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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査39巻10号

1995年10月発行

雑誌目次

今月の主題 乳腺の検査 巻頭言

乳腺疾患と検査

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.1111 - P.1112

 乳腺疾患中で最も注目度の高いものは乳癌であろう.乳癌は発生数,死亡数とも近年増加の傾向にある.乳腺の検査は常に乳癌の可能性のチェックという意味を含んでいる.乳癌の治療に関しては近年大きな動きがあり,縮小手術がますます普及してきた.放射線療法や化学療法も縮小手術との組み合わせの中で,重要な役割りを担わされるようになった.
 乳癌のほか,乳腺に発生する疾患の概略を表1に掲げた.乳癌との鑑別診断においては特に乳腺症,線維腺腫が重要であり,それらの疾患の特徴は表2のとおりである.

総説

乳腺疾患のホルモン依存性

著者: 野村雍夫

ページ範囲:P.1113 - P.1116

 乳癌の約1/3がホルモン療法に反応し,腫瘍が退縮するいわゆるホルモン依存性(hormone dependency)を持つ.最近の分子生物学の発展により,このホルモン依存性のメカニズムが次第に判明しつつある.
 血中のエストロゲン(estradiol-17β;E2)が乳癌細胞内に入り,エストロゲンレセプター(ER)と特異的に結合する.さらに,核内でDNAと結合し,種々の増殖因子を産生し,オートクリン,パラクリン機構により,乳癌細胞の増殖を促進する.したがって,乳癌のホルモン療法は,E2の低下,アンチエストロゲンなどによるオートクリン機構の阻害によると考えられる.〔臨床検査 39:1113-1116,1995〕

乳癌と癌遺伝子・癌抑制遺伝子

著者: 津田均

ページ範囲:P.1118 - P.1123

乳癌において癌遺伝子の活性化や癌抑制遺伝子の不活化に関わるようなさまざまな遺伝子・染色体異常が見いだされた.これらの中で,ある種の遺伝子異常は乳癌の悪性度の増強や腫瘍の悪性形質の獲得に関与していると考えられ,患者の予後の予測や良悪性診断の補助として有用と考えられる.〔臨床検査 39:1118-1123,1995〕

日本人乳癌と乳癌診療の現状

著者: 坂元吾偉

ページ範囲:P.1125 - P.1129

近い将来わが国でも乳癌が女性の癌の第1位の発生率を示すと予測される.乳癌の最も実際的な予防は早期発見・早期治療の二次予防であり,また乳房温存治療のためにも早期発見が重要である.早期発見は乳癌による死亡とともに乳房がなくなることをも防いでいる.小さな癌を発見することは大事であるが,そのために良性の病変を持っ患者に対して過大な外科的侵襲を加えない検査法手技こそがもっと大事であることを心しておくべきである.〔臨床検査 39:1125-1129,1995〕

技術解説

乳房の超音波診断

著者: 佐久間浩

ページ範囲:P.1131 - P.1136

リアルタイム診断を特長とした超音波断層法は,存在診断,質的診断ともに優れた検査法であり,すでに診断基準の確立されている腫瘤性病変のみならず,乳管内病変の診断においてもその有用性は高い.また,近年は超音波画像によってのみ指摘される非触知病変に対して,超音波ガイド下穿刺吸引細胞診が積極的に行われている.〔臨床検査 39:1131-1136,1995〕

マンモグラフィ

著者: 内田賢

ページ範囲:P.1137 - P.1142

 マンモグラフィは撮影時間,費用,得られる情報量を考えると乳癌診断の要である.乳癌検診の診断率向上のためには,今後必須の検査法になる.
 良いマンモグラフィの画像を得るためには,専用の撮影装置と正しい撮影手技が必要である.また,乳癌の読影には腫瘤と微細石灰化がポイントである.最近のマンモグラフィは,撮影のみでなく,腫瘤の触れない微小な病変の生検が可能である.〔臨床検査 39:1137-1142,1995〕

MRI

著者: 吉本賢隆

ページ範囲:P.1143 - P.1147

 近年,乳腺疾患の診断学は大きく様変わりしつつある.早期癌の増加,術式の縮小化に伴って,良悪性の鑑別診断を中心とした画像診断から,病変の拡がりの診断がより重要になってきている.乳腺内での癌巣の拡がりや,リンパ節転移の診断などである.MRIはこの目的のために優れていることが明らかにされ,乳腺疾患の新しい診断法として注目されている.今後,優れた造影剤や超高分解能スキャン法,3Dデータ収集法などのハード,ソフトの両面での技術革新によって,乳腺疾患のMRI診断法はさらなる発展が期待されよう.〔臨床検査 39:1143-1147,1995〕

