 - P.38

 脊椎・脊髄の画像診断は,単純X線撮影,X線CTに加えてMRIの出現により著しく進歩した.MRIは骨の影響を受けず,X線を使用するCTに対して相補的であるばかりか,脊髄などの軟部構造の描出には圧倒的に優れ,またガドリニウム製剤による増強効果は診断上重要なことが多い.現状のMRIの特徴と利用法を血心に,脊髄の正常像と各種病的状態について概説した.〔臨床検査38:31-38,1994〕

頭頸部・縦隔

著者: 高原太郎 ,   中島康雄 ,   新美浩 ,   尾上正孝 ,   石川徹

ページ範囲:P.39 - P.46

 MRIはCTに比較して,放射線被曝がないことや軟部組織分解能が高いことなど種々の利点を持っている一方,撮影範囲に磁性体があると撮像不能であることや,対象の動きの影響を受けやすいことなどの欠点がある.特に頭頸部(特に喉頭,下咽頭)と縦隔は,嚥下や呼吸運動,血流などに起因するアーチファクトが出やすい部分である.アーチファクト対策としてはフローコンペンセーションやSAT (サット)パルスなどと称されている技術,息止め撮影,加算回数の増加などが効果がある.MRIの特性を理解したうえでこれらの対策を講じることが肝要である.〔臨床検査38:39-46,1994〕

上腹部

著者: 伊藤亨 ,   小西淳二

ページ範囲:P.47 - P.52

 上腹部におけるMRIは,その特殊なコントラスト,特に水分,脂肪,磁性体,血流に対する特徴的な信号強度によってこれまでの画像診断法とは異なる有意義な情報をもたらす.そのため,いまや肝腫瘤性病変の拾い上げ,および鑑別診断において大きな役割を担っている.症例を中心にCTと比較しながらMRIの上腹部における現状を概説する.〔臨床検査38:47-52,1994〕

骨盤臓器

著者: 作山攜子

ページ範囲:P.53 - P.60

 骨盤のMRIについて撮像法,骨盤のMRI解剖について述べ,特に女性性器については,子宮,卵巣,卵管について解剖学的知識をまとめ,MRIが理解しやすいように記した.さらに女性性器のMRIの適応についても述べ,若干の病的症例を提示して説明した.〔臨床検査38:53-60,1994〕

四肢・関節

著者: 横山健一 ,   是永建雄 ,   蜂屋順一

ページ範囲:P.61 - P.66

 MRIは軟部組織間のコントラスト分解能が高く,人体の任意の断面を容易に得られることから,骨・関節・軟部組織疾患においてもその有用性は非常に高い.また,従来のX線検査では明瞭に描出しにくい軟骨,靱帯,腱などを直接観察することも可能であり,整形外科領域の画像診断で,必要不可欠な検査として認識されつつある.本稿では,この領域におけるMRIの臨床応用の実際について概説する.〔臨床検査38:61-66,1994〕

新技術

MRアンギオグラフィ

著者: 似鳥俊明 ,   土屋一洋 ,   蜂屋順一

ページ範囲:P.67 - P.70

 多数あるMRIの技術のなかでも,MRアンギオグラフィの臨床応用の進歩が目覚ましいが,現在の主流であるtime-of-flight法とphase contrast法の原理と特徴を述べ,臨床例を紹介した.血流に敏感で造影剤を用いず血流情報が容易に得られるMRIの特質をうまく活用した技術で,さらに画質の改善が得られ,臨床応用が広がると期待される.〔臨床検査38:67-70,1994〕

MRスペクトロスコピー

著者: 今村惠子

ページ範囲:P.71 - P.75

 MRスペクトロスコピー(MRS)は臨床用高磁場MR装置を用いて実施され,代謝物質をin vivoで検出するものである.それによりエネルギー代謝や膜のリン脂質代謝などを非侵襲的にうかがい知ることが可能となった.これらは他の検査では得難い情報であり,治療経過の観察や診断へと臨床応用が広がるであろう.〔臨床検査38:71-75,1994〕

