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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査38巻4号

1994年04月発行

雑誌目次

今月の主題 好中球をめぐる検査 巻頭言

好中球への新たな興昧

著者: 池田康夫

ページ範囲:P.399 - P.400

 多能性造血幹細胞から各種血球への分化過程の研究は,いくつかのサイトカインの発見とともに新たな展開を見せている.血液学の基礎研究の成果はしばしば臨床に直結し,基礎医学と臨床医学が並行して進歩していくことが多い領域である.遺伝子や,遺伝子がコードする蛋白質,またはそれらが発現している細胞の構造と機能を解析する研究を行う際,最も基本となる技術は当然のことながらそれらの分離技術である.
 近年の細胞生物学の進歩をときに支え,新たな研究の展開を見せている血液学は,この細胞分離が比較的容易に行いうることを最大の武器にしている.血球について,例えば細胞膜糖蛋白の構造と機能,細胞内シグナル伝達機構,細胞機能発現のメカニズムなどの研究分野では,分離が容易でしかも多量に材料が入手できる白血球,血小板を用いて,ほかの細胞に先だって多くの研究成果が挙げられている.細胞の分化,成熟過程の分子機構も,骨髄幹細胞の同定分離が可能になり,培養技術の進歩と相まって急速に明らかになりつつある.

総説

好中球の殺菌能の生化学

著者: 金ヶ﨑士朗 ,   栗林太

ページ範囲:P.401 - P.407

 好中球による殺菌は,主として生成する活性酸素や顆粒内に存在する塩基性ペプチドによって行われている.好中球のこれらの機能を生化学的観点から解説した.〔臨床検査38:401-407,1994〕

好中球の生成と分布

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.408 - P.412

 好中球は骨髄で産生され,血流中へ定常的に放出されている.感染症や炎症などが存在すると放出量が増加する.好中球増加症の原因は生理的なものと,病理的なものに分けられる.好中球増加の極端な状態は類白血病反応と言われる.好中球減少症は骨髄の産生低下,分布異常,薬剤によるもの,感染症によるものに分類される.〔臨床検査38:408-412,1994〕

好中球機能検査

活性酸素

著者: 内藤裕二 ,   吉川敏一 ,   近藤元治

ページ範囲:P.413 - P.418

 好中球の産生する活性酸素は殺菌作用や抗腫瘍効果の主たるメディエータであり,生体防御にとって重要な役割を果たしている.しかし,自己免疫疾患や虚血性疾患などの病態においては,過剰な活性酸素種は組織傷害性に作用している.それゆえ,好中球の活性酸素産生能を測定することは,種々の疾患の病態把握や各種薬剤の薬効評価に有用である.本稿では,活性酸素種の中でも最も重要であり,注目されているスーパーオキシドの測定について,化学発光法,電子スピン共鳴(ESR)法を中心に解説した.〔臨床検査38:413-418,1994〕

細胞間接着分子

著者: 宮川義隆 ,   西村孝司

ページ範囲:P.419 - P.424

 炎症の場における好中球と血管内皮細胞の接着に,細胞間接着分子が重要な役割を担っている.本稿では,接着分子の主な臨床検査法として用いられているフローサイトメトリー法について解説した後,これら細胞間接着分子の構造および機能を主に血管内皮細胞との相互作用を中心に述べることにする.〔臨床検査38:419-423,1994〕

運動・走化性

著者: 柴田宣彦 ,   福田ヒロ子

ページ範囲:P.425 - P.428

 好中球の運動能と走化能は,細胞レベルでの最も基本的な機能である.ここで紹介する好中球の機能を調べる方法は古くから行われ,現在も有用性の高い検査法である.
 運動能の検査は千田らの方法に従って,個々の好中球の運動形態を観察し,4種の運動型に分類している.それぞれの運動型は一定の運動能を備えており,走化性・貪食能と密接な関連性を保っている.
 走化性の検査のいくつかあるうちの2つについて解説する。(1)直接顕微鏡下で走化因子に向かって運動する好中球をAbbe描写器を用いて,記録し測定する方法であり,個々の好中球の詳細な観察が可能である.(2) Boydenチャンバー法はフィルター小孔の食細胞通過能で評価するものであり,細胞集団の運動を客観的に調べる方法である.これらの方法についてわれわれの経験を加味し,解説する.〔臨床検査38:425-428,1994〕

