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雑誌目次

論文

臨床検査38巻12号

1994年11月発行

雑誌目次

今月の主題 超音波検査―最近の進歩 巻頭言

超音波診断技術の流れ

著者: 伊東紘一

ページ範囲:P.1245 - P.1246

 超音波を利用した検査・診断は1947年のDussikに始まるとされる.しかし,実際に超音波により生体内部を描出することができ,診断に利用できることがわかってきたのは,JJ WildとJM Reidが超音波断層法により癌を描き出した1950年ごろからである.もちろん,現在の超音波検査・診断の発展から振り返ると,1842年のCJ Dopplerと1880年のPiere, Jack Curieによるドプラ効果とピエゾ電気現象の発見は特筆する貢献であったことは言うまでもない.その後基礎,臨床あるいは各科領域における数々の発明,開発,研究により,検査・診断の進歩が加速されてきた.これまでの超音波検査・診断の発展の道のりにおいて数々の山々をなす研究があったが,リアルタイム診断装置とカラードプラ診断装置の出現は特筆すべき大きな山であったといえる.現在の超音波検査・診断のレベルは本号の各論文において示されるところである.これらの超音波診断の流れについて概観してみることにしたい.
 超音波を用いて診断を行ううえで,大きな流れと小さな流れ,非観血的な流れと観血的な流れ,非侵襲的な流れと侵襲的な流れ,定性的な診断と定量的な診断法,解剖的な情報と機能的な情報,各臓器におけるそれぞれの流れなど,さまざまな道筋がみられる.これらの幾筋もの流れを見ていくことにする.

テクノロジー

最近の診断装置

著者: 入江喬介

ページ範囲:P.1247 - P.1252

 最近の超音波診断装置の進歩は目覚ましいものがある.特に,画像診断で重要な画質の向上と,循環器分野から腹部分野へと広く使われるようになったカラードプラの性能向上,および新手法の導入が目立ってきている.この画質向上とカラードプラの新手法と性能向上について述べた.〔臨床検査38:1247-1252,1994〕

組織性状診断の現況とその臨床応用

著者: 谷口信行 ,   伊東紘一

ページ範囲:P.1253 - P.1257

 組織性状診断は,組織の構造・構成成分を知るために,超音波の物理的性質を利用するものであり,音速,減衰量,散乱(反射),非線形パラメータなどがよく検討されている.これらのうち,肝臓などでは脂肪肝などで非侵襲的な検討が行われ,肝内脂肪量など臨床的に有力な情報が得られている.今後,現在の超音波断層像で診断できない方面への発展が期待される.〔臨床検査38:1253-1257,1994〕

体表領域

甲状腺腫瘍の診断

著者: 横沢保 ,   森田新二

ページ範囲:P.1258 - P.1261

 超音波検査用の機種や探触子の選び方,患者の体位,良い甲状腺エコー図を得るためのコツ,われわれの病院で実際に用いられている記録用紙,甲状腺腫瘍の診断基準を述べた.さらに,甲状腺癌診断のポイント,特に甲状腺特有の悪性疑い結節への考え方を概説した.〔臨床検査38:1258-1261,1994〕

末梢血管病変の診断

著者: 石光敏行

ページ範囲:P.1262 - P.1266

 診断対象としての末梢血管病変には,血管の狭窄性病変と拡張性病変に加えて血管内血栓がある.狭窄性病変は主として動脈に生じ,成因の多くは動脈硬化性である.拡張性病変は動脈にも静脈にも生じ壁在血栓の好発部位となる.超音波法は形態的変化だけでなく血流異常も評価できるため,これら病変に対して第一に選択すべき検査手段である.近年,侵襲的手法であるが血管内超音波法が導入され,これにより動脈硬化の詳細な観察が可能になった.〔臨床検査38:1262-1266,1994〕