コーヒーブレイク

北冥に𩵋あり

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.7 - P.7

 新潟大学の医学部会議室に"北冥有𩵋"―秋艸道人という扁額がかかっており,教授会のときにいつもつらつらと眺めていたものである.北の海に魚が泳いでいるという意で,書のことは半解であるが"𩵋"という字がぴんぴんと躍動して迫力があった.秋艸道人とは秀れた東洋美術史学者,類いまれな歌人,そして独往の書家として名高い会津八一氏のことである.
 私が戦後の医学部学生時代下宿していた銀行家H氏宅に,時折筋向いの大地主I氏邸(のち北方博物館分館)に寄寓している鬼瓦のような顔の岩乗(頑丈)な体躯の人が遊びに来た.H氏と早稲田大学同級とかで,しばらくはこの人が新潟きっての文化人会津氏とはつゆ知らなかった.終戦を機に故郷の新潟へ帰られたもので,10年後大学病院で76歳で没された.晩年は特に書道に力を注ぎ,この扁額も渾身の作の由で,I氏一族で当時医学部長をしていた伊藤辰治氏が懇請していただいたという.単純な語句では味わえぬ筆力というものがあり,これが蓋し書道なのであろう.

Da

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.38 - P.38

 分子量を表すには,無名数で1,000とか1万,あるいは4万何千などと言いならわしてきましたが,最近では,SI単位の普及とともに,単位名を付けて呼ぶことが行われています.その単位名として,原子論の研究に業績のあったDalton Jの名を冠して"ダルトン"を用い,記号として"Da"と記すことにしました.
 これらの記号を作る約束ごととして,化学記号と同じく,ローマ字の大文字を用い,2字にわたるときには,次の字は小文字とするということになっていますので,Daとなります.これを"Dal"と記したり"Dalt"としたり,ただ"D"と記したりしているのを見かけますが,Dでは重水素の化学記号と同じになってしまいます.

学会だより 第40回日本臨床病理学会総会

英知を結集した斬新な企画で

著者: 戸谷誠之

ページ範囲:P.8 - P.8

 "21世紀の臨床検査をめざして"をメインテーマに掲げ,第40回日本臨床病理学会総会(総会長:広島大学坪倉篤雄名誉教授)は1993年10月20~22日に広島市において開催された.
 本年の総会は,坪倉総会長による"遺伝子診断による性の判定"と題した講演,放射線影響研究所重松逸造教授の"原爆放射線の健康影響"と自治医科大学河合忠教授の"JSCPの国際交流の歴史と展望"の2つの特別講演をはじめ,6題のシンポジウム,教育講演,一般演題701題(口演,示説を含む),さらに6テーマの技術セミナーと関連各学術専門部会講演会などと,例年にも増して盛り沢山なプログラムであった.主会場を広島国際会議場大ホールに,近在する3施設の13会場とともに行われたこの会は,参加者総数が約2,200名(総会事務局調べ)と盛況となった.

座談会

臨床生理機能検査の展望

著者: 下杉彰男 ,   松岡瑛 ,   荒木力 ,   石山陽事 ,   河合忠

ページ範囲:P.77 - P.86

 1993年春に一部改正された政令により,臨床検査技師が行える生理学的検査に,①熱画像検査,②磁気共鳴画像検査,③眼底写真検査(散瞳薬を投与して行うものを除く),④毛細血管抵抗検査,⑤経皮的血液ガス分圧検査が追加された.これを受けて,新たに追加された検査について具体的に解説するとともに,臨床生理機能検査の今後の展望についてもお話し合いいただいた.
 なお,この座談会が行われた後,1993年9月末の改正により,さらに眼振電図検査および重心動揺計検査が加えられた.

海外レポート

アルバニア社会主義人民共和国―(1) Tiranë大学での特別講義とSpitali Klinik Nr.1の臨床化学検査室

著者: 佐々木禎一

ページ範囲:P.88 - P.90

■はじめに
 わが国で中央検査部制度が導入された二十数年以上前は,海外の検査や検査室の実態についての情報はきわめて少なかった.たまたまそのころこの分野に仲間人りした筆者は,海外出張の折,多くの国々の検査室を訪問し,その実情や印象を,本誌を中心に二十数か国について50回余にわたって紹介してきた1,2)
 その後すべての分野と同様に,諸外国との交流の機会も増し,このような紹介記事はあまり必要なくなったが,最近訪問することができた"アルバニア社会主義人民共和国"(以下アルバニア.その後の東欧の政変により,国名は変わったが,ここでは当時の国名を用いた)の,臨床検査,病院および医療の現況は,近隣の欧州諸国でも入手不可能な,きわめて珍しい稀有の情報と思われたので,本誌上に紹介しようと思う.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・13