好中球の貪食殺菌能

著者: 笹田昌孝 ,   高野邦子

ページ範囲:P.429 - P.434

 好中球の貪食殺菌能検査は,臨床で反復性あるいは難治性の感染症を認めたときその疾患の診断や病態解析に不可欠のものである.この検査で異常が認められると,さらにその原因検索へと向かうこととなる.また,貪食能は白血球の分化の良い指標であり白血球の種類の同定にも有用であるため,本検査が利用される.貪食能や殺菌能を測定する従来法に加えて最近FACSを利用した新しい方法が検討されつつあり,ここに紹介した.今後さらに発展すると思われる.〔臨床検査38:429-434,1994〕

好中球免疫検査

好中球特異抗原(NA系)の分析

著者: 佐藤貴 ,   岡田浩佑

ページ範囲:P.435 - P.439

 好中球特異抗原NA系は好中球表面のFcγレセプターⅢ上に存在する.アロタイプとしてNA1とNA2が存在し,それぞれ異なった抗原性を示す.好中球はモノクローナル抗体や抗血清との反応からNA1/NA1, NA2/NA2, NA1/NA2の3つに分類されるが,いずれの抗原性も示さないNA-nullも存在する.これらの抗原に対する抗体は,同種免疫性好中球減少症,小児期の自己免疫性好中球減少症の患者に検出されることがある.微量好中球凝集法(MLAT),好中球間接免疫蛍光法(GIIFT)などの検査で抗原や抗体を特定することができる.〔臨床検査38:435-439,1994〕

抗好中球特異抗体の検出法

著者: 林悟 ,   倉田義之

ページ範囲:P.441 - P.446

 抗好中球抗体の検査法には好中球表面に結合しているIgGを検出する方法と,好中球に抗体が結合することにより引き起こされる好中球の変化を検出しようとする方法がある.前者にはRI法や酵素抗体法,蛍光抗体法などがある.一方,後者には白血球凝集法や細胞毒試験,オプソニン効果を検出する方法などがある.本稿ではわれわれが日ごろ検討している酵素抗体法,蛍光抗体法,白血球凝集法,細胞毒試験の4法について紹介するとともに,抗好中球抗体の推移を検討したSLEの1例を症例呈示する.〔臨床検査38:441-446,1994〕

血中G-CSFの微量測定法

著者: 秩父賢司 ,   桐山玲子 ,   大澤仲昭

ページ範囲:P.447 - P.451

 G-CSFは顆粒球(granulocyte)のコロニー形成を刺激する因子で循環血液中に極微量存在し,感染症や血液疾患において異常高値を示す.本稿ではG―CSFの高感度測定法について紹介する.測定原理は酵素免疫測定法(EIA)と化学発光検出法を組み合わせたchemiluminescent enzyme immunoassay(CLEIA)で非常に感度の良い測定法である.検体量は100μlであり,1~1,000pg/mlの血中G-CSF濃度を精度よく測定することができる.〔臨床検査38:447-451,1994〕

話題

Wegener肉芽腫症とANCA

著者: 竹内勤

ページ範囲:P.453 - P.456

1.はじめに
 ANCA (anti-neutrophilic cytoplasmic anti-body:抗好中球細胞質抗体)は,Davisなどによって一部の糸球体腎炎患者血清中に見いだされた自己抗体で1),当初その重要性は広く認識されなかった.しかし,Wegener肉芽腫症をはじめとする血管炎症候群,半月体形成性腎炎において本抗体が高頻度に検出されることが確認されて以来,一躍脚光を浴びることとなった2).その意義については,診断のみならず,疾患の活動性判定や,病巣の拡がり,治療反応性のモニター,病態の把握などのさまざまな方面において検討が進められてきた.特に,全身性血管炎の代表的な一疾患で,特徴的な臨床症状を呈し,放置すれば死に至るとされるWegener肉芽腫症において,重要な成果が得られている.本稿では,ANCAの一般的な知識を整理し,その中でWegener肉芽腫症において得られている知見を中心に概説する.

