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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査38巻5号

1994年05月発行

雑誌目次

今月の主題 常在菌 巻頭言

常在菌研究の重要性

著者: 紺野昌俊

ページ範囲:P.517 - P.519

抗菌薬療法の理念の変遷
 抗菌薬の発達とともに,それが臨床家によって自由に使用されるようになるにつれ,抗菌薬に対する理念も次第に変わってきた.もはや,外科的手術やカテーテル挿入時はもとより,抗白血病療法に伴う顆粒球減少症や臓器移植に伴う免疫抑制剤使用時の感染予防に抗菌薬を使用することは不可欠のように考えられている.
 そこには生体内に侵入した病原微生物を選択的に抑制するといった抗菌薬開発当初の理念は存在していない.より高度に発達した医療を行うには,ヒトに常在する平素無害な細菌叢をも抑制するといった考え方である.その理念はうなずけるとしても,そこから派生する実際の行動は,抗菌薬にのみ依存し,本来必要とするはずの無菌操作すらも省略化されている.MRSAによる院内感染などは,その典型であろう.
 再び多くの医療関係者に感染症の成立と抗菌薬の使用について,その臨床病理学的意味を,よく理解してもらわなければならない時期が到来していると言うべきであろう.

総説

腸内菌叢とその意義

著者: 神谷茂 ,   小澤敦

ページ範囲:P.521 - P.527

 腸内菌叢の生体との関連を感染防御,物質代謝,免疫,発癌および応用の点から論じ,その意義について考察する.腸内菌叢は日和見感染症を含む内因性感染症の原因となりうることや,発癌物質を含む毒性物質を生成することなど生体に有害に働くこともあるが,感染の防御と治療,薬剤の活性化を含む物質代謝,免疫刺激,発癌物質の分解などさまざまな観点から生体に有益に働いている面も忘れてはならない.医学のみならず,われわれの日常生活を取り巻くさまざまな分野で,腸内菌叢の持つ機能が応用されている.

上気道常在菌叢とその意義

著者: 草野展周 ,   斎藤厚

ページ範囲:P.528 - P.532

 上気道は鼻腔,副鼻腔,咽頭,喉頭から構成されている部位であり,通常,副鼻腔と喉頭を除く部位には常在菌叢が認められる.鼻腔の常在菌は皮膚の常在菌と類似しているが,咽頭の常在菌は口腔内常在菌と同じような細菌で構成されている.常在菌叢は外因性の病原菌からの防御的働きを持っており,常在菌叢の攪乱が疾患の原因になるが,常在菌叢自体が疾患の原因になる場合も多い.特に呼吸器感染症の起炎菌として重要なS.pneumoniaeやH.influenzaeなどが含まれており,起炎菌と汚染菌との区別が臨床上重要な問題になる.

口腔常在菌叢とその意義

著者: 金子明寛 ,   佐々木次郎

ページ範囲:P.533 - P.537

 口腔常在菌は多種にわたり,また歯肉溝と舌など環境のまったく異なる部位に通性嫌気性菌から偏性嫌気性菌までそれぞれ分布しており,一概に論ずることはできない.唾液細菌叢はoral streptococciが多く分布し,サングイシンなど拮抗現象により菌の定着を阻んでいる面もある.また,ある種のLactobacillusのように,pHの低下でStreptococcusの発育を阻害するだけでなく,他の菌の付着をも阻害している現象が認められた.

常在菌の同定とその感染

Staphylococcus epidermidis

著者: 小林寛伊

ページ範囲:P.539 - P.546

 コアグラーゼが陰性ブドウ球菌は,かつては,その病原性に疑問が持たれていたが,人工臓器手術などに関連して病原性が明白となり,さらに急速な易感染患者の増加に伴って,病院感染の原因菌として重要な位置を占めるに至った.しかも,薬剤耐性の株が少なく,バンコマイシン耐性株も報告されている.このような状況において,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌感染症対策は,重大な課題となっている.

Staphylococcus saprophyticus

著者: 藤田和彦

ページ範囲:P.547 - P.551

 Staphylococcus saprophyticusは尿路感染症の原因菌として重要である.尿から分離したコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の中から,S. saprophyticusはノボビオシン感受性テストで同定できる.ヒツジ血球凝集反応も同定の参考になる.S. saprophyticusの病原性はこの菌の持つ尿路への高い粘着性のためと考えられる.