1gA腎症における尿沈渣像

著者: 島田勇 ,   河合忠

ページ範囲:P.93 - P.95

●検査結果の判定●
 表1に尿沈渣結果を示す.
 赤血球が多数みられており,同時に円柱,特に赤血球円柱がみられていることから糸球体腎炎が考えられる.

トピックス

空調病・加湿器肺

著者: 佐藤篤彦 ,   源馬均

ページ範囲:P.96 - P.97

 加湿器や空調設備の汚染微生物(抗原)を反復吸入することによって感作され発症する過敏性肺臓炎を,空調病・加湿器肺(ventilstion peumo-nitls: VP,換気装置肺炎)と称する.
 VPの最初の報告は,1970年アメリカのBana-szakらで1),会社事務員27人中4人が悪寒,発熱,息切れで発症し,胸部X線像では,びまん性に微細粒状影の散布が認められ,事務所での再暴露を避けることで治癒している.事務所の空調設備には,加湿器とヒーターが組み込まれており,その冷却水とスチームコイルからMicro-polyspora fanieに類似した好熱性放線菌が検出され,菌抽出物と患者血清の沈降反応は陽性であった.患者は抽出物の吸入試験で7-12時間後に症状の再燃を呈した.以後,アメリカからはM.fanieやThermoactinomyces vulgarisなどの好熱性微生物に汚染された加湿器による発症例が多数報告された.家庭用での散発例もあるが,大工場内の空調を共同使用する部門の従事者50名中26名が発症したとの報告2)にみられるように,事業所内を起因環境とする報告例が多数であった.

直腸の粘膜脱症候群

著者: 佐藤明

ページ範囲:P.98 - P.99

 耳慣れない言葉であるが,文字どおり大腸,ことに直腸粘膜の脱出(肛門外へ脱出する顕在直腸脱と脱出しない潜在直腸脱がある)に起因すると考えられる一連の疾患で,特徴的な臨床ならびに病理像を呈する.本病態の名称については多少の混乱がある.すなわち,初期には直腸孤立潰瘍(solitary ulcer of the rectum)1)と呼ばれ,各年齢層の男女に発症するが,特に若年者の直腸前壁にみられる孤立性潰瘍病変で,病理組織学的には粘膜固有層の線維筋症が特徴であるといわれた.
 その後,潰瘍の多発する例や潰瘍のない平坦な例,逆に隆起した例もあり,これらは前述した共通の組織像を有していることから"症候群"という語が付加され,直腸孤立潰瘍症候群と呼ばれるようになった.さらに,直腸脱・痔核脱出・結腸瘻・回腸瘻の粘膜や慢性腸重積の被覆粘膜にも同様の組織像がみられ,これらの粘膜病変の共通原因が粘膜脱出に求められることから,十年ほど前に粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome2);MPS)という名称が提唱された.臨床像,病理形態学的ならびに生理学的な知見が集積されるに従い,MPSが用いられるようになってきている.

bacterial biofilm

著者: 中山一誠

ページ範囲:P.99 - P.101

 細菌の付着(bacterial adhesion)に関しては,鞭毛(flagella)および線毛(pili)が大きな役割を果たしている.鞭毛が運動器官として機能を有するのに対し,線毛は2つの機能を有する.1つは他の細胞への付着であり,もう1つはsex piliとしての役割である(図1).