好中球エラスターゼ

著者: 櫻林郁之介

ページ範囲:P.457 - P.460

1.はじめに
 好中球の中には多くの蛋白分解酵素(プロテアーゼ)が含まれているが,その中に好中球エラスターゼ(または顆粒球エラスターゼ,granulocyteelastase; GEL, EC3,4.21.37)がある.この酵素は1976年にBaughら1)によって分離精製されたもので,分子量約30,000の3つのアイソザイムが存在するプロテアーゼで,膵臓から分泌されるエラスターゼIとは異なるもので,作製された抗体もまったく交差しない.
 好中球は食細胞や炎症の刺激あるいは損傷を受けると,GELを放出し,血中ではプロテアーゼインヒビターであるα1)アンチトリプシン(α1)―AT)やα2)―マクログロブリン(α2)―M)とたちどころに結合し,不活性化された状態で存在している2)(図1).血中でのインヒビターとの結合は約90%がα1)―ATと,残りの10%がα2)―Mと結合していると推定されている3).したがって,GELの活性測定を行っても,血中ではほとんど検出されない(半減期は約60分間).現在では,GELそのものを測定するのではなく,インヒビターであるα1)―ATとの複合体(α1)―GELc)として抗体を用いて検出する方法が採られている.

血管内皮―白血球相互反応の分子機構―ビデオによる生体内解析法

著者: 末松誠 ,   宮坂昌之 ,   玉谷卓也 ,   石村巽

ページ範囲:P.461 - P.465

1.はじめに
 近年白血球の表面マーカーが次々に見いだされ,特異的な単クローン抗体も利用できるようになった.このため,臨床検査においても各種の疾患における白血球機能異常を正確に捉えられるようになった.また,特定の接着蛋白の異常症の診断がβ-インテグリン,SLex)の有無により確定できるようになった.しかしながら,これらの"白血球機能異常"と呼ばれている生体内での実際の現象は,つい最近まで十分には明らかにされていなかった.一般に内皮―白血球接着分子と呼ばれるものの性質は,培養内皮上に静置した分離白血球の接着,あるいは,リンパ節やパイエル板に存在するHEV (high endothelial venule)への接着能を凍結切片上で評価する方法が用いられてきた.ところが,培養内皮上を一定のwall shearをかけ層流を形成させ,中に白血球を流すことにより,白血球接着を動的に二分(rollingとstick-ing)し,定量的に評価する試みが1990年ごろから盛んになった1).このような動きは,1980年代初頭から行われてきたin vivoにおける白血球接着反応の動態解析とin vitroの系との間を補うものとして出てきたものである.

ひと―ベノジェクトⅡリレー訪問

菅野 剛史

著者: 土田一男

ページ範囲:P.390 - P.391

 1966年当時,東京都済生会中央病院の副院長は堀内光先生であった.先生は糖尿病の大家であり,この病院の糖尿病の外来はわが国でも屈指の外来だった.そのころはわが国で血糖の基準化が必要であると痛感されていた時代である.ソモジー法,ハーゲドロン法など還元法に加えて,縮合法が出現する時代であり,糖尿病学会としては真の血糖値を測定するにはどの方法を勧告するかが重要な課題とされていた.どうも堀内先生は血糖の測定法の標準法を策定する委員会の委員長であったらしい.医化学教室で誰か?と言っていた矢先に,博多の内分泌学会に演題を出していた私と先生が,博多・赤坂の農林省の宿舎の風呂でばったりとご一緒することになった.
 先生は熱を込めて現在の血糖の測定の現状を述べられた.医化学というのは分析もするのだからぜひ手伝うようにとのご依頼を,熱い湯につかりながら裸で承ったのが私がこの道に入ることになったきっかけである.