"Streptococcus milleri group"

著者: 新里敬 ,   仲宗根勇 ,   斎藤厚

ページ範囲:P.552 - P.556

 "Streptococcus milleri group"は口腔,咽頭,腸管,腟に常在する菌群ではあるが,各種化膿性疾患や呼吸器感染症の重要な起炎菌の1つである.その分離同定は培養条件,血液寒天培地,同定キットに左右される.また,多くの抗菌薬に良好な感受性を示すことから,抗菌薬使用前の検体採取が必要である.膿瘍形成を起こし,治癒しても器質的障害を残すので,早期診断,治療が望まれる.

黒色色素産生嫌気性グラム陰性桿菌

著者: 中村功 ,   国広誠子

ページ範囲:P.557 - P.562

 Prevotella属とPorphyromonas属を中心とする黒色色素産生嫌気性グラム陰性桿菌(BP-GNB)はヒトの粘膜の常在菌叢の一員であり,かつ膿瘍を形成する内因感染症の主要な病原菌でもある.本稿では栄養要求が厳しく,発育が遅いBP-GNBの分類,分離・同定上の要点を具体的に述べ,さらにBP-GNBの病原的意義を明らかにするために臨床材料からの分離状況と臨床分離株の化学療法剤感受性についてわれわれの経験をもとに述べた.

Bacteroides fragilis group

著者: 岩井重富 ,   福地久和 ,   矢越美智子

ページ範囲:P.563 - P.567

 Bscteroides fragilis groupは下部腸管内における腸内常在細菌のうち,最も菌量が多い.また,感染症にも高頻度にかかわりを有し,E. coliなどの好気性グラム陰性桿菌との複数菌感染で強い病原性を示す.臨床分離株の約半数がβ-ラクタマーゼ産生菌であり,E. coliなどとの複数菌感染時にβ-ラクタマーゼに弱い抗菌剤を用いると,病巣内ではE. coliにも抗菌力を発揮しえない可能性がある.本菌の分類,同定法,分離状況,臨床症例について述べた.

Clostridium difficile

著者: 稲松孝思

ページ範囲:P.569 - P.573

 抗菌薬投与と関連する下痢症―偽膜性大腸炎は,抗菌薬投与中に少なからず見られる副作用であり,ときに重篤な経過をたどる.本症は腸内常在菌の攪乱に伴う,毒素産生性のClostridium difficileや耐性黄色ブドウ球菌の異常増殖によるものであり,早期診断,治療が予後に直結する.このため,抗菌薬投与と関連する下痢例の糞便培養でこれらの菌種を適切に検出することが重要である.本稿ではC.difficileの検出法について述べた.

Candida albicans

著者: 伊藤章 ,   神永陽一郎

ページ範囲:P.575 - P.580

 Candida albicansの同定は,発芽管,厚膜胞子などの形態学的性状によりおおむね目的を達せられるが,他の酵母様真菌との鑑別上,生化学的性状検査が不可欠となる.近年は,自動機器や簡易キット法が実用化されているので,これらを生かした活用法を考慮すべきである.C. albicansによって代表されるカンジダ症は,真菌感染症の中では最も多い.しかし,常在フローラとして存在するので,検出されてもその病原的意義を考慮する心要がある.

Propionibacterium acnes

著者: 西嶋攝子 ,   黒川一郎

ページ範囲:P.581 - P.584

 Propionibacterium acnesは皮膚と毛?に生息する代表的な皮膚の常在菌である.通性嫌気性であって,グラム陽性の桿菌であり,正確な同定にはガスクロマトグラフィによる産生脂肪酸の分析を行い,嫌気伏態でプロピオン酸を産生していることを確かめなければならない.一般臨床的にはAPI-systemによる簡易法が用いられる.P.acnesが関与する疾患としては,尋常性?瘡(ニキビ)があるが,この皮膚疾患は感染症ではない.思春期における性ホルモンの影響によって皮脂の分泌が増加し,その結果毛?内常在菌で好脂性のP.acnesが増殖する.P.acnesの持つ細菌性リパーゼは皮脂を遊離脂肪酸と中性脂肪に分解するが,この遊離脂肪酸がニキビ発症に大きく関与している.