乳腺細胞診

著者: 土屋眞一 ,   渡辺達男

ページ範囲:P.1149 - P.1154

 乳房検査の中で,組織診と細胞診検査は癌細胞そのものを同定することが可能で,癌の確定診断として最も優れている.本稿では,その中でも患者に負担をかけることが少ない細胞診検査の基礎から応用技術,細胞診断上での考え方,鑑別点,さらに出現細胞構築からその組織像を類推する方法などいくつかのポイントを解説した.〔臨床検査 39:1149-1154,1995〕

ホルモンレセプター

著者: 大住省三 ,   高嶋成光

ページ範囲:P.1155 - P.1161

 乳癌診療のうえで必須項目である乳癌組織でのホルモンレセプターの測定には生化学的な方法と免疫学的な方法がある.最近では免疫組織学的方法も利用できるようになった.また,ホルモンレセプターの持つ意義も進行,再発乳癌の内分泌治療の効果予測に役だつのみほか,乳癌の手術時での予後判定および術後補助内分泌療法の効果予測という意味での意義も明らかになってきた.乳癌でのホルモンレセプターの現状を概説する.〔臨床検査 39:1155-1161,1995〕

乳癌の腫瘍マーカー

著者: 広岡保明 ,   浜副隆一 ,   貝原信明

ページ範囲:P.1163 - P.1167

 乳癌における腫瘍マーカーは,①原発性乳癌のスクリーニング,②乳癌再発のスクリーニング,③再発乳癌の治療効果判定,などの目的で活用されている.多くの施設で測定されている血清中の腫瘍マーカーには,CEA,CA15-3,TPA,BCA 225,NCC-ST-439などがあり,それは主に再発乳癌のスクリーニングや治療効果判定に利用されている.一方,異常乳頭分泌液中のCEAは,原発性乳癌,特に無腫瘤性乳癌のスクリーニングに活用されている.〔臨床検査39:1163-1167,1995〕

話題

乳管造影

著者: 岡崎亮 ,   岡崎稔 ,   平田公一

ページ範囲:P.1168 - P.1169

1.乳管造影によって表現されるもの
 乳管造影は主として乳管内病変を対象とし,乳頭表面の乳管開口部から造影剤を注入してマンモグラフィ撮影を行う診断法である1).造影剤が描出する乳管の形態は乳管内上皮細胞の増殖性変化によって取り残された乳管内腔のfree spaceの形態であり,それらの形状から病変の乳管内発育進展の形態学的特徴を診断することが肝要である.したがって,本検査法によって得られる情報は,①分泌乳管の走行と支配領域,②病変の存在の有無とその局在,③病変の質的診断である.

乳管内視鏡

著者: 神尾孝子

ページ範囲:P.1170 - P.1171

1.はじめに
 乳管内視鏡の開発1,2)は,異常乳頭分泌症例に対する直視下での乳管内腔の観察を実現させ,早期微小乳癌の発見や乳管内進展状況の把握,良悪性病変の鑑別を可能とし,乳管内病変診断における画期的かつ極めて有用な検査法として次第に普及しつつある.本稿では,乳管内視鏡検査の手技および所見について概説し,この意義について述べる.

乳癌とc-erbB-2

著者: 大倉久直 ,   菅野康吉

ページ範囲:P.1172 - P.1174

1.プロトオンコジン
 乳癌にみられる遺伝子異常の中で特に頻度が高く,かつ悪性の予後を示す因子として重要視されているものに,c-erbB-2癌遺伝子(Her/neuとも呼ばれる)の過剰増幅がある.これは東大医科研の山本が発見したプロトオンコジンで1),そのコードする蛋白2)は上皮性細胞増殖因子に似た受容体構造を持つ細胞外ドメイン,細胞膜を貫通するドメイン,チロシンカイネース活性を持つ細胞内ドメインからなる.細胞外ドメインに結合するリガンドはまだ知られていないが,このリガンドが結合すれば細胞内でチロシンカイネースが活性化されて細胞増殖が促進する3)).その切除組織中でのメッセージ(mRNA)の発過剰現は,リンパ節転移のある乳癌症例でTNMに次ぐ重要な予後因子であり,本遺伝子とその産物は乳癌の新しいバイオマーカーとして注目されている4,5).本遺伝子は,発癌の初期段階ではなく,その増殖と進展にかかわる遺伝子であり,p53とともに乳癌により悪性の性格を与える遺伝子といえる.乳癌以外に卵巣癌や胃癌で発現増強が報告されたが頻度は低く,晩期にのみ検出され12),臨床的意義は高くないようである.
 最近米国でc-erbB-2蛋白の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体を投与して,遺伝子過剰発現のある腫瘍の増殖を抑える実験治療が報告された.これはレセプター抑制療法とも呼ぶべき方法で進行乳癌の治療法として効果が期待される.