今月の表紙 臨床細菌検査

Mycoplasma pneumoniae

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.392 - P.393

 Mycoplasmaは自己増殖能を持ち,細菌の中では最も小さく,濾過性病原体である.自己増殖能を持つ点でウイルスやリケッチアとは異なる.構造上は細胞壁がなく,3層からなる限界膜と呼ばれる膜を持つ.細胞壁を持たないので,細胞壁合成阻害剤であるβ-ラクタム系抗生物質(ペニシリン剤やセフェム剤など)に感受性がない.
 ヒトから分離されるMycoplasmaは,現在12種が知られており,Mycoplasma pneumoniaeとMycoplasma hominisないしUreaplasma urealyticumがヒトへの感染への関与が示唆されているが,病原性が明らかにされているのはM. pneumoniaeのみである.

コーヒーブレイク

ABC

著者: 吉野二男

ページ範囲:P.446 - P.446

 手術などに際して輸血を行うと,その後に黄疸を発し,肝炎を起こしてくることがしばしばあって,術後肝炎とか血清肝炎などと言われたことがありました.経過が重大で,当時の治療によっては効果が得られず,また合併症や後遺症を残してくるので,大きな問題となりました.その原因を確かめるために多くの人々の努力が重ねられ,ウイルスが特定されました.
 それ以前にも,黄疸を伴う肝炎のあることがわかっていました.こちらは経過も軽いし予後も良いので,カタル性黄疸あるいはカタル性肝炎などと言っていましたが,これも原因ウイルスが確かめられました.

中学恩師群像

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.460 - P.460

 戦後学制が変わるまでの旧制中学は5年間であったが,この間の生活をふり返ると懐かしさが不思議なくらい蘇る.新制の中学と高校をミックスした期間で,上級の旧制高校,高専,大学予科などに進む人は今とは比べられないくらい少数であったが,この5年間でおおかたは大人へと成長したのである.特に夏目漱石の「坊ちゃん」に見るような教師との人間関係が言うに言われぬ精神的成長の中心になっていた.専門教育でないから教師は生徒と全人的な接触に熱意を燃やし,生徒は先生の能力をときにひやかしたり馬鹿にしたりしても心の底では敬愛の念を抱いていたのである.
 私の中学も福島県南の小さな城下町にあったが,戦時中に送った5星霜はその後の他郷での学生生活に勝るとも劣らぬ充実した年月であった.校長のO先生は難しい話はしないで毎朝全校生徒を集めては,タクトを持ち出して口の形を空中に書きながらアイウエオの発音の練習をさせるのが一日の始まりであった.ズーズー弁,特にイとエの混同をなくさせようという強い意志で,あまり実効はあがらないのに涙ぐましい汗だらけの奮闘であった.国語漢文のK先生は検定試験で教職に就いたという噂であったが根っからの文学好きで,口角泡をとばして朗々と文章を朗詠する態度は,われわれをひきずりこまずにおかなかった.