話題

新生児における腸内細菌とその変動

著者: 岩田敏 ,   砂川慶介

ページ範囲:P.585 - P.588

1.はじめに
 新生児期は母親の胎内では無菌状態であった胎児が胎外の細菌の洗礼を受け,急速に種々の常在細菌叢が形成される時期であることから,この時期の腸内細菌叢は多彩かつ不安定であるのが特徴である.本稿では,新生児期における腸内細菌叢の形成とその変動,および腸内細菌叢の変動が新生児に及ぼす影響について述べる.

発癌と腸内細菌

著者: 光岡知足

ページ範囲:P.589 - P.591

1.はじめに
 ヒトや動物の腸内には100兆,100種に及ぶ細菌が生息し,いわゆる腸内菌叢(腸内フローラ)を構成している.これらの細菌は,互いに共生または拮抗関係を保ちながら,摂取される食餌成分や腸内に分泌・排泄される生体成分を利用して増殖し,さまざまな物質に変換し,その結果,癌の発生にも抑制にも,きわめて大きな影響を及ぼすことが明らかにされている.

細菌性腟症

著者: 松田静治

ページ範囲:P.592 - P.594

1.はじめに
 腟トリコモナス症,腟カンジダ症のような特定の病原微生物によらない腟の感染を,従来非特異性腟炎(non-specific vaginitis)と総称してきたが,この概念はまことに漠然としたものであった.最近までGardnerella vaginalisが有力な原因菌と考えられていたが,近年嫌気性菌の意義も強調されるようになった.しかし,細菌性の腟炎では,初めから特定の細菌を見いだしえないものもあり,今なおその成因にはさまざまな意見がある.確かに腟自浄作用の低下,化学的・器械的刺激,エストロゲン機能の失調などの誘因が細菌増殖に関連するのであろう.
 ただ,今まで用いられてきた非特異性腟炎という呼び名は,単に不特定の細菌による腟炎,あるいは不特定の基準が診断に用いられるかのような印象を与えているようで適当ではなく,むしろ非特異性に代わって"細菌性"という名を冠したほうがよいという考え方から"細菌性腟症(bacterial vaginois)"という名称が1984年WHOのワークショップで提唱され漸次普及してきた.

今月の表紙 臨床細菌検査

Mobiluncus属

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.510 - P.511

 Mobiluncusは,1913年にCurtisにより女性性器分泌物から分離された嫌気性彎曲グラム陰性桿菌として最初に報告された.近年,婦人科領域で細菌性腟症の原因菌の1つとして,病原的意義が指摘されるようになった1)
 Mobiluncusは運動性のある針状の彎曲した菌体を持つ無芽胞嫌気性菌で,1本以上の亜局性鞭毛を持つ.グラム染色により陰性あるいはグラム染色不定であるが,グラム陽性菌型の細胞壁を持っことが知られている.

学会だより 第16回日本血栓止血学会総会

近隣諸国の研究者を迎えて

著者: 稲葉浩

ページ範囲:P.520 - P.520

 日本血栓止血学会(青木延雄会長:東京医科歯科大学教授)は笹川記念館(東京)で1993年12月2日と3日の両日にわたり開催された.本学会は1978年に第1回が東京で開催されて以来,今回で16回を数える.
 本年度の本学会は招請講演および一般演題の学術講演と商業展示から構成されていた.今回の大きな特徴は,近隣諸国の研究者を迎えて行われた招請講演であったことである.例年であれば第1日目の午後の約1時間は,特別講演が催され,欧米諸国から招待された世界的に著名な研究者の講演が行われていた.しかし,今回は特別企画として中国,台湾,韓国といったアジアの近隣諸国においてその分野で優れた研究を行っている5名の研究者を演者として迎え,1人当たり30分間,合計2時間30分で招請講演が行われた.5名(中国2名,台湾2名,韓国1名)の演者の演題は①成人慢性型ITPにおける巨核球の産生について,②台湾における血友病の現況とその管理について,③VIII因子遺伝子のクローニングと中国人血友病A患者の遺伝子異常について,④DICにおけるプラスミノゲン活性化機構について,⑤蛇毒中の抗血栓作用ペプチドについてであった.また,さらに2日目の午後5時からも,APL治療のパイオニアであるWang教授によるAPLに関する特別講演が正規のプログラム外に行われた.