アルコール性肝障害と遺伝子

著者: 田中文華 ,   小俣政男 ,   塚田悦男

ページ範囲:P.101 - P.103

 酒屋の前を通っただけで酔っぱらってしまうとか,斗酒なお辞さぬと平然としていられる,あるいは量は飲めても酒に呑まれてしまうというように,酒に対する感受性が個々の人々によって異なることが昔から経験的に知られている.最近の分子生物学的研究により,遺伝子がこれらの現象の一部を規定し,ひいては,肝障害進展への一要因となっていることが明らかにされつつある.以下に,われわれの研究室で明らかとなった最新の知見を述べたい.
 経口摂取されたエチルアルコール含有飲料(以下アルコール)はアルコール脱水素酵素(ADH)により酸化され,有毒のアセトアルデヒドになる.この有毒物質はさらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により代謝されて酢酸となり,次いで,水と二酸化炭素にまで分解されて体外に排出される.なお,過剰のアルコール摂取時,またはADH, ALDHの機能低下時には,チトクロームP450(CYP)が誘導され,アルコール代謝のバイパス的役割を担っている.これらの酵素決定遺伝子のうち,ADH2, 31), ALDH2およびCYP IIE1には多型が存在し,個々の人々でアルコール代謝能力が遺伝的に異なる.すなわち,生まれながら不快感なくアルコールそのものの作用を享受できる者,逆に,アセトアルデヒドの不快な作用(顔面紅潮,嘔気,動悸,頭痛など)を強く受け2)飲酒を好まない者が自然と存在する.

私のくふう

コルベン,ビーカー固定台の工夫

著者: 大竹敬二

ページ範囲:P.104 - P.104

 細菌検査を行うには,三角コルベンを用いての培地作りから準備を始めます.しかし,粉末培地を用いて高圧滅菌溶解された培地を各々のシャーレや試験管に規定量分注するとき,枚数や本数が多いと,軍手,手ぬぐいを用いて高温の溶解液の取扱いをしなくてはなりません.この作業はいつも重さと熱さに悩まされ,手首の力はかなり要求されます.また,足元に落ちたり,机上を染めたり,白衣にかかったりなど危険なことがたびたび発生します.
 そこで,この不安定で持ちにくく,しかも重くて熱い三角コルベンを,台上に固定するだけで安全にしかも能率良く分注作業ができるような固定台を考案しました.

研究

飲用茶利用の感受性を中心としたMRSAに対する効果および臨床応用

著者: 斎藤奈緒子 ,   松山隆 ,   森田秀 ,   二川原和男 ,   舟生富寿 ,   川口俊明 ,   松山茂

ページ範囲:P.105 - P.107

 各種茶葉抽出液のMRSAに対する効果について検討した.これらの抗菌作用は緑茶が最も大きく,以下紅茶,中国茶の順でコーヒーには認められなかった.緑茶抽出液の効果は,3%以上で顕著であり,その他のStaphylococcus属にも作用を示した.MRSA咽頭保菌者に,3%緑茶抽出液のネブライザー吸入を試み,咽頭での陰性化を認めた.しかし,鼻腔には無効であり,さらに濃度および施行方法についての工夫が必要と思われた.

資料

カルシウムの酵素的測定試薬の検討

著者: 杉岡陽介 ,   眞重文子 ,   大久保滋夫 ,   渡辺信子 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.109 - P.113

 血清および尿中カルシウムの酵素的測定試薬について基礎的検討を行った.本試薬は60mg/dlまで原点を通る直線性を示し,広範囲な測定域を有していた.同時および日差再現性のCVはそれぞれ0.97%以下および1.71%以下と良好であった.共存物質の影響を検討したところ,ヘモグロビン,ビリルビン,濁度,蛋白質,および各種の金属について影響は認められなかった.特に,o―クレゾールフタレインコンプレキソン法に影響があるアルブミンおよびマグネシウムも本酵素法にはまったく影響がなかった.内因性アミラーゼは,7,000IU/l (ブルースターチ国際単位)まで影響を認めなかった.カルシウムの標準的測定法である原子吸光法との相関は良好であった.

糖尿病外来における微量アルブミン尿の簡易測定試験紙によるスクリーニング

著者: 後藤峰弘 ,   杉浦浩 ,   富田明夫 ,   普天間新生 ,   加藤克己

ページ範囲:P.115 - P.118

 糖尿病患者70例の空腹来院時尿を用いて,尿中微量アルブミン簡易測定試験紙(BMテストMAU®)の有用性を検討した.本試験紙による判定は,アルブミン濃度(rs=0.944)のみならずアルブミン指数(rs=0.788)とも有意な正相関を示した.アルブミン濃度およびその指数との比較による診断感度は,それぞれ100,90.9%であり,陰性者の判定に良好な成績であった.糖尿病の外来診療において,微量アルブミン尿のスクリーニング検査を行うのに十分有用であると考えられた.