腹部消化器領域

腫瘍造影法

著者: 工藤正俊

ページ範囲:P.1267 - P.1272

 USアンギオグラフィは,超音波検査と血管造影を組み合わせた新しい手法であり腹部,特に肝・胆・膵領域の腫瘍の血行動態的診断の目的で施行される.特に肝腫瘍においては,正確な血管構築を描出するうえで本法はきわめて有用で,肝細胞癌,転移性肝癌,血管腫,FNH,腺腫様過形成の診断能が向上する.膵腫瘍では,膵癌と腫瘤形成性膵炎の鑑別や,膵島細胞腫の診断に有用である.胆道系の腫瘍では,胆嚢隆起性病変の血流の検出に有用で,良悪の鑑別の一助となりうる.〔臨床検査38:1267-1272,1994〕

管腔内超音波検査法―消化器領域における臨床的意義

著者: 古川剛 ,   内藤靖夫 ,   塚本純久 ,   丹羽康正 ,   早川哲夫

ページ範囲:P.1273 - P.1278

 消化器領域の管腔内超音波検査法は,消化管では内視鏡的粘膜切除術を施行するうえで重要な早期癌の深達度診断に,胆管癌では壁深達度,周囲脈管臓器(肝動脈,門脈),リンパ節転移などの進展度診断に,乳頭部ではOddi括約筋の描出が可能で,早期癌の診断を含めた進展度診断に有用である.また,膵癌と限局性膵炎および腫瘤形成性膵炎の鑑別診断,主膵管型粘液産生膵腫瘍の膵管内進展度診断と良悪性の鑑別診断(膵実質浸潤の診断),膵癌の門脈浸潤の有無の診断に有用である〔臨床検査38:1273-1278,1994〕

腹部カラードプラ法―最近の進歩

著者: 石田秀明 ,   紺野啓 ,   宇野篤

ページ範囲:P.1279 - P.1283

 最近急速に普及した腹部カラードプラ法の現状について述べる.検査の煩雑さを補う多くの利点に加え,今後発展すると思われる本法の新しい利用法―三次元表示,パワー表示,コントラスト法,についても触れる.〔臨床検査38:1279-1283,1994〕

膵腫瘍の診断

著者: 木本英三

ページ範囲:P.1284 - P.1287

 膵腫瘍の超音波診断では,腫瘤を明瞭に描出したうえで所見を詳細に読んでいくことが重要である.描出上注意を要するのは膵鉤部であり,pancreatic spar-ingについても知っておく必要がある.膵癌,膵島細胞腫などの特徴や,鑑別診断上の限界についても述べた.鑑別診断には,分解能の高い像の得られる超音波内視鏡の有用性が高い.〔臨床検査38:1284-1287,1994〕

泌尿器領域

尿管病変の診断

著者: 棚橋善克 ,   坂井清英 ,   田岡佳憲

ページ範囲:P.1289 - P.1293

 尿管内エコー法は,ごく細い超音波プローブを直接尿管内に挿入して,近距離から高周波の超音波で腎盂や尿管の断面像を描出する方法である.この方法は手技も容易で,これまで既存のあらゆる画像診断法を用いても描出不可能であった腎盂,尿管の壁の構造・病態を,ほとんど非侵襲的に映像化することができる.〔臨床検査38:1289-1293,1994〕

睾丸腫瘍診断におけるドプラ法―エナジー表示の役割

著者: 中村昌平

ページ範囲:P.1294 - P.1297

 従来,カラードプラ法は,主として循環器などで血流の観察に使用されてきた.ドプラ法の応用範囲を広げる試みとして,癌診断がある.今回特に睾丸腫瘍での,ドプラ法のエナジー表示法の応用に的を絞って述べた.通常のドプラ法が血流の方向,速度を示すのに対し,エナジー表示法では,エネルギー量そのものに対応した色表示がなされる.そのため,雑音が少なく安定した描出が可能で,補助診断法としての有用性が確認された.〔臨床検査 38:1294-1297,1994〕

産婦人科領域

胎児の出生前診断

著者: 原量宏

ページ範囲:P.1298 - P.1301

 すべての妊婦にとって最も関心の高い問題が,胎児の奇形の有無に関することである.香川医大の分娩統計においても,妊娠12週以降においてなんらかの先天異常が3.4%の頻度で認められており,出生前に胎児に異常がないことを確認し,妊婦の不安を軽減しておくことは意義のあることである.不幸にして異常が発見された場合においても,水頭症や消化管の異常などに関しては,出生後早期の手術により大幅に予後が改善されている.また,最近は子宮内においても胎内手術の試みが報告されており,先天異常の早期発見と正確な診断は臨床的にも重要と思われる.〔臨床検査38:1298-1301,1994〕