第9回日本小児がん学会総会

進歩した神経芽腫の研究

著者: 石本浩市

ページ範囲:P.574 - P.574

 第9回日本小児がん学会総会が1993年12月3,4日に筑波大学で同大小児外科教授・大川治夫会長のもと開かれた.本学会は主に小児科医,小児外科医,放射線科医,病理医が参加し,小児癌の臨床および基礎研究を発表する学会である.前身の小児がん研究会から数えて25年の歴史を持ち,会員数も現在では1,700名に達している.
 小児癌は成人の癌に比べ症例数が少なく,その種類も大きく異なることが特徴である.したがって多施設間で症例を集積し研究するグループスタディが必要である.わが国でも1980年代初頭から,主に白血病を中心にいくつかのグループスタディが行われており,その予後改善に大きく寄与している.しかし,白血病以外の癌に関してはまだ十分なグループスタディはなく,その意味でも小児癌を扱う医師たちが一同に会する本学会の意義は大きい.

コーヒーブレイク

読書雑感

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.556 - P.556

 忘年会シーズンに元ボスをしていた大学の検査部に招かれた.久しぶりに会う女性技師もそれぞれ30,40歳代となり懐しく歓談した.微薫を帯びて「君たちはすっかり藹(ろう)たけたね」とお愛想を言ったら,彼女たち顔見合わせて「先生も口が悪くなった」と散々非難された.どうやら"老長けた"とあてはめたらしい.「帰ったら国語辞典を引き給え」と憤然としたが,念のため引いてみたら洗練されて美しくなるとちゃんと書いてある.
 その前日市内の"しあわせ大学"という60歳以上の方々を対象とした講座に頼まれ"読書雑感"という題でたっぷり2時間長広舌をふるったのである.200人近くの受講者で女性が3分の2くらいを占めていたが,雑多な方々の集団と考えて最初は新潟ゆかりの文人墨客とその著書などから話し始めたが,手応えがきわめてよく,次に時代(歴史)小説と作家たちについて,エッセイと人生,最後は古典にまで話が広がった.医学部時代の講義と違って途中で立ち上がる人もなく,終わって聴衆が出てから帰ろうと待っていても席に坐ったきりで,仕方なく退席したら拍手で送ってくれた.どうも技師の方々にやや紛らわしい言葉を使ったのもこの講座の余韻らしく,世代の差についても改めて考えさせられた.

続ABC

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.573 - P.573

 免疫グロブリンを略記するときには,IgM, IgG, IgA, IgD, IgEというのがありますね.IgB, IgCというのがありません.ABCの順にならないのはどうしてでしょうか.
 はじめ免疫蛋白を研究しているときに,それがグロブリン分画のガンマー(γ)の位置にあったのでそのギリシア文字に相当するGをとってim-munoglobuline Gと名付けたようです.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・17

マントルゾーンリンパ腫で見られる染色体異常t (11;14)(q13;q32)

著者: 園山政行 ,   河合忠

ページ範囲:P.597 - P.600

●検査結果の判定●
 図1は,症例の末梢血に抗原刺激の代わりにB細胞を直接活性化するリポ多糖体(lipopolysac-charide; LPS)を添加し,数日培養後に得られた代表的な異常核型である.核型は,46, X,-Y, del (6)(q16q22),-8,+i (9)(q10),t (11;14)(q13;q32),add (15)(p11),add (18)(p11),+mar1で,分析した38細胞中9細胞にみられた.その他,46, XY[21]/46, X,-Y,-8,+i (9)(q10),t (11;14)(q13;q32),add (15)(p11),add (18)(p11),+mar1[7]/46,X,-Y,-8,+i (9)(q10),t (11;14)(q13;q32),add (15)(p11),add (18)(p11),+mar2[1]の核型も見られた.
 以上の結果から染色体分析において,腫瘍性増殖が証明できたとともに,マントルゾーンリンパ腫で特徴的とされる,t (11;14)(q13;q32)が検出された.前記異常核型の中で,腫瘍の発生に最も重要な意味を持つのはt (11;14)転座で,他は二次的に獲得したものと思われる.