学会だより 第23回日本脳波・筋電図学会学術大会

脳神経・筋機能の本質に迫る多彩な発表

著者: 石山陽事

ページ範囲:P.466 - P.466

 1993年11月17~19日の3日間にわたり,第23回日本脳波・筋電図学会が噴煙上がる桜島を背景に,鹿児島大学脳神経外科教授朝倉哲彦会長の下,鹿児島市民文化ホールで盛大に開催された.今年は桜島の噴火が盛んとのことで,快晴の朝焼けの中の噴煙は雄大そのものであったが,それをはね返すかのように学会会場も活発な討論が展開された.
 もともと本学会は,日本の多くの学会の中でもたぐいまれな寄り合い学会で,1つの領域に限った狭い討論の場ではなく,多くの導門家がそれぞれの立場で討論するため自然に熱のこもった会場となる.生理学のような基礎医学系の分野から,精神科,脳外科,神経内科,小児科,整形外科などあらゆる神経生理学に関係した臨床医学系と,それをサポートする薬理学,電気・電子学,情報工学,機械工学などの工学および心理学,環境社会学などの非医学系の3群からなる学会である.むろんこの学会の内容から,生理機能検査を主体とした臨床検査技師も多数参加している.学会に先がけて,技術講習会も開催され,今年は8割が検査技師,2割が医師であった.

第16回骨髄移植研究会

動きだした日本の骨髄バンク

著者: 岡本真一郎

ページ範囲:P.467 - P.467

 1993年12月17~18日,第16回骨髄移植研究会が横浜で開催された.この学会は造血幹細胞移植(特に骨髄移植)に携わる種々の分野の人たちが毎年その研究成果を発表する場である.今回は1,000人を超す参加者があり,去年の3割増の168題の発表がなされ,骨髄移植に関する関心が年々高まっていることがうかがえた.
 骨髄移植が1つの代表的なチーム医療であることを示すように,この学会では移植医ばかりでなく,看護婦,検査技師などのコメディカルスタッフの参加が多いことが特徴的である.中でも,3年前から設けられた骨髄移植の看護に関するセッションでは,医師も加わって活発な討論がなされていた.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・16

糖尿病性末梢循環障害にみられる体表温の季節変動

著者: 芝田宏美 ,   松岡瑛

ページ範囲:P.469 - P.472

検査結果の判定
 本症例の各季節の四肢温は,上肢・右下肢において,健常者と同様,季節変動は認められない.しかし,疼痛の自覚症状(特に冬季)を有する左下肢は季節変動を示し,夏季が最も高く,秋季・春季がそれに次ぎ,冬季が最も低温像を示している.両下肢は,夏季に左右差は明白ではないが,秋季・春季そして冬季と季節の移り変わりにしたがって,両下肢の左右差は著しく変化し,末梢循環障害を示唆する(図1).

トピックス

白血球粘着異常症(タイプⅠとタイプⅡ)

著者: 小林邦彦

ページ範囲:P.473 - P.475

1.はじめに
 白血球には細胞間接着を介して発現する機能がある.好中球やマクロファージが組織上を遊走する機能(走化能)はこの細胞間接着に起因する.細胞間接着は細胞膜上に発現する接着分子(レセプター)とそのリガンド分子(カウンターレセプター)間の可逆的結合で始まるのであるが,この細胞接着に関与する分子群は近年多数同定されている.このうち主に白血球の接着にかかわる分子として,インテグリンファミリー,免疫グロブリンファミリーおよびセレクチンファミリーなどの接着分子とそれぞれに対応するリガンドが知られる.
 白血球粘着異常症(leukocyte adhesion de-ficiency;LAD)は本来インテグリンファミリーの1つであるβ2インテグリン(LFA-1, Mac-1, p150,95の3分子からなる)の白血球膜上での欠損に対して名付けられた疾患であるが1),最近セレクチンのリガンドの欠損でこれと臨床的に酷似する疾患が報告されたため,前者をLADのタイプI,後者をタイプIIと1呼ぶことが提唱されている2).両疾患とも反復する非膿瘍性細菌性皮膚感染,肺炎,中耳炎や持続する歯肉炎,歯根炎など臨床的に無顆粒球症に似た症状を呈するにもかかわらず,末梢血中で好中球を主体とする白血球数の異常高値(数万から十数万/mm3)がみられるのが特徴である.