卵巣腫瘍の診断

著者: 秦幸吉 ,   秦利之 ,   北尾学

ページ範囲:P.1303 - P.1309

 超音波診断法による卵巣腫瘍診断は興味ある領域の1つである.現在に至るまで,卵巣腫瘍の超音波診断に関するさまざまな報告が認められている.本稿ではその現状について解説する.われわれ婦人科臨床に携わっている者は,それらの情報を素直に理解し,個々の認識能力を向上させ,超音波診断法による卵巣腫瘍診断が今後,よりいっそう完成されたものになるよう努めるべきである.〔臨床検査38:1303-1309,1994〕

話題

高速度超音波差分断層法(high-speed DSE)の臨床的意義

著者: 石原謙 ,   桝田晃司 ,   長倉俊明 ,   近藤寛也 ,   田内潤

ページ範囲:P.1310 - P.1313

1.はじめに
 従来のBモード超音波断層法では,通常の扇形走査において毎秒30画面すなわち時間分解能33msの観察に制限され,さらに空間分解能ひいては変位分解能も実際上超音波波長の数倍の約1~3mm程度であり,高精度な変位計測は困難であった.
 そこで,新しい画像診断法として10ms以下の高い時間分解能と,使用超音波波長よりはるかに短い0.05mm (50μm)以下の高精度な変位分解能を兼ね備えた,高速度超音波差分断層浸(high-speed digital subtraction echography;high-speed DSE)を開発1~5)した.その概要とその医学的有用性6~10)のいくつかを述べる.

AQ(自動定量計測)法の現状

著者: 冨本茂裕 ,   上松正朗 ,   宮武邦夫

ページ範囲:P.1315 - P.1317

1.AQとは
 最近,血液と心臓構造物との音響学的特性の差を認識し,両者間の境界を自動的にトレース,心腔断面積をリアルタイムに算出するシステムが開発された(acoustic quantification;AQ).このシステムを用いると,心内腔断面積やそれに基づいて計算される断面積変化率などが精度よく求められることが報告されている1,2).さらに,本システムには2種類の容量測定プログラム(modified-Simpson法,area-length法)が内蔵されており,瞬時瞬時の心室容積を求めることが可能となっている.この装置を使用することにより,従来は用手的にトレースしなければならなかった心内膜境界がリアルタイムにオンラインで認識され,容積計算やその他の心機能指標を算出する際に有用と考えられる.

泌尿器領域のコントラスト法

著者: 石橋忠司

ページ範囲:P.1318 - P.1319

1.はじめに
 1968年Gramiakが末梢静脈からの超音波造影を示唆して以来,心大血管系の超音波造影を中心に熱心な研究がなされてきたが,CT,MRIをはじめとする放射線医学の造影検査の占める重要性と比較して,超音波検査での造影法の開発,意義はいまだに十分とはいえない.これは,ヨード造影剤などとは異なり,安定した薬剤として経静脈的に投与できないからである.多くの超音波造影剤では肺の毛細血管を通過できず,左心系やその末梢の臓器の造影ができないのである.現在開発治験中の超音波造影剤(galactose/fatty acidentrapped microbubble=Levovist)もカラードプラ用であり,泌尿器科領域での充実性臓器の造影には不十分と考えられている.
 現在使用可能な方法は,肝臓で行われるようになった経カテーテル的に炭酸ガスのmicrobub-buleを用いて造影する方法1,2)である.われわれが1992年北米放射線学会(RSNA)でこの領域でいちはやく報告して以来,最近,腎臓,膀胱でも使用されるようになってきた.この超音波造影の方法と結果ならびに症例を提示する.