トピックス

MPNST

著者: 辻香織 ,   今村哲夫

ページ範囲:P.601 - P.602

 MPNST(malignant peripheral nerve sheathtumor;悪性末梢神経鞘腫瘍)は,これまで悪性神経鞘腫(malignant shwannoma)と呼ばれていたものと同一疾患であり,末梢神経から発生する代表的な悪性腫瘍である.1969年のWHO軟部腫瘍分類1)ではmalignant shwannomaと命名されていたが,1992年同分類委員会でMPNSTという名称に変更された2)(表1).これは英語での命名の問題であり,日本語名ではほとんど変わっていない.以下,名称が変更されたゆえんを歴史的背景とともに解説し,最後に本腫瘍の臨床病理学的特徴について説明する.
 まず末梢神経の基本的な組織構造について説明すると,末梢神経は神経線維(軸索;axon)とそれを被包する支持組織である神経鞘(nervesheath)から成る.神経鞘には神経上膜(epineur-ium),神経周膜(perineurium),神経内膜(en-doneurium)およびSchwann細胞がある.そして神経周膜は神経周膜細胞(perineurial cell)と膠原線維から成る.これらの成分は図1に示すように最外層に神経上膜,その内側に多数の神経束が束状になって走行する構造をとり,1つの神経束を拡大すると神経周膜の内側に軸索を取り囲むSchwann細胞がみられる.

VCM耐性腸球菌

著者: 平松啓一

ページ範囲:P.603 - P.604

1.はじめに
 グラム陽性菌感染症に有効な抗菌剤として欧米を中心に用いられてきたバンコマイシン(van-comycin;VCM)は,25年にもわたって耐性菌の出ない抗生物質として貴重な存在であった.現在でも多剤耐性の黄色ブドウ球菌MRSAの治療に欠かせない切り札として重用されている.耐性菌が出にくいと考えられた理由はその作用機序により説明される.
 VCMは,細菌の生存に必須の細胞壁の合成を,その構成成分であるペンタペプチドの末端部にあるD-Ala-D-Ala (Ala:アラニン)部分に結合することによって阻害する.この末端のジペプチド(2つのアミノ酸残基からなるペプチド)部分は,細胞壁合成酵素であるPBP(penicillin-bind-ing protein)が認識する部分に相当し,したがってこのジペプチドの構造が変化すれば,VCMに耐性となっても,PBPによる細胞壁合成機能も著しく阻害されるはずだと考えるのが自然である.

PNHとGPIアンカー型蛋白

著者: 植田悦子

ページ範囲:P.604 - P.605

 補体は異物排除の第一線で働いているが,補体そのものには自己,非自己の認識能力がないので,血中で補体に接している血球は常に自己補体の攻撃にさらされていることになる.そこで,血球は補体の攻撃から自己を守るために細胞膜上にいくつかの補体抑制因子を持つ.この補体抑制因子の一部を欠くために補体が活性化されるような状況下で補体による赤血球の破壊,すなわち血管内での溶血が起こる疾患が発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria; PNH)である.約1/4の症例でその名のとおり,早朝覚醒時に血色素尿のエピソードがみられる.このPNHの異常は赤血球のみでなく,広く血球系全般に及ぶ.
 PNH血球では,補体抑制因子だけでなく,赤血球アセチルコリンエステラーゼ,好中球アルカリホスファターゼ(NAP)を含む多種類の蛋白が欠損する.ところで,これら多種類の欠損蛋白はいずれも,ペプチドの疎水性部分が細胞膜脂質二重層に直接入ることで膜に結合しているのでなく,ペプチドにイノシトールを含む糖脂質が結合し,その脂肪酸部分が細胞膜に挿入されることで細胞膜に結合している蛋白(GPIアンカー型蛋白,図1)に属していることから,これらの蛋白に共通する構造であるGPIアンカー部分の生合成異常がPNHの異常の本質であると考えられるようになった.

編集者への手紙

受身凝集反応の担体としての温泉の鉱泥の利用

著者: 江崎一子 ,   延永正

ページ範囲:P.606 - P.606

 受身凝集反応は種々のリアクタントを担体に結合させることで多くの検査に応用でき,感度も優れていることから臨床検査に汎用されている.担体は赤血球のほかポリスチレンラテックス1),カオリン,天然産のケイ酸アルミニウムを主成分とするベントナイト2)などがよく用いられている.今回,筆者らは温泉の鉱泥を担体に利用した受身凝集反応を考案し,リウマトイド因子(RF)の検出法である"RAテスト"を施行したところ満足のいく結果が得られたので報告する.