乳腺疾患とアポトーシス

著者: 土橋一慶 ,   山口和子

ページ範囲:P.1175 - P.1176

1.はじめに
 病理学的に細胞死の形態を観察すると,細胞膜が変性するとともに核が膨潤する壊死/ネクローシス(necrosis)と,核が断片化するアポトーシス(apoptosis)の2つの細胞死の過程が知られている.後者のアポトーシスという名称は,ネクローシスとは異なった細胞の形態学的変化として1972年Kerrらによって,初めて使用された.さらにその後の研究によって,遺伝子の制御下での細胞自身の発生,分化,成熟,発達および退行変性課程,すなわちプログラム化された細胞死(PCD:programmed cell death)にアポトーシスという形態学的変化がしばしば観察されることも明らかとなった.これらの研究により,個体発生のみならず多くの疾病形成や各種治療による反応性などにもアポトーシスを中心とした細胞変化の関与が生じることが指摘されている.

乳管異型増殖症

著者: 森谷卓也

ページ範囲:P.1177 - P.1178

1.はじめに
 乳腺症は,非炎症性,非腫瘍性の良性乳腺疾患で,病理組織学的に嚢胞,アポクリン化生,腺症,乳管過形成など,多くの部分像の集合から成っている.乳腺症と乳癌の関係については古くから論議があるが,最近の研究では,部分像によって将来浸潤性乳癌が発生する危険率が異なることが明らかになってきた1).なかでも異型増殖症(乳管由来と小葉由来の二種類あり)は危険率が高く,前癌病変あるいは良悪性境界病変として注目されている.本稿では,これら異型増殖症のうち乳管異型増殖症の病理組織像と臨床病理学的位置付けについて概説する.

早期乳癌

著者: 元村和由 ,   野口眞三郎 ,   稲治英生 ,   小山博記

ページ範囲:P.1179 - P.1181

1.はじめに
 乳癌において腫瘍径が小さいほど,すなわち腫瘍量が少ないほど転移のチャンスは減少することから,腫瘍径は腋窩リンパ節転移状況とは独立の予後因子と考えられている1).図1に1962年1月から1990年12月までに当院で行われた原発乳癌に対する治癒手術例2,190例についての病期別の生存曲線を示す.
 5年生存率,10年生存率はそれぞれ病期Iで96.2%,93.9%,病期IIでは85.6%,79.1%,病期Ⅲ-aで72.6%,63.9%,病期Ⅲ-bでは46.9%,41.6%という結果であるが,病期Iの良好な成績をみても早期発見,早期治療の重要性が改めて認識される.

乳癌の家族内発生

著者: 黒石哲生

ページ範囲:P.1182 - P.1184

1.はじめに
 乳癌家族歴のあることが乳癌のリスクを高めるとの報告は多い.家族歴に関する研究をレビューするとともに,遺伝性乳癌の解明に役だつと考えられて,最近注目されている乳癌関連遺伝子BRCA 1,BRCA 2などについても述べる.

今月の表紙 臨床細菌検査

Campylobacter jejuni

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.1106 - P.1107

 Campylobacter jejuniは1972年小児の腸炎患者から分離され,ヒトに対する病原菌として認められた1).本菌はブタ,ウシ,ヒツジ,ニワトリなどの家畜や,イヌ,ネコ,コトリなどの愛玩動物の腸管に寄生し,人畜共通感染症の起因菌の1つである.
 C.jejuniは,長さ0.5~0.8μm,幅0.2~0.5μmの小さな,らせん状またはS字状をしたグラム陰性桿菌である.菌体の一端または両端に1~2本の鞭毛を持ち,特有の運動をする.一般に発育には5~10%の酸素の環境下(微好気性の条件下)で発育し,好気性,嫌気性では発育しない.培養には,スキロー(Skirrow)培地が用いられ,42℃または37℃,2日間培養すると,非溶血性,半透明のS型のコロニーが観察される.また培養環境の違いにより露滴状のコロニーが見られることがある.本菌は外界で25℃上では比較的早く死滅してしまうが,10℃以下の低温では長期間(2週間以上)生存可能である.

