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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査38巻10号

1994年10月発行

雑誌目次

今月の主題 胃・十二指腸疾患と検査 巻頭言

日本人の胃・十二指腸疾患の変遷

著者: 川井啓市 ,   渡辺能行 ,   林恭平

ページ範囲:P.1119 - P.1121

1.はじめに
 日本人の胃・十二指腸疾患がどのように変遷してきたかを知ることは単なる実態把握にとどまらず,われわれ日本人の胃・十二指腸疾患が今後どのようになっていくかを考えるうえで興味深いことである.消化器病学の中で,来りし過去を見つめ,来るべき未来に備えることも,学問の発展にとって必要欠くべからざることである.そういう意味で,死亡統計や有病統計の中に日本人の胃・十二指腸疾患の過去をかいま見てみることにする.

総説

胃癌の分子生物学

著者: 安井弥 ,   田原榮一

ページ範囲:P.1123 - P.1128

 胃癌ではp53遺伝子の変異,TGFαの過剰発現のように,高分化腺癌と低分化腺癌とに共通した遺伝子異常が認められるとともに,K-samやc-erbB2のようにそれぞれの組織型に特有の遺伝子異常が存在する.一般に,癌抑制遺伝子の不活化は癌の発生に,癌遺伝子の活性化,増殖因子の過剰発現は癌の進展・悪性化に関与する.複数の遺伝子異常の蓄積には,DNAミスマッチ修復の異常による遺伝子不安定性が大きく関与している.〔臨床検査:381123-1128,1994〕

胃・十二指腸潰瘍の成因と治療

著者: 菅野健太郎

ページ範囲:P.1129 - P.1132

 動物実験モデルにおける消化性潰瘍の成因の探求,Helicobacter pyloriに関する臨床経験から,新しい消化性潰瘍の成因論の確立とそれに立脚した治療理論が要請されている.その1つの試みとして,潰瘍は基本的には一般的な組織障害機構と同じメカニズムで発生するという考え方を提唱した.この立場に立つと,消化性潰瘍治療は,組織障害の最も基本的病変である炎症の治療を最終目標として設定すべきであることが導かれる.〔臨床検査38:1129-1132,1994〕

胃・十二指腸と消化管ホルモン

著者: 川村洋 ,   松井輝明 ,   松尾裕

ページ範囲:P.1133 - P.1138

 近年のペプチドの化学合成の進歩および遺伝子組換え技術の発展により消化管ホルモンの研究には目をみはるものがある.
 これまでは,消化管ホルモンの生理作用については分泌に関する研究がほとんどであったが,ここ数年受容体遺伝子のクローニングや構造決定などの分子生物学的研究の成果が紹介されるようになった.本稿では消化管ホルモンの最近の話題を踏まえて概説する.〔臨床検査38:1133-1138,1994〕

技術解説

超音波内視鏡検査

著者: 芳野純治 ,   中澤三郎

ページ範囲:P.1139 - P.1143

 超音波内視鏡検査に用いられる装置には,通常の内視鏡の先端に超音波装置を装着した機種と内視鏡の鉗子孔から挿入する超音波プローブがある.消化管内腔から壁内やその近傍の臓器を診断することが可能である.脱気水充満法,バルーン法,あるいは併用法により描出する.本検査は胃・十二指腸疾患では胃癌の深達度診断,リンパ節転移の診断,粘膜下腫瘍の診断,消化性潰瘍の深さの判定や病態解析,難治・再発の予測,化学療法の治療効果判定などに用いられている.〔臨床検査 38:1139-1143,1994〕

内視鏡的粘膜切除術

著者: 川村紀夫 ,   竹腰隆男 ,   馬場保昌 ,   武本憲重 ,   小泉浩一

ページ範囲:P.1145 - P.1148

 早期胃癌の内視鏡的治療が広く行われるようになってきた.内視鏡的粘膜切除術(EMR)は切除組織の回収が可能で深達度,切除断端,脈管侵襲などの情報が得られ,治癒判定が確実である.適応はリンパ節転移がなく,癌組織全体を確実に切除できる大きさの病変である.リンパ節転移非危険病変は,①2cm以下の分化型IIa,②1cm以下の分化型U1(-) Ⅱc,③体部腺領域以外の5mm以下の未分化型U1(-) Ⅱcである.適応を厳守すればEMRは外科切除に劣らない根治療法である.高齢化社会を迎えてquality of lifeの面からもさらに適応例の増加が予想される.〔臨床検査38:1145-1148,1994〕