研究

乳酸脱水素酵素(LD)アイソザイム分画測定における市販検出用試薬の感度の差異―どのLD活性測定法との組み合わせが適切か

著者: 星野忠 ,   橋本寿美子 ,   村上和美 ,   吉冨要子 ,   菰田二一 ,   熊坂一成 ,   河野均也

ページ範囲:P.607 - P.610

 乳酸脱水素酵素(LD: EC 1.1.1.27)活性測定の勧告法についてはわが国を含め各国の臨床化学会からの提案がある.しかし,LDアイソザイム分画測定の勧告法はいまだにない.今回,われわれはヒト由来のLD1),LD3),LD5)のアイソザイム標品を用い,市販のLDアイソザイム検査試薬キットによる分画測定値の違いに関する検討を行った.
 また同時に,各種勧告法に準拠したLD活性測定法との相関性についても検討した.その結果,各種LDアイソザイム検出用試薬間の組成にはかなり達いがあったが,各LDアイソザイム分画値は若干の差はあるものの比較的近似した成績が得られた.また,LD活性測定法との相関性については,他の勧告法よりもJSCCが勧告したLD活性測定法と最も近似した成績が得られることがわかった.したがって,現在市販されているLDアイソザイム検出法は臨床的には特に大きな問題はないものと思われた.

資料

HBs抗体のELISA法抗体蛋白定量値とPHA法抗体価の比較検討

著者: 櫻井伊三 ,   浪岡知子 ,   中川泉 ,   菅井留男

ページ範囲:P.611 - P.612

 医療従事者258名のHBs抗体をPHA法およびELISA法により測定し,両者の相関ならびにHBc抗体との関遵性をみた.両者の陽性率は,PHA法が71.3%,ELISP法が76.7%であった.また,ELISA法のHBV感染防御上の最低必要量と考えられる10IU/l以上に相当するPHA法での抗体価は,16倍以上であることが確認された.しかし,HBc抗体陽性者の中には,PHA法で高い抗体価を示しながらも,ELISA法では,10IU/l以下の者も数例認められた.

肝細胞癌患者におけるAFPレクチン分画アイソフォームの検討

著者: 長野百合子 ,   吉野谷定美 ,   大久保昭行

ページ範囲:P.613 - P.617

 AFPレクチン分画キット(和光純薬)を使用し,診断が確定している肝細胞癌14例,肝硬変21例を主な対象として,肝細胞癌の診断について検討した.レンズマメレクチンを使用して得られるAFP-L3分画は,肝細胞癌群39.3±25.9%,肝硬変群8.1±5.8%であり,インゲンマメレクチンを使用して得られるAFP-P4とP5分画の和は.それぞれ25.3±14.7%,10.0±4.2%であり,ともに有意差を認めた.本キットは特にAFP100~400ng/mlの範囲にある症例で診断的有用性が高いことが示された.

質疑応答 臨床化学

静脈血と毛細管血の血糖値の差

著者: 古田真由美 ,   中山年正 ,   N子

ページ範囲:P.619 - P.621

 Q 最近は簡易血糖測定で患者さんが血糖を自己測定することが多くなりましたが,静脈血と毛細管血の血糖値はどのくらい違うのでしょうか.

HPLCを用いる血清クレアチニン測定の勧告法

著者: 大澤進 ,   N生

ページ範囲:P.621 - P.623

 Q 日本臨床化学会でクレアチニンの標準法が作られていると聞きますが,どのような方法でしょうか.また,その方法で値付けされたヒト血清の入手法もお教えください.

臨床生理

検診時のアースの取り方

著者: 長井裕 ,   井手律子

ページ範囲:P.623 - P.626

 Q 検診などを行う際,心電計のアースはどこに取ったらよいでしょうか.水道の蛇口が遠いときや高いビルの中の場合,非常用排水ハンドルや冷暖房用の配管,窓枠サッシなどで利用可能なものはあるでしょうか.また,ペンキを塗ってある場合の影響などについてもお教えください.

一般検査

髄液・尿中のアルブミン,グロブリン定量法

著者: 長裕子 ,   R子

ページ範囲:P.626 - P.628

 Q 髄液や尿中の蛋白定量法で,アルブミンとグロブミンができるだけ同等に測定できる分析法をお教えてください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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