キメラ抗体

著者: 三浦直行

ページ範囲:P.475 - P.477

1.抗体の構造と抗体遺伝子
 5種ある抗体クラスのうちでもIgGが一般的であるので,それを説明する(図1―A).IgGは分子量15万の蛋白でH鎖とL鎖のヘテロ2量体が2個,S-S結合で結ばれてできている.H鎖は1つのV領域と3つのC領域,L鎖は1つのV領域と1つのC領域からできており,各領域は約110個のアミノ酸からなっている.構造的には,Fab部位はV鎖と第lC鎖からなり,Fc部位は第2,第3C鎖からなっている.
 X線解析の結果から,抗原結合部位はH鎖とL鎖のV領域の対合により形成されることがわかっている.各鎖の対合領域は3つの対合決定領域(complementarity determining region; CDR)から構成されている.つまり,H鎖の3個のCDR,L鎖の3個のCDRにより抗体の抗原結合特異性が決定されることになる.補体活性化,細胞障害性などの抗体の生物学的機能はFc部位が担っている.

心理学・精神医学と臨床検査

著者: 大原智子 ,   河合忠

ページ範囲:P.477 - P.478

 人の精神活動のメカニズムはわからないことが多く,精神病を医学の他の分野の対象と同じ方法論で扱うことは困難とされてきた.そのため精神病に関しては,現在でも臨床検査はほとんど役に立っていない.しかし,過去30年の神経科学や生物学的精神医学の著しい発展は,比較概念が主であった精神医学に量的概念を持ち込んだ.その結果,臨床検査が心理学や精神医学領域にも用いられる可能性が出てきた.
 視床下部―下垂体―副腎皮質系(HPA系)や甲状腺疾患がしばしば精神症状を示すことは前世紀からすでによく知られていた.うつ病では血中コルチゾール濃度が健康対照者より高く,日内変動も不明瞭になる.さらに髄液中のコルチゾール,ACTH放出ホルモン(CRH)濃度が有意に増加しているという報告もあり,うつ病では視床下部より上位である海馬や扁桃核などの機能異常によるCRH-ACTH系の亢進が示唆されている1)

研究

無線式入浴心電図波形のR波高とST-segment偏位に関する検討

著者: 川崎隆治 ,   大原龍彦

ページ範囲:P.479 - P.483

 入浴前・中・後での無線式入浴心電図波形のR波高とST-segment偏位精度について,有線式心電図波形と比較検討した.R波高の相関係数はr=0.99で,回帰直線はy=1.02x+0.03であった.ST-segment偏位の相関係数はr=0.97で,回帰直線はy=1.06x+0.01であった.以上のR波高とST-segmentの偏位の良好な精度から,無線式入浴心電図波形が臨床応用に許容範囲内の精度を持つ波形であると考えられた.

血中1,5-アンヒドログルシトール値の変化に対する臨床的研究

著者: 吉川智加男 ,   中恵一 ,   下條信雄 ,   巽典之

ページ範囲:P.485 - P.488

 1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)の臨床的意義を確認するために,糖尿病治療の目的で入院した症例に対し,経日的な血中濃度の測定を実施した.このとき同時にフルクトサミン,ヘモグロビンA1c値の測定を行ったが,治療に対する応答を経日的な変化率でみた場合,これら二者の変化率より1,5-AGの変化率は大きく,0.21μg/ml/日であった.また,血糖コントロールが良好となった後で,尿糖の排泄はまだみられる期間においても1,5-AGの上昇があり,血糖コントロール状態が把握できる指標といえる一方,1,5-AGの代謝について従来説明されてきた理論上の点で矛盾がある.このため,生体内における合成の可能性を含め,代謝モデルについて新しい考察を加えた.