今月の表紙 臨床細菌検査

Eikenella corrodens

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.1238 - P.1239

 Eikenella corrodensはEikenella属に属する唯一の細菌である.微好気性のグラム陰性桿菌で,ヒトの口腔内や上気道粘膜に常在する.
 血液寒天培地やチョコレート寒天培地に発育するが,普通寒天培地やマッコンキー寒天培地には発育しない.炭酸ガス培養によりよく発育し,通常2.5~10%CO2の環境下で,35~37℃,48時間培養する.集落は小さく(直径0.5~1mm),辺縁扁平,中央凸あるいはドーム状の特徴ある形をし,培地の表面にめり込むように発育するもの(pitting colony, corrode)とそうでないもの(nonpitting colony)が同時に認められる.菌苔は薄い黄色調を呈することが多く,次亜塩素酸塩系の漂白剤に似た独得の臭気を放つ.

コーヒーブレイク

旅愁

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1272 - P.1272

 今の若い世代は明治時代に作詞された"旅愁"という唱歌をご存じかどうか知らない.日露戦争の後の軍国への道を辿っていた頃,西洋のある曲に合わせて日本人により作詞され,大正,昭和にかけて愛唱されたものである.
 "更け行く秋の夜 旅の空の わびしき思いにひとりなやむ 恋しやふるさと なつかし父母夢にもたどるは 故郷(さと)の家路 更け行く秋の夜 旅の空の わびしき思いに ひとりなやむ"

r

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.1309 - P.1309

 相関係数は,統計学ではRの小文字"r"で略記することになっています.これはcorrelationの中のrからきたものと思います.そして言うときには"アール"と呼ぶことにし,共通して使われています.
 ところが,この文字がギリシャ語の"γ(ガンマー)"に似ていることから,"相関係数ガンマーは……"と言っている人がいます.ギリシャ語で発音したほうがカッコいいかも知れません.発表にもギリシャ文字を使ったりしていますが,いかがなものでしょうか.

学会だより 第10回国際エイズ会議/国際STD会議

地球規模でエイズに挑む

著者: 広瀬崇興

ページ範囲:P.1288 - P.1288

 第10回国際エイズ会議/国際STD会議がアジアで初めてパシフィコ横浜(横浜国際平和会議場)において,厚生省などの後援で塩川優一組織委員長のもと,1994年8月7~11日の5日間に開かれた.新聞,テレビなどのマスコミで連日報道されていたように,今回は性感染症(STD)の1つとしてのエイズの予防を推進するために,国際エイズ会議と国際STD会議を同時開催することになったと聞く.
 この会議は先進国と途上国も含め世界中の130か国から,研究者だけではなく,HIV感染者,エイズ患者(PWA),sex worker (売春婦),同性愛者の団体,患者支援団体,教育者,行政関係者など約1万1千人(日本人5,500名)にものぼる人たちが参加し,エイズ克服に向けて討議がなされた大会である.昨年のベルリンでの会議では患者団体のデモなどがあり,かなり混乱したようだが今回はほぼ平穏に終えた.

編集者への手紙

COBAS MIRAを用いたラテックス凝集法による血清ミオグロビンの測定における精度向上に関する―方策

著者: 山田満廣

ページ範囲:P.1314 - P.1314

1.はじめに
 現在まで当施設では,急性心筋梗塞の臨床検査診断に利用される血清ミオグロビン(Mb)の測定を,ラテックス凝集法により自動分析装置COBAS MIRA(F. Hoffmann La Roche社)に適用し1)対処してきた.今回,分析装置をCOBAS MIRA Plusに変更することを目的として再現性試験の検討を行ったところ,比較的低値域において大きな"バラツキ"が認められ,まったく満足できるものではなかった.しかし,同機により測定しているアデノシンデアミナーゼ,遊離脂肪酸,CKMB,CH50などの他項目では良好な成績を示すことから,Mbに限定された何らかの原因があるものと考えられ,若干の検討を行った.