コーヒーブレイク

人吉と秋田

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1117 - P.1117

 本コラムに"旅愁"の作者犬童球渓の生地熊本県人吉と新潟市の縁を書き綴ったことがあった(38巻12号).これを読んだ秋田市の開業医菅原真氏(この人のことを本コラム37巻2号に"春夏秋冬20周"と題して紹介したことがある)から興味ある史料が届いた.明治維新における人物の消息を通して現代に及ぶ人吉市と秋田市を結んだ興味ある人間模様である.
 主人公は相良頼寿という人吉藩の藩主の縁続きの方で,吉田昭治という人の手で"ある墓とその周辺"という一編の読み物にまとめられている.秋田在住の作者が度々訪れる全良寺の一隅に誰も訪れる者もなく眠っている相良頼寿という墓碑が心にかかっていたところ,あるきっかけにこの由来を尋ねることになり主人公そして人吉と秋田の関係が明らかになったという史料である.そのきっかけを作ったのが他ならぬ菅原氏で,学会で縁のできた人吉の開業医岡啓嗣郎氏の懇望で秋田中の墓探しをしている矢先き,はしなくも吉田氏の知るところとなって墓の由来が明るみに出たというのである.

学会だより 第57回日本血液学会総会

"アポトーシス","遺伝子治療"テーマに公募シンポジウム

著者: 堀田知光

ページ範囲:P.1148 - P.1148

 第57回日本血液学会総会は1995年6月29日~7月1日に名古屋市国際会議場において藤田保健衛生大学医学部内科平野正美教授を会長に開催された.
 初日に行われた会長講演は"造血器腫瘍の化学療法"と題して教室で診療した急性白血病および悪性リンパ腫のうちさまざまな条件で治療研究の対象から除外されたいわゆる"影"の症例をも含めた全症例の治療と予後の実体に触れ,さらに欧米の大規模治療研究が成績の普遍性,層別化の必要性,比較試験への関心を高めたが,全体からみればいまだ根治率の低い悪性腫瘍において"安易に""標準治療"の考え方を導入したことを批判的に検証されたことが印象的であった.

海外レポート

トルコ共和国―臨床検査センターと医療の現状(1)

著者: 廣田正毅

ページ範囲:P.1185 - P.1188

■はじめに
 筆者は長崎大学医学部で呼吸器内科学を専門とし,その後琉球大学医学部で臨床病理学の教授として教鞭を取り,1993年6月からトルコにおいて外務省医務官として日本国大使館に勤務している.トルコ在勤はまだ2年ほどの短い期間で経験も乏しく,また以上のような経歴であるので内容はやや偏るかもしれないが,トルコに住んでいる日本人医師として,自分の足で歩き,この目で見,この耳で直接聞いたトルコ医療の一端を,とくに本誌の性格上臨床検査に重点を置いて紹介したい.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・34

アポC-Ⅱ異常に伴う高トリグリセライド血症―家族性アポC-Ⅱ欠損症

著者: 山村卓

ページ範囲:P.1191 - P.1194

●検査結果の判定●
 アポリポ蛋白(アポ蛋白)はリポ蛋白代謝に重要な機能を果たしており,高脂血症の病態解析にはアポ蛋白の面からのアプローチが不可欠である.電気泳動によるアポ蛋白の分析法1)は,比較的少量の試料で,高価で特殊な器材がなくとも実施でき,基礎および臨床分野において広く用いられている.図1は高トリグリセライド血症を呈する症例とその母親,および正常人のVLDLアポ蛋白を,通常のポリアクリルアミドゲル電気泳動法(尿素添加ゲルを使用)と等電点電気泳動法で分析したものである.
 尿素加ゲルを用いた通常のポリアクリルアミドゲル電気泳動で,アポ蛋白は先端側から,アポC-Ⅲ-2,C-Ⅲ-1,C-Ⅱ,Eの順にそれぞれ明瞭に分離泳動される.アポC-Ⅲ-0はC-Ⅲ-1とC-Ⅱの中間に泳動されるが,相互に近接して泳動される.