資料

自動免疫組織染色装置(HIS-20)による至適反応条件と希釈倍率の検討

著者: 古川文夫 ,   古田京子 ,   西川秋佳 ,   高橋道人

ページ範囲:P.489 - P.492

 自動免疫組織染色装置(IHS-20)でLSABキットを用いて1次抗体および2次抗体の反応条件を検討した.インスリン,ガストリン細胞増殖核抗原は37℃で5時間反応させると,4℃で5時間反応させた場合に比し,30~60倍の希釈が可能であったが,ブロモデオキシウリジンは非特異的反応が強く発現した.また,2次抗体は3倍の希釈が可能であった.反応温度を37℃にすることにより,1次抗体を従来の数十倍に希釈できることが明らかになった.

岐阜県下におけるMRSAの検出状況(第1報)

著者: 沢村治樹 ,   沢赫代 ,   山岡一清 ,   川鳴守 ,   細井博美 ,   末松寛之 ,   川合直樹 ,   山本孝一 ,   藤田由佳 ,   鈴木末広 ,   小池満里子 ,   大江伸二 ,   橋渡彦典 ,   円田辰吉 ,   野村祥子 ,   西沢善徳 ,   山下隆生 ,   上野一恵

ページ範囲:P.493 - P.496

 岐阜県下の医療施設において臨床材料から分離されたmethicilrin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)株の性状に関して検討を加えた.各薬剤の耐性化は著明であったが,ミノサイクリン(MINO),バンコマイシン(VCM),アルベカシン(ABK),イミペネム(IPM),ゲンタマイシン(GM)が比較的良好な抗菌力を示した.コアグラーゼ型別はII型が111株(87.4%),IV型が12株(9.4%)であった、MRSAは今後,個々の施設における対策だけでなく総体的な院内感染対策が重要になると思われる.

編集者への手紙

パラフェニレンジアミンによるビタミンA蛍光の退色防止効果

著者: 庄野正行

ページ範囲:P.498 - P.499

 現在広範囲に使用されている落射型蛍光顕微鏡で肝組織内ビタミンAを観察すると数秒で退色する.そのため,観察および写真撮影を手早く行わねばならない.
 最近,没食子酸プロピル,フェニレンジアミン,パラフェニレンジアミンが,ローダミンやFITCなどの蛍光色素の退色を遅延させることが報告されている1~3).今回は,パラフェニレンジアミンをリン酸緩衝液(PBS)の封入剤に加え,ビタミンAの蛍光退色防止剤として使用したところ効果を認めたので報告する.

インドネシア在留日本人および同居現地人における消化器系寄生虫の保有状況

著者: 山田誠一 ,   森有加 ,   月舘説子 ,   藤田紘一郎

ページ範囲:P.500 - P.500

1.はじめに
 本邦における寄生虫疾患は,過去において疾病構造のうえで大きな位置を占めていたが,戦後の生活環境の整備改善により,その発生頻度が激減したのは周知の事実である.日本人の渡航や海外在住の機会が増える一方,外国入がわが国を訪れ滞在する機会も多くなった.これに伴い,今後,発展途上国から多くの寄生虫疾患がわが国にもたらされることが考えられる1)
 今回,インドネシア在留日本人および同居現地人の健康診断を行い,消化器系寄生虫の保有状況の調査をしたので結果を報告する.

質疑応答 臨床化学

血清CRPの生理的変動

著者: 亀子光明 ,   細萱茂実 ,   奥村伸生 ,   M生

ページ範囲:P.501 - P.503

 Q 血清CRPの生理的変動幅と変動要因についてお教えください.

アデノシンデアミナーゼアイソザイム測定の臨床的意義

著者: 今野稔 ,   K生

ページ範囲:P.503 - P.505

 Q アデノシンデアミナーゼアイソザイム測定の臨床的意義をお教えください.

臨床生理

睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査

著者: 加藤光恵 ,   S生

ページ範囲:P.505 - P.508

 Q 睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査についてお教えください.

一般検査

定性反応の統計的評価法

著者: 細萱茂実 ,   A生

ページ範囲:P.508 - P.510

 Q 尿一般検査のような定性反応の評価ができずに困っています.統計方法のよいものをお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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