デタミナーHTLV-1抗体の有用性―ウイルス粗抗原を用いたEIA法キットとの比較

著者: 梅本正和 ,   楠原浩一 ,   蔵屋一枝 ,   持冨実

ページ範囲:P.119 - P.122

 HTLV-Iキャリアの母親から出生した乳児を生直後より観察し,PA法で疑陽性になった32例の血清でデタミナー(リコンビナント抗原を使用)とE社EIA(ウイルス粗抗原を使用)の比較検討を行った.4例に不一致がみられ,いずれもデタミナー(+),E社EIA(-)であった.その後の経過を追えた3例ではデタミナーの陰性化も確認できた.デタミナーはE社EIAよりもより感度がよいと考えられた.

質疑応答 臨床化学

血清鉄の日内変動

著者: 増田詩織 ,   大場康寛 ,   N生

ページ範囲:P.123 - P.125

 Q 血清鉄には日内変動があり,朝は高く夜は低いと言われていますが,どの程度のものでしょうか.また女性性周期との関係についてもお教えください.

CA 19-9のRIAとEIAとの乖離

著者: 大川二朗 ,   宮脇章 ,   S子

ページ範囲:P.126 - P.127

 Q 腫瘍マーカーのCA 19-9はRIA法とEIA法で解離する検体がときどきみられます.その原因をお教えください.

家族性高HDL血症

著者: 千葉仁志 ,   K生

ページ範囲:P.128 - P.129

 Q 家族性高HDL血症についてお教えください.

微生物

MRSAの検出と薬剤感受性試験の留意点

著者: 平田泰良 ,   井上松久 ,   I生

ページ範囲:P.129 - P.132

 MRSAのスクリーニングにオキサシリンやメチシリンの感受性検査が用いられますが,微量液体希釈法で測定する場合,培地に食塩を添加することが推奨されているのはなぜでしょうか.

ひと―ベノジェクトⅡリレー訪問

高橋 正宜

著者: 土田一男

ページ範囲:P. - P.

 小説に序章があり終章があるように,人生ではいくつかの転機に出会うことが多い.私は元来ケセラセラ型で標準線を行くつもりであったから,卒業後病理学の選択も安易な気持ちで,先輩の奨めに応じただけであった.戦後の留学は,外貨の乏しい日本では米国のフルブライト資金や西独のフンボルト資金などが主要な奨学金で,フルブライトを選んだのは新鮮な米国学派の臨床病理に接してみたかったからである.
 当時の大きな病理学の成書の1つにAndersonの名著があり,Anderson教授の指導を受ける機会を持ちたいと思っていた.実際には,病理学の一分野である細胞診断学を学ぶ(Hopman準教授)ことを通してAnderson先生に接する機会をやっと得ることができた.ばらばらの剥離細胞像から得る腫瘍や内分泌異常,炎症など,臨床情報の広さと美しいPapanicolaou染色との出会いは,帰国後某国立大学助教授の椅子をお断りし,母校の病理学教室を去る転機となることになった.序章はまさに波乱万丈であった.

今月の表紙 臨床細菌検査

Helicobacter pylori

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P. - P.

 Helicobacter pyloriは1983年,オーストラリアのWarrenとMarshallがヒトの慢性胃炎患者の胃粘膜中に高率に認め,この細菌の分離・培養に成功して以来,本菌と胃粘膜障害との関連性について精力的に検討が進められている.H. pyloriは健康人の胃粘膜にも生息するが,現在では胃疾患,特に慢性胃炎の原因菌とする考えが定着しつつある.
 慢性胃炎患者の胃粘膜生検材料から分離されたらせん状の細菌,Campylobacter様細菌は分類上Campylobacter pyloridesと命名されたが,C. pyloriに訂正された.さらに,菌体脂肪酸組成などの性状が明らかにされるに至り,現在ではH. pyloriに改められた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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