トピックス

トロンボポエチン

著者: 宮川義隆

ページ範囲:P.1195 - P.1196

 昨年待望のトロンボポエチンのcDNAのクローニングの報告が国内外の複数の研究施設から相次いでなされた1~5)
 トロンボポエチンとは生体内で血小板造血を促進させるサイトカインのことである(表1).古くから血小板減少をきたした動物血漿中には巨核球―血小板系造血を促進させる液性因子の存在が知られていたが,正常骨髄中の巨核球が少なく,また巨核球の増殖・分化を測定するアッセイ系の確立が困難であったことから,トロンボポエチンの同定は昨年の発表までついぞなされていなかった.それどころか,トロンボポエチンの存在そのものを疑う研究者もいたほどである.

シンクロトロン放射光

著者: 武田徹 ,   板井悠二

ページ範囲:P.1197 - P.1200

 加速器から発生する放射光を利用した種々の新しい医学診断技術が現在開発されている(表1).本稿では,放射光の特徴,実際に開発が行われている冠状動脈造影と単色X線CTについて,現在の成果,今後の動向について展望する.

肺サーファクタント・アポ蛋白質SP-A

著者: 黒木由夫 ,   小笠原由法

ページ範囲:P.1200 - P.1202

1.肺サーファクタント
 肺サーファクタントは,肺胞II型細胞で合成され,肺胞腔へ分泌される脂質―蛋白質複合体で,肺胞被覆層を形成し,肺胞表面の空気層と液層界面の表面張力を著しく低下させることにより,肺胞の換気能力を維持する機能を持つ生理活性物質である.肺サーファクタントはきわめて特徴ある分子から構築されており,成熟動物ではその約90%は脂質,特にジパルミトイル・ホスファチジルコリン(DPPC)とホスファチジルグリセロール(PG)が主成分である.肺サーファクタントには,少量の特異的なアポ蛋白質が存在することが明らかにされ,現在,4種類が報告されている.親水性のSP-A(surfactant protein A)とSP-D,および疎水性のSP-BとSP-Cである1)
 これらのアポ蛋白質は,肺サーファクタントの物理化学的な表面活性の発現に必須であるばかりでなく,肺胞腔におけるリン脂質代謝動態,および,生体防御機構においても重要な役割を果たしていることが明らかにされた.

urea nitrogen appearance rate (UNA)

著者: 野村岳而

ページ範囲:P.1202 - P.1203

 腎不全患者では蛋白質摂取量を制限した場合にそれが守られているか,一方,低栄養状態の患者では適切な蛋白摂取が行われているかが問題となる.慢性透析療法開始後も蛋白質の摂取量は十分に把握しておかなければならず,透析療法が適正か,栄養状態が適当かの判断が常に要求される.
 蛋白質の摂取量を推定する方法には,食事内容の記録に従って計算する方法のほかに,尿中窒素排泄量,糞中窒素排泄量,体内窒素の増加量を加えた全窒素産生量(total nitrogen output:TNO)を測定する方法がある.しかし,TNOの測定は繁雑で実際に臨床には用いにくい.そこでTNOに代わる簡便で実用的な方法として考案されたのがurea nitrogen appearance rate (UNA)である1)

質疑応答 臨床化学

精製度の検討

著者: 持田弘 ,   Q生

ページ範囲:P.1204 - P.1204

 Q ゲル濾過,イオン交換などの方法を用いてIgGや毒素(蛋白)などを精製しSDS-PAGEを用いて精製度をみました.クマシーブリリアントブルー染色では1本のバンドしかみられませんでしたが,銀染色を行ったところ5~6本のバンドが認められました.ELISAに用いている固相などの抗原,抗体は,通常,銀染色で1本のバンドになるまで精製しているのですか.

血液

リンパ球数は民族によって違うか

著者: 北村聖 ,   U子

ページ範囲:P.1205 - P.1206

 Q 学生時代に使用した教科書を,最近機会があって読み直したところ,"日本人はヨーロッパ人に比してリンパ球が多い"という記述に出会いました(表).30年以上前に出版された本ではありますが,このデータはそれなりの根拠があると思われます.想像の範囲で結構です.どのように解釈したらよいかお教え下さい.