座談会PartⅠ・3

遺伝子検査

著者: 引地一昌 ,   高橋正宜 ,   村松正實 ,   河合忠

ページ範囲:P.1321 - P.1324

 河合 今回のテーマは,前回話されたような新しい技術を使って,遺伝子が関連する病気をどのように診断していくかということです.村松先生,その前にヒトのゲノム・マッピング・プロジェクトという,ヒトの遺伝子の構造をみんな解明しようというとてつもないプロジェクトが進んでいるそうですが,これをちょっとご説明いただけますか.
 村松 そろそろ10年ぐらいになると思いますけれども,アメリカを中心にヒトの遺伝子を全部決めよう,しかもDNAのシークエンスを配列のレベルで全部決めようという相談がされました.初めしばらくは,その可能性を検討していたのですが,ようやくいろいろな技術が進んできて,可能であろうということで数年前からアメリカでは,その予算づけが行われ,進んでいます.日本でも,それに呼応して少しずつ進みつつあるのが現状です.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・23

大リンパ球様細胞の出現するhairy cell leukemia

著者: 中原一彦

ページ範囲:P.1325 - P.1328

検査結果の判定
 図1に示す細胞は,類円形の核を有する,大型のリンパ球様の細胞である.特徴的なのは淡青色の広い胞体であり,よく見るとフレア様の大きなひだがあるように見える.この細胞は,わが国でみられる,hairy cell leukemia (HCL)の症例に認められるHCL細胞である.同じHCL細胞でも,欧米型のものは単球様であり様子を異にする.いずれにしろ,このような大リンパ球様の細胞が増えている症例をみたら,まずhairy cell leukemiaを疑うべきである.

トピックス

ミトコンドリア遺伝子異常とslowly progressive IDDMc

著者: 小林哲郎

ページ範囲:P.1329 - P.1330

 ミトコンドリアは細胞内器官のうちで呼吸鎖に関係する代謝(酸化的リン酸化によるATPの産生)の場としてきわめて重要な役割を果たしている.ミトコンドリア遺伝子は核の遺伝子と異なった固有の約16,000塩基から成る環状の二重鎖から成り立っており,ミトコンドリア酵素のうちチトクロームcオキシダーゼをはじめとする13種のサブユニット,また22個のtRNA,さらに2個のrRNAをコードしている.最近このミトコンドリア遺伝子の3,243番塩基の点変異(A→G)と糖尿病の発症が密接に関連していることが明らかになった1~3).その遺伝様式は,他のミトコンドリア遺伝子異常と同様に母系遺伝の様式をとる.
 いくつかの糖尿病の病型の中でも緩徐に進行するインスリン依存型糖尿病(slowly progressive IDDM)の症例に高頻度にこの変異を認めた(表1).一方,急性発症インスリン依存型糖尿病(IDDM),インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)での頻度は1~3%であった.

ヌクレオリン

著者: 椎名義雄 ,   大河戸光章

ページ範囲:P.1330 - P.1331

 核小体は,核質より密度が高い球状体として光学顕微鏡で容易に観察され,リボソーム合成の場である.正常ヒトrRNA遺伝子は第13,14,15,21,22番の5対の染色体短腕上にあり,これが核小体形成部位(nuclear organizer regions; NORs)と呼ばれるもので,有糸分裂の直後は10個の核小体を形成するが,それはすばやく融合し,間期細胞では1個の大型核小体となる.rRNA遺伝子はポリメラーゼⅠによって猛烈に転写され,rRNA前駆体はさらに細胞質で作られた蛋白と大きな複合体を形成し,プロセッシングを受け,リボソームが合成される.

ナノバイオロジー:生体機構を直接目で見る技術

著者: 加畑博幸 ,   嶋本伸雄

ページ範囲:P.1332 - P.1333

1.はじめに
 蛋白質は,核酸やほかの蛋白質に対してどのように作用しているのだろうか.
 近年,蛋白質分子がDNAや別の蛋白質と結合したあと,DNA上を移動したり,結合した相手の構造を変形させたりするなどのダイナミックな相互作用が想定されている1)