ガストリン

著者: 篠村恭久

ページ範囲:P.1149 - P.1152

 ガストリンは酸分泌の調節に重要な役割を果たす消化管ホルモンである.血中ガストリン値は生理的には食事摂取後に,病的にはガストリン産生腫瘍をはじめとする種々の病態で上昇する.高ガストリン血症をきたす疾患の鑑別診断にはセクレチン負荷試験,食事負荷試験あるいは尿中ビッグガストリンN端フラグメント排泄量の測定などによるガストリン分泌の病態解析が必要となる.〔臨床検査38:1149-1152,1994〕

セクレチン

著者: 池田みどり ,   白鳥敬子

ページ範囲:P.1153 - P.1156

 セクレチンは,今世紀始めに発見された膵外分泌刺激ホルモンの1つであるが,血中濃度が微量であること,セクレチンの分離抽出が遅れたこと,また,標識セクレチン作製が困難であることなどから,生理的な血中動態を検討するのに十分なradioimmunoassay(RIA)系の開発が遅れた.われわれは,Cheyらの方法に基づき,特異性の高い標識セクレチンの作製と血漿の非特異的干渉物質の除去により高感度のセクレチンのRIA系を確立した.これによるセクレチンの測定限界は2pg/mlであり,健常人の空腹時血中セクレチン濃度は4.2±2.2(mean±SD) pg/mlで食後の血中セクレチン濃度の有意な上昇も確認されている〔臨床検査38:1153-1156,1994〕

Helicobacter pylori

著者: 藤岡利生 ,   木本真美 ,   有田聖子

ページ範囲:P.1157 - P.1161

 Helicobacte pyloriは約10年前にヒトの胃粘膜から高率に分離されたグラム陰性桿菌であり,最近では胃炎,消化性潰瘍および胃癌とのかかわりが注目されている.本菌の臨床的な診断法には分離・培養法,組織学的鏡検法,ラピッドウレアーゼテスト,血清抗HP抗体価の測定,尿素呼気試験やPCR法などが用いられている.本稿ではこれらの検査法およびH.pyloriの臨床的意義について概説した.〔臨床検査38:1157-1161,1994〕

病態解説

胃の良・悪性境界病変

著者: 中英男 ,   上杉秀永

ページ範囲:P.1163 - P.1166

 胃の"良・悪性境界病変"とは良性病変と悪性病変のいずれかを診断する際,確定診断ができないときに一時的に適応する概念である.すなわち胃粘膜病変を良性病変と診断したいが,悪性病変である可能性も完全には否定できない,一方,癌と考えたいが,良性病変の可能性も完全には否定できない.このように,良・悪性をすぐには質的診断ができない胃の腫瘍およびその類似病変に対する疾患概念である.〔臨床検査38:1163-1166,1994〕

胃のMALTリンパ腫

著者: 元井信

ページ範囲:P.1167 - P.1171

 粘膜付属リンパ組織(MALT)を発生母組織とする悪性リンパ腫すなわちMALTリンパ腫はその組織像,進展様式,生物学的特性など節性リンパ腫とは異なり1つの疾患単位をなすことが提唱されている.本リンパ腫は胃腸管をはじめ肺,唾液腺,甲状腺など多くの節外性臓器に発生する.本稿では,胃のMALTリンパ腫について概説し,その概念,臨床病理学的特徴,近縁リンパ腫や反応性リンパ組織増生症との関連について論じた.〔臨床検査38:1167-1171,1994〕

non-ulcer dyspepsia

著者: 原澤茂

ページ範囲:P.1172 - P.1176

 NUD(non-ulcer dyspepsia)とは潰瘍や癌などの器質的疾患がないにもかかわらず,上腹部不定愁訴を訴えるもので,背景にある消化管機能異常を考慮してfunctional dyspepsiaとも呼ばれている.自覚症状の面から,胃・食道逆流型,消化管運動不全型,潰瘍症状型,非特異型の4つに分類される.個々の型で病態は異なるが,代表的な運動不全型では消化管運動異常,特に胃排出能の遅延が特徴的で,そのほか精神心理的要因,知覚異常,H.Pylori の関与が考えられている.〔臨床検査38:1172-1175,1994〕

いわゆる急性胃粘膜病変(AGML)

著者: 藤野雅之 ,   佐藤公

ページ範囲:P.1177 - P.1180

 ストレス,消炎剤などの薬剤服用,内視鏡などに引き続いて激しい心窩部痛をもって突然発症し,内視鏡的には胃粘膜にびらん,潰瘍の多発をみる急性の病変で,粘膜血流の減少,再潅流に伴う活性酸素の組織傷害によるものと考えられている.内視鏡後急性胃病変の症例を中心に供覧し,Helicobacter pyloriの重要性を強調した.粘膜のみの病変ではなく急性胃病変(AGL)と呼ぶのが適当であることにも触れた.〔臨床検査38:1177-1180,1994〕

話題

胃癌検診の意義の再検討

著者: 大島明

ページ範囲:P.1181 - P.1183

1.はじめに
 わが国の1955年以降の胃癌死亡の推移をみると(表1),この40年弱の胃癌死亡者数は男女合わせて5万人弱で大きな変化はないが,年齢調整死亡率は,ピーク時の1960年に比べて,1992年には約1/2以下に減少し,全癌死亡中の割合も半減している.また,1993年の人口動態統計(概数)によると,胃癌が長らく占めていた部位別癌死亡数のトップの座は,男性においては肺癌にとって代わられたことが示されている.このように,近年,胃癌のウエートは相対的には確実に下りつつある.
 わが国は世界有数の胃癌多発国という背景もあって,1960年代には,胃X線二重造影法,X線テレビ,胃内視鏡などが開発・改良され,わが国の胃癌の診断技術は世界で最も進歩している.また,この進んだ診断技術を広く国民に利用してもらうための間接胃X線検査による胃癌検診のシステムも,1960年代には整備が進んだ.胃癌の早期診断・早期発見の機器や体制の整備と年齢調整死亡率の減少開始時期がほぼ一致していることから,胃癌死亡の減少は,早期診断や検診の成果であると言われることが多い.しかし,果たしてそうであろうか.以下,簡単に検証してみることとする.

焼き魚・焼き肉の発癌性―その後の進展

著者: 長尾美奈子

ページ範囲:P.1184 - P.1185

1.はじめに
 魚や肉を加熱すると,強い変異原物質,ヘテロサイクリックアミン(HCA)が生ずる.2-アミノ-1-メチル-6-フェニルイミダゾ〔4,5-b〕ピリジン(PhIP)および2-アミノ-3,8-ジメチル〔4,5-f〕キノキサリン(MeIQx)をはじめ,19種の化合物が変異原物質として,単離構造決定されている.これらのうち,ラット,ハムスター,マウスおよびサルを用いて発癌性テストをした10種類の化合物はすべて腫瘍を誘発した.標的臓器は多様性に富んでおり,1つの化合物が複数の臓器に腫瘍を作り,かつ異なった動物種では異なった腫瘍が発生する.ヒトは毎日,これらHCAを摂取している(表1).ヒトの摂取量は,HCA単独では発癌に至らないと推定される.しかし,炎症などを含め,発癌がプロモーションされる状況下では(それはしばしば起こっているであろう),ヒトの種々の臓器の癌発生に関与している可能性が考えられる.これまで報告されている実験動物における大腸発癌物質は15を超えない.そのうち5化合物はHCAである.ここではHCA誘発大腸癌に焦点を絞って最近の進歩を紹介する.

胃癌の腫瘍マーカー

著者: 大倉久直

ページ範囲:P.1186 - P.1187

1.はじめに
 胃癌は腸粘膜細胞由来と考えられる高分化癌と低分化癌に大別されるが,それぞれの生物学的特性は少し異なっている.高分化癌は進行速度が比較的緩やかで腫瘍周囲への浸潤が少なく,遠隔転移も少ないのに対して,低分化癌は腫瘍が小さな時期から深部や周囲組織への浸潤と転移を起こすことがあり,またスキルスのように壁内浸潤と腹膜播種をとることがあって,より悪い胃癌と考えられる.

腹腔鏡下胃切除術

著者: 大橋秀一

ページ範囲:P.1188 - P.1189

1.はじめに
 近年,外科領域において腹腔鏡あるいは胸腔鏡などいわゆる内視鏡を用いた外科手術が急速に普及しつつある.その最大の理由は,言うまでもなくこの手術法においては手術侵襲がきわめて少ないために,術後疼痛が少なく早期回復さらには早期退院ができるという大きな利点を有しているからである.
 われわれは1990年春以来,わが国において内視鏡下外科手術をいち早く導入し,胆?摘出術をはじめとする種々の外科手術にこれを応用している.本稿では,これらのうち腹腔鏡を用いた胃切除術について,われわれが独自に開発した腹腔鏡下胃内手術1,2)を中心に,現在わが国における腹腔鏡下の胃切除術の現状について概説してみたい.

電子内視鏡検査

著者: 吉田茂昭 ,   大山永昭

ページ範囲:P.1190 - P.1191

1.はじめに
 1984年,米国Welch-Allyn杜がCCD (char-ged coupled device)を内蔵した電子内視鏡(商品名:Video Endoscope)を開発し,内視鏡は現在第二の技術革新の時代を迎えている.この電子内視鏡は従来のファイバースコープに比して画期的な性能を有しており,本稿ではその具体的な可能性について筆者らの成績を中心に紹介したい.なお,電子内視鏡の名称はCCDなどの小型イメージセンサーを応用した内視鏡の総称であり,Classennが種々の商品名から独立した名称として提唱したelectronic endoscopeに対応した邦訳である.

色素内視鏡検査

著者: 井田和徳 ,   杉本尚仁

ページ範囲:P.1192 - P.1193

1.はじめに
 通常,内視鏡検査は色調の変化は鋭敏に捕らえられるが,粘膜面の軽微な凹凸を観察するという点ではX線二重造影にむしろ劣る.この欠点を補うために考案されたのがコントラスト法である.色素内視鏡法にはコントラスト法のほかに染色法,色素反応法などがあるが,ここでは現在最も広く応用されている上部消化管でのコントラスト法を中心に基本手技と臨床応用について述べる.

今月の表紙 臨床細菌検査

Listeria monocytogenes

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.1112 - P.1113

 Listeria monocytogenesはグラム陽性の短小桿菌である.グラム染色性は,37℃,24時間培養の場合は明らかにグラム陽性を示すが,48時間以上培養すると脱色されやすくなりグラム陰性を示すものが多くなる.本菌は鞭毛(1~4本程度)を持ち,運動性がある.図1はL.monocytogenesの鞭毛染色像である.
 普通寒天平板培地では,37℃,1夜培養で,小さい円形の,表面平滑で透明な露滴状の集落を作り,その集落は青味を帯びて見える.血液寒天培地では,37℃,1夜培養で,明瞭なβ―溶血の溶血環を示す(図2).本菌は好気的培養条件でも発育,増殖するが,どちらかといえばやや微嫌気性であり,半流動寒天高層培地に穿刺培養すると,培地表面より数mm寒天層内に入ったところで発育,増殖が良く,円板状(横から見ると線状)あるいは雨傘状を呈する(図3).

コーヒーブレイク

故(ふる)き友

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1156 - P.1156

 またロスアンゼルスで2人の日本人留学生が凶弾の犠牲になって春秋に富む命を失った.急遽現地に飛んだ家族の姿をテレビで見ていると父親の一人のMさんが旧知の試薬会社W社の研究所長さんであるのに気付いた.ご子息の死後記者団に英語でコメントを述べておられたが,努めて冷静に銃取り締まりを訴える心情を吐露しているさまが痛々しかった.たしか米国駐在も経験されており,一家で米国には親近感を持たれていたらしく,残念さは察するに余りある.
 仕事の上で交際のあった方の不幸な報道に以前もショックを受けたことがある.日航機が群馬の山中に墜落したときで,ご遺族の中に昔内科医局員時代一緒に野球や卓球で腕比ぺをしたT製薬の新潟支店長0氏のやや老けられた顔を見いだした.お子さんとお孫さんを失った悲嘆に暮れたお顔を目にして昔の精気に満ちた顔を思い出し余計に暗然となった.

0.5

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.1161 - P.1161

 臨床検査の方法や測定手技の変更,あるいは,新しい測定方法の採用などに際して検討することの1つとして,それまで用いられてきた方法による測定値,または,基準的な方法によって得られた測定値との相関を求めます.
 その相関を表す指数として,相関係数というものを統計学の教えるところにしたがって計算し求めるのですが,理想的には,その相関係数の値が1であれば最も良く,1に近いほど,良い相関があるということになります.0では全く相関がないことを意味すると統計学では教えています.

学会だより 第15回日本肥満学会

猛暑の大阪でとりわけクールな学会

著者: 大野誠

ページ範囲:P.1194 - P.1194

 1994年7月21,22日大阪大学医学部第二内科松沢祐次教授を会長に,第15回日本肥満学会が大阪中之島のロイヤルホテルで開催された.本学会は例年11月前後に開催されるのが通例であったが,本年は第7回国際肥満学会(8月,トロント),国際糖尿病学会(11月,神戸),国際病態生理学会(11月,京都)など関連の国際会議が目白押しという特殊事情により,最も蒸し暑い真夏の開催となった.会期の両日は案の定最高気温35℃を超える猛暑が続いたが,幸い会場のロイヤルホテルが学会参加者に限定した特別割引料金を設定してくれたため,参加者の大多数はビジネスホテル並みの料金でこの超一流ホテルに宿泊し,2日間一歩もホテルから出ることなく快適に学会へ臨むことができた.この結果,むしろ例年以上に快適かつ実り多い学会として好評を博した.これは,ひとえに学会主催者とホテル側双方のご尽力の賜物であることは言うまでもないが,比較的規模が大きくない学会こそ,このようなきめ細かな運営を行えば,時期を選ばずに成果を上げることが可能であるという実績を示した点は高く評価されよう.
 本学会では,会長講演,特別講演3題,一般演題126題の口演発表があり,他にシンポジウム"肥満の成因と病態解明への分子生物学的アプローチ""肥満と糖尿病",ワークショップ"肥満と動脈硬化:シンドロームX,内臓脂肪症候群をめぐって","摂食調節と肥満"が持たれた.

第9回日本国際保健医療学会シンポジウム

発展途上国における感染症サーベイランスと臨床検査

著者: 中野博行

ページ範囲:P.1202 - P.1202

 近年,発展途上国に対する医療協力は政府,非政府によるものを問わず盛んに行われるようになった.このような医療協力の中には,難民に対する援助や,地震・水害などの災害に対する救急医療援助のほかに,母子保健,地域医療,予防接種,医療技術の移転など各種のプロジェクトが数多く存在する.筆者らは,今秋よりアフリカのマラウィ国に対する公衆衛生プロジェクトを開始することになっているが,その活動の中核として,感染症を中心とする臨床検査の技術移転とモデル地区における感染症サーベイランスの実施が課題となっている.
 今回,鹿児島市で開催された第9回r体国際保健医療学会(7月30日~31}」,会長:大山勝鹿児島大学耳鼻科教授)のシンポジウム"発展途土国における感染症サーベイランズ’を見聞する機会を得たので,その内容を報告するとともに,発展途上国における感染症サーベイランスと臨床検査について考えてみたい.

座談会PartⅠ・2

遺伝子検査

著者: 引地一昌 ,   高橋正宜 ,   村松正實 ,   河合忠氏

ページ範囲:P.1195 - P.1198

 河合 第1回目では,村松先生から分子生物学の歴史,それからその中で遺伝子の構造と機能の基本的な知識を織り交ぜてお話しいただきました.今回は,そういう基礎知識がどんどん増えてきた段階で,実際に臨床に応用するに当たって,どういう技術があるのか.そのあたりをまず引地先生からまとめていただきたいと思います.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・22

CK-Mサブユニット変異例(fast type)のCK-MMアイソフォーム

著者: 大井絹枝 ,   為田靱彦 ,   小板義種

ページ範囲:P.1199 - P.1201

●結果の判定●
 CK-MMアイソフォーム検査では通常は図1の1と8のようにCK-MMは陽極側からMM1,MM2,MM3,の3本に分離される.図1の2~7は冠動脈バイパス術,弓部大動脈瘤切除術後の経時的変化をみた症例のCK-MMアイソフォームであるが,MMアイソフォームは7本のバンドに分離され,術後の経時的推移に従い,各バンドの増減が認められる.本症例のMMアイソフォームに認められたバンドは,陰極側の3本(e,f,g)が通常のMMアイソフォームのバンドMM1,MM2,MM3に一致し,陽極側に4本の余分なバンドが認められた.この原因は図2-bの模式図に示すようにfast typeの変異Mサブユニットの存在が考えられた.

トピックス

βアミロイド蛋白前駆体蛋白

著者: 岡輝明

ページ範囲:P.1203 - P.1204

 高齢化社会を迎え,深刻な社会問題となっている老年期の痴呆性疾患はアルツハイマー病と脳血管性痴呆に大別される.アルツハイマー病は,65歳未満に発症する狭義の初老期アルツハイマー病と老年期のアルツハイマー型老年痴呆とを合わせた呼称であり,不明の部分の多い難病である.初老期アルツハイマー病は通常孤発性であるが,まれに常染色体優性遺伝を示す家族性アルッハイマー病も知られている.アルツハイマー病の脳病理所見は,アルツハイマー神経原線維変化および老人斑の出現などの特徴的変化のほか,神経細胞の変性・消失および顆粒空胞変性,反応性の星状膠細胞増生などが観察され,これら一種の老年性変化が生理的部位・程度をはるかに越えて,大脳新皮質にも高度かつ広範に観察されるのが特徴である.
 これらの神経病理学的変化のうち,老人斑はアルツハイマー病のほかダウン症候群の脳にも認められ,Bodian法などの鍍銀法で明瞭に観察されるさまざまの大きさの好銀性の球状構造であり,HE染色標本では注意していないと見落としてしまう.古典的な老人斑は,中心部にアミロイド物質の沈着を伴う芯(central core)を持ち,それを腫大した変性神経突起が花冠状に囲み,その周囲に反応性のグリア細胞が出現する.

ヒトチオレドキシンー成人T細胞白血病由来因子

著者: 笠原靖

ページ範囲:P.1204 - P.1205

1.はじめに
 チオレドキシン(thioredoxin;Tx)は,大腸菌から高等動物に至るまで広く保存されているSH基を有する酸化還元蛋白質で,ヒト型は1988年,B細胞株からWollmanら1)によりクローニングされた.一方,HTLV-I(human T lymphotropic virus type I)産生株からインターロイキン2レセプターα鎖(IL-2 Rα)の誘導物として単離されていた成人T細胞白血病由来因子(ADF;ATL-derived factor)がある.これが1989年にT細胞株(ATL-2)からクローニングされ,チオレドキシンと同一分子であることが判明した.
 Tx/ADFとは分子量約12,000のペプチドで,由来により20%前後配列に相違が認められるが,2つのシステイン間にグリシンとプロリンを挟んだ特徴的な共通配列(-Cys-Gly-Pro-Cys-)を有し,2つのシスチン残基が酸化還元作用に関与している.

川崎病の病因論―スーパー抗原性感染因子の可能性

著者: 内山竹彦

ページ範囲:P.1206 - P.1207

1.はじめに
 川崎病は急性全身性症状を示す小児の感染症を疑わせる疾患であるが(表1),病原因子は特定されていない.病理組織学的には全身の中小動脈の炎症があり,冠動脈瘤などの冠動脈病変の有無が患児の予後を左右する.これらの異常反応にはT細胞の活性化が関与している可能性が高い1).その根拠として,急性期の血液検査所見には,①TNF-α,IL-2, IL-6, IFN-γなどのサイトカインの検出,②遊離IL-2レセプターの検出,③可溶性CD4やCD8分子の検出,④HLAクラスII分子T細胞の増加,などを挙げることができる.そのほかB細胞やマクロファージなどの活性化の所見もみられる.
 最近になって,川崎病の病原因子の候補とスーパー抗原性感染因子の関与が考えられるようになった.川崎病とスーパー抗原を結び付ける根拠はどのようなものだろうか.

infection associated hemophagocytic syndrome(IAHS)

著者: 和田靖之

ページ範囲:P.1208 - P.1210

 近年さまざまな疾患の経過中に,反応性の組織球増殖症の合併が知られている.また生来健康で,特に既往歴の点でも問題がみられないような患者が突然,発熱を伴い汎血球減少症を呈し,同様に臓器内で組織球の増殖とその細胞の貪食能の亢進がみられることがある.このように骨髄やリンパ節などの網内系の臓器を中心に,活発な組織球の貪食がみられることを特徴とし,さらに臨床的に汎血球減少症,発熱,出血傾向,肝障害などを呈する疾患を総称してhemophagocytic syndrome(HPS)としている.これらの組織球の機能亢進症の原因の1つに,ウイルス感染に伴って発症するvirus associated hemophagocytic syndrome(VAHS)が,1979年にRisdallら1)によって最初に報告されて以来,同様な病態が重症細菌感染症や結核,真菌症などでも発症することが相次いで報告され,これらの感染症により発症するものを近年infection associated hemophagocytic syndrome(IAHS)と総称する傾向になってきた.
 これらのHPSは,一般にさまざまな症状を呈するとされている.当科で経験したさまざまな基礎疾患を有するHPS 14例(表1)について臨床症状を検討すると,最も多い症状は発熱でほぼ全例にみられており,その他は肝脾腫,リンパ節腫脹,発疹などの順であった.

研究

Sympathetic skin response (SSR)と慣れ

著者: 吉良保彦 ,   荒巻駿三 ,   小倉卓 ,   平澤泰介

ページ範囲:P.1211 - P.1214

 健常被検者を対象に,手導出と足導出を用い,連続刺激誘発法によるSSRの慣れの影響を検討した.SSRの振幅において,慣れ現象により手導出では7回目まで,足導出では8回目の刺激まで漸次減少した.一方,潜時には有意な変動を認めなかった.しかし,振幅において手導出では7回目以降,足導出では8回目の刺激以降で恒常性が認められた.また,1週間間隔を開けて記録したSSRの反応は,潜時に再現性が認められたが,振幅には2回目の施行で有意な減少が見られ,再現性が認められなかった.

腎移植時におけるフローサイトメトリークロスマツチの基礎的検討

著者: 樺澤憲治 ,   長崎聡子 ,   松山茂 ,   森田秀 ,   二川原和男 ,   舟生富寿

ページ範囲:P.1219 - P.1223

 腎移植術前における低力価の抗ドナーTリンパ球抗体の検出を目的として,two-color flow cytometry法(FCXM)についての基礎的検討を行い,以下の成績を得た.①標識二次抗体の至適濃度は200倍希釈であった.②陽性の判定基準としては,平均蛍光強度差5ch以上,陽性率30%以上が妥当と思われた.③FCXMは従来法より数倍~数百倍高い感度で,ドナー特異的輸血による抗ドナーリンパ球抗体の出現を従来法より2週間早く検出した.

資料

当院で経験した糞線虫症の一症例と,検出糞線虫に対する各種消毒薬の殺虫効果

著者: 甲田雅一 ,   佐藤喜春 ,   西村秀司 ,   松崎廣子

ページ範囲:P.1215 - P.1218

 筆者らは,50年間にわたり自家感染を繰り返していたと思われた糞線虫症の1例を経験した.患者は長年下痢で他院を受診していたが,糞線虫は見逃されていたようであった.糞線虫は東京ではまれな寄生虫であるが,検査者はこのようなまれな感染症をも念頭に置き,常に注意深い検査を心がけるべきである.
 糞線虫は,フィラリア型幼虫になると経皮感染するため,患者糞便取り扱い後には厳重な消毒を行う必要がある.そこで,検出糞線虫に対する各種消毒薬の殺虫効果について検討を行った.筆者らの,本症例からの検出糞線虫を用いた実験からは,糞線虫症患者の糞便取り扱い後の手指の消毒にはポビドンヨードが最も適すると思われた.

自己赤血球凝集反応による血中D dimer測定用試薬(SimpliRED D dimer)の検討

著者: 榎本誠 ,   白幡聡 ,   林実 ,   太田俊行 ,   小林利次

ページ範囲:P.1227 - P.1230

 血中D dimer測定に自己赤血球凝集反応を応用したSimpliRED D dimerは,ラテックス粒子凝集反応による測定に比べ凝集像の判定が容易である.また,ヘパリン,EDTA,フッ化Naを抗凝固剤に用いた全血でも測定可能である.再現性も良好で他のD dimer定量測定法との相関も良い.さらにSimpliRED D dimerは全血での検査が可能なためベッドサイドでのDICのスクリーニング検査にきわめて有用であると考えられた.

編集者への手紙

"周術期の検査"を読んで

著者: 内田和秀 ,   大川修 ,   佐藤尚 ,   青木正

ページ範囲:P.1224 - P.1225

 本誌(38巻3号)今月の主題掲載の"周術期の検査"を大変典味深く拝読させていただきました.特に術中検査においては,迅速細胞診,迅速組織診,術中エコー,生体肝移植の術中術後検査の項目が設けられ,系統立てられた構成が注日を引きました.しかしながら,上記検査に比較して頻繁に行われる一般的な検査項目が省略されていたのは残念な限りです.そこで本稿では,当院で術中に日常施行している検査項目を紹介するとともに,サテライト検査の意義を簡単に述べたいと思います.
 手術部検査室には専任の臨床検査技師を1名配属し,術中検査・検査機器の保守および精度管理などの日常業務ならびに臨床研究に伴う検体の前処理・分析の外注・中央検査室への依頼などの臨時業務を遂行している.検査項目と使用機器を表1に示す.血液ガスは酸塩基平衡を含む術中呼吸管理に,また電解質は輸液管理に大きな助力となることは言うまでもない.グルコースは糖尿病合併症例の増加に伴い術中血糖コントロールに欠かせず,血算は輸血療法の適正化1)に貢献している.人工心肺運転時は誤差が少ないことからHctをミクロヘマトクリット法で求め,溶血をも確認している.

質疑応答 血液

抗リン脂質抗体とループスアンチコアグラント

著者: 鏑木淳一 ,   橿原京介

ページ範囲:P.1231 - P.1233

 Q 抗リン脂質抗体とループスアンチコアグラントの違いについて教えてください.また,それぞれの検査法の分類と特徴についても併せてご説明ください.

病理

ヒト乳頭腫ウイルス感染細胞の診断上の取り扱い

著者: 福田耕一 ,   松尾憲人 ,   棚町豊二 ,   A生

ページ範囲:P.1233 - P.1234

 Q アメリカでは,ヒト乳頭腫ウイルス感染所見は異形成と同じ病変とするとの考え方が一般化してきたようですが,わが国では日常業務でどのような判定を下せばよいでしょうか.

その他

外国雑誌(英文誌)への投稿の方法と注意点

著者: 伊藤喜久 ,   Q生

ページ範囲:P.1234 - P.1236

 Q Clinical Chemistryなどの外国の雑誌に投稿する場合の注意点,採用されやすいこつがあれば教えてください.

計量単位の統一化―SI単位の理解と利用

著者: 大場康寛 ,   K子

ページ範囲:P.1236 - P.1238

 Q 第37巻第2号(1993年2月号230ページ)の本欄に「臨床検査におけるSI単位」がありました,当院の血糖,電解質,コレステロールの単位がmg/dlとmEq/lとなっていましたので,生化学検査担当者にmmol/lを使ったほうがいいのではないかと質問したところ,変換したほうがいいという返事は返ってきませんでした.MCVとMCHはすでにSI単位を使っています.
 私は一般検査が長く現在が細菌検査担当なので,いつまでにSI単位に切り換えるべきかわかりません.お教えください.また,わが国では現在,どのくらいの施設でSI単位が使われているのでしょうか.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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