研究

急性心筋梗塞における僧帽弁逆流―心エコー図による検討

著者: 谷内亮水 ,   秦泉寺寿美雄 ,   長谷川香代 ,   藤本由美 ,   藤田亀明 ,   沼本敏 ,   大脇嶺 ,   西村直己 ,   山本克人 ,   伊東秀樹 ,   小崎裕司 ,   永森誠一郎

ページ範囲:P.1207 - P.1210

 急性心筋梗塞発症時の僧帽弁逆流の出現およびその経過について心エコー図を用い検討した.1993年2月から1994年12月の23か月に,1か月間観察が可能であった26例を対象とした.僧帽弁逆流の出現率は42%で,下壁梗塞に80%と高率であった.僧帽弁逆流非発症群の左室径は不変であったが,僧帽弁逆流発症群は,経過と共に平均左室径の増大を認めた.

Three-cobr flow cytometryによる移植腎浸潤細胞解析の検討

著者: 村井克尚 ,   尊田和徳 ,   早坂勇太郎 ,   田辺一成 ,   高橋公太 ,   東間紘

ページ範囲:P.1211 - P.1215

 腎移植における免疫反応の場は移植腎であり,その中に浸潤した免疫細胞の解析は重要であると考えられる.そこで,筆者らはその解析法をthree-color flow cytometryにより検討した.その結果,拒絶反応時の移植腎における浸潤細胞の解析が可能となり,HLA-DR,CD 11a,CD45RO,CD 69陽性の活性化T細胞が移植腎に多く浸潤していることが明らかとなった.

Bence Jones蛋白尿における尿総蛋白測定法の評価

著者: 酒井伸枝 ,   鈴木優治

ページ範囲:P.1217 - P.1220

 日常検査の尿総蛋白測定において,Bence Jones蛋白(BJP)尿の測定値がどのような傾向を示すか,ビウレット法を基準に評価した.その結果,BJP尿の蛋白値は,ピロガロールレッド法とクマシーブリリアントブルーG・250法では,ビウレット法と比べ低値となる傾向がBJP尿以外の蛋白尿より大きかった.また,塩化ベンゼトニウム法ではビウレット法と近似した値がBJP尿およびBJP尿以外の蛋白尿で得られ,検討した測定法の中では蛋白種差の少ない方法と考えられた.

資料

改良ウエスタンブロット法によるHTLV-I抗体の判定基準

著者: 吉木景子 ,   中満三容子 ,   福吉葉子 ,   西村要子 ,   山口一成 ,   高月清

ページ範囲:P.1221 - P.1223

 HTLV-I抗体測定においてウェスタンブロット(WB)法は確認法として用いられているが判定に際してはいくつかの問題点がある.筆者らはenv蛋白を加えることで情報量を増したED 011(エーザイ)を検討し,1gag&1envを陽性とするこれまでのWHO判定基準の見直しを行った.Env蛋白がない場合でもp19を含む2gag蛋白以上を陽性とする新基準により,これまで判定保留としていた検体を陽性と判定することができた.

プレザパツクⅡ®とQS90TMによる電解質測定

著者: 中里浩樹 ,   松田富雄 ,   芦田ひろみ ,   西池淳 ,   森秀麿

ページ範囲:P.1225 - P.1227

 動脈血採血用サンプラーに含まれるヘパリンリチウムは陽イオンをキレートするため,電解質を低値に計測することが報告されている.ラジオメータ社製QS90はヘパリンにNa,K,Caを加えたバランスドヘパリンにより陽イオンに与える影響がほとんどないとされている.筆者はヘパリンリチウムを含むテルモ社製プレザパックII(P群)とQS90(Q群)の動脈血電解質,血液ガスの測定比較検討を100症例において行ったところ,pH,Pco2,Po2に関しては両群間には有意差は認められなかったが,Na(mmol/1)はP群135.8±2.95,Q群137.7±2.94,K(mmol/l)はP群3.81±0.52,Q群3.90±0.51,Ca(mmol/1)はP群0.97±0.05,Q群1.16±0.05で,Na,K,CaすべてP群はQ群よりも有意に低値を示した(ρ<0.01).また両群の平均値の差は,Na1.38%,K2.31%,Ca15.74%であった.両群間の相関係数(γ)はNa,K,Caそれぞれにおいて0.937,0.973,0.494であった.これまでの他の報告でもプレザパックⅡによる電解質測定値の低値の報告は数々あるが低値の原因はヘパリンによるキレートであるとされているが今回使用したQS90はバランスドヘパリンによりキレートされるNa,K,Ca,補正できると言われている.今回いずれの測定値が正常値に近似しているかは検討していないが,Caにおける平均値の差が15.74%と大きいことは臨床上問題と考える.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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