超遠心分析:そのリバイバル

著者: 高木俊夫

ページ範囲:P.1334 - P.1334

 "超遠心機"という用語は最高回転数が数万回転/分程度まで可能で,温度と回転数の制御を精度良く行うことができる遠心機を指すと一般に考えられるようになっている.超遠心機は分離のための装置であって,上澄みと沈殿を分離するような初歩的な使用に始まって,密度勾配沈降法のような分離能の優れた方式に至るまでさまざまな様式で愛用されている.しかし,"超"がつく遠心機は強力な遠心場における蛋白質の沈降の様子を観察することを目的として開発されたものであって,主要な推進者の一人であったSvedbergは,沈降係数の単位,S(=10-3秒)に彼の頭文字をとどめている.したがって,40年ほど前までは超遠心機と言えば分析用専用の装置であり,分析用装置を折に触れて分離用に使用することも行われていた.その後,生化学・分子生物学における需要に応えて分離用の超遠心機は質と量の両面で長足の進歩を遂げてきた.他方,分析用超遠心機は,初期の主要目的であった蛋白質の分子量の決定が,ほかの簡便な方法で行えるようになったために衰退の道をたどってきた.
 振り返ると,"物質の沈降の観察"は金をはじめとする鉱物を求めて山野を跋渉した山師たちが,水に懸濁した山土や川砂の挙動を見守って以来の長い歴史を持つ測定法であって,科学のいろいろな局面で他の方法では代え難い貴重な寄与を行ってきた.

資料

コロジオンバッグを用いたセルブロック作製法

著者: 坂東美奈子 ,   広川満良

ページ範囲:P.1335 - P.1338

 コロジオンバッグを用いたセルブロック法と一般的な他のセルブロック法とを比較した.この方法は簡便で,作製時間が短く,細胞成分が少ない検体やすでに固定している液状検体にも応用でき,溶血操作を必要としないなどの優れた点が多く,今後の利用が期待される.

Helicobacter pylori検出のためのWarthin-Starry HE染色の意義

著者: 山口昌江 ,   広川満良 ,   清水道生 ,   真鍋俊明 ,   黒川幸徳

ページ範囲:P.1339 - P.1342

 Helicobacter pylori (H.pylori)の組織学的な検出法として推奨されているWarthin-Starry HE(WS-HE)染色の有用性を検討した.胃生検材料においてWS-HE染色を行い,胃粘膜上皮表面に陽性桿菌が確認された58例中35例に抗H.pylori抗体に陽性の桿菌がみられた.一方,抗H.pylori抗体を用いた免疫組織化学染色でH.pyloriを確認した37例中35例にWS-HE染色陽性桿菌がみられた.既知の細菌(18種類),真菌(8種類),原虫(1種類)にWS―HE染色を施すとMucorを除くすべてが陽性であった.このことから,WS-HE染色は非特異的な染色法であり,胃生検材料で組織学的にH.pyloriの検討を行う際は,WS-HE染色をスクリーニングとして用い,さらに同定するためには抗H.pylori抗体を用いた免疫組織化学染色を行うべきと思われる.

トータルラボラトリーオートメーションに対応する血糖・フルクトサミン自動分析装置の開発

著者: 仲道男 ,   広瀬和典 ,   森田寛二 ,   東畠正満 ,   中恵一 ,   下條信雄 ,   巽典之

ページ範囲:P.1343 - P.1347

 本装置は検体搬送ベルトラインとホストコンピュータによる検査データの一括管理システムに接続可能な全自動血糖・フルクトサミン測定装置として開発した.
 開発の主目的は検査室の効率化を図ることにあり,基本機能のランダム2項目測定,120テスト/時の処理能力に加え,付加機能としてラックID機能や自動洗浄機能などを持たせた.

質疑応答 臨床化学

リバース・ビウレット法

著者: 松下誠 ,   M生

ページ範囲:P.1348 - P.1349

 Q 蛋白質の測定法として,リバース・ビウレット法が最近報告されましたが,この方法の測定原理と高感度の理由を教えてください.

病理

乳腺の筋上皮細胞

著者: 藤井雅彦 ,   A生

ページ範囲:P.1350 - P.1351

 Q 乳腺の検体に出現する筋上皮細胞の特徴的所見と,診断上の意義についてお教えください.この細胞は良性であることの絶対的な指標となるものでしょうか.

白血球表面抗原のCD分類と悪性リンパ腫

著者: 元井信 ,   S子

ページ範囲:P.1352 - P.1355

 Q 悪性リンパ腫のサブセットの分類に用いられているCD分類の意義,およびOKT,Leuとの関係をお教えください.

一般検査

尿中の白血球

著者: 伊藤機一 ,   木庭敏和 ,   野崎司 ,   成田浩喜

ページ範囲:P.1355 - P.1358

 Q 尿中に出現する白血球の種類と病気の関